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景表法第10条第6項
昭和46年(判)第5号
東京都千代田区6番町15番地
不服申立人
主婦連合会
右代表者 会長 奥 むめお
東京都新宿区若葉町1丁目20番地
不服申立人
奥 むめお
同2名代理人弁護士 穂積 忠夫
同代理人 高田 ユリ
同 春野 鶴子
同 中村 紀伊
同 清水 鳩子
同 和田 正江
東京都中央区日本橋通り3丁目1番地
参加人
果実飲料公正取引協議会
右代表者 会長 三堀 三郎
右代理人弁護士 浦上 一郎
公正取引委員会は、右不服申立人らから、昭和46年4月3日不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号。以下「景品表示法」という)第10条第6項の規定に基づき、不服申立てがあったので、審判手続きを経て、次のとおり審決する。
主文
本件不服申立てを却下する。
事実
一 不服申立人らは、公正取引委員会が昭和46年3月5日社団法人日本果汁協会ほか3名の申請についてなした果実飲料等の表示に関する公正競争規約(以下「果汁規約」という。)の認定は、景品表示法第10条第2項第1号ないし第3号の要件に該当せず、違法であるから、公正取引委員会は、右認定を取消すべきであると主張し、その理由として、
(第1点)果実飲料の表示について、果汁規約第3条(1)では、果汁含有率10%以上のものは10%きざみに、5%以上10%未満のものは果汁10%未満と表示することとしているが、果汁含有率5%未満のものまたは果汁を含まないものにあっては、その旨の表示にかえ、「合成着色飲料」、「香料使用」等とのみ表示すればよいことになっている。
このような表示は、一般消費者に果汁を含有していない旨を誤りなく伝えるものではないことなどから、適正な表示ではない。
(第2点)果汁含有率の測定について、果汁規約第3条第1項後段に定める測定方法では、果汁に含まれるアミノ酸が天然のものであるか、合成のものであるかの区別がつけられない。
かりに、右の測定方法をとるとしてもその採用が義務づけられていない。
(第3点)印刷びんにおける表示について、果汁規約第3条(2)但書では、主原料(たとえば水、みかん)のうち果実の種類名以外のもの(たとえば水)の表示を省略しうることになっている。
(第4点)「ジュース」という言葉を含む名称の使用について、果汁規約第5条第2項および第3項においては、「ジュース」および「ジュースドリンク」のみの名称の使用を規制しているが、「ジュース」ということばを含むその他の名称の使用(たとえば「ソフトジュース」など)が野放しになっている。
(第5点)事業者の手持ち包装資材等については、果汁規約附則2によって、必要な表示義務の履行が、事業者の定める時期まで無期限に延ばされる可能性があり、また使用中の印刷びんについては、同附則3によって制限されるべき「ジュース」という名称が、びんの寿命のつきるまで無期限に使用されることになっている。
と述べ、審判立会官が不服申立人らには不服申立ての資格(すなわち法律上の利益、以下同様とする。)がないとの抗弁に対しては、
(1) 景品表示法は、直接消費者を相手とする取引方法が問題とされていることから、同法はここの消費者の利益の保護を第1義的に考え、それを通じて、ここの消費者の集合である一般消費者の利益を実現することを目的とするものである。
したがって、一般消費者の権利または法律上の利益と個々の消費者の権利または法律上の利益とを切り離し、相対立する概念としてとり上げることは、同法の趣旨を著しくねぢまげたとらえ方であり、誤りである。
ところで、同法第10条第2項第2号は、公正競争規約の認定につき、「一般消費者および関連事業者の利益を不当に害するおそれがないこと」と規定しているが、その趣旨は、公正競争規約が事業者によって作られるものであることから、ややもすれば事業者側に都合のよいものとなり、一般消費者の利益が不当に害される可能性があることを考慮してのものである。
したがって、公正競争規約が違法に認定されれば、個々の消費者ないし一般消者の利益は、不当に害されるおそれがあり、このことから、不服申立人らに不服申立ての資格があることは明らかである。
なお、不服申立てを行なうに当っては、現実に財産上の損害が発生していることは必要なく、将来における利益侵害の可能性で足りることは、右第10条第2項第2号が「利益を不当に害するおそれのないこと」と規定し、侵害のあったことを要件としていないことおよび不服申立ての期間が処分の告示の日から30日以内であるのに対し、果汁規約の効力発生が認定の日から6ヶ月先であることに徴して、明らかである。
もし、違法な公正競争規約の認定に対し、個々の消費者に不服申立ての資格がないとし、一方、個々の関連事業者にはその資格がありとすると、景品表示法第10条第2項第2号の一般消費者と関連事業者とを不当に差別することとなる。
(2) 公正取引委員会は、本件と類似の「内田MFC研究所に対する事件」(昭和43年(判)第1号)の審決において、本件不服申立人らと同じような立場にある内田MFC研究所に不服申立資格を認めている。
その先例からしても、不服申立人らに不服申立資格を認めるべきである。
(3) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律54号。以下「独占禁止法」という。)第24条の3に規定する不況に対処するための共同行為(以下「不況カルテル」という。)に関する認可と公正競争規約の認定とは、きわめて類似性があるが、不況カルテルの認可によって一般消費者が不利益をこうむるときは、不服申立ての資格のあることは確立した通説である。
しかも、この場合よりもさらに一層一般消費者の利害にかかわりの深い本件果汁規約の認定について、不服申立人らが不服申立資格を有することは、明らかである。
(4) かりに、一般消費者を個々の消費者の集合ではなく、消費者の集団と解するとしても、違法な行政処分によって集団利益が侵害された場合に、その集団の一員であり、その集団の利益を代表するものに、原告適格がありとするのが、最近の行政事件訴訟の判例、学説の認めるところであるから、この点よりしても、右訴訟と同様の性格を有する行政不服申立ての手続である本件において、不服申立人らにその資格が認められるべきである。
(5) かりに、裁判所が原告適格について、その個人の主張利益の性質のみを判定の決め手とする狭い見解をとっているとしても、不服申立手続は、行政事件訴訟とは異なるから、公正取引委員会の不服申立手続においては、適正な行政を通じて消費者を保護するという任務から不服申立ての資格を広く認めるということが、正しい行政の適用である。
なお、個々の消費者について不服申立資格を認めても、行政実務上なんらの支障もない。
と答弁し、証拠として果第1号証から果第16号証を提出し、参考人三堀参郎、同中村雄一、同和田正江、同正田彬、同高田ユリ、同竹下隆三の取調べを求めた。
二 審判立会官は、主文同旨の審決を求め、まず、本案前の抗弁として、不服申立人らには、不服申立ての資格がないと主張し、その理由として、
(1) 違法な行政処分に対する不服申立てについて、その資格があるか否かは、取消訴訟における原告適格に関する判例、学説を参考にして決すべきである。
原告適格につき、行政事件訴訟法第9条は「法律上の利益を有する者に限り提起することができる」旨規定しており、この「法律上の利益を有する者」についての判例、通説は、行政庁の違法な処分により権利のみならず、広く法律上保護された利益を害されたものをも含むとするが単なる法規の反射的利益ないし、事実上の利益だけでは足りないとしている。
また、それは、法律上の争訟であるから、個人の具体的な権利ないし利益の侵害があることを主張するものでなければならない。
したがって、本件不服申立てについても、不服申立人ら自身の具体的な権利ないし法律上の利益が侵害せられたと主張するものでければ、不服申立ての資格を欠くことになる。
(2) 独占禁止法は、第1条において、公正かつ自由な競争を通じ一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨規定していることから、独占禁止法の保護益が公共の利益にあること、したがって、右の一般消費者も個々の消費者ではなく、国民大衆を意味するものであることは明らかであり、独占禁止法の特例法として制定された景品表示法においても、不当な顧客誘引行為を禁止することにより一般消費者の利益を保護することを目的として掲げている。
以上のことから、景品表示法における一般消費者も、右と同様の意味に解すべきである。
景品表示法第10条第2項第2号が「一般消費者(中略)の利益を不当に害するおそれがないこと」と規定しているが、これは、公正競争規約認定の要件を定めたものであって、直接個々の消費者の利益を保護法益とする旨を定めたものではない。
公正取引委員会は、公正競争規約を認定するに当っては、公聴会を開いて消費者からも意見を徴しているが、これは、一般消費者の利益を不当に害するおそれがないか否かを判断する資料とするために行なっているものである。
以上の次第で景品表示法は、公共の利益を保護するものであるから、民衆訴訟に関する規定がおかれていない同法においては、個々の消費者またはその一部の集合にすぎない不服申立人らに、不服申立ての資格はない。
(3) 不服申立人らは、かりに一般消費者を集団を解するとしても、集団利益の侵害につき、その集団の一員に原告適格を認めるべきであるとする最近の判例、学説の傾向からみて消費者集団の一員であり、その集団の利益を代表する不服申立人らに不服申立ての資格を認めるべきであるというが、判例、通説は、不服申立人らの主張とは異なり、右のような集団利益の侵害について、その一員に原告適格を認めていないし、また、景品表示法に規定する一般消費者は、不服申立人らのいう消費者の集団とは次元を異にする国民大衆であるから、この点に関する主張も失当である。
と述べ、さらに、不服申立人らの主張に対し、
(第1点)果汁規約に定める「合成着色飲料」、「香料使用」等の表示は、不服申立人らの指摘する「果汁ゼロ」、「果汁を含まず」の表示に比し、より適切なものとはいい難いが、果汁表示制度の一環としての表示方法であり、また、果汁を含むと印象づける最も重要な要素である色、香味が、人口のものであることを明らかにした表示であるから、誤認を生ずるおそれはない。
(第2点)果汁規約においては、果汁に含まれるアミノ酸が天然のものであるか、人口のものであるかを測定する検査方法も、随時、用いることになっている。
(第3点)印刷びんにあっても、果実の種類名のほか、果汁規約第3条第2項第1号の規定により、果汁含有率の表示が義務づけられているので、その残りの大部分が水であることは容易に識別することができる。
(第4点)「ジュース」および「ジュースドリンク」以外のジュースということばを含む名称の使用を広く制限する趣旨において、果汁規約は不服申立人らの主張と異なるところはない。
このことは、果汁規約第5条全体とくに第1項第1号ないし第3号の規定の趣旨を総合してみれば明らかである。
(第5点)果汁規約附則第1項に規定する「規則に定める日」については、すでに昭和47年2月4日と定められており、また、同附則第3項の規定を定めたのは、新旧印刷びんの切換えにそれ程長期間を要するものではなく、経過措置として認めたものである。
と答弁し、証拠として、景第14号証を提出した。
三 参加人は、不服申立ての資格については、審判立会官の主張をすべて援用すると述べ、さらに不服申立人らの主張に対し審判立会官の意見を援用して、本件公正競争規約については、必要にしてかつ十分であり、本件認定処分には取消さねばならない瑕疵もなく違法なものではない。
と主張した。
理由
本件不服申立人らの不服申立ての資格については、次のとおり思料する。
(1) 行政処分に関する不服申立制度の目的は、行政の適格な運営を確保するにあると同時に、一面、それはあくまで国民の権利、利益の救済を図ることにある。
しかして、不服申立ては、司法救済につらなるものであるから、不服の申立てをなしうるものは、行政事件訴訟法第9条にいう「法律上の利益を有する者」とその範囲を同じくし、しかも、この「法律上の利益を有する者」とは、法律上の争訟手続において、具体的、個別的な権利ないしは法律上保護された利益が直接侵害されたか、少なくとも必然的に侵害されると主張しうる者でなければならない。
この理は、景品表示法第10条第6項の規定による公正競争規約の認定に対する不服の申立てについても異なるところはない。
したがって、景品表示法第10条第6項の「不服あるもの」も、行政処分によって申立人の具体的、個別的な権利ないしは法律上保護された利益が直接侵害されたか、少くとも必然的に侵害されると主張する資格のあるものでなければならない。
(2) 景品表示法は、もともと、独占禁止法の不公正な取引方法の1として独占禁止法によっても規制しうる不当な景品類の提供および不当な表示行為について、これをより迅速かつ効果的に規制するため、特例として制定されたものであり、その目的は、独占禁止法と同様に、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護することにある。
そして、この目的を達成するため、景品表示法第3条(景品類の制限及び禁止)、第4条(不当な表示の禁止)および第6条(排除命令)において同法に違反する行為の禁止および排除の規定が定められている。
さらに、同法第10条において、事業者がその自主的規制措置として定める公正競争規約の制度が設けられており、公正取引委員会がこれを認定するに当っては、その裁量により、必らず公聴会を開き、消費者の意見をきき、一般消費者の利益擁護について最善の努力をはらっている。
(3) 本件不服申立ての理由の趣旨は、果汁規約が景品表示法第10条第2項の規定に違反して認定されたため、一般消費者の利益を不当に害するおそれがあるというものであって、不服申立人ら自身の具体的、個別的な権利ないしは法律上の利益が必然的に侵害されるというものでなく、かつ、右同法第10条第2項第2号において、「一般消費者(中略)の利益を不当に害するおそれがない」ことを規定しているのは、公正競争規約の認定の要件を定めたものであって、それがただちに一般消費者に対し、不服申立ての資格を付与したものとは解すべきではない。
また、景品表示法に民衆訴訟制度の定めのない以上、かかる主張の限りにおいては、不服申立人らに、不服申立ての資格は認められないというべきである。
(4) なお、不服申立人らは、不服申立ての資格ありとの論拠として、内田MFC研究所に対する審決および独占禁止法第24条の3の不況カルテルに関する規定の解釈を引用しているが、前者については事案を異にし、適切な前例とはいい難いし、また、後者については、本件事案についてすでに述べたところとなんら異なることがないので、採用するに値しない。
なお、不服申立人らは、不服申立ての性格から行政庁はそれについて広く門戸を開くべしと主張しているが、事実上の措置はともかく、本件行政処分が違法であるとする法律上の不服申立ては、到底これを是認することはできない。
ちなみに、審判の過程で提出された前掲各証拠の趣旨を審案すれば、次のとおりである。
(1) 不服申立ての理由第1点については、本件果汁規約が、早期にこれを制定すべきことの強い要請と、それが事業者の自主的規制措置であることからする制約のもとに設定されたものであるだけに、最善の策とはいえないにしても、この表示が消費者の商品選択を誤らせるものとはいい難いし、この表示制度が一般に浸透し、定着すれば、より適切な効果をもたらすものと期待しての措置である。
(2) 不服申立ての理由第2点ないし第4点については、不服申立人らの果汁規約についての解釈の誤りないし同規約の運用の問題であるに過ぎず、失当とはいえない。
(3) 不服申立ての理由第5点についは、その前段の主張はすでに解決ずみで理由はなく、後段の主張については単に経過的措置に関するものであって、全体に影響するものではないから、これをもって違法とすることはできない。
以上述べたところによって明らかなように、不服申立人らの本件不服申立ては、その資格を欠き却下をまぬがれないので、景品表示法第10条第6項の規定を適用し、主文のとおり審決する。
昭和48年3月14日
委員長 高橋 俊英
委員 高橋 勝好
委員 橋本 徳男
委員 呉 文二
委員 瀧川 正久