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(株)ソニー・コンピュータエンタテインメントに対する件

独禁法19条(一般指定12項及び13項)

 

平成10年(判)第1号

審判審決

 

 

東京都港区赤坂七丁目1番1号
被審人 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント
同代表者 代表取締役 久多良木 健
同代理人 弁護士 内田 晴康
同 奥田 洋一
同 今村  誠
同 菊地  伸
同 飯塚 卓也

 公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について,公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第66条の規定により審判官金子順一,同石井彰慈及び同栗田誠から提出された事件記録及び規則第68条の規定により被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。
主文
1 被審人は,自己の販売するプレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機用のソフトウェアの販売に関し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,新たに発売された同ソフトウェアについて,小売業者に対し,原則として希望小売価格で販売するようにさせ,卸売業者に対し,取引先小売業者に原則として希望小売価格で販売させるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
2 被審人は,自己の販売するプレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機用のソフトウェアの販売に関し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,小売業者に対し,同ソフトウェアを一般消費者のみに販売するようにさせ,卸売業者に対し,同ソフトウェアを小売業者のみに販売するとともに取引先小売業者に一般消費者のみに販売させるようにしている行為を取りやめるとともに,取引先小売業者及び卸売業者との間で締結している特約店契約中の関係条項を削除しなければならない。
3 被審人は,前2項に基づいて採った措置を,被審人の営業・販売企画担当の役員及び従業員,取引先小売業者及び卸売業者並びに取引先卸売業者の取引先である小売業者並びに一般消費者に周知徹底しなければならない。この周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 被審人は,今後,第1項の行為と同様の行為により小売業者の販売価格を制限し,又は第2項の行為と同様の行為により取引先小売業者若しくは卸売業者の事業活動を制限してはならない。
5 被審人は,前各項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案理由第1ないし第4と同一であるから,これを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第1項及び第2項並びに規則第69条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成13年08月01日

公正取引委員会
委員長 根來 泰周
委員 柴田 章平
委員 糸田 省吾
委員 本間 忠良
委員 小林  惇

別紙
平成10年(判)第1号
審決案
東京都港区赤坂七丁目1番1号
被審人 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント
同代表者 代表取締役 久多良木 健
同代理人 弁護士 内田 晴康
同 奥田 洋一
同 今村 誠
同 菊地 伸
同 飯塚 卓也
上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第26条の規定により審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第66条及び第67条の規定により本審決案を作成する。
主文
1 被審人は,自己の販売するプレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機用のソフトウェアの販売に関し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,新たに発売された同ソフトウェアについて,小売業者に対し,原則として希望小売価格で販売するようにさせ,卸売業者に対し,取引先小売業者に原則として希望小売価格で販売させるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
2 被審人は,自己の販売するプレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機用のソフトウェアの販売に関し,自ら又は取引先卸売業者を通じて,小売業者に対し,同ソフトウェアを一般消費者のみに販売するようにさせ,卸売業者に対し,同ソフトウェアを小売業者のみに販売するとともに取引先小売業者に一般消費者のみに販売させるようにしている行為を取りやめるとともに,取引先小売業者及び卸売業者との間で締結している特約店契約中の関係条項を削除しなければならない。
3 被審人は,前2項に基づいて採った措置を,被審人の営業・販売企画担当の役員及び従業員,取引先小売業者及び卸売業者並びに取引先卸売業者の取引先である小売業者並びに一般消費者に周知徹底しなければならない。この周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 被審人は,今後,第1項の行為と同様の行為により小売業者の販売価格を制限し,又は第2項の行為と同様の行為により取引先小売業者若しくは卸売業者の事業活動を制限してはならない。
5 被審人は,前各項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理由
第1 事実及び証拠
1 被審人の概要等
(1) 被審人
ア 被審人は,肩書地に本店を置き,プレイステーションと称する家庭用テレビゲーム機(以下「PSハード」という。),PSハード用ソフトウェア(以下「PSソフト」という。)及びPSハード用周辺機器(以下,PSハード,PSソフト及びPSハード用周辺機器を併せて「PS製品」という。)の製造販売並びにPSソフトの仕入販売の事業を営む者である。(争いがない。)
イ 被審人は,平成5年11月にソニー株式会社(以下「ソニー」という。)及び株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下「ソニー・ミュージック」という。)が共同出資して設立した会社である。(争いがない。)
ウ 被審人は,当初,国内におけるPS製品に関する営業業務をすべて営業部において行っていたが,平成8年1月の組織変更により,営業部販売企画課が販売企画部として独立し,それ以降,PS製品の販売計画等に関する業務は販売企画部が行っている。(争いがない。)
被審人は,営業部内の会議として,営業部の係長以上の者によるスタッフミーティングと称する会合,営業部員全員による全体ミーティングないし営業部会と称する会合,営業所単位の営業所会議ないし課会と称する会合等を開催している。(査第2号証の1,第4号証,第28号証,第43号証,第93号証)
(2) 家庭用テレビゲーム機及び家庭用テレビゲーム機用ソフトウェア
ア 家庭用テレビゲーム機(以下「ゲーム機」という。)であってPSハードと競合するものには,任天堂株式会社(以下「任天堂」という。)のスーパーファミコン(平成2年発売),株式会社セガ・エンタープライゼズ(現社名株式会社セガ)のセガサターン(平成6年11月発売)などがある。(査第4号証,第35号証,審第32号証,第35号証)
これらはいずれも,ゲーム機本体に家庭用テレビゲーム機用ソフトウェア(以下「ゲームソフト」という。)を装着して遊戯するものである(以下,ゲーム機とゲームソフトを併せて「テレビゲーム」ともいう。)。これらのゲームソフトは,それぞれのゲーム機のプラットフォームに合わせて開発製造されており,それぞれのゲーム機用のゲームソフトの間に互換性はない。
ゲームソフトには,マスクロム方式を採るものとCD−ROM方式を採るものとがあり,PSソフトは,CD−ROM方式である。CD−ROM方式のゲームソフトは,マスクロム方式のものに比べて,製造コストが低廉で,かつ,製造に要する期間が短いという特性がある。(争いがない。)
イ テレビゲームを扱う小売業者としては,従来から,テレビゲームを専門に扱う小売業者(以下「ゲーム専門店」という。),家電・カメラ量販店,玩具店,百貨店,スーパー,ディスカウンター等がある。ゲーム専門店の中には,いわゆるフランチャイズ方式で,フランチャイズ本部の経営指導の下に統一の店舗名によりチェーン展開しているものがある。(査第4号証,第22号証,第38号証。以下,フランチャイズ本部を「FC本部」,FC本部が自ら経営する店舗を「直営店」,フランチャイジーの店舗を「加盟店」という。)
(3) PS製品
ア PS製品は,平成6年12月3日に発売されたものであるが,当時,ゲーム機市場への新規参入が相次ぐ中で,PS製品に対しては「ソニー」のブランド力とあいまって一般消費者の期待が高く,また,有力なゲームソフト開発製造業者(以下「ゲームソフト製造業者」という。)がPSソフトの開発製造に乗り出すことが既に明らかとなっており,さらに,被審人が採用しようとしていた,後記(4)ないし(6)のようなPS製品の流通政策が次第に明らかにされていたことから,テレビゲームの販売業者の間には,PS製品を取り扱うことが営業上有利であり,あるいは,品揃え上必要であるとの認識が広まっていた。(査第9号証,第63号証,第67号証)
イ PS製品は,発売直後から一般消費者の高い評価を得たこと,また,有力なゲームソフト製造業者により人気の高いPSソフトが発売されたこと,平成7年7月にはPSハードの希望小売価格が引き下げられたことなどから,ゲーム機市場におけるPSハードのシェアは次第に高まってゆき,PSハードとPSソフトとの相乗効果によりテレビゲーム市場において有力な地位を確立した。このため,テレビゲームの販売業者にとって,PS製品を取り扱うことがますます重要になっていった。(査第25号証,第92号証,第136,第137号証,審第13号証,第44号証,参考人島本雅司)
ウ 被審人は,我が国のゲーム機及びゲームソフトの各販売分野において,平成8年度の出荷額が第1位の地位を占める最有力の事業者である。(査第6号証)
また,被審人は,PSソフトの流通を自ら行う一部のゲームソフト製造業者のPSソフトを除き,ゲームソフト製造業者の開発製造したPSソフトを一手に仕入れて販売しており,ゲームソフトの販売業者にとってPSソフトの供給面で独占的地位にある。(査第17号証,参考人島本雅司)
(4) PS製品の流通経路政策
ア 直取引システム
被審人は,PS製品の販売に当たり,直接小売業者と取引し,これら小売業者が一般消費者に販売するという「直取引」を基本方針としており,直接取引ができない小売業者に対しては,ソニー系の販売会社,株式会社ハピネット(以下「ハピネット」という。)等の卸売業者を通じて販売している。
被審人は,取引先小売業者との間では「特約店契約書」により,取引先卸売業者との間では「特約店契約書(卸店用)」により,それぞれ特約店契約を締結している。この両契約書の条項は,基本的には同様の内容となっている。(査第48号証)
また,被審人は,PS製品を,ゲーム専門店が加盟するFC本部にも販売しており,FC本部は,PS製品を自ら直営店において又は加盟店を通じて一般消費者に販売しているところ,被審人は,FC本部との間では,取引先小売業者との取引契約書である「特約店契約書」により特約店契約を締結して取引しており,FC本部への販売を直接取引する小売業者への販売と同視している。(争いがない。)
被審人がこれらの特約店契約を締結して直接取引している販売業者(以下「特約店」ともいう。)は,平成9年3月末時点で,FC本部が14社(店舗数で2,262店),その他の小売業者(ゲーム専門店,家電・カメラ量販店等)が229社(店舗数で2,056店),卸売業者が14社(取引先小売業者数で18,450店。うちコンビニエンスストアが14,500店)の合計257社である。平成8年度における被審人のPSソフトの売上金額をこれらの業態別にみると,FC本部が約32パーセント,その他の小売業者が約40パーセント,卸売業者が約28パーセント(うちハピネットが約12パーセント)となっている。(査第2号証の1)
イ 店舗政策
被審人は,PS製品の発売に際して,PS製品を取り扱う小売店舗を4,000店から5,000店程度に限定する方針を有しており,被審人の営業担当者は,取引先候補の販売業者に対してその旨説明していた。(査第7号証,第20号証,第22号証,第65号証,第68号証の3,第72号証,第76号証,第133号証)
また,被審人は,PS製品を販売する小売店舗の選定基準として,一定の売上規模・販売スペースがあること,地域での立地が良好であること,PSソフトの品揃えができること,テレビゲーム販売事業への意欲があることといった望ましい条件を設定し,こうした条件に合致するか否かをPS製品を取り扱う小売店舗の選定に当たり考慮している(審第35号証,被審人代表者佐藤明)。被審人は,直接取引する家電・カメラ量販店等の小売業者に対し,PS製品を取り扱う店舗を限定するように求めている。(査第7号証,第57号証,第79号証)
ウ 店舗管理政策
被審人は,FC本部及びその他の小売業者に対し,PS製品の取扱い店舗を報告させてこれを登録し,これらの店舗ごとにコード番号を付して管理している。(争いがない。)
エ シリアル番号
被審人は,PSハードについて,製品ごとにシリアル番号と称する製造ロット番号を付しており,出荷先店舗をコード番号により管理台帳に記録している。また,被審人は,平成7年11月発売の自社製PSソフト「ビヨンド・ザ・ビヨンド」にシリアル番号を付した。(争いがない。)
オ 保証金
被審人は,特約店に対し,PS製品の取引につき,債権保全のため,一定の方式ないし基準により算定した額の保証金を徴求している。(査第2号証の1)
カ 実売報告
被審人は,特約店契約において,特約店に販売状況の報告義務を課しており,ゲームソフトについても,必要に応じ,販売本数等の報告を求めている。(査第13号証,第20,第21号証,第23号証,第48号証,第85,第86号証,第105号証)
(5) PSソフトの仕入販売
被審人は,平成9年3月末時点で,ゲームソフト製造業者約590社との間でPSソフトの開発製造に係るライセンス契約を締結しており,これらゲームソフト製造業者は,同契約に基づき被審人からPSソフトの開発のためのノウハウの開示等を受けてゲームソフトを開発し,被審人に製造委託することにより当該ゲームソフトをCD−ROMに搭載したPSソフトを製造している。
平成9年3月末までに被審人が販売したPSソフト約730タイトルのうち約94パーセントは,ゲームソフト製造業者が開発したものであり,被審人は,残り約6パーセントを自社開発している(なお,販売本数比では,自社開発のPSソフトが約20パーセントである。)。(争いがない。)
前記ライセンス契約に基づいてゲームソフト製造業者が開発製造したPSソフトについては,当該ゲームソフト製造業者が著作権を有しており,被審人が当該ゲームソフト製造業者の有する著作権の行使を委任されている事実は認められない。(査第18号証)
被審人は,従来,前記ライセンス契約を締結したゲームソフト製造業者との間で,ゲームソフト製造業者は同契約に基づいて被審人に製造委託したPSソフトのうち一般市販用のものの全数を被審人に販売すること等を内容とする商品売買契約を締結し,ゲームソフト製造業者が製造した(被審人が製造受託した)PSソフトを全数仕入れて販売していたが,平成8年4月以降,一部のゲームソフト製造業者は,自社で開発製造したPSソフトを自ら販売する方法に変更している。(争いがない。)
なお,被審人は,ゲームソフト製造業者と協議の上,PSソフトの仕入本数を決定している。(査第5号証,第18号証)
(6) PSソフトの小売流通システム
ア 受発注制度
被審人は,新作のPSソフトの発売に際しては,あらかじめ販売数量の予測及び製造数量の計画を基に,ゲームソフト製造業者と協議の上,全体としての初回販売数量を設定している。その上で,被審人は,FC本部及びその他の小売業者に対し,各業者について策定した初回発注数量を提示し,各業者と協議の上,それぞれの初回発注数量を確定している。被審人は,このような方法で,小売業者からの過剰又は過少な発注を抑制し,初回販売数量を需要に見合ったものとすることにより供給過剰又は供給不足の防止を図っている。そして,被審人は,新作PSソフトの初回発注分については,FC本部の直営店及び加盟店並びにその他の小売業者の各店舗へ直接配送する方法を採っている。(査第5号証,第23号証,第57号証,第69号証,第110号証,第159号証,審第59号証)
また,被審人は,ハピネット等の卸売業者については,卸売業者に取引先小売業者の受発注の事務を管理させており,初回発注数量を設定して当該卸売業者に配送し,当該卸売業者から取引先小売業者に配送する方法を採っている。(争いがない。)
さらに,被審人は,製造コストが低く,かつ,製造期間が短いというCD−ROM方式の特性をいかして,PSソフトの追加発注を受けた後1日ないし2日で製造し,受注後3日ないし4日目には販売業者に納入する,リピート制と称する方法を採用し,PSソフトの追加注文に迅速かつ小ロットで対応できる体制を整えている。(争いがない。)
イ 希望小売価格の設定
被審人は,自ら開発製造するPSソフトの希望小売価格を設定している。(争いがない。)
また,ゲームソフト製造業者が開発し,被審人が製造受託して仕入販売するPSソフトについては,ゲームソフト製造業者の求めに応じて被審人が意見を述べるなどした上で,ゲームソフト製造業者が希望小売価格を設定している。(査第5号証,第26号証)
PSソフトの希望小売価格は,5,800円とマスクロム方式のゲームソフトより安価に設定されているものが過半を占めており,こうした希望小売価格は,新譜提案書,商品カタログ,ゲーム雑誌等によって販売業者に周知されている。(査第2号証の1,第23号証,第114号証,審第23号証の7,第35号証,第59号証,参考人島本雅司)
ウ 仕切価格
被審人は,その販売するPSソフトすべてについて,卸売業者と小売業者とを問わず,また,小売業者の業態を問わず,その仕切価格をそれぞれのPSソフトの希望小売価格の75パーセントの価格とする方針を発売当初から一貫して採ってきている。(争いがない。)
被審人からPSソフトを希望小売価格の75パーセントの価格で仕入れたFC本部及び卸売業者は,傘下の加盟店又は取引先の小売業者に対して同額で販売している。(査第28,第29号証,第46号証,第62号証,第159号証)
被審人は,FC本部及び卸売業者に対して配送経費等の名目で区々の比率により割戻しを行っている。(争いがない。)
エ 返品政策
被審人は,特約店契約では,PS製品の返品を受け入れない旨特約店との間で取り決めているが,PSソフトにつき,例外的な措置として一定の条件で返品を受け入れたことがある。こうした例として,平成7年11月の返品受入れ,平成8年3月の廉価での買上げがある。(争いがない。)
オ レコード・CD流通に倣った流通政策
被審人が採用している以上のようなPSソフトの流通政策は,返品政策を除き,基本的にソニー・ミュージックが採用しているレコード・音楽用CDの流通システムに倣ったものである。(査第20号証,第28号証,第45号証,第63号証)
(7) 中古ゲームソフト
ゲームソフトについては,単価が比較的高いこと,新作ゲームソフトが次々と発売されること,使用によるゲームソフト自体の品質の劣化が通常生じにくいこと,ゲーム内容への飽きや達成感から使用したゲームソフトを売却するという一般消費者のニーズがあること,小売業者にとって中古ゲームソフトの取扱いの利益率ないし利益幅が大きいこと等から,一般消費者が小売業者に中古ゲームソフトを売却し(その売却代金が他のゲームソフトの購入資金に充てられることが少なくない。),販売業者がそれを買い取り中古ゲームソフトとして販売することが広く行われてきており,中古ゲームソフト市場が存在している。(査第30,第31号証,審第35,第36号証)
2 違反行為
(1) PS製品の流通政策の検討
ア 従来のテレビゲーム事業に関する被審人の問題意識
ソニーは,平成4年末ころ,CD−ROM方式によりテレビゲーム事業に参入することを決定し,平成5年11月,ソニー・ミュージックとの共同出資により被審人を設立した。(争いがない。)
被審人は,テレビゲーム事業への参入の具体策を検討する中で,当時テレビゲーム市場において圧倒的優位にあった任天堂がスーパーファミコンで採用しているマスクロム方式では,ゲームソフトの製造コストが高く,小売価格が高くなりがちであること,ゲームソフトが品切れを起こした場合,追加発注を受けて製造し納品するまでに数か月を要するために,小売業者ではその間品切れが生じ,需要期間の短いゲームソフトの販売機会を逸すること,高価格や長期間の品切れが中古ゲームソフト市場の発生の要因となること,また,任天堂が採用している流通政策においては,流通段階に同社のコントロールが及ばず,小売業者は卸売業者を主体とした多段階流通を通して仕入れるために見込発注が行われ,過剰発注による過剰在庫や過少発注による品切れが発生するなど,ゲームソフトの需給不均衡が生じやすいこと,そして,これが過剰在庫の処分としての値引き販売,横流し,抱き合わせ販売や,品切れによる中古ゲームソフトの売買が行われる原因となっていること,中古ゲームソフト市場が新品ゲームソフトの売行きに影響し,ゲームソフト製造業者及び新品ゲームソフト販売業者の利益を損なうこと等の問題意識を持つに至った。(査第20号証,第28号証,第38号証,第44号証,審第35号証,第38号証,第50号証,被審人代表者佐藤明,参考人浅田安彦)
イ PS製品の流通政策の検討
被審人は,任天堂のテレビゲーム事業を研究する中で,CD−ROM方式の特性をいかし,また,一般消費者に直結した流通システムを構築することにより,任天堂のテレビゲーム事業の問題点を解消し,ゲームソフト製造業者,被審人及び販売業者のそれぞれが利益を挙げられる事業方針を構築しようとした。(査第18号証,第76号証,審第35号証)
被審人におけるテレビゲーム事業の具体的な検討は,その設立直後から開始され,平成6年2月に副社長以下の営業関係者が出席して開催された「ブレスト」と称する自由討議の場においてその骨格が議論される等の過程を経て,遅くとも同年6月ころまでには,前記1(4)ないし(6)のようなPS製品の流通政策が具体化された。(査第13号証,第32号証,第38号証,審第30号証,第35号証)
(2) PS製品の販売方針の決定
ア 販売方針の決定
上記流通政策の具体化の過程において,被審人の営業部幹部(営業部次長・課長クラスの者をいい,平成6年10月の営業所設置以降は,営業所長クラスの者を含む。以下同じ。)は,遅くとも平成6年6月ころまでに,PS製品の流通を委ねる小売業者(FC本部及びその他の小売業者)並びに卸売業者との関係で,次の(ア)ないし(ウ)の販売方針を採ることとし,同販売方針を取引開始のための交渉過程で説明し,その遵守を要請し,要請を受け入れた小売業者及び卸売業者とのみPS製品の取引を行うこととした。(被審人の営業部幹部,ひいては被審人が上記販売方針を決定したこと自体を直接証明する証拠は見当たらないが,上記認定の理由は,後記審判官の判断に記載するとおりである。)
(ア) PSソフトの小売価格
小売業者に対しては,PSソフトの希望小売価格が従来のゲームソフトに比べて低廉に設定されており,希望小売価格どおりの価格で十分販売できることを強調し,利益が出るような小売価格の設定をするように促すとともに,特に広告においては希望小売価格どおりの価格表示とするように求め,また,卸売業者に対しては,取引先の小売業者に同様の価格設定をすることを指導するように求めること(以下「値引き販売禁止」という。)
(イ) 中古のPSソフトの取扱い
小売業者に対し,中古のPSソフトの取扱いがテレビゲーム業界全体のためにマイナスであることを強調し,その取扱いをしないように求め,また,卸売業者に対し,取引先の小売業者に中古のPSソフトを取り扱わないことを指導するように求めること(以下「中古品取扱い禁止」という。)
(ウ) PS製品の販売先
小売業者にはPS製品を一般消費者に対してのみ販売するように義務付け,卸売業者には取引先の小売業者に対してのみ販売するとともに取引先の小売業者に一般消費者にのみ販売することを指導するように義務付けること(以下「横流し禁止」という。)
なお,上記(ウ)のPS製品の横流し禁止については,取引先販売業者にこのような制限を課すことの独占禁止法上の問題点の有無を弁護士に照会し,問題がないとの回答を得たことから,特約店契約に明記することとし,他方,上記(ア)の値引き販売禁止及び(イ)の中古品取扱い禁止については,特約店契約中の被審人の営業方針への協力義務条項として抽象的に規定するにとどめた。(査第20号証,審第35,第36号証,被審人代表者佐藤明)
イ 販売方針の社内説明
被審人の営業部幹部は,次のとおり,平成6年7月ころから同年9月ころにかけて,営業担当者に対し,PS製品の事業方針,特に流通政策について説明するとともに,取引先候補の販売業者に対して前記販売方針を受け入れるように説明・要請するように指示した。(査第44,第45号証。上記認定の理由は,後記審判官の判断に記載するとおりである。)
(ア) 被審人の営業部においては,平成6年7月中旬ころ,ソニーの販売会社等から新たに出向するなどしてきた営業担当者に対し,「プレイステーション販売マニュアル」(査第38号証)を配布して,約1週間にわたりPS製品の販売に関する研修会が実施され,同研修会において,川辺泰人販売推進課長がPS製品の流通政策を含む事業方針を全般的に説明し,前記販売方針についてもその趣旨を説明した。(査第20号証,第44号証)
(イ) 平成6年8月中旬ころから9月ころにかけて,全体ミーティングがたびたび開催され,安田哲彦営業課長(なお,同人は,平成6年10月に第一営業所長,平成7年3月に営業部次長に就任した。)が営業担当者に対し,取引先候補の販売業者に対して前記販売方針を受け入れるように説明・要請することを指示した。(査第7号証,第22号証,第44,第45号証)
ウ 営業担当者に対する指示
被審人の営業部幹部は,その後も,前記販売方針を販売業者に遵守させる旨の指示を営業担当者に対して繰り返し行った。(査第36号証の1ないし6,第45号証)
(3) 販売業者に対する販売方針の説明及び要請並びに特約店契約の締結
ア 販売業者に対する説明及び要請
被審人の営業部幹部は,平成6年6月ころから,営業担当者を伴って取引先候補のFC本部及び家電・カメラ量販店等のその他の小売業者並びに問屋等の卸売業者を訪問し,PS製品の事業方針,特に被審人が採用しようとしている流通政策を説明するなどして,特約店契約の締結交渉を行った。
その過程で,営業部幹部及びその指示を受けた営業担当者は,前記販売方針を重点的に説明し,その受入れが販売業者自らの利益になることを強調しつつ,その受入れを要請するなどした。具体的には,自ら直接取引しようとする家電・カメラ量販店等のその他の小売業者に対しては,当該小売業者の従来のテレビゲーム販売事業の業態や販売状況により,その要請の程度には強弱があるものの,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の販売方針を遵守するように要請し,FC本部及び卸売業者に対しては,横流し禁止の販売方針を守るとともに,傘下の加盟店又は取引先の小売業者に値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の販売方針を遵守させるように要請した。(なお,被審人がFC本部との間で締結している「特約店契約書」中のPS製品を一般消費者にのみ販売するとの条項を,加盟店がPS製品を一般消費者にのみ販売することをFC本部に義務付けた条項と解釈し運用していることは,争いがない。)その要請に際して,営業部幹部らは,このような要請を受け入れることが取引開始の条件である旨述べたり,取引先の販売業者が上記販売方針を遵守しない場合には何らかの制裁ないしは不利益措置を採ることを示唆し,遵守していない小売業者がある場合には,その旨被審人に連絡するように求めるとともに,そのような場合には,被審人において是正させる旨述べるなどした。営業部幹部らによるこうした要請は,特にFC本部及び卸売業者に対して強力に行われた。(査第7ないし第9号証,第24号証,第44,第45号証,第47ないし第49号証,第51号証,第54号証,第57ないし第60号証,第64ないし第67号証,第68号証の1ないし3,第69,第70号証,第72号証,第74号証,第76ないし第79号証,第81,第82号証,第102号証)
なお,その際,被審人の営業部幹部はFC本部及び卸売業者に対し,上記販売方針が被審人からの要請によるものではなく,各FC本部又は卸売業者の方針によるものとして,傘下の加盟店又は取引先の小売業者に説明すること,さらに,こうした要請等に関しては文書に残さないようにすることを求めるなどした。(査第69号証,第72,第73号証,第76ないし第78号証)
イ FC本部及び卸売業者による取引先小売業者等に対する説明・要請
被審人の営業部幹部から前記の説明・要請を受けたFC本部は傘下の加盟店に対し,また,卸売業者は取引先小売業者に対し,被審人の前記販売方針を説明し,その受入れと遵守を強く要請した。FC本部の中には,傘下の加盟店に対し,被審人の前記販売方針を遵守していない競合店に関する情報の提供を求めたものがある。(査第8,第9号証,第53,第54号証,第58ないし第60号証,第63号証,第65ないし第67号証,第69号証,第76号証,第78号証,第122号証,第134号証,第150号証,第153号証,第157号証)
このようなFC本部から加盟店への説明・要請は,被審人と特約店契約を締結し,取引を開始してからも,たびたび行われた。(査第15号証,第52号証,第56号証,第62号証,第80号証,第122号証)
ウ 特約店契約の締結
被審人の営業部幹部から前記要請を受けたFC本部及びその他の小売業者の中には,値引き販売禁止の受入れに難色を示す者(特に家電・カメラ量販店等)や,収益源となっている中古品取扱い禁止の受入れに難色を示す者(特にゲーム専門店)がみられた(なお,横流し禁止については,異存なく受け入れられた。)。(査第7号証,第54号証,第64号証)
しかし,一方で,PS製品の前評判が発売開始が近付くにつれて高まり,PS製品の利益幅が大きいこととあいまって,PS製品を取り扱うことが販売業者の営業上重要ないし必要な状況になりつつあったこと,他方,被審人の営業部幹部や営業担当者において,競合店の値引き販売や中古品取扱いに対しては是正を指導する旨を述べ,また,販売業者の反応に応じて限定的な値引き販売や中古品取扱いは事実上黙認することもあり得ることを示唆するなど柔軟に対応したこともあり,当初販売方針の受入れに難色を示していた者も,被審人の販売方針に表立って異議を唱えることなく,ほとんどの販売業者が被審人の販売方針を受け入れるに至った。(査第9号証,第24,第25号証,第54号証,第57号証,第60号証,第67号証,第70号証,第102号証,参考人池戸徹)
被審人は,平成6年9月中旬以降,前記販売方針を受け入れたFC本部及びその他の小売業者並びに卸売業者と特約店契約を順次締結し(査第8号証,第29号証,第48,第49号証,第57号証),同年12月3日以降,当該特約店契約を締結した特約店と取引を開始した。(争いがない。)
(4) PS製品発売後における販売方針の実施
ア 発売後の取引開始業者に対する要請・契約締結
被審人の営業担当者は,PS製品が発売された平成6年12月3日以降においても,新たに取引を開始しようとするFC本部等に対し,前記販売方針の受入れを要請するなどし,被審人は,これを受け入れたFC本部等との間で特約店契約を締結し,取引を開始した。FC本部の中には,被審人の前記販売方針をあらかじめ示して,その受入れを確認するという手順を踏んで,加盟店を募集するものもあった。(査第25号証,第29号証,第68号証の1ないし3,第83号証,第159号証)
イ 発売後における再度の販売方針の周知徹底及び是正措置の状況
被審人が平成6年12月3日にPS製品の販売を開始して間もなく,小売業者の中にはPS製品の値引き販売を行う者が現れ,値引き販売禁止を遵守している小売業者等から被審人の営業部に対し,競合店の値引き販売の状況を通報し指導を求める情報が多数寄せられるようになった。その後,中古品取扱いや横流しについても,同様に情報が寄せられるようになった。
このため,被審人の営業部においては,安田哲彦第一営業所長(平成7年3月以降は営業部次長)らが営業担当者に対し,営業部のスタッフミーティング,全体ミーティング等の場において,小売業者の値引き販売等をやめさせるため,FC本部及びその他の小売業者並びに卸売業者に対して前記販売方針を改めて説明して徹底するように指示した。
被審人の営業担当者は,同指示の下で,営業部幹部に報告や相談をしつつ,値引き販売あるいは中古品取扱いを行っていると認められる小売業者とその仕入先であるFC本部や卸売業者に対し,被審人の前記販売方針を改めて説明してこれを遵守するように求め,直ちにこれに応じない販売業者に対しては「蛇口を閉めることもある」などと述べてPS製品の出荷制限などの制裁措置に言及するなどして,これを遵守するように求め,値引き販売等の行為をやめ,値引き販売等の広告を撤回するなどの是正をするように指導し,多くの販売業者は,被審人による制裁措置を恐れて同指導に従っていた。また,被審人の営業担当者は,PSソフトの横流しをしていた加盟店を統括するFC本部に対し,同加盟店の横流しをやめさせるように指導し,同FC本部からこれをやめさせた旨の報告を得た。
被審人の営業担当者によるこのような是正指導は,PS製品のシェアが拡大するにつれて厳しいものになり,平成7年8月には,PSソフトの値引き販売を行っていた家電量販店に対して,指導に従わないとしてPS製品の出荷を停止し,また,同月,PSハード及びPSソフトの値引き販売及び中古品取扱いを行っていた加盟店を統括するFC本部に対し,PSハードの出荷を停止し,さらに,同年12月,PSハード及びPSソフトの中古品取扱いを行っていた家電量販店に対し,被審人の中古品取扱い禁止の販売方針に沿わないものであることを理由として特約店契約の解除を申し入れ,同契約の合意解除に至った。
このような被審人による是正指導措置の情報が販売業者の間に流布し,また,被審人の営業担当者の指導がより厳しいものとなってきたため,販売業者の間に,被審人の前記販売方針を遵守しない場合には,PS製品の出荷調整,保証金の額の引上げなどの不利益を受けるにとどまらず,特約店契約を解除され,PS製品を取り扱うことができなくなるのではないかとの不安感が広まり,FC本部の中には加盟店に対し,被審人の販売方針を遵守するように改めて指導するなどしたものもあった。(査第8号証,第23ないし第25号証,第36号証の1ないし4,第50,第51号証,第53号証の2,第58号証,第62号証,第64号証,第66,第67号証,第68号証の3,第69ないし第71号証,第80,第81号証,第101号証,第113号証の1,2,第114号証の1ないし3,第115ないし第119号証,第120号証の1ないし5,第121,第122号証,第125号証,第127,第128号証,第132ないし第134号証,第150号証,第152号証,第156号証,第159号証,審第36号証,第38号証,参考人池戸徹,同榎本計介)
(5) 値引き販売禁止の販売方針の修正
ア 例外的・限定的な返品の受入れ
被審人の営業部幹部及び営業担当者は,PS製品の発売以来,小売業者及び卸売業者にPSソフトの値引き販売禁止の方針を要請し,値引き販売している小売業者にはその都度是正指導を行ってきた。一方,小売業者においては,平成7年春ころからPSソフトの発売タイトル数が次第に増加してきたこともあり,発売後かなりの期間が経過しても売れ残るPSソフト(いわゆるデッドストック)が増加してきたが,被審人の販売方針により,廉価で在庫処分をすることもできない状況にあった。こうしたデッドストックの在庫負担が小売業者の経営を圧迫するようになり,平成7年夏ころ以降,小売業者からは,デッドストック状態のPSソフトの引取り(返品)を被審人に求める声が高まってきた。しかし,被審人の営業担当者は小売業者に対し,デッドストックの値引き処分を行わないように引き続き求めるとともに,被審人は返品を受け入れない方針を堅持していたことから,小売業者の中には,デッドストックとなったPSソフトを現金問屋等に横流しする動きもみられるようになった。
そこで,被審人は,平成7年11月発売の自社製PSソフト「ビヨンド・ザ・ビヨンド」にシリアル番号を付し,流通ルートの把握を試み,横流しが判明した場合には,当該販売業者に対し是正を求めた。こうした被審人の動きは,PSソフトの他の販売業者の知るところとなった。
このような状況の下で,被審人の営業部(平成8年1月の組織変更後は,営業部及び販売企画部)では,デッドストック対策の検討を進め,平成7年11月ころ及び平成8年3月ころに,デッド対策と称して,一部の小売業者からデッドストックとなったPSソフトの返品受入れ又は買上げ措置を限定的に講じたが,抜本的な対策とはならなかった。(査第15号証,第51号証,第62号証,第67号証,第82号証,第121号証,第124号証,第129号証,審第36号証,参考人島本雅司,同佐藤一郎)
イ 値引き販売禁止の販売方針の修正
そこで,被審人の営業部及び販売企画部では,平成8年4月ころに検討を重ねた結果,新品PSソフトの売上げの90パーセントが発売から2箇月以内のものであることから,従前の値引き販売一律禁止の販売方針を変更して,発売月から2箇月を経過したPSソフトについては,小売業者が自らの判断で小売価格を設定することができるようにすることとし,小売業者向けの説明要領を取りまとめた。
そして,被審人の営業担当者は,同月下旬ころ,値引き販売禁止に関する販売方針を修正することを直接又はFC本部若しくは卸売業者を通じて小売業者に通知した。その際,被審人の営業担当者は,発売月から2箇月を経過していないPSソフトについては従来どおり値引き販売を禁止する旨を併せて通知した。(査第34,第35号証,第58号証,第62号証,第66号証,第71号証,第82号証,第87ないし第90号証,第91号証の1,2,第97ないし第100号証,第102,第103号証,第121号証,第154号証,第156,第157号証)
この通知を受けて,FC本部及び卸売業者は,傘下の加盟店又は取引先の小売業者にその旨説明した。(査第97ないし第100号証,第154号証)
(6) 実効確保措置
被審人の営業部では,前記販売方針を特約店に遵守させるため,次のような実効確保措置を継続的に講じていた。
ア 営業担当者による販売状況調査
被審人の営業部では,日常的に,営業担当者が担当する小売業者の店舗を訪問した際などに,PSソフトの販売価格や中古品取扱いの状況を調査し,その状況を書面により又は営業部の会議の場で報告させていた。営業担当者は,こうした調査と併せて,値引き販売等の是正の説得・指導等の対策を講じていた。(査第23号証,第104,第105号証,第107号証,第112号証,第118号証,第124,第125号証)
また,被審人の営業部では,平成7年8月ころ,「法人判定会議」と称して,主要な特約店の値引き販売,中古品取扱い及び横流しの有無等を確認し,将来の特約店の販売政策を点検するために,複数回にわたりスタッフミーティングを開催した。(査第108号証の1,2,第110号証)
イ 競合店からの情報提供とそれに基づく是正指導
被審人の営業担当者が,FC本部,その他の小売業者等から提供された情報を基に,値引き販売等を行っている小売業者(FC加盟店の場合には,FC本部)に対し,是正の説得・指導等の措置を講じていたことは,前記認定のとおりである。
ウ シリアル番号による出荷先調査
被審人は,取引先小売業者又は取引先卸売業者の取引先である小売業者以外の者が販売したPSハードについて,シリアル番号によりその出荷先を頻繁に調査しており,これにより横流しの是正を図っている。このシリアル番号により出荷先調査が可能になっている事実は,PS製品の販売業者に広く認識されていた。(査第14号証,第67号証,第81号証,第123号証,第153号証,審第37号証)
また,被審人が,PSソフトのうち「ビヨンド・ザ・ビヨンド」について,シリアル番号によりその出荷先を調査し,横流しの是正のために用いたことがあることは,前記認定のとおりである。
(7) 平成9年1月時点の実施状況
平成9年1月時点における小売業者の価格設定,中古品取扱い及び横流しに関する状況は,次のとおりと認められる。(査第84号証)
ア 価格動向
PSソフトの小売価格を希望小売価格どおりの価格(消費税内税のものを含む。)とし又は3パーセント以内の値引きにとどめている者は,全体の約66パーセントである。
イ 中古品取扱い
PSソフトを含むPS製品の中古品の取扱いをしたことがない者は,約71パーセントである。このうち,他のゲーム機及びゲームソフトについては中古品を取り扱っているがPS製品については中古品を取り扱っていない者が約35パーセントを占める。また,中古品を取り扱うことが多いゲーム専門店については,PS製品の中古品を取り扱っていない者のうちの約93パーセントのものが,他のゲーム機及びゲームソフトについては中古品を取り扱っている。
ウ 横流し
PS製品の横流しをしたことがない者は,約94パーセントである。
(8) 値引き販売禁止行為の消滅
ア 立入検査後に被審人が講じた措置
被審人は,平成8年5月9日に公正取引委員会の立入検査を受けたことから,直ちに社内において事実確認のための調査を行うとともに,徳中代表取締役社長をはじめとする経営幹部が営業部幹部に対し,販売価格を拘束する行為を行わないよう営業部内に徹底するように指示し,これを受けて,営業部幹部が営業担当者に対し,値引き販売をしている小売業者に対して是正指導を行わないように,また,値引き販売に関する情報が寄せられた場合にも対応できないと断るように指示した。(審第35ないし第38号証,第46,第47号証,被審人代表者佐藤明,参考人佐藤一郎,同池戸徹,同平野創)
また,被審人の徳中社長及び黒田営業部長は,平成8年6月に特約店の代表者を集めて開催したディーラーミーティングにおいて,「小売価格は小売店の皆様が自らの経営判断の中で決められるもの」などと述べて,販売価格は販売業者自らが決めるべきものである旨口頭で説明した。(審第13,第14号証,第35号証,第44,第45号証)
しかしながら,被審人の営業担当者に対する指示の内容は,前記のとおり,小売業者に対して値引き販売の是正指導を行わないという消極的なものであって,小売業者に対して価格設定が自由であることを積極的に説明するというものではなく,また,前記のディーラーミーティングでの徳中社長らの説明も,当然のことを抽象的に述べたにとどまったこともあって,同ディーラーミーティングに出席した特約店の中には,公正取引委員会の立入検査を受けた被審人が表立って値引き販売禁止を特約店に求めることができなくなっただけで,被審人のPSソフトの値引き販売を禁止するという販売方針に変わりはないものとして,PSソフトについて従来どおりの価格設定で販売する者もあった。(審第13,第14号証,第35ないし第38号証,第44ないし第47号証,被審人代表者佐藤明,参考人佐藤一郎,同池戸徹,同榎本計介,同平野創)
イ 立入検査後の価格拘束の状況等
被審人の営業担当者は,小売業者の値引き販売に介入しないようにとの前記指示を受けて,その後は,次第に,値引き販売を行っている小売業者への説得・是正指導,競合店から寄せられた値引き販売に関する情報に基づく値引き店への対応を行わないようになっていった。もっとも,営業担当者の中には,担当する小売業者から値引き販売をしている競合店への対応を求められるなどして,値引き店への説得・是正指導を行った者もいた。そのような事例として,次のものが認められる。
i. 平成9年1月から3月にかけて,FC本部である株式会社上昇のカメレオンクラブ商品部バイヤーであった長岡が被審人の営業担当者である平野に,加盟店のちらし広告にPSソフトの値引きを掲載してよいか否かを質問したのに対し,平野は「そこまで値引きしなくてもよいのではないですか。その価格では市場を壊す可能性があるのでやめてもらえませんか。」と述べて説得したため,長岡は,値引き幅を縮小し,希望小売価格に近い価格に変更してちらし広告を配布した。上昇では,平成10年2月から,新作PSソフトにつき,3パーセントないし5パーセントの値引き販売を行っている。(査第153号証,第155号証,参考人平野創)
ii. FC本部の株式会社アクトは,平成9年2月から新作PSソフトの値引き販売を行っているところ,同年3月ころ,被審人の営業担当者である上町は,PSソフトを1割以上値引きしたちらしが店内に掲げられているのを見て,アクトの代表者に対し,「こんなに値引きしてもったいないですね。もっと高くても売れるのですから,粗利が取れるようにして下さい。」と述べて説得した。もっとも,アクトは,その後も同様の値引き販売を継続した。(査第66号証,第156号証,審第37号証)
iii. 株式会社ミライヤは,PSソフトを従来から希望小売価格の3パーセントないし8パーセント程度値引きして販売してきたところ,平成9年に入ってからも,被審人の営業担当者からは,しばしば,新聞折り込み広告に値引き価格を掲載することをやめるように要請されていた。平成9年6月6日から同月中旬ころ,被審人の営業担当者である三宅は,ミライヤの専務に対し,同社の新聞折り込み広告について周辺の店から被審人に苦情が来ており,値引き広告は周辺の店の小売価格に影響を与えるのでやめるように要請した。ミライヤは,その要請を受けて,店頭での値引き販売は継続したものの,同年7月の新聞折り込み広告には希望小売価格どおりの価格を掲載した。ミライヤは,同年8月及び9月には新聞折り込み広告を行わず,同年10月から値引き価格を掲載した新聞折り込み広告を再開したが,その後,被審人の営業担当者から,この点について何らかの指摘を受けたことはない。(査第102号証,審第37号証)
iv. 株式会社ベストパックサービスは,平成9年当時,PSソフトを通常5パーセント程度の値引きをして販売しており,同年7月,3日間の売り出し期間中,これを1割引きで販売することとして,新聞折り込み広告に掲載したところ,被審人の営業担当者である池田は,ベストパックサービスの担当者細川に対し,電話で,「周辺の店からクレームが入っているので,新作ソフトの値引きはやめて下さい。」と要請した。細川は,以後は気を付ける旨答えた上で,当初の予定どおり3日間の1割引きでの販売を行った後,通常の値引き価格に戻して販売した。(査第152号証)
審査官は,以上の他,平成9年11月及び12月に,被審人の営業部幹部又は営業担当者が小売業者に対して値引き販売の是正指導等を行った事例があると主張するが,いずれも,同主張に沿う事実を認めるに足りない。すなわち,平成9年11月28日,被審人の営業担当者である平野が上昇の加盟店であるフォワード株式会社の渡部社長に対して価格維持の指示をしたとの点については,証拠(査第153号証,審第46号証,参考人平野創)を総合すれば,店舗の様子を見に来た平野に対し,渡部社長が,新作PSソフトを15パーセント引きで販売している競合店のちらし広告を示して意見を求めたのに対して,平野が何らかのコメントをしたことは認められるが,その際,競合店の値引き販売の是正に言及したとか,フォワード株式会社に値引き販売をしないように求めたものと認めることはできない。また,同年12月4日及び同月22日に,それぞれ上昇の金岡社長と被審人の営業部幹部らとの間の会合の場で販売価格に関するやり取りをしたとの点についても,証拠(査第150号証,審第46,第47号証,第55,第56号証,参考人平野創)によれば,その当時,PS製品を希望小売価格で販売する方針を採っていた上昇の金岡社長と被審人の営業部幹部らとの間で,主にPSハードの価格問題が話題とされたことは認められるが,上昇は,同会合から間もない平成10年2月には,新作PSソフトの値引き販売及びPS製品の中古品の取扱いを開始したこと(査第153号証)や後記ウ認定の同会合当時のPSソフトの一般的な価格動向をも総合すると,同会合で,被審人の営業部幹部が上昇に対してPSソフトの価格維持を求めたとは認められない。前記認定のi.ないしiv.の事実の他に,被審人の営業担当者が販売業者に対し,価格維持のための指導等を行ったものと的確に認めるに足りる証拠はない。
また,被審人の営業担当者が,公正取引委員会の立入検査後,販売業者に対し,値引き販売を行ったことを理由として出荷制限等の制裁措置を採ったとか,是正指導に際して制裁措置を採ることを示唆するなどした事例は見当たらない。
以上のように,被審人の営業担当者が,次第に,値引き販売を行っている小売業者への説得・是正指導,競合店から寄せられた値引き販売に関する情報に基づく値引き店への対応を行わないようになったことから,販売業者から被審人の営業担当者に対して寄せられる値引き販売に関する情報も次第に減少していき,平成9年に入ると,値引き販売を行う小売業者も次第に増えていったのである。このような例として,従来,新作PSソフトを希望小売価格どおりの価格で販売していたFC本部のアクトが平成9年2月から値引き販売を開始し(前記ii.),また,株式会社いまじんが同年5月ころから新作PSソフトの値引き販売を開始したことが認められる。(査第154号証,参考人池戸徹,同榎本計介)
ウ 価格動向
PSソフトの価格動向をみると,発売後2箇月以内の新作ソフトにつき,平成9年1月下旬ころからは,10パーセント程度の値引き販売が行われるようになってきており(審第23号証の1ないし21),また,平成9年11月下旬ころには,希望小売価格の90パーセントないし94パーセント程度の価格による値引き販売が既に一般的なものとなっていたものと認められる。(審第21号証,参考人榎本計介)
エ 値引き販売禁止行為の消滅
以上のとおり,被審人においては,公正取引委員会の立入検査後,経営幹部が営業部幹部に対し,販売価格を拘束する行為を行わないように指示し,これを受けた営業部幹部が値引き販売禁止の販売方針を採っていないことを営業部内に周知し,また,ディーラーミーティングにおいて特約店にその旨説明したものの,その内容は抽象的なものにとどまり,実質的にみれば,単に,営業担当者に対して値引き店への対応を自粛させたにすぎないものである。
被審人の講じたこのような措置は,被審人の販売業者に対する従前の価格拘束の態様に照らし,これを解消するには不十分なものであり,よって,被審人による販売業者に対する値引き販売禁止の拘束が立入検査の直後に被審人が講じた措置によって直ちに消滅したものとは認められない。
しかしながら,前記のとおり,被審人の営業担当者が値引き店への是正指導等を行わないようになったこと(証拠上明確に認められる最後の対応事例は,平成9年7月のものである。),そして,それを販売業者側が認識して値引き販売を行う者が次第に出てきたことが認められ,価格動向をみても,平成9年1月下旬ころから徐々に値引きが広がってきており,同年11月ころには既に一定の値引き販売が一般的なものになっていたものと認められる。
したがって,被審人による値引き販売禁止の拘束は,平成9年11月ころにはなくなったものと認められる。
第2 審査官及び被審人の主張
1 PS製品の販売方針の決定内容
(1) 審査官の主張
ア 被審人は,平成5年11月ころ,テレビゲーム事業への参入を検討する中で,その当時テレビゲーム事業で圧倒的優位にあった任天堂がスーパーファミコンで採用しているマスクロム方式では,ゲームソフトが品切れを起こした場合,追加発注から再生産による納品までに数箇月を要するために,小売業者はその期間品切れが生じて,需要期間の短いゲームソフトの販売機会を逸すること,長期間の品切れが中古ゲームソフト市場発生の要因となること,小売業者は卸売業者を主体とした多段階流通を通して仕入れるために見込み発注が行われ,過剰発注による過剰在庫が発生し,又は過少発注による品切れが発生するなどゲームソフトの需給の不均衡が生じて,ゲームソフトの過剰在庫による値引き販売及び横流し又は中古品売買発生の原因となっており,ゲーム機製造業者及びゲームソフト製造業者の利益が損なわれていること等の問題意識を持った。
イ そこで,被審人は,短期間で製造できるCD−ROMの特性をいかし,こうした流通システムとは異なる,小売業者との直取引を基本とした流通システムを採用し,値引き販売等が起き難い仕組み作りを行うこととするとともに,平成6年6月ころまでの間に,次のi.ないしiii.のPS製品の販売方針を採り,小売業者又は卸売業者に同販売方針を遵守するよう要請するなどの対策を講じて,同販売方針を受け入れる小売業者又は卸売業者と特約店契約を締結して取引することとした。
i. 小売業者は,PSソフトの販売に当たっては希望小売価格で販売すること(値引き販売禁止)
ii. 小売業者は,PSソフトの中古品の取扱いをしないこと(中古品取扱い禁止)
iii. PS製品を小売業者は一般消費者のみに販売すること,また,卸売業者は傘下小売業者に一般消費者のみに販売させること(横流し禁止)
ウ 被審人が,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の販売方針の下に,小売業者等に同販売方針を遵守するよう要請するなどの対策を講じてこれを受け入れる小売業者等と特約店契約を締結して取引することとしたことは,i.これらの販売方針が平成6年7月中旬から同年9月ころにかけて社内周知されていること,ii.同年6月ころから,被審人の営業担当者が取引先候補のFC本部,問屋等の卸売業者及び家電量販店等の小売業者を訪問し,PS製品の取引に関する特約店契約の締結交渉を行った際,これらの方針を遵守することの要請がなされたこと,iii.値引き販売禁止の方針について,平成8年4月ころ,従前の販売方針を一部修正して,発売日から2箇月経過したPSソフトについては小売業者が自由に販売価格を設定することができるようにすることとして小売業者に通知したこと,iv.平成6年当時,被審人営業部の次長である渡辺重春や営業課長,その後第一営業所長である安田哲彦が販売業者等に対し,値引き販売禁止等の販売方針を遵守しなかった場合の制裁等について言及していることなどから明らかである。
そして,被審人は,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止を一体とした販売方針の下に,同販売方針を受け入れる小売業者等と特約店契約を締結して取引することとしたのである。
(2) 被審人の主張
ア 値引き販売禁止の方針
(ア) 被審人は,値引き販売禁止の方針を採ったことはない。被審人の流通に対する基本的スタンスは,任天堂の流通システムの悪弊を解決し,新しい合理的な流通システムを構築することであった。この流通システムは,CD−ROMの特性を生かしたリピートビジネス及び直取引システムから構成されるものであった。
被審人の経営幹部は,このような流通政策によって,小売業者が利益を得ることができるシステムを作り上げたのであるから,マージンの範囲内で販売価格をどの水準に設定するかは小売業者の自由と考えていた。PSソフトについて小売業者に25パーセントのマージンを与えたのは,価格に弾力性をもたせたいという方針の現れである。PSソフトの発売後の小売価格が硬直化している状況に対して,経営幹部が,低廉な価格で返品を受け,それ以上の価格であれば値下げしてでも売った方が得であることを理解してもらったり,オープン価格化を検討したり,また,小売店に発売後2箇月程度しても売れないPSソフトは見切り販売するよう勧めたりしたのも同様の理由によるものである。被審人の再販売価格に関する基本方針は終始自由化であったのであり,そのことは被審人の経営幹部から営業部員全員に示達されていた。
(イ) 審査官は,被審人の営業担当者がPS製品販売開始前にFC本部,問屋等の卸売業者及び家電量販店等の小売業者を訪問し,PS製品の取引に関する特約店契約の締結交渉を行った際,値引き販売禁止の販売方針を遵守することを要請したと主張する。しかし,この営業担当者がそのような要請を行ったことは,上記のような被審人の方針に反するものであり,当該営業担当者独自の考えにより,ごく例外的に行われたことがあるにすぎない。
(ウ) その他,審査官が値引き販売禁止が被審人の販売方針であることを裏付ける具体的事実として挙げている点は,いずれも証拠上認められない。したがって,被審人が値引き販売禁止を被審人の方針として採ったという事実はない。
イ 中古品取扱い禁止の方針
被審人は,ゲームソフト制作者の利益の保護を図り,良質なゲームソフトが大量に供給されることを可能にするために中古品売買については支持しないとの方針を採り,取引先である販売業者に対して中古品売買の有害性を説明し,これをしないよう要請ないし説得してきていることを争うものではない。しかし,小売業者が中古品を取り扱うことを禁止することを販売方針として採用したことはない。
公正取引委員会による立入検査までの時期には,この要請・説得をかなり強硬に行った事例もあったようであるが,これは被審人の方針としてオーソライズされたものではない。
ウ 三つの販売方針の一体性
審査官は,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の三つの販売方針が一体のものとして採られていると主張して,これを中古品取扱い禁止及び横流し禁止が値引き販売禁止の手段であるとする主張の根拠としているが,何らの証拠にも基づかない不当なものである。審査官が提出した証拠は,せいぜい三つの行為が被審人の事業開始時から同時に行われたことを示すものにすぎないが,仮にこれらの方針が同一機会に示されたり,実行されたとしても,一般に新規事業の開始当初には,必ずしも相互に関連しない複数の方針が同時に採用されることは通常みられることであり,そのことをもって一体性や手段・目的の関係を根拠付けることができるものではない。
2 値引き販売禁止の拘束行為の消滅の有無
(1) 被審人の主張
ア 公正取引委員会の立入検査がされた平成8年5月9日の直後に,被審人において,社内的に再販売価格維持行為が行われてはならないことを,徳中社長より業務連絡会において徹底し,営業部会において黒田営業部長及び佐藤一郎営業課長によって営業部員に対して徹底された。これと併せて,同年6月,徳中社長が特約店を対象にした会議(ディーラーミーティング)で,販売価格は販売業者が自ら決めるべきものである旨を述べた。
イ ディーラーミーティングの後,PSソフトの小売価格は徐々に下がった。立入検査の2箇月から3箇月後には値引きが始まり,1年後には新作でも発売時点で10パーセントから15パーセントの値引きがされている。立入検査から1年半後の時点で,人気PSソフトについても全店舗平均で7パーセントから9パーセントの値引率となっていることなど,立入検査後においては,値引き販売が当たり前になっている。
ウ 審査官は,ディーラーミーティングの後においても,被審人の営業担当者が小売価格に干渉した事例があると主張するが,その提出した証拠からは再販売価格維持行為とは到底評価できないものである。
エ 以上のように,たとえ,営業現場において,再販売価格を拘束する行為が一部行われていたとしても,それは遅くとも平成8年5月9日には終了した。
公正取引委員会が被審人に対して排除勧告を行ったのは平成10年1月20日であり,これはかかる行為の終了後1年を経過した後であるから,たとえ従前の行為が違法と評価されたとしても,もはや,被審人に対して排除措置を命ずることはできない(独占禁止法第20条第2項により準用される第7条第2項ただし書)。
(2) 審査官の主張
ア 被審人は,現在でも,小売業者に対して,PSソフトを希望小売価格で一般消費者に販売させている。
小売業者に対する調査によると,平成9年1月時点で,PSソフトについて希望小売価格どおりの価格(消費税内税のものを含む。)で販売し又は3パーセント以内の値引きにとどめている者は約66パーセントに上る。
イ 平成8年6月に,被審人の徳中社長が販売業者に対して告げた内容によれば,被審人としては元々値引き販売禁止の販売方針は有しておらず,立入検査後もそうした方針を採らないとしているにすぎず,被審人において立入検査の前後を通じて販売方針に変化がなく,値引き販売禁止の方針を維持することを告げたも同然である。また,被審人の社内において,仮に徳中社長らが値引き販売禁止の販売方針はなかったことを前提に,今後もそうした方針は実施しないと説明・通知したとしても,販売業者に対する販売価格の拘束がなくならない限り,被審人による販売業者に対する拘束は現在も続いているのである。
ウ 被審人の値引き販売禁止の販売方針が立入検査後も維持されていることを推認するに足りる具体的事例が存在する。
3 中古品取扱い禁止及び横流し禁止の各拘束行為の公正競争阻害性
(1) 公正競争阻害性の判断枠組み
ア 審査官の主張
被審人は,小売業者及び卸売業者に対し,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の三つの行為を相互に関連させ一体的に行っている。すなわち,被審人は,PSソフトの再販売価格維持行為を行いつつ中古品取扱いを小売業者に禁止することにより,PSソフトの価格を維持しようとしており,さらにまた,PS製品の横流しを禁止することにより,PSソフトの再販売価格維持行為及びPSソフトの再販売価格を維持しようとして行っている中古品取扱い禁止行為の実効性を確保しようとしている。したがって,被審人の本件行為の公正競争阻害性を判断するに当たっては,三つの行為を切り離してそれぞれの行為が競争に及ぼす影響を別々に判断するのではなく,三つの行為がPSソフトの再販売価格を維持するために一体的に行われていることが公正競争に及ぼす影響について判断すべきである。そして,これらの三つの行為は,それぞれ,PSソフトの再販売価格を維持するために行われているものであり,かかる観点から,これら三つの行為は公正競争阻害性を有し,それぞれ不公正な取引方法に該当する。
イ 被審人の主張
(ア) 垂直的非価格制限行為の違法性判断基準
非価格制限行為(非価格事項を直接の制限の対象とする行為)の違法性判断基準は,次のように考えるべきである。
i. 価格制限行為と非価格制限行為の区別
不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)の第12項は,商品の供給に際して再販売価格の拘束をする行為(再販売価格維持行為)を不公正な取引方法として規定し,同第13項は,同第11項の排他条件付取引及び同第12項の再販売価格維持行為以外の相手方の事業活動に対する不当な拘束条件を付した取引を不公正な取引方法と規定している。かかる構造から,非価格制限行為は,原則として一般指定第13項該当性が問題となる。
ii. 一般指定第13項の「不当に」の意義
一般指定第13項は,「不当に」相手方の事業活動を拘束する条件を付した場合を不公正な取引方法とするが,この「不当に」とは「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)があることをいう。そして,拘束条件付取引には多様な形態があり,その競争減殺効果は様々であるから,その形態,拘束の程度等に応じて公正競争阻害性を個別的に判断するとされている。このことは,平成10年12月18日最高裁判所判決最高裁判所民事判例集52巻9号1866頁(以下「資生堂最高裁判決」という。)及び同日同裁判所判決最高裁判所裁判集民事190号1017頁(以下「花王最高裁判決」という。)も認めるところである。したがって,本件で問題とされる中古品取扱い禁止及び横流し禁止については,その形態,拘束の程度等に応じて個別に公正競争阻害性の有無が判断されるべきである。
(イ) 審査官の主張する「公正競争阻害性」の誤り
審査官は,中古品取扱い禁止及び横流し禁止のいずれについても,再販売価格維持行為のためになされていることを公正競争阻害性の根拠として主張しているが,このような主張は,中古品取扱い禁止,横流し禁止という個別の拘束条件付取引について,その形態,拘束の程度等に応じて公正競争阻害性を判断するという原則に従わず,これらの行為を別の行為類型である再販売価格維持行為のためになされたことを理由として公正競争阻害性を判断するという根本的な誤りを犯している。
(2) 中古品取扱い禁止行為の公正競争阻害性
ア 審査官の主張
(ア) 中古品取扱い禁止の公正競争阻害性
被審人によるPSソフトの中古品取扱い禁止は,次のように公正競争阻害性を有する。
i. 被審人がPSソフトの再販売価格維持行為を行いつつ,新品のPSソフトの値崩れの原因となるPSソフトの中古品の取扱いを小売業者に対し禁止することにより,PSソフトのブランド内競争が減殺されて,新品のPSソフトの価格が維持されることになる。
ii. ゲームソフトの中古品は,新品との品質の差が小さく,また相対的に安価なため,一般消費者の強いニーズがあるところ,有力な事業者である被審人が小売業者に対しPSソフトの中古品の取扱いを禁止することにより,小売業者間で消費者のニーズに応えたPSソフトの中古品の取扱いを行う競争が制限されることになる。
(イ) 被審人の主張に対する反論
被審人は,審査官の上記(ア)i.の主張は,新品のゲームソフトと中古のゲームソフトとの価格競争を強制する考えに等しく,そもそも不可能を強いるものである旨主張する。
しかしながら,新品と中古品との競争は,自動車,書籍等様々な分野で現にみられるのであり,これらの業界では新品と中古品との間で程度の差こそあれ競争関係がみられるのである。したがって,ゲームソフトについてのみ新品と中古品の価格競争を強いるものということはできない。
イ 被審人の主張
(ア) 審査官の主張に対する反論
審査官は,PSソフトの値崩れ防止という価格維持効果を有することに中古品取扱い禁止の公正競争阻害性があると主張するが,審査官は,そもそも中古品の取扱いが新品の値崩れを引き起こすことにつき一切立証していないし,一般的経済原則に照らしても,小売店が中古品を販売することで新品のゲームソフトが値崩れするという現象や経験則があるとは想定できない。
中古品の原価は買取価格の設定次第でいかようにも変化させられるから,その販売価格も常に新品の販売価格を下回る水準に設定されるのであって,新品専売店にとっては,所詮新品は中古品との価格競争において勝ち目はなく,中古品が近隣で販売されたとしても新品の値引きを行うことはない。すなわち,中古品の販売によって価格競争が引き起こされることはなく,中古品販売を抑制しても新品の価格維持効果は生じないのである。
また,小売業者間での中古品売買における競争が制限されるとの上記ア(ア)ii.の審査官の主張は,中古品売買がそもそも著作権法に違反する違法行為であることから違法市場を独占禁止法が保護することになること,それに加えて,新品の販売専念義務が有する競争促進効果に照らせば,中古品市場における中古品業者間の競争が制限されることは独占禁止法上問題となり得ないことから,不当である。
(イ) 被審人の中古品売買不支持の方針の正当性
被審人は,中古品売買による次のような害悪を排除するために,中古品売買を支持しないとの方針を採り,被審人の取引先である販売業者に対して中古品売買をしないように要請してきたものであり,この方針には正当な理由がある。
i. 業としてする中古品売買は,後記5(1)のとおり,ゲームソフト制作者の有する著作権法上の頒布権を侵害する行為である(著作権法第26条)。
ii. いったん中古市場に流れたゲームソフトについては,売買が繰り返されることにより,正に擬似レンタル,すなわち法形式は売買であるがその実態は賃貸借と同一の機能を有する取引が行われており,この点からも著作権法上問題である。
iii. 中古品と新品を併売している店舗では,中古品と新品とは明確に区分されておらず,中古品の販売価格は新品の希望小売価格よりも著しく安く,新品の発売直後から中古品が販売されている実態にある。
iv. ゲームソフトは,通常の使用によっては品質が劣化せず,かつ,娯楽品であり長期間保有されるものでもないなど,中古品が出回りやすい特性を有している。
v. 中古品売買により,新品の販売数量はその発売当初から低迷するが,多大な制作コストを要する新作ゲームソフトが想定した販売本数を達成できないと,投下したコストが回収できず,新作ゲームソフトの開発意欲がそがれ,結局のところ,テレビゲーム業界全体を衰退させることになる。
vi. 中古品売買は,小中学生が商売人のように売買を行ったり,非行の温床になる等の悪影響を及ぼす。
(ウ) 著作権法に基づく正当な権利行使と独占禁止法
拘束条件付取引が著作権法上の権利の正当な行使である場合は,公正競争阻害性のない行為として適法とされなければならない。その理由は,著作権法上保護を受ける行為が独占禁止法に違反するということでは,本来対等であるべき独占禁止法を著作権法に優先して適用することになり,不当であるからである。この点についての具体的な主張は,後記5(1)のとおりである。
(エ) 中古品取扱い禁止に関する公正競争阻害性の判断基準(予備的主張)
被審人の中古品販売抑制行為は,再販売価格維持の目的でなされるものではないから,類型的に公正競争阻害性が極めて低い行為として,次のi.ないしiii.の基準により判断されるべきである。
i. 具体的競争制限効果の基準
中古品販売抑制行為は,直接価格競争に向けられるものではなく,また,価格維持効果も極めて低いものである。したがって,経済的合理性及び経済効率性がある限り原則として合法であり,例外的にカルテル助長効果,価格差別効果等の具体的競争制限効果が生じる場合にのみ違法になるとする具体的競争制限効果の基準により判断されるべきである。
この基準によれば,中古品販売抑制行為は,十分な経済的合理性のある正当な販売政策である一方,このような制限は直接的に新品の価格競争に影響を与えるものでもなく,また,他に具体的な競争制限効果が生じるとの立証もないから,公正競争阻害性は存在しないと考えるべきである。
ii. 資生堂最高裁判決・花王最高裁判決の基準
資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決は,販売方法の制限及び卸売販売禁止行為について,後記(4)アのとおり,当該拘束にそれなりの合理的な理由があるか,それがすべての取引先に対して平等に適用されているか,の基準により公正競争阻害性を判断する旨判示しており,本件行為にもこの基準が適用されるべきである。
この基準によれば,中古品販売抑制行為には十分な合理性があり,かつ,それがすべての小売業者に対して平等に適用されてきたのであるから,公正競争阻害性は存在しないと考えるべきである。
iii. 競争者との取引の制限についての判断基準の類推適用
仮に中古品が新品の競争品であるとすれば,流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成3年7月11日公正取引委員会事務局。以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)の「取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限」の基準を類推適用すべきである。これを類推すると,「競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見出すことができなくなるおそれがある場合」という要件,すなわち,中古品の販売ルートを確保できなくなるおそれがある場合に初めて公正競争阻害性が生ずる。
この基準によれば,被審人の小売業者に対する中古品販売抑制行為は,無数に存在する中古品専売業者の販売を何ら制約しないのであるから,公正競争阻害性は存在しないと考えるべきである。
(3) 横流し禁止行為の公正競争阻害性
ア 審査官の主張
被審人によるPS製品の横流し禁止行為は,次のように公正競争阻害性がある。
i. 被審人は,PSソフトの再販売価格維持行為及び中古品取扱い禁止行為を行いつつ,PS製品の横流し禁止行為を行っており,これらを相互に関連させて一体的に行っているところ,小売業者が被審人の販売方針に反してPSソフトの値引き販売又は中古品の取扱いを行って出荷停止等の措置を受けた場合,取引先販売業者全体に対してPS製品の横流しが禁止されていることにより,当該小売業者はPS製品の入手が困難になる。そして,テレビゲーム販売業者にとってPS製品を取り扱うことが営業上有利とされていることから,PS製品を取り扱えないことにより大きな不利益を受ける。したがって,PS製品の横流し禁止行為により,PSソフトの再販売価格維持行為及びPSソフトの価格を維持しようとして行っている中古品取扱い禁止行為の実効性が確保されることになる。
ii. PS製品の横流し禁止行為は,合理的な理由なく卸売業者及び小売業者の取引先選択の自由を制限するものである。
イ 被審人の主張
(ア) 審査官の主張に対する反論
i. 被審人の構築したPS製品の一般消費者直結の流通システム(直取引システム)は,後記(イ)のとおり,流通の効率化その他の正当な目的のために導入されたものであり,再販売価格維持等の目的で導入されたものではない。被審人と取引先との特約店契約中の一般消費者のみにPS製品を販売すること(以下「卸売販売禁止」ともいう。)を義務付けるための条項は,かかる直取引システムを構成する一要素である。したがって,この条項の公正競争阻害性を判断するには,十分な合理性を有する直取引システムの一環として評価すべきである。
ii. 審査官は,横流し禁止によって再販売価格維持行為等の実効性が確保されることになるとして,横流し禁止行為の公正競争阻害性を再販売価格維持行為と結び付けて認定しようとし,その理由として,これらの行為が「一体」として行われていると主張するが,その基準や具体的な意味付けは不明である。また,再販売価格維持行為と一体として行われると,何故に横流し禁止に公正競争阻害性が生じるのかについて,理論的根拠は示されていない。
次に,横流し禁止が再販売価格維持行為の「手段」として行われていることを理由に公正競争阻害性を認定する考え方についても,他の行為の違法性判断に公正競争阻害性の結論が全面的に左右される行為を独立して違反行為としてとらえることは,独占禁止法の解釈論としては特異である。
さらに,横流し禁止が再販売価格維持行為の実効性確保の「効果」を有することを理由として公正競争阻害性を判断することについては,再販売価格維持の実効性は出荷停止という措置により確保されているのであり,出荷停止された小売業者が横流しルートで商品の調達ができないことは,横流し禁止の反射的・付随的な事象に過ぎないから,結果として現れる反射的・付随的な効果を根拠として横流し禁止の公正競争阻害性を認定する考え方は,独自に当該行為の競争制限効果を総合的に評価して公正競争阻害性を判断するという非価格制限行為についての違法性判断の基本的立場を放棄するものであって,不当である。
また,審査官は,横流し禁止が再販売価格維持の実効性確保の効果を有するという因果関係についての十分な主張立証をなし得ていない。
iii. 横流し禁止が合理的な理由なく取引先選択の自由を制限する旨の審査官の主張についても,これのみをもって違法とする考え方は全く根拠がなく,また,横流し禁止に極めて合理的な理由があることは後記(イ)のとおりである。
(イ) 卸売販売禁止の目的
被審人が,取引先小売業者に対し,一般消費者のみへの販売を義務付け,卸売販売を禁止する方針を採った理由は,主として次のとおりであり,極めて合理的なものである。
i. 卸売販売禁止の方針は,一般消費者直結の流通網を構築し,PSソフトの低価格化を図るとともに,実需に対する適正生産・供給を可能とするリピートビジネス体制を実現することを本質的な目的として採られたものである。
ii. 被審人は,一般消費者に対し十分な商品情報を供給するため,小売店舗を厳選するとともに,売場に試遊台を設置することなどを推奨しているが,横流しが行われた場合には,一般消費者に対し十分な商品情報が供給される保証はなくなってしまう。
iii. PS製品が海外に輸出されると,PSハードの互換性の欠如等の技術的な問題や著作権法の問題が生じるおそれがあり,これを防止する必要がある。
iv. 小売業者が横流しすることを認めれば,被審人としては,その注文について債権保全上の措置を講ずる必要性が生じることになる。
(ウ) 横流し禁止に関する公正競争阻害性の判断基準(予備的主張)
仮に,被審人の卸売販売禁止行為につき,値引き販売禁止の実効性確保の目的は認められないとしても,結果として値引き販売禁止の実効性確保の効果を有するおそれがあるとされる場合には,次の基準により公正競争阻害性が判断されるべきであるが,いずれの基準によっても公正競争阻害性は認められない。
i. 具体的競争制限効果の基準
被審人の直取引システムには,多段階流通の弊害を排除し,流通の効率化を図るという経済的合理性その他の正当な目的があるところ,卸売販売禁止は,その重要な構成要素であり,また,それによる価格等についての共謀の助長,参入への障壁等の具体的な競争制限効果は想定されないので,原則的に公正競争阻害性はない。
ii. 資生堂最高裁判決・花王最高裁判決の基準
本件行為は,資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決の基準に従って公正競争阻害性が判断されるべきであり,この基準によれば,卸売販売禁止は,一般消費者に直結する効率的流通システムの構築という合理性を有する販売政策に基づくものであり,そのような流通システム構築に必須の義務を課したものであるから,違法とはならない。
iii. 流通・取引慣行ガイドラインの基準
仮に,流通・取引慣行ガイドラインの基準が適用されるとしても,同ガイドラインの「仲間取引の禁止」で要件とされる「当該商品の価格が維持されるおそれ」については,審査官から何ら主張立証されていない。
(エ) 横流し禁止行為の評価(予備的主張)
仮に,営業レベルの一部で,直取引システムの手段としての横流し禁止が値引き販売禁止の手段に取って代わっていたとしても,かかる行為は,再販売価格の拘束行為の一環として評価されるべきである。
(4) 資生堂最高裁判決・花王最高裁判決との関係
ア 被審人の主張
(ア) 資生堂最高裁判決は,一般論として,製造業者や卸売業者が販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきであり,相手方の事業活動を拘束する条件のうち公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるものに限り,一般指定第13項の「不当な」拘束条件付取引として禁止されるとの判断の枠組みを明確にした。また,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすか否かの判断基準として,そのような制限を課すことが,
i. 「それなりの合理的な理由」に基づくものであるか否か
ii. 他の取引先に対しても同様の制限が課せられているか否か
の2点により判断されるとし,価格維持効果を有していること自体は判断基準とはならないことを明確にした点及び化粧品市場において最も有力な製造業者である資生堂の販売会社について,特段の留保を付することなく,かかる基準を適用した点でも重大な意義がある。
また,花王最高裁判決は,販売方法の制限が一般指定第13項の不当な拘束条件付取引に当たるか否かの判断基準について,資生堂最高裁判決と同様の判断を示しただけでなく,販売先の制限についても,上記i.及びii.の基準により不当な拘束条件付取引に当たるか否かが決せられるとした点で重要な判決である。
上記両最高裁判決の示した基準は,それなりの合理的な理由のない恣意的な販売政策による拘束を排除するとともに,厳格な合理的理由の必要性を排除して製造業者等の販売政策の自由を保障し流通における自由競争の保護を図るものとなっており,極めて妥当なものである。そして,かかる基準は,単に販売方法の制限にとどまらず,非価格制限行為一般に対して独占禁止法第19条を適用する際の基本原則を示したものというべきである。
(イ) 被審人の中古品売買不支持の方針は,前記(2)イ(イ)のような目的で採られたものであり,仮に被審人が中古品売買を禁止したとしても,そこには高度の合理性がある。また,卸売販売禁止の方針についても,前記(3)イ(イ)のような目的で採られたものであって,これも十分合理的な理由がある。
他方,被審人は,これらの方針について,一部の販売業者に対して差別的に適用したことはなく,ましてや安売り業者に対して,狙い撃ち的にこれらの方針を適用して制裁を加えたなどといった事実も一切ない。
したがって,上記両最高裁判決の示した基準によれば,被審人の中古品売買不支持ないし禁止の方針及び卸売販売禁止の方針が不当な拘束条件付取引に当たらないことは明らかである。
イ 審査官の主張
被審人の主張に係る両最高裁判決は,製造業者等が小売業者に対して,「商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けたり,商品の品質管理の方法や陳列方法を指示したりするなどの形態によって販売方法に関する制限を課すること」についての判断をした事例判決であり,本件で問題となっている中古品取扱い禁止や横流し禁止は「販売方法に関する制限」ではないから,両判決を本件にそのまま当てはめることはできない。
4 著作物再販制度との関係
(1) 被審人の主張
ア そもそもゲームソフトは独占禁止法第23条(平成12年法律第76号による改正前の独占禁止法第24条の2。以下同じ。)第4項の「著作物」に該当するのであり,独占禁止法による再販売価格の拘束の禁止は適用されない。
同項の「著作物」は著作権法上の著作物と同様に解すべきところ,同法の解釈上,ゲームソフトが著作物に該当することは明らかである。のみならず,同項の趣旨は,著作物が一般に文化財としての価値を有することから,廉売を防止して多種類の著作物を多数の販売店が扱う体制を確立することにより,著作物の文化財としての価値を保護し,ひいては文化の向上に資するというところにある。しかるところ,文化の普及という観点からは,既に高度の文化的価値を有するに至っているゲームソフトに対して同項の趣旨が及ぶべきことは当然である。
イ 審査官は,i.同項の「著作物」を著作権法と同様に解する必要はなく,ii.同項の「著作物」は昭和28年の独占禁止法改正当時に存在していたものに限られるなどと主張する。
しかしながら,i.については,同項が対象とする独占禁止法適用除外の対象物は,「著作物」本体ではなく著作物の「発行物」(著作権法第3条)であるが,このことは同項の「著作物」を著作権法と別異に解すべきであるとする根拠とはならないし,また,音楽レコードは,著作権法上「商業用レコード」に該当し,レコード製作者の著作隣接権に基づく複製物であるが,それとともに楽曲や歌詞の著作物との関係では著作物の発行物に他ならない。次に,ii.については,同項にはそのような限定解釈を基礎付ける根拠となり得る文言は存在しない。のみならず,公正取引委員会は,昭和28年当時存在していなかった音楽用CDをも同項の対象として取り扱っていることからも,既にかかる解釈は破綻している。かかる文言上全く根拠のない解釈を行うことは罪刑法定主義に反する不当な行為である。これまで公正取引委員会がガイドラインとして示してきた「著作物」概念は,あくまで事実上のものであり,被審人を法的に拘束するものではない。
(2) 審査官の主張
ア 著作権法は,著作権者の創造的な表現そのものを「著作物」としており,それらが書籍等として発行され流通されることについては,著作物の「複製物」の発行・流通と位置付けられている。一方,独占禁止法が対象とする「著作物」は市場において実際に流通している個々の商品であり,これは著作権法上の著作物の「複製物」に該当する。また,著作権法上は,実際に流通している個々のレコード,音楽用テープ及び音楽用CDは商業用レコード(著作権法第2条第1項第7号)に該当するのであり,同法にいう「著作物」には該当しない。このように,著作権法上の「著作物」と独占禁止法上の「著作物」の概念とは異なるものである。
イ 独占禁止法第23条第4項の規定により再販売価格維持行為が適用除外とされる「著作物」の範囲は,独占禁止法の目的及び再販売価格維持行為を適用除外とした趣旨に照らして考えるべきものであり,著作権法上の「著作物」の範囲と同一のものと解さなければならないとする理由はない。再販売価格維持行為は,原則として不公正な取引方法に該当し,独占禁止法に違反するものであることから,同項の適用除外規定は,その目的・経緯を考慮して限定的に解すべきである。
ウ 著作物の再販売価格維持行為の適用除外については,昭和28年独占禁止法改正時に,当時の書籍,雑誌,新聞及びレコード盤の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされており,したがって,「著作物」の範囲は,これらの品目に限定して解されてきた。なお,公正取引委員会では,音楽用テープ及び音楽用CDについては,レコード盤と機能・効用が同一であることから,レコード盤に準じて取り扱ってきたものである。ゲームソフトは,昭和28年の独占禁止法改正当時は存在せず,また,独占禁止法第23条第4項において書籍,雑誌,新聞及びレコード盤とは同一に取り扱う理由がないことから,それが市場において取引されるようになって以降一貫して,公正取引委員会により,同項の規定により再販売価格維持行為が適用除外とされる「著作物」と解することはできないとされてきたものである。
エ なお,被審人も,PSソフトの発売当初,独占禁止法第23条第4項の著作物には,CD−ROMを媒体とするゲームソフトは含まれず,ゲームソフトの再販売価格維持行為は違法となることを認識していたのであって,この点からみても被審人の前記主張は失当である。
5 著作権法による権利の行使との関係
(1) 被審人の主張
ア ゲームソフトには,著作権法上の映画の著作物として頒布権が認められる。PSソフトが映画の著作物に該当する限り,被審人を含む著作権者は,第三者がゲームソフトの複製物たるCD−ROMを無許諾で公衆に対して譲渡する行為を禁止することができるのであり,この理はその複製物がいったん一般消費者に販売された後に中古品販売業者によって買い取られ,それが公衆に対し再販売される場合にも異ならない。
審査官は,仮にゲームソフトが映画の著作物に当たるとしても,ゲームソフト等が適法に第三者に譲渡された場合には頒布権が消尽する旨主張するが,我が国の著作権法上,映画の著作物に認められる頒布権が消尽すると解することはできない。
イ 独占禁止法第21条(平成12年法律第76号による改正前の独占禁止法第23条。以下同じ。)には,著作権や工業所有権のような知的財産権の行使と認められる行為には独占禁止法を適用しないことが規定されており,実質的に適正な権利行使行為が独占禁止法上違法とされないことは明らかである。
しかるところ,被審人の中古品販売抑制方針は,審査官が主張する新品の販売価格維持のような独占禁止法上違法な目的の下に採用されたものではないし,そもそも再販売価格維持の効果も認められない。したがって,被審人の中古品販売抑制方針の採用が,頒布権者であるゲームソフト製造業者の権利の行使に相当する行為であると評価されれば,独占禁止法第21条に基づいて違法性が否定される。
そして,被審人は,自ら著作権者であるPSソフトについては被審人自身が頒布権を有しているのであるから,小売業者に対し,被審人の頒布権を侵害する中古品の取扱いを抑制することに問題はない。被審人以外のゲームソフト製造業者の制作に係るPSソフトについては,ゲームソフト製造業者はPSソフトの流通経路において生じ得る中古品に対する対応につき,被審人に委ねるという黙示の合意があった。したがって,被審人が特約店たる小売業者に対しゲームソフト製造業者の頒布権侵害となる中古品取扱いの抑制を求める行為は,言わばゲームソフト製造業者の有する頒布権を同製造業者に代わって主張するものである。
したがって,被審人が自社製PSソフトと他社製PSソフトとを厳然と区別することなく,包括的にそれらの中古品取扱いの抑制を小売業者に要請することは,独占禁止法第21条における著作権法による権利の行使として,違法性を有しないのである。
(2) 審査官の主張
ア ゲームソフトが映画の著作物に該当し,消尽しない頒布権が認められるか否かについては,ゲームソフトの中には,碁,将棋,麻雀等映像が連続した動きをもって見えないものがあり,これらが映画の著作物に当たらないことは明らかであり,ゲームソフト全般が映画の著作物に当たるということはできないし,また,ゲームソフトについては,専ら公衆に対し譲渡するという方法をもって流通しているのであるから,たとえ頒布権が認められるとしても,適法に第三者に譲渡された場合には消尽すると解すべきである。
イ ゲームソフトの中古品売買が著作権法に違反するか否かについては学説判例上は明確ではなく,同売買が現時点において明白に違法とされていない以上,ゲームソフトの中古品市場における競争は,現状では独占禁止法によって保護されるべきものである。
ウ 被審人による中古品取扱い禁止は,適法に流通されたPSソフトの販売価格を維持するために,値引き販売禁止及び横流し禁止と一体的に行われているものであり,それのみをとらえれば外形・形式的には知的財産権の行使とみられるような行為であっても,本件行為の実質や本件価格制限が競争秩序に与える影響の大きさ等を勘案すれば,仮に被審人が当該PSソフトの著作権者であり,同ソフトの頒布権を有するとしても,適法に流通されたPSソフトの再販売価格を維持する目的で被審人が頒布権を行使することは,独占禁止法第21条にいう「権利の行使と認められる行為」には当たらない。
エ 被審人は,被審人が著作権を有していないPSソフトについても,著作権者であるゲームソフト製造業者から,中古品への対応を被審人に委ねるという黙示の合意があったと主張するが,そのような合意があったとは証拠上認められない。
6 排除措置についての被審人の主張
仮に,中古品取扱い禁止あるいは横流し禁止について,本来の目的は正当であったが,一部の営業担当者に再販売価格維持の目的があり,違法であると判断されたとしても,被審人に対して全面的に排除措置を命ずるのは誤りである。その場合には,いずれも一般指定第12項の問題としてとらえるべきであり,別個に再販売価格維持行為が行われている場合は,その行為に吸収される行為として独自に排除措置の対象とすべきではなく,また,これが単独で行われる場合であっても,「再販売価格拘束目的で中古品売買を禁止すること」あるいは「再販売価格拘束目的で横流しを禁止すること」についてのみ排除措置の対象とすべきである。
第3 審判官の判断
1 PS製品の販売方針の決定内容
被審人が,PS製品の発売に当たり,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の販売方針を採用し,同販売方針の受入れを特約店契約締結の条件としたことは,前記第1の2に認定したとおりであるが,以下,前記認定に至った理由について述べる。
(1) 被審人の販売方針
ア 販売方針に関する事実認定
被審人が,その設立直後から,テレビゲーム事業への参入の具体策を検討する中で,当時,同事業において圧倒的優位にあった任天堂の流通システムは,過剰在庫処分としての値引き販売,横流し及び抱き合わせ販売や品切れによる中古品売買が行われやすくなる原因を有しているとの問題意識を持ち,平成6年6月ころまでに,このような問題点を解消するため,直接小売業者と取引し,これら小売業者が一般消費者に販売するという直取引を基本とする流通政策を採用することとしたこと(前記第1の2(1)),被審人の営業部幹部は,同年6月ころから,PS製品の取引先候補であるFC本部及び家電・カメラ量販店等のその他の小売業者並びに問屋等の卸売業者と特約店契約の交渉を始めたが,その際,これらの販売業者に対し,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の販売方針を受け入れることが特約店契約締結の条件である旨を説明し(同(3)ア),また,同年7月から9月ころにかけて,営業部幹部が営業担当者に対し,研修会や全体ミーティングの場で,販売業者に上記販売方針の受入れを要請するように指示したこと(同(2)イ),そして,被審人は,同年9月以降,上記販売方針を受け入れた販売業者との間で特約店契約を締結したこと(同(3)ウ),被審人は,PS製品を発売した同年12月以降においても,同様に,上記販売方針を受け入れた販売業者との間で特約店契約を締結したこと(同(4)ア)からすると,被審人の営業部幹部は,平成6年6月ころまでに,PS製品の流通を委ねる販売業者との関係で,値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の販売方針を採ることを決定し,これらの販売方針を受け入れた販売業者とのみPS製品の取引を行うこととしたものと認められる。そして,上記販売方針が決定された経緯やこれが営業部の研修会や全体ミーティング等で営業担当者に説明・指示され,上記販売方針を受け入れた販売業者との間で被審人との特約店契約が締結されたことからすれば,上記販売方針は,PS製品の販売を担当する被審人の営業部,ひいては被審人自体の販売方針であると認めるのが相当である。
また,被審人は,平成6年9月以降,上記販売方針を受け入れた販売業者との間で特約店契約を締結したことに加え,同年12月のPS製品の発売以降,その取引の過程で,被審人の営業担当者は,営業部幹部に報告・相談をしつつ,継続的に販売業者の上記販売方針の遵守状況を調査し,是正指導等の措置を採っていたこと(同(4)イ,同(6)),そして,多くの販売業者は,この指導に従っていたこと(同(4)イ)からすると,被審人の上記販売方針は,販売業者に対する拘束力を伴わない単なる要請や方針の表明にとどまらず,販売業者のPS製品の販売に係る事業活動を拘束するものであったと認められる。
イ 値引き販売禁止に関する被審人の主張に対する判断
被審人は,販売業者の価格は販売業者が自らの判断で決めるものであることが大前提であって,被審人として値引き販売禁止の方針を採ったことはないと主張するが,値引き販売禁止が被審人の販売方針であることは,前記認定のとおりである。また,被審人がこうした主張の根拠として挙げている諸点についても,次のとおり,いずれも理由がない。
(ア) 被審人は,その小売価格に関する方針が終始自由化であった旨主張する。しかしながら,被審人は,任天堂流通の問題点として,小売段階での値引き販売を認識しつつ,前記認定の流通政策を立案したのであって,販売段階での価格競争が生じにくいシステム作りを念頭に置いていたことは明らかである。なお,被審人が販売業者に対して,公正取引委員会の立入検査の前に,小売価格は販売業者が自由に設定するものである旨説明していた具体的事実は認め難く,これに反する参考人島本雅司の供述は採用できない。
また,被審人は,PSソフトの返品を受け入れており,また,平成8年4月ころ,見切り処分の奨励をしており,これらは,いずれも被審人に値引き販売を禁止する意図のないことの現れであると主張する。しかしながら,被審人が,平成7年11月ころ及び平成8年3月ころに一部の小売業者からPSソフトの返品を受け入れたのは,その当時,PSソフトのデッドストックが小売業者の経営を圧迫するようになったことから,その対策として限定的に実施されたものであって,被審人の営業担当者がデッドストックであっても値引き販売を認めていなかったこと(前記第1の2(5)ア),また,平成8年4月ころの販売方針の修正に際しても,発売月から2箇月を経過していないPSソフトについては従来どおり値引き販売は禁止である旨通知したこと(同イ)からすると,これらの行為をもって,被審人に値引き販売を禁止する意図のないことの現れであると認めることはできない。したがって,被審人の上記主張は理由がない。
(イ) 被審人は,営業担当者の一部に行き過ぎた言動があったにすぎないと主張する。
しかしながら,被審人のいう「行き過ぎた」言動をした者は,営業担当者だけでない。営業部次長,営業課長といった営業部幹部が率先して行い,また,営業担当者に全体ミーティングの場等で指示して行わせていたものである(前記第1の2(3)ア,同(4)イ)。特に,安田営業課長(その後,第一営業所長,営業部次長)は,営業の実力者であり,また,経営幹部だけでなく営業部長も営業の実務をこれら営業部幹部に任せていたのである。(査第13号証,審第38号証,参考人島本雅司,同池戸徹)
また,被審人の営業部幹部及び営業担当者から前記販売方針の説明・要請を受け,これを受け入れて取引を開始した販売業者は,極めて広範囲にわたっている。すなわち,渡辺営業部次長又は安田営業課長が説明・要請を行った販売業者は,被審人の取引先の上位のFC本部(ブルート,明響社,アクト及び上昇。査第2号証の1,第21号証)を網羅しており(ブルートについて査第60号証,明響社について査第64号証,アクトについて査第66号証,上昇について査第8号証),また,安田営業課長(平成6年10月以降は第一営業所長)は,卸売業者のハピネットのほか,家電・カメラ量販店も担当していた(査第22号証,第47号証)ことからすると,被審人の主要な取引先すべてに対して営業部幹部が販売方針の受入れを求め,これが受け入れられたことから特約店契約を締結し,取引を開始したものと認めるのが相当である。そして,こうした説明・要請は,発売後の新規取引先に対しても,営業部幹部あるいは営業担当者により同様に行われていたのである。
このように,販売方針の説明・要請は,営業部幹部及びその指示を受けた営業担当者によって広範囲に行われたものと認められる。
さらに,販売方針の遵守を確保するために被審人が講じていた措置をみても,単に営業担当者が独自に行っていたものではなく,営業担当者から営業部幹部に報告され,相談された上で,必要な措置が採られているのであり,また,組織的に販売方針の遵守状況を調査するなど,販売方針の遵守確保に営業部全体として取り組んできたことは明らかである(前記第1の2(6))。
したがって,被審人の上記主張は理由がない。
(ウ) 被審人は,被審人の副社長らの連名で平成6年12月27日付けで営業部員全員に対して配布された「販売活動に関する独禁法上の注意点」(審第2号証)をもって,被審人が値引き販売禁止の方針など有していないことの端的な現れであると主張する。
確かに,この文書が被審人の営業部内に残されていたこと自体は審査官も争っておらず,被審人の経営幹部が独占禁止法問題に注意していたことの証左となることは認められる。しかしながら,この文書が配布される前に,営業部幹部によって既に販売業者に対して販売方針が説明・要請され,これを受け入れた販売業者とのみ特約店契約を締結して取引を開始していたことは前記認定のとおりである。また,この文書の内容は,一般的・抽象的なものであり,公正取引委員会による立入検査前に,これ以上に具体的な内容について営業担当者に周知されていたことを示す証拠も見当たらない(逆に,参考人平野創は,立入検査前には具体的な説明はなかった旨供述する。)。むしろ,他の時期にはこのような文書等が一切ないことや,その後,営業担当者が販売方針の遵守確保のために行った活動等からすると,この文書の内容が営業部内に十分周知されていたとは到底認められない。そうすると,値引き販売禁止の販売方針の存否の認定において,この文書が特段の意義を有するとはいえない。したがって,被審人の上記主張は理由がない。
(エ) なお,販売方針の決定を直接立証する証拠がないことについては,販売業者に対して被審人からの販売方針の要請等に関する文書を残さないよう求めていること(前記第1の2(3)ア)からみても,営業部内でも同様の注意を払っていたことがうかがわれる(査第158号証)のであり,前記販売方針の決定を直接立証する証拠がないことは,上記認定の妨げとなるものではない。
ウ 中古品取扱い禁止に関する被審人の主張に対する判断
中古品取扱い禁止に関して,被審人は,中古品売買禁止ではなく,あえて中古品売買不支持の方針を採用したものである旨主張する。
しかしながら,被審人が,中古ソフト売買を含む任天堂流通の問題点を検討し,これを解消するものとして,直取引を基本とする流通政策を採用することとし,被審人の営業部幹部が販売業者との特約店契約の交渉をする際に,中古品取扱い禁止を含む販売方針を遵守することが特約店契約を締結するための条件である旨を説明し,また,営業部幹部が営業担当者に対し,研修会や全体ミーティングの場で,販売業者に上記販売方針の受入れを要請するように指示したこと,そして,被審人は,上記販売方針を受け入れた販売業者との間に特約店契約を締結したこと,被審人の営業担当者が,営業部幹部に報告・相談をしつつ,継続的に販売業者の上記販売方針の遵守状況を調査し,是正指導等の措置を採り,多くの販売業者は,この指導に従っていたこと(前記ア)からすると,被審人がPSソフトの中古品の取扱いについて採った方針は,中古品売買不支持にとどまらず,中古品取扱い禁止であったものと認めるのが相当である。
(2) 三つの販売方針の関係
被審人の値引き販売禁止,中古品取扱い禁止及び横流し禁止の三つの販売方針(以下「三つの販売方針」ともいう。)は,任天堂流通の問題点を解消するため,CD−ROM方式を用いた直取引を基本とする流通政策を検討する中で生まれてきたものである(前記第1の2(1))ところ,上記販売方針は,一体的に実施されることによって被審人の流通政策を実現することができるものである。すなわち,被審人は,小売業者との直取引を基本とした単線的で閉鎖的な流通経路を形成した上で,販売業者を自ら直接コントロールすることを基本方針としている。その具体的な現れが,流通経路政策(小売業者との直取引を基本とし,例外的に卸売業者を通す場合にも,小売業者のコントロールができるようにすること),店舗政策(一定の条件・基準に合う販売業者とのみ契約し,取扱い店舗を限定すること,店舗での陳列や販売方法に一定の注文を付けること,小売データを管理すること),価格政策(卸売業者を通す場合にも一本価格(希望小売価格の75パーセント)とし,数量リベートを出さないこと,値引き販売をさせないこと),販売先政策(一般消費者のみに販売させ,あるいは横流しをさせないこと),中古品政策(小売業者に中古品を扱わせないこと),商品政策(PSソフトの小売店舗への配送を直接管理すること,返品は認めないこと)などであり(前記第1の1(4)ないし(6)),三つの販売方針を含むこれらが一体的な流通政策として採用されているものとみるのが相当である。
また,三つの販売方針は,基本的にこれらがセットで販売業者に説明・要請されている。このことは,被審人の営業部幹部が営業担当者に指示した内容を記載した文書(査第36号証の2,4,5。特に,査第36号証の4には,三つの販売方針を「三禁」と記述している箇所がある。),販売業者が被審人の営業部幹部から求められた条件を記載した文書(査第79号証),あるいは,これを傘下の加盟店又は取引先小売業者に周知した文書(査第15号証,第62号証,第68号証の1,2,第80号証,第83号証)等に端的に示されている。
したがって,三つの販売方針は,被審人のPS製品,なかんずくPSソフトの直取引を基本とする流通政策の一環として,これを実現させるために関連した一体的なものとして決定され,実施されたものであると認めるのが相当である。
これに対し,被審人は,三つの販売方針が存在するとしても,事業開始に際して単に同時に採用された,相互に関連のない複数の方針にすぎないと主張する。しかし,三つの販売方針が,被審人のPS製品の流通政策を検討する中で決定された,関連した一体的なものであることは前記認定のとおりである。また,三つの販売方針は,前記認定のとおり,事業開始時だけでなく,その後も継続して採られてきたものであり,被審人の営業部幹部及び営業担当者によって継続的かつ一体的に実施されることによって,販売業者に対して,PS製品の販売事業の在り方を制約するものとして一体的に機能してきたことは明らかである。したがって,被審人の上記主張は理由がない。
2 値引き販売禁止行為の消滅
被審人の値引き販売禁止行為が平成9年11月ころには消滅したと認められることは,前記第1の2(8)に認定したとおりであるが,以下,この点に関する被審人及び審査官の主張に対する判断を示す。
(1) 被審人の主張に対する判断
被審人は,仮に値引き販売禁止行為が行われていたとしても,平成8年5月の公正取引委員会の立入検査を機に,同行為は終了した旨主張する。被審人がその主張の根拠とするものは,立入検査直後に被審人の社内及び特約店に対して採った措置並びに販売価格及び利益率の低下等の事実である。そこで,以下,これらが被審人の主張を裏付けるものとして評価できるか否かを検討する。
本件値引き販売禁止行為のような再販売価格の拘束行為が消滅したか否かを判断するに当たっては,当該再販売価格の拘束の手段・方法とされた具体的行為が取りやめられたり,当該具体的行為を打ち消すような積極的な措置が採られたか否かという拘束者の観点からの検討に加え,拘束行為の対象とされた販売業者が制約を受けずに価格決定等の事業活動をすることができるようになっているかという被拘束者の観点からの検討が必要である。さらに,これを補うものとして,当該商品の一般的な価格動向等の検討も有用である。
そこで,本件についてこれをみるに,被審人が行った値引き販売禁止の拘束行為の手段は,値引き販売禁止の販売方針の受入れを特約店契約締結の条件としたこと(前記第1の2(3)ウ),営業担当者による販売状況の調査や競合店からの情報提供に基づき値引き店に対する是正の説得・指導等の措置を講じたこと(同(6))であるところ,被審人が平成8年5月の公正取引委員会の立入検査直後にこれらに関して採った措置は,経営幹部及び営業部幹部が値引き販売禁止の販売方針を採っていないことを営業部内に周知し,また,ディーラーミーティングの場で特約店にその旨説明したというものであるが,その内容は抽象的なものにとどまり,実質的には,営業担当者に対して値引き店への対応を自粛させたにすぎないものであり(同(8)ア),従前,値引き販売禁止の販売方針の受入れを特約店契約締結の条件とされてきた販売業者への拘束を終了させるものとしては不十分なものである。また,値引き店への対応の自粛という指示の実施状況についてみても,被審人の営業部内に十分徹底したとは認め難く,平成9年に入ってからも,担当する小売業者から値引き販売をしている競合店への対応を求められるなどして,当該値引き店への説得・是正指導を行った事例がみられたのである(同イ)。
そして,販売業者側の受け止め方をみても,ディーラーミーティングに出席した特約店の中にも,被審人の値引き販売禁止の販売方針に変わりはないものとして従来どおりの価格設定で販売する者もあり,また,その後の営業担当者による是正指導に従って,値引き幅を縮小したり,値引き価格を掲載した新聞折り込み広告を取りやめた者もあるなど(同ア,イ),平成8年5月の公正取引委員会の立入検査を機に,販売業者が制約を受けずに価格決定に係る事業活動をすることができるようになったとは認められない。
さらに,平成8年5月の公正取引委員会の立入検査直後から新作PSソフトについて小売価格が有意に変動したと認めるに足りる証拠はない。被審人が援用する小売業者の粗利水準の低下を示す証拠(審第20号証)についても,これをもって,発売後2箇月までの新作PSソフトにつき,その価格の変動があったものとは認めるに足りない。
そうすると,平成8年5月の公正取引委員会の立入検査直後に,被審人による値引き販売禁止の拘束行為が消滅したものとは認められず,被審人の上記主張は採用できない。
(2) 審査官の主張に対する判断
審査官は,値引き販売禁止行為は消滅していないと主張し,その根拠として,立入検査直後に被審人が採った措置では販売業者に対する値引き販売禁止の拘束が消滅したとはいえないこと,立入検査以降においても値引き販売に対する是正指導の事例が存在すること等を挙げている。
確かに,立入検査直後に被審人が採った措置によって販売業者に対する拘束が消滅したとは認められないことは前記認定のとおりであり,その限りで,審査官の主張には理由がある。しかし,立入検査直後に被審人が採った措置によって値引き販売禁止行為が消滅したとはいえないことから,その後に同行為を消滅させるに十分な措置が採られていない以上,現在でも同行為が存続し,販売業者を拘束していると速断することは適切ではない。前記のとおり,再販売価格の拘束の消滅の有無は,拘束の具体的な手段・方法とされた行為の拘束者による取りやめ等の観点と被拘束者側の価格決定等の事業活動の変化の観点の双方から判断されるべきであり,被拘束者である販売業者の価格設定等の事業活動に変化がみられることなどにより,再販売価格の拘束行為が消滅したと認めるのが相当な場合もあり得るものというべきである。
そこで検討するに,被審人が平成8年5月の公正取引委員会の立入検査直後に採った経営幹部及び営業部幹部による営業担当者に対する値引き店への説得・是正指導の自粛の指示は,販売業者に対する値引き販売禁止の拘束を直ちに終了させるものとしては不十分なものであった(前記(1))が,同指示により,営業担当者が,次第に,値引き店への説得・是正指導,競合店から寄せられた値引き販売に関する情報に基づく値引き店への対応を行わないようになり,そして,平成9年に入ってからもみられた営業担当者による是正指導の事例も,最も遅い時期のものでも平成9年7月のものであり,また,立入検査後に採られた是正措置の内容をみても,口頭による値引き販売の取りやめの要請や説得にとどまり,出荷調整等の制裁措置に言及したり,そのような措置を採った事例は見当たらない(前記第1の2(8)イ)。
次に,販売業者側の受け止め方をみると,上記のように,被審人の営業担当者が,次第に,値引き店への説得・是正指導及び競合店から寄せられた値引き販売に関する情報に基づく値引き店への対応を行わないようになったことから,競合店の値引き情報の提供も次第に行われなくなり,平成9年に入ると,従来,新作PSソフトを希望小売価格どおりの価格で販売していた有力なFC本部の中にも値引き販売を始めたものもある(アクトは平成9年2月から,いまじんは同年5月ころから値引き販売を始めた。前記同。)など,販売業者の間に,値引き情報を提供しても被審人の営業担当者による値引き店への是正指導は期待できない,あるいは,値引き販売を行っても被審人から出荷制限等の制裁を受けることはないといった受け止め方が広まり,値引き販売を行う小売業者が増えていったのである。
このことは,新作PSソフトの価格動向をみても,平成9年1月下旬ころから,希望小売価格から1割程度の値引き販売がみられるようになり,同年11月下旬には,希望小売価格の90パーセントないし94パーセント程度の価格による値引き販売が既に一般的なものになっていたこと(同ウ)からも裏付けられるのである。
そうすると,被審人による値引き販売禁止の拘束行為は,平成9年11月ころには消滅したものと認めるのが相当であり,審査官の上記主張は採用できない。
3 値引き販売禁止行為の公正競争阻害性
再販売価格の拘束行為は,原則として公正競争阻害性を有する違法なものである(最判昭和50年7月10日民集29巻6号888頁及び最判昭和50年7月11日民集29巻6号951頁)。
そして,本件においても,被審人の値引き販売禁止行為は再販売価格の拘束に当たり,特段の正当な理由の存在も認められない以上,被審人の同行為は,公正競争阻害性を有するものと認められる(なお,著作物再販制度との関係については,後記5のとおりである。)。
なお,被審人は,平成8年4月に,従来の値引き販売一律禁止の販売方針を修正し,発売月から2箇月までの新作PSソフトの値引きを禁止する方針としたが,発売後2箇月までの売上げが新品の売上げの90パーセントを占める状況の下で,新作PSソフトの値引き販売を禁止していたことは前記認定のとおりであり,上記修正後の値引き販売禁止の販売方針も公正競争阻害性を有するものと認めるのが相当である。
4 中古品取扱い禁止行為及び横流し禁止行為の公正競争阻害性
(1) 公正競争阻害性の判断枠組み
被審人が,PS製品の直取引を基本とする流通政策を検討する中で,三つの販売方針をその一環として,関連した一体のものとして決定し,実施したものであることは,前記認定のとおりである。
そこで,中古品取扱い禁止行為及び横流し禁止行為の公正競争阻害性を判断するに当たっては,値引き販売禁止行為がされていることを考慮した上で,これらの行為が公正な競争秩序に及ぼす影響について判断すべきである。そして,これらの行為が公正な競争秩序に及ぼす影響を具体的に明らかにすることによって,これらの行為自体が独立して公正競争阻害性を有することを認定することができるし,また,そこまでの認定ができない場合にも,これらの行為が,一体的に行われている値引き販売禁止行為を補強するものとして機能していると認められるときには,その点において,これらの行為も不公正な取引方法として排除されるべき再販売価格の拘束行為に包含されるものとみるのが相当である。
これに対し,被審人は,本件のような垂直的制限行為については,まず,価格制限行為(再販売価格の拘束)と非価格制限行為(価格以外の事項を直接の制限対象とする行為)とに分けられるとし,後者については,一般指定第13項の拘束条件付取引として,その「不当性」(公正競争阻害性)の有無が問題となるが,拘束条件付取引には多様な形態があり,その競争制限効果は様々であることから,その形態・拘束の程度等に応じて公正競争阻害性を個別に判断すべきであり,このことは,資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決においても認められていると主張し,その上で,本件で問題とされている中古品取扱い禁止及び横流し禁止は,非価格制限行為に該当するから,その形態・拘束の程度等に応じて個別に公正競争阻害性の有無が判断されるべきであり,これらを一体のものとして評価することは許されない旨主張する。
確かに,拘束条件付取引のうちでも非価格制限行為には,様々な内容・態様・程度のものが包括的に含まれており,その公正競争阻害性がそれぞれの実態に応じて個別に判断されるものであることは当然であり,上記両最高裁判決の判断過程に照らし,その趣旨にも沿うものと思料される。しかし,本件のように,複数の非価格制限行為が同時に行われている場合や価格制限行為も併せて行われている場合に,ある非価格制限行為の公正競争阻害性を判断するに当たっては,同時に行われている他の非価格制限行為あるいは価格制限行為により影響を受けている市場環境を踏まえた上でなされるべきことは当然であり,他の行為の存在ないしはそれによる影響を切り離して当該非価格制限行為の公正競争阻害性を判断すべきであるとする被審人の上記主張は採用できない。
(2) 中古品取扱い禁止行為の公正競争阻害性
ア 中古品取扱い禁止行為の目的
被審人が,任天堂流通の問題点を検討する中で,中古ゲームソフト市場が新品ゲームソフトの売行きに影響し,これがゲームソフト製造業者及び新品ゲームソフト販売業者の利益を損なうものであること等の問題意識から,中古品取扱い禁止を含む販売方針を決定したことは,前記第1の2(1)及び(2)に認定したとおりである。そして,被審人の営業部で平成6年7月ころから同年9月ころに行われた研修会等の場で,安田課長,川辺課長,渡辺次長ら営業部幹部が営業担当者らに対し,中古品売買が擬似レンタルに当たり,新品ゲームソフトの販売本数が確保できなくなるので中古品販売を禁止することにした旨説明したこと,また,被審人の営業部幹部及び営業担当者が,販売業者との特約店契約を締結するに当たり,中古品取扱い禁止の目的として,同様の説明をしたことが認められる。(査第25号証,第37号証,第44,第45号証,第48号証,第54号証,第64号証,第101号証,審第35,第36号証)
そうすると,被審人が中古品取扱いを禁止した目的は,新品PSソフトの販売本数を確保することにより,ゲームソフト製造業者及び新品ゲームソフト販売業者の利益を図るとともに,ゲームソフト製造業者にPSソフトの積極的な開発を促すことにあったものと認められる。
これに対し,審査官は,被審人の中古品取扱い禁止の販売方針が,中古のPSソフトが新品PSソフトの値崩れの原因となることから,中古品取扱いを禁止することによりこれを防止し,新品PSソフトの再販売価格を維持することを目的とするものであると主張する。
しかしながら,本件全証拠によるも,被審人の採った中古品取扱い禁止の販売方針が新品PSソフトの再販売価格維持の目的によるものであったと積極的に認めるには足りない。すなわち,まず,平成8年2月22日ころに開催された被審人の「仕入販売ミーティング」の内容を記載したと認められる(査第42号証)メモ(査第40号証)にある「中古の扱いがキーPoint(島本),中古No→価格イジ」との記載については,同メモの他の記載部分及び証拠(査第42号証,参考人島本雅司)によれば,同ミーティングでは,被審人のゲームソフト製造業者からの仕入価格について話し合われたものであって,同記載内容も,PSソフトの販売価格に言及したものではないかとの疑念は残るが,被審人のゲームソフト製造業者からの仕入価格を現状に維持するには,中古品取扱い禁止の販売方針を維持してゲームソフト製造業者の理解を求めることが必要である旨を記載したものであると認められる。また,同年4月5日ころに開催された被審人の営業部の「ブレスト会議」の内容を記載したと認められるメモ(査第35号証)にある「◎中古に対する理論・新譜の価格を下げる→特にSCEブランド」との記載については,同メモの他の記載部分及び証拠(査第34号証,第88号証)によれば,同ブレスト会議は被審人の制作する新作PSソフトの希望小売価格の引下げあるいは価格のオープン化の方策について話し合われたものであって,同記載内容は新作PSソフトの希望小売価格を引き下げることにより中古品販売を抑制することができる旨を記載したものであると認められる。そうすると,これらの書証をもって,被審人がPSソフトの再販売価格維持のために中古品取扱い禁止の販売方針を採ったものとまで認めるに足りない。また,審査官の援用に係る供述調書の記載箇所のうち,被審人の営業担当者であった西川の価格維持のために中古品売買を禁止しているものと思った旨の供述(査第7号証)については,同供述自体,西川の推測を抽象的に述べたものであり,西川がそのように考えるに至った具体的な経緯が明らかでないだけでなく,西川の他の供述調書(査第25号証,第44,第45号証)では,西川が,平成6年7月ないし同年9月ころ,研修会等の場で安田課長,川辺課長,渡辺次長らが,それぞれ中古品売買は擬似レンタルに当たり,新品の販売本数が確保できなくなるので中古品販売を禁止することにした旨の説明を受けた旨を具体的に述べていることからすれば,西川の前記供述箇所(査第7号証)の記載内容の正確性には疑義があるというべきであり,これを直ちに採用することはできない。次に,被審人の営業部幹部であった遠藤の供述(査第43号証,審第58号証)によると,遠藤が,平成8年3月ころ,中古品販売が新品の売行きと販売価格の足を引っ張ると考えていたことは認められるが,中古品販売が新品の販売価格の足を引っ張るということが被審人の営業部内で検討されたことを的確に示す証拠は見当たらない。また,ケイアイツーの可児社長が「中古売買の禁止ということは,中古ソフトが売れると新品のソフトが売れなくなる,すると,新品の値崩れが生じることになり」と被審人の営業担当者である工藤などから言われたとの供述(査第159号証)についても,他の証拠(審第48号証,第52号証,参考人工藤義博)をも勘案すると,被審人の営業担当者が中古品取扱い禁止による新品の価格維持目的にまで言及したものとは認め難い。他に,被審人の中古品取扱い禁止の販売方針が新品のPSソフトの再販売価格維持を目的としたものであると的確に認めるに足りる証拠はない。
イ 中古品取扱い禁止行為の競争制限効果
審査官は,中古品取扱い禁止行為の公正競争阻害性について,同行為が新品の再販売価格維持を目的とするものであることを前提に,同行為によってPSソフトの価格が維持されることとなるところに公正競争阻害性が認められると主張するが,その前提である再販売価格維持の目的が積極的には認め難いことは前記のとおりである。
しかし,中古品取扱い禁止行為が公正競争阻害性を有すると認められるのが新品の再販売価格維持を目的とする場合に限られるものでないことは当然であり,同行為に新品の価格競争を制限する機能・効果が認められる場合その他PSソフトの販売に係る公正な競争を阻害するおそれがある場合には,その具体的な態様・程度により同行為自体が公正競争阻害性を有すると判断されることとなる。
そこで中古品取扱い禁止行為がPSソフトの販売に係る競争に及ぼす影響・効果を検討するに,まず,被審人が,特約店が中古品を取り扱うことによって新品の販売数量が減少すると認識していること(前記ア)からもうかがわれるように,新品と中古品とは完全な代替関係にあるものではないとしても,一般消費者がPSソフトを購入するに当たっては選択的な関係にあることは明らかである(査第30,第31号証)。また,被審人は,ゲームソフトの高価格が中古ゲームソフト市場の発生の要因になることを認識し,PSソフトの希望小売価格を低く設定する意向を有していたことが認められ(審第35号証),さらに,被審人の営業部において新品のPSソフトの希望小売価格の水準と中古品売買との関係が検討されていたことは,前記アのとおりである。そうすると,新品のPSソフトの価格や販売数量と中古のPSソフトの価格や販売数量とは,一般的・抽象的には相互に影響し合う関係にあるものということができ,被審人がPSソフトの中古品の取扱いを特約店に対して禁止することは,特約店段階での新品PSソフトの販売価格に影響を及ぼし,特約店に新品PSソフトの販売価格を維持させる方向に作用することとなるというべきである(審査官は,被審人が,新品の値崩れの原因となる中古品の取扱いを禁止していると主張するが,これは,上記の点を述べるものであろう。)。
また,中古のPSソフトの売買が行われることによって新品PSソフトの売上げが減少するとすれば,一般的な経済法則に照らすと,中古のPSソフトの売買は,新品PSソフトに対する需要の減少を通して,新品PSソフトの販売価格の軟化につながることとなる。
加えて,新品のPSソフトの独占的な供給者である被審人が,特約店に対し,一般消費者のニーズが高い中古品の取扱いを禁止することは,中古PSソフトの市場への参入自体を制限するものともいえ,観念的にはそれによって同市場における競争が制限されることとなり(審査官は,被審人の中古品取扱い禁止行為によって小売業者間で中古品の取扱いを行う競争が制限されるとも主張しているが,この点を述べたものとも考えられる。),さらに,前記のとおり,新品と中古品とが相互に影響し合う関係にあることからすれば,中古品市場における競争制限は新品市場における競争制限につながることにもなる。
このように考えてくれば,中古品の取扱いを禁止することは,新品あるいは中古品を巡る販売段階での競争に様々な悪影響を及ぼし得るものではないかと考えられる。しかるに,本件においては,被審人が特約店に対して中古品の取扱いを禁止したことにより,PSソフトの販売段階での競争が実際にどのような態様でどの程度影響を受けるものであるかを上記のような観点から具体的に判断するためには,中古品市場の状況,ゲームソフト販売業者の事業活動に及ぼす影響,更には一般消費者の購買行動を含めて幅広い実態把握とその分析が必要になると考えられるところ,本件記録上,こうした具体的な認定・判断をするに足りる証拠は十分ではない。
しかしながら,本件では,前記第1の1(4)ないし(6)に認定した被審人の流通政策の下で,再販売価格の拘束行為が行われ,それと一体的なものとして中古品取扱い禁止行為及び横流し禁止行為が行われていることは,前記1(2)のとおりである。そして,新品と中古品との関係や一般的な経済法則に照らせば,中古品取扱い禁止により新品PSソフトの販売価格に影響が及ぶこととなることは前記のとおりであるから,これらを併せ考えれば,中古品取扱い禁止行為が新品PSソフトの再販売価格の拘束行為の実効的な実施に寄与し,同行為を補強するものとして機能していると認められる。したがって,本件中古品取扱い禁止行為は,その点において再販売価格の拘束行為に包含され,同行為全体として公正競争阻害性を有するものと認めることができるというべきである。ただし,前記第1の2(8)のとおり,再販売価格の拘束行為は,平成9年11月ころに消滅したと認められるから,再販売価格の拘束行為に包含されるものとしての中古品取扱い禁止行為の公正競争阻害性も,その時点でなくなったものというべきである(なお,再販売価格の拘束行為の消滅後も継続している中古品取扱い禁止行為と横流し禁止行為との関係については,これを的確に判断するに足りる証拠が見当たらない。)。
なお,被審人は,中古品取扱い禁止行為が新品の売上げの確保,著作権侵害行為の防止等の正当な目的で行われたものであると主張するが,そうした目的で行われたことと再販売価格の拘束行為を補強するものとして機能することとは矛盾するものではないから,被審人の主張は理由がない。また,被審人は,単に価格維持効果があるだけでは非価格制限行為の公正競争阻害性を基礎付けるものではないことが資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決により示されていると主張するが,両最高裁判決の事案は再販売価格の拘束行為が同時に行われていたものではないから,本件とはその前提を異にするものであって,被審人の主張は理由がない。
ウ 著作権法に基づく頒布権の行使に関する被審人の主張に対する判断
被審人は,中古品売買が著作権法に基づく映画の著作物に認められる頒布権の侵害行為であり,中古品取扱い禁止は著作権法による権利の正当な行使であって,公正競争阻害性はない,あるいは,独占禁止法第21条の規定により同法の適用はない旨主張する。しかしながら,同条の規定は,著作権法等による権利の行使とみられるような行為であっても,競争秩序に与える影響を勘案した上で,知的財産保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,当該行為が同条にいう「権利の行使と認められる行為」とは評価されず,独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると解される。そして,前記イのとおり,本件においては,中古品取扱い禁止行為が再販売価格の拘束行為と一体として行われ,同行為を補強するものとして機能しており,中古品取扱い禁止行為を含む全体としての再販売価格の拘束行為が公正競争阻害性を有するものである以上,仮に被審人の主張するとおり,PSソフトが頒布権が認められる映画の著作物に該当し,中古品取扱い禁止行為が外形上頒布権の行使とみられる行為に当たるとしても,知的財産保護制度の趣旨を逸脱し,あるいは同制度の目的に反するものであることはいうまでもないから,被審人の上記主張は採用できない。
(3) 横流し禁止行為の公正競争阻害性
ア 横流し禁止行為の目的
被審人が,PS製品の販売に当たり,直接小売業者と取引し,これら小売業者が一般消費者に販売するという直取引を基本とする流通政策を採用し,この流通政策を実現させるために,横流し禁止の販売方針を採ったことは,前記1(2)に認定したとおりである。
これに対し,審査官は,被審人が,PSソフトの値引き販売禁止及びPSソフトの再販売価格維持を目的として行っている中古品取扱い禁止の実効を確保する目的で,横流し禁止を一体的に行っていると主張する。
確かに,被審人が,テレビゲーム事業に参入するに当たり,任天堂が採用している流通政策の下では過剰在庫の処分としての値引き販売,横流し等が行われており,これらの問題点を解消するために直取引を基本とする流通政策を採用したことは,前記第1の2(1)及び(2)に認定したとおりである。また,平成6年2月,マーケティング部(後の営業部)の「ブレスト」と称する会議で,卸売業者による流通を検討した資料(査第32号証)には,「全国卸を利用した場合」に推測されるデメリットとして「ハピネット以外はバッタルートを内部に持っており価格破壊は容易にできる」等の記載があること,証拠(査第43ないし第45号証)によれば,同年7月ころ,新任の営業担当者に対する研修会において,川辺課長が,横流し禁止について,正常販売ができず,価格の乱れを防ぐことができなくなる旨を述べたこと,同年8月ころ,営業部内のミーティングにおいて,安田課長が営業部員に対し,横流し禁止の理由として,横流しがされると,PS製品を取り扱う店舗が増えてきて,販売価格が値崩れしてしまう旨を述べたこと及び遠藤が販売企画部の竹野に提出したと認められる前記報告書(査第33号証)には,「(ハード・ソフトの)売価が乱れると,未取引店への流出も安易になり,未取引店の店頭での安売り,中古販売が増加し,取引店の利益確保が困難になる」と記載されていることが認められる。以上の事実によれば,PS製品の発売に先立ち,マーケティング部内で,安売り業者への横流しによる値崩れの可能性が問題点として意識されており,また,被審人の営業部内で,未取引店にPS製品が流出することにより値崩れを起こすおそれがあるものと一般的に認識されていた(遠藤作成の前記報告書の趣旨は,直接にはPS製品が安売りされると未取引店がそれを購入しやすくなることを指摘したものである(査第43号証)が,未取引店にPS製品が流出することにより値崩れを起こすおそれがあるとの認識自体を否定するものではない。)のであり,このような未取引店へのPS製品の流出を防ぐ手段の一つとして横流し禁止が認識されていたものと認めることができる。
そうすると,被審人の横流し禁止の販売方針は,本来,直取引を基本とする流通政策を実現させるために採用されたものであって,PSソフトの値引き販売禁止の実効確保の目的で採用されたとまではいうことができないが,少なくとも,被審人の営業部幹部及び営業担当者の間では,未取引店へのPS製品の流出を防止することにより値崩れを防止する効果があることが一般的に認識されていたものというべきである。
イ 横流し禁止行為の競争制限効果
本件において,横流し禁止行為の公正競争阻害性を判断するに当たっては,PS製品の横流し禁止行為の目的だけでなく,同行為がPSソフトの販売段階での競争に及ぼす影響・効果の観点をむしろ検討する必要がある。また,その際には,他の行為が行われていること,あるいは,一定の市場条件・環境下にあることが前提とされるべきことは当然であって,それらを前提とした市場における競争に対して,横流し禁止行為が及ぼす影響を判断する必要があることは前記のとおりである。
そして,被審人の横流し禁止の販売方針が,PS製品の直取引を基本とする流通政策を実現させるために採用されたものであることからすれば,その公正競争阻害性を判断するに当たっては,テレビゲーム市場あるいはPSソフトの流通市場における被審人の地位・役割,PS製品の流通政策全体がPSソフトの競争に与える影響を踏まえた上で,その一環をなす横流し禁止行為が競争に及ぼす影響を具体的に検討する必要がある。
(ア) まず,被審人のテレビゲーム市場における地位については,前記第1の1(3)に認定のとおりであり,特に,PSソフトに関しては,他のゲーム機用ゲームソフトとの互換性がないのであるから,被審人が事実上すべてを販売業者に供給しているものである。なお,平成8年度途中から,一部のゲームソフト製造業者がその開発製造したPSソフトを自ら販売する方法を採るようになったことが認められるが,大勢に影響するものではない。
また,横流し禁止の拘束を受ける販売業者は,被審人の取引先卸売業者とその取引先小売業者及び直接取引する小売業者のすべてに及んでおり,PS製品の流通に携わるすべての販売業者が対象となっている。
(イ) 次に,被審人が採っているPS製品の流通政策については,前記第1の1(4)ないし(6)に認定したところであるが,更に敷えんすれば,次のような流通政策の具体的内容が,それ自体は独占禁止法上の問題とはならない(あるいは,本件では審判の対象とされていない)ものであるが,値引き販売禁止及び横流し禁止が実効的に行われる背景となっているものと認められる。すなわち,
i. PS製品の店舗数・取扱店舗が限定されている(前記第1の1(4)イ)。これにより,取扱店にとっては,PS製品の取扱いそれ自体が大きな利益となり(査第25号証),その継続のために被審人の意向に配慮せざるを得なくなる。
ii. 取扱店舗の選別(同)の具体的方法によっては,各店舗には一種の販売地域が割り当てられたと同様の効果をもたらし得るものである。
iii. 小売業者との直取引を基本としていること(同ア)から,流通経路が短く,被審人による流通段階の監視が容易である。
iv. 卸売業者と小売業者との間では,小売業者は特定の卸売業者から仕入れており,事実上の一店一帳合となっている。(査第79ないし第81号証)
v. 店舗管理とPSハードのシリアル番号(同ウ,エ)によって,PSハードの出荷先管理ができることが販売業者に周知されている(なお,PSソフトについても同様であると受け止めている販売業者がいた。査第15号証)。PS製品の実売報告(同カ)も,横流しによる販売数量の急増を監視する手段として機能し得る。
vi. 新作PSソフトについては,受発注管理によって,過大発注が生じにくいようになっている(前記第1の1(6)ア)。
vii. PSソフトの仕切価格は,卸・小売を問わず,また,業態を問わず,希望小売価格の75パーセントとされており(同ウ),数量リベートは供与していないので,数量リベートが安売りの原資とされたり,数量リベートの獲得をねらった横流しが生じることはない。
被審人は,上記i.ないしvii.の流通政策によって単線的で閉鎖的な流通経路を構築し,PSソフトの販売段階での競争が生じにくい仕組みを採っているところ,更に横流し禁止をすることによって,流通経路内で川下方向にのみPS製品を流通させ,横流れが生じないようにしているものである。こうした流通政策により,小売業者の仕入先は被審人又は特定の卸売業者に限定され,仕入価格も一律であることから,競合する小売業者が行わない限り,小売業者がPSソフトの値引き販売を行う誘因は元々小さい上に,被審人の値引き販売禁止の販売方針の下でPSソフトの値引き販売を行って被審人から取引を停止されると,他にPS製品を入手する経路は存在しないから,PS製品全体の取扱いができなくなることに直結することとなる。そして,こうした事情は,PSソフトを取り扱う小売業者に共通のものであり,小売業者間で値引き販売禁止を申し合わせているのと実質的に同様の効果がもたらされるのである。また,価格訴求をしがちな家電・カメラ量販店についても,一法人の中で取扱い店舗が限定されることから,全店共通のチラシ等による広告が打ちにくく,価格訴求の販売戦略が採りにくくなるという状況もあったと認められる。(査第7号証,第24号証)
また,こうした販売段階での競争制限への脅威は,被審人のコントロール下にある小売業者(被審人の取引先卸売業者の取引先小売業者を含む。)による値引き販売だけではなく,むしろ,本来PSソフトを扱っていないはずの販売業者による安売りにあるのであって,それを防止する方法として,閉鎖的流通経路外の販売業者へのPSソフトの流出を根絶することが必要になる。そして,PS製品の横流し禁止によって,閉鎖的流通経路外の(被審人のコントロールが及ばない)小売店舗でPS製品が販売されること自体が生じないようにすることができ,それによりPSソフトの安売りを防止し,そうした安売りがコントロール下の小売業者による値引き販売に波及してこないようにすることができるのである(被審人の営業部幹部及び営業担当者に,未取引店へのPS製品の流出を防止することにより値崩れを防止する効果があることが一般的に認識されていたと認められることは,前記アのとおりである。)。
(ウ) なお,三つの販売方針のうち,横流し禁止については,特約店契約の条項においてPSソフトだけでなく,PSハードを含むPS製品全体が対象とされている。そして,発売当初のPSハードの品薄の時期には,PSハードの小売マージンの大きさとあいまって,PSハードが横流しや値引き販売の対象とされやすく,被審人によるシリアル番号による出荷先追跡が頻繁に行われていた(前記第1の2(6)ウ)ものと推認される。また,小売業者がPSソフトの値引き販売によって被審人から取引を停止されると,PS製品の横流し禁止によって,PS製品全体の入手が困難になることは前記認定のとおりである。このうち,PSハードの横流し禁止は,PSハードの値引き販売(その禁止が仮に行われていたとしても,本件審判の対象ではない。)が行われにくいように機能する措置であったと同時に,PSソフトの値引き販売を行う販売業者にPSハードが供給されないようにするという面でも大きな効果を有するものであったと考えられる(ただし,この点については,PSハードの希望小売価格が引き下げられ,また,PSハードが普及するにつれて,こうした効果は弱まり,さらに,PSソフトの値引き販売禁止行為が平成9年11月ころに消滅したことから,その後,実質的に意味がなくなったと認められる。)。
(エ) このように,被審人のPS製品の流通政策の一環としての横流し禁止の販売方針は,それ自体,取扱い小売業者に対してPSソフトの値引き販売を禁止する上での前提ないしはその実効確保措置として機能する閉鎖的流通経路を構築するという側面及び閉鎖的流通経路外の販売業者へのPS製品の流出を防止することにより外からの競争要因を排除するという側面の両面において,PSソフトの販売段階での競争が行われないようにする効果を有しているものである。
ウ 被審人主張の横流し禁止の合理性と公正競争阻害性の判断
被審人は,PS製品の横流し禁止が直取引システムの重要な構成要素をなし,また,様々な合理的な目的を有するものであり,その公正競争阻害性は,資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決が示した基準により判断されるべきであると主張する。そこで,以下,本件横流し禁止行為の公正競争阻害性が両最高裁判決の基準により判断されるべきか否かについて検討し,次いで,横流し禁止行為の合理性に関する被審人の主張に対する判断を示す。
(ア) 資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決との関係
被審人は,資生堂最高裁判決及び花王最高裁判決が,製造業者や卸売業者が販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきであり,拘束条件付取引の公正競争阻害性については,制限を課すことが「それなりの合理性」に基づくものであるか及び他の取引先にも同様の制限が課されているか,の2点から判断されると判示しており,これは,販売方法の制限にとどまらず,非価格制限行為一般に当てはまる基準であり,本件横流し禁止行為の公正競争阻害性についても,この基準により判断されるべきであると主張する。
しかしながら,上記各最高裁判決は,化粧品の対面販売を義務付ける約定,あるいはカウンセリング販売を義務付ける約定及びこれに必然的に伴うとされる卸売販売禁止の約定が一般指定第12項又は第13項に該当するか否かが争われた事案につき,メーカーや卸売業者の小売業者に対する「商品の販売に当たり顧客に商品の説明をすることを義務付けたり,商品の品質管理の方法や陳列方法を指示したりするなどの形態」による販売方法に関する制限が,一般指定第13項の拘束条件付取引に該当するか否かについては,上記の基準で判断される旨判示したものである。これは,商品説明の義務付けや品質管理・陳列方法の指示などの制限形態によっては販売段階での競争制限とは直ちに結び付くものではなく,もともと,こうした販売方法についてはメーカー等に選択の自由を幅広く認めたとしても,公正な競争の確保の観点からは問題が生じにくいと考えられることによるものである。これに対し,本件の横流し禁止は,販売業者の取引先という,取引の基本となる契約当事者の選定に制限を課すものであるから,その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付きやすく,この制限により当該商品の価格が維持されるおそれがあると認められる場合には,原則として一般指定第13項の拘束条件付取引に該当するというべきであり,たとえ取引先の制限に販売政策としてそれなりの合理性が認められるとしても,それだけでは公正な競争に悪影響を及ぼすおそれがないということはできない。したがって,上記各最高裁判決が示した販売方法の制限に関する判断基準をもって,本件横流し禁止行為の公正競争阻害性の判断基準とすることはできない。よって,被審人の上記主張は採用できない。
また,被審人は,花王最高裁判決は,販売方法の制限についてだけでなく,販売先の制限についても,それなりの合理性を有するか,差別的に用いられていないか,の二つの基準によって判断したものであるから,本件の横流し禁止についても同様の基準で判断すべきであると主張する。
しかし,花王最高裁判決は,販売方法の制限に必然的に伴う卸売販売禁止について,販売方法に関する制限と同様の基準で判断されることを判示したものであって,卸売販売禁止という取引先制限行為一般についての公正競争阻害性の判断基準を判示したものではない。本件では,被審人は,販売専従者の設置,試遊台の設置等の販売方法を小売業者に勧奨している(査第2号証の1)ものの,こうした販売方法に関する制限を小売業者に課した上で当該制限に必然的に伴うものとして横流し禁止を行っているものではないから,花王最高裁判決の射程範囲外というべきであり,被審人の上記主張は採用できない。
(イ) 横流し禁止の合理性の主張との関係
前記のとおり,横流し禁止行為は,販売業者の取引先の選択を制限し,販売段階での競争制限に結び付きやすいものであり,それにより当該商品の価格が維持されるおそれがあると認められる場合には,原則として一般指定第13項の拘束条件付取引に該当するのであるが,例外的に,当該行為の目的や当該目的を達成する手段としての必要性・合理性の有無・程度等からみて,当該行為が公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるとはいえない特段の事情が認められるときには,その公正競争阻害性はないものと判断すべきである。
そこで,この観点から,被審人が主張するPS製品の横流し禁止の合理性等について検討する。
i. 実需の把握
被審人においては,直取引を基本としている以上,PSソフトの実需の把握はできるはずであり,しかも,PSソフトの受発注システムの下では,被審人が取引先ごとの発注数量をコントロールできるのであるから,横流しのための実需を超える発注を防止することは容易にできるものというべきである。
被審人は,横流し禁止が実需把握のための多段階流通の防止に不可欠であると主張するが,そもそも人気ゲームソフトは横流しなどされないのが通常であり(横流しするより,自分で一般消費者に販売する方が利益になる。),仮に横流しされたとしても,すぐに一般消費者に販売されるであろうから,実需把握上問題はないはずである。一方,人気のないゲームソフトが横流しされたとしても,こうしたゲームソフトは不良在庫,あるいはその前段階にあるのであり,被審人が実需の把握をすることにさほど意味があるということはできない。
ii. 一般消費者への商品情報の提供の確保
小売業者にこうした商品情報の提供を期待することは当然であるが,このことと横流しを禁止することとの間には論理の飛躍がある。一般消費者へのゲームソフト情報の提供において小売業者がどの程度の役割を果たしているかは別として,被審人が小売業者にそうした活動を期待するのであれば,具体的にそれを小売業者に義務付けることが適切なはずである。しかし,被審人は,特約店契約上,こうした義務付け(これこそが「販売方法」の制限に該当する。)を行っているとは認められない。(査第2号証の1,第85号証)
iii. 輸出の防止
仮に輸出防止が必要であるとして,被審人は,特約店契約の中で,別途,輸出禁止条項を設けている(査第84号証)から,更に横流し禁止が必要であることの合理性は乏しいものというべきである。
iv. 債権の保全
被審人は,取引先特約店から,一定の方式ないし基準で算定した額の保証金を徴求しており(前記第1の1(4)オ),さらに,被審人の受発注システムからみて,特別な債権保全が必要なほどの過大な発注は予防できるであろうから,横流し禁止まで行う必要性があるということはできない。
以上のとおり,仮に被審人が主張する横流し禁止の目的に合理性が認められるとしても,こうした目的は競争制限効果の小さい他の代替的手段によっても達成できるものであって,被審人が横流しを禁止すべき必要性・合理性の程度は低いものというべきである。
そして,前記イに認定のとおり,PS製品の横流し禁止行為によるPSソフトの販売段階での競争制限が広範囲に及び,競争に与える影響の大きいものであることからすると,仮に被審人の横流し禁止行為の目的にその主張に係る合理性が認められるとしても,その手段としての必要性・合理性が低いことからすれば,前記特段の事情は認められず,本件横流し禁止行為に公正競争阻害性がないということはできない。
エ 被審人の個別的主張に対する判断
被審人は,横流し禁止行為の公正競争阻害性に関して,更に次のような主張をするが,いずれも理由がない。
(ア) 被審人は,横流し禁止条項による安売店狙い撃ちの事例がないから,横流し禁止が安売りをなくす目的で行われているものではないことは明らかであると主張する。しかし,被審人は,一律に横流しを禁止しているのであるから,安売店狙い撃ちの事例が存在しないことをもって被審人の上記主張の根拠とすることはできない。なお,流通・取引慣行ガイドラインでは,仲間取引の禁止に関する取扱いについて「安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合」と記述されているが,これは「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」の例示にすぎず,これをもって被審人の上記主張の根拠とはならない。したがって,被審人の上記主張は採用できない。
(イ) 被審人は,種々の考え方・基準を挙げて,いずれの考え方等からみても,審査官が横流し禁止行為の具体的な競争制限効果を立証していないと縷々主張するが,同行為に具体的な競争制限効果が認められることは前記イに認定のとおりである。したがって,被審人の上記主張は採用できない。
(ウ) 被審人は,予備的主張として,仮に,横流し禁止が値引き販売禁止の実効確保手段として用いられており,違法であるとしても,価格維持行為の手段としての横流し禁止のみを排除の対象とすれば足り,横流し禁止全体を対象とすることはできないと主張する。しかし,横流し禁止行為は,前記イに認定のとおり,それ自体,PSソフトの販売段階での競争制限効果を有するものである。したがって,被審人の上記主張は採用できない。
オ 公正競争阻害性の継続
被審人によるPSソフトの値引き販売禁止行為が平成9年11月ころに消滅したと認められることは前記認定のとおりであるが,それによって,横流し禁止行為の公正競争阻害性の根拠のうち,閉鎖的流通経路内での値引き販売禁止の前提ないし実効確保としての意味が失われたとしても,閉鎖的流通経路外へのPS製品の流出を防止し,外からの競争要因を排除する効果が直ちに失われるものではないから,PSソフトの販売段階での競争を制限するPSソフトの横流し禁止行為には,現時点でも公正競争阻害性が認められるというべきである。
なお,PSハード及びPSハード用周辺機器の横流し禁止がPSソフトの販売段階での競争に及ぼす影響については,PSソフトの値引き販売禁止行為が消滅していることから,現時点では意味がなくなっているものと認められる。
5 著作物再販制度との関係
被審人は,ゲームソフトは独占禁止法第23条第4項の「著作物」に該当するので,再販売価格拘束の禁止は適用されないと主張する。
しかしながら,昭和28年の独占禁止法改正により導入された同法第23条第4項による著作物の再販適用除外制度は,当時の書籍,雑誌,新聞及びレコード盤(著作物4品目)の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされている。そして,公正取引委員会では,その後,音楽用テープ及び音楽用CDについては,レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準じるものとして取り扱い,著作物4品目を含む,これら6品目に限定して著作物再販制度の対象とすることとし,その旨公表されている(平成4年4月15日公正取引委員会公表)。
ゲームソフトについては,昭和28年の独占禁止法改正当時には存在しておらず,また,上記著作物4品目のいずれかとその機能・効用を同一にするものではないし,著作物再販制度が独占禁止法上原則として違法として禁止される再販売価格維持行為に対する例外的措置であることからすると,これを再販適用除外の対象とすべき著作物に該当するものということはできない。
これに対し,被審人は,独占禁止法第23条第4項の「著作物」は著作権法上の著作物と同様に解すべきところ,同法の解釈上,ゲームソフトが著作物に当たることは明らかであり,これに独占禁止法の再販価格拘束の禁止は適用されないと主張する。
しかしながら,著作権法上の著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義される(著作権法第2条第1項第1号)のに対し,独占禁止法の規制の対象となる「著作物」とは市場において実際に流通する個々の商品であるところ,書籍,雑誌及び新聞は著作権法上の著作物の「複製物」に当たり,また,レコード盤並びにこれに準ずる音楽用テープ及び音楽用CDは著作権法上の「商業用レコード」(著作権法第2条第1項第7号)であって,著作物の「複製物」に当たるのであり,著作物再販適用除外の対象となる「著作物」と著作権法上の「著作物」とが概念を異にすることは明らかである。また,前記の著作物の再販適用除外制度の立法経緯や立法趣旨に照らしても,独占禁止法第23条第4項の「著作物」を著作権法上の著作物と同様に解すべきであるとする根拠は見当たらない。したがって,被審人の上記主張は採用できない。
なお,証拠(審第2号証,第36号証,被審人代表者佐藤明)によれば,被審人としても,PSソフトの発売当初,CD−ROMを媒体とするゲームソフトは独占禁止法第23条第4項の著作物には含まれず,ゲームソフトの再販売価格維持行為は違法であることを認識していたことが認められるのであり,この点からみても,被審人の上記主張は理由がない。
6 排除措置
前記2のとおり,被審人のPSソフトの値引き販売禁止行為は平成9年11月ころに消滅したものと認められるが,被審人が同行為の取りやめを明確に販売業者及び一般消費者に対して表明していないことからすると,本件においては,既往の違反行為に対する措置として,所要の措置を命ずる必要性があるというべきである。
第4 法令の適用
以上によれば,被審人は,
1(1) 正当な理由がないのに,取引先小売業者に対し,希望小売価格を維持させる条件を付けてPSソフトを供給していたものであり,これは,一般指定第12項第1号に該当し,
(2) 正当な理由がないのに,取引先卸売業者に対し,同卸売業者をしてその取引先である小売業者に希望小売価格を維持させる条件を付けてPSソフトを供給していたものであり,これは,同項第2号に該当し,
2 取引先小売業者及び卸売業者に対し,販売先を制限する条件を付けてPSソフトを供給するとともに,取引先卸売業者に対し,同卸売業者をしてその取引先である小売業者に販売先を制限させる条件を付けてPSソフトを供給しているものであり,これは,取引先小売業者及び卸売業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて当該相手方と取引しているものであって,一般指定第13項に該当し,
いずれも独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第1項及び第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
平成13年6月13日
公正取引委員会事務総局
審判官 金子 順一
審判官 石井 彰慈
審判官 栗田 誠


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