公正取引委員会審決等データベース

文字サイズの変更

背景色の変更

本文表示content

ハーレーダビッドソンジャパン㈱に対する件

独禁法19条2条9項5号

令和7年(措)第13号

排除措置命令

東京都新宿区新宿六丁目27番30号新宿イーストサイドスクエア5F
ハーレーダビッドソンジャパン株式会社
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》

公正取引委員会は、上記の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条第2項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由及び別紙中の用語のうち、別紙「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙「定義」欄に記載のとおりである。

主    文
1 ハーレーダビッドソンジャパン株式会社(以下「ハーレーダビッドソンジャパン」という。)は、次の事項を、取締役会において決議しなければならない。
(1) 遅くとも令和5年1月31日以降行っていた、自社とディーラー契約を締結する事業者(以下「ディーラー」という。)のうち別表記載の者(以下「特定ディーラー」という。)に対し、自社登録を行わなければ達成できないようなRSOを一方的に決めた上で、当該RSOに従って事業活動を行うことを余儀なくさせていた行為を取りやめている旨を確認すること。
(2) 今後、前記⑴の行為と同様の行為を行わないこと。
2 ハーレーダビッドソンジャパンは、前項に基づいて採った措置を、ディーラーに通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 ハーレーダビッドソンジャパンは、今後、第1項⑴の行為と同様の行為を行ってはならない。
4 ハーレーダビッドソンジャパンは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) ディーラーとの取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の自社の役員及び従業員に対する周知徹底
(2) ディーラーとの取引に関する独占禁止法の遵守についての、自社の役員及び従業員に対する定期的な研修並びに第三者による定期的な監査
5(1) ハーレーダビッドソンジャパンは、第1項、第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
 (2) ハーレーダビッドソンジャパンは、前項⑵に基づいて講じた措置の実施内容を、今後3年間、毎年、公正取引委員会に報告しなければならない。

理    由
第1 事実
1 関連事実
(1) 名宛人の概要
ハーレーダビッドソンジャパンは、肩書地に本店を置き、我が国において、HD商品の卸売業等を営む者である。
(2) ディーラーの概要
ハーレーダビッドソンジャパンは、自社がアメリカ合衆国に所在する《関連会社A》及びシンガポール共和国に所在する《関連会社B》から仕入れたHD商品のほとんど全てをディーラーに対して販売している。ディーラーは、原則として、ハーレーダビッドソンジャパンから買取りの方法で仕入れたHD商品を、ディーラー契約に基づき運営する販売拠点(以下、単に「販売拠点」という。)において、顧客に対して販売している。ディーラー契約は、通常、契約期間が3年間であり、契約期間満了後に自動更新されることはない。
(3) ハーレーダビッドソンジャパンと特定ディーラーとの関係
ア 令和5年及び令和6年における、我が国におけるHD車両の新規登録の台数は、それぞれ、約9,930台及び約8,790台であり、それらの台数はいずれも我が国における輸入小型自動二輪車の新規登録の台数の順位において第1位であった。
イ 大部分の特定ディーラーは、ディーラー契約等において規定する要件を満たすため、販売拠点の設備等に対し多額の投資を行っていた。
ウ(ア) 特定ディーラーは、いずれも、令和5年1月31日から令和6年8月5日までの間において、その総売上高に占めるHD商品に係る売上高の割合が高い者であった。
 (イ) 特定ディーラーの中には、前記(ア)の期間において、他の事業者との取引を開始又は拡大することにより、HD商品に係る売上高と同額又はそれ以上の額の売上高を確保することが困難な者が存在していた。
エ 前記アからウまでの事情等により、特定ディーラーにとっては、ハーレーダビッドソンジャパンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなり、このため、特定ディーラーは、ハーレーダビッドソンジャパンからの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ないような立場にあった。
(4) RSOの概要
ア ディーラーは、ディーラー契約において、ハーレーダビッドソンジャパンとの間で設定するRSOを達成することを義務付けられていた。
イ ハーレーダビッドソンジャパンは、毎年1月に、当該年に適用されるRSOの案を記載した「合意書」と称する文書(以下、単に「合意書」という。)をディーラーに提示し、ディーラーに対し、合意書に署名押印した上で提出することを求め、署名押印済みの合意書を提出させるなどして、当該年のRSOを決めていた。
ウ ハーレーダビッドソンジャパンは、RSWR登録の数をRSOに対する実績として計上していたところ、特定ディーラーにおける前年のRSWR登録の数に対するRSOの比率は、令和5年が平均して約130パーセントであり、令和6年が平均して約138パーセントであった(比較する各年のいずれかの月において月ごとのRSOが1台もない月が存在する販売拠点を除く。)。
令和5年及び令和6年のRSOについて、ハーレーダビッドソンジャパンの営業担当者の中には、特定ディーラーが顧客への販売で達成することは困難な目標であると認識していた者がおり、また、特定ディーラーは、顧客への販売で達成することは困難な目標であると認識していた。
(5) RSOに関連するポリシー
ア ハーレーダビッドソンジャパンは、B&Sプログラムと称するポリシーに基づきRSOに対する実績の割合(以下「RSOの達成率」という。)等の評価項目ごとにディーラーが獲得した点数の合計(以下「B&Sプログラムの獲得点数」という。)に応じて、四半期ごとにディーラーを評価していた。当該評価項目等の内容は、ハーレーダビッドソンジャパンによりディーラーに周知されていた。
イ ハーレーダビッドソンジャパンは、四半期ごとに、B&Sプログラムの獲得点数が一定の水準に満たないなどのディーラーに対して、NGSと称する評価(以下「NGS評価」という。)を下していた。NGS評価を下す基準は、ハーレーダビッドソンジャパンによりディーラーに周知されており、NGS評価を下したか否かは各ディーラーに通知されていた。
令和5年においては、B&Sプログラムの獲得点数が全ディーラーの下位10パーセントとなったディーラー、月ごとのRSOの達成率が1回以上80パーセントを下回ったディーラー等がNGS評価を下されることとなっていた。令和6年においては、B&Sプログラムの獲得点数が全ディーラーの下位10パーセントであって、かつ、全ディーラーの平均点数の70パーセント以下であるディーラー等がNGS評価を下されることとなっていた。
NGS評価を1回下されたディーラーは、H-D1プログラムと称するポリシーに基づく報酬金の支払が留保されるなどの取扱いを受けることとなっていた。また、NGS評価を2回連続で下されたディーラーは、H-D1プログラムに基づく報酬金の支払が取り消されることとなっていたほか、ハーレーダビッドソンジャパンがディーラー契約を更新しない可能性や、ハーレーダビッドソンジャパンからHD商品に係る販売等の事業の譲渡等を要請される可能性があった。
このため、特定ディーラーは、このようなNGS評価に伴う取扱いを避けるためにRSOの達成率を上げる必要があると認識していた。
ウ ハーレーダビッドソンジャパンは、ディーラーが販売拠点に設置しなければならない展示車及び試乗車の台数等を内容とするポリシー(以下「モデルリスト」という。)を策定しており、ディーラーに対して、モデルリストの変更の都度、当該変更後のモデルリストを周知し、その遵守義務を課していた。
(6) RSOに関する運用
ア RSOに対する実績として計上されるRSWR登録には、基本的に、RETAIL登録とEX-DEMO登録の2種類があった。
イ ハーレーダビッドソンジャパンは、ディーラーから顧客に対するHD商品の販売活動の支援等を行う営業担当者を配置しており、各営業担当者に担当するディーラーを割り振っていたところ、営業担当者は、営業責任者の指示の下、担当として割り振られた特定ディーラーにおけるRSOの達成のため、日頃から、特定ディーラーに対し、RSOの達成率を上げるように要請していた。
(7) 特定ディーラーによる自社登録
特定ディーラーがRSOの達成率を上げるための手段として、顧客への販売のほか、自社登録があった。
特定ディーラーがRETAIL登録による自社登録を行った場合、対象としたHD車両は、新車としての価格で販売することが困難であることから、新車としての価格を下回る販売価格となっており、仕入価格を下回る販売価格となる場合もあった。
また、特定ディーラーがEX-DEMO登録による自社登録を行った場合、特定ディーラーは、対象としたHD車両を試乗車としてより長く利用できるはずであったにもかかわらず利用できなくなり、モデルリストを遵守するために新たな試乗車の仕入れが必要となる場合があったほか、当該自社登録をしたHD車両の仕入代金の支払期日が試乗車として利用し続けた場合と比較して早まる場合があった。
2 ハーレーダビッドソンジャパンによる特定ディーラーに対する行為
ハーレーダビッドソンジャパンは、遅くとも令和5年1月31日以降、特定ディーラーに対し、自社登録を行わなければ達成できないようなRSOを、次の⑴のとおり、一方的に決めた上で、次の⑵の方法等により、当該RSOに従って事業活動を行うことを余儀なくさせていた。
(1) ハーレーダビッドソンジャパンは、前記1⑷イのとおり特定ディーラーに合意書を提示するまでの間に、合意書に記載するRSOの案に関して、特定ディーラーとの協議を行っておらず、特定ディーラーに対して意見を述べる機会も与えていなかった。
また、ハーレーダビッドソンジャパンは、特定ディーラーに合意書を提示してから署名押印済みの合意書を提出させるまでの間に、合意書に記載したRSOの案の算定の根拠等を、特定ディーラーに対して十分に説明することはなかったほか、特定ディーラーがRSOの案の数値について意見を述べ、又は下方修正を要請したとしても、特定ディーラーとの協議を行うことはほとんどなく、RSOの案を下方修正することもなかった。
そして、ハーレーダビッドソンジャパンは、特定ディーラーに署名押印済みの合意書を提出させるなどして、特定ディーラーとの間で、合意書に記載されたとおりのRSOを決めていた。
(2) ハーレーダビッドソンジャパンは、前記1⑸イのとおり、ディーラーにおけるRSOの達成率が一定割合に満たなかったことなどの結果、ディーラーがNGS評価を2回連続で下された場合には、当該ディーラーとのディーラー契約が更新されないなどの可能性がある中で、次の行為を行っていた。
ア 特定ディーラーが各月末までにHD車両を当該月のRSOに従って顧客に販売するために必要な時間的猶予が存在しない状況下において、営業責任者の指示の下、営業担当者からの電話等により、特定ディーラーに対して、当該月のRSOの達成率を上げるように強く要請していた。
イ NGS評価を下した特定ディーラーに対して、翌四半期以降におけるRSOの達成率等の改善計画を作成させるとともに、当該特定ディーラーの代表者等との面談において、その実施を約束させていた。
3 前記2の行為による影響
前記2の行為によって、特定ディーラーは、令和5年及び令和6年のRSOに従って事業活動を行うことを余儀なくされ、自らの意思に反して自社登録を行わざるを得なかったところ、令和5年1月31日から同年12月31日までの間における、特定ディーラーのRSOに対する実績に占める自社登録の台数の割合は平均して約29パーセントであり、令和6年1月1日から同年8月5日までの間における、特定ディーラーのRSOに対する実績に占める自社登録の台数の割合は平均して約34パーセントであった。
4 前記2の行為の取りやめ
令和6年7月30日、本件について、公正取引委員会が独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行ったところ、ハーレーダビッドソンジャパンは、令和6年8月6日以降、前記2の行為を取りやめている。
第2 法令の適用
前記事実によれば、ハーレーダビッドソンジャパンの取引上の地位が特定ディーラーに対し優越していたところ、ハーレーダビッドソンジャパンは、特定ディーラーに対し、自社登録を行わなければ達成できないようなRSOを一方的に決めた上で、当該RSOに従って事業活動を行うことを余儀なくさせていたものであり、これは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益となるように取引を実施していたものであって、この行為は、独占禁止法第2条第9項第5号ハに該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
また、前記の違反行為は既になくなっているが、ハーレーダビッドソンジャパンは、独占禁止法第20条第2項において準用する独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者であり、違反行為が自主的に取りやめられたものではないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば、特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
よって、ハーレーダビッドソンジャパンに対し、独占禁止法第20条第2項の規定に基づき、主文のとおり命令する。

令和7年9月18日

委員長 茶  谷  栄  治
委 員 三  村  晶  子
委 員 青  木  玲  子
委 員 𠮷  田  安  志
委 員 泉  水  文  雄

ページトップへ

ページトップへ