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熊本県漁業協同組合連合会による排除措置命令執行承認義務付け等請求事件

独禁法19条、一般指定12項
福岡地方裁判所第1民事部

令和6年(行ウ)第63号

判決

令和7年5月28日

熊本市西区中原町656番地
原告          熊本県漁業協同組合連合会
同代表者代表理事    ≪X1≫
同訴訟代理人弁護士   平山賢太郎
同           山本陽介
同           堀 隆聖
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告          国 
同代表者法務大臣    鈴木馨祐
処分行政庁       公正取引委員会
同委員会代表者委員長  茶谷栄治
同指定代理人      窪田大輔
同           田中義一
同           森田起司郎
同           犬丸祥平
同           細波 涼
同           石井崇史
同           岡田博己
同           山本浩平
同           高取勇介
同           堤 優子
同           並木 悠
同           石原健司
同           荻野祥平
同           川口菜摘子
同           田邊節子
同           山中康平
同           本田朋宏
同           平川一寿
同           松下晃輔
同           野津沙織
同           藤村 響
同           中島菜子
同           下山博靖
同           齋藤みずえ
同           篠原早紀

令和7年5月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(行ウ)第63号 排除措置命令執行承認義務付け等請求事件
口頭弁論終結の日 令和7年3月3日
判決
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
主文
1 原告の訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告が公正取引委員会(以下「公取委」という。)に対し行った別紙2承認申請書記載の申請について申請を承認しないことが違法であることを確認する(以下、この請求に係る訴えを「本件不作為違法確認の訴え」という。)。
2 公敢委は、原告に対し、別紙2承認申請書記載の申請を承認せよ(以下、この請求に係る訴えを「本件義務付けの訴え」という。)。
第2 事案の概要(以下では、別紙で定義した略語も、特に断りなく用いる。)
1 事案の要旨
公取委は、原告に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独禁法」という。)20条1項に基づき、排除措置命令(令和6年(措)第5号。以下「本件排除措置命令」という。)を行った。
本件は、原告が、被告国を相手に、公取委が本件排除措置命令の主文で命じた措置の執行方法等に係る承認の申請(以下「本件承認申請」という。)を承認しないことが違法であることの確認及び承認の義務付けを求める事案である。
2 関係法令の定め
別紙3関係法令の定めのとおり
3 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は、特記しない限り枝番を含む。)
⑴ 当事者
原告は、水産資源の管理及び水産動植物の増殖、水産に関する経営及び技術の向上に関する指導、所属員の事業に必要な物資の供給等を事業とする漁業協同組合連合会である。
⑵ 本件排除措置命令の発令
公取委は、原告に対し、令和6年5月15日付けで、原告が、別紙4記載の15の漁協(以下「15漁協」という。)を介し、15漁協の管轄する区域内の海苔生産者(以下、単に「海苔生産者」という。)による乾海苔の系統外出荷を制限するなどしており、これが独禁法19条に違反するとして、本件排除措置命令を行った。本件排除措置命令の主文の要旨は、別紙5のとおりである。(甲1)
⑶ 原告による本件各事前承認事項に係る承認申請
原告は、公取委に対し、令和6年10月1日付けで、別紙2の承認申請書(以下「本件承認申請書」という。甲3)を提出し、本件排除措置命令3項及び5項により公取委の事前承認を受けることを命じられた事項(本件各事前承認事項)について承認申請(本件承認申請。本件承認申請において原告が実施を予定する措置として記載した別紙2の1項及び2項の各措置を「本件各実施予定措置」という。)をした。
本件承認申請書に添付された通知書及び周知文書(本件各実施予定措置のうち、海苔生産者、指定商社、原告の役員及び職員並びに15漁協の役員及び職員に対して通知又は周知を予定する文書の案)には、「原告は、15漁協を介し、海苔生産者による乾海苔の系統外出荷の制限等をした事実がなく、本件排除措置命令は取り消されるべきである」旨の記載(以下「本件記載」という。)がある。
⑷ 本件訴えの提起.
原告は、福岡地方裁判所において、被告国を相手に、令和6年10月4日、本件訴えを提起した。(顕著な事実) 
⑸ 本件排除措置命令の取消しを求める訴えの提起
原告は、東京地方裁判所において、公取委を相手に、令和6年11月7日、本件排除措置命令の取消しを求める訴えを提起した。(弁論の全趣旨)
⑹ 本件承認申請に対する承認しない旨の通知
公取委は、原告に対し、令和6年11月8日、本件承認申請を承認しない旨の記載がある同月7日付け書面(以下「本件通知書」という。乙1)を送付した。本件通知書には、不承認の理由につき、要旨次の①〜⑤のような記載がある。(乙1〜3)
① 事前承認事項①の海苔生産者等への通知について、具体的な通知先、通知時期及び通知方法が明らかでない。
② 事前承認事項①の原告職員への周知について、具体的な周知先、周知時期及び周知方法が明らかでない。
③ 本件記載は、事前承認事項①に係る措置を履行する上で必要でなく、本件排除措置命令1項及び2項の命令事項に反する内容であり、また、本件排除措置命令3項に基づく通知及び周知の内容を不明確にするものであるから不適当である。
④ 事前承認事項①に係る通知・周知とは別に、原告が本件排除措置命令に対する自らの立場や見解等について説明することは妨げられない。
⑤ 事前承認事項②に係る措置については、本件排除措置命令5項の命令事項をほぼそのまま引き写したものにすぎず、具体的な内容が明らかにされていない。
4 争点
本件の争点は、次の⑴〜⑶であり、これに関する当事者の主張は、別紙6「争点に関する当事者の主張」のとおりである。
⑴ 本件訴えの適法性(本案前の争点)
⑵ 本件不作為違法確認の訴えの本案要件の具備の有無
⑶ 本件義務付けの訴えの本案要件の具備の有無
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件訴えの適法性(本案前の争点))について
⑴ 本件訴えの被告適格について
ア 検討
(ア) 独禁法は、排除措置命令等に係る行政事件訴訟法3条1項に規定する抗告訴訟(以下「排除措置命令等に係る抗告訴訟」という。)について、①公取委を被告とし(77条)、②東京地方裁判所の管轄に専属し(85条)、③法務大臣権限法6条の規定(行政庁が抗告訴訟について法務大臣の指揮を受ける旨の規定)を適用しない旨(88条)を規定する。
独禁法がこのような排除措置命令等に係る抗告訴訟についての特則を定めたのは、①公取委が内閣総理大臣の所轄に属する一方で(同法27条2項)、公取委の委員長及び委員が独立してその職権を行うこととされているから(同法28条)、この点は当該抗告訴訟の追行に関しても同様であること、②当該抗告訴訟には一定の専門性が求められ、複数の名宛人に対する排除措置命令等に係る抗告訴訟には裁判所の判断の統一性も求められることを踏まえたものであると解される。
(イ) 本件訴えは、①公取委が、原告に対し、本件排除措置命令において、本件各事前承認事項について公取委の事前承認を得るように命じたところ、原告が被告国を相手に提起した不作為の違法確認の訴え及び承認の義務付けの訴えであり、②その不作為及び義務付けの対象は、原告が公取委に対して求めた本件各実施予定措置に係る公取委の事前承認(前提事実⑶)である。
したがって、本件訴えの本案の審理においては、本件各事前承認事項を命じた本件排除措置命令の趣旨及び内容を踏まえて、公取委の本件承認申請に対する不作為の違法及び義務付けの要件(行政事件訴訟法37条の3第5項参照)の有無が争点となるといわざるを得ない。
(ウ) そうすると、本件訴えの本案の争点である「公取委の本件承認申請に対する不作為の違法及び義務付けの要件」に関する被告の主張立証その他の訴訟の追行は、前記(ア)のような独禁法の趣旨に照らし、公取委の職権の行使を尊重すべきものといえる。また、本案の争点に関する裁判所の審理及び判断には、一定の専門性が求められることも明らかである。
(エ) 以上の点に照らすと、本件訴えは、独禁法77条にいう「排除措置命令等に係る抗告訴訟」に該当すると解すべきである。このように解することは、原告が公取委を相手に本件排除措置命令の取消訴訟を提起し(前提事実⑸)、東京地方裁判所において本件排除措置命令に係る公取委の判断の適否に関する審理が行われていることからしても、相当といえる。
(オ) したがって、本件訴えは、公取委以外の者を被告とするものであることが明らかであるから、いずれも不適法であるといわざるを得ない。
イ 原告の主張について
これに対し、原告は、別紙6「争点に関する当事者の主張」1(原告の主張)⑴のとおり主張する。
しかしながら、以上に説示したところに照らし、原告の前記主張は、採用することができない。
⑵ 本件訴えの適法性に関するその余の争点について
念のため、本件訴えの適法性に関するその余の争点についても検討する。
ア 本件不作為違法確認の訴えに係る訴えの利益について
(ア) 不作為の違法確認の訴えは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟である(行政訴訟法 3条5項)。
(イ) しかしながら、前提事実によれば、公取委は、原告に対し、本件訴えの提起後である令和6年11月8日、原告がした本件承認申請を承認しない旨を通知したと認められる(前提事実⑶・⑷・⑹)。そうすると、本件不作為違法確認の訴えは、訴えの利益を欠き、不適法というべきである。
イ 本件義務付けの訴えの適法性について
本件義務付けの訴えは、いわゆる申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)として提起されたものと解されるところ、同法は、申請型の義務付けの訴えについて、「当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないとき」に限り、提起することができ(同法37条の3第1項1号)、これを提起するときは、その処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない(同条3項1号)旨を規定している。
前記アで判示したところによれば、本件承認申請については、「当該法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らの処分がされないとき」に当たるとはいえないから、行政事件訴訟法37条の3第1項所定の訴訟要件を満たしておらず、また、本件義務付けの訴えと併合して提起された本件不作為違法確認の訴えが不適法であるから、同条3項所定の訴訟要件も満たしていない。
したがって、本件義務付けの訴えは、訴訟要件を満たさない不適法なものであるといわざるを得ない。
ウ 原告の主張について
以上の説示に反する原告の主張は、採用することができない。
第4 結論
よって、本件訴えは、いずれも不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。

令和7年5月28日

裁判官  住田知也     
裁判官  増崎浩司     
裁判長裁判官林史高は、転補のため、署名押印することができない。
裁判官  住田知也

(別紙6)
争点に関する当事者の主張

1 争点⑴ 本件訴えの適法性(本案前の争点)
(原告の主張)
⑴ 本件訴えの被告適格について
ア 独禁法76条2項は、事件の処理手続の結果として行われる行政処分である排除措置命令について、事件処理手続の適正を確保する趣旨に基づく規定である。したがって、独禁法77条の定める排除措置命令に係る抗告訴訟とは、事件の処理手続の結果として行われる行政処分に係る抗告訴訟を指す。
本件訴えは、本件排除措置命令が命令書の送達によって完了し、事件の処理手続が終了した後に、本件排除措置命令所定の措置を講じる方法について承認を求めるものに過ぎないから、本件承認申請に対する処分に係る抗告訴訟は、独禁法77条の定める排除措置命令に係る抗告訴訟には該当しない。
イ また、独禁法77条は、公取委の職権行使の独立性等を理由として被告適格に関する特則を設けているところ、この特則が適用される抗告訴訟は、原処分である排除措置命令の前提となる事実、法適用等について審理を行い、当該排除措置命令について当否が判断されるものに限られる。
本件訴えは、本件排除措置命令において公取委が原告に対して命じた措置につき、その執行方法等に係る承認を行わないことの違法性を確認するものであり、排除措置命令それ自体の当否に係る判断を求めているものではない。したがって、本件訴えは、排除措置命令に係る抗告訴訟には該当しない。
ウ したがって、被告適格に係る独禁法77条の特則は適用されず、本件訴えの被告国は、被告適格が認められる。
⑵ 本件不作為違法確認の訴えに係る訴えの利益について
本件不作為違法確認の訴えは、公取委による不作為が漫然と継続してきたことが違法であることの確認を求めるものであるから、本件不作為違法確認の訴えの提起後に、公取委が本件承認申請を拒否する処分を行ったか否かにかかわらず、上記確認を求めることにつき、原告には訴えの利益がある。
⑶ 本件義務付けの訴えの適法性について
本件不作為違法確認の訴えは、前記⑴・⑵のとおり適法であるから、本件義務付けの訴えは適法である。
(被告の主張)
⑴ 本件訴えの被告適格について
本件訴えは、公取委が自ら本件排除措置命令で命じた措置の履行方法等についてする承認に係る抗告訴訟である。そのため、本案においては、本件排除措置命令で命じられた措置の履行方法等の具体的な内容及びその趣旨や、これらに照らして本件承認申請書に記載された履行方法等が適当ないし十分であるか否かなどが争点になると考えられ、これらについては、本件排除措置命令に係る判断内容に関する事項である。したがって、本件訴えは、本件排除措置命令の取消しを求める抗告訴訟などと同様に、公取委の職権行使の独立性の観点から、法務大臣の指揮を受けることなく、公取委の自主的な判断に基づいて訴訟を追行することが適当である。
本件訴えは、いずれも、本件排除措置命令に関する抗告訴訟であり、独禁法法77条の排除措置命令「に係る(中略)抗告訴訟」に該当し、公取委が被告適格を有する。誤って被告を国として提起した本件訴えは、不適法である。
⑵ 本件不作為違法確認の訴えに係る訴えの利益について
公取委は、原告に対し、令和6年11月8日、本件承認申請について、これを承認しない旨を通知しており、これにより、本件承認申請について何らの応答がされないという不作為の状態は既に解消された。したがって、本件不作為違法確認の訴えは、訴えの利益を欠き、不適法である。
⑶ 本件義務付けの訴えの適法性について
前記⑵のとおり、本件不作為違法確認の訴えは不適法である。したがって、申請型義務付け訴訟である本件義務付けの訴えは、適法な不作為の違法確認の訴えと併合して提起されたものといはいえず、不適法である。
2 争点⑵ 本件不作為違法確認の訴えの本案要件について(原告の主張)
本件承認申請は、本件排除措置命令で命じられた本件各事前承認事項を漏れなく履践するものであり、公取委が本件承認申請を承認しないことには合理的理由がなく、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
3 争点⑶ 本件義務付けの訴えの本案要件について
(原告の主張)
前記2(原告の主張)で述べたところによれば、本件承認申請に対する承認が義務付けられるべきである。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
以 上

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