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(株)サカタのタネほか14名による審決取消請求事件

独禁法第3条後段

東京高等裁判所

平成18年(行ケ)第18号ないし第20号

判決

 

平成20年4月4日

横浜市都筑区仲町台二丁目7番1号
原告(第18号事件) 株式会社サカタのタネ
代表者代表取締役 高橋英夫
訴訟代理人弁護士 岩下圭一
同 宮川裕光
同 佐藤水暁

京都市下京区梅小路通猪熊東入南夷町180番地
原告(第19号事件) タキイ種苗株式会社
代表者代表取締役 瀧井傳一
訴訟代理人弁護士 石川正
同 魚住泰宏
同 長澤哲也

福岡市博多区那珂五丁目9番25号
原告(第20号事件) 中原採種場株式会社
同代表者代表取締役 内村清剛

京都市北区紫竹下緑町18番地
原告 株式会社タカヤマシード
代表者代表取締役 小野康夫

奈良県橿原市南八木町二丁目6番4号
原告(第20号事件) ナント種苗株式会社
代表者代表取締役 高瀬泰嗣

東京都北区滝野川六丁目6番5号
原告(第20号事件) 株式会社日本農林社
代表者代表取締役 近藤宏

埼玉県久喜市大字野久喜1番地1
原告(第20号事件) 野原種苗株式会社
代表者代表取締役 野原宏

愛知県江南市古知野町瑞穂3番地
原告(第20号事件) 松永種苗株式会社
代表者代表取締役 松永金次郎

静岡市駿河区池田710番地の1
原告(第20号事件) 有限会社石井育種場
同代表者代表取締役 石井肇

京都市下京区七条通新町西入夷之町693番地
原告(第20号事件) 丸種株式会社
代表者代表取締役 石原智弘

宮城県遠田郡美里町南小牛田字町屋敷109番地
原告(第20号事件) 株式会社渡辺採種場
代表者代表取締役 渡邉頴悦

愛知県稲沢市祖父江町祖父江高熊124番地
原告(第20号事件) 株式会社アサヒ農園
代表者代表取締役 後藤俊博

さいたま市見沼区大字中川1069番地
原告(第20号事件) トキタ種苗株式会社
代表者代表取締役 時田厳

奈良県天理市平等坊町110番地
原告(第20号事件) 株式会社大和農園種苗販売部
代表者代表取締役 吉田裕

横浜市南区唐沢15番地
原告(第20号事件) 横浜植木株式会社
代表者代表取締役 渡邊宣昭
13名訴訟代理人弁護士 厚谷襄児
同 多田敏明
同 矢花公平
同 犀川治
同 田部知江子

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告(第18号・第19号・第20号事件) 公正取引委員会
代表者委員長 竹島一彦
指定代理人 大胡勝
同 萩原浩太
同 高原慎一
同 菅野光
同 田辺治

平成18年(行ケ)第18号ないし第20号

主文
1 第18号事件原告,第19号事件原告及び第20号原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第18号事件原告,第19号事件原告及び第20号原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
第18号事件原告株式会社サカタのタネ,第19号事件原告タキイ種苗株式会社(以下「原告タキイ」という。)及び第20号事件原告ら(以下,第18号,第19号及び第20号事件の各原告15社を併せて単に「原告ら」という。)に対する公正取引委員会平成14年(判)第61号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私占独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反審判事件(以下「本件審判事件」という。)について第18号・第19号・第20事件各被告(以下,単に「被告」という。)が平成18年11月27日付でした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。

第2 事案の概要
1 本件審決は,いずれも種子の元詰販売業者である原告らを含む事業者らが,共同して,遅くとも平成10年3月19日以降,はくさい,キャベツ,だいこ
ん及びかぶ(以下「本件4種類」という。)の交配種の種子について,販売価格を定める際の基準となる価格(以下「基準価格」という。)を毎年決定し,当該
基準価格の前年度からの変動に沿って,品種ごとに販売価格を定め,取引先販’売業者及び需要者に販売する旨合意することにより,公共の利益に反して,我が国における本件4種類の交配種の種子の各販売分野における競争を実質的に制限していたと認め,独占禁止法2条6項の不当な取引制限に該当するとして,排除措置を命じるものであるところ,本件は,本件審決を受けた原告らが,本件審決の認定は競争の実質的制限や相互拘束性等について実質的証拠を欠いており,本件審決が認定する違反行為は存在しない等と主張して,その取消しを求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実,本件審判事件の記録上明らかな事実及び被告が本件審決で証拠により認定した事実で原告らが実質的証拠の欠缺を主張していない事実)
(1) 当事者
原告らは,それぞれ肩書地に本店を置き,本件4種類の交配種の種子(ただし,第20号事件原告有限会社石井育種場(以下「原告石井育種場」という。)は,はくさいとキャベツのみ,同野原種苗株式会社は,キャベツ,だいこん及びかぶのみ)を生産し,又は購入して包装し,包装容器に自社の名称を表示して,卸売業者,小売業者等に販売してきている。(査1,32,34)(以下,原告らと同じく本件審決の対象となった訴外株式会社みかど育種農場(以下「みかど育種農場」という。),同カネコ種苗株式会社(以下「カネコ種苗」という。),同株式会社増田採種場(以下「増田採種場」という。)及び同宝種苗株式会社(以下「宝種苗」という。)を併せた19社を「被審人ら」ということがあり,被審人らに,いずれも種子の元詰業者であり,本件審決に先立つ勧告審決の対象となった別紙表2記載の13社(以下「13社」という。)を加えた32社を「32社」ということがある。)。
(2) 交配種の種子の販売について
ア 野菜の交配種は,遺伝的性質の異なる品種同士を交配させて親品種の優れた特性を受け継いだ均一な遺伝的性質を一代目に発現させるよう育種された品種であり,その優れた特性は次の代には失われるため,交配種の種子の需要者(野菜栽培農家等)は,毎年新たに種子を購入する必要がある。
イ 原告らを含む32社は,それぞれ,自社が販売する本件4種類の交配種の種子を以下(ア)ないし(ウ)のうちいずれかの方法により,又はこれらの方法を併用することにより生産し,又は購入している。
(ア) 自社が保有する採種場で採種することにより生産する。
(イ) 採種栽培農家,その組合又は(ア)により生産する者に対して採種を委託することにより生産する。
(ウ) (ア)又は(イ)により生産する者又は商社から購入する。
(査54から63,65から67)
ウ 原告らを含む32社は,それぞれ,自社が販売する本件4種類の交配種の種子について,袋・缶等の容器に詰め(上記(ウ)の方法による者において当該容器に詰められたものを購入する場合を含む。),当該容器に自社の名称を表示して販売しており(以下,上記の方法により交配種の種子を生産し,又は購入した上,これを販売する者を「元詰業者」といい,元詰業者が上記の方法により販売する交配種の種子を「元詰種子」,本件4種類の交配種の種子を「4種類の元詰種子」という。),国内において,需要者である野菜栽培農家及び一般消費者に対して,直接に,又は卸売業者,小売業者,農業協同組合(いわゆる単位農協をいう。以下「農協」という。)若しくはその連合会を通じて販売(野菜栽培農家において共同購入(以下「共購」という。)を行う場合の販売を含む。)をしている。
なお,平成12年度(この項((2))における年度は,4月1日から翌年3月末日までの期間である。)の国内における元詰業者の4種類の元詰種子の総販売金額は,それぞれ,約12億2100万円(はくさい),約23億3100万円(キャベツ),約41億2900万円(だいこん),約4億1500万円(かぶ)であり,32社のうち訴外雪印種苗株式会社(以下「雪印種苗」という。)及び訴外後藤種苗合名会社(以下「後藤種苗」という。)を除いた30社の販売金額の合計のこれに占める割合は,はくさいについては98.7パーセント,キャベツについては91.5パーセント,だいこんについては92.7パーセント,かぶについては94.9パーセントであり,32社(平成10年度及び平成11年度については,雪印種苗及び後藤種苗を除く。)の販売金額の国内総販売金額に占める割合は,平成10年度,平成11年度及び平成13年度においても平成12年度と大差のないものと考えられ,32社の4種類の元詰種子のそれぞれの種類の販売金額の合計は,国内において販売されるそれぞれの種類の元詰種子の総販売金額のほとんどすべて又は大部分を占めていると認められる。
(査12,32,36,412,457)
(3) 元詰種子の価格設定について
ア 元詰業者の価格表価格
32社は,それぞれ,自社が販売する4種類の元詰種子について,毎年5月から7月までの間の特定の日(32社それぞれの特定の日(新価格の適用開始時期)は,別紙表4のとおり)を始期とする1年間(以下,この1年間を「年度」という。)に適用される取引先販売業者及び需要者(以下「取引先」という。)向けの価格を設定し,これを記載した価格表を取引先に配布していた。
32社は,それぞれの価格表において,別紙表5のとおり,取引形態に応じた価格を設定しており,各社の取引形態の呼称は区々であるが,ほぼ各社とも,概ね,平成9年度から平成13年度までの期間において,別紙表5の①「小売(1袋)」欄記載の「小売」等と称する需要者(共購を除く野菜栽培農家及び一般消費者をいう。)向け価格(以下「小売価格」という。),②「農協(10袋)」欄記載の「農協」等と称する農協向け価格(以下「農協価格」という。),③「大卸(10袋)」欄記載の「卸単価10袋」等と称する小売業者向け価格(以下「大卸価格(10袋)」という。),④「大卸(100袋)」欄記載の「卸単価100袋」等と称する小売業者向け価格(以下「大卸価格(100袋)」という。)を設定していた。ただし,②を設定していない元詰業者が5社あったほか,別紙表5の「共購(10袋)」欄記載の「共購」等と称する共同購入による野菜栽培農家向け価格(以下「共購価格」という。)を設定している元詰業者も2社あった。(以下,価格表上の「小売価格」,「農協価格」,「大卸価格(10袋)」,「大卸価格(100袋)」及び「共購価格」を総称して「価格表価格」という。)
なお,各社の価格表にいう1袋又は1缶の容量は,5ミリリットルに満たない小袋,20ミリリットル,1デシリットル,2デシリットル,1リットル,5,000粒,10,000粒と様々であるが,32社のすべてが,はくさい及びキャベツについて20ミリリットルの容量の商品を,だいこんについて2デシリットルの容量の商品をそれぞれ有しており,かぶについては2デシリットルの容量の商品が最も多い。
(査3,251から402)
イ 実際の販売価格
32社は,それぞれ,自社の価格表価格に基づき販売価格を定めて販売をしているが,小売業者又は農協に対し郷売業者等の中間販売業者を経由
して販売する場合には,価格表価格の小売向け価格又は農協向け価格を基にし,卸売業者等のマージンを差し引くこととしていた。
また,32社は,販売に際し,取引年との取引年数,従来の取引金額,取引数量の多寡等に応じて,価格表価格から値引き・割戻しを行ったり,年に2回ないし4回の売上代金の集金の際に,総額から一定の値引き・割戻しを行ったりしていた。
(査11,32,34から38,40,41,43から63,65から67,被審人日本農林社代表取締役近藤宏(以下「日本農林社の近藤」という。)の代表者審訊における供述,審C2の1,2の3の1及び2,3,9,15)
(4) 基準価格の決定
ア 社団法人日本種苗協会
社団法人日本種苗協会(東京都文京区所在。以下「日種協」という。)は,園芸農作物等の種苗について育種,生産又は販売を行う者を会員とし,園芸農作物等の種苗に関する民間の品種改良の促進,園芸農作物等の種苗の生産の改善,優良な園芸農作物等の種苗の円滑な流通及び国際交流の発展を図ることにより,我が国園芸農作物等の生産の振興に資し,もって国民生活の改善に寄与することを目的として,昭和48年12月5日に設立された社団法人である。
日種協は,意思決定機関である総会及び理事会のほか,会員の専門分野における調査,研究等の活動を促進することを目的として14の専門部会を設けていたが,32社は,いずれも日種協の会員であって,専門部会の一つである元詰部会に所属していた。
(査4,54から56,58から63,65から67,452)
イ 元詰部会討議研究会
遅くとも平成7年から平成9年までの間,毎年3月に台東区上野公園内の上野精養軒において,32社のうち雪印種苗及び後藤種苗を除く30社の大部分の代表者又は営業責任者級の者(以下「代表者等」という。)が出席して,日種協の「元詰部会討議研究会」(以下「討議研究会」という。)が開催され,4種類の元詰種子について,作柄状況,市況等の情報交換が行われるとともに,等級・取引形態に応じて設けられた区分ごとに基準価格が決定されていた。(査13から31)
平成10年から平成13年までの間においても,毎年3月に上野精養軒において,32社の大部分の代表者等が出席して討議研究会が開催され,その出欠状況は別紙表6のとおりであり,平成11年3月の討議研究会には第20号事件原告中原採種場株式会社(以下「原告中原採種場」という。),宝種苗及び訴外株式会社野崎採種場(以下「野崎採種場」という。)が,平成12年3月の討議研究会には増田採種場,原告中原採種場,宝種苗及び野崎採種場が,平成13年3月の討議研究会には野崎採種場及び訴外山陽種苗株式会社が,それぞれ欠席した。(査91,138,181,204)
ウ 平成10年3月以降平成13年3月までに開催された討議研究会については,開催に先立ち,毎年1月又は2月ころ,元詰部会長名で元詰部会員宛に「元詰部会討議研究会の開催について」と題する案内状が発出され,案内状には,開催日時,場所,議題のほか,討議研究会の会場において,アンケート用紙を配布し,その場でとりまとめるので,例年の様式を前提に,予めアンケートヘの回答を検討しておくべきことが記載されていた。
討議研究会においては,野菜種子の作柄状況,市況等について情報交換が行われた後,基準価格の検討に進み,はくざい,キャベツ及びだいこんの元詰種子の「A」,「B」及び「C」の各等級区分並びにかぶについて,基準価格を引き上げるか,引き下げるか,又は据え置くかに係る各元詰業者の希望についてアンケート調査が行われ,その集計結果が発表された。その後,基準価格について意見交換が行われ,これを司会が取りまとめて,4種類の元詰種子について小売価格の基準価格が決定された。
引き続き,共購価格の基準価格については小売価格の基準価格の92パーセントの10倍の,農協価格の基準価格については小売価格の基準価格の84パーセントの10倍の,大卸価格(10袋)の基準価格については小売価格の基準価格の62パーセントの10倍の,大卸価格(100袋)の基準価格については小売価格の基準価格の60パーセントの100倍の各金額が算出され,これらの金額の100円未満の端数を処理して,基準価格が決定され,席上で発表されていた。
(査32から36,39,40,41,43から45,50,52,56から62,66,67,70,71,78から112,114,116,119,121から123,126から130,132,133,135,137から140,142から156,158から167,169,171から175,177,178,180から185,188から191,195,198,201から207,208,210から215,219から222,225,226,229から231,234,239,240,243,245,249)
エ 各年度における討議研究会における基準価格線定の状況
(ア) 平成10年度の討議研究会は,同年3月19日午前11時から開催され,32社のうち別紙表6中「平成10年3月19日」欄に○印を付した30社の代表者等(別紙表7-1)が出席した。
上記30社の代表者等は,元詰部会長である原告タキイ代表取締役瀧井傳一の挨拶に引き続き,カネコ種苗種苗部長金子昌彦の司会で野菜種子の作柄状況,市況等について情報交換を行い,訴外愛三種苗株式会社(以下「愛三種苗」という。)取締役岩山洋の司会で基準価格の検討を行った。
アンケート調査では,4種類の元詰種子について「横ばい」と回答した元詰業者が多かったものの,意見交換の中で,据え置いた場合にはその後に検討される他の部会での価格にも影響を及ぼすとして値上げを推し進める意見が出され,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞれについて引き上げることとされた。
具体的には,小売価格の基準価格について,平成9年度から,①はくさいのA区分及びB区分は50円,C区分は100円,②キャベツのA区分,B区分及びC区分は100円,③だいこんのA区分は100円,B区分は200円,C区分は300円,④かぶは200円それぞれ引き上げることとし,別紙表8-1の「小売価格(1袋)」欄記載のとおり小売価格の基準価格が決定され,引き続き,上記ウ記載の方法により,同表の「共購価格(10袋)」欄,「農協価格(10袋)」欄,「大卸価格(10袋)」欄及び「大卸価格(100袋)」欄記載のとおり,平成10年度の取引形態別の基準価格が決定された。
(査32,34,39,40,43から45,50,52,56,59,60,70,71,78から112)
(イ) 平成11年度の討議研究会は,同年3月16日午前11時から開催され,32社のうち別紙表6中「平成11年3月16日」欄に「O」印を付した27社の代表者等(別紙表7-2)が出席した。
上記27社の代表者等は,元詰部会長である原告タキイ代表取締役瀧井傳一の挟拶に引き続き,カネコ種苗種苗部長金子昌彦の司会で野菜種子の作柄状況,市況等について情報交換を行い,愛三種苗取締役岩山洋の司会で基準価格の検討を行った。
アンケート調査では,4種類の元詰種子の各基準価格について「上げる」と回答した元詰業者が多く,意見交換の中でも,多くの出席者から種子の高品質化が進んでいるため引上げが必要であるとの意見が出されたことから,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞれについて引き上げることとした。
具体的には,小売価格の基準価格について,平成10年度から,①はくさいのA区分及びB区分は50円,C区分は100円,②キャベツのA区分及びB区分は100円,C区分は150円,③だいこんのA区分及びB区分は100円,C区分は200円,④かぶは200円それぞれ引き上げることとし,別紙表8-2の「小売価格(1袋)」欄記載のとおり小売価格の基準価格が決定され,引き続き,上記ウ記載の方法により,同表の「共購価格(10袋)」欄,「農協価格(10袋)」欄,「大卸価格(10袋〉」欄及び「大卸価格(100袋)」欄記載のとおり,平成11年度の取引形態別の基準価格が決定された。
(査35,36,39,41,52,57,61,62,66,114,116,119,121から123,126から130,132,133,135,137から140,142から156,158から167)
(ウ) 平成12年度の討議研究会は,同年3月15日午前11時から開催され,32社のうち別紙表6中「平成12年3月15日」欄に「O」印を付した26社の代表者等(別紙表7-3)が出席した。
上記26社の代表者等は,元詰部会長である原告タキイ代表取締役瀧井傳一の挨拶に引き続き,カネコ種苗種苗部長金子昌彦の司会で野菜種子の作柄状況,市況等について情報交換を行い,愛三種苗取締役岩山洋の司会で基準価格の検討を行った。
アンケート調査では,4種類の元詰種子の各基準価格について「横ばい」と回答した元詰業者が多く,意見交換の中でも,青果物市場における野菜の価格低迷で値上げができる環境にないとの意見が出されたことから,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞれについて前年度のまま据え置くこととし,別紙表8-3の「小売価格(1袋)」欄,「共購価格(10袋)」欄,「農協価格(10袋)」欄,「大卸価格(10袋)」欄及び「大卸価格(100袋)」欄記載のとおり,平成12年度の取引形態別の基準価格を据え置くことが決定された。
(査32,39,167,169,171から175,177,178,180から185,188から191, 195,198,201から203)
(エ) 平成13年度の討議研究会は,同年3月14日午前平1時から開催され,32社のうち別紙表6中「平成13年3月14日」欄に「○」印を付した30社の代表者等(別紙表7-4)が出席した。
上記30社の代表者等は,元詰部会長である原告タキイ代表取締役瀧井傳一の挨拶に引き続き,宝種苗代表取締役本田功の司会で野菜種子の作柄状況,市況等について情報交換を行い,愛三種苗取締役岩山洋の司会で基準価格の検討を行った。
アンケート調査においては,4種類の元詰種子の基準価格について「横ばい」と回答した元詰業者が多く,意見交換の中でも,農薬,肥料及び資材の価格が上がっていない現状では引上げの理由は見いだせないとの意見が出されたことから,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞれについて前年度のまま据え置くこととし,別紙表8-4の「小売価格(1袋)」欄,「共購価格(10袋)」欄,「農協価格(10袋)」欄,「大卸価格(10袋)」欄及び「大卸価格(100袋)」欄記載のとおり,平成13年度の取引形態別の基準価格を据え置くことが決定された。
(査33,39,58,67,204から208,210から215,219から222,225,226,229から231,234,239,240,243,245,249)
3 本件審決
(1)ア 被告は,平成14年8月26日,32社に対し,4種類の元詰種子の価格設定に関し独占禁止法違反行為があるとして適当な措置をとるべきことを勧告し,別紙表2記載の13社はこれを応諾したため,13社に対して勧告審決がされた。
イ 被告は,平成14年10月16日,被審人らについて,13社と共に,遅くとも平成10年3月19日以降(雪印種苗及び後藤種苗にあっては平成13年3月14日以降),4種類の元詰種子について,販売価格の低落防止等を図るため,種類ごとに各社が販売価格を定める際の基準価格を毎年決定し,各社は当該基準価格の前年の基準価格からの変動に沿って各社の4種類の元詰種子の品種.ごとの販売価格を定めて販売する旨の合意の下に,毎年3月に各社の代表者等による会合を開催し,野菜の種類,品質等に応じて設けたA,B及びCの区分(かぶは区分なし)ごとに需要者向け,農協向け,小売業者向け等の形態及び取引単位に応じた基準価格を決定し,基準価格の引上げ又は維持を行っていた等として審判開始決定をし,審判手続を経た後,平成18年11月27日,審判審決(本件審決)を行った。
(2)被告が独占禁止法の規定に基づき,平成13年8月29日,上記の審査を開始したところ,32社のうち別紙表10記載の26社は,同年10月4日,静岡県熱海市所在の古屋旅館において開催した日種協の理事会において,同年3月14日に行った4種類の元詰種子の基準価格の決定を破棄するとともに,以後,元詰種子の販売価格に関する話合いを行わない旨の申合せを行った。(査38,403から405)
(3) 本件審決の要旨
本件審決は,32社が,共同して,4種類の元詰種子について,遅くとも平成10年3月19日以降(雪印種苗及び後藤種苗にあっては平成13年3月14日以降),
ア 毎年3月に開催される日種協の討議研究会において,各社がその年の5月ないし7月に始まる年度(当年度)における販売価格を定める際の基準となる価格(基準価格)を決定すること,
イ 基準価格は,はくさい,キャベツ及びだいこんについては,普通品種,中級品種及び高級品種として,それぞれ,「A」,「B」及び「C」の区分を設け各等級区分ごとに決定し,かぶについては,等級区分を設.けないで決定すること,
ウ 基準価格は,小売価格,共購価格,農協価格,大卸価格(10袋),大卸価格(100袋)の別に決定すること(1袋の容量は,はくさい及びキャベツについては20ミリリットル,だいこん及びかぶについては2デシリットル),
工 各社は,基準価格の前年度からの変動に沿って1品種ごとに,当年度に自社が適用する価格表価格(以下「当年度の価格表価格」という。)及び個別の取引における販売価格を.定めて販売すること,
オ 各社の価格表価格の設定は,①垂準価格が引き上げられた場合には,はくさい,キャベツ及びだいこんについては価格表価格と基準価格が一致する品種は引き上げられた基準価格どおりに,その余の品種は前年度の価格表価格と近似する基準価格又は前年度の価格表価格の上下にある基準価格の引上げ額又は引上げ率と同程度の引上げとなるように,当年度の価格表価格を引き上げ,かぶについては,価格表価格が基準価格と一致する品種及びその余の一致しない品種のいずれも,基準価格の前年度からの引上げ額又は引上げ率と同程度の引上げとなるように,当年度の価格表価格を引き上げ,②基準価格が据え置かれた場合には,価格表価格を据え置くことを内容とする合意(以下「本件合意」という。)をすることにより,公共の利益に反して,我が国における4種類の元詰種子の各販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これが狩占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものと判断した。
被告は,上記(2)の動きにより,平成13年10月4日以降,本件合意は事実上消滅しているものと認められるが,被蕃人らは13社とともに長期間に’わたって協調的関係を維持していたこと,また,本件合意の消滅は被告の審査開始(立入検査)という外部的要因に基づくものであり,被審人らの自発的な意思に基づくものではなかったことから,今後同様の行為を繰り返すおそれが昂ると認められるとして,本件審決をしたものである。本件審決は,被審人らに対し,①本件合意を破棄していることを確認しなければならないこと,②これに基づいて採った措置及び今後本件合意と同様の合意をせず,各社がその販売価格をそれぞれ自主的に決める旨を,予め,被告の承認を受けて,それぞれの取引先販売業者及び需要者に周知徹底させなければならないこと,③今後4種類の元詰種子の販売価格に関し,他の事業者と相互にその事業活動を拘束する合意をしてはならないこと,④①から③に基づいて採った措置を速やかに被告に報告しなければならないこと(以下「本件排除措置」という。)を命ずることを内容とする。

第3 争点及びこれに対する当事者の主張
1 本件の主たる争点は,次のとおりであり,原告らの主張及びこれに対する被告の反論は,2から10に記載のとおりである。
(1) 本件合意の存在について実質的証拠はあるか。特に,基準価格の決定が毎年日種協の討議研究会の場で決められていたことから,これを原告らを含む元詰業者の間の価格決定に関する本件合意に結びつけることについて実質的証拠を欠くのではないか。また,本件で対象とされる4種類の元詰種子のほかに5種類の元詰種子についても併せて同様の価格についての協議が討議研究会の場で行われてきていたにもかかわらずこれら5種類の元詰種子については審判の対象から外されていることが本件合意を一つの合意としてとらえるについて障害となるか 〔2から5〕
(2) 本件合意の相互拘束性について実質的証拠はあるか。特に,討議研究会における基準価格の決定は目安ともいうべきもので,抽象的であり,具体的な販売価格を設定するに至る過程についてはあいまいなままで,これにより他の事業者の事業活動を予測し得ないのに,実質的証拠なく相互拘束性を認定したのではないか。〔6〕
(3) 本件合意が実質的な競争制限をもたらすことについて実質的証拠はあるか。特に,元詰種子を購入する際には,品種の特性が重視されるため,価格競争が品種商においてはみられないか,少なくともわずかでしかないということがいえるところ,このことが競争制限をもたらさないという結果につながるのではないか。また,合意の具体的な販売価格への影響等についての認定を欠いたまま合意には実質的な競争制限の効果があるとの結論に導くことは相当か。〔7〕
(4) 本件合意を認定するについて,一定の取引分野の画定が正しく行われているか。〔8〕
(5) 本件審決は,
ア 過去,被告が同様の事件を不問に付したにもかかわらず,警告もなしに審決に至った違法
イ 審判合意と異なる合意を認定して,被審人らの防御の機会を奪った違法
ウ 主文に示された合意の内容が不明確である違法
工 立証責任を負う審査官の主張に対する判断を示さないまま被審人らの主張に対する判断だけで結論を出している違法
などの違法があるが故に,取り消されるべきであるか。〔9〕
(6) 本件においては,排除措置を命ずるために課せられている「特に必要があると認めるとき」という要件が充足されているか。被告は,命令を出すに当たり,この点についての裁量の範囲を逸脱していないか。〔10〕
2 本件合意の存在につき実質的証拠がないことについて
(原告らの主張)
(1) 本件合意の内容は多岐にわたる上,具体的かつ積極的行為を要するものであるが,このような詳細な合意が32社という多数の事業者間で黙示でなされることは常識的にあり得ず,経験則上極めて不合理であるから,本件審決の認定は,違法な認定というべきであるまた,毎年3月の討議研究会において,基準価格を決定してきたことから本件合意を認定し,あるいは合意成立後の事実に依拠して本件合意を認定することには無理があり,本件合意の成立時期に触れていないことからも,本件合意の存在については実質的証拠を欠いているというべきである。
(2) 本件合意を,32社が共同して行ったというためには,意思の連絡を要し,相互にその内容を認識し,認容することを要するところ,本件審決はこれについて全く触れておらず,意思の連絡については実質的証拠がない。
討議研究会での基準価格の決定は,本件合意の存否に関わりなく行われるものである。また,討議研究会における基準価格の決定に関する元詰業者の代表者等の発言は,討議研究会についての相互の認識を示すものとはいえるものの,本件合意によると,意思の連絡を要し,相互に認識し認容すべきであるのは毎年の基準価格に関する合意を討議研究会の決定に委ねることであって,毎年の基準価格決定そのものではないから,32社の代表者等の発言内容とは乖離している。したがって,いずれの事実も本件合意のうち第2の3(3)アの存在の間接事実とはならず,この点についての実質的証拠がない。
また,本件合意のうち同イ及びウに係る等級区分は,平成8年以降に行われるようになったものであるから,平成10年3月19日以降本件合意が存在したというのであれば,32社は討議研究会以外に会合を持っていないため,平成8年か平成9年の討議研究会において本件合意が成立していなければならないところ,等級区分以外の上記イ及びウの内容は相当以前から行われていたもので,平成8年か平成9年に本件合意をする動機はない。本件審決では,相当以前から続けられてきたとの認定をするのみで,同イの具体的な合意について実質的証拠は摘示されていないし,同イ及びウの内容について32社が相互に認識し認容していたことについても触れられていないから,実質的証拠を欠いている。
本件合意のうち同オについては,討議研究会における基準価格決定の帰結としての価格表価格の設定についてはこのように言い得るかもしれないが,審判開始決定で認定されている合意(以下「審判合意」という。)では,違反行為そのものではなく,本件合意の実施行為とされていたものであり,同エ及びオのような合意をする動機も意図も不明であるから,これについても実質的証拠を欠く。
なお,本件審決は,原告らが平成7年以降平成10年3月18日までの間に本件合意を形成すること.は事実上も論理上も不可能であると主張したことに対し,あり得べき本件合意の形成過程がすべて否定されるわけではないと判示するが,立証責任上原告らがあり得べき本件合意の形成過程のすべてを否定しなければならないものではないから,このような判示は不当である。
(本件合意の存在についての主張に対する被告の反論)
(1) 本件審決は,本件合意の存在を,毎年度の討議研究会における決定とは別個のものとして,元詰業者の代表者等の供述,これを裏付ける毎年度の基準価格の決定及び価格表価格の設定の状況等から認定しており,実質的証拠に基づいている。
(2) 意思の連絡とは,当該競争制限行為をすることを互いに認識・認容し,これに歩調をそろえるという意思が形成されることをいうのであり,黙示的なもので足りるところ(東京高裁平成7年9月25日判決・判例タイムズ906号136頁),毎年討議研究会において32社で基準価格を決定し,これに基づき,その前年度からの変動に添って各事業者の販売価格を決定して販売するという合意につき,32社が相互に認識し,歩調をそろえる意思を有していたことは本件審決が引用する証拠により認定することができる。不当な取引制限に該当する合意においては,事業者らが共同して一定の具体的積極的な行為をすることを黙示的に合意する場合が多く,本件合意が通常と異なる特別なものと解する理由は見当たらない。
繰り返し行われる違反行為により侵害された競争秩序を回復するためには,繰り返される違反行為の前提であり,繰り返されることにより維持強化されてきた事業者間の基本合意そのものを排除しなければならないのであって,本件では,毎年討議碕究会の場で基準価格に係る情報及び意見交換を通じて価格協定を成立させるという事業者間の合意に,相互拘束性があり,競争を実質的に制限する効果があったとして,これを基本合意ととらえ,排除の対象たる違反行為としたものである。
基本合意を認定するに当たり状況証拠による認定の手法を使ってはならない理由はなく,直接証拠がない場合にのみ共通認識等による状況証拠による認定の手法を採用できるとの制約を課す理由もない。
(3) 合意の立証に当たり,意思の連絡の形成過程を日時場所等により特定する必要はなく,間接事実を含む何らかの証拠により意思の連絡が存在していることが推認できれば足り,合意の参加者において合意内容に即した行為(実施行為)がみられるときは,合意の存在を推認する重要な間接事実となるものというべきである(東京高裁平成18年12月15日判決)。
また,不当な取引制限における相互拘束性を認定するに当たり,意思の連絡により相互に事業活動が拘束されていた事実が明らかにされればよく,相互拘束の動機まで明らかにしなければならないものではないのと同様に,合意の形成過程についての徴表も,不当な取引制限の主要事実ではないから,これを立証しないからといって立証を放棄したことにはならない。基本合意の形成過程についても,これを特定し立証しなければならないものではないから,合意の成立時期が特定されることは必要ではない。
3 仮に合意が存在するとしても,それは事業者団体の行為であって,本件合意の主体とされる個々の事業者相互の行為であることについては,実質的証拠がないことについて
(原告らの主張)
(1) 本件審決は,32社の代表者等の供述から32社が合意の主体であることを認定’しているが,各供述調書上の「われわれ元詰業者」との記載は,主語として便宜的に使用されたもので,本件合意の主体に係る当時の確定的認識内容を表すものではなく,これを事業者としての表現であると認定するのは恣意的である。
(2) 32社は,日種協の現在の構成事業者として,日種協が行う種子の価値交換,基準価格を示す行事に受動的に参加してきただけで,自発的な意思に基づいてそこでの行為を行ったものではない。討議研究会における基準価格の決定は,日種協の提案,発意により日種協の行事として行われており,元詰種子を国内向けに販売していない32社以外の業者や最終需要者である野菜栽培農家の経済的事情やニーズ等を代弁するため小売部会長も出席して積極的に意見を述べるなどしている外,議事も結果報告も,日種協として行われている。全国種苗業連合会(以下「全種連」という。)及びその後身である日種協(昭和48年4月専門部会の組織と運営を引継)の部会では,昭和28年以降,基準価格を議論し,決定してきたものであり,32社が本件合意を実施するための手段として利用するために基準価格の決定をしてきたのではないことは明らかである。このように事業者団体の組織・仕組みによってのみ元詰業者らの行動がなされている場合には,32社の合意とは評価し得ないものというべきであるし,花き部会等の日種協の他の専門部会における同種の価格決定行為については,被告が日種協という事業者団体の行為として警告していることに照らしても,本件合意は団体としての日種協によりなされたものとみるべきであり,これを事業者の行為と同視することは,不可能であるし,方針の一貫性を欠く。
(3) 元詰部会では,32社以外の事業者らも議論に参加しているところ,価格に関する合意をカルテルに参加しない事業者の面前で公然と行うことは通常考えられない。本件審決には,元詰部会の一部の出席者を除外する一方,欠席者を含めた32社を主体とする行為の存在を合理的に認定し得る証拠は全く示されていない。被告は,合意内容に則した行動をとっていない事業者は合意参加者とみることができないと主張するが,不当な取引制限は,市場における競争の実質的制限をもたらす合意がされれば足り,合意内容を実施することは違反行為の成立要件ではないから,被告の主張は失当である。
(4) 被告の審査開始を受けて,今後元詰種子の販売価格に関する話合いをしない旨の申合せをしたのは日種協理事会であって,個々の事業者ではないし,理事会には原告石井育種場,増田採種場,第20号事件原告ナント種苗株式会社は出席していないから,理事会決議の主体と被審人らは同一ではない。なお,上記理事会決議は,今後基準価格に関する決定をやめ,現在効力を有している基準価格の決定を取り消したもので,本件合意を破棄したものではない。
(5) 被告は,石油価格協定事件最高裁判決(最高裁昭和59年2月24日第二小法廷判決・刑集38巻4号1287頁)を引用して,違反行為の主体が事業者団体であると評価できるとしても,同時に元詰業者らの行為であるとも評価できる場合には,元詰業者らに対し法的措置を取ることができると主張するが,上記最高裁判決は,事業者団体が違反行為の主体である場合に,これを構成する各事業者についての処罰規定を欠いているため,事業者団体と共にこれを構成する各事業者の刑事責任を問うことができるかについて判断したものであるところ,違反行為に対する行政処分については,現行法上,違反行為の主体が事業者団体であっても,課徴金納付命令が課されるのは当該事業者団体の構成事業者に対してであるし,排除措置命令も事業者団体の外,その構成事業者に課すことも可能であるから,違反行為の主体が事業者団体であるにもかかわらずこれを構成事業者による行為ととらえなければならない必要性はない。したがって,上記判断は,事業者団体による違反行為につき構成事業者の刑事重任を問う場合に適用され,行政処分を課す場合にまで適用されると解すべきではない。
本件審決において問題とされる毎年の基準価格の決定は,本件合意の実施行為として本件合意の存在の間接事実となるに過ぎないから,事実としての存否が問題となるのであり,そのこと自体が法的評価の対象としての独占禁止法違反行為となるものではないから,上記最高裁判決とは判断の局面が異なっている。
(合意が事業者団体の行為であるとの主張に対する被告の反論)
(1) 基準価格決定が団体の規律の下に行われたこと,討議研究会の案内や連絡行為が日種協によるものであり,関係場所が日種協の場所であること,議事が日種協の組織と様式で行われ,日種協として意思決定がされ,結果報告が日種協としてされていること,基準価格の討議決定に32社以外の元詰業者や小売部会長が参加したこと,32社の中に欠席した業者が複数あること,被告が花き部会等の日種協の他の専門部会の同種の価格決定行為につき事業者団体の行為としてこれを対象に警告を行ったことは認める。
(2) 本件審決は,元詰業者の代表者等の「われわれ元詰業者は」という供述や「32社は討議研究会に出席すべき元詰業者である」ということのみから32社を合意の主体と認定したものではなく,討議研究会における議論状況等の分析,上記供述に沿った客観的証拠である開催に関する書証や討議研究会の模様を記録した報告書等を含めて検討し,上記供述が32社を示すものと判断することが合理的であることから上記のように認定したものであって,元詰部会の場における基準価格の決定が日種協の活動であるとしても,32社は本件合意を実行する手段として当該活動を利用したと評価できるとしているのである。討議研究会の議論の状況から明らかなとおり,元詰業者らは,その代表者等が相互に直接的に意見を出し合って元詰種子の価格のあるべき方向を検討し,基準価格を決定し,これをもとに自社の価格表価格及び販売価格を決定することについて相互に認識し,認容しており,実際にも基準価格の変動に沿って自社の価格表価格及び販売価格を決定していたから,これを32社の行為と評価することが十分可能である。基準価格の決定において,日種協の事務局が主体的に活動し,事務手続が日種協の方式に則りその活動の一策として行われていたとしても,元詰業者らが一堂に会して相互に直接的に討議をして基準価格を決定している以上,元詰業者らの行為であるという側面を排斥することにはならない。
(3) 部会を異にすれば構成事業者も異なり,その相互の関係,基準価格に係る認識の状況も同一ではないし,野菜の種類が異なれば環境や需要者が異なることから,諸般の事情を考慮し,部会ごとにどのような行為が行われたかを判断し,その結果,一方が警告に止まる場合でも他方は法的措置の対象となり,一方は事業者団体を対象とする場合でも他方は構成員を対象とする場合があることは否定できないし,どのような対応をとるかは,被告の合理的な裁量に委ねられている。
(4) 石油価格協定事件最高裁判決の趣旨は,ある行為が事業者の行為とも事業者団体の行為とも評価できるとみられる場合に,どちらか一方の評価が優先され,他方が排除されるという関係ではなく,被告の合理的な判断に委ねられているというものであるところ,ある行為が,事業者団体の行為であると同時に事業者団体を構成する各事業者の行為であると評価し得る場合があることは事実認定レベルの問題であるから,上記の理は違反行為たる合意についてであろうとその実施行為についてであろうと変わるところはなく,上記最高裁判決の適用を排除する理由はない。また,刑罰の対象となる不当な取引制限と行政措置の対象となる不当な取引制限とはその構成要件が同じであり,適用場面を異別に扱う理由がないし,倫理的道徳的非難がより強く,運用の謙抑性が求められる刑事罰を課する場合には違反行為の主体を事業者又は事業者団体のいずれにするかの裁量が被告に認められるのに,行政措置の場合には認められないというのは均衡を失する。
(5) 小売部会長は元詰業者の取引の相手方であり,合意の参加者ではないが,不当な取引制限に係る取引の相手方であっても当該不当な取引制限に係る行為に関与することは,官製談合の場合のようにあり得るので,小売部会長が出席して発言したとしても異とするほどのことではない。また,32社以外の元詰業者が討議研究会に参加していたとしても,その元詰業者が本件合意の内容に則した行動を取っていない場合などには,その元詰業者を合意参加者とみることはできず,これを本件合意の主体と認めないことは当然であり,そのこと礁より本件合意の存在までもが否定されることにはならない。
他方,32社のうち討議研究会に出席していない元詰業者がいたとしても,本件合意の内容を認識し,相互に歩調をそろえる意思があれば合意の参加者であると認められるから,討議研究会に出席していたか否かと本件合意の主体となるか否かとは直接結びつかない。欠席した元詰業者らは,出席した元詰業者から決定された基準価格に関する資料をもらい,あるいは他の元詰業者が基準価格に基づいて作成した価格表をもらうなどして自社の価格表価格を決定していることなどに照らすと,本件合意内容を認識し,これに歩調をそろえる意思を有していたものと認められ,他の事業者も,欠席者が何らかの方法で基準価格を知って同調するであろうとの認識を有していたと認められるのであるから,32社の間に意思の連絡があるということができる。
4 事業者団体の行為としてしか評価できない事案においては,被告の自由裁量により,これを独占禁止法3条違反として事業者の行為とすることはできないことについて
(原告の主張)
本件においては,32社が,基準価格を協議し,決定する仕組みを作ったことを示す証拠はなく,既存の討議研究会の基準価格に関する仕組みを積極的に利用し,強化しようとした形跡も全くないのであるから,独占禁止法3条と同法8条とのどちらを適用するかについて被告が裁量権を有して.いるという議論は暴論であり,違反行為者として評価することができない被審人らに対し排除措置を命ずることは,法の適用を誤ったものである。
(独占禁止法3条の適用に関する被告の反論)
基準価格の決定が日種協の行為であり,違反行為の主体が事業者団体であると評価することができるとしても,同時に元詰業者らの行為であると評価することもできる場合には,元詰業者らに法的措置をとることは許容される。
不当な取引制限に当たるという場合の事業者相互間の意思の連絡は,相互に対価の引上げといった違反行為の内容を認識した上で認容しあうことで足るのであり,しかも,この認識・認容には黙示的なものも含まれるのであって,特定の事業者が,他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして,同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には,当該行動が他の事業者の行動と無関係に,取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り,これらの事業者間に協調的行動を取ることを期待しあう関係があり,認容しあうという意思の連絡があるものと推認することができるから,共同行為そのものが事業者団体の場においてなされたとしても,同時に事業者間の共同行為とみられる場合があることは否定できず,情報交換の場が当該事業者団体の活動の場に限られていたとしても,事業者間に上記の意味での意思の連絡が認められる場合には,独占禁止法3条違反となるのである。事業者が事業者団体を離れて独自に協議情報交換をする仕組みを作っていたり,事業者が事業者団体の行動を積極的に利用する意思を示している場合にのみ事業者の行為としてとらえることができるとの原告らの主張は,独自の見解である。
基準価格の決定は討議研究会で行われているが,それは単に形式的・外形的なものに過ぎず,実質的には討議研究会の場を借りて事業者が相互に情報交換を行っており,その結果として,基準価格を決定しているということができるし,事業者が相互に他の事業者と対価引上げ行為に関する情報交換を行い,同一又はこれに準ずる行動をとった場合には,これらの事業者の間に,意思の連絡があるものと推認することができるのであって,情報交換等の宰施行為が行われた場が事業者団体の活動の場であったからといって,そのような推認をすることが否定されるものではない。事業者団体の場における行為が事業者の共同行為と評価できる場合にどのように処分を行うかは当該事件の事実認定に沿って被告の合理的な裁量に委ねられており,本件において事業者を処分の対象としたことに違法はない。
5 仮に合意が存在するとしても,9種類の元詰種子についての合意であること
について
(原告らの主張)
(1) 本件審決は,4種類の元詰種子のそれぞれの販売分野ごとに一定の取引分野を画定し,これ以外の野菜の元詰種子とは一定の取引分野を異にするから,他の野菜の元詰種子に係る違反行為の有無は本件違反行為の成否に影響しないと判断している。
(2) しかし,合意の効力が及ぶ範囲が一定の取引分野であり,合意内容は,各事業者間にいかなる内容につき意思の合致がみられたかにより決.まるものであるところ,元詰業者の代表者等はいずれも9種類の元詰種子について元詰部会で行われた行為の目的及び効果を明らかにしており,5種類の春蒔元詰種子(トマト,なす,キュウリ,スイカ,メロン。以下「5種類の元詰種子」という。)と4種類の元詰種子とについてみると,対象種子の品種が違うだけで,元詰部会の開催目的も内容も同じであり,参加者も,元詰種子を扱う各社の責任担当者であるから基本的に同じであって,共通の目的で,同一の行為がされていたのであるから,4種類の元詰種子のみについて基準価格の決定が行われていたことを合理的に認定し得る証拠は一切存在しない。
これを4種類の元詰種子を対象とする合意に縮小認定するためには,各事業者間に,4種類の元詰種子について,これ以外の5種類の元詰種子とは別に合意をする旨の認識がなければならないが,本件合意は,基準価格の決定を含まないから,5種類の元詰種子について8月の元詰部会において基準価格の決定がされていたことや取引当事者に相違があることをもって,各事業者が4種類の元詰種子について5種類の元詰種子とは別個に合意するとめ認識を持っていたと推認することはできない。
(3) また,5種類の元詰種子と4種類の元詰種子とが取引分野を異にするというのであれば,需要者である野菜栽培農家にとって野菜の種類ごとに機能効果が異なることは明らかであるから,一定の取引分野は野菜の種類ごとに成立するものと解すべきであり,野菜の種類ごとに異なる複数の競争が存在し,それぞれの競争に対してこれを実質的に制限する複数の違反行為としての合意が認定されなければならないはずであるところ,本件審決では4種類の元詰種子を対象とする単一の本件合意が認定されているに過ぎず,これまでの独.占禁止法の実務に反する。
5種類の元詰種子の場合は,ABCの等級区分の基準価格にある種子が極めて少なく,販売価格と乖離し,連動していないことから,結果的に,基準価格の協議決定が同一又はこれに準ずる行動に出たものと認定することができなかったものであり,被告の論理の破綻を示している。
(9種類の元詰種子についての合意であるとの主張に対する被告の反論)
(1) 一定の取引分野とは,競争が行われる場,すなわち一定の供給者群と需要者群との間に成立するいわゆる市場のことであり,対象商品役務(商品範囲),取引の地域(地理的範囲),取引段階等の観点から,需要の代替性及び供給の代替性が機能する範囲において画定される。そして,商品範囲は,商品役務の用途,価格,機能,数量の動き,需要者の認識・行動等の観点から,需要者からみて取引対象商品・役務と機能及び効果において同じである商品・役務ごとに画定されるものであるところ,需要者である野菜栽培農家にとって野菜の種類ごとに機能・効果が異なることは明らかであるから,一定の取引分野は,野菜の種類ごとに成立するものである。
(2) いずれも討議研究会で基準価格が決定されている点では共通であるものの,5種類の元詰種子については,毎年8月の元詰部会で基準価格が決定されており,会合ごとに参加者も必ずしも同じでなく,話合いの内容も異なるし,取引分野が野菜の種類ごとに画定され,それぞれ販売事業者の規模や数,品種の数,取引形態,取引量や額等においては異なり,取引分野の状況はまちまちであることが認められるから,それぞれ別異の商品と考えることができ,状況が異なるとして4種類の元詰種子について合意を認定したとしても問題はない。本件審決は,4種類の元詰種子のそれぞれの取引ごとに一定の取引分野を画定し,競争の実質的制限が生じているとしているのであり,これ以外の野菜の元詰種子とは一定の取引分野を異にするから,他の野菜の元詰種子に係る違反行為の有無は,本件違反行為の成否に影響しない。
(3) 証拠等を踏まえ,いかなる取引分野の行為を取り上げて処分の対象にするかは被告の合理的裁量に委ねられているところ,被告は,4種類の元詰種子の販売分野につき,違反行為が認められ,競争が実質的に制限されており,排除措置を命ずる必要があると判断したため処分の対象としたものである。
6 本件合意は相互拘束性を欠いていることについて
(原告らの主張)
(1) 本件合意には相互拘束性がない。
ア 本件審決は,独占禁止法2条6項の「相互にその事業活動を拘束し」とは本来自由であるべき各事業者の事業活動を相互に制約することをいうのであって,具体的な販売価格を定めない限り事業活動の拘束に当たらないとは解されないとの立場を前提とした上,本件においては,毎年基準価格を決定し,各社がそれに基づき販売価格を定める旨の合意をしていたと認め,これは,本来各社が自由に行うべき価格設定について各社を相互に拘束するものであるから,事業活動の拘束に該当すると判断している。しかし,ここでは,抽象的内容の本件合意では相互拘束・共同洋行の要件を満たすものとはいえないとの被審人らの主張に対する判断が欠けている。
イ 不当な取引制限に当たるというために必要な「相互にその事業活動を拘束」することの本質は,競争事業者間の相互の予測すなわち意思の連絡が人為的に形成され,これにより当事者間の競争行動が回避される点にあるから,予測可能な程度に具体的な行動基準が設定されていること.が不可欠であるところ,本件合意については,基準価格が決定されない限り,具体的な販売価格を設定することはできないから,相互拘束性の要件を欠くものである。それにもかかわらず,本件審決は,相互拘束性の当然の要請として,事業者相互の競争制限的行動を相互に予測できること(相互予測性)が必要であることを看過し,その結果,相互拘束性を実質的証拠なく認定したものである。
ウ さらに,討議研究会における基準価格決定の際の等級区分は極めて大局的かつ抽象的なもので,その定義に関する各社の理解は必ずしも同一ではなく,他社の品種の等級区分は不明であって,自社の特定の品種と競合する他社の品種の価格設定の予測がつかないから,他の事業者の事業活動を予測し得る共通基準や単一の事業体として価格設定したのと同様の事態を生じさせ得るほどの行動指針たり得ず,本件審決が挙げる間接事実から相互拘束性を認定することはできないのであり,その認定には,実質的証拠が欠如している。
また,本件合意における合意内容には,本件合意に係る等級区分に自社の元詰種子を組み入れることは含まれていないので,その拘束性は問題にならないし,等経区分は,自社の各品種について参照すべき目安に過ぎず,拘束性を認める類のものでもないから,本件合意(第2の2(3))のうちイの部分には拘束性がなく,これを前提としたウも不当な取引制限の成立要件を欠いているのであって,本件審決は,原告らを含む32社が本件合意に沿って価格表価格を設定していることの認定をしていない。
エ 仮に価格表価格の変更について相互予測が可能であったとしても,値引きや割戻しの率及びその適用については合意がなく,また,その内容は販売戦略に係る企業秘密として公にされていない。値引きや割戻しの有無が価格表価格に連動し,値引内容も前年度と連続性を有するとしても,前年度と連続性のない値引きや割戻しも多数存在するから,基準価格から実勢価格の設定を予測することはできなかったのである。
したがって,各当事者が相互に将来の事業活動を予測してその行動計画を遵守するという関係は成立し得ず,元詰業者は,独自の判断で価格設定することを余儀なくされるものである。価格表価格の動きと実際の販売価格の動きとの連動性を単純に推認することはできないから,本件審決の相互拘束性の認定は,実質的証拠を欠くものである。
そして,毎年の基準価格の決定は本件合意の実施行為に過ぎないから,本件合意自体が実勢価格に対し競争を実質的に制限する効果を有する点については何等立証がされておらず,基準価格と実勢価格との間に連動性があるとしても,それは基準価格の決定それ自体が競争制限的効果を持つ価格カルテルであるというに止まる。
(2) 32社の間には相互拘束性があるというために必要な相互認識がなく,不当な取引制限にいう相互拘束性の要件を欠いている。
不当な取引制限にいう「他の事業者と共同して」とは「事業者間の事前の意思の連絡」を要するところ,相互に事業活動を拘束することの前提として「個別認識(意思の連絡をしているのは誰か)」と共に「相互認識」を要するものというべきである。本件審決は,32社に「本件合意の主体であるという概括的認識」があったとしており,これをもって相互認識として足りるとするもののようであるが,概括的認識では相互認識は有り得ないから,本件審決の認定は違法である。
(相互拘束性に関する主張に対する被告の反論)
(1) 相互拘束性を欠くとの主張について
ア 本件では,「各社は基準価格の前年度からの変動に沿って当年度に自社が適用する価格表価格及び個別取引における販売価格を定めて販売すること」が合意されており(第2の3(3)エ),毎年の討議研究会における基準価格の設定を通じて,前年度の基準価格との比較により,その変動額又は変動率に従って各社の各品種の価格表価格が概ね自動的に決まる仕組みになっているから,本件合意が具体的な金額,上げ幅等を直接的に決めていないとしても,元詰業者にとって具体的行動についての予測可能性が欠けているわけではない。
イ 32社は等級区分に一定の共通の理解を有しており,価格表価格の設定に当たり参照すべき等級区分が不明ということはなかったし,他社の品種の等級区分への該当性を具体的に知らなかったとしても本件合意の拘束性の認定に影響することはない。各元詰業者は,基準価格の等級区分に従って価格を設定することを前提とし,当該種子が該当すると判断した等級区分と異なる価格決定は許されないという認識を有していたことは明らかである。
討議研究会の案内状及びアンケートの体裁や,等級区分の意味について特に説明がされていないこと,日種協専務理事であるAの供述(査455)には,営業経験豊富な元詰業者らはAランクの動向を決めただけでも全体の動向を認識把握することができるとの認識を元詰業者らが有していたことを示す部分があり,これらの点からは,32社は自社及び他社一の交配種がどの等級区分に属するかについて把握することができたものと認められる。
したがって,他社の品種が具体的にどのランクに属するかにつき予測できないとか,中間に位置する品種について予測可能性がないということはない。
ウ 一般に価格カルテルにより値上げ金額や値上げ幅が協定される場合であっても,各事業者は,各商品の競争力や需要側の動向等の影響を受けるので協定どおりの販売価格が実現できる保証はないが,これにより価格カルテルの存在や相互拘束性が否定されることはない。したがって,価格表価格から値引きや割戻しがされるとしても,これにより本件合意の存在や相互拘束性が否定されることはない。
32社では,掛け率や値引率が設定きれていても,通常は販売時点では価格表価格による販売が行われ,最後に取引全体について値引きが行われることが多く,取引先ごとに固定的な掛け率又は値引率が予め定められ,販売量の変動がない限り前年度と同じ率が適用されるのであったり,最大5パーセントの範囲内で値引きが行われていたり,取引先や野菜の種類ごとにグループ分けして値引率が設定されていたりしていたから,価格表価格に基づき実際の販売価格を設定し,値引き・割戻しも価格表価格をもとに行っていたと認められ,実際の販売価格と価格表価格とが連動していたとする本件審決の認定は相当である。
また,32社は,販売先との間で事後的に値引き・割戻しがあることを当然の前提として毎年の販売価格を基準価格の前年度からの変動に沿って設定するよう合意したのであり,32社の販売価格は,値引き・割戻しがあっても,価格表価格等の決定を介して基準価格の前年度からの変動に沿って設定される仕組みになっているから,本件合意には相互拘束性に欠けるところはない。
エ 業務用ストレッチフィルム事件判決(東京高裁平成5年5月21日判決・判例タイムズ828号113頁)は,被告人の刑事責任を問うに当たり処罰の対象を特定する必要があるから,2個の価格協定の成立を犯罪行為としたものであるが,本件審決は競争秩序回復のため排除措置の対象を明らかにするため基本合意を違反行為ととらえたものであり,両者は違反行為の捉え方を異にしているし,業務用ストレッチフィルム事件では,業界において過去に価格協定が実施に至らず失敗に終わった経過に加え,シェア争いが激しく各社が互いに疑心暗鬼で不信感が強いという特殊性が存在し,合意が各社を拘束する協定となるためには各種の細かな取決めとその部門のトップによる相互の明確な確認が必要であったという個別事情の下で価格協定がいつ成立するかが論じられているのである。協和エクシオ事件判決(東京高裁平成8年3月29日判決・判例時報1531号37頁)では,談合に関する基本合意(受注予定者を協議して定める旨の合意)により違反行為が成立することが認められており,本件合意についても当然違反行為の成立が認められる。
(2) 相互認識がないとの主張について
意思の連絡における相互的認識・認容の相手方は,常に個々具体的に特定されている必要はなく,多数の合意参加者のうち一部に離脱者や途中参加者があったとしてもそれを逐一把握している必要はない。要は,各参加者に大体どの範囲のものという程度の共通認識があれば意思の連絡としては十分であり,これをもって各社が共通の認識を持つことは可能であるから,概括的認識で足りるとする本件審決に誤りはない。
また,本件においては,毎年3月に開催される討議研究会に出席する元詰業者すなわち32社が相互に本件合意の主体であると認識されていたことは明らかであるから,32社が本件合意の主体であることの相互認識に欠けるところはない。
7 本件合意には実質的競争制限の効果がないことについて
(原告らの主張)
(1) 元詰種子には品種問価格競争がないから,本件合意があっても実質的に競争制限がされない。
ア 元詰種子については,適性で選択されるため品種間競争は存在しない。
本件審決は,①試作の対象とする品種は元詰業者からの情報提供や他産地における使用例等により選ばれること,②試作の結果選択される推奨品種は一つには限らないこと,③新しい品種が推奨品種となり,従来の品種が外れることがあることから,需要者は土壌や作型への適性について多くの品種を比較検討し,相対的にふさわしい品種を選択しているのであって,元詰種子に関して品種間競争が存在しないとの主張は採用できないと判断している。
しかし,試作が行われるのは,実際に試作して作物を収穫しない限り,産地の気候や地質,作型等に適合しているのか,どのような野菜が収穫できるのかなどの品種特性を見分けることができないという元詰種子の商品特性によるものであり,各社は各産地の栽培条件に適合した品種を開発するため競争をしているが,需要者は,自らの農地の条件に最も適合した適性品種のみを選択するから,代替的に他の品種を選択する余地はなく,需要の代替性がない。上記①から③の事情は,試作対象品種やその結果としての推奨品種が複数あり,これが交代し得ることを示すものであるが,試作の対象品種を巡る競争がそのまま販売市場における競争になるわけではないし,試作の対象となる品種は全体の1割にも満たないから,国内の販売市場に品種間競争があることの根拠とはならない。
イ 元詰種子の選択に際し価格は考慮されていないから,元詰種子には品種問価格競争はない。
〈ア〉 本件審決は,農協が,推奨品種の決定に当たり,価格にほとんど関心を払っていない状況が認められるが,にもかかわらず,①農協は,農家が推奨品種がどのような価格であっても購入すると考えているわけではなく,比較対照した他の品種あるいは前年度の単価とそう大きく変わらないとの認識の下で品種選択を行っていること,②産地では同一品種に関する小売店同士の価格競争は行われており,これによりある品種の価格が低下することになれば,品種間の価格バランスから同様の特性を有する他の品種の価格にも影響が及ぶことがあり得ること,③各社の代表者等は,各社が同じような価格で取引先に販売することにより流通段階での値崩れを防ぐ旨の供述をしており,これは潜在的に価格競争が存在するとの元詰業者の認識を示しているものと認められることから,需要者とりわけ産地における品種選択において品種間価格韓争が顕在化していないとしても,品種間価格競争が存在しないということはできないと判断している。
(イ) しかし,①は,産地の農家と元詰業者との間に法外な値段での商売はしないであろうとの信頼関係が存在することを示唆するもので,品種相互間に代替性がなく,農協及び農家が適性品種を選択して購入することから,元詰業者は,本来自由に価格を設定し得るが,農家との信頼関係を維持するために,法外な価格設定により自らの利益のみを追求しなかったに過ぎないし,本件審決が①の摘示の前提としている供述は,極端な価格設定がされれば購入しないというに過ぎず,現実に,指定産地の主要品種の価格には相当のばら,つきがあるとの証拠(審A11)があるから,上記摘示は,実質的証拠を欠いている。
また,②の同一品種に関する小売店同士の競争は,農家が購入する品種が決定した後の問題である上,他の品種の価格に影響が及ぶことがあり得るとの点については,実質的証拠を伴わない審判官独自の見解に過ぎない。現に,本件違反行為が終了した後にも元詰種子の価格は変わっていないだけではなく,かえって値上りしているのであり,これは品種間に代替性が存在しないという商品特性に由来している。本件審決が③の根拠としている供述調書における供述は,産地における元詰種子の選択問題に配慮しない一般的抽象的な内容であり,産地における品種間価格競争の存否という問題については一切証明力を有しない。
(ウ) 本件審決は,元詰業者が競合品種の価格を意識して販売価格を定めていることにつき,品種間価格競争がなければあり得ないと摘示しているが,品種間価格競争がないとしても,対価を設定する必要があり,その際には品種特性が近い他の品種を目安とするしかないのであって,競合品種の価格を意識することと品種間価格競争がないこととは矛盾しない。
(エ) 野菜栽培農家による元詰種子の品種選択において考慮されるのは,自己の圃場で商品価値の高い野菜を効率的に栽培することのできる特性を有する品種はどれかというものであり,価格が考慮要素となることはほとんどない。
被告は,野菜栽培農家が種子を購入する際,価格が競争手段として機能していることを,長妻英樹(以下「長妻」という。)の参考人審訊における供述を引用して主張しているが,野菜栽培農家が野菜栽培に要するコストを考慮することは経営上当然のことであるものの,種子代の比率は,キャベツで2.8パーセント,はくさいで0.9から1.0パーセント,だいこんで5.3から5,7パーセント,かぶははくさいと同程度というように他の農業生産資材と比べて非常に低いため,種子の購入に当たって価格はほとんど考慮要素とはなっていない。このように,元詰種子の販売価格は栽培品種の選択を誤ったことにより野菜栽培農家が被る損失の額と比べて無視できるほど低いから,野菜栽培農家が種子の価格より種子の品種特性を考慮するのは当然のことである。
野菜栽培農家が栽培する品種は農協等が試作を行って選定することが多いが,選定時には当該品種の品名すらつけられておらず,販売価格も全く決まっていないことが多いし,野菜栽培農家が農協等に注文する段階でも注文書に価格が記載されていないことが多い。商慣習として種子代金の回収がされるのは年2回であることが多く,元詰種子の小売価格は出荷後に決まるのが通常であり,このことは,野菜栽培農家が元詰種子の購入品種を決定する際に価格が考慮要素とされていないことを示している。また,販売業者が元詰業者から仕入れる場合にも,野菜栽培農家の品種選択を無視して仕入れることはできないから,同様に野菜栽培.農家にとって商品価値の高い野菜を効率的に生産することのできる品種であるかが考慮要素であり,価格ではない。
(オ) 潜在的に品種間価格競争が存在するとの本件審決の認定は,産地における購入品種は価格によって選択されるものではないとの多くの参考人.供述を無視するものであり,一般に潜在的競争といっても,競争が顕在化するある程度具体的な可能性を必要とするものであるところ,これについても実質的証拠を伴っていない。
(2) 仮に価格競争があるとしてもわずかであるから,本件合意の存在により実質的に競争が制限されるとはいえない。
元詰種子の品種間価格競争を認識するものは元詰業者の一部に過ぎず,多数の元詰業者並びに取引先である販売業者及び農協は価格は考慮要素とならないと認識しており,品種間価格競争が存在するとしても競争全体の一部に過ぎないのであって,品種特性に関する競争が制限されていない以上,競争を実質的に制限したことにはならない。
競争が実質的に制限されるとは「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者団体がその意思である程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」ものと解すべき(東京高裁昭和28年12月7日判決・判例時報19号11頁)であるところ,一般に価格を特定事業者らの意思によってある程度自由に左右することができれば,通常はこれにより市場を支配することができる状態がもたらされるといえるが,必然ではなく,競争が主として価格以外の要素を巡って行われているような場合には,主たる競争要素が阻害されていない限り市場を支配することができる状態がもたらされない場合もあり得る。元詰種子の品種間価格競争が全く存在しないわけではないが,元詰業者による元詰種子の販売分野における競争は,専ら品種間の特性に関する競争であって品種間価格競争は乏しく,仮に品種間価格競争が制限されたとしても品種間の特性に関する競争は一切制限されていないから,元詰業者による元詰種子の販売分野における競争制限の程度は,実質的なものではない。
本件審決は,本件合意による一定の取引分野における競争制限が実質的な程度にまで及んでいることについての認定をしていない。
(3) 本件合意が存在しても価格競争が可能であるから,本件合意は,実質的に競争を制限するものではない。
価格表価格からの値引き及び割戻しの率及びその適用の有無については,32社間で合意がないのであるから,各元詰業者の間では自由に競争的に値引き・割戻しができるのであり,元詰種子の市場は競争状態におかれているといえる。
本件審決が,価格表価格を個別の取引に適用するに際しては,需要動向等に応じ取引先と価格交渉が行われるのであるから,必ずしも価格表価格の変動を反映した販売価格が実現するとは限らないのは当然であるとしながら,実際の販売価格の動きは価格表価格の動さと連動するということができると認定するのは一貫性を欠いており,その認定には実質的証拠がない。
(4) 本件審決は,相互拘束・共同遂行される行為が競争の実質的制限という効果に結びつく場合に限り独占禁止法2条6項に該当するとする独占禁止法の立場に沿っていない。
本件審決は,不当な取引制限は,価格や値上げ幅を具体的に決定しない限り成立し得ないということはなく,各事業者が行う経済活動は本来自由に競争できることが前提であるところ,事業者の自由な活動が制限され,それによって,価格等の取引条件がある程度左右され,市場支配されるときは,競争が実質的に制限されているということになるとして,相互拘束から直ちに競争の実質的制限を結びつける合理的根拠のない見解を述べている。しかし,不当な取引制限による競争の実質的制限は,①会合や情報交換を通じて協定・合意が形成,遵守され内部的な競争の回避が生じ,かつ,それにより当事者が集団として単一の行動を取ること,②市場において競争を通じて決定されるべき事項が結合した事業者の意思により決定されていることという2つの面から発生するのであり,具体的な価格,出荷量,販売地域等に影響を与え得るものでなければならない。本件合意は将来基準価格を決定することについての約束であり,基準価格の金額,値上げ幅等の具体的な内答,基準については何らの合意もされていないし,値引き・割戻しの適用について意思の連絡が存在せず,基準価格から実際の販売価格を設定するための具体的な方法についての合意もなく,各事業者による実際の販売価格の設定について目安となり影響を与え得るような内容は一切含まれていないから,実際の販売価格は,各元詰業者がそれぞれ独自に設定し得る。また,事業者が相互に将来の価格設定を予測してその行動基準を遵守するという関係の成立を認めることができない。したがって,事業活動の相互拘束が認められることはないし,そもそも,市場における競争機能に有効な影響を与え得ないものであるから,本件では不当な取引制限は成立しない。
受注調整カルテルにおける基本合意も,特定の受注予定者が直ちに定まるものでないが,取引の相手方を制限することを主たる内容としており,個別案件ごとに,入札参加者間,受注希望者間で話し合うことを抽象的包括的に事前に申し合わせること自体,個々の入札が予定する競争を包括的に回避する合意であり,合意の効果が及ぶ単一の一定の取引分野全体の競争制限行為と評価できるものである。これに対し,本件では価格カルテルが問題になっているのであるから,基準価格から実際の販売価格を設定するための具体的な方法が決められていることを要するものと解すべきであり,被告は,この点において独占禁止法の解釈を誤ったものである。
被告は,32社の市場シェアが高いことから,本件合意自体が事業活動を相互に拘束し,一定の取引分野の競争を実質的に制限していると主張している。確かに,当事者の市場シェアが不当な取引制限における競争の実質的制限を認定する際の一要素であることは否定できないが,不当な取引制限との関係では,どの程度の市場シェアの事業者が集まれば違反になるのかではなく,市場全体をどのように変化させたか,市場にどのような影響を与えるものかという質的な問題であるという点で本件審決にはとらえ方の誤りがある。
(実質的競争制限についての主張に対する被告の反論)
(1) 品種間競争は存在しないとの主張について
原告らの主張の(1)ア記載の①から③の事情から,需要者は,同一品目の野菜の元詰種子の品種相互間で一定の代替性が認められることを前提に,土壌や作型への適性について多くの品種を比較検討し,相対的にふさわしい品種を選択しているものといえるのであって,元詰種子に関して品種間競争が存在しないとの主張は失当である。
(2) 品種間価格競争が存在しないとの主張について
ア 一見すると,農家及び農協は,品種の特性によって種子を選択しており,価格競争はないようにみえるが,価格が比較対照をした他の品種あるいは前年度の単価とそれ程大きく変わらないとの前提に立っており,言いかえれば,価格が所与のものとされているのであって,実際にもこれと異なる状況がみられないことから,種子を選択するに当たり価格を意識することなく品種を決定することができるというに過ぎない。元詰業者間において元詰種子の価格が決められており,このような状況が長年にわたって続いていることから,農家及び農協は,価格を選択の要素とする必要がなく,このために品種間価格競争が顕在化しないというだけで,価格競争は存在している。
イ 価格競争の存在は,①元詰業者らは一方的に価格を引き上げることができないという現実,②価格を引き上げるに当たって他社との価格バランスを考慮せざるを得ないこと,③流通段階での値崩れを防ぐことが必要であると考えていることから認定することができる。
上記①及び②について,仮に品種が異なる種子の間に需要代替性がないのであれば,一方的に価格を引き上げれば足りるにもかかわらず,元詰業者らは現実にはそのようなことはできず,一方的に価格を引き上げれば他の種子に取って代わられ,あるいは当該業者が事業継続に困難をきたして排除され,淘汰されると考えている。品種特性が,種子の選択の重要な要素であるとはいえるが,栽培農家は生産費用については極めて敏感であり,ある種子が農家にとって代替性が低いとしても,その種子の元詰業者が一方的に価格を設定することが困難であることは,討議研究会において,値上げしたいのが本音であるが農家の実情を踏まえると困難であるとの発言が多数出ていること(査123,147,224,232,244)から窺われる。
このような事情に鑑みれば,元詰業者は価格を設定するに当たり,ひとり高価格を設定することはできず,同等品種,類似品種とのバランスを考慮せざるを得ず,他社と競合する既存の品種の売り上げを維持するため,他社の類似品種の価格動向を考慮しているのである。
原告らは,農家等との信頼関係を重視して値上げを自粛していたと主張するが,信頼関係の維持には営業上のメリットがあるのであり,ある業者が値上げしたが他の業者が値上げしなければ,値上げした業者は信頼関係を失い,また,ある業者の値下げは,信頼関係の維持のため他の業者が値下げせざるを得ない要因となるから,ある種子の価格の上下が他の種子の価格に影響を与えるといえる。他社との価格バランスを考慮せざるを得ないというのはその意味にほかならず,信頼関係の増大を狙って値下げをし,あるいは据え置くことは,まさに価格競争の一環であるということができる。
また,同一品種内では流通段階において価格競争が行われているところ,これにより当該種子の価格が低落すれば,これに類似ないしは同等の性質を有する種子の価格もバランスに配慮して低価格に押さえざるを得ないことになり,品種内の価格競争が同等類似品種の価格に影響を及ぼすことになるのであって,32社の代表者等の供述からは,同じような価格で販売先に販売することで流通段階での極端な値崩れを防ぎ,値上げできるときは値上げをするという共通の認識があったことが認められる。
ウ 元詰業者は,販売業者に対する値引率を大きくすることにより自社の種子を多く取り扱ってもらおうとしたり,他社の競合品種が入る,あるいは入りそうな卸売業者に対しては値引率を大きくして対抗しようとしているが,このような行為が品種間価格競争が存在することを前提とすることは明らかである。多数の元詰業者が価格により需要者が種子を選択することを認識して価格を設定していることから,産地における品種間で競争の可能性があることが認められるのである。
また,元詰業者らは,新品種と同様の特性を有する競合品種の価格を意識して販売価格を定めているのであり,これは,品種間に価格競争があることを前提にしなければあり得ない。原告らは,他社の価格を参考にするしかなく,競合品種の価格を意識することは品種間価格競争がないことと矛盾しないと主張するが,他社の価格を参考にすることなく決定をすることは可能であり,他社の価格を参考にするのは,自社だけ高値をつけると需要者である野菜栽培農家において受け入れられず,他の品種に取って代わられる可能性があるという認識を持っていることによることが推認され,これは競争を回避しようとしていることにほかならず,単に価格を参考にしているというのとは異なる。
エ また,産地にも価格競争があることは,耐性品種CRは根こぶ病を抑える農薬代等が節約できることから導入されたものであるとの長妻の参考人審訊における供述から認められ,農家は栽培費用を常に計算に入れており,種子の価格も例外ではないから,農家における種子の選択において価格が考慮要素となっていないことはない。種子の価格が2倍になっても,農薬代等の生牽コストが下がらなければ農家がこれを受け入れることはないのであって,種の価格を考慮しない旨の供述は,これまでの品種間の価格差がわずかである状況において価格を考慮する必要がなく現にしてこなかったことを述べたに過ぎない。
産地においても品種の厳格な管理を行っている農協,栽培農家は限定されており,平成13年における全国出荷量のうち,共同出荷によらないものは,キャベツ23.9パーセント,はくさい26.2パーセント,だいこん49.9パーセント,かぶ54.3パーセントで,共同出荷が行われていない野菜が相当あるし,本件4種類につき,春野菜及び秋冬野菜について作付面積及び収穫量からみた指定産地の割合は,平成13年度(平成13年4月1日から翌14年3月末日まで)において18.9パーセントから61.3パーセントと限られたものとなっている。指定産地であっても,収穫された野菜の全量が共同出荷されるわけではなく,共同出荷を実施している農協でも,農協に抑入している野菜栽培農家の中には共同出荷を利用しないものもいるから,産地における全出荷量に占める共同出荷の割合が必ずしも高いわけではないし,共同出荷が行われている場合でも,収穫野菜の形状が均一でなくても共同出荷の基準に適合する品質を有するものとして同一時期に同一ブランドで共同出荷する例もあり,共同出荷を利用しない場合や共同出荷しても品質管理が厳格ではない場合には,推奨品種以外の種子を使用して栽培する可能性があり,その場合の種子の選択は各栽培農家の判断に委ねられている。
したがって,産地においても必ずしも指定品種,推奨品種だけではなく様々な品種の種子が使用されており,品種のみで種子を選定するわけではないから,産地における品種選択において,品種間価格競争が顕在化していないとしても,品種間価格競争が存在しないとはいえない。
オ 原告らは,本件違反行為終了時期以降も4種類の元詰種子の価格は変わっておらず,むしろ一部の品種では値上りし亡いると主張しているが,価格は市場の状況により決まるから,現在まで変わっていないとしても不思議はないし,価格カルテルは,価格設定に向けた事業者の自由な事業活動が人為的に制限されていたこと自体が競争を実質的に制限する点を問題にするものであって,その拘束が消滅した後価格がどのように変化したかは問題ではない。
原告らは,基準価格の必要性について,安定供給や価格の変動を避けるためと主張しており,結局元詰種子にも価格競争があり,基準価格の決定が実際の販売価格形成に大きく影響を与えることを自ら認めるものであるし,需要者のための安定価格,安定供給という名目による基準価格や標準価格の決定が独占禁止法,その保護法益である自由競争経済秩序において正当なものと予定されていないことは明らかである。
(3) 品種間価格競争がわずかであるとの主張について
価格競争が存在する以上,これを制限する影響がわずかなものに止まるとはいえないし,それだからこそ,原告らも本件合意のもと,基準価格や価格表価格を決めてきたのであるから,原告らの主張は失当である。
(4) 本件合意が存在しても価格競争が可能であるとの主張について
不当な取引制限にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,競争自体が減少して特定の事業者又は事業者団体がその意思である程度自由に価格,品質,数量その他各般の条件を左右することによって市場を支配することができる状態をいうのであって(東京高裁昭和28年12月7日判決・判例時報19号11頁),特定の事業者又は事業者団体が完全に価格,品質,数量その他各般の条件を左右し得る必要はないのであるから,元詰種子の販売市場において大部分のシ土アを誇る元詰業者間で本件合意に基づく価格調整が行われている以上,個別の取引において需要動向等に応じて取引先との間で価格交渉が行われることがあっても,交渉の出発点となる価格が本件合意の影響下にあると考えられ,競争の実質的制限が否定されることにはならない。
(5) 実質的競争制限についての独占禁止法の解釈に誤りがあるとの主張について
本件合意は価格や値上げ幅等を直接具体的に決めるものではないが,競争の実質的制限が認められるためには,価格や値上げ幅が具体的に決定されなければならないものではなく,本来自由に競争し得る各事業者の経済活動が制限され,それによって価格等の取引条件がある程度左右され,市場支配されるときは,競争が実質的に制限されているものといえる。
本件では,「各社は基準価格の前年度からの変動に沿って,当年度に自社が適用する価格表価格及び個別取引における販売価格を定めて販売すること」が合意されており,毎年の討議研究会における基準価格の設定を通じて,前年度の基準価格との比較により,その変動額又は変動率に従って各社の各品種の価格表価格が概ね自動的に決まる仕組みになっているから,各元詰業者が販売する種子の価格が本件合意により相当程度左右されることは明らかである。
また,32社の市場シェアは,平成12年度(平成12年4月1日から翌13年3月末日まで)において,はくさい98.7パーセント,キャベツ91.5パーセント,だいこん92.7パーセント,かぶ94.9パーセントであり,このような高いシェアのもとに本件合意が存在すること自体,本来市場において自由な競争により形成されるという価格決定の過程に制限を加えるものであり,各社の具体的な価格,値上げ幅等を決定するものでなくても,これにより事業者の事業活動を相宜に拘束し,それ自体が一定の取引分野において競争を実質的に制限するものであるし,本件合意に基づいて,現に毎年3月討議研究会で基準価格が決定され,各社の価格がその変動率に依拠すべきものと相互に強く認識されていることは平成10年から平成13年までの討議研究会における意見交換の状況等から明らかであり,各事業者の価格表価格も基準価格の変動率に準拠していることから,本件合意は,元詰業者らの事業活動を拘束し,競争を実質的に制限するものである。
8 一定の取引分野のとらえ方が相当でないことについて
(原告らの主張)
(1) 元詰種子については,各年度ごと,各野菜ごとに取引分野が画定されるから,年度を超えた競争制限効果はない。
本件審決は,平成10年度から平成13年度までを通じた一定の取引分野を画定し,年度ごとに基準価格を設定するのは時々の需給関係を価格に反映させる必要があるからに過ぎず,年度を超えた長期にわたり継続する取引市場の存在が否定されることにはならないし,毎年新たな競争関係が一から形成されることにはならないとしており,これについて,被告は,①元詰業者とその取引先との取引は年度を超えて継続されており,毎年新たな競争関係が形成されるわけではないし,②本件違反行為は,平成エ0年度から平成13年度にわたり,本件合意が存在することにより,一定の取引分野の競争が実質的に制限されたとするものであり,違反行為である合意の内容からしても,各年度ごとに一定の取引分野を画定して判断するようなものではなく,元詰業者らは基準価格の決定及びこれに基づく価格表価格の決定が1年だけのものではなく毎年継続されることにつき認識・認容しており,③具体的金額,値上げ幅ではなく,前年度からの価格動向によって価格を統制するのは,価格の動きを1年限りではなく継続的に統制しようとする共通の意思の現れであると主張している。
しかし,一定の取引分野とは,当該合意の競争制限効果が及ぶ範囲,競争関係の成立を規定するための観念的前提概念で,当該行為の影響が及ぶ範囲との関係でとらえられるべきものであるところ,時々の需給関係を反映させる必要があるとすれば,各事業者問の競争関係も年度ごとに異なるはずであり,本件合意の効果は当該年度にしか及ばないはずである。また,元詰種子は次世代にはその特性を失うため,当該年度の種子と次年度の種子とは需要者からみて代替関係にはなく,毎年生産し,販売し,これを購入する必要がある商品であり,種子の作柄が天候等に左右されて毎年異なることから,その需給関係,これに対応した価格設定もそれぞれの年ごとに変動するのであって,種苗業者による交配種の生産販売活動における競争関係は,各年度ごとにそれぞれ独立して別個に成立しているはずであり,当該競争制限行為の効果が及ぶ範囲は当該年度を超えることはない。
本件合意に期間の限定のないことを唯一の根拠として一定の取引分野を年度を超えたものであるとした本件審決の認定は実質的証拠を欠くし,一定の取引分野が野菜の種類ごとに成立すると主張する一方,4種類の元詰種子を含めた単一の合意における複数市場の競争の実質的制限を認定するなど本件審決の認定は相互に矛盾しており,一貫性がない。
(2) 産地には本件合意の競争制限効果は及んでいないから,一定の取引分野に含まれない。
本件審決が認定する一定の取引分野は,我が国における4種類の元詰種子の各販売分野であるが,当該合意による競争制限効果の及ぶ範囲をもって一定の取引分野と解すべきであり,産地では品種間価格競争が存在していないことが証拠上明らかであるから,産地には本件合意の競争制限効果が及んでおらず,これを除外すべきである。
したがって,本件審決のうち,産地を含む一定の取引分野を認定する部分は実質的証拠を伴わない事実誤認である。
(3) 一定の取引分野は,農協及び大卸とされるべきである。
本件審決は,「一定の取引分野は,競争制限効果の及ぶ場であって,単一の取引段階について画定されるべきものではない。本件においては,元詰業者の販売先がいくつかの取引段階に分類され得るとしても,元詰業者は,最終的には需要者に販売されることを前提として取引形態ごとの価格設定をしている実態があるのであるから,直接の取引先の取引段階が異なるとしても,元詰業者が最終的には需要者向けとして販売する分野として一つの一定の取引分野を画定することができる。」と判示した。
しかし,一定の取引分野は,売り手側と買い手側の競争の及ぶ範囲により画定され,不当な取引制限は基本的に競争関係にある売り手側の競争の及ぶ場であるから,原則的に単一の取引段階であり,これを超えて一定の取引分野を画定するにはそれなりの特段の状況が必要である。元詰業者は,卸業者か卸兼小売業者,農協を介して需要者に販売するのであり,小売業者に販売するとしても部分的であって,討議研究会が小売価格を決めていたのは,これを100として,一定比率を乗じて,農協,共購,大卸向けの価格を決めるためであるから,元詰業者,卸売業者,小売業者及び農協を含めて一体として一定の取引分野を画定するのは誤りである。小売価格は小売業者に販売する金額でも,小売業者が販売する金額でもない。
基準価格は主に農協向けと大卸向けに決定されているから,取引分野は農協及び大卸によりそれぞれ画定されるべきものであり,課徴金の納付が命ぜられる制裁的性格を有するものであることからも,一定の取引分野をいたずらに拡大する本件審決の判示は相当でない。
(一定の取引分野についての主張に対する被告の反論)
(1) 年度を超えた競争制限効果がないとの主張について
実際に販売される元詰種子が翌年に持ち越されるものではないとしても,元詰種子の取引は毎年続いており,毎年新たな競争関係が形成されるわけではない。本件違反行為は,平成10年度から平成13年度にわたり,本件合意が存在することにより,一定の取引分野の競争が実質的に制限されたというものであり,毎年の基準価格の決定等は違反行為の実施行為に過ぎず,本件合意の内容からしても,毎年一定の取引分野を画定して判断するようなものではない。
(2) 産地は一定の取引分野に含まれないとの主張について
産地においても品種問価格競争があることは7において既に主張したとおりである。
(3) 一定の取引分野は農協及び大卸とすべきであるとの主張について
一定の取引分野を判断するにあたっては,取引段階等既定の概念によって固定的にこれを理解するのは適当でなく,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定して一定の取引分野を決定するのが相当である(東京高裁平成5年12月14日判決・判例タイムズ840号81頁)。
不当な取引制限の場合,違反行為の効果が複数の取引段階に及ぶこともあり,単一段階の取引にしか競争制限効果が生じないとはいえない。元詰業者にとっては,農協,小売業者,卸売業者のいずれも直接の取引先であることには変わりがなく,現実に,それぞれの基準価格及び価格表価格を決定して,取引段階が異なる取引先に対する価格を本件合意の対象としているし,最終的には需要者に販売する価格を前提として業者のマージンを除いた価格を定めているのであるから,本件合意の影響は,一体として各取引段階に及んでいるといえる。
本件合意は,元詰業者が直接の取引先への販売について最終的な需要者への販売を前提に価格を決定するというものであり,本件合意によりこれらの価格は一体として影響を受けるものであるから,特段の事情を付加することなく,その全体を一定の取引分野における競争を実質的に制限するものととらえることに問題はない。
なお,32社が,それぞれ元詰種子を,国内において,野菜栽培農家,一般消費者に対し,直接に,又は卸売業者,小売業者,農協若しくはその連合会を通じて販売していることは,実質的証拠により立証されている(第2の2(2)ウ)し,小売価格,共購価格が価格表に設定されており,基準価格の決定が行われているのであるから,ほとんど実績がないとして無視し得るようなものではなく,これらを含めて一定の取引分野を画定するのが適当である。
9 本件審決には,法令違反があることについて
(1) 過去に同様の事件があったときはこれを不問としたこととの関係について
(原告らの主張)
被告は,昭和32年,日種協の前身である全種連の卸売部会が,作柄及び市況の見通し等について情報交換の上,蔬菜種子の卸売最低標準価格を決定し,会員にこれを実行させるよう指導していたことについて,独占禁止法違反の嫌疑で審査を開始したが,特に問題にすべきほどの影響はないとして不問に付した。これを受けて,全種連及びその後身である日種協は種子の価格検討行蔚を継続してきたものであり,被告の上記行論は一つの法的基準を形成したもので,行政法上の確定力を有するものであるから,被告に対する信頼の観点からも,再度訴追するためには,その前に警告をするなど基準を変更することを関係者に知らしめる必要があり,予告もなく基準を変更することは違法である。
本件審決は,昭和32年の不問とされた事件は本件とは異なる違反被疑行為について事件処理をしたものであって,禁反言の原則の適用を論じるまでもないと判断したが,本件で問題とされている行為は,昭和32年に被告が不間に付した行為と同一であり,これと異なるとした本件審決の判断は,実質的証拠に基づかないものである。
(過去の不問事件に係る主張に対する被告の反論)
昭和32年時点に行われていたのは全種連の行為であり,本件行為とは異なるし,被告は,当該事案について判断をしたに過ぎず,種子の基準価格の設定一般について判断をしたものではない。対象とする行為が別個のものである以上,事前に警告をするなど予告をしなくても禁反言の原則に反しないし,不可変更力の問題も生じない。
仮に,対象とする行為が同じであったとしても,その後,当該取引分野の販売事業者の規模,数,シェア,需要者側の動向等の状況が変化することはあり得るのであり,社会経済情勢は著しく変化しているから,一旦不問に付したとしても,その後の状祝の変化により同様の行為について処分の必要があると判断される場合もある。
被告の独占禁止法運用の集積が事実上の基準を形成することはあり得るとしても,それが直ちに法的基準を形成するものではないし,事件を立件するか否かは被告の裁量に委ねられているから,不問としたことだけで当該分野における事実上の基準が形成されるものではない。被告は,昭和54年8月には「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(現在のものは平成18年4月改訂)を作成し,広く周知活動等を行っており,これには,事業者団体が法律上の根拠もなく,標準価格,基準価格,目標価格等の価格設定の基準となるものを作成決定することは原則違反になると明確に記載されているから,昭和32年に不問に付されたからといって,個別に事前の警告等がない限り摘発を免れ得るなどと発想すること自体が失当である。
そもそも,元詰業者らは,日本かいわれ協会が被告の審査の対象となったことなどから,遅くとも平成6年2月頃までには基準価格の決定が独占禁止法に抵触する可能性があることを認識していたにもかかわらず,これを継続し,価格協定であること疑われないようメモ等の書類を残さないようにするなどの対策を検討して本件合意を維持し,基準価格を決定する策を講じ続けたものであるから,違反行為となることについての認識もあったものというべきである。
(2) 審判合意と本件合意とは異なっており,このことにより被審人らの防御の機会が閉ざされたことについて
(原告らの主張)
ア 本件合意の認定は,本件審判の対象とされたところから著しく逸脱しており,違法である。
審判合意は,「32社は,遅くとも平成10年3月19日以降(後藤種苗及び雪印種苗にあっては平成13年3月14日以降),4種類の元詰種子について,販売価格の低落の防止等を図るため,種類ごとに,各社が販売価格を定める際の基準となる価格を毎年決定し,各社は当該基準価格の前年の基準価格からの変動に沿って各社の4種類の元詰稚子の品種ごとの販売価格を定めて販売する旨の合意」をしていたというもので,その実施行為が毎年開かれる討議研究会の決定であるとしており,本件合意とは,討議研究会の決定と合意との関係が異なっているなど,その内容が著しく乖離している。本件合意は,毎年の基準価格の決定を討議研究会の決定に委ねるというものであるが,審判合意ではこれに触れていないし,審判の’過程でそのような主張がされたこともなかったから,原告らは防御の具体的な必要性を考える契機も与えられていなかった。
また,本件合意(第2の3(3))のうちイ及びウは,審判開始決定では実施行為とされ,不当な取引制限の成立要素となるものとされていなかったのに,本件審決では具体的内容を織り込む必要に迫られたため本件合意の内容とされ,拘束性を有するものとされているし,同工及びオは,審判開始決定に記載されておらず,審判手続において審査官も,合意の実施方法として,各社がどのように価格表価格等に決まったことを反映させるかの具体的方法についてまで32社が合意していたと主張するものではないとしていたのに,本件審決ではこの方法まで合意の内容に含まれている。
本件審決の認定は,審判開始決定書の記載事実と同一性を害し,審判の対象となるところを著しく逸脱するもので,審理全体の経過からみて被審人らに防御の機会を閉ざしたものであり,違法である。審判開始決定と異なる事実を認定するためには,審判開始決定の事実の変更を要し,手続が糾問的手続であるとしても釈明権の行使は必要であるから,釈明権の不行使として手続違反を免れない。
さらに,本件審決の法令の適用に記載されている本件違反行為は抽象的で,審判合意と同一であって,本件合意とは異なっているから,法令の適用の対象を確定できないし,法令の適用が,審判合意に対するものか本件合意に対するものか不明であり,違法である。
イ 本件合意のうちアの内容について32社相互に認識があったことについては本件審決で触れられておらず,違法である。
本件合意のうちアにより,討議研究会が事業者団体の行為であるとしてもその価格決定が32社の価格決定であると評価することができるというとすれば,上記のような合意の存在を審査官は全く主張していなかったから,本件合意の存在を認定することは審判の対象を逸脱した認定であり,被審人らの防御の機会を無視したものであるから,違法である。
(審判合意と本件合意が異なっているとの主張に対する被告の反論)
ア 独占禁止法では,被告は,違反行為があり,公共の利益に適合すると認められるときに審判手続を開始するが,そめ段階では何ら法的処分はされておらず(勧告は相手が応諾して勧告審決がされない限り処分ではない。),その後の審判手続を経て排除措置が命じられるものであり,審判はこれに向けた行政聴聞手続であって,民事又は刑事の訴訟手続とは性格を異にするものである(最高裁昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁)し,対審構造型の争訟的聴聞手続をとっているが,審判官においても職権で取調べをするなどの権限が与えられており,基本構造は’糾問訴訟的形態となっている。
審理の結果,当初の審判開始決定記載の事実と事実認定が変化することはあり得るところであり,そのような変化を最終的な処分である排除措置に反映させる必要があることも論を待たない。
被審人らの防御の利益を確保するため,処分において対象となる事実は,審判開始決定記載の事実と社会的に同一の事実関係の範囲内であり,また,被審人らの防御権を侵害しないものでなければならないが,審査官は上記制限内においては主張を変更することが可能であるし,十分な防御の機会を与えた上での審理の結果に基づくものであるときには,審査官の主張変更がなくても審決において対象となる事実を認定することができるものというべきである(最高裁昭和29年5月25日第三小法廷判決・民集8巻5号950頁,最高裁昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁)。
イ 審査官は,実施方法の部分についてまで合意の中に含めずに主張していたが,審理の結果,審決において違反行為がより具体的に認定されることは審判の構造上当然あり得ることであるし,本件審決は,実施方法を合意の内容とすることで合意内容をより具体的にしたものであるに過ぎず,事実の同一性を害しないことは明らかである。審判合意に実施方法が含まれていないとしても,個別の実施行為である毎年の基準価格の決定の具体的方法が審判開始決定に記載されており,個別の実施行為がこれに従って行われていたことについて十分な主張立証が尽くされていれば,個別の実施行為の具体的方法が基本合意に含まれており,これが実行に移されていたという推認がなされ得ることは容易に予測し得るところであるから,個別の実施行為の具体的方法を基本合意に含めて認定しても被審人らの防御の機会を閉ざすものではない。また,実施方法を含め本件合意の内容とされる事実は既に審判開始決定に記載されていたものであり,審査官は,違反行為である合意について,32社による共通の認識の存在及び毎年の実施行為から立証するとしていたから,実施方法に係る事実も審理の対象となっており,被審人らも攻撃防御を尽くしてきたのであるから,実施方法について,審査官の主張によって明らかにされ,防御の機会が与えられていたものといえる。
したがって,本件審決が,毎年基本合意の内容に沿った実施行為が行われていることにより,定型的な実施方法が存在することを推認し,実施方法を基本合意の内容に含めて認定をしても,告知を受けない事実を認定したものといえず,不意打ちとなることはないし,釈明権等を行使しなかったとしても手続違反となることはない。
(3) 本件審決における本件合意の内容は,文言上不明確で主文の記載として法令違反であることについて
(原告らの主張)
独占禁止法90条3号は,排除措置命令に従わない者に対し刑事罰を課しているから,何人においても疑いなく排除措置の対象が特定し,明確であることを要するところ,本件審決が違法とする合意は,基準価格を決定し,販売価格を定め販売する旨の各年のその都度の合意を指すのか,これとは別の包括的合意を指すのかが判然としないし,本件審決理由中の32社の合意内容と排除を命ずる主文の合意とは同じではない。これは,合意の主体,時期,内容を特定する努力を怠った結果,これが未整理のまま混同されたことによるものであり,基準価格と取売価擦の関係,その定め方等が明らかではなく,合意内容が特定していないから,法律的には本来の合意の意味を有していない。
(4) 本件審決が手続的公正に欠けることについて
(原告らの主張)
本件審決は,審査官の主張に触れることなく,被審人らの主張に対し否定的判断をするもので,審判官の判断構造は手続的公正に欠け,バイアスがあるものというべきである。立証責住を負う’審査官の主張を容れることができるかどうかについて判断を示した上で被審人らの主張に対する判断をすべきである。
(本件審決が手続的公正に欠けるとの主張に対する被告の反論)
本件審決は,不当な取引制限の主要事実等に係る審査官の主張について,審決案の「理由」第1(事実及び証拠)で判断認定しており,各争点に対する審査官及び被審人らの主張を同第3(双方の主張)にまとめ,その上で同第4(審判官の判断)で被審人らから提起された具体的な問題点を取り上げているものであって,原告ら主張の違法はない。
(5) 本件審決が競争の実質的制限に関する被告の認定事実を審決書に示していないことについて
(原告らの主張)
本件審決は,32社のシェア,本件合意の存在,基準価格の決定,32社の販売価格設定の状況等を認定するに止まり,元詰種子のシェアが,競争の実質的制限に関する事実認定として摘示されたものとは了知できないし,上記の点が競争の実質的制限に関する事実認定として摘示されたことを示す記載は一切見当たらないから,これだけでは,競争の実質的制限に係る認定事実としては不十分であり,独占禁止法57条1項に違反し,同法82条2号により取り消されるべきである。
(審決書の記載についての主張に対する被告の反論)
独占禁止法57条1項の要求する記載がされているかどうかは審決書の記載全体から判断すべきである(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決・判例タイムズ1242号114頁)ところ,本件審決は,32社の合意について認定し(第1,5),基準価格の決定及び32社の販売価格の設定状況(同6),競争の存否を含む一定の取引分野の画定,本件合意の存否,本件合意の相互拘束性,供述調書の信用性を判断しており,これらを総合すると本件合意が競争を実質的に制限するものであることは明らかであり,項目を立てていないだけで,本件審決には独占禁止法57条1項違反はない。
10 本件において排除措置を命ずることが違法であることについて
(原告らの主張)
(1) 本件においては,既に違反行為がなくなっているのであるから,特に必要があると認めるときに限って排除措置を命ずることができるのであるが,本件はこのようなときに当たらないので,排除措置を命ずることは違法である。
上記の「特に必要があると認めるとき」については,当該違反行為が将来繰り返されるおそれがあるときや,当該違反行為の結果が残存しており,競争秩序の回復が不十分であるときがこれに当たるものと解される(東京高裁平成16年4月23日判決・判例タイムズ1169号306頁)。この点につき本件審決は,①長期間にわたり協調関係が確立,維持されていたこと,②違反行為が終了した経緯は,被告が立入検査をしたという外部的要因に基づくものであったことから,被審人らが本件違反行為と同一ないしは社会通念上同一性があると考え得る行為を将来繰り返すおそれがあるものと認定した上で,要件への該当を肯定している。しかし,
ア 被審人らは,既に元詰種子の販売価格に関する話合いを行わない旨の申合せを行っており,日種協も元詰部会を廃止し,事業者間で作柄及び価格について情報交換を行い基準価格を決定する機会は存在しないから,今後本件合意と同一ないし社会通念上同一性があると考え得る行為を繰り返すおそれはない。
イ 本件審決が理由として挙げる①の長期間の協調関係は,不当な取引制限にいう相互拘束に該当するものでない限り非難されるべきものではないし,中小企業を含む32社が存続する市場構造の下で再度価格協定にいたることは,常識的に想定できない。また,②の外部的要因を指摘する点は,ほとんどすべての事案がこれに該当するから,これに依拠するのでは特に必要があると認めるときとする要件が限定の意味をなさないことになる。
ウ 市場状況が変化しないことにより必要性が判断されるのであれば,独占禁止法が排除措置を特に必要が認められる場合に限定した趣旨が没却されるから,違反行為自体からこれが繰り返される蓋然性を判断すべきであるし,その可能性が一切封じられたわけではないということのみから蓋然性を判断するのは,誤りである。競争回避の意識や親和的関係はそれ自体が曖味なものであり,違反行為と関係のない抽象的な協調的関係を判断基準とするのは要件を逸脱するものであって,これを排除措置の根拠とはなし得ない。
(2) 事業活動を拘束する合意の禁止をいう本件審決主文第3項は,対市場効果要件を満たさないため,不当な取引制限に該当しない合法的な合意や相互拘束までも禁止するもので,過大な禁止命令として違法である。
(3) 本件審決の既往の違反行為に対する排除措置は,裁量の範囲を逸脱し,違法である。
排除措置の本来の趣旨は,市場における競争制限の残照の除去であり,既往の違反行為がなくなった日から当該行為につき勧告又は審判手続が開始されることなく1年を経過したときはこれに対する排除措置を命ずることができないとされているのは,1年を経過すると市場における競争制限の影響が消滅することを前提とするものであるから,再発防止の排除措置を命ずる場合にも,その期間の限定の趣旨を無視すべきではない。
基本合意があると構成するか,その都度違反が繰り遼されていると構成するかにより,排除措置の対象や違反行為期間が異なり,課徴金が賦課される期間も異なるのであり,その都度違反が繰り返されていると構成するのであれば,被告が審査に着手したのは平成13年8月29日であるから,平成12年3月15日の基準価格の決定の効果は消滅しているため着手時点で既に審査権限がなく,平成11年3月16日以前に決定された基準価格については,その決定から1年を経過しているから排除措置を命ずることができない。
構成のしかたにより原告らに対する排除措置の内容が異なるだけでなく,経済的利害も異なるのであり,本件の事件構成は行政比例の原則に反する構成である。
(4) 本件で問題とされている行為は,日種協がその組織の意思決定に基づいた行為として行っているものであり,32社を含む元詰部会は受け身であるに過ぎないから,排除措置を命ずる必要があるのであれば日種協に対して命じられるべきであり,独占禁止法3条を適用したのは誤りである。
(5) 本件排除措置において破棄したことを確認すべき合意として記載されているのは,審判合意で,本件合意の内容とは著しく乖離しており,本件審決は,審判開始決定書に記載され,審査官が主張していたような抽象的な合意を認定していないのであるから,本件排除措置は無効である。
(排除措置についての主張に対する被告の反論)
(1) 排除措置の要件に係る主張について
「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断は,わが国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的知見を有する被告にその専門的裁量が認められており,原告らが援用する東京高裁判決は,その後,最高裁において取り消された(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決・判例タイムズ1242号114頁)から,これを前提とする主張は失当である。
本件合意は,元詰種子の評価が生産物の価格に比べて低く位置付けられていることから,種子の価値に見合った価格に近づけるため値上げをすることができるときには値上げをすることを目的とするものであるところ,元詰種子の評価が低いという市場の状況は変わっていないから,価格協定による価格引上げの誘因が存在するといえるし,原告らは,日本かいわれ協会が被告の審査の対象となった平成6年2月頃には討議研究会における基準価格の決定が独占禁止法に抵触する可能性があることを認識していたにもかかわらず,基準価格の決定を中止せずこれを継続してきたこと,その際,価格協定であることを被告に疑われないため,名目の変更,資料等の表示方法の変更,メモ等の書類を残さないことなどを検討したこと,基準価格の決定は,アンケート調査,作況報告,意見交換というありふれたプロセスで行われており,元詰部会が存在しなければできないというものではなく,元詰部会の廃止により同様の行為を行うおそれがないとは認められないことなどから,元詰業者らが同様の違反行為を繰り返す蓋然性は極めて高く,排除措置を命じた本件審決の判断に誤りはない。
理論的にも,昭和52年の独占禁止法の改正で既往の違反行為に対する措置が新設された趣旨が被告の調査開始後に違反行為を中止した事業者に対しても期間を限定して排除措置命令を行うことにあったこと,実際にも,カルテル等の違反行為について,事業者が被告の立入検査を受けた後,これを契機にやめる措置が取られることが多く,その場合には,被告にとっては,処分時には既往の違反行為に対するものとして独占禁止法を適用せざるを得ないことに鑑みれば,原告らが主張するような限定解釈を取るべきではない。
(2) 排除措置が過大であるとの主張について
種子の販売価格について相互に事業活動を拘束する合意をすること自体,原則として競争制限効果を生じるものであり,この場合に対市場効果要件を充足しないという主張は失当である。
(3) 排除措置が裁量の範囲を逸脱しているとの主張について
本件では法定の期間内に勧告がなされているのであるから違法はなく,審判手続が開始された場合,違反行為終了後1年を経れば排除措置を命じられないとする法律上の根拠はないのであるから,原告らの主張は検討に値しない。
(4) 排除措置を原告らに命ずるべきではないとの主張について
本件審決は,平成13年10月4日の日種協理事会において,32社のうち26社が既に決定された当該年度の基準価格の決定を破棄し,次年度以降についても元詰種子の販売価格に係る話合いをしないことを申し合わせたことから,合意に基づく実施行為が事実上行われなくなったものと認められ,
意思の連絡が消滅していることを踏まえて,実質的に合意が破棄されている状態が既に存在しているとして,主文において合意の破棄を確認するよう求めたものであり,この点に違法性はない。
(5) 排除措置における合意が本件合意と乖離しているとの主張について
本件審決の主文において,違反行為の取りやめ等を命じる場合に,違反行為の内容が長文にわたるときには,主文の構成上,違反行為の内容を要約整理等して記載することは当然あり得ることで,審決主文記載の合意が審決が認定した合意を意味することは,事実認定及び法令の適用の内容から自明である。本件審決の主文が特定性を欠くことはない。

第4 当裁判所の判断
1 本件合意の存在について
(1) 本件審決は,32社が本件合意をしていたことは本件合意に関する各社代表者等の供述証拠(査11,33から38,40から63,65から67,448)及び毎年度の基準価格の決定及び価格表価格の設定の状況等から認定することができるとしている。
(2) 前提事実(第2の2)によると,原告らを含む32社は,少なくとも平成.10年から平成13年までの間,毎年3月に開催される討議研究会においてその構成員になるなかで,4種類の元詰種子につき,作柄状況,市況等の情報交換を行うと共に,等級・取引形態に応じて設けられた区分ごとに基準価格を決定しており,はくさい,キャベツ及びだいこんはそれぞれA,B,Cの各等級区分について,かぶについては等級区分を設けずに,前年度の基準価格から,これを引き上げるか,引き下げるか又は据え置くかについて,アンケート調査を行うほか意見交換を行った上,それぞれ小売価格を決定し,これをもとに算定した共購価格,農協価格,大卸価格(10袋)及び大卸価格(100袋)の基準価格を決定していたものである。
また,本件審決は,以下の事実を認定しているところ,この認定は,摘示された証拠に基づいており,そこに経験則違背等があることは認められず,これを合理的な事実認定と認めることができる。
ア (各社の価格表価格の設定の状況)32社は,平成10年度及び平成11年度において,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,概ね基準価格の引上げ幅又は引上げ率に沿って当年度の価格表価格を前年度の価格表価格から引き上げていた。また,32社は,平成12年度及び平成13年度において,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,当年度の価格表価格を前年度の価格表価格から概ね据え置いていた。
これを価格表価格中の小売価格(1袋)についてみると,次のようにいうことができる。
① 基準価格に定められる容量と同じ容量の品種の価格表価格の動きの向き(引上げ,据置き又は引下げ)は,基準価格と同じ動きをしている場合が大部分を占める(別紙表9-1)。
② 基準価格に定められる容量と同じ容量では,価格表に掲載されていない品種の価格表価格の動きの向きも,同様に,大部分の品種について基準価格と同じ動きとなっている(別紙表9-2)。
③ なかでも①の品種のうち前年度の価格表価格が基準価格と一致する品種にあっては,ほとんどすべての品種について,当年度の価椿表価格も基準価格と一致している(別紙表9-3)。
(以上,査407から410,417から420)
イ (討議研究会の欠席者)討議研究会に欠席した者(第2の2(4)イ)は,他社の価格表に掲載された価格が討議研究会で決定した基準価格の変動を反映したものであることを認識した上で,他社の価格表を確認することにより,アのとおり自社の価格表価格を設定していた。(査42,47,50,59,60)
ウ (各社の実際の販売価格の状況)32社の実際の販売価格の設定方法は第2の2(3)イのとおりであり,これにより,32社は,概ね,平成10年度及び平成11年度においては,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について各販売価格を各基準価格の引上げに沿って引き上げ,また,平成12年度及び平成13年度においては,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について販売価格を前年度の販売価格から据え置いていた。(査11,32,34から38,40,41,43から63,65から67,日本農林社の近藤の代表者審訊における供述,審C2の1,2の3の1及び2,3,9,15)
(3) 上記(2)の事実によると,32社は,討議研究会の欠席者も含め,少なくとも平成10年から平成13年までの間,討議研究会で決定した基準価格により,その前年度からの変動に従って,自社の元詰種子の価格表価格を定め,その後の販売に当たっても概ね基準価格に連動した価格で販売を行い,基準価格に定められる容量と同じ容量の品種については,基準価格と一致する価格を定めることも多かったものであるから,このような状態が少なくとも4年間継続していたことを考慮すると,自社の価格表価格に討議研究会で決定した基準価格の変動を反映させていた32社は,討議研究会で決定する基準価格に基づいて自社の価格表価格を設定し,販売を行うものであること,すなわち,基準価格の決定が自社の価格表価格及び販売価格の設定を拘束するものであることを認識していたものと推認される。また,上記各事実によると,毎年遅くとも他社の価格表価格が発表された時点においては,他の事業者が同様に基準価格の決定に基づいた価格表価格を設定していることを認識し得たものといえ,このような状態が継続していたことに照らせば,元詰部会の構成員である少なくとも32社は各社が基準価格の決定に基づいてそれぞれ販売価格を設定するものと相互に認識していたものと推認される。
そして,討議研究会における基準価格の具体的決定方法が,遅くとも平成10年以降は,はくさい,キャベツ及びだいこんについては,普通品種,中級品種及び高級品種として,それぞれ,「A」,「B」及び「C」の区分を設け各等級区分ごとに決定し,かぶについては,等級区分を設けないで決定し(本件合意第2の3(3)イ),小売価格,共購価格,農協価格,大卸価格(10袋),大卸価格(100袋)の別に決定する(1袋の容量は,はくさい及びキャベツは20ミリリットル,だいこん及びかぶは2デシリットル。本件合意同ウ)というものであったことは上記前提事実に記載のとおりであるから,32社は,遅くとも平成10年以降(雪印種苗及び後藤種苗は平成13年3月14日以降),討議研究会における上記のような基準価格の決め方を容認してその決定を行い,これに基づいて自社の価格表価格を決めることとしていたものというべきである。
以上のとおり,(2)の事実から,32社は,遅くとも平成10年3月19日以降(雪印種苗及び暖藤種苗は平成13年3月14日以降),本件合意をしていたことを推認することが相当であるから,本件審決が本件合意の存在を認定した手法には,不合理な点はなく,その認定の過程において経験則違背等のあったことも認められない。
したがって,本件合意の存在及び本件合意の各部分について実質的証拠を欠くとする原告らの主張(第3の2)は理由がない。
(4) 原告らは,本件合意が32社により行われたというためには,意思の連絡を要し,相互にその内容を認識し,認容することを要するが,本件審決はこれについてふれておらず,実質的証拠を欠いていると主張している(第3の2(2))。
しかし,上記のとおり,遅くとも平成10年3月19日までには,32社(雪印種苗及び後藤種苗は平成13年3月14日以降)の間に本件合意が存在していたことが認められ,本件審決はその旨認定しているものであるところ,不当な取引制限として本件合意が存在していることを認定しているのであるから,32社が相互に本件合意の内容を認識し,認容していたことも当然その内容となっているものというべきであり,また,これを(2)の事実から推認し得ることも上記のとおりであって,原告らの主張は失当である。
次に,原告らは,本件合意の形成過程や成立時期等について実質的証拠の欠缺を主張する(第3の2(2))が,不当な取引制限において必要とされる意思の連絡とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識し,ないしは予測し,これと歩調をそろえる意思があることをもって足りるものというべきである(東京高裁平成7年9月25日判決・判例タイムズ906号136頁)から,このような意思が形成されるに至った経過や動機について具体的に特定されることまでを要するものではなく,本件合意の徴表や,その成立時期,本件合意をする動機や意図についても認定することが必要であることを前提とする原告らの上記主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(5)ア 原告らは,合意の主体は事業者団体である日種協であると主張している(第3の3)ので,これについて検討する。
日種協元詰部会の討議研究会において基準価格が決定されており,討議研究会が,日種協においてその案内や連絡行為を行い,その組織と様式をもって議事を進行し,結果報告をしていることは被告も認めるところであるが,このような基準価格の決定自体が,独占禁止法に定める不当な取引制限に該当するものと評価されることはあり得るとしても,本件審決は,これをもって不当な取引制限と認定しているのではなく,32社がその構成員である元詰部会の討議研究会で基準価格を決定していることの外,32社が少なくとも平成10年から平成13年までの間,討議研究会において基準価格の引上げが決定された平成10年度及び平成11年度は,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,概ね基準価格の引上げ幅又は引上げ率に沿って当年度の価格表価格を前年度の価格表価格から引き上げており,据え置くことが決定された平成12年度及び平成13年度は,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,当年度の価格表価格を前年度の価格表価格から概ね据え置いていたこと等から,討議研究会において基準価格を決定し,これに基づいて自社の価格表価格及び販売価格を定めることとすることにより,互いに自社の価格表価格及び販売価格を拘束することを合意したものと認定していることは上記のとおりであり,このような認定に経験則違背等の不合理な点が認められないことも既にみたとおりである。
すなわち,上記認定においては,基準価格の決定の外,これに基づいた価格表価格及び販売価格を設定していることから,基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定することを相互に認識し,認容するものであると評価しているのであるところ,価格表価格及び販売価格の設定は,一般にはそれぞれの事業者が個別に行うべきことであって,事業者団体の行為ではなく,討議研究会における決定行為も,討議研究会の行為であると共に,これを構成する事業者らの行為であるともいえるのであるから,これらの行為から本件合意の内容を認識し,認容していることが推認される場合の主体は,各事業者であって事業者団体ではあり得ない。
上記(2)の事実のみでは,32社以外の事業者を含む事業者団体である日種協元詰部会が,討議研究会で決定した基準価格に基づいて構成事業者の価格表価格及び販売価格の設定がなされるよう構成事業者を拘束して,一定の取引分野の競争を実質的に制限していた(独占禁止法8条1項1号),あるいは,価格表価格及び販売価格等を設定することに関する活動等を不当に制限していた(同条1項4号)ものとまで認めることには疑問が残るし,仮に,このように認定することができるとしても,少なくとも,32社が本件合意をしていたことを推認することが妨げられないことは上記のとおりであるから,独占禁止法3条所定の行為が存在する以上,事業者らに対し行政処分を課すことができることは当然であって,事業者団体に独占禁止法8条1項所定の行為が’あり,事業者らにも同法3条所定の行為があるものと認定し得る場合に事業者団体にしか行政処分を課することができないと解すべき同法上の根拠は見当たらず,これを相当とすべき事情が存在することも認められない。
原告らは,討議研究会に32社以外の元詰業者や小売部会長が出席していたこと,32社の中に欠席者がいることを指摘する(第3の3(3))が,本件審決は,討議研究会自体において価格カルテルの合議がされてその旨の合意がされたと認定するものではないから,討議研究会の上記出席者の存在及び32社の中の欠席者の存在が本件合意の存在を否定するものとはならず,32社が本件合意の主体であることは上記(3)記載のとおり証拠に基づいて認定奉れた事実から合理的に推認されるところであるから,実質的証拠の欠缺をいう原告らの主張も理由がない。
イ 原告らは,被告が日種協の花き部会等が行っていた基準価格の決定について事業者団体の行為として警告したこととの対比上本件審決が一貫性を欠くものであると主張する(第3の3(2))が,本件審決が,基準価格の決定自体をとらえて32社に不当な取引制限があったとするものでないことは上記のとおりであるから,原告らの主張は前提を欠く。
また,原告らは,被告の審査開始を受けて今後話合いをしない旨の申合せをしたのは日種協の理事会であり,32社の中には理事会に出席していない事業者もいるし,理事会が破棄したのは当該年度の基準価格の決定であって,本件合意ではないことから,本件合意の主体が日種協であることを主張する(第3の3(4))が,本件合意が討議研究会における基準価格の決定を前提とする以上,これが行われなくなれば,事実上本件合意の実行は不可能となったものといえ,被告が上記理事会の決定をもって本件合意が破棄されたものと認定したのは相当であるし,そのことと,本件合意の主体を32社であると認定することとは何等矛盾するものではない。
ウ 原告らは,本件合意が事業者団体の行為と評価し得るのみであることを前提として,これに独占禁止法3条を適用することについて被告には裁量権がないはずであると主張する(第3の4)。
しかし,本件合意が事業者の行為であるものと認定し得ることは上記のとおりであるから,上記主張は前提を欠いているし,本件合意を認定するについて,32社が基準価格決定の仕組みを作り,あるいは,これを強化したことまでを要するものではないから,いずれにしても,上記原告らの主張は理由がない。
(6) 原告らは,仮に合意が存在するとしても,討議研究会で9種頬の元詰種子について基準価格を決定していたから,各事業者間に意思の合致が認められるのは9種類の元詰種子に係る合意であって,4種類の元詰種子を対象とする合意とするためには縮小された合意の認定が必要であると主張する(第3の5)。
しかし,そもそも,不当な取引制限において必要とされる意思の連絡については上記(4)記載のとおりであって,明示の意思表示が事業者間において一致していることまでを要するものではなく,本件審決も,32社の間に本件合意が存在すること,すなわち,4種類の元詰種子について,討議研究会で決定した基準価格に基づいて各事業者が当該年度の価格表価格及び販売価格を設定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる意思を有していたことを認定しているのであって,32社がそれぞれ9種類の元詰種子の価格について不当な取引制限にかかる明示かつ単一の意思表示をして,これが合致していることを認定するものではないから,4種類の元詰種子に係る本件合意の存在を認定しても,意思表示の一部のみを取り出して認定したものとなるわけではない。また,このような合意のとらえ方をする以上,32社が4種類の元詰種子とその余の5種類の元詰種子について別個に合意するとの認識を有していた旨の認定を要するものでもない。
次に,32社の代表者等の供述調書(査11,12,32から63,65から68)における供述(以下「代表者等の供述」という。)によると,討議研究会で9種類の元詰種子の基準価格を決定しており,その決定の目的及び効果が共通していることが認められるが,本件審決が,基準価格の決定についての認識をもって直ちに本件合意内容について意思の連絡があるものとの認定をしていないことは,本件合意の認定に関する上記記載のとおりであり,討議研究会で基準価格を決定していることのほか,これに基づいた価格表価格及び販売価格を設定していること等の事情を総合して,少なくとも4種類の元詰種子について,基準価格に基づいた価格表価格等の設定をすることにつき各事業者間に相互に意思の連絡がある,すなわち本件合意が存在するものと認定しているものであるから,32社の間に,基準価格決定の目的及び効果が9種類の元詰種子について共通である旨の認識があったとしても,そのことのみで,32社が9種類の元詰種子について相互にその価格表価格及び販売価格の設定が拘束されるものであるとの認識を有していたものとまで推認し得るものとすることは本件審決は避けており,ましてや,討議研究会で基準価格を決定していたことから,9種類の元詰種子について32社が不当な取引制限に係る意思表示をし,これが合致したことにより単一の合意が成立したと本件審決が認定しているのでないことは明らかである。
そして,基準価格を決定していた種子のうち,少なくとも4種類の元詰種子については,各事業者が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる意思を有していたものと認定し得るのであるから,4種類の元詰種子については違反行為が成立しているものと認められるのであって,このような場合に,当該違反行為がさらにその他の5種類の元詰種子に及んでいたか否かによって,その違反行為の存否が左右されるものではない。
したがって,4種類の元詰種子に関する本件合意の認定において,基準価格の決定の目的及び効果に関する認識がその他の5種類の元詰種子とは異なるものであることの認定を要する旨の原告らの主張は,いずれにしても理由がない。
さらに,原告らは,野菜の種類ごとに一定の取引分野が異なるものと解すべきであるのに,本件審決が,4種類の元詰種子について単一の合意である本件合意を認定したのは独占禁止法の実務に反すると主張する(第3の5(3))。
野菜の元詰種子については,需要者である野菜栽培農家にとって野菜の種類ごとに機能・効果が異なることは明らかであり,他方,供給者である元詰業者も野菜の種類ごとに異なることは原告ら主張のとおりであるから,それぞれ市場を異にするものというべきであるものの,本件審決が,32社がそれぞれ4種類の元詰種子に係る一個の意思表示をし,これが合致したことから単一の協定が成立したと認定するものではなく,上記認定の事実から推認される本件合意が少なくとも4種類の元詰種子に関するものであるというに止まるのであるから,上記主張も失当である。
2 相互拘束性について
(1) 原告らは,本件合意のみでは,具体的な販売価格を設定することができないから,相互拘束性を欠くと主張する(第3の6(1)イ)。
ア しかし,本来,商品・役務の価格は,市場において,公正かつ自由な競争の結果決定されるべきものであるから,具体的な販売価格の設定が可能.となるような合意をしていなくても,4種類の元詰種子について,いずれも9割以上のシェアを有する32社の元詰業者らが,本来,公正かつ自由な競争により決定されるべき価格表価格及び販売価格を,継続的に,同業者団体である日種協元詰部会の討議研究会において決定した基準価格に基づいて定めると合意すること自体が競争を制限する行為にほかならないものというべきである。すなわち,価格の設定に当たっては,本来,各社が自ら市場動向に関する情報を収集し,競合他社の販売状況や需要者の動向を判断して,判断の結果としてのリスクを負担すべきであるところ,本件合意の存在により,自社の価格表価格を基準価格に基づいて定めるものとし,他の事業者も同様の方法で価格表価格を定めることを認識し得るのであるから,基準価格に基づいて自社の価格表価格及び販売価格を定めても競争上不利となることがないものとして価格設定に係るリスクを回避し,減少させることができるものといえ,これをもって価格表価格及び販売価格の設定に係る事業者間の競争が弱められているといえるのである。
本件においては,32社は,自社が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めると共に,他社も基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めるものとの認識を有していたものというべきであることは上記1のとおりであり,上記の限度で事業者相互の競争制限行動を予測することが可能であったものといえるのであって,不当な取引制限にいう相互拘束性の前提となる相互予測としては,上記の程度で足りるものと解するのが相当である。原告らのこの点に関する主張は失当である。
イ また,原告らは,基準価格決定の際の等級区分が不明確であるから,他の事業者の当該等級区分への当てはめが不明であり,本件合意は,他の事業者の事業活動を予測し得る共通基準や単一の事業体として価格設定したのと同様の事態を生じさせ得るほどの行動指針たり得ず,本件審決の相互拘束性についての認定は実質的証拠を欠くものであると主張する(第3の6(1)ウ)。
しかし,基準価格の等級区分について,少なくとも,32社が等級区分に応じて決定された基準価格を前提とし,これに基づいた価格表価格及び販売価格を定めているものと認定し得ることは上記のとおりであって,討議研究会において等級区分に分けて基準価格を決定することが少なくとも平成10年から平成13年までは行われており,代表者等の供述によっても,このような決定方法では,基準価格の自社製品への当てはめができないとする意見が出されたことは窺われないばかりか,代表者等の供述調書(査第36,40から42,48,59,60,67)によると,欠席した事業者は他社の価格表価格を参照することで討議研究会における基準価格の決定内容を了知することが認められるから,価格表価格を設定するに際し,基準価格における等級区分が不明確であるとはいえず,原告らの上記主張は失当である。
また,32社は,自社が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めると共に,他社も基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めるものとの認識を有しており,不当な取引制限にいう相互拘束性の前提となる相互予測としてはこれをもって足りるものというべきであり,32社が販売するすべての品種の具体的な価格設定が可能になり,他社の個々の品種の具体的な価格設定を予測し得ることまでを要するものではないこと,は上記のとおりであるのであって,他社の具体的な個々の品種の等級区分への当てはめが不明であり,具体的な価格の予測ができないとしても,相互拘束性の要件を欠くものとはいえない。
ウ なお,本件合意は,基準価格の具体的な決定方法を含むものとして認定されているが,これは,基準価格の決定に係る32社の認識内容の具体的な形を示したに止まり,基準価格の決定そのものを不当な取引制限としているものではないことは上記のとおりであるから,本件合意のうち基準価格の具体的な決定方法のみを取りだして相互拘束性の欠如をいう原告らの主張(第3の6(1)ウ)は理由がない。
また,本件審決は,各事業者において基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる意思を有して,かぶを除くはくさい,キャベツ及びだいこんについては等級区分に応じて決定された基準価格に応じて価格表価格及び販売価格を定めて販売することについて意思の連絡があることをもって不当な取引制限行為に当たるものと認定しているものであり,本件合意に基づいて,現実に価格表価格の設定がされることまでを含めて不当な取引制限であるとするものではないから,その旨の認定がないことをいう原告らの主張(第3の6(1)ア)も的を射たものではない。
(2) 原告らは,本件合意が,値引きや割戻しの率及びその適用についての合意を含んでおらず,基準価格から実勢価格の設定を予測することはできなかったのであるから,相互拘束性の認定は実質的証拠を欠くものであると主張する(第34)6(1)エ)。
しかし,32社は,価格表価格を討議研究会の基準価格に基づいて定めることを相互に認識しており,その後の値引きや割戻しが価格表価格を前提として行われていることは上記前提事実に記載のとおりであるから,個々の取引先に対する現実の販売価格が値引きや割戻しの結果,値引率や割戻しの方法を知らない他社が予測し得ない価格となっているとしても,その前提となる価格表価格の設定について競争行動が回避されていることには変わりはなく,本件合意の存在により,32社は,相互に基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めるものとの認識を有しており,その限度で事業者相互の競争制限行動を予測し得ることをもって不当な取引制限にいう相互拘束性の前提となる相互予測としては足りるものと解されることは上記のとおりであるから,相互拘束性の要件に欠けるところはないものというべきである。
また,少なくとも,値引きや割戻し等の前提となる価格表価格が基準価格に基づいて定められており,証拠(審C2の1,3,9,15,日本農林社の近藤の代表者審訊における供述)によると,値引きや割戻しが各社において各年度を通じ各取引先との問で慣習的に行われていることが認められ,前年度との連続性があることが窺われるから,値引きや割戻しを行った後の価格も基準価格に基づいて連動しているものといえ,そこに本件合意による相互拘束性が及んでいるものというべきであり,その相互拘束性の認定について証拠がないとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は,いずれの点においても理由がない。
(3) 原告らは,32社には相互認識がなく,意思の連絡があるというためには,相互認識を要するものというべきであるから,本件審決の認定は違法であると主張している(第3の6(2))。
しかし,意思の連絡があるというためには,複数事業者間において,相互に,討議研究会で決定した基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定することを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があれば足りるのであり,代表者等の供述によると,32社は,元詰部会の構成員である事業者が,取引先が国外の事業者であるなど特殊な事業者である場合を除き,概ね討議研究会において決定した基準価格に連動した価格表価格を設定するものと相互に認識していたこと及び現に4種類の元詰種子について9割を超えるシェアを有する32社が基準価格に基づいた価格表価格の設定を行っていたことが認められるところ,多数の事業者が存在する市場においては,上記の程度の概括的認識をもって意思の連絡があるものと解すべきであり,このような意思を有する事業者の範囲を具体的かつ明確に認識することまでは要しないものと解するのが相当である。
したがって,原告らの上記主張も理由がない。
3 実質的競争制限について
(1) 原告らは,元詰種子の需要者である野菜栽培農家あるいは農協が種子の品種を選択する際,適性により選択しているから,品種間に競争は存在しないと主張する(第3の7(1)ア)ので,検討する。
この点について,本件審決は,産地においては,農協が主体となり,必要な特性を備えているか否かという観点から繰り返し試作をしているが,①試作の対象とする品種は元詰業者からの情報提供や他産地における使用例等により選ばれること(長妻及び宮内貴志(以下「宮内」という。)の各参考人審訊における供述),②試作の結果選択される推奨品種は一つに限られないこと(戸井豊治(以下「戸井」という。)及び長妻の各参考人審訊における供述),③新しい品種が採用され,従来の品種が推奨品種から外れることがあること(油井信隆(以下「油井」という。)の参考人審訊における供述)が認められ,これらの点から,需要者が土壌や作型への適性について多くの品種を比較検討し,相対的にふさわしい品種を選択しているといえるから,元詰種子の品種間に競争が存在するものと判断している。
本件審決が摘示する上記証拠によると,上記①から③の事実が認められ,これによると,需要者が最終的には最も適合した品種を選択し,選択した後においては他の品種との間で代替性がないといえるとしても,それは結果であって,その選択に至るまでには数種の元詰種子を比較検討するのが通例であることが認められるから,本件審決の上記判断は相当である。また,証拠(審A14の1から8,19,審B25)によると,試作において検討すべき事項は一つではないことが認められるから,様々な検討事項のうちそれぞれの種子に優劣があれば,どの事項を優先するかは判断する農協ごとあるいは野菜栽培農家ごとに異なることは当然あり得べきことであるし,証拠(審A19,審B5,34,審C11l,参考人長妻)によると,各元詰業者は,いずれも産地において採用されることを目的として品種改良を行っており,元詰業者も農協等が行う試作において採用される努力をしているのであって,品種間において競争があることを認識していることが認められる。
さらに,産地において試作が継続されていることからすれば,少なくとも,それぞれの産地において,いずれかの元詰業者が供給する元詰種子が独占的に販売されているのではないものと認められるから,種子の選択において品種間競争が存在しないとは到底いえないのである。なお,産地においては上記のとおり試作が行われるからその競争が明らかであるが,これ以外の販売市場においても,それぞれの需要者がその需要に応じた適性を有する種子を選択することは自明であり,同様に品種間競争があるものと推認されるから,元詰種子の品種間には競争があるものといえる。したがって,上記原告らの主張は理由がない。
(2) 原告らは,需要者が元詰種子の品種を選択する際には,適性により選択しており,その価格にはほとんど関心を払っていないから,品種間に価格競争は存在しないと主張する(第3の7(1)イ)ので,検討する。
ア この点について,本件審決は,産地において推奨品種の指定を行っている農協が,推奨品種の決定に当たり,品種の特性に着目しており,その価格にはほとんど関心を払っていない状況が認められる(参考人油井)が,①農協は,産地の農家が当該推奨品種がどのような価格であっても購入すると考えているわけではなく(参考人宮内),比較対照をした他の品種あるいは前年度の単価と価格はそう大きく変わらないとの認識の下で品種選択を行っている(参考人戸井及び同抽井)こと,②産地においても,同一品種に関する小売店同士の価格競争は行われており(被審人カネコ種苗常務取締役金子昌彦の参考人審訊における供述),この競争によりある品種の価格が低下することとなれば上記の品種間の価格バランスから同様の特性を有する他の品種の価格にも影響が及ぶことがあり得ること,③被審人らの代表者等は,本件行為の動機として,各社が同じような価格で取引先に販売することによって流通段階での値崩れを防ぐ旨の供述をしており(査33,34,37,38,43から46,49,51から53),これは潜在的に価格競争が存在するとの元詰業者の認識を示しているものと認められることから,需要者とりわけ産地における品種選択において品種間価格競争が顕在化していないとしても,元詰種子の品種間価格競争が存在しないということはできないとしている。
また,本件審決は,証拠(審C4,6,13の1,15,17,審D1,被審人増田採種場総務経理部長増田秀美(以下「増田採種場の増田」という。)の参考人審訊における供述,被審人みかど育種農場代表取締役越部圓の代表者審訊における供述)によると,元詰業者は,一般に,既存品種と非常に品質が似た品種を安い価格で販売されることが他社にシェアを奪われる要因となり得るとの認識を有しており,他社と競合する既存の品種の売上げを維持するために他社の類似品種の価格動向を考慮しているほか,自社の新品種を野菜栽培農家や農協に採用してもらうに当たり,自社の生産する元詰種子を取り扱う販売業者に他の元詰業者の提示価格より安い価格を提示することなどによって試験栽培の対象に選ばれるよう野菜栽培農家や農協に売り込むことに注力させるようにし,販売業者に対する値引率を大きくすることにより自社の種子を多く取り扱ってもらおうとしており,価格競争の存在を認識していたことが認められるとしている。
イ もともと,品種間に品質に係る競争だけがあり,価格競争が存在しないのであれば,元詰部会において毎年基準価格を決定する意味がないのであり,各事業者において,他社の元詰種子の価格に関係なく,それぞれの生産コストや販売実績等に応じて自由に価格を設定すればよいし,それにより各事業者間の売行きには何らの影響も生じないはずである。しかし,代表者等の供述の中(査12,42,43)には,販売価格を高くすると売れ行きが落ち,経営が成り立たなくなる可能性や1社のみで値上げすると高くて買えないといわれること,他社の同ランクのものより高いと値引き交渉されることを指摘するものがあり,また,討議研究会における基準価格の決定の必要性につき,これを決めないと価格競争が始まり,利益の確保ができなくなることを懸念するもの等(査112,445,447,454,456)もあることに照らせば,元詰業者らは,元詰種子においても,品種間に価格競争が潜在的に存在しており,討議研究会で決定した基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めることにより価格競争が顕在化するのを防いでいるとの認識を有しているものと推認される。
ウ 需要者である農協あるいは小売業者の側においても,証拠(参考人宮内,同油井,同B及び同Cの各参考人審訊における供述)によると,元詰種子の価格には肥料や薬剤のように大幅な年次変動がなく,仕入価格が判らなくても,前年度価格を前提にして大まかな値段がわかるものと認識していることが認められ,前年度価格から想定を上回る変更がない状況が前提となって,品種選定時に価格に対する関心が薄いものと推認される。
なお,原告らは,指定産地の主要品種の価格には相当のばらつきがあると主張する(第3の7(1)イ(イ))が,証拠(審A11)によっても,その具体的なばらつきの程度は不明であるし,そもそも,上記報告書(審A11)はそれぞれの等級区分における基準価格からの乖離の程度が2パーセントを上回るかどうかの点から調査したものであり,その乖離の程度はいずれにしてもわずかであるというべきであるから,上記報告書の存在は上記認定を左右するものではない。
また,原告らは,種子の代金が野菜の生産コストに占める割合が極めて小さいことから,価格競争が存在しないと主張する(第3の7(1)イ(エ))が,参考人らは,いずれも想定の範囲内の価格であることを前提として,価格に配慮せずに品種を選択すると述べているに止まるのであって,結果的に想定の範囲内に収まれば生産コストに占める割合が小さいとはいえるものの,一般にどのような価格になっても生産コストに占める割合が変わらないとはいえないのであるから,原告らの主張は失当である。
エ 代表者等の供述調書(査45,4,8,50,58,60,61,63,65,)や証拠(審A5,参考人増田採種場の増田)によると,新品種の価格について,品種特性が類似した他社の品種の価格を参考にして定めることが認められる。
これについて,原告らは,対価の設定に際しては,競合品種の価格を目安とするしかないと主張する(第3の7(1)イ(ウ))が,価格の設定において,競合品種の価格が検討すべき要件の一つとなるとしても,一般には,生産コストや市場の情勢等の今後の販売の見通しなど様々な要因を総合考慮して定められるべきものであり,同業他社の動向が不明であることによるリスクを負担しながら,その価格の設定をすることになるはずのものであるから,原告らの主張は失当であるし,そもそも,競合品種を想定することができ,それと類似の価格を設定せざるを得ないことからは,元詰種子がその品質のみにより選択されるのでないことが窺われるものというべきである。
オ 品種内価格競争が存在することは原告らも認めるところであるが,その一方で,類似した適性の品種の価格を参考に新たな品種の価格を設定していること及び等級区分が同じ品種については本件合意により価格表価格が概ね同じ価格となっていることは上記のとおりであるから,一つの品種の価格の下落は,類似の適性を有する他の品種の価格に影響を与えることが推認される。
カ したがって,元詰種子においても,品種間に価格競争が潜在的に存在しており,討議研究会において基準価格を決定し,これに基づいて各事業者が価格表価格を設定することにより,実際の販売価格における各事業者間の差異が減少しているため,これが顕在化していないに止まるものというべきであり,上記アの本件審決が認定する事実は,いずれも本件審決摘示の証拠により認められ,これらの点から元詰種子について品種間価格競争が存在するものとした本件審決の認定は相当であって,これについて実質的証拠を欠くことをいう原告らの主張は理由がない。
(3) 原告らは,元詰種子における価格競争が存在するとしても,①軽微であるから,本件合意により実質的競争制限には至っていない(第3の7(2)),②個別の取引においては,値引きや割戻しが行われており,価格競争が可能であるから,本件合意により実質的に競争が制限されていない(第3の7(3)),③本件合意が将来基準価格を設定することについての約束であり,基準価格の金額,値上げ幅等の具体的な内容,基準については何らの合意もされておらず,各事業者による実際の販売価格の設定について目安となり影響を与え得るような内容は一切含まれていないから,実際の販売価格はそれぞれ独自に設定することとなり,事業活動の相互拘束は認められず,市場における競争機能に有効な影響を与え得ないものであるから,不当な取引制限は成立しない(第3の7(4))と主張している。
ア しかし,そもそも,4種類の元詰種子について,いずれも9割以上のシェアを占める32社が,本来,公正かつ自由な競争により決定されるべき商品価格を,継続的なやり方であることを認識した上で,同業者団体である日種協元詰部会の討議研究会において協議の上決定する基準価格に基づいて定めるとの合意をすること自体が競争を制限する行為にほかならず,市場における競争機能に十分な影響を与えるものと推認することが相当である。
一般に,価格は生産コストや市場の情勢等の今後の販売の見通しなど様々な要因を総合考慮して定められるべきものであり,その価格の設定に当たっては同業他社の動向が不明であるため,どのように設定するかにより各事業者はかなりのリスクを負うのが通常であるところ,本件合意の存在により,基準価格が決定され,シェアのほとんど大半を占める同業他社が基準価格に基づいて価格表価格を設定することを認識し,基準価格に基づいて価格表価格を設定しても自らが競争上不利になることはなくなっているという事態は,とりもなおさず公正かつ自由な競争が阻害されている状況であるといえる。上記のとおり,元詰種子について,潜在的な価格競争が存在しており,これが顕在化していないのは,元詰業者らが基準価格に基づいて価格表価格や販売価格を定めることが続いていた結果,農協等の需要者が,価格に高い関心を払う必要がないまでに価格の差異がなくなっていることによるものというべきであるから,現時点の状況のみをもって価格競争が軽微であるとはいえないし,討議研究会において基準価格を決定し,これに基づいて各事業者が価格表価格を設定することで品種間の実際の販売価格に大幅な差異がなくなり,価格を考慮せず適性のみで品種を選択する状況となっており,想定を上回るような生産コストとなることがないものと需要者が認識するに至るまで価格競争が潜在化しているとすれば,本件合意による競争制限効果は,むしろ極めて深刻であるというべきである。
なお,原告らは,討議研究会において基準価格を決定していたことについて,標準品の価値の目安(値ごろ感)について多くの(利害関係の反するものを含めた)関係者の意見を聴取した上でこれを公表することにより標準品について不測の騰落を防止するための意義を有していたと主張しているが,一方ではこのような意義があると認識していること自体,元詰種子に価格競争が存在することの証左というべきであるし,また,原告らが基準価格の決定に上記のような意義があるものと認識していたとしても,そのような合意が現行法の下で許容されるものとなるものでないことは明らかであるから,原告らのこの主張によって上記判断が左右されるところはいささかもない。
イ 原告らの主張するとおり,本件合意は,価格表価格を設定した後,販売に際して行われる値引きや割戻しについては何ら拘束するものではなく,これに係る価格交渉が可能であるとはいい得るものの,本件合意がその前提となる価格表価格を制限するものである以上,その後の販売価格の設定において値引きや割戻し等の価格交渉が行われているからといって,これらが価格表価格を全く無視して行われる状況に至っているなど特段の事情の主張立証があれば格別,そうでない本件においては,実際の販売価格の設定において公正かつ自由な競争が確保されているといえるものではない。したがって,個別の取引において値引きや割り戻しに係る価格交渉が行われていることをもって実質的に競争が制限されていないとはいえないし,実際の販売価格までを設定し得る合意を含んでいないことから不当な取引制限に当たらないと解すべき理由も見当たらない。
なお,32社が行う値引きや割戻しは,むしろ,年度を超えて継続的に行われているものであり,取引先との関係も継続していることから,本件合意による不当な取引制限が実際の販売価格にも及んでいるものと解されることは既に認定したとおりであり,販売価格が討議研究会において決定している基準価格とは全く関わりなく独自に設定されているものとはいえない。
以上のとおり,原告らの①から③までの議論を含めた実質的競争制限に関する主張は,いずれも理由がない。
4 一定の取引分野について
(1) 原告らは,一定の取引分野とは,当該合意の競争制限効果が及ぶ範囲であり,各事業者の競争関係は年度ごとに異なり,元詰種子は毎年生産し,販売し,購入する必要がある商品であって,その需給関係,価格設定も毎年異なり,元詰種子の生産販売活動における競争関係は各年度ごとに独立して別個に成立しているから,競争制限効果が年度を超えて及ぶことはないと主張する(第3の8(1))。
一定の取引分野の決定においては,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定して決定するのが相当である(東京高裁昭和61年6月13日判決・判例時報1199号41頁,東京高裁平成5年12月14日判決判例タイムズ840号81頁)ところ,元詰種子が,その性質上毎年生産し,販売し,これを購入する必要がある商品であるとしても,本件合意は,その価格表価格及び販売価格に毎年討議研究会で決定する基準価格による拘束力を及ぼすことを内容とするものであり,その内容自体から年度を超えて各事業者の価格表価格及び販売価格を拘束するものであることが明らかである。また,平成10年から平成13年までの間,討議研究会において決定した基準価格に基づいた価格表価格の設定が行われており,そのことから本件合意の存在が推認されることは上記のとおりであるのであって,本件合意が年度を超えた各事業者の価格表価格及び販売価格を拘束する仕組みであることは十分推認することができる。
そして,元詰種子の需給関係や価格設定等の生産販売活動における競争関係が,各年度ごとに全く同一ではないとしても,基準価格につき前年度の基準価格との対比でその値上げの是非を検討して決定し得る程度の同一性を有しており,年度を超えた連続性を有しているものといえるし,上記前提事実記載の討議研究会における基準価格決定の経過に照らしても,元詰種子の生産や販売に毎年度想定を超える変動が存在することは窺われない。
本件合意が年度を超えた競争制限効果を有しており,その存在を証拠により認定された事実から合理的に推認することができることは既にみたとおりであるから,実質的証拠の欠缺をいう原告らの主張は理由がない。
また,野菜の種類ごとに市場が異なると解されることは上記のとおりであるが,このことと,複数の野菜を含む包括的な合意が存在し,これによりそれぞれの取引分野における競争が制限されることとは何ら矛盾するものではなく,現に本件合意はそのような合意として存在しているのであるから,本件審決が一貫性を欠くとする主張も理由がない。
(2) 原告らは,産地において品種間価格競争が存在していないことを前提として,産地が一定の取引分野に含まれないと主張する(第3の8(2))が,産地においても品種間価格競争が潜在的に存在していると認められることは上記3に記載のとおりであるから,原告らの主張は前提を欠く。
(3) 原告らは,一定の取引分野は,売り手側と買い手側の競争の及ぶ範囲により画定され,基本的には売り手側の競争の及ぶ場であって,基準価格が主に農協向けと大卸向けに決定されていることから,一定の取引分野は農協と大卸により画定されるべきであると主張する(第3の8(3))。
しかし,上記のとおり,一定の取引分野は,不当な取引制限が対象とする取引及びこれにより影響を受ける範囲を検討した上で,その競争が実質的に制限される範囲を画定することをもって決定されるべきであり,本件合意では,討議研究会で決定した基準価格に基づいて,各事業者が価格表価格を設定することとされているところ,討議研究会では,農協,小売業者,卸売業者のそれぞれに対応した基準価格が決定され,各事業者の側でそれぞれ取引先の取引段階に応じた価格表価格を設定し,そのいずれとも直接取引が行われていることは上記前提事実及び上記1に認定のとおりであるから,本件合意による競争制限効果は,元詰業者が直接取引を行う各取引に及ぶものであり,その全体をもって本件合意による競争制限効果が及ぶ一定の取引分野というべきであって,その分野をその取引先の取引段階のうち主たるもののみに限定すべき理由は見当たらない。
5 法令違反
(1) 原告らは,昭和32年に,被告が,日種協の前身である全種連の卸売部会が行っていた卸売最低標準価格の決定等について,独占禁止法違反により審査を開始したが,これを不問に付したことから,同様の行為について再度訴追する場合には,警告をするなど基準の変更を告知すべきであり,これをしないままされた本件審決は違法であると主張する(第3の9(1))。
しかし,本件において違反行為とされているのは,32社が討議研究会において決定した基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定する旨の合意をしていたことであり,昭和32年に審査が開始されたのは全種連卸売部会が卸売最低標準価格を決定していたこと等についてであるから,対象とする行為のとらえ方が異なっている上,証拠(審A2)によると,被告は,昭和32年に全種連の卸売部会が行っている行為が独占禁止法違反とならないとの判断を示したものではなく,特に問題とすべきほどの影響はないと判断して不問に付したに過ぎないことが認められるから,その影響の範囲によっては,行為自体は同様のものであっても,これに対し違反行為としての行政処分を課する可能性があったのであり,種子の基準価格の設定一般についての判断を示したものでもないから,不問に付したことをもって独占禁止法の適用基準が示されたということはできない。
また,証拠(査421から456)によると,日種協元詰部会においては,平成6年に日本かいわれ協会が被告の審査の対象となったことから,討議研究会における基準価格の決定が独占禁止法違反となる可能性があるものとして善後策を検討し,討議研究会において使用する討議用紙の体裁を変更したり,メモを残さないことを申し合わせるなどしたことが認められるところ,その際,日種協及びその構成事業者において,昭和32年に同じ行為が不問に付されたことを指摘し,被告により訴追を受けることはないとの認識を示していたことを窺わせる供述あるいは資料は見当たらず,そもそも,原告らが,昭和32年に被告が全種連に対し行政処分を課さなかったことにより独占禁止法上の判断基準が示されたものと認識していたことも窺われない。
したがって,いずれの点においても,原告らの主張は理由がない。
(2) 原告らは,本件審決による本件合意の認定は,審判合意と異なる対象をとらえており,被審人らの防御の機会を閉ざしたものであるから,違法であると主張する(第3の9(2))。
審判合意は,「32社は,遅くとも平成10年3月19日以降(後藤種苗及び雪印種苗にあっては平成13年3月14日以降),4種類の元詰種子について,販売価格の低落の防止等を図るため,種類ごとに,各社が販売価格を定める際の基準となる価格を毎年決定し,各社は当該基準価格の前年の基準価格からの変動に沿って各社の4種類の元詰種子の品種ごとの販売価格を定めて販売する旨の合意」をしていたというものであり,基準価格の具体的な決定方法及び各社が販売価格を定める場合の具体的内容についての記載がなかったことは,原告ら指摘のとおりである。
しかし,被告における審判の範囲は,審判開始決定記載事実の同一性を害せず,かつ,被審人らに防御の機会を閉ざさない限り,上記記載事実と多少異なった事実にわたったとしても適法と解すべきである(最高裁昭和29年5月25日第三小法廷判決・民集8巻5号950頁参照。)ところ,本件合意(第2の3(3))のうちイ及びウは,基準価格の具体的な決定方法を討議研究会で平成10年以降具体的に行っていた内容に従って記載したものであり,同工及びオは,審判開始決定において,「当該基準価格の前年の基準価格からの変動に沿って各社の4種類の元詰種子の品種ごとの販売価格を定めて販売する」との部分を,基準価格の決定内容に基づいた販売価格の決め方に書き分けたに過ぎないものであるから,審判合意の内容を,遅くとも平成10年以降実際に行われていた内容に基づいて具体的に記載したものというべきであり,事実の同一性を害しない範囲内であるものと認められる。
また,上記各内容は,審判手続において,審査官が実施状況として具体的に主張していたものであり,審査官が毎年の実施行為が合意の存在を裏付ける間接事実であると主張していたことも審判記録により明らかであるから,この点については,審理の対象となっており,被審人らにも防御の機会が与えられていたものというべきである。
したがって,これらの点について本件審決において本件合意の内容として認定したことが違法であるとはいえないし,本件合意を認定するにあたり,審判官が何らかの釈明を要する状況にあったともいい難いから,釈明権を行使しなかったとしても,手続違反に当たらない。
(3) 原告らは,本件審決のうち,排除措置命令についての主文が不明確であり,違法であると主張する(第3の9(3))。
本件審決の主文は,「遅くとも平成10年3月19日以降(雪印種苗株式会社及び後藤種苗株式会社にあっては平成13年3月14日以降)していた,各社が販売価格を定める際の基準となる価格を毎年決定し,各社は当該価格の前年度からの変動に沿って品種ごとに販売価格を定め,取引先販売業者及び需要者に販売する旨の合意」の破棄を確認することを命じているところ,上記主文における合意が,毎年その都度される合意を指すものではなく,毎年基準価格を決定し,これに基づいて,販売価格を設定することの包括的合意を指すものであることは,一般的にはさほどの困難なく読みとることができるものであり,不明確であって特定していないものとはいえない。
また,本件審決の理由において記載されている本件合意は,「事案の概要」(第2の3(3))記載のとおりであるところ,平成10年以降に具体的に行っていた基準価格の決定方法及び基準価格の決定内容に基づいて販売価格を決める際の具体的な決め方について記載を加えた以外,本件合意の骨子は本件審決主文における記載と同一であって,合意内容が特定していないものともいえない。
(4) なお,本件審決では,不当な取引制限に係る立証責任を被審人らが負担しているかのような判断がされているとの指摘が原告らからされている(第3の9(4))が,本件審決では,第1(事実及び証拠)の部分で,不当な取引制限としての本件合意の存在を認定した上,これ以降の部分で被審人らの主張に対する判断を示しているものであって,被審人らに不当な取引制限に係る立証責任を負わせているものではなく,他に審判官が手続的公正に欠けることを窺わせる事情は見当たらない。
(5) 原告らは,本件審決の審決書には,競争の実質的制限に係る認定事実が記載されていないから,独占禁止法57条1項に反すると主張している(第3の9(5))。
本件合意は,本来,公正かつ自由な競争により決定されるべき商品価格を討議研究会が決定した基準価格に基づいて定めることを内容とするものであるから,特段の事情がない限り,価格に関する競争を制限するものであることは合意の内容自体から明らかである。そして,本件審決においては,本件合意の存在が認定された後(第1),本件合意が存在していても実質的に競争が制限されていないとする被審人らの主張に対し,判断が加えられた上(第4の1及び3),本件合意が競争を実質的に制限するものであるとの認定がされている(第4の5)から,これをもって競争の実質的制限についての認定に不足はなく,そのことが審決書にも記載されているものといえるから,原告らの主張は理由がない。
6 排除措置について
(1) 原告らは,被審人らが,元詰種子の販売価格に関する話合いを行わない旨の申合せを行っており,日種協も元詰部会を廃止し,事業者間で作柄及び価格について情報交換を行い基準価格を決定する機会は存在しないから,今後本件合意と同一ないし社会通念上同一性があると考え得る行為を繰り返すおそれは認められず,排除措置の必要性はないとして,これを命じた本件審決は違法であると主張する(第3の10(1))。
本件審決は,全体としてみれば,①被審人19社は13社とともに遅くとも平成10年3月から平成13年10月までの3年余りにわたって違反行為を継続しており,違反行為と認定されていないが,これ以前にも元詰業者間における協調的関係が存在していたこと,②違反行為終了の経緯が自主的なものでなく,被告の立入検査を契機とするものであること,③違反行為の誘因が依然存在しており,価格設定において共同歩調をとる必要を否定するに足りる市場状況の変化は認められないことから,被審人19社において今後同様の行為を繰り返すおそれがあると認められるとして,本件排除措置を命ずる必要性を肯定した。
独占禁止法54条2項(同法7条2項)に定める特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する上告人の専門的な裁量が認められるものというべきであるところ(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決・判例タイムズ1242号114頁),上記の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の被告の判断が合理性を欠くものであるということはできず,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったことは認められないから,本件審決が排除措置を命じたのは相当であり,独占禁止法54条2項に反するものではない。
(2) これに対し,原告らは,違反行為の終了原因が外部的要因に基づくこと((1)②)については,ほとんどすべての事案がこれに該当するものであると指摘し,また,今後同様の行為が繰り返されるおそれについては,違反行為自体から判断すべきであるとの主張をする(第3の10(1))が,上記要件の判断については被告に専門的裁量が認められることは上記のとおりであり,「特に必要があると認めるとき」の要件該当性を判断するに当たり違反行為の終了原因や違反行為以外の事情を考慮したことのみをもって,裁量権を逸脱するものであるとか,これを濫用するものであるとはいえない。その判断の前提となる事実や判断基準を限定すべきであるとの原告らの主張は独自の見解であって,当裁判所の採用するところではない。
また,原告らは,本件違反行為について,基本合意があると構成するか,その都度の違反が繰り返されていると構成するかにより,排除措置の対象や違反行為期間が異なり,課徴金が賦課される期間も異なることから,基本合意があると構成するのは行政比例の原則に反し,これに基づいて排除措置を命じたのは裁量権を逸脱するものであると主張する(第3の10(3))。
しかし,本件においては,単年度の違反が繰り返されているのみではなく,これを包括する基本合意である本件合意の存在が認められることは上記のとおりであるから,これを前提として排除措置を命じるのは当然のことであり,他に,本件排除措置において裁量権を逸脱したことを窺わせる事情は見当たらない。
(3) また,原告らは,本件審決主文第3項が合法的な行為まで禁止する過大な禁止命令であり,違法であると主張する(第3の10(2))。
しかし,4種類の元詰種子の販売価格について,他の事業者と相互にその事業活動を拘束する合意をすることにより,少なくとも,販売価格が公正かつ自由な競争により決定されることを阻害しているのであって,このような合意は競争を実質的に制限するものであるから,本件審決主文第3項が禁止する行為を独占禁止法が禁止する不当な取引制限に当たるものとするに何らの妨げはない。
(4) 原告らは,排除措置を命ずる必要があるのは日種協の行為であると主張する(第3の10(4))が,本件合意が32社の行為であると認められることは既にみたとおりであり,原告らの主張は前提を欠く。
なお,原告らは,被告の審査開始を受けて元詰種子の販売価格に関する話合いをしない旨の申合せをしたのは日種協理事会であり,原告らではないから,原告らが本件合意を破棄したことはないのに,その破棄したことの確認を求める本件排除措置が違法であると主張するものとも解されるが,日種協理事会の上記決定により本件合意の実行が事実上不可能となったものといえ,結果的に本件合意が破棄されたものと認定し得るものであるから被告が本件合意が破棄されたものと認定したことが相当であることは既にみたとおり(第4の1(5)イ)であり,本件審決がその確認を求めて本件排除措置を命じたことに違法はなく,上記原告らの主張は理由がない。
(5) 原告らは,本件排除措置において破棄したことを確認すべき合意が,審判合意であって,本件合意とは異なると主張する(第3の10(5))。
しかし,本件合意と審判合意とは,事実の同一性の範囲内において,基準価格の決定方法や,基準価格に応じて販売価格を設定するやり方等について具体的に記載しているか否かを異にするに過ぎないものであることは既にみたとおりであり,破棄したことを確認すべき合意と本件合意との間には事実の同一性が認められるから,原告らの上記主張も失当である。

第5 結論
以上のとおり,本件審決には,原告らが主張するような違法はなく,原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成20年04月04日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 寺田逸郎
裁判官 浅香紀久雄
裁判官 石栗正子
裁’判官 小林宏司
裁判官森一岳は,填補のため,署名押印できない。
裁判長裁判官 寺田逸郎


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