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マイクロソフトコーポレーションに対する件

独禁法19条一般指定13項

 

平成16年(判)第13号

審判審決

 

 

アメリカ合衆国ワシントン州レッドモンド
ワンマイクロソフトウェイ
被審人 マイクロソフトコーポレーション
同代表者     スティーブ・バルマー
同代理人弁護士  平 野 高 志
同        石 田 英 遠
同        近 藤 純 一
同        須 藤 雄 宏
同復代理人弁護士 伊 藤 ゆみ子
同        舟 山   聡
同        飯 塚 暁 夫
同        上 山   浩

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成16年(判)第13号独占禁止法違反審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官寺川祐一,審判官小林渉及び審判官佐藤郁美から提出された事件記録及び規則第84条の規定により被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
1 被審人は,自社の子会社又は自社が持分のほとんどを出資するパートナーシップをして,自社のパーソナルコンピュータ用基本ソフトウェア(以下主文において「製品」という。)の使用(販売を含む。以下主文において同じ。)の許諾をするための契約を我が国のパーソナルコンピュータの製造販売業者との間で締結させるに当たり,当該製造販売業者(以下主文において「被許諾者」という。)に対して,次の(1)及び(2)の規定(これらに類似する規定を含む。)の付された契約の締結を余儀なくさせ,もって,被許諾者の事業活動を不当に拘束する条件をつけて被許諾者と取引していた行為を平成16年8月1日以降取りやめていることを,被審人の業務執行機関において確認しなければならない。
(1) 当該契約によって被許諾者が使用の許諾を受けている製品に係る被許諾者の特許権の侵害について,当該被許諾者は,被審人,被審人の子会社又は製品の使用の許諾を受けている者に対し,訴えないこと及びあらゆる種類の司法上,行政上その他の手続において手続の提起,訴追,支援又は参加をしないことを誓約する旨の規定
(2) 当該契約によって被許諾者が使用の許諾を受けている製品に含まれている特徴及び機能が当該製品の将来製品,交換製品又は後継製品に含まれている場合には,当該将来製品,交換製品又は後継製品に含まれる当該特徴及び機能は,当該契約によって被許諾者が使用の許諾を受けている当該製品の一部とみなし,これに係る被許諾者の特許権の侵害について,当該被許諾者は,被審人,被審人の子会社又は同製品の使用の許諾を受けている者に対し,訴えないこと及びあらゆる種類の司法上,行政上その他の手続において手続の提起,訴追,支援又は参加をしないことを誓約する旨の規定
2 被審人は,今後出荷されるすべての製品(パーソナルコンピュータにプレインストールされて出荷される製品,パーソナルコンピュータと共に出荷される製品及び単体で出荷される製品を含む。)に関して,前項(2)の規定の効力(ただし,AV機能に係る特許権に関する範囲に限る。)が及ばないこととする旨を,被審人の業務執行機関において決定し,その旨を,前項記載の被許諾者に対し,書面で通知しなければならない。この通知の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 被審人は,今後,我が国のパーソナルコンピュータの製造販売業者に対して,第1項と同様の行為をしてはならない。
4 被審人は,第1項及び第2項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第5と同一であるから,これらを引用する(ただし,別紙審決案の114ページ16行目の「パソコンOS用市場」を「パソコン用OS市場」に,同127ページ29行目の「Quik Time」を「Quick Time」に改める。)。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第1項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成20年09月16日

公正取引委員会
委員長  竹  島  一  彦
委 員  山  田  昭  雄
委 員  濱  崎  恭  生
委 員  後  藤     晃
委 員  神  垣  清  水

別紙
平成16年(判)第13号

審   決   案

アメリカ合衆国ワシントン州レッドモンド
ワンマイクロソフトウェイ
被審人 マイクロソフトコーポレーション
同代表者     スティーブ・バルマー
同代理人弁護士  平 野 高 志
同        石 田 英 遠
同        近 藤 純 一
同        須 藤 雄 宏
同復代理人弁護士 伊 藤 ゆみ子
同        舟 山   聡
同        飯 塚 暁 夫
同        上 山   浩

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成16年(判)第13号独占禁止法違反審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
1 被審人は,自社の子会社又は自社が持分のほとんどを出資するパートナーシップをして,自社のパーソナルコンピュータ用基本ソフトウェア(以下主文において「製品」という。)の使用(販売を含む。以下主文において同じ。)の許諾をするための契約を我が国のパーソナルコンピュータの製造販売業者との間で締結させるに当たり,当該製造販売業者(以下主文において「被許諾者」という。)に対して,次の(1)及び(2)の規定(これらに類似する規定を含む。)の付された契約の締結を余儀なくさせ,もって,被許諾者の事業活動を不当に拘束する条件をつけて被許諾者と取引していた行為を平成16年8月1日以降取りやめていることを,被審人の業務執行機関において確認しなければならない。
(1) 当該契約によって被許諾者が使用の許諾を受けている製品に係る被許諾者の特許権の侵害について,当該被許諾者は,被審人,被審人の子会社又は製品の使用の許諾を受けている者に対し,訴えないこと及びあらゆる種類の司法上,行政上その他の手続において手続の提起,訴追,支援又は参加をしないことを誓約する旨の規定
(2) 当該契約によって被許諾者が使用の許諾を受けている製品に含まれている特徴及び機能が当該製品の将来製品,交換製品又は後継製品に含まれている場合には,当該将来製品,交換製品又は後継製品に含まれる当該特徴及び機能は,当該契約によって被許諾者が使用の許諾を受けている当該製品の一部とみなし,これに係る被許諾者の特許権の侵害について,当該被許諾者は,被審人,被審人の子会社又は同製品の使用の許諾を受けている者に対し,訴えないこと及びあらゆる種類の司法上,行政上その他の手続において手続の提起,訴追,支援又は参加をしないことを誓約する旨の規定
2 被審人は,今後出荷されるすべての製品(パーソナルコンピュータにプレインストールされて出荷される製品,パーソナルコンピュータと共に出荷される製品及び単体で出荷される製品を含む。)に関して,前項(2)の規定の効力(ただし,AV機能に係る特許権に関する範囲に限る。)が及ばないこととする旨を,被審人の業務執行機関において決定し,その旨を,前項記載の被許諾者に対し,書面で通知しなければならない。この通知の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 被審人は,今後,我が国のパーソナルコンピュータの製造販売業者に対して,第1項と同様の行為をしてはならない。
4 被審人は,第1項及び第2項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。

理       由
第1 前提となる事実及び証拠
争いのない事実及び括弧内に掲示する証拠によって,以下の事実を認定することができる。
1 被審人の概要
(1) 被審人
被審人は,肩書地に本店を置き,パーソナルコンピュータ用基本ソフトウェア(以下,パーソナルコンピュータを「パソコン」と,パソコン用基本ソフトウェアを「パソコン用OS」という。)の開発及び使用等の許諾に係る事業等を営んでいる。(争いがない。)
(2) マイクロソフトライセンシングインク
マイクロソフトライセンシングインクは,アメリカ合衆国ネバダ州リノ市ネイルロード6100番地に本店を置き,平成11年ころ,被審人が全額出資する子会社として設立され,平成15年9月ころ,被審人がその持分の99パーセントを保有するゼネラルパートナーシップに法人形態を変更するに伴い,名称をマイクロソフトライセンシングゼネラルパートナーシップに変更した。同社は,設立以降,被審人のパソコン用OSの使用を許諾するための契約の管理や使用等の許諾の対価(以下「ロイヤリティ」という。)の徴収の事務を行っている。(争いがない。)
以下,同社を,名称変更の前後を通じて,「被審人のライセンシング子会社」と称する。
(3) マイクロソフト株式会社
マイクロソフト株式会社は,東京都渋谷区代々木二丁目2番1号小田急サザンタワーに本店を置き,昭和61年2月17日,被審人が全額出資する子会社として設立され,ソフトウェア等の販売等の事業を営んでいる。(争いがない。)
2 被審人のパソコン用OS
(1) パソコン用OS
パソコン用OSは,「オペレーティングシステム」や「基本ソフトウェア」とも呼ばれ,キーボード入力や画面出力といった出入力機能,ディスクやメモリの管理機能など,多くのアプリケーションソフトウェアにおいて共通して利用される基本的な機能を提供し,コンピュータシステム全体を管理するソフトウェアである。
パソコン用OSには,被審人の「Windows(ウィンドウズ)」という名称を付したパソコン用OS(以下「Windows(ウィンドウズ)」という名称を付した被審人のパソコン用OSを総称して「ウィンドウズシリーズ」という。)のほか,アップル・インク(以下「アップル」という。)の「Mac OS(マックオーエス)」,「Linux(リナックス)」等がある。
(争いがない。)
(2) ウィンドウズシリーズの占有率
ウィンドウズシリーズのパソコン用OSの全世界における市場に占める比率は,平成8年ころには70パーセントを超え,平成9年ころに80パーセントを超え,平成12年ころに90パーセントを超え,平成15年には約94パーセントに達している。(査第8号証)
(3) ウィンドウズシリーズ
被審人は,昭和60年に「Windows 1.0」の使用の許諾を開始して以降,平成5年に「Windows 3.1」,平成6年に「Windows NT 3.1」,平成7年に「Windows 95」,平成10年7月に「Windows 98」,平成12年2月に「Windows 2000 Professional」,同年9月に「Windows Millennium Edition」,平成13年11月に「Windows XP Home Edition」及び「Windows XP Professional Edition」, 平成15年5月に「Windows XP Media Center Edition」,平成18年11月30日に「Windows Vista Business Edition」及び「Windows Vista Enterprise Edition」,平成19年1月30日に「Windows Vista Home Basic Edition」及び「Windows Vista Home Premium Edition」の使用の許諾をそれぞれ開始して,ウィンドウズシリーズのバージョンアップを行っている。
被審人は,このようにウィンドウズシリーズのバージョンアップを行う中で,セキュリティ機能を強化したり,インターネットブラウザーである「Microsoft Internet Explorer」をウィンドウズシリーズに組み込んだり,デジタルビデオを編集することができる機能を追加したりするなど,順次,既存の機能を改良,修正したり,新たな機能やソフトウェアをパソコン用OSに組み込むことにより,ウィンドウズシリーズの機能を拡張してきている。
(争いがない。)
(4) ウィンドウズシリーズのAV機能の拡張・強化
ア 被審人は,インターネット利用者の拡大,ブロードバンドと称されるインターネット回線の整備などにより,デジタル化された音声又は画像(動画を含む。以下同じ。)をパソコン上で視聴するニーズが高まっていることから,これに対応して,デジタル化された音声又は画像を視聴できるようにするための機能(以下,この機能を「AV機能」という。)を拡張・強化しており,「Windows Media Player」と称するアプリケーションソフトウェアであるメディアプレーヤー等をウィンドウズシリーズに組み込むとともに,ウィンドウズシリーズの機能拡張に合わせて,「Windows Media Player」等の機能を拡張するなど,ウィンドウズシリーズのAV機能を拡張している。(争いがない。)
イ ウィンドウズシリーズにおいて拡張されたAV機能の主なもの及び当該AV機能を実現する「Windows Media Player」等の主なバージョンは,以下のとおりである。
(ア) 「Windows 98」
パソコンや周辺記憶装置に記録された各種フォーマットのAVファイルを視聴する機能を有する「Media Player」とインターネットなどのネットワークを通じて音声や画像などのデータを視聴する際に,データを受信しながら同時に再生を行う機能(以下,この機能を「ストリーミング機能」という。)を有する「NetShow Player」(査第122号証の1及び2)
(イ) 「Windows 98 Second Edition」
インターネット上にあるWindows Media(後記5(3)ア参照)形式,MP3形式その他の形式の音声や画像のストリーミング機能を有する「Windows Media Player 6.1」(査第20号証の1及び2,第122号証の1及び2)
(ウ) 「Windows 2000 Professional」
インターネット上の画像及び音声の利用を容易にした「Windows Media Player 6.4」(査第122号証の1及び2)
(エ) 「Windows Millennium Edition」
CD−ROMに記録された音楽を「Windows Media」を用いてパソコンに保存する機能,「メディアライブラリ」で保存した音楽や画像をアルバム,アーティスト又はジャンル別に表示する機能及びインターネット上で最新の音楽やビデオ情報を提供する「メディアガイド」機能を有する「Windows Media Player 7」
(オ) 「Windows XP Home Edition」及び「Windows XP Professional Edition」
以下の機能を有する「Windows Media Player for Windows XP」
a MP3形式の約半分のファイルサイズでオーディオを再生できる機能(「Windows Media Audio 8」)
b インターネットブロードバンド接続で映画を再生できる機能(「Windows Media Video 8」)
c クラシック,サウンドトラック,コンピレーションアルバムなど,サポートされる音楽ジャンルを多様化したメディアライブラリ機能
d インターネットからDVDメディアの情報を自動的に取得する機能
(査第23号証,第24号証)
(カ) 「Windows XP Media Center Edition 2004」
以下の機能を有する。
a テレビ,デジタル写真,音楽,ビデオ,DVDなどに対応するアプリケーションソフトウェアを個々に起動させることなく,専用のリモコンを用いてパソコン用OS上で一体化して操作できる機能
b 放送中のテレビ番組の一時停止,巻き戻し,早送りができる機能
c 将来放送される予定の番組を表示し,キーワード検索等によって録画したい番組を選択できる「電子番組ガイド(EPG)」
d 様々なデジタルムービーをインターネット上でレンタルして視聴したり,新曲の検索やダウンロードをできる機能
e オンラインで音楽や映画等の購入を可能とする機能
(査第26号証)
(キ) 「Windows Vista Home Premium Edition」及び「Windows Vista Ultimate Edition」
「Windows Vista」のAV機能の中枢であり,CDのジャケット写真による音楽表示や一覧表示等によってアーティストや楽曲の情報を分かりやすく表示する機能やクイック検索機能等により,概観,操作性,検索機能及び管理機能等が向上した「Windows Media Player 11」(争いがない。)
3 ウィンドウズシリーズの使用の許諾
(1) 主要なパソコン製造販売業者
平成10年から平成15年までにおいて,我が国においてパソコンを出荷している主要なパソコン製造販売業者は,日本電気株式会社(以下「日本電気」という。),富士通株式会社(以下「富士通」という。),デル・インク(以下「デル」という。),株式会社東芝(以下「東芝」という。),ソニー株式会社(以下「ソニー」という。),インターナショナル・ビジネス・マシンズ・コーポレーション(以下「IBM」という。),ヒューレット・パッカード・カンパニー(以下「HP」という。),株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。),シャープ株式会社(以下「シャープ」という。),アップル,株式会社ソーテック(以下「ソーテック」という。),セイコーエプソン株式会社(以下「セイコーエプソン」という。),松下電器産業株式会社(以下「松下電器産業」という。),三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)及び日本ビクター株式会社(平成14年以降出荷。以下「日本ビクター」という。)であり,これら15社の平成15年における我が国向けパソコンの出荷量は,我が国のパソコン出荷量の94パーセント程度を占めている。
なお,デル,IBM及びHPは,被審人からウィンドウズシリーズの使用の許諾を受け,それぞれ,デル株式会社,日本アイ・ビー・エム株式会社,日本ヒューレット・パッカード株式会社という我が国における子会社を通じてパソコンの製造販売を行っている。
(争いがない。)
(2) OEM販売契約
被審人は,平成11年ころまでは,パソコン製造販売業者に対してウィンドウズシリーズをOEM(Original Equipment Manufacture,相手先商標製品生産の略称)販売することを許諾するための契約(以下「OEM販売契約」という。)を締結するに当たり,自らが当事者となり,パソコン製造販売業者に対してウィンドウズシリーズをOEM販売することを許諾していた。
平成11年ころ以降においては,被審人は,被審人のライセンシング子会社をウィンドウズシリーズのOEM販売契約の締結当事者として契約を締結させているが,被審人自らがパソコン製造販売業者と交渉し,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾条件を定め,OEM販売契約上の文言を決定している。
(争いがない。)
したがって,平成11年ころ以降においても,実質的に被審人がウィンドウズシリーズのOEM販売契約を締結しているものである。
(3) ウィンドウズシリーズのOEM販売契約の方法及び形態
被審人は,パソコン製造販売業者と直接に契約交渉して,ウィンドウズシリーズのOEM販売契約を締結している(以下,この方法によるOEM販売契約を「直接契約」といい,直接契約によりウィンドウズシリーズの販売許諾を受けているパソコン製造販売業者を「OEM業者」という。)。OEM業者は,直接契約の規定に基づき,ウィンドウズシリーズを自社が製造するパソコンにプレインストールし,パソコンに不具合が生じた場合にパソコンをユーザーが購入したときの状態に復旧させるためのリカバリーシステムを作成し,プレインストールされたウィンドウズシリーズ及びリカバリーシステムをパソコンの購入者(以下「エンドユーザー」という。)に対して頒布することについて許諾を受けている。
被審人は,上記の方法によるほかに,後記の被審人の販売代理店を通じて,ウィンドウズシリーズが記録された記録媒体を,パソコン製造販売業者及びCPUやマザーボードといったパソコンを構成する部品(以下「パソコンパーツ」という。)の販売を営んでいる事業者(以下「パソコンパーツ業者」という。)に対して販売することにより,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾をしている(以下,この方法によるOEM販売の許諾を「間接契約」といい,また,間接契約によってウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けているパソコン製造販売業者及びパソコンパーツ業者を総称して「システムビルダー」という。)。
被審人は,直接契約又は間接契約のいずれの方法によってウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾をする場合にも,また,ウィンドウズシリーズが記録された記録媒体を購入したユーザーに対してウィンドウズシリーズの使用の許諾をしてきている場合にも,ウィンドウズシリーズをオブジェクトコード(コンピュータのCPUによって直接実行可能なマシンコード)の形態で提供するとともに,ライセンシーがウィンドウズシリーズを逆コンパイル(マシンコードから高水準のソースコードを生成させること)すること,リバースエンジニアリング(オブジェクトコードの本質的な部分の逆コンパイル又は逆コンパイルコードの結果を調査すること)すること,又は逆アセンブル(マシンコードを人間が読めるアセンブリ言語のソースコードに変換すること)すること(以下これらを併せて「リバースエンジニアリング等」という。)を禁じている。
(争いがない。)
(4) 直接契約
ア 直接契約は,ロイヤリティの支払方法,監査,保証,知的財産権の侵害,裁判管轄等ウィンドウズシリーズの使用が許諾される際の基本的な条件を規定している「MICROSOFT BUSINESS TERMS DOCUMENT FOR OEM CUSTOMERS」と称する契約(以下「BTD」という。)と,使用の許諾の具体的内容やウィンドウズシリーズの個々の製品ごとのロイヤリティについて規定している「MICROSOFT DESKTOP OPERATING SYSTEM LICENSE AGREEMENT FOR OEM CUSTOMERS」と称する契約(以下「DTOS」という。)とから成る。
なお,平成8年ころ以前に締結された直接契約は,BTD及びDTOSに分かれておらず,「MICROSOFT OEM LICENSE AGREEMENT FOR DESKTOP OPERATING SYSTEMS」などと称する一つの契約であった。
パソコン製造販売業者が直接契約によってウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受け,当該ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを出荷するためには,BTDとDTOSの両契約及び「MICROSOFT CORPORATION NON−DISCLOSURE AGREEMENT」と称する秘密保持契約(以下「NDA」という。)を被審人との間で締結している必要がある。(査第4号証)
被審人は,ウィンドウズシリーズの直接契約のBTDにおいて,契約期間が始まる日と契約期間が満了する日を定めて,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾をする期間を区切っている。
具体的には,被審人は,平成12年以前においては,契約の発効日から,「1年間」,「当該発効日のある四半期の末日から2年が経過するまで」,「当該発効日のある月の末日から1年が経過するまで」などと期間を区切って,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾をしている。平成13年以降においては,被審人は,おおむね,1年ごとに期間を区切ってウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾をしている。
このため,OEM業者は,契約の期間が満了した翌日を始期とする契約を新たに締結しない限り,当該期間満了の翌日以降,自社のパソコンにウィンドウズシリーズを搭載して出荷し続けることができない。
(争いがない。)
イ OEM業者が被審人に対して支払うロイヤリティには,出荷されたパソコンの数量にウィンドウズシリーズのロイヤリティの単価を乗じてロイヤリティの総額を計算するパーシステムと称する方法と,パソコンに搭載して出荷されたウィンドウズシリーズの数量にウィンドウズシリーズのロイヤリティの単価を乗じてロイヤリティの総額を計算するパーコピーと称する二通りの方法があり,OEM業者はどちらかの方法を任意に選択することができる。
我が国において,ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを出荷しているOEM業者は,パーシステムがパーコピーよりも割安となることから,ほとんど,パーシステムの方法を選択している。
被審人がOEM販売を許諾したウィンドウズシリーズの出荷数量が全世界において上位20社となるOEM業者を除き,パーシステムを選択した場合のパソコン1台当たりの標準ロイヤリティは,一般的には,一律68米国ドルであり,上位20社のOEM業者については,各社のパソコン出荷数量に応じて,ロイヤリティが減額される。
なお,OEM業者が「COOPERATIVE MARKET DEVELOPMENT AGREEMENT FOR MICROSOFT DESKTOP OPERATING SYSTEMS」と称する販売促進の協力に関する契約(以下「MDA」という。OEM業者のみ締結可能な契約である。)を締結している場合は,MDAに定められた基準に従って,ロイヤリティの単価は,標準ロイヤリティの額から最大10米国ドル減額される。
(争いがない。)
ウ 平成16年2月時点の日本国内のOEM業者は,前記(1)の東芝,日本電気,富士通,ソニー,日立製作所,シャープ,セイコーエプソン,松下電器産業,ソーテック,三菱電機及び日本ビクターのパソコン製造販売業者全11社に,沖電気工業株式会社(以下「沖電気工業」という。),株式会社イイヤマ,株式会社MCJ及びビジュアルテクノロジー株式会社の4社を加えた15社であり,また,我が国にウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを出荷している主要なOEM業者には,これらのほか,我が国における子会社を通じてパソコンの製造販売を行っているIBM,デル及びHPがある。(争いがない。)
(5) 間接契約
ア 被審人は,被審人と「MICROSOFT OEM DISTRIBUTOR AGREEMENT」を締結している被審人の販売代理店(以下「被審人の販売代理店」という。)を経由して,ウィンドウズシリーズが記録された記録媒体3枚が入ったシステムビルダーパック(以下「システムビルダーパック」という。)を,システムビルダーに対して販売していた。システムビルダーが,被審人の販売代理店から購入したシステムビルダーパックを開封することによって,「システムビルダーパック」に記載されている「OEMシステムビルダーに関する契約」と称する契約に同意したとみなされ,被審人とシステムビルダーとの間で「OEMシステムビルダーに関する契約」が成立することとされる(「ブレイクザシール方式」と呼ばれる。)。
イ 被審人は,システムビルダーに対して,ウィンドウズシリーズを頒布する非独占的な権利を許諾するが,完全に組み立てられたパソコン又は周辺機器ではないパソコンパーツのいずれかと共に頒布することを条件としている。完全に組み立てられたパソコンと共に頒布する場合には,システムビルダーは,パソコン用OSを完全に組み立てられたパソコンにプレインストールしなければならない。
ウ 被審人の販売代理店は,システムビルダーパックの製作を被審人から認められている「Authorized Replicator」から,これを仕入れてシステムビルダーに販売している。
被審人の販売代理店は,被審人に支払うウィンドウズシリーズの3コピー分のロイヤリティ(例えば,「Windows XP Home Edition」の場合は,238.5米国ドル),「Authorized Replicator」に対して支払う部材費(2,500円程度)及び自社のマージンを考慮してシステムビルダーパックのシステムビルダーに対する販売価格を決めている。
(以上,アないしウについて争いがない。)
エ システムビルダーには,アロシステム株式会社,株式会社ユニットコム,九十九電機株式会社,株式会社ソフマップ,株式会社神代等600社から700社が存在する。また,平成14年から平成15年当時,システムビルダーにライセンスされるウィンドウズシリーズは年間で合計して80万部程度であった。(査第4号証,第5号証,第36号証)
なお,システムビルダーの中には,OEM業者である東芝,富士通や,日本電気の子会社であるNECパーソナルプロダクツ株式会社等があるが,これは,別途締結している直接契約の対象となっていないウィンドウズシリーズのOEM販売のためである。(査第5号証,第45号証)
(6) 直接契約と間接契約の相違
直接契約の場合は,パソコン製造販売業者は英文契約書であるBTDやDTOS等の数種類の契約書を1年あるいは数年単位で被審人と交渉の上締結し,米国ドルでロイヤリティを支払わなければならない。他方,間接契約の場合は,被審人の販売代理店から円建てで「システムビルダーパック」を購入し,被審人との間で「ブレイクザシール方式」という簡易な方法で,OEM販売契約を締結することができる。(査第4号証)
このほか,直接契約と間接契約には以下の点において相違がある。
ア ロイヤリティ
直接契約の場合には,ロイヤリティが,間接契約の場合に比べ低くなる。
OEM業者が「Windows XP Home Edition」のOEM販売の許諾を受ける際に支払う対価は,前年1年間のパソコン出荷数量に応じてパソコン1台当たり59米国ドルから68米国ドル,すなわち日本円にして7,075円から8,155円(平成14年7月1日から平成15年6月30日までの期間の外国為替レートの平均値119.92円/米国ドルを用いて換算)までである一方,被審人の販売代理店の「Windows XP Home Edition」の販売価格は,平均10,685円であり,平成14年7月1日から平成15年6月30日までの期間において,OEM業者が「Windows XP Home Edition」について直接契約から間接契約に変更すると,そのOEM販売の許諾を受ける際に支払う対価が約31パーセントから約51パーセント増加することになる。
(査第4号証,第5号証,第55号証)
イ リカバリーディスク
通常,OEM業者は,パソコンにウィンドウズシリーズをプレインストールするとともに,ウィンドウズシリーズに加えて,多様な機能を実現する自社又は他社が開発したソフトウェアをプレインストールして販売しているところ,直接契約の場合は,OEM業者がカスタマイズしたリカバリーディスクを添付し,又はリカバリーディスクと同様の機能をハードディスクドライブに内蔵することにより,パソコンに不具合が生じた場合に,エンドユーザーがこれを利用してパソコン購入時点の状態に回復することができるようにしている。他方,間接契約の場合は,システムビルダーパックに入っているウィンドウズシリーズのCD−ROMを使用しなければならないため,ウィンドウズシリーズのみがインストールされた状態にしか回復することができない。(査第4号証,第5号証,第54号証の1及び2)
ウ プロダクトアクティベーション
間接契約の場合は,ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンをシステムビルダーから購入したエンドユーザーは,当該パソコンでウィンドウズシリーズを最初に使用する際,プロダクトキーと称する数字又は数字とアルファベットを組み合わせた記号を入力しなければならない。また,「Windows XP Home Edition」以降のウィンドウズシリーズの場合には,使用を開始してから30日以内に,プロダクトアクティベーションと称するライセンス認証のための作業(ソフトウェアパッケージに付属しているシリアルIDと,コンピュータのハードウェア情報やIPアドレスなど,コンピュータごとに独自の値を持つデータを合わせてソフトウェアメーカーに送信すると,ソフトウェアメーカーから,送信したシリアルIDとコンピュータの組合せでのみ使用できる「プロテクト解除キー」が送られてくるので,この解除キーをソフトウェアから入力するという作業。以下,この作業を「プロダクトアクティベーション」という。)を,インターネットを経由して又は電話を用いて行う必要がある。
他方,直接契約の場合,OEM業者は,プロダクトキーの入力及びプロダクトアクティベーションを完了させた状態でパソコンを出荷しているので,エンドユーザーは,プロダクトキーの入力やプロダクトアクティベーションを行う必要がない。
(査第4号証,第5号証,第54号証の1及び2,第58号証)
エ サポート体制
間接契約の場合は,技術支援やマーケティングの面での被審人らの支援は限定的に行われるが,直接契約の場合は,各OEM業者に対して,被審人等のアカウントマネージャーが付き,OEM業者は,技術支援やマーケティングの面での支援を被審人から直接受けられることになる。(査第4号証,第5号証,第60号証)
4 被審人のウィンドウズシリーズについての情報開示
(1) 被審人は,新たにバージョンアップしたウィンドウズシリーズ(以下「新バージョンのウィンドウズシリーズ」という。)の販売を開始するときには,新聞発表,各種のカンファレンスなどで新機能の説明や資料の配布をするほか,「ベータ・プログラム」と称する開発途上のものの不具合等の検証作業を経て,新バージョンのウィンドウズシリーズの使用の許諾を開始してきている。
「ベータ・プログラム」の概要は,次のとおりである。
ア 参加者
ベータ・プログラムには,パソコンの製造販売業者,プリンター等のパソコンの周辺機器製造業者,パソコンパーツの販売業者,ソフトウェア開発業者等で希望する者が参加することができる。
イ 内容
ベータ・プログラムは,被審人が,「ベータ版」,「リリースキャンディデート版」等と称する開発途上段階のウィンドウズシリーズ(以下「ベータ版等」という。)をオブジェクトコードにより参加者に提供し,ベータ版等がパソコン上で正常に作動するかどうか,他のソフトウェアとともに正常に作動するかどうかの検証を行うことを主な内容としており,不具合があれば,その状況を被審人に報告することになっている。(査第60号証,第65号証,第80号証ないし第82号証)
ウ 前記イの検証を行う際には,ベータ・プログラムの参加者は,被審人と「END−USER LICENSE AGREEMENT FOR PRERELEASE CODE」と称する(あるいはこれに類似する)契約書及び秘密保持契約等を締結し,被審人に対して秘密保持義務を負担し,さらに,ベータ版等のリバースエンジニアリング等が禁止される。(査第60号証,第80号証ないし第82号証)
(2) 被審人は,前記のベータ・プログラムが終了すると,製品版の候補である通常RC版と称されるもの(以下「RC版」という。)をOEM業者に提供する。その後,OEM業者が新バージョンのウィンドウズシリーズをプレインストールしパソコンの出荷の準備ができるよう,パソコンの出荷を開始する時期より大体1か月ほど先立って,新バージョンのウィンドウズシリーズの完成版であるRTM版(以下「RTM版」という。)をOEM業者に提供している。(査第80号証,第81号証)
5 AV技術とパソコンAV技術
(1) AV技術
ア AV技術とは,テレビ,CD,DVD等のオーディオやビデオ関連機器において,前記2(4)ア記載のAV機能を実現させるための技術をいい,これには,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術(以下「コーデック技術」という場合がある。)である「MPEG−2 Audio」,「MPEG−2 Video」,「MPEG−4 Audio」,「MPEG−4 Visual」,「MPEG−4 AVC/H.264」等の「MPEG」規格,Digital Right Management技術(送信する情報の著作権を管理するための処理を施すためのデジタル著作権管理技術。以下「DRM」という。)及びテレビ番組を録画するためにテレビの番組表を表示する「EPG」(電子番組ガイド)等が含まれる。
イ 「MPEG」規格
「MPEG」規格とは,情報技術に関する「Joint ISO/IEC Technical Committee(国際標準化機構,国際電気標準会議/合同技術委員会)が策定した音声データ及び画像データの圧縮に関する規格のことをいい,MPEG等の規格に係る「必須特許」とは,MPEG等の規格を満たす製品やシステムを作る場合に必ず使用する特許発明をいう。この「MPEG」等の規格に係わる「必須特許」は,パテントプール組織である「MPEG LA」及び「Via Licensing」により管理されている。(争いがない。)
「MPEG」規格はもともと,蓄積メディア,放送,通信などのための音声データ及び画像データの圧縮・伸長の規格であり,主にDVD,地上波放送,BS放送,CS放送などに利用される「MPEG—2」規格,主にTV電話,移動体通信,インターネット,放送用途に利用される「MPEG−4」規格などがある。(審第180号証)
「MPEG LA」は「MPEG−2 Video」,「MPEG−4 Visual」,「MPEG−4 AVC/H.264」,「IEEE1394」等の,「Via Licensing」は「MPEG−2 Audio」,「MPEG−4 Audio」等の規格に係る必須特許を管理し,これらの規格を満たす製品やシステムを作る者に対して,規格ごとに必須特許を一括してライセンスしている。(争いがない。)
(ア) 「MPEG−2」
「MPEG−2」のライセンサーであるOEM業者は,富士通,日立製作所,三菱電機,松下電器産業,シャープ,ソニー,東芝及び日本ビクターである。(査第70号証,審第130号証の3)
(イ) 「MPEG−4」
「MPEG−4 Visual」のライセンサーであるOEM業者は,富士通,日立製作所,三菱電機,松下電器産業,沖電気工業,シャープ,ソニー,東芝及び日本ビクターである。(審第130号証の3)
なお,被審人は,平成15年3月6日,「MPEG LA」との間で,「MPEG−4 Visual」の「Internet Video Decoders」と 「Internet Video Encoders」について,平成14年9月9日付けで「MPEG−4 VISUAL PATENT PORTFOLIO LICENSE」と称するライセンス契約を締結した。(査第72号証,審第111号証,第118号証の1)
(ウ) 「MPEG−4 AVC/H.264」
「MPEG−4 AVC/H.264」のライセンサーであるOEM業者は,富士通,日立製作所,松下電器産業,三菱電機,シャープ,東芝及び日本ビクターである。(査第74号証,審第120号証,第130号証の3)
被審人は,平成16年6月15日付けで,「MPEG LA」との間で,「MPEG−4 AVC/H.264」について,平成14年8月1日をライセンス契約の発効日とする「AVC PATENT PORTFOLIO LICENSE」と称するライセンス契約を締結した。(審第112号証)
(エ) 「IEEE1394」
「IEEE1394」はパソコンとAV家電機器を接続する規格である。当該規格の端子が使われているデジタルビデオカメラ等でデジタル化され記録された音声及び画像をパソコンで視聴できるようにするためには,当該規格に関するライセンスを受ける必要がある。
「IEEE1394」のライセンサーであるOEM業者は,日立製作所,松下電器産業,ソニー及び東芝である。(査第75号証)
被審人は,平成16年9月7日から平成17年10月5日のいずれかの時点において,「MPEG LA」との間で,「IEEE1394」についてライセンス契約を締結した。(査第76号証,審第130号証)
(2) パソコンAV技術
ア 近年,パソコン上で,インターネット等における音声データ及び画像データを保存せず(以下「ストリーミング方式」という。),又はハードディスクに音声データ及び画像データを保存して(以下「ダウンロード方式」という。),パソコンに付属若しくはダウンロードした「Windows Media Player」,「Real Player」,「iTunes」等のメディアプレーヤーソフトウェアを使用して再生し,それを視聴するなど,パソコンをオーディオ・ビジュアル(AV)機器のように使うエンドユーザーが増えてきている。(査第120号証)
このようなAV機能をパソコン上で実現するために必要となる技術を「パソコンAV技術」と称する。
イ パソコンAV技術には,デジタル化された音声データ及び画像データの作成技術(圧縮・伸長技術),管理技術(音声及び画像の検索と認証技術),アクセス管理技術,配信技術や課金技術などの技術があり,これらはパソコンAV技術の中核的技術(以下,これらデジタル化された音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術,配信技術や課金技術等を併せて「パソコンAV技術の中核的技術」という。)である。(査第78号証,第120号証,第152号証の1及び2,審第162号証)
例えば,インターネットを経由して,プロバイダーが音声データ及び画像データを送信し,そして,当該送信された音声データ及び画像データをパソコン上で視聴するためには,①プロバイダーがインターネットを介して送信する音声データ及び画像データのサイズを小さくしストリーミング方式による再生を可能とするために,「コーデック」を用いて音声データ及び画像データを圧縮(「エンコード」と称することもある。)する,②圧縮された当該音声データ及び画像データを,受信したパソコン上において伸長(「デコード」と称することもある。)し,再生ソフトウェアを利用して当該音声データ及び画像データを再生して視聴する,という過程を経ることがある。(査第122号証の1及び2,第152号証の1,審第121号証,加藤恒参考人)このような過程において利用される,あるいは利用される可能性のあるAV技術はパソコンAV技術に含まれる。
ウ パソコンにおいて受信された,圧縮された音声データ及び画像データを伸長して再生するソフトウェアとしては,被審人の製品である「Windows Media Player」の他に,リアルネットワークス・インク(以下「リアルネットワークス」という。)の「Real Player」及び「Real One」,アップルの「Quick Time」,ソニーの「Sonic Stage」等が存在し,インターネット上の多数のウェブサイト運営者であるプロバイダー等は,自社の音声データ及び画像データを,リアルネットワークスの形式,アップルの「Quick Time」形式,ソニーの「ATRAC」形式,被審人の「Windows Media」形式等で圧縮して配信し,また,パソコン利用者は,当該形式により圧縮された音声データ及び画像データをパソコン上で伸長(デコード),再生して視聴する。(査第122号証の1及び2,審第93号証,稲深思参考人)
(3) 被審人のパソコンAV技術
ア 「Windows Media Technologies」
被審人は,「Windows Media Technologies」(以下「WMT」と略称することがある。なお,「WMT」を「Windows Media」ともいう。)と称する,音声データの圧縮・伸長技術である「Windows Media Audio」(以下「WMA」と略称することがある。),画像データの圧縮・伸長技術である「Windows Media Video」(以下「WMV」と略称することがある。),音声データ及び画像データを視聴するためのアプリケーションソフトウェアである「Windows Media Player」,DRMである「Windows Media DRM」等を総合した技術を開発している。(査第24号証,第122号証の1及び2,第151号証の1及び2,第152号証の1及び2,審第90号証,第92号証,第105号証,第107号証,加藤恒参考人)
また,被審人はこの「Windows Media Technologies」のバージョンアップや新たな技術の追加により,その機能を拡張・強化している。(争いがない)
なお,被審人は,平成15年1月に「Windows Media Player 9.0」の販売を開始し,平成15年9月に,「Society of Motion Pictures and Television Engineers」(全米映画テレビジョン技術者協会。以下「SMPTE」という。)に対して,「Windows Media Player 9.0」に含まれる「WMV9」のデコーダ(伸長技術)部分の標準規格化を提案し,その仕様を提出した。「SMPTE」によって,「WMV9」は,「VC−9」と称される標準規格となり,さらに,平成16年3月には,「VC−9」は,「VC−1」という名称で,「MPEG LA」においてライセンス管理されることとなった。
(査第152号証の1及び2,審第121号証,第131号証,第183号証の1及び2)
イ 被審人のパソコンAV技術の取引形態
(ア) パソコンAV技術取引は,当該技術を利用したソフトウェアをパソコン製造販売業者に使用許諾をする形態,当該技術を特許権化し,あるいはノウハウとしてその実施を許諾する形態等多様な形態で行われているところ,当該技術の優劣やロイヤリティの多寡などによって,パソコンAV技術の開発者間でその取引をめぐる競争が行われている。(パソコンAV技術という技術分野の存否の点を除き争いはない。)
(イ) 被審人は,前記アのパソコンAV技術を,ウィンドウズシリーズ及び「Windows Media Player」等に搭載することにより,ウィンドウズシリーズの使用等の許諾という形態で,パソコン製造販売業者等に供給している。
また,被審人は,「Windows Media Technologies」あるいは「Windows Media Technologies」を構成する「Windows Media Audio」,「Windows Media Video」,「Windows Media DRM」等のパソコンAV技術を,エンドユーザー,プロバイダー,ソフトウェア及びハードウェアの開発者等に対して提供している。
例えば,被審人は,平成13年3月に,「Windows Media Audio 8」及び「Windows Media Video 8」のライセンス供与を開始し,平成15年1月には,「Windows Media Audio 9」,「Windows Media Video 9」,「Windows Media DRM 9」を含む「Windows Media Player 9」のライセンス供与を開始している。
(査第24号証,第25号証,第122号証の1及び2,第152号証の1及び2,審第105号証,第107号証の1及び2,第121号証)
(4) OEM業者のパソコンAV技術
前記(1)イ(ア)ないし(エ)のとおり,OEM業者の多くは,MPEG規格に係るAV技術について必須特許を保有している。具体的には以下のとおりである。
ア ソニー
ソニーは,平成8年ころ以降,自社のパソコンにAV機能を充実させることによって市場における自社のパソコンの優位性を確立すべく,「VAIO」と称するブランドでパソコンを製造販売してきており(以下,当該ブランドを付されたパソコンを「VAIO」という。),VAIOに使用するAV機能に係る技術を開発してきている。(査第50号証,第65号証,第68号証,稲深思参考人)
例えば,ソニーは,音声データ及び画像データの管理や送受信を効率的に行うため,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術の開発を積極的に行っており,「ATRAC」と称する独自に開発した音声データの圧縮・伸長技術をパソコン向けの「Sonic Stage」と称する再生ソフトウェアで利用している。(査第141号証ないし第145号証,稲深思参考人)
このほか,「ギガポケット」と称するアプリケーションソフトウェアは,パソコンでテレビ番組を視聴又は録画したり,電子番組表(EPG)と称するインターネット上の番組情報サイトで番組を選択し,録画予約を設定できる機能を実現している。ソニーは,この「ギガポケット」の機能に関する技術について多くの特許権を保有し,他社に対して当該特許技術の実施を許諾している。(査第65号証,第66号証,第69号証,稲深思参考人)
ソニーがAV機能に関する技術開発によって取得した特許権は,「MPEG−2」,「MPEG−4 Audio」,「MPEG−4 Visual」,「MPEG−4 AVC/H.264」及び「IEEE1394」と称するMPEG規格の必須特許となっており,同社は,「MPEG LA」及び「Via Licensing」を通じて,パソコン製造販売業者等に対して当該特許技術の実施の許諾をしている。(査第70号証,第72号証,第74号証,第75号証,第139号証)
イ 松下電器産業
松下電器産業は,DVDレコーダー等のAV機能を有する家電製品を積極的に開発し,また,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術やDRM等パソコンに使用されるAV機能に関連する技術開発に投資し,数多くの特許権を保有している。(査第50号証,第61号証,第120号証)
松下電器産業がAV機能に関する技術開発によって取得した特許権は,「MPEG−2」,「MPEG−4 Audio」,「MPEG−4 Visual」,「MPEG−4 AVC/H.264」及び「IEEE1394」と称するAV機能に関する規格の必須特許となっており,同社は,「MPEG LA」及び「Via Licensing」を通じて,パソコン製造販売業者等に対して当該特許技術の実施の許諾をしている。(査第70号証,第72号証,第74号証,第75号証,第139号証)
ウ 三菱電機
三菱電機は,デジタル化された映像をいつでもどこでも楽しむことを目指して,AV機能に関する技術の開発を積極的に行ってきている。三菱電機によるAV機能に関する技術の開発には, 音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術,電子番組表(EPG),IEEE1394,DRM, ユーザーインターフェース,ストリーミング方式による配信技術,HDTV映像符号化技術である超圧縮符号化技術,デジタルカメラなどの画像処理技術などがある。(査第79号証)
三菱電機がAV機能に関する技術開発によって取得した特許権は,「MPEG−2」,「MPEG−4 Visual」及び「MPEG−4 AVC/H.264」と称するAV機能に関する規格の必須特許となっており,同社は,「MPEG LA」を通じて,パソコン製造販売業者等に対して当該特許技術の実施の許諾をしている。(査第52号証,第70号証,第72号証,第74号証,第78号証,第79号証)
6 本件非係争条項
(1) 本件非係争条項の導入
ア 被審人は,平成5年ころ以降平成16年7月31日まで,OEM業者に,被審人から使用の許諾を受けたウィンドウズシリーズに関して,OEM業者が特許権侵害を理由に被審人又は他のライセンシー等に対して訴えを提起しないことを誓約する規定(以下,これと同趣旨の規定を総称して「本件非係争条項」という。)がある直接契約(BTD)を提示し,当該OEM業者との間で本件非係争条項のある直接契約を締結し,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾をしてきた。
なお,被審人は,平成13年ころまでは,OEM業者との間でクロスライセンス契約を締結している場合には,本件非係争条項のない直接契約を当該OEM業者との間で締結していた。
(争いがない。)
イ 被審人は,平成5年ころ以降平成16年7月31日までの直接契約(BTD)に本件非係争条項の規定を入れていたことから,その間にOEM販売の許諾が開始されたすべてのウィンドウズシリーズが本件非係争条項の対象となる。
すなわち,平成5年ころに許諾が開始された「Windows 3.1」を始め,それ以降「Windows NT Professional」,「Windows 95」,「Windows 98」,「Windows 2000 Professional」,「Windows Millennium Edition」,「Windows XP Home Edition」, 「Windows XP Professional Edition」,「Windows XP Media Center Edition」などすべてのウィンドウズシリーズについて直接契約を締結したOEM業者は,本件非係争条項の適用を受ける。
(争いがない。)
(2) 本件非係争条項の内容
ア 平成13年に締結された直接契約の本件非係争条項は,BTD(For Large Accounts with Third−Party Installer Rights)の第8条(d)に規定されており,その内容は,おおむね,以下のとおりである。(査第87号証の1及び2,第93号証の1及び2,第94号証,第120号証,審第第39号証,第44号証,第52号証)
(ア) OEM業者は,ライセンス契約によってOEM業者にライセンスされる「製品」及びライセンス契約に基づきOEM業者にライセンスされる「製品」のバージョンで使用されている発明が当該「製品」の将来製品,交換製品又は後継製品にも使用されている場合には当該将来製品,交換製品又は後継製品の製造,使用,販売又は頒布によって,「免除期間」中に生じる「OEM業者の特許」の侵害に関して,被審人及び被審人の関連会社又はそれらのライセンシー(OEM業者及びエンドユーザーを含む。)に対し,(A)訴えないこと,(B)あらゆる種類の司法上,行政上,その他の手続において手続の提起,訴追,支援又は参加をしないことに同意する。
(イ) 前記(ア)における「OEM業者の特許」とは,契約の終了前に行われた発明に関してOEM業者が保有若しくは取得する,又はOEM業者が契約の終了前に権利を保有若しくは取得している世界中におけるすべての特許権をいい,「免除期間」は,OEM業者の特許権のいずれかが最初に発行されたときから,OEM業者の特許権の終了までとする。
なお,「免除期間」の終期については,OEM業者によって相違があり,直接契約に定められた契約期間終了後一定期間までを免除期間とするものなどがある。
イ 被審人は,平成13年11月ころ,米国における反トラスト法に係る訴訟において米国司法省と和解したが,この和解契約(以下「米国司法省との和解契約」という。)には,被審人が世界における上位20社のOEM業者と締結する直接契約の内容を共通のものとすることが含まれていたことから,被審人は,平成14年以降に締結する直接契約における本件非係争条項を,すべてのOEM業者との間で共通のものとすることにした。(争いがない。)
(ア) 平成14年2月1日から平成14年7月31日までを期間とするBTD(バージョン4.01)の本件非係争条項は,BTDの第8条(d)に規定されており,その内容は,おおむね,以下のとおりである。(査第88号証の1及び2,審第78号証)
a OEM業者は,「対象製品」の製造,使用,販売,販売の申入れ,輸入又はその他の方法による「OEM業者の特許」の侵害について,被審人,被審人の関連会社及び被審人の「ライセンシー」に対し,(A)訴えないこと,(B)あらゆる種類の司法上,行政上,その他の手続において手続の提起,訴追,支援又は参加をしないことを誓約する。
(a) 「OEM業者の特許」とは,①「対象製品」の製造,使用,販売,販売の申入れ,輸入又はその他の方法により侵害され,かつ,②OEM業者が,現在保有しているか,又は契約の終了前までに取得する世界中における特許権のみをいう。
(b) 「対象製品」とは,被審人がOEM業者にライセンスした本製品,プレインストール作業用ソフトウェア及びOEM業者が配布する補助品をいう。ライセンス契約によりOEM業者にライセンスされた「対象製品」に現在含まれる特徴及び機能が「対象製品」の将来製品,交換製品又は後継製品にも含まれている場合には,かかる特定の特徴及び機能は,本契約第8条(d)のためにのみ「対象製品」の一部とみなされる。
(c) 「ライセンシー」とは,「対象製品」に関連して,直接的あるいは間接的に被審人によってライセンスされる第三者をいい,これには,OEM業者,対象製品のすべての他の販売業者及びエンドユーザーを含む。
b 本契約第8条(d)に基づく,OEM業者の被審人,被審人の関連会社及び被審人のライセンシーに関する誓約は,OEM業者が「対象製品」の販売を中止後3年以上経過後に発生するすべての侵害については効力を有しない。ただし,かかる誓約が適用されるエンドユーザーライセンス契約に基づくエンドユーザーの行為については,この限りではない。
(イ) 平成14年8月1日から平成15年7月31日までを期間とするBTD(バージョン5.0)及び平成15年8月1日から平成16年7月31日までを期間とするBTD(バージョン6.0)の本件非係争条項の内容は,おおむね,前記(ア)の平成14年2月からのものと同じである。(査第89号証の1及び2,第90号証の1及び2)
なお,これらの本件非係争条項においてOEM業者が行使しないことを約している特許権の侵害に関する裁判手続,行政手続,その他の手続における訴えの提起,訴追,支援又は参加を以下「特許権侵害訴訟の提起等」という。
ウ 前記平成13年の契約及び平成14年以降の契約のいずれにおいても,BTD第11条(c)において,本件非係争条項に係る前記規定は,ライセンス契約終了後においてもなお効力を有する旨が規定されている。
(3) 個別のOEM業者との本件非係争条項を巡る契約締結交渉
ア 松下電器産業
松下電器産業は,平成7年締結のウィンドウズシリーズのライセンス契約において,被審人に対して,本件非係争条項の削除を求め,この結果,免除期間が,特許権の終了までとする期間から,契約終了から7年間に変更された。(審第41号証,第42号証)
その後,平成12年ころには,ウィンドウズシリーズのAV機能が充実してきたため,かねてから,AV機能に関する技術の分野において技術開発や製品開発を進め,当該分野において多くの特許権を保有していた松下電器産業にとって,本件非係争条項のある直接契約を締結することは同社の事業活動に与える影響が大きくなっていた。(査第50号証,第61号証)
(ア) 平成13年1月を始期とする契約
a 平成12年11月13日,松下電器産業は,マイクロソフト株式会社のアカウントマネージャーに書面を送付し,次のことを主張した。
(a) 本件非係争条項によって,被審人及びウィンドウズシリーズのライセンシーに対して自社の特許技術を実質的に無償で実施許諾することになること。
(b) ウィンドウズシリーズは,かつてのパソコン用OSと異なり,AV機能を包含した極めて多機能なものになってきており,その傾向は今後も継続すると考えていること。
(c) AV機能に関する技術を搭載した製品を販売し,かつ開発研究を進めてきている松下電器産業としては,ウィンドウズシリーズが将来どのような技術を包含していくのかに大きな関心を抱いていること。
また,松下電器産業は,同じ書面において,自社が直接契約を更改するか否かを検討するためには,更改に先立って,今後ウィンドウズシリーズに搭載される技術と自社の特許権の関係を精査する必要があり,今後3年間に販売が予定されているウィンドウズシリーズに搭載される技術について情報を提供するよう被審人に依頼した。
b 平成12年11月29日,松下電器産業とマイクロソフト株式会社との間で行われた会議において,マイクロソフト株式会社のアカウントマネージャーは,今後3年間に販売が予定されているウィンドウズシリーズに搭載される技術に関する情報を提供することは難しいこと,ただし,松下電器産業が希望する本件非係争条項に係る対案を提示すれば,それを叩き台として交渉することも検討できる旨を松下電器産業に伝えた。
c 平成12年12月6日,松下電器産業は,再度,マイクロソフト株式会社のアカウントマネージャーに書面を送付し,自社が被審人からウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けて販売しているパソコンの数量が少ないにもかかわらず,本件非係争条項は松下電器産業の保有するすべての特許権を対象としているという点で,自社に重大な影響を与える旨主張した。
また,松下電器産業は,被審人が,ウィンドウズシリーズのために,松下電器産業が所有する特許権のライセンスを希望する場合には,松下電器産業は当該特許権の使用の許諾をするべく,被審人と誠意をもって交渉することに同意する旨の内容の修正案を提示し,本件非係争条項の修正を要請した。
d 平成12年12月15日,松下電器産業は,被審人との間で電話会議を行い,自社は現行の直接契約を締結した3年前とは異なり,自社がAV機能に関する特許権を多く保有するようになったので,それらの特許権がすべて本件非係争条項による制限を受けかねない旨主張した。
それに対し,被審人は,松下電器産業から提案された本件非係争条項の修正案は,実質的に本件非係争条項をなくすことと同じであること,被審人との間で既存のクロスライセンス契約が存在しない限り,被審人はすべてのOEM業者と本件非係争条項のあるライセンス契約を締結している旨主張し,本件非係争条項の修正を拒否した。
松下電器産業は,本件非係争条項が自社に重大な影響を与えることを具体的に示すため,同社がOEM販売の許諾を受けている「Windows 2000 Professional」によって侵害されている又はその可能性がある特許をリストアップし,マイクロソフト株式会社のアカウントマネージャーに送付した。
e 平成12年12月20日,松下電器産業は,再度被審人との間で電話会議を行い,自社のウィンドウズシリーズを搭載したパソコンの販売数量と自社が本件非係争条項によって負う義務がバランスを失すると再度主張した。
これに対し,被審人は,松下電器産業が支払うロイヤリティは本件非係争条項によって低減されているのでバランスを失していないと主張し,本件非係争条項の修正を再度拒否した。
そこで,松下電器産業は,次の二つの提案を行った。
(a) 本件非係争条項の対象となる松下電器産業の特許権をパソコン事業部のものに限定すること。
(b) MPEG等のパテントプールの中で松下電器産業が有する必須特許を本件非係争条項の対象から除外すること。
(以上,aないしeについて争いがない。)
f その後,被審人は,平成12年12月20日の松下電器産業による提案を翌年1月17日などに開催した電話会議で拒否したので,松下電器産業は,これ以上被審人と交渉しても本件非係争条項の修正は一切受け入れられることはないと考え,平成13年2月には,本件非係争条項のある直接契約を締結した。(査第50号証,第61号証,第99号証)
(イ) 平成14年2月を始期とする契約
a 平成14年1月9日,松下電器産業は,被審人に対して,次期直接契約のドラフトに関する意見を伝える書面を送付し,次の主張をした。
(a) 次期直接契約のドラフトの提示を受けてから次期直接契約の締結期限までの期間が余りにも短すぎたので,直接契約を更改するために必要な検討作業を行うことができないこと。
(b) 依然として直接契約案に規定されている非係争条項は自社の知的財産権に係る業務に重大な影響を与えること。
(c) 被審人から提示された非係争条項は,松下電器産業のみならず自社の子会社が所有する特許権までも対象としていること。
(d) 既存の直接契約の本件非係争条項では「訴訟を提起しないことを誓約する」という規定であったにもかかわらず,今回のドラフトでは「特許権を主張しないことを誓約する」に変更されているなど,今回示された非係争条項は以前のものよりも不利なものになっているので,元に戻すこと。
平成14年1月10日及び同月16日,被審人との間で行われた電話会議において,被審人は,被審人と米国司法省との和解契約では統一契約が義務付けられているので,松下電器産業が主張する非係争条項の修正には応じられないと回答した。
(争いがない。)
b 平成14年1月29日,再度行われた電話会議の場において,被審人が次期直接契約の非係争条項として,平成13年に締結していた直接契約のものと同一のものを提示してきたため,本件非係争条項に対する懸念は解消されてはいなかったものの,松下電器産業は,本件非係争条項のある直接契約を締結した。(査第50号証,第61号証)
(ウ) 平成14年8月を始期とする契約
a 平成14年3月15日までに,松下電器産業は,被審人に対して,本件非係争条項に関する自社の意見を記載した書面を送付し,次のとおり主張した。
(a) 本件非係争条項は,パソコン製造販売業者の開発投資の結果である特許権の行使を奪う不公正なものであること。
(b) 本件非係争条項は,新たな技術開発のために多くの投資をしてきたパソコン製造販売業者を不当に扱うものであること。
(c) パソコン製造販売業者が有する特許権の価値がロイヤリティに反映されるべきであり,さもなければ本件非係争条項は削除すべきであること。
b 平成14年4月12日,松下電器産業は,被審人とのテレビ会議において,被審人は前記aの意見について何ら回答してきていないと述べ,本件非係争条項を直接契約から削除してもらいたいと再度主張したが,被審人は, いまだ検討中であると発言するのみであった。
c 平成14年4月25日,被審人は,松下電器産業に対して,次期直接契約のドラフトを提示した。
d 平成14年4月26日,松下電器産業は,次期直接契約のドラフトには依然として,本件非係争条項の規定があったこと,上記aの書面について被審人からいまだ何ら回答をもらっていなかったことから,マイクロソフト株式会社のアカウントマネージャーに対して書面を送付し,本件非係争条項に対する自社の立場は変わっていないこと,本件非係争条項は削除されるべきであると再度主張した。
(以上aないしdについて争いがない。)
e 被審人が上記dの主張に何ら回答しなかったため,松下電器産業は,これ以上交渉しても自社の主張が受け入れられることはないと判断し,それ以上本件非係争条項に関する交渉をせず,直接契約を締結した。(査第50号証,第61号証)
(エ) 平成15年8月を始期とする契約
松下電器産業は,被審人から提示された次期直接契約のドラフトに本件非係争条項の存在を認めたものの,前年までの交渉過程で被審人が本件非係争条項の削除又は修正に一切応じてこなかったことから,再度交渉しても徒労に終わると判断し, 被審人と本件非係争条項に関する交渉を行わず,直接契約を締結した。(査第50号証)
イ 三菱電機
(ア) 平成14年2月を始期とする契約
三菱電機は,かねてから,画像データの圧縮・伸長技術に関する研究開発を積極的に行ってきており,「MPEG−4 Visual」及び,「MPEG−4 AVC/H.264」規格の必須特許を所有し,当該必須特許に係る技術を業界標準技術として広く実施の許諾を行い,ロイヤリティを得ていく方針としていた。
本件非係争条項は,平成9年ころには,被審人との直接契約に挿入されていたが,平成13年ころ,ウィンドウズシリーズに採用されている画像の圧縮・伸長技術に「MPEG−4」規格の技術が使われている可能性が生じたことから,三菱電機は,本件非係争条項が「MPEG—4」規格の必須特許に適用されてしまうと,画像データの圧縮・伸長技術の開発のために投下した費用が回収できず,将来の研究開発投資に支障を来し,自社の競争力が損なわれることになることを懸念した。
この懸念を解消するため,三菱電機は,平成13年末ころ,本件非係争条項の問題点を被審人に指摘し,本件非係争条項を削除するよう要請した。
しかしながら,被審人は,本件非係争条項を変更することはできないと主張してきた上,平成14年2月1日までに次期直接契約を締結しなければ,ウィンドウズシリーズの出荷が停止されるであろうと通告してきたため,パソコン事業を継続するため,三菱電機は,本件非係争条項を含む直接契約を締結した。
(査第52号証,第78号証,第100号証,第101号証)
(イ) 平成14年8月を始期とする契約
a 平成14年3月15日,三菱電機は,被審人に対して,次のとおり主張した。
(a) 次期直接契約のドラフトを被審人が検討する際には,自社の意見を考慮してもらいたいこと。
(b) 本件非係争条項によって,被審人は三菱電機の技術を自由に使えることになるので,そのような条項をライセンス契約に設けることはアンフェアであり,その合法性が疑わしいこと。
その後,被審人から提示された次期直接契約のドラフトには依然として本件非係争条項が含まれていたので,同社は,本件非係争条項を削除するように被審人に対して主張を続けたが,被審人はその主張を受け入れなかった。
(争いがない。)
b 三菱電機は,本件非係争条項に関する懸念が依然として残っていたものの,平成14年7月末までに契約更改しなければ被審人からウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けられなくなり,パソコンの出荷に支障を来すことになること,また,本件非係争条項の削除を一切受け付けないというそれまでの被審人の態度にかんがみると,同年同月末までに本件非係争条項を削除させることは時間的に不可能であると考えられたことから,被審人から提示された本件非係争条項のままで直接契約を締結する以外に選択肢がないと判断し,直接契約を締結した。(査第52号証,第78号証,第112号証の1及び2)
なお,被審人は,本件非係争条項の「MPEG−4」規格に係るロイヤリティの支払への適用に対する見解を明らかにしてほしいとの三菱電機の求めに応じて,パテントプールへのロイヤリティの支払いを行う計画であること,及び三菱電機は,非係争条項の有無にかかわらず被審人が支払ったロイヤリティから適正な取り分を受領することができる旨回答した。(査第78号証)
(ウ) 平成15年8月を始期とする契約
三菱電機は,被審人から提示された次期直接契約のドラフトに本件非係争条項の存在を認めたものの,前年までの交渉過程で被審人が本件非係争条項の削除又は修正に一切応じてこなかったことから,再度交渉しても徒労に終わると判断し,被審人と本件非係争条項に関する交渉を行わず,直接契約を締結した。(査第78号証)
ウ ソニー
ソニーは,AV機能に関する技術について積極的に技術開発を行い,その開発成果を自社のパソコンに搭載して他のパソコン製造販売業者の製品との差別化を図る戦略を採ってきていた。
そして,ソニーは,平成8年の被審人との直接契約締結に際し,被審人に対して,MPEG関連特許を本件非係争条項の適用対象から除外するよう求めた。しかしながら,被審人が当該特許のウィンドウズシリーズ上の取扱いについては検討中であると回答したため,ソニーは,暫定的に当該契約の発効日(平成8年8月1日)から3年後を期限として本件非係争条項を適用することに合意した。(査第65号証,第66号証,審第57号証,第58号証)
平成13年ころに使用の許諾が開始された「Windows XP Home Edition」及び「Windows XP Media Center Edition」におけるAV機能の拡張は著しかったので,平成14年ころまでには,ウィンドウズシリーズが自社の特許権を侵害していることについてのソニーの懸念は非常に大きくなってきていた。ソニーは,ウィンドウズシリーズのAV機能の拡張が進むにつれ,自社のパソコンの差別化のために投資を行い開発した技術がウィンドウズシリーズに使用されて,競合する他のパソコン製造販売業者に自社の技術がフリーライドされたとしても,被審人のみならず他のパソコン製造販売業者からもロイヤリティを徴収するという投資回収手段が実質的に閉ざされてしまうという問題を懸念した。
そこで,ソニーは,本件非係争条項の削除を強く申し入れることとした。
(査第26号証,第47号証,第65号証)
(ア) 平成14年2月を始期とする契約
a ソニーは,平成14年1月31日付け被審人あての書面によって,次のことを主張した。
(a) 被審人とソニーとが直接競合するような技術及び事業分野が出てきているので,米国司法省との和解契約に基づきソニーに非係争条項を含む直接契約の締結を強制することは許容できないこと。
(b) 自社の知的財産権や事業をより合理的に守ることができるために交渉できる公正な機会を要求すること。
(争いがない。)
b 被審人が,ソニーの要求に何ら応じなかったことから,ソニーは,パソコン事業を継続するために,本件非係争条項を含む直接契約を締結した。(査第65号証)
(イ) 平成14年8月を始期とする契約
a 平成14年3月15日,ソニーは,被審人に対して本件非係争条項に関する意見を記載した書面を送付し,以下の主張を行い,本件非係争条項に対する重大な懸念を表明するとともに,本件非係争条項の修正案を被審人に対して提示した。
(a) ソニーがこれまで開発し,今後開発していく製品は,ウィンドウズシリーズと競合するものであること。
(b) 被審人はソニーがVAIOで実現しているような様々なAV機能をウィンドウズシリーズに搭載することによってウィンドウズシリーズの機能を増強しているが,本件非係争条項によってソニーは何ら対抗措置を採ることができないので,VAIOの独自性が失われるであろうこと。
(c) 本件非係争条項が適用されるソニーの特許権は,被審人がその自由裁量でウィンドウズシリーズの機能を拡張するに伴って拡大していくものであること。
(d) ソニーにとって,本件非係争条項を回避することは,パソコン事業から撤退することを意味するということ。
その後,平成14年7月ころまでソニーと被審人との間で本件非係争条項に関する交渉が続けられたが,被審人は上記本件非係争条項の修正案を受け入れることはなかった。
(争いがない。)
b 平成14年7月末の直接契約の更改時期が近づき,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾が終了してしまうとパソコンの出荷を止めなくてはならなくなることから,本件非係争条項に対する懸念は払拭されなかったものの,ソニーは,被審人との間で直接契約を締結した。(査第65号証)
(ウ) 平成15年8月を始期とする契約
平成15年ころになると,平成18年ころに使用の許諾が開始される予定である「ロングホーン」と称する新バージョンのウィンドウズシリーズに搭載される機能が次第に明らかになり,VAIOに搭載されている機能や「Windows XP Media Center Edition」の機能はすべて当該製品にも搭載されてしまうものと予想されたことから,本件非係争条項に対するソニーの懸念はますます大きくなっていた。(査第65号証)
a 平成15年3月14日,ソニーは,被審人に対して書面を送付し,同書面の中で次のことを主張した。
(a) 本件非係争条項については,平成14年3月15日に被審人に送付したレターに記載した懸念と同様の懸念を依然として有しており,その懸念はますます強くなってきていること。
(b) ウィンドウズシリーズの機能拡張によって被審人と自社は競争関係にあり,競争関係にある事業者同士で本件非係争条項のある直接契約を締結することには強く反対すること。
(c) 平成14年3月15日にソニーが提案した本件非係争条項の修正案を考慮すべきであること。
(争いがない。)
b 前年と同様,被審人はソニーから提案された本件非係争条項の修正を拒否したため,ソニーは,パソコン事業を継続するため,本件非係争条項のある直接契約を締結した。(査第65号証)
エ 富士通
平成5年に,「Windows NT」の契約締結交渉において,被審人から本件非係争条項を含む直接契約のドラフトが富士通に提示された。
富士通は,被審人の提示する本件非係争条項は,富士通のみが非提訴を約束することが要求され,被審人が保有する特許権については許諾されず,当該特許権に関する非提訴も約束されないという点で片面的であると考え,被審人と交渉を進めたところ,両者間の広範なビジネス提携の一つとして,平成9年9月16日付けで,包括的なクロスライセンス契約を締結した。
被審人により提示された平成14年1月を始期とする直接契約のドラフトには,本件非係争条項が復活した形で提示されており,富士通は,被審人より,米国司法省との和解契約によって,被審人は上位20社のOEM業者と同条件で契約を結ばなければならず,被審人は富士通だけを別扱いにはできないとの説明を受けたが,本件非係争条項は富士通と被審人間のクロスライセンスに変更を与えるものではない旨の回答を被審人より得た。
(査第46号証)
オ 東芝
平成5年に,東芝は,被審人から本件非係争条項の付された直接契約を提示され,交渉の結果,「免除期間」を直接契約終了後3年とする内容に,本件非係争条項を修正した。
東芝は,「Windows 98」に係る直接契約の締結時に,自社の特許技術が自社の意思に反して使用されることとなる本件非係争条項の削除を強く求め,その後,数年間にわたって削除を要請してきたが,被審人はこれを拒絶してきた。また,東芝は,被審人に対して,平成12年から平成13年の初頭にかけて,「MPEG−2」などのMPEG規格に係る特許権を本件非係争条項の対象から除外するよう要求した。この結果,平成13年1月を始期とする契約では,①「IEEE1394」規格,②「MPEG−2」規格,又は③「MPEG−4」規格に係る東芝が保有する特許権について,本件非係争条項の免除期間を,直接契約終了後4年間とした。
なお,東芝は,ウィンドウズシリーズに東芝の有力な特許技術が使用されていることを現実に認識したことはなく,また,本件非係争条項により東芝の特許ライセンス活動に支障が生じたこともないと考えていた。
(査第44号証,審第59号証,第60号証の1及び2)
カ 日立製作所
平成5年3月,日立製作所は,被審人により提示された「Windows NT 3.1」(パソコンサーバー用OS)の契約書ドラフトに本件非係争条項があり,自社の顧問弁護士から,本件非係争条項は我が国の独占禁止法に抵触するおそれがあるとのコメントを得て,本件非係争条項を削除すべく,被審人と契約締結交渉を開始した。
その結果,日立製作所と被審人は,ウィンドウズシリーズに日立製作所の保有する特許権が含まれていた場合には,直接契約終了後7年間とされていた免除期間を,5年間に短縮すること,また,日立製作所が,被審人と特許権侵害について交渉し,当該交渉が決裂した場合には,日立製作所が本件非係争条項の終了通知を行い,その場合は,日立製作所の保有する特許権は,当該終了通知後の2年半後に有効になる旨の合意を行い,平成6年1月28日付けで直接契約を締結した。
平成13年12月に,被審人が提示した直接契約のドラフトでは,上記合意事項が削られていたが,被審人は,米国司法省と和解契約に基づき,すべてのOEM業者と同一の条件の契約を締結しなければならず,契約条件について個別に交渉することはできないとしていたことから,日立製作所は,やむを得ず,本件非係争条項の付された直接契約を締結した。
(査第48号証,第60号証,審第38号証ないし第40号証)
キ 日本電気
日本電気は,本件非係争条項について,平成5年に,被審人と交渉を行った結果,本件非係争条項を合意したOEM業者に対して双務的に適用される範囲において本件非係争条項が日本電気にも適用されること,及び被審人のライセンシーが日本電気に対して特許権侵害訴訟などを提起した場合は,当該ライセンシーに対しては,本件非係争条項にかかわらず,日本電気は自社の特許権を主張できる旨変更して,本件非係争条項を受け入れた。(審第49号証ないし第53号証)
ク IBM
IBMは,平成4年1月1日付けで,被審人と相互に,特許権侵害訴訟を提起しないことを定めるクロスライセンス契約を締結した。
平成7年1月1日に被審人とIBMとの間で締結されたウィンドウズシリーズの直接契約には,平成10年3月31日までに,本件非係争条項に代わる規定の協議に努める旨の規定が挿入された。
IBMと被審人は,平成9年7月1日付けで,平成15年1月1日までを期限とする,上記と同様の内容のクロスライセンス契約を締結した。(査第149号証の1及び2,審第64号証ないし第66号証)
ケ HP
HPは,平成7年に,被審人が提示した直接契約における本件非係争条項の同意を拒絶し,被審人とHPは,クロスライセンス契約の締結に向けての交渉を開始し,平成8年8月8日に,平成13年6月1日まで有効期間を有するクロスライセンス契約を締結した。その後,平成14年6月3日付けで,さらに,被審人とHPはクロスライセンス契約を締結した。
(査第59号証の1ないし3,審第67号証,第69号証)
コ シャープ
ウィンドウズシリーズについての直接契約の締結当初より,本件非係争条項は付されていた。シャープは,パソコン用OSに係る特許権を余り保有していないことから,被審人に対して,本件非係争条項の削除及び修正を要請したことは無かった。(査第49号証)
サ ソーテック
ソーテックは,ウィンドウズシリーズをカスタマイズすることなく,パソコンを販売することに特化していたため,被審人に対して,本件非係争条項の削除及び修正の交渉を行うことはなかった。(査第51号証)
7 本件非係争条項の削除後
(1) 本件非係争条項の削除
被審人は,平成16年2月20日ころ,平成16年8月1日から平成17年7月31日までを期間とする直接契約のBTDから本件非係争条項を削除することとし,現在,OEM業者との間で本件非係争条項のない直接契約を締結している。
このため,平成16年8月1日以降有効な直接契約のBTDには本件非係争条項の規定が含まれておらず,平成16年8月にOEM販売の許諾が開始された「Windows XP Service Pack 2」や「Windows Vista」に新たに追加された特徴及び機能に係る特許権侵害については,OEM業者は,平成16年8月1日以降,訴えを提起することができるようになっている。
しかし,平成16年7月31日までを終期とする直接契約の本件非係争条項は,同年8月1日以降においても,なお後記(2)のとおり効力を有する。
(争いがない。)
(2) 平成16年8月1日以降における本件非係争条項の効力
ア 平成13年のBTD(For Large Accounts With Third−Party Installer Rights)第8条及び第11条により,
(ア) OEM業者は,被審人らに対して,ライセンスの対象製品に含まれている発明に係る特許権の侵害について,当該特許権の有効期間が終了するまで,又は直接契約の契約期間の終了後一定期間,特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
(イ) また,OEM業者は,被審人らに対して,ライセンスの対象製品に含まれる発明が,当該製品の将来製品,交換製品又は後継製品にも使用されている場合には,当該将来製品,交換製品又は後継製品の製造,使用又は頒布による,当該発明に係る特許権の侵害について,当該特許権の有効期間が終了するまで,又は直接契約の契約期間の終了後一定期間,特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
イ 平成14年以降のBTD(Version4.01ないしVersion6.01)第8条及び第11条により,
(ア) OEM業者は,被審人らに対して,「ライセンス対象製品」に係る特許権侵害について,「ライセンス対象製品」を搭載したパソコンの出荷をやめてから3年を経過するまでの間は,特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
(イ) 「ライセンス対象製品」に含まれている特徴及び機能が,「ライセンス対象製品」の将来製品,交換製品又は後継製品に承継されている場合には,当該特徴及び機能は前記(ア)の「ライセンス対象製品」とみなされ,OEM業者は,被審人らに対して,当該将来製品,交換製品又は後継製品を搭載したパソコンの出荷をやめてから3年を経過するまでの間は,当該特徴及び機能に係る特許権の侵害について,特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
(争いがない。)
ウ 前記ア(イ)及び同イ(イ)により,OEM業者は,平成16年8月1日より後にライセンスされるライセンス対象製品についても,同日前までにライセンスされたライセンス対象製品に含まれていたOEM業者の発明又は特徴及び機能が承継されている限り,当該発明又は特徴及び機能に係る特許権の侵害について,特許権侵害訴訟の提起等をすることができないこととなっている。この本件非係争条項の将来製品,交換製品又は後継製品に及ぶ効力を以下「本件非係争条項の将来的効力」という。
第2 本件の争点
本件の争点は,被審人が平成13年1月1日から平成16年7月31日までのライセンス契約において,本件非係争条項を設けることにより,OEM業者の事業活動を拘束し続けていることが,公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)を有し,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定告示」という。)第13項の不当な拘束条件付取引に該当するか否かである。これを判断するに当たり特に検討されるべき主たる争点は,以下(1)ないし(9)のとおりである。
(1) 公正競争阻害性の判断基準
(2) 本件非係争条項の不合理性
(3) OEM業者は,本件非係争条項が付された直接契約の締結を余儀なくされていたか否か
(4) 平成16年7月31日以前においてOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性が存在したか否か
(5) 平成16年8月1日以降においてもOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性が高いか否か
(6) 本件非係争条項によるパソコンAV技術取引市場における競争への悪影響の有無
(7) 本件非係争条項によるパソコン市場における競争への悪影響の有無
(8) 本件非係争条項は正当化事由を有するか否か
(9) 排除措置の相当性
第3 双方の主張の要旨
1 公正競争阻害性の判断基準(争点(1))について
(1) 審査官の主張
ア 「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」(昭和57年7月8日独占禁止法研究会報告。以下「独占禁止法研究会報告」という。)によると,拘束条件付取引は,相手方の事業活動を拘束することであるが,拘束それ自体が問題となるのではなく,これを通じて市場における競争,すなわち相手方事業者間の競争が減殺されるおそれがあるかどうかが問題となるのであって,拘束の強弱ではなく,当該拘束の及ぼす客観的な競争減殺効果が問題となるとされている。この際,具体的な競争減殺効果の発生は要件ではなく,ある程度において自由な競争を妨げるおそれがあると認められる場合で足り,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断することとなる。また,拘束とは,当事者の合意の任意性などの主観的事情のいかんは問題とならない。独占禁止法研究会報告では,このような考え方に基づき,拘束条件付取引の公正競争阻害性の判断に当たっては,①行為者の市場における地位,②拘束の相手方事業者間の競争に及ぼす競争減殺効果,③競争の促進効果の有無を総合的に考慮する必要があるが,有力な事業者によって行われる場合には競争減殺効果が大きくなり,競争促進効果を個別に判断する余地は少なくなると述べている。
イ 前記アの考え方に照らせば,本件非係争条項の内容は,被審人に対する無償ライセンスとして機能する,片務的かつ均衡を欠いた著しく不合理なものであるところ,ライセンスを受けるOEM業者が本件非係争条項に対していかなる意向を有していたかにかかわらず,ウィンドウズシリーズがパソコン事業の継続に不可欠であるために,直接契約の締結を余儀なくされていたものであって,しかも,本件非係争条項は,OEM業者の技術取引における事業活動の実効性を担保するための重要な手段である特許権侵害訴訟の提起等を禁止するものであるから,それ自体で競争減殺効果を生じる蓋然性が極めて高いというべきものである。
また,後記2ないし8のとおり,本件非係争条項には競争減殺効果について具体性が認められること,本件非係争条項の目的及び手段の正当性にかかる被審人の主張は事実に反することから,審査官の主張・立証する事実は,公正競争阻害性を認定するにおいて十分である。
ウ 被審人は,公正競争阻害性を認定するには,抽象的な公正競争を阻害するおそれありと断じることをもって足れりとすべきものではなく,公正競争が阻害されたか否かを検討する対象となる市場(以下「検討対象市場」という。)を具体的に把握し,また当該具体的な市場の状況が具体的にいかなる形で影響を受けるのかも明らかにした上で,当該影響が独占禁止法のエンフォースメントによる是正対象とされるに値する程度に具体的な影響であるといえるかを吟味してなされるべきである旨主張する。
しかし,かかる被審人の主張は,不公正な取引方法の認定に当たって,独占禁止法第2条第5項及び同法第3条前段の私的独占の要件である「競争の実質的制限」の判断と比肩するような詳細な分析を要求することとなり,独占禁止法があえて第2条第9項において,不公正な取引方法の規制を設けた理由や,独占禁止法第2条第9項が「公正な競争を阻害するおそれ」という異なる要件を規定している趣旨を軽視することになり不当である。
(2) 被審人の主張
ア まず,公正競争阻害性の有無の判断の前提として,検討対象市場が画定されるべきである。すなわち,拘束条件付取引は,当該拘束の及ぼす客観的な競争減殺効果の有無が問題とされる行為類型であるから,この論理的帰結として,公正競争阻害性があるか否かを論ずるためには,いかなる市場を問題とするのかを明確にすることが不可欠の前提となる。
そして,本件における検討対象市場は,AV技術取引市場であって,パソコンAV技術取引市場でもパソコン市場でもない。
イ (ア) また,本件における拘束条件付取引の公正競争阻害性の有無は,独占禁止法研究会報告及び特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針(以下「特許・ノウハウガイドライン」という。)に照らせば,以下aないしdが検討された上で,さらに,OEM業者の特許権等の行使が制限されることによってOEM業者の研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害したかどうかを判断し,検討対象市場において競争阻害効果・競争回避効果が認められる場合に,当該競争阻害効果・競争回避効果が,本件非係争条項の競争促進効果を上回るか否かによって判断されるべきである。
a 行為者の市場占有率・順位,総合的事業能力など行為者の市場における地位(本件では,検討対象市場における被審人の市場占有率・順位など)
b 行為者の属する市場の状況(本件では,検討対象市場における市場集中度,商品特性,製品差別化など当該市場の状況)
c 拘束の程度・内容,複数の拘束を併用しているかどうかなど,拘束の相手方事業者間の競争に及ぼす減殺効果(本件では,本件非係争条項による拘束の程度・内容など,本件非係争条項の検討対象市場における競争に及ぼす減殺効果)
d 新規参入者によるものか否かなどの競争促進効果の有無(本件では,被審人が検討対象市場における新規参入者であるか,その他本件非係争条項の有する競争促進効果の有無)
(イ) 以下aないしdにおいて述べる理由により,公正競争阻害性の認定作業は,抽象的な競争阻害のおそれありと断じることをもって足れりとすべきものではなく,検討対象市場として画定された特定の市場について,当該市場の状況を具体的に把握し,また,当該具体的な市場の状況が具体的にいかなる形で影響を受けるのかも明らかにした上で,当該影響が独占禁止法のエンフォースメントによる是正対象とされるに値する程度に具体的な影響であるといえるかを吟味してなされるべきである。
a 「公正な競争を阻害するおそれ」は,「おそれ」という文言それ自体が明確でないことから,これが公正取引委員会によりし意的に解釈されるときには,いわゆる机上の空論がごとき理論上・抽象的に想定される「おそれ」があるにすぎない場合であっても独占禁止法違反との結論が導かれてしまうことになる。そもそも公正取引委員会の職務は公正な競争の確保なのであるから,市場における自由競争機能が正常に機能しているときには,当該市場に対する介入を差し控えるべきである。
b 今日までの判例・審決を見ても公正競争阻害性の「おそれ」の判断は私的独占における「一定の取引分野における競争の実質的制限」との間において競争阻害の程度の強弱や市場での競争制限効果の大小によって切分けを行うことなく,同じ基準で具体的に判断されてきた。
c そもそも事業者が市場における取引において相手方との間でどのような条件で取引を行うかについては原則として自由である。これは,憲法において営業の自由として保障されている。独占禁止法のエンフォースメントもこうした枠組みの中で執行されるべきものである。営業の自由と独占禁止法が目的とする公正かつ自由な競争という観点からのバランスが保たれるべきであるとともに,独占禁止法の執行が事前に開示されて,明確な基準の下で,かつ適正な手続の下になされなければならない。被審人の営業の自由が「おそれ」という言葉の下に公正取引委員会によってし意的かつ事後的に侵害されるときは憲法違反の問題を生じる。資生堂事件(最高裁判所平成10年12月18日判決,民集52巻9号1866頁),花王事件(最高裁判所平成10年12月18日判決,審決集第45巻461頁)がいずれも「拘束条件付取引の内容は様々であるから,その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し,それが公正な競争秩序に悪影響を与えるおそれがあると認められる場合に,初めて相手方の事業活動を『不当に』拘束する条件を付けた取引に当たるものというべきである」と判示していることもこうした考え方に沿うものである。
d 知的財産権をライセンスすることは,ある当事者によって保有されている技術が他者によって保有されている技術と補完的要因と統合されることにより,知的財産権のより効率的な利用が可能となり,安くて新しい製品の形で,消費者の利益にもなり,そして,知的財産権の所有者に対し,当該制限がなければ知的財産権のライセンスを行わないであろう状況において,ライセンスをすることのインセンティブを与える。ライセンス契約における制約は,しばしば,ライセンスの対象となった技術の効率的な利用が促進され,競争促進的な面を持つ。このような競争促進的な効果を有する行為に対する公正競争阻害性の認定作業は,抽象的な競争阻害のおそれありと断じることをもって足れりとすべきではない。
(ウ) また,特許・ノウハウガイドラインは,公正取引委員会による特許・ノウハウライセンス等に係る独占禁止法の解釈・運用方針を示したものであって,事業者や裁判所においても尊重されるものであり,特許・ノウハウガイドラインを策定・公表した公正取引委員会自身は,このガイドラインに法的に拘束されるものである。
特許・ノウハウガイドラインは,非係争条項につき,「当該制限条項の内容だけではなく,ライセンサー及びライセンシーの製品市場又は技術市場における地位,これらの市場の状況,制限が課される期間の長さ等を総合的に勘案して,市場における競争秩序に及ぼす影響に即して,個別に公正競争阻害性が判断され,一定の場合に不公正な取引方法に該当すると考えられる。」とし,より具体的には,非係争条項が,「ライセンシーの特許権等の行使が制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には,不公正な取引方法一般指定第13項の不当な拘束条件付取引に該当し,違法となる」としている。そして,独占禁止法における『すること』,『することとなる』,又は『するおそれがある』という用語の区別は極めて重要であり,これらの用語の区別をあいまいなものとすることは許されないものであるから,特許・ノウハウガイドラインの用語によれば,本件非係争条項が違法となるのは,本件非係争条項によって,「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害すること」の場合であり,「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害『するおそれがある』」や「ライセンシーの研究開発意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害『することとなる』」では足りない。
そして,公正取引委員会の審判手続において,独占禁止法違反行為の存在について審査官に要求されている証明の程度は,同法第3条違反の私的独占又は不当な取引制限の場合と同法第19条違反の不公正な取引方法の場合とで基本的に異なることはない。そして,その証明の程度は,証拠の優越では足りず,要証事実が存在することの高度の蓋然性を超えるものでなくてはならず,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものでなければならない,というのが判例の態度である。民事立証水準も刑事立証水準と同一水準を要求するルンバール・ショック事件の判決(最高裁判所昭和50年10月24日判決,民集29巻9号1417頁)に従えば,行政立証水準である審判手続において審査官に要求される立証水準もこれと同一水準である,という結論が導かれる。技研システム国家賠償請求事件の判決(東京地方裁判所平成14年12月26日判決,審決集49巻654頁。以下「技研システム判決」という。)が,審判手続において審査官に要求される立証水準につき,「行政手続としての制約があるとしても,実際上の効果の重大性を軽視できないから,被告の主張するような単なる証拠の優越では足りず,関係各証拠を総合しての判断の相当性を問題とすべきである。」と判示するのも,基本的にこれと同じ趣旨に出たものと理解することができる。
2 本件非係争条項の不合理性(争点(2))について
(1) 審査官の主張
ア 前記第1の6(2)アにおける本件非係争条項(以下「平成13年契約の本件非係争条項」という。)及び同イにおける本件非係争条項(以下「平成14年契約以降の本件非係争条項」という。)の内容は以下のとおりである。
(ア) 平成16年7月31日までウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受け続けているOEM業者にとって,本件非係争条項により特許権侵害の訴えを提起することができない特許権とは,当該OEM業者が平成16年7月31日までに取得した世界中のすべての特許権となるのであり,極めて広範なOEM業者の特許権が一元的に本件非係争条項の対象となる。
(イ) また,OEM業者が特許権侵害訴訟を提起できない相手方には,被審人,被審人のライセンシング子会社のほか,被審人のライセンシング子会社のライセンシー,すなわち,ウィンドウズシリーズの使用等の許諾を受けたライセンシーが含まれる。このウィンドウズシリーズの使用等の許諾を受けたすべてのライセンシーには,エンドユーザーのほか,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けてパソコンを販売するパソコン製造販売業者が含まれるので,OEM業者は,自社と競争関係にあるウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けているすべてのパソコン製造販売業者に対しても特許権侵害を理由に訴えを提起することができないのであり,本件非係争条項によってOEM業者が訴訟を提起できない相手方は極めて広い範囲に及ぶ。
(ウ) 平成5年ころに使用等の許諾が開始された「Windows 3.1」以降のすべてのウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けているOEM業者であれば,平成5年以降,平成16年7月31日までの間にOEM販売の許諾がされた「Windows 3.1」,「Windows NT Professional」,「Windows 95」,「Windows 98」,「Windows 2000 Professional」,「Windows Millennium Edition」,「Windows XP Home Edition」, 「Windows XP Professional Edition」,「Windows XP Media Center Edition」などすべてのウィンドウズシリーズが本件非係争条項の対象となる。
イ 本件非係争条項は,クロスライセンス契約において,契約当事者が両者の特許ポートフォリオのバランスを考慮した上で,相互に特許の使用を許諾するとともに,相互に非係争義務を課していることと対比した場合,OEM業者のみが,一方的に前記アの広範な内容の義務を負う片務的な条項であり,その一点のみにおいても不合理である。
のみならず,被審人は,本件非係争条項によって,自らのウィンドウズシリーズに,少なくともOEM業者が平成16年7月31日までに世界中で取得したすべての特許権を,一方的かつ無償で組み込むことを事実上可能にする点で(仮にOEM業者が,ウィンドウズシリーズによる特許権侵害を主張したとしても,被審人は当該OEM業者と交渉をする義務すらない。),極めて不合理である。
ウ 本件非係争条項が適用されることとなる「特徴及び機能」という文言は極めてあいまいかつ漠然としたものであり,また,被審人は基本的には「特徴及び機能」についてその解釈を示していない。さらに,被審人は頻繁に本件非係争条項の対象製品を改良しているため,ライセンス期間中でさえも,本件非係争条項の対象製品は一定ではなく,OEM業者にとって「特徴及び機能」を特定し,それがいかなる技術によって実現されているかを解析することが困難である。
エ 平成16年7月31日までに締結されたライセンス契約における本件非係争条項の規定は,平成16年8月1日以降も引き続き存続している。したがって,OEM業者が平成16年7月31日以前にOEM販売の許諾を受けたウィンドウズシリーズから「Windows XP Home Edition Service Pack 2」等や「Windows Vista」に引き継がれた特徴及び機能は,当該OEM業者が平成16年7月31日以前にOEM販売の許諾を受けたウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを出荷している場合,その出荷を停止してから少なくとも3年間は,特許権侵害の訴訟等を提起することができない。また,平成16年7月31日以前にOEM販売の許諾を受けたウィンドウズシリーズから引き継がれる特徴及び機能については,平成16年7月31日以前にOEM販売の許諾を受けたウィンドウズシリーズの一部とみなされ,「Windows XP Home Edition Service Pack 2」等あるいは,「Windows Vista」に引き継がれていることから,現在,これらを搭載したパソコンを出荷しているOEM業者は,「Windows Vista」等を出荷している限り,「Windows Vista」の出荷を停止してから少なくとも3年間は,特許権侵害訴訟の提起等をすることができない状態である。
したがって,OEM業者が,特許権侵害訴訟を提起できない期間は,ウィンドウズシリーズのライセンスを受け,これを搭載したパソコンを販売している限り,ほぼ永久ともいい得る。
オ 以上のとおり,本件非係争条項は,OEM業者に対して,その保有する世界中のすべての特許権に関し,被審人に対する無償ライセンスとして機能するだけでなく,その契約終了にもかかわらず存続する効果や「特徴及び機能」のあいまい性とあいまって,その適用範囲が不明確であり,かつ,その適用範囲が際限なく拡大していく可能性をも包含するものであり,さらに,「Windows Vista」等の将来のウィンドウズシリーズに対する特許権侵害訴訟の提起等も禁止する極めて不合理なものである。
(2) 被審人の主張
本件非係争条項は,以下アないしケのとおり,極めて限定的な性格しか持っていなかったのであり,合理的である。
ア 本件非係争条項の制約は将来の技術開発に係る技術に対する特許権を対象としないこと
本件非係争条項の対象となる特許権の範囲は,直接契約において,OEM業者が直接契約の終了又は満了の日までに取得する特許権に明確に限定されており,契約期間の終了後に取得された特許権については,一切,本件非係争条項の対象とはならない。
イ 本件非係争条項により特許権を主張できない対象は,被審人との直接契約に基づいて,現在,ライセンスを受けているウィンドウズシリーズのバージョンだけであること
本件非係争条項の適用を受けるOEM業者の特許権は,現在,被審人との間の直接契約に基づいてライセンスを受けている製品に係るもののみであって,将来の製品に係るものは含まれていない。
例えば,OEM業者が被審人との間で直接契約を締結した後に,OEM業者が,対象製品に含まれる技術と同じ発明について特許権を取得しようとした場合,対象製品が存在するので特許法(昭和34年法律第121号)第29条第1項の要件を欠き,新たな特許権が認められることはあり得ない。また,当該直接契約の対象製品に含まれる技術を改良して,新規に発明を行い,当該発明について特許権を取得しようとした場合は,OEM業者が行った改良に係る発明については,特許法上の要件を満たすのであれば特許権を取得できるが,当該特許権の取得が,当該直接契約の終了又は満了の日の後であれば,当該特許権は本件非係争条項の対象外となるのである。併せて,特許出願から特許査定までに数年間を要するという現状を考えると,本件非係争条項が適用されるOEM業者の特許権の範囲は,直接契約が締結される数年前には,既に発明が完成し特許出願済であり,かつ当該直接契約の対象製品に含まれる発明に限られるのである。このように,直接契約締結後におけるOEM業者の研究開発に基づく発明に係る特許権に対しては,本件非係争条項が適用されることはない。
ウ 本件非係争条項により権利を行使できない人的対象は極めて限定されていること
OEM業者は,ウィンドウズシリーズをパソコンにインストールして頒布するのみであって,ウィンドウズシリーズを改変する権限を持たないから,OEM業者の役割は一種の流通業者と同様である。すなわち,他のOEM業者に対する非係争義務は,仮に本件非係争条項が特許権のグラントバックとして規定されていた場合には,あえてライセンスを付与しなくても,消尽理論によって,当然特許権侵害の訴えを提起できなくなるような態様の利用方法であり,このことは最高裁判所平成9年7月1日判決の判旨の趣旨からも明らかである。
したがって,本件非係争条項が被審人のOEM業者等をその対象としていたとしても,OEM業者については,本件非係争条項の合理性の判断において,被審人とは別個に独立に評価すべきものではない。
エ 本件非係争条項には「特徴及び機能」による限定が存在すること
本件非係争条項は,OEM業者が締結した直接契約の対象となるウィンドウズシリーズが有する特徴及び機能のみに適用されており,新バージョンのウィンドウズシリーズにおける新しい特徴や機能には全く適用されない。直接契約の締結後に,本件非係争条項の適用対象となる特徴及び機能が拡大することは基本的にあり得ない。
なお,被審人は,本審判の審理過程において,本件非係争条項が適用される将来の製品の範囲を明確にしたのであるから,本件非係争条項が適用されることとなる「特徴及び機能」の範囲は明確である。
オ 本件非係争条項は,改良発明等の非独占的ライセンス義務すらOEM業者に課していないこと
特許・ノウハウガイドラインにおいて,非係争条項が,いわゆるグラントバックとは独立の項目において検討されているのは,通常,非係争義務が課せられる技術がライセンシーの現に所有している特許権だけでなく,将来取得することとなる特許権も含まれるからであると理解されるところ,本件非係争条項は,将来取得することとなる特許権を対象とするものではなく,また,本件非係争条項は,実質的には特許・ノウハウガイドライン上問題ないとされる改良発明等の非独占的ライセンス義務すらOEM業者に課すものではないから,独占禁止法上の問題を生じる性質のものではない。
カ 本件非係争条項の制約は一般的に使用されている非係争条項に比して限定的であること
いわゆるIT企業及びいわゆるAV家電業界の間では,ソフトウェア又は技術のライセンスに際して,ライセンシーがライセンサーに対して一定の権利を供与し,他方,ライセンサーがライセンシーに対して,特許権主張を制限することがしばしばある。このような非係争条項は,技術ライセンス契約において広く用いられている。このことは,プラットホームとして機能すべき一定の技術について,非係争条項を用いてライセンサーとライセンシー又はライセンシー間の知的財産権紛争を防止する必要があること,この点で非係争条項は正当な目的・役割を有するものであることが広く認識されていたことを客観的に示すものである。そして,本件非係争条項は,これらの非係争条項におけるよりも,その内容がより制限的である。
キ 本件非係争条項はOEM業者にグラントバックの義務を課していないこと
通常のパテントプール等に係るライセンス契約では,ライセンシーがライセンサーに対して必須特許をグラントバックするものとされているが,本件非係争条項は,ウィンドウズシリーズのライセンスを受けた者が,直接契約締結後に開発する技術に対する特許権をその対象としないから,このようなグラントバックの義務は存在しない。この点において,本件非係争条項は,パテントプール等の特許ライセンス契約と比して制限的である。
ク 本件非係争条項はクロスライセンス契約より競争阻害的であるとはいえないこと
ウィンドウズシリーズの直接契約においては,ウィンドウズシリーズに係る著作権だけでなくその他の多様な機能に関わる被審人の特許権についても不行使が黙示的に合意されていたのであるから,本件非係争条項は正に双務的である。
また,直接契約がOEM業者に対してウィンドウズシリーズに係る知的財産権の使用をライセンスするものであるということ及び被審人もOEM業者の特許権を基にウィンドウズシリーズ以外の製品のための技術開発をすることは不可能であり,被審人はウィンドウズシリーズに含まれる知的財産権を提供し,OEM業者はウィンドウズシリーズのロイヤリティに加えて,本件非係争条項の制限を受け入れることによって均衡がとれているのである。もしOEM業者が,均衡がとれていないと判断するのであれば,ウィンドウズシリーズに含まれる知的財産権とウィンドウズシリーズのロイヤリティで均衡をとる間接契約を締結すればよいのである。本件非係争条項は,その対象にOEM業者が将来開発する技術に対する特許権を含まないことが明白であり,その対象がライセンスされたバージョンのウィンドウズシリーズに現実に含まれているものに限定されている以上,クロスライセンス契約より競争阻害的であるとはいえず,本件非係争条項を含む直接契約がいわゆるクロスライセンス契約よりも均衡を失しているとする審査官の主張には理由がない。
さらに,OEM業者が保有する特許権に係る技術がウィンドウズシリーズにおいて使用されているか否かも,OEM業者は,契約締結前に分析して評価することができるのであるから,直接契約がクロスライセンス契約よりも競争阻害的であるとはいえない。
ケ 本件非係争条項による制約は特許・ノウハウガイドラインの想定する非係争条項の制約に比べて著しく狭いこと
特許・ノウハウガイドラインで想定される非係争義務の類型は,いずれも,ライセンシーが将来取得することとなる特許権に関するライセンシーの権利関係を中心として,ライセンス対象技術と非係争義務の対象技術との均衡等を問題としている。しかしながら,前記イに述べたとおり,本件非係争条項が適用される特許権の範囲は,直接契約締結時点の数年前において既に発明が完成し特許出願済の技術で,かつ直接契約の対象製品に利用されている技術に限られ,直接契約締結後においてOEM業者が新たに行った研究開発に基づく発明に係る特許権に対しては,本件非係争条項が適用されることはない。また,前記ウのとおり,本件非係争条項は,ライセンサーに対してのみ権利の不行使を約する場合と同様に考えられるものである。したがって,本件非係争条項は,特許・ノウハウガイドラインの想定する非係争条項に比べて,その適用の範囲が著しく狭く,限定的である。
本件非係争条項は,特許・ノウハウガイドラインが想定している非係争条項よりも制限が著しく狭いのであり,それにもかかわらず本件非係争条項が違法であるとするのであれば,審査官は研究開発意欲の阻害とともに,そうした特殊状況について主張・立証すべきであるが,本件にはかかる特殊状況は認められない。
3 OEM業者は,本件非係争条項が付された直接契約の締結を余儀なくされていたか否か(争点(3))について
(1) 審査官の主張
OEM業者は,以下アないしウの理由により,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けるに当たって,本件非係争条項の付された直接契約の締結を余儀なくされていたものである。
ア ウィンドウズシリーズは,我が国及び全世界におけるパソコン用OSの90パーセント以上を占め,年々その割合が増加しており,ライセンサーである被審人はパソコン用OS市場において独占的な地位を有しており,パソコン製造販売業者がパソコンの製造販売業を営むにおいて,ウィンドウズシリーズのライセンスを受けることは必要不可欠のものとなっている。
イ ウィンドウズシリーズはバージョンアップするたびに機能が拡張されてきているが,エンドユーザーの多くは,最も新しいバージョンのウィンドウズシリーズが搭載されたパソコンを購入していることから,パソコン製造販売業者は,パソコン事業を継続するためには,バージョンアップの都度,当該バージョンアップされたウィンドウズシリーズのライセンスを受けることが重要となっている。
現実に,被審人が新たなウィンドウズシリーズのライセンスを開始した場合,パソコン製造販売業者のほとんどは,当該ウィンドウズシリーズのライセンスを受け,当該ウィンドウズシリーズが記録された記録媒体の販売が開始されるのと同時期に,当該ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを自社が製造販売するパソコンのラインナップに加えている。
ウ また,既に直接契約を締結しているOEM業者にとって,直接契約に代えて間接契約によりウィンドウズシリーズのライセンスを受けた場合には,①そのロイヤリティが大幅に増大するのみならず,②リカバリーディスクが作成できないこと,エンドユーザーにおいてプロダクトキーの入力及びプロダクトアクティベーションが必要になることなどによりユーザーへの利便性が劣るものとなること,③十分な数のウィンドウズシリーズを確保できない懸念があること,④被審人の販売代理店経由では必ずしも各国語版のウィンドウズシリーズを入手できないため製造拠点への搬送が非効率となること,⑤最新版のウィンドウズシリーズをタイムリーに入手できるとは限らないこと,⑥バグ(ソフトウェアの不具合)情報等のサポートが限定されること等の重大な差異が生じるため,間接契約では競争上極めて不利であり,現実的には,その間接契約を選択する余地がなく,OEM業者にとって,引き続き直接契約によってウィンドウズシリーズのライセンスを受けることが必要不可欠である。
(2) 被審人の主張
ア そもそも,本件非係争条項は,その制約について様々な限定があり,「締結を余儀なくされたかどうか」について議論することを必要とするような不合理な内容のものではなく,本件非係争条項の締結を余儀なくされたとする審査官の主張はその点においても失当である。
また,被審人のパソコン用OS市場における市場占有率は,公正競争阻害性の成否と直接の関係を有しない。
さらに,エンドユーザーは,必ずしも最新バージョンのウィンドウズシリーズが搭載されたパソコンを購入するわけではない。実際,「Windows XP」の旧バージョンである「Windows 2000」は,「Windows XP」発売後も2年半にわたりOEM業者の販売経路で引き続き幅広く販売されている。
イ 以下(ア)ないし(ウ)で述べるとおり,直接契約は,AV技術及びその応用製品分野における世界有数の企業であるOEM業者が,取引条件を総合的に検討し,AV技術分野において有力な地位を有しない被審人と対等に協議を行い,その結果,多様な修正が行われた上で締結されているのであり,さらに,交渉の結果,最終的にOEM業者が直接契約よりも間接契約の方が有利であると判断した場合には,間接契約の方法によることも可能だったのであるから,OEM業者は,本件非係争条項が付された直接契約の締結を余儀なくされていたものではない。
(ア) 本件非係争条項の締結を余儀なくされたとされるOEM業者は,AV技術分野において世界的にみても有数の事業規模を有するパソコン製造販売業者であること
(イ) OEM業者は,以下aないしcのとおり,本件非係争条項を受け入れるか否かについてこれを自由な交渉により決定できたはずであること
a OEM業者は,新規のウィンドウズシリーズのライセンスを受ける前に,特許権侵害の事実を具体的に提起できたこと
被審人は,OEM業者に対して広範囲に及ぶ情報提供を行っていた。具体的には,被審人は新バージョンのウィンドウズシリーズの企画の早期段階において企画書を提示し,「Windows・ハードウェア・エンジニアリング会議」(WinHEC)等の会議に出席し,又は会議を主催して,製品情報を開示し,更に製品プレビュー版・ベータ版を発売1年以上前に提供するなど,多様な機会を活用して,新バージョンのウィンドウズシリーズの様々な特徴及び機能に関する詳細な情報をOEM業者に対して開示していた。しかも,OEM業者,とりわけ松下電器産業,三菱電機及びソニーは,自ら最先端のAV技術を盛んに開発し,AV技術に通暁していたから,新バージョンのウィンドウズシリーズのAV技術に係る特徴及び機能を理解するに足る最高水準の知識及び分析能力を当然に有していた。
したがって,各OEM業者は,新バージョンのウィンドウズシリーズのライセンスを受ける前に,当該ウィンドウズシリーズに搭載される特徴及び機能を理解した上で,特許権侵害の有無を検証し,特許権侵害があると認識した場合には,それを具体的に問題提起することが可能であった。当該問題解決に時間を要する場合にあっては,当該問題を留保して暫定的に使用許諾を受けることができたのであり,実際に,ソニーは当該手法の活用を検討し,サムスン電子カンパニー(以下「サムスン」という。)は当該手法のための契約であるスタンドスティル契約を締結して交渉を継続した。
b OEM業者が特許権侵害を検証できないとの主張には合理的根拠がないこと
(a) 被審人は,新バージョンのウィンドウズシリーズの発売に先立って,ベータ版を配布するとともに,新機能に関する解説(リリースノート)も公開しており,他の一般的な製品と比較してはるかに詳細な情報を公開するとともに,実際に販売される製品に非常に近い製品を提供している。また,アプリケーションソフトウェアが利用できる新しい機能がウィンドウズシリーズに追加される場合,API,すなわちアプリケーションソフトウェアがOSの機能を呼び出すためのインターフェイス情報も開示されるから,アルゴリズムに近いかなり詳細な情報を早期に知ることができたのである。
ベータ版については,それを入手して使用するOEM業者の主たる目的がベータ版の不具合の有無の確認や新機種上での動作検証であったとしても,OEM業者にその意思さえあれば,特許権侵害の有無の目的でも使用することは当然可能である。OEM業者がウィンドウズシリーズによる特許権侵害について真に懸念を有していたのであれば,被審人から促されるまでもなく,特許権侵害の有無を検証することは可能であったし,当然そうしていたはずである。また,ベータ版からRTM版に至る間にはいくつかの修正が施されるが,バグの修正が大半であり,新しい機能の内容はベータ版及びリリースノートにより確認することが可能であったのである。
(b) OEM業者にとっても,本来行使の可能な特許というのは,プログラムの内容的な処理ロジックを解析することなく,外部から把握可能な機能に関する発明に限られている。ソースコードが開示されなければ侵害の発見や立証ができないような,内部的なアルゴリズムを構成要件とする特許権はもともと行使することが期待できないものなのである。すなわち,ソースコードが開示されるか,リバースエンジニアリング等を行わなければ侵害が立証できないような特許権は,本件非係争条項の有無にかかわらず,一般的に権利の行使が不可能又は著しく困難なのであって,特許権者としては行使することが期待できないものであるから,こうした特許権は,権利としては存在してはいても実質的には活用できない「絵に描いた餅」にすぎないのである。仮に,OEM業者がそうした特許権の行使について何らかの期待を有していたとしても,それは,一般的な場合以上の恩恵を得たいという過剰な願望にすぎず,法的保護に値するものではない。
(c) 審査官は,被審人がウィンドウズシリーズ並びにそのベータ版及びRC版をオブジェクトコードにより提供していたことがOEM業者による特許権侵害の検証を困難にしたと主張し,あたかも被審人の違法行為の中核を成すかのごとく主張している。しかし,ソフトウェアをオブジェクトコードにより使用許諾することは,ソフトウェア業界における標準的な慣行であり,開発者・創作者を知的財産・営業秘密のひょう窃など不正使用から保護するため当然に許容されるべきものである。被審人がソースコードを開示しないことによりOEM業者が特許権侵害を検討する正当な機会を奪われた旨,審査官が一貫して主張を重ねていることは,ソフトウェアライセンスの実務を軽視し,特許権侵害訴訟実務を無視し,もってソフトウェア開発者の将来の開発意欲を決定的に損なうこととなるものであり,奇異な主張であるというほかない。
c OEM業者は間接契約を利用できること
OEM業者は,被審人との交渉その他の検討の結果,本件非係争条項の付されていない間接契約が自社に有利と判断した場合には,間接契約に基づきウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けることが可能であった。現に,間接契約を締結してウィンドウズシリーズのライセンスを受けたOEM業者もあった。
この点について審査官は,間接契約では価格及び機能の両面において直接契約より不利であり,各OEM業者にとって,現実的な選択肢とはなり得ない旨の主張をする。しかし,OEM業者は,間接契約によりウィンドウズシリーズを調達して,パソコン事業を遂行するという選択肢を実質的に検討せず,ただ漫然と安いというだけで直接契約を選択しているにすぎない。さらに,OEM業者が間接契約を選択した場合には,本件非係争条項の適用を受けず,したがって,ウィンドウズシリーズが当該OEM業者の特許権を侵害していた場合には収入を確保できることにかんがみれば,間接契約が現実的な選択肢ではないとは到底言い得ない。
多くのOEM業者は間接契約と直接契約の価格差に着目して直接契約を選択しているが,両契約の価格差は合理的なものである。間接契約におけるロイヤリティが,直接契約におけるロイヤリティより高くなるのは,OEM業者はシステムビルダーに特許権侵害の訴訟等を提起できないのに,システムビルダーからは特許権侵害の訴訟等を提起されるおそれがあり,逆にシステムビルダーはOEM業者から特許権侵害の訴訟等を提起されないが,OEM業者と他のシステムビルダーのいずれに対しても特許権侵害の訴訟等を提起できるからである。
また,審査官が直接契約と間接契約との機能上の差異として強調するリカバリーディスクの有無やプロダクトアクティベーションにおけるその他の差異は,いずれも軽微な差異であり,現に,当該差異は,直接契約を通じ調達したウィンドウズシリーズを搭載するパソコンの広告等において,機能上の長所として消費者に対し訴求されたことがない。したがって,パソコン製造販売業者が当該差異を営業上全く考慮していなかったことは明らかである。またその他の両契約の差異は,間接契約を選択することにより,本件非係争条項の適用を受けず,特許権侵害に対し訴訟等の方法により対抗でき,収入を確保できることにかんがみれば,間接契約を現実的に選択する際の障害となるものではない。
(ウ) OEM業者は,以下のaないしcのとおり,被審人との自由な交渉と合理的な検討に基づき自社のビジネス判断として,納得の上で,本件非係争条項を受け入れてきたこと
a OEM業者は本件非係争条項について合理的な検討を行っていること
OEM業者が納得の上で本件非係争条項を受け入れたことはOEM業者との交渉経緯からも明らかである。
b 被審人が,OEM業者の懸念に対応して直接契約の各条項を修正し,また,統一条項を使用せざるを得ない状況においてもOEM業者の懸念に対応するために多くの交渉を含む努力を行ってきたこと
被審人は,直接契約において低いロイヤリティ料率を維持できるよう配慮しながら,各OEM業者の要請に応じて,頻繁に本件非係争条項を修正してきた。例えば,被審人は,①クロスライセンス契約のような別の手段により本件非係争条項が企図していた目的を果たすことができる場合には,本件非係争条項を削除し,②OEM業者が有する懸念に対処するため必要な場合には,本件非係争条項の範囲,期間又は適用対象を更に限定し,③OEM業者の具体的な要請に応じて,本件非係争条項が当該OEM業者によるライセンス活動(特にパテントプールを通じて提供されるライセンス)を妨害する目的を有しないことを確約し,④OEM業者との交渉に時間が必要な場合には,スタンドスティル契約のような暫定的な規定を設け,⑤本件非係争条項の対象範囲が被審人のハードウェア製品には及ばないことを明言し,さらに,⑥OEM業者の懸念に対処するために必要な場合には,直接契約に互恵的な非係争条項を加えたのである。
また,米国司法省との和解契約の発効後においては,被審人は,世界における上位20社のOEM業者との間で締結される直接契約の条項を統一する義務を負ったことから,直接契約のドラフトをOEM業者に提示し,これに対するOEM業者からのフィードバックに真しに対応し,直接契約のドラフトの修正を行った。
被審人はその後もIT市場の変化を継続的に観察し,クロスライセンス契約等知的財産ライセンスに関する新たな契約手法が被審人にとって現実的に採用可能となったことを考慮して,OEM業者との将来の契約から本件非係争条項を削除することを決定し,平成16年2月20日にこれを公表した。
c OEM業者による特許権侵害の主張は,これにより本件非係争条項の交渉に影響を与えるようなものではなく合理的根拠がなかったこと
OEM業者は,彼らが保有する特許権がウィンドウズシリーズにより侵害されているとの主張について,被審人が真剣に検討するに値するだけの具体的な主張をしたことは一度もなかった。ウィンドウズシリーズが自社の保有する特許権を侵害する懸念を示したごく少数のOEM業者はそうした懸念の表明において,単に,侵害ないしそのおそれがあると称する特許番号を漫然羅列して提示するなど雑ぱくかつ抽象的な方法を採るにとどまっていたのである。松下電器産業が被審人に送付した特許権のリストは極めてずさんなものであり,これらOEM業者の合理性を欠く特許権侵害の主張は,客観的にみれば,本件非係争条項を含む直接契約についての交渉において少しでも有利な条件を引き出そうという多様な駆け引きの一つと区別できない程度の,真剣さと正確性を欠くものであった。
d OEM業者は本件非係争条項の有無にかかわらず特許権を行使していないこと
現在,OEM業者は,ウィンドウズシリーズに対して特許権を行使することが可能な状況となっているにもかかわらず,OEM業者は,「Windows Vista」がOEM業者の特許権を侵害する旨の主張を一切行っておらず,この事実は,OEM業者の特許権侵害の「懸念」が合理的根拠を有していないものであったことを示すものである。
4 平成16年7月31日以前においてOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性が存在したか否か(争点(4))について
(1) 審査官の主張
ア 以下イ(ア)ないし(キ)に述べるとおり,本件非係争条項は,平成16年7月31日以前においてパソコンAV技術に関するOEM業者の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性を有するものである。
なお,ここで,研究開発意欲を損なわせるとは,OEM業者が企業戦略として,技術開発を中止・撤退し,又は,技術開発投資を削減することに限定されるものではなく,将来の新たな技術開発投資に支障を来すこと,それ自体も包含するものである。
この点,OEM業者の将来の新たな技術開発投資に支障を来すこととは,OEM業者のパソコンAV技術に関する特許権が,ウィンドウズシリーズによって侵害され,広範なフリーライドがなされているにもかかわらず,本件非係争条項の存在のために,特許権を侵害されたOEM業者が,被審人やフリーライドをしている他のOEM業者を包む広範なパソコン製造販売業者から,ライセンス収入やライセンス料相当額の損害金等を得ることができない結果(特許権を侵害されたOEM業者が当該侵害について認識しているか否かを問わない。),本来得られるべきはずのライセンス収入等を,将来の技術開発投資に配分することができず,①先行の技術開発投資→②技術及び特許の取得→③ライセンシーからのライセンス収入や,特許権侵害者等からのライセンス料相当額の補償金・損害金の取得→④新たな技術開発投資という,技術開発の循環システムに支障を生じさせることを意味する。これも技術開発意欲を損なわせることにほかならない。
また,研究開発意欲が損なわれていることは,必ずしも外部的徴表として現出するとは限らない。なぜなら,当該事業活動を継続させている企業である以上,当該事業に関する技術開発から完全に撤退することはあり得ず,外部的には,技術開発を続行している徴表が常に存在するからである。
イ (ア) OEM業者の特許権が侵害された場合に,広範なフリーライドを許すこととなり,損害を回復することが実質的に不可能であること
OEM業者が資本を投下して技術開発をしたとしても,当該技術がいったんウィンドウズシリーズに組み込まれてしまえば,他のOEM業者等のライセンシーのフリーライドを許すこととなる。OEM業者が,被審人や他のOEM業者等のライセンシーに対して特許権に基づいてロイヤリティを徴収する旨申し出たとしても,被審人等には交渉義務がなく,また,ウィンドウズシリーズによってOEM業者の特許権が侵害されていても,OEM業者は,被審人のみならず,すべてのライセンシーに対して特許権侵害訴訟等を提起できないことから,その被害は甚大である。
OEM業者は,被審人及び他のOEM業者等のライセンシーによるフリーライドを阻止できないこと,被審人及び他のOEM業者等のライセンシーの特許権侵害による損害を回復することができないことを前提に技術開発を行わざるを得ないことから,本件非係争条項は,OEM業者のパソコンAV技術の開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしていたのである。
(イ) OEM業者は開発した特許をライセンスする機会を失う危険性が高いこと
OEM業者が特許技術を開発しても,いったんウィンドウズシリーズに取り込まれてしまったら,他のOEM業者としては被審人からウィンドウズシリーズのライセンスを受ければ十分であって,当該特許技術を開発したOEM業者からライセンスを受ける必要は無くなる。このため,OEM業者は自社が開発した特許技術をライセンスすることにより,当該特許技術に係る技術開発に要した投資費用を回収する手段を失うことになる。
このような状況においては,OEM業者は,自社の特許技術がウィンドウズシリーズに組み込まれれば,他のOEM業者等のライセンシーからロイヤリティを徴収することが困難となることを前提に技術開発をせざるを得ないことから,本件非係争条項は,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしていたのである。
(ウ) 技術情報の開示が不十分なこと
被審人は,ライセンシーに対してウィンドウズシリーズをオブジェクトコードにより提供し,かつ,リバースエンジニアリング等をすることを禁止している。重要なパソコンAV技術である音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術のようなアルゴリズムが中心となる技術の場合には,そのソフトウェアが内部でどのような処理・演算をしているかが重要であるが,被審人は,ウィンドウズシリーズをオブジェクトコードにより提供し,かつ,リバースエンジニアリング等を禁止することにより,OEM業者がウィンドウズシリーズに組み込まれた技術によって自社の特許権が侵害されているか否かについて検証することを困難にしている。
したがって,OEM業者は,自社の特許権が侵害されているか否か不明な状態で本件非係争条項に同意せざるを得ない状況にいた。
前記のとおり,技術情報が不十分な状況において,OEM業者は,次期直接契約の締結や新バージョンのウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けるに当たって特許権侵害について強く主張することが困難であるとともに,仮に主張しても,被審人から無視され,「特許権侵害はしていない」と主張された場合に有効な対抗手段を採ることができない。このため,OEM業者は,ウィンドウズシリーズによって自社の特許権が侵害されているか否かについて検証することが困難なことを前提に技術開発しなければならないことから,本件非係争条項は,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらす。
なお,OEM業者が被審人から各種カンファレンス等で受けた説明及び配布された資料は漠然としたものであった。また,ベータ・プログラムは主に不具合の検証のために行われており,プレビュー版は新バージョンのウィンドウズシリーズの画面構成が分かる程度で,ベータ版やリリースキャンディデート版も製品版までの間に修正されるものであった。さらに,これらはオブジェクトコードにより提供され,かつ,リバースエンジニアリング等が禁止されているため,特許権侵害の検証は困難であった。RTM版は製品版と同内容であるが,リバースエンジニアリング等が禁止されていることは同じであり,また,供給されるのは新バージョンのウィンドウズシリーズ発売の1か月から2か月程度前でありOEM業者に時間的余裕は無かった。
(エ) クロスライセンス契約と比較して極めて不均衡であること
ソフトウェアの業界では,特許権を有する権利者同士が,互いに保有する特許技術を自由に利用したり,特許紛争を解決する手段として,両者の特許ポートフォリオのバランスを考慮した上で,相互に特許技術のライセンスをするとともに,相互に非係争義務を課すクロスライセンス契約が広く行われている。
しかし,本件非係争条項は,契約当事者である被審人とOEM業者の間で相互に非係争義務を課すことにより,互いに保有する特許技術を自由に利用するというものではなく,OEM業者は被審人の特許技術を利用して技術開発することが不可能である一方,被審人のみがOEM業者の特許技術を自由に利用して技術開発できるものとなっている。
特許権を有する権利者同士が,互いに保有する特許技術を自由に利用したり,特許紛争を解決する手段として,両者の特許ポートフォリオのバランスを考慮した契約であれば,相互の技術開発を促進させる効果を有することも少なくないが,本件非係争条項は,被審人のみがOEM業者の特許技術を使ってウィンドウズシリーズの開発を行えるようにするものであり,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしていたのである。
(オ) OEM業者が自社のパソコンを同業他社よりも優位となるよう差別化することが困難になること
OEM業者の特許技術がウィンドウズシリーズに組み込まれた場合,被審人及び他のOEM業者等のライセンシーによって当該技術が広範にフリーライドされることは前記(ア)で述べたとおりである。このような状況においては,ウィンドウズシリーズに加えて自社のパソコンに搭載する技術の開発を積極的に行い,自社のパソコンを他社のものより優位なものとなるよう差別化する戦略を採っているOEM業者にとって,当該差別化が困難になることから,本件非係争条項は,差別化のためのパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしていたのである。
(カ) 特許ポートフォリオが強いOEM業者に不利になっていること
本件非係争条項は無償の特許ライセンスとして機能するものであるから,パソコンAV技術に関する特許ポートフォリオが強いOEM業者であればあるほど,その被る不利益は大きくなる。また,ウィンドウズシリーズのライセンスを受けるためのロイヤリティは,前年のパソコンの出荷台数に応じて定められており,ロイヤリティにはOEM業者の保有する特許権数は全く考慮されていない。このため,本件非係争条項は,特に積極的なパソコンAV技術の開発を行ってきたOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしていたのである。
(キ) ウィンドウズシリーズに自社の特許技術が組み込まれているとの懸念を有するOEM業者が存在すること
松下電器産業,三菱電機及びソニーの3社は,ウィンドウズシリーズに自社の特許技術が組み込まれていることを懸念している。
(2) 被審人の主張
ア 審査官の主張・立証が不十分であること
前記1(2)において述べたとおり,本件非係争条項の公正競争阻害性の認定には,本件非係争条項によって,現実にどのライセンシーのどのような研究開発の意欲をどのように損ない,どのような新たな技術の開発をどのように阻害することになったかに係る事実につき,証拠の優越を超えた,通常人が疑いを差し挟まない程度の真実性の確信を持ちうる程度に主張・立証することが要求されているのであるから,審査官の前記(1)における主張は,主張自体失当であるというべきものである。
イ OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲は損なわれていないこと
(ア) 本件においては,勧告書及び審判開始決定書記載のとおり,AV技術取引市場が公正競争阻害性の判断の対象市場とされるべきであるが,仮に審査官が主張するパソコンAV技術取引市場が公正競争阻害性の検討対象市場として成立するとしても,本件において,①OEM業者はパソコンAV技術の開発を活発に行っており,本件非係争条項を理由にそれを断念したことはないこと,②前記2(2)で述べたとおり,本件非係争条項による制限は極めて限定的であったこと,③後記(イ)のとおり,OEM業者は開発したAV技術を巨大な家電製品市場においてライセンスすることが可能であり,かつ,実際にライセンスしているのであるから,本件非係争条項はOEM業者の研究開発の意欲を何ら損なうものではない。
(イ) パソコンAV技術取引市場というものが仮に成立するとしても,研究開発をしてそこでのライセンスの供給者となる能力のある者が,非係争条項の対象でないパソコン以外の一般的機器用における収益を目指して活発に研究開発をするならば,パソコン用AV技術市場での反競争性も生じない。
(ウ) 審査官が殊更パソコンAV技術と命名した技術の内実は,むしろ家電製品において広汎に用いられ活用されているAV技術なのであり,したがって実際には,審査官がパソコンAV技術と呼ぶ技術のうちパソコンのみないし主としてパソコンに使用される技術など,ほとんど存在しないのである。そして,審査官も,パソコンのみないし主としてパソコンに使用されるAV技術が存在することは主張していないのである。
また,OEM業者によるAV技術開発はむしろパソコン製造販売以外の事業部門において広く応用されることを想定して行われてきたのであり,当該技術の応用先のごく一部であるにすぎないパソコンを各OEM業者が殊更重視し,本件非係争条項により研究開発意欲を損なわせたと認定するならば,それは実質的証拠に基づいた事実認定であるとはいい難いものである。
ウ (ア) 審査官は,研究開発意欲を損なわせるとは,本件非係争条項の結果,本来得られるべきはずのライセンス収入等を将来の技術開発投資に配分することができず,①先行の技術開発投資→②技術及び特許の取得→③ライセンシーからのライセンス収入や,特許権侵害者等からのライセンス料相当額の補償金・損害金の取得→④新たな技術開発投資という,技術開発の循環システムに支障を生じさせることを意味すると主張する。
しかし,研究開発意欲は将来開発についてのリターンを得ることが確保されることで発生するものであり,特許権をはじめとする知的財産権制度もそうした趣旨から設けられている。したがって,過去の技術開発により取得した特許権による収入の減少による将来の新たな技術開発投資への支障は,上述した知的財産権制度の制度趣旨からは外れるものである。そもそも,非係争条項とは,一定範囲の特許権の行使を制限する条項なのであるから,同条項を締結したライセンシーが一定範囲の特許権の行使を制限されることにより,それによるロイヤリティ収入等が減少することは,当然想定されていることである。
また,前記の技術開発の循環システムに支障を生じさせるとの主張は,ウィンドウズシリーズがOEM業者の特許権を現実に侵害していることを前提とするものであるが,審査官は,ウィンドウズシリーズがOEM業者の特許権を現実に侵害しているのか否かという点については,主張・立証を行わないとし,現にこの点については,何ら主張・立証を行っていないのであるから,このような主張は失当である。
加えて,前記の過去の技術開発の循環システムに支障を生じさせるとの主張は,パソコンAV技術取引により得た収入をパソコンAV技術の開発に循環させることを前提としているが,いかなる収入をいかなる投資に充てるのかは,企業の経営判断にゆだねられているのであって,パソコンAV技術取引により得た収入はパソコンAV技術の開発に充てるというのは,数ある選択肢の中から選択された1つの方針にすぎない。したがって,本件非係争条項の存在と技術開発投資への支障の間には,少なくとも直接的な因果関係がないことは明らかである。
(イ) また,審査官は,研究開発意欲が損なわれていることは,必ずしも外部的徴表として現出するとは限らないと主張する。
しかし,特許・ノウハウガイドラインは,非係争条項につき,「ライセンシーの特許権等の行使が制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には,一般指定告示第13項の不当な拘束条件付取引に該当し,違法となる」と規定しているところ,これは,現実に「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害すること」が必要であり,「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害するおそれがある」や「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することとなる」では足りないことを示しているのである。また,そもそも,前記1(2)において述べたとおり,一般指定告示第13項の拘束条件付取引の成否の判断に当たっては,当該拘束の及ぼす客観的な競争減殺効果の有無が問題となるのであり,その公正競争阻害性の認定作業は,抽象的な競争阻害のおそれありと断じることをもって足れりとすべきものではなく,検討対象市場として画定された特定の市場について,市場の状況を具体的に把握した上で,当該具体的な市場の状況が具体的にいかなる形で影響を受けるのかも明らかにした上で,当該影響が独占禁止法のエンフォースメントによる是正対象とされるに値する程度に具体的な影響であるといえるかを吟味してなされるべきものである。しかしながら,審査官の主張は,単に一部のOEM業者の知的部門担当者の主観的意見を根拠としているのみで,OEM業者の技術開発意欲が現実に損なわれたことはもちろん,技術開発意欲を損なわせることに係る客観的徴表すら一切提示されていない。
エ 本件非係争条項は,OEM業者の特許権へのフリーライドを目的とするものではなく,かつ,実際にも被審人及び被審人のライセンシーが本件非係争条項を理由にOEM業者へのロイヤリティの支払を拒んだことはない。
本件非係争条項は,OEM業者の特許技術をウィンドウズシリーズに取り込むことや,被審人及びそのライセンシーがOEM業者の特許権にフリーライドすることを目的とするものではない。したがって,被審人のウィンドウズシリーズによるOEM業者の特許権の侵害及びフリーライドが現実に生じていたと仮定しても,当該結果は特許問題の事前解決を期すという目的に基づく本件非係争条項の反射的効果である。
また,被審人は,他社の特許権に係る技術を使用して新バージョンのウィンドウズシリーズを開発する場合,当該特許権の保有者が当該ウィンドウズシリーズについて直接契約を締結することが見込まれるか否かにかかわらず,当該特許権保有者から,長年にわたり,ライセンスを受けロイヤリティを支払っている。
もしOEM業者が特定の特許権について,当該特許権がウィンドウズシリーズによって侵害されていると判断した場合は,被審人に対してその事実を具体的根拠を沿えて申し出て,それに基づいて被審人とOEM業者の間で検討を行うほかには現実的な選択肢はない。そして,実際にもHPのように具体的に特許権を特定して通知してきた場合は,被審人は誠実に交渉と検討を行い,本件非係争条項の存在にもかかわらず,特許権のライセンスを受けてロイヤリティを支払っている。
オ 前記2(2)クで述べたとおり,本件非係争条項を含む直接契約がいわゆるクロスライセンス契約よりも片務的であり均衡を失しているとする審査官主張には理由がない。また,本件非係争条項が自社の製造販売するパソコンと競合他社のそれとの差別化を困難にしたことはなく,また,ウィンドウズシリーズに自社の特許技術が組み込まれているとの松下電器産業,三菱電機及びソニーの懸念には合理的根拠がない。
さらに,審査官は,本件非係争条項は特許ポートフォリオが強いOEM業者に不利になっていると主張するが,かかる感想を抱いているOEM業者は間接契約を選択できたのであり,また,OEM業者が自社の特許権が侵害されていると判断した場合は,直接契約時にその旨被審人に申し出て,被審人と当該特許権侵害の有無について協議することができたのである。
カ 以上イないしオより,本件非係争条項はOEM業者のパソコンAV技術に係る研究開発意欲を損なわせず,また,そのおそれもなかったものであることは明らかである。
5 平成16年8月1日以降においてもOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性が高いか否か(争点(5))について
(1) 審査官の主張
以下アないしウにおいて述べるとおり,本件非係争条項は,本件非係争条項が削除された平成16年8月1日以降も,OEM業者の技術開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらすものである。
ア OEM業者は平成16年7月31日までに取得したパソコンAV技術の中核的技術がウィンドウズシリーズに既に組み込まれているとの懸念を持っていること
パソコン上で,デジタル化された音声や画像を視聴するためには,音声や画像の圧縮・伸長技術,パソコンとAV機器を接続する技術,DRM技術等の中核的技術が重要となっている。
この点,OEM業者の中には,平成16年7月31日までに取得したパソコンAV技術の中核的技術に関する特許技術が平成16年7月31日以前にライセンスを受けたウィンドウズシリーズに既に組み込まれ,本件非係争条項の適用を受けるとの懸念を持っている者が存在する。
すなわち,パソコンAV技術の中核的技術に関する特許権が本件非係争条項の適用を受ける場合,被審人は,かかる中核的な技術を利用できるのみならず,当該技術を基礎に技術開発を自由に行うことができる。技術開発は,既存の中核的な技術を基礎に開発するのが一般的であるので,このように被審人が技術開発を行うパソコンAV技術は,平成16年7月31日以前に既にウィンドウズシリーズに組み込まれている技術の「特徴及び機能」を含むことになる場合が多く,このような場合には,将来のウィンドウズシリーズのパソコンAV技術は本件非係争条項の対象となる。
さらに,上記のとおり技術開発は,既存の中核的な技術を基礎に行うのが一般的であるので,OEM業者が技術開発を行うパソコンAV技術は,それが新規特許権を構成する場合,過去の中核技術に関する特許権も含めてライセンスし,新規技術と中核技術の両方の部分のライセンス料を得ることが本来である。しかし,当該中核技術が,平成16年7月31日以前に既にウィンドウズシリーズに組み込まれている技術である場合,当該中核技術に対するライセンス料を得ることはできない。
したがって,当該OEM業者は,当該ライセンス収入が得られないことを前提とした技術開発予算しか計上できないこととなることを強く懸念している。
このような懸念を有するOEM業者は,今後,パソコンAV技術の開発を行っても技術的優位性を確立することが困難であるとともに,新規に特許権を取得しても十分なライセンス収入を得られないとの前提で技術開発を行わざるを得ず,平成16年8月1日以降も本件非係争条項はOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしている。
イ 本件非係争条項は将来のウィンドウズシリーズのパソコンAV技術にも適用があること
平成16年7月31日までの直接契約における「特徴及び機能」の範囲があいまいなため,OEM業者が新たなウィンドウズシリーズに新たに搭載されるパソコンAV技術を本件非係争条項の対象外として特許権侵害訴訟を提起しても,被審人が「特徴及び機能」の範囲を広く解して本件非係争条項の対象となると主張すれば,当該OEM業者は被審人の主張に有効に反論することができず,その主張を受け入れるしかない。また,OEM業者にとって,その後のウィンドウズシリーズに追加されたパソコンAV技術が新規の「特徴及び機能」か否かについて検証することが困難である。
このため,OEM業者が平成16年7月31日以前にライセンスを受けたウィンドウズシリーズには利用されておらず,その後のウィンドウズシリーズに追加されたパソコンAV技術が平成16年7月31日以前にOEM業者が取得した特許権を侵害するものとして特許権侵害訴訟を起こしても,被審人から当該パソコンAV技術は平成16年7月31日以前にライセンスを受けたウィンドウズシリーズのAV技術の「特徴及び機能」を含むものと主張されれば,これに有効に反論することができない。また,OEM業者は,かかる特許権侵害訴訟を起こすことにより,被審人から契約違反としてウィンドウズシリーズのライセンスを打ち切られ自社のパソコン事業への重大な支障を来す可能性すらあり,将来にわたるウィンドウズシリーズのパソコンAV技術に対して,事実上,特許権を行使することが困難となっている。
ウ 平成16年8月1日以降にOEM業者が取得する特許権が本件非係争条項の適用を受けるか否かが不明確なこと
OEM業者の中には,平成16年7月31日以前にライセンスを受けたウィンドウズシリーズの「特徴及び機能」を含む将来のウィンドウズシリーズの技術によって侵害される平成16年8月1日以降に取得する特許権が,BTD第8条(d)(i)(B)の「OEM業者の特許」に含まれるか否かが不明確と考えている者が存在する。すなわち,平成16年8月1日以降に取得するすべての特許権が本件非係争条項の適用を受けないか否かが明らかではないこと及びBTD第8条(d)(i)(C)の「特徴及び機能」の範囲が不明確な上,ウィンドウズシリーズのソースコードが開示されず,リバースエンジニアリング等が禁止されていることから,パソコンAV技術に関する自社の特許権は,今後取得する特許権も含め,将来にわたって特許権行使が制約されることを強く懸念する者が存在し,このような懸念が解消されないことからも,本件非係争条項によりOEM業者のパソコンAV技術の開発意欲が損なわれる高い蓋然性をもたらしている。
(2) 被審人の主張
以下ア及びイにおいて述べるとおり,平成16年8月1日以後に取得されたパソコンAV技術に係る特許権は,いかなる特許権であっても本件非係争条項の適用を受けることはなく,本件非係争条項を新バージョンのウィンドウズシリーズには設けないことを決定して公表した平成16年2月21日以降,遅くとも平成16年8月1日以後においては,本件非係争条項によりOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれることは全くない。
したがって,本件非係争条項の削除を公表した平成16年2月21日以降ないし平成16年8月1日以降において,本件非係争条項はOEM業者のパソコン用AV技術の研究開発意欲を阻害せず,かつ,そのおそれすらないことは明らかである。
ア 「特徴及び機能」は「対象製品(Covered Product)」の範囲を画するものであり,その範囲をどのように解したとしても,「会社の特許(Company Patent)」の範囲に平成16年8月1日以後に取得された特許が含まれることはない。このことは本件非係争条項の文言上明らかである。OEM業者は,直接契約が発効する平成16年8月1日以後に新たに取得する特許権が,本件非係争条項による制約を受けないこととなることを認識しており,平成16年2月21日以降本件非係争条項によりOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれることは,抽象的にも全く想定できない。
仮に既存の中核的な特許発明を基礎にした改良発明について本件非係争条項削除後に特許権が付与されたとしても,改良発明に係る特許権は本件非係争条項の適用を受けないから,被審人や他のOEM業者に対して特許権を行使できる。このように,本件非係争条項の削除後に取得された特許権は,それが既存の中核的な技術を基礎に開発されたものであったとしても,本件非係争条項が適用されないことは明らかである。
なお,OEM業者が,平成16年2月21日より前において既に保有していた特許権がライセンスの対象であったウィンドウズシリーズによって侵害され,かつ,本件非係争条項により,侵害された特許権の行使が制限されているとの懸念を仮に有していたとしても,それは不合理な誤解に基づくものであって,合理的な懸念ではない。
また,MPEG規格などの標準化技術については被審人は既にすべてライセンシーとしてロイヤリティを支払っているから,OEM業者のウィンドウズシリーズによる特許権侵害の懸念には合理的な根拠がないことは明らかである。
イ 本件非係争条項は,その適用範囲を「特徴及び機能」により具体的に制約していたのであり,この「特徴及び機能」に基づく制約によりOEM業者の研究開発意欲は確保される。
ここで,「特徴及び機能」の意義は明確であり,直接契約の対象となるウィンドウズシリーズに含まれる部分であって,OEM業者の保有する特許権の技術的範囲に属するがゆえに当該特許権を「実施」していることになる部分をいう(特徴及び機能は,本件非係争条項が含まれる直接契約の対象製品であるウィンドウズシリーズの後継バージョンが出たときに,従前の本件非係争条項がどこまでの範囲で引き継がれるかの基準となるものであり,また,非係争条項が特許訴訟の提起を制約する規定であることからすれば,ここでの特徴及び機能を特許権の観点から解釈すべきことは当然のことである。)。
したがって,ウィンドウズシリーズのどの部分が「特徴及び機能」に当たるかは,特許請求の範囲の記載によって一義的に定まるから(特許法第70条),それが不明確であるということはあり得ない。審査官の主張は,BTD第8条(d)(i)(C)の文言上「特徴及び機能」の意義が明確か否かという問題と,OEM業者が保有する特許権を実施しているウィンドウズシリーズの「特徴及び機能」が不明確か否かという問題を混同している。
本件で問題なのは,OEM業者にとって,自社の保有する特許権が本件非係争条項の対象か否かであるから,問題となるのはOEM業者が保有する特許権に係る技術を実施しているウィンドウズシリーズの「特徴及び機能」が不明確か否かである。すなわち,直接契約の対象となるウィンドウズシリーズに,OEM業者の特許権の技術的範囲に属する部分があるか否か,それがある場合,当該特徴及び機能が,後継のウィンドウズシリーズに引き継がれており,かつ同一の特許の技術的範囲に属するといえるか否かという問題なのである。いずれのバージョンについても技術的範囲に属する場合は,技術的範囲に属する当該部分が「特徴及び機能」に該当し,後継のウィンドウズシリーズにおいても本件非係争条項の対象となる。
このように,「特徴及び機能」の範囲は,直接契約の対象となるウィンドウズシリーズに含まれる部分であって,OEM業者の保有する特許権の技術的範囲に属する部分であるから,その範囲は明確である。
6 本件非係争条項によるパソコンAV技術取引市場における競争への悪影響の有無(争点(6))について
(1) 審査官の主張
ア 平成16年7月31日以前及び同年8月1日以降の現在に至るまで,本件非係争条項は,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらしているのであり,このことは,新たなパソコンAV技術(全く新規の技術だけではなく既存技術の改良を含む。)を人為的に排除・制限することを意味するのであり,パソコンAV技術取引市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあることは明らかである。
また,OEM業者のパソコンAV技術が,既にウィンドウズシリーズに取り込まれ特許権が侵害されている場合には,前記4(1)アで述べたとおり,①先行の技術開発投資→②技術及び特許の取得→③ライセンシーからのライセンス収入や,特許権侵害者等からのライセンス料相当額の補償金・損害金の取得→④新たな技術開発投資という,技術開発の循環システムに支障が生じて,新たな技術開発投資に支障を来し,開発意欲を現実に損なわせていることになる。したがって,かかる場合には,パソコンAV技術取引市場における競争秩序に現実にかつ甚大な悪影響を及ぼしていることになる。本件では,ウィンドウズシリーズによって,OEM業者が保有する特許権が多数侵害されている可能性があり,本件非係争条項によって,パソコンAV技術取引市場における競争秩序に現実にかつ甚大な悪影響が及んでいる可能性が極めて高い。
イ 本件非係争条項によって開発意欲が損なわれることに加えて,前記2(1)イのとおり,本件非係争条項は被審人に対する無償ライセンスとして機能し,被審人は自由にOEM業者が保有する特許をウィンドウズシリーズに取り込み,ウィンドウズシリーズのAV機能を拡張・強化することで,パソコンAV技術取引市場における被審人の地位を不当に強化させることができるのであり,パソコンAV技術取引市場における競争秩序に悪影響を与えるものである。
また,本件非係争条項により,被審人は,OEM業者が自ら投資を行って開発したパソコンAV技術を,前記のとおり,無償で,かつ連鎖的にウィンドウズシリーズに取り込むことができるだけでなく,OEM業者が行った先行投資に見合う負担をかけずに,直ちに技術改良を開始することができる。これは,既に先行投資をした上で技術改良を続けるOEM業者と比較して極めて有利であるところ,かかる状況下において取得したパソコンAV技術を,更にウィンドウズシリーズに統合して,「対象製品」として本件非係争条項の対象とすることができる。
このことは,OEM業者からみれば,自らコストを投じて開発したパソコンAV技術が,ウィンドウズシリーズにことごとく搭載されていく状況を余儀なくされることにほかならない。その結果,本来であれば,当該技術を開発したOEM業者からパソコンAV技術の供給を受けるはずのパソコン製造販売業者は,被審人からウィンドウズシリーズのライセンスを受けるだけで,OEM業者が開発した当該技術を自動的にすべて享受できることになる。このため,ウィンドウズシリーズがパソコン製造販売業者にとって必要不可欠な状況下においては,重複する形になってしまう当該技術を別途OEM業者が供給する余地は著しく減少することとなる。
かかる地位強化は,パソコン用OS市場において独占的地位を占めるウィンドウズシリーズのライセンス及びパソコン製造販売業者の広範な販売ネットワークによって,「Windows Media Technologies」と総称される被審人のパソコンAV技術を,迅速かつ広範に世界中に頒布・普及させることができることによって,一層増幅される。
ウ 以上のとおり,本件非係争条項によって,①OEM業者のパソコンAV技術に対する開発意欲を損なわせる高い蓋然性を有しているのであり,また,②OEM業者は開発した技術に係る特許をライセンスする機会を失う危険性が高く,さらに,③OEM業者のみが一方的に非係争義務を負う一方,被審人のみがOEM業者の特許を自由に利用できる等著しく均衡を失し,パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を弱め,同市場における被審人の地位強化をもたらす高い蓋然性がある。
被審人は,パソコンAV技術を開発し,パソコン製造販売業者に提供しており,被審人のパソコンAV技術は,OEM業者のパソコンAV技術とともにパソコンAV技術取引市場において取引される技術という意味で,被審人とOEM業者は競争関係にあり,かつ松下電器産業,三菱電機及びソニーのOEM業者3社は,AV技術の分野における世界的な企業であることは論を待たないところであり,家電製品のAV技術がパソコンでも用いられるなど家電とパソコンが融合してきている状況にあることから,これら3社がパソコンAV技術取引市場における有力な事業者であることは明らかである。
このようにOEM業者は当該市場における有力な事業者であることを勘案すると,本件非係争条項は当該市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある。
(2) 被審人の主張
ア AV技術取引市場を検討対象市場とすべきであることについて
(ア) 審判開始決定書の記載との食い違い
本件における検討対象市場に関しては,平成16年7月26日付け勧告書及び平成16年9月1日付け審判開始決定書のいずれにおいても,「OEM業者のAV機能に関する技術の開発意欲が損なわれることとなり,我が国の当該技術に係る分野における公正な競争が阻害されるおそれがある。」と記載されており,公正取引委員会が審判開始決定時において「AV機能に関する技術に係る分野」を検討対象市場とみていたことは明らかである。しかるに,審査官は平成16年10月15日付け第1回準備書面で突然「パソコンAV技術(パソコンに使われる技術のうち,AV機能に関する技術)」「パソコンAV技術取引市場(パソコンAV技術の開発者間でパソコンAV技術に関して競争が行われる場)」なる概念を主張し,検討対象市場をパソコンAV技術取引市場に変更したが,被審人の数度にわたる求釈明にかかわらず,かかる変更の理由についての納得のいく説明はなかった。
いうまでもなく独占禁止法違反事件において市場の画定は最も大切なことであり,不公正な取引方法の事件においても,検討対象市場をきちんと画定することが必要であり,また,これを合理的な理由なく変更することは許されないことである。
そもそも検討対象市場の変更は事件の同一性があり,被審人の防御権が阻害されることがない限りにおいて例外的に認められるものであり,そのためには変更の手続も厳格であるべきである。
本件における検討対象市場の変更については,審査官による明示的な表示もなく,変更について特別の手続(被審人に意見を聞く等)もなされていない。このような変更は手続保障の観点から問題があり,ひいては被審人の防御権を妨げるものであり,認められるべきものではない。本件における検討対象市場は,審判開始決定書において画定されたAV技術取引市場と考えるべきである。
(イ) AV技術は,パソコン用とそれ以外の家電製品等に使用されるものとで技術内容に違いはなく,その開発過程においても特に両者を区別していないこと
パソコン用AV技術と一般のAV技術は技術として同一である。審査官がいうパソコンに使われるデジタル化された音声又は画像を視聴できるようにする技術はパソコンのみに使用されるものではなく,その他の家電製品やネット家電製品,例えばDVDプレーヤー,CDプレーヤー,ハードディスクレコーダ,DVDレコーダ,セットトップボックス,テレビ,携帯テレビ,携帯電話,携帯音楽プレーヤー,デジタルカメラ,デジタルビデオカメラ,AVアンプ(ステレオセット),プロジェクター,カーオーディオ,TVゲーム機,ICレコーダなどそのほか広汎な種類に及ぶ家電機器にも利用されるものである。
例えば,標準規格として広く普及しているものでは,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術である「CD−DA」,「ATRAC」,「ATRAC3」,「MPEG−1 audio layer 3」 (MP3),「G.726 audio codec」,「JPEG」,「MPEG−2」,「MPEG−4」,「MPEG−4 AAC」,「DVB−T」,「AVC/H.264」やデジタルデータ伝送技術の「IEEE 1394」,「USB2.0,Gigabit Ethernet」なども,パソコンだけでなく音声・画像を扱う他の家電製品でも共通に利用される技術であり,かつそれらの製品化において必要不可欠な技術である。
(ウ) パソコン用AV技術独自の需要者は存在しないこと
圧縮・伸長技術であるMPEG規格のライセンシーをみるとパソコン製造販売業者だけでなく,テレビ製造者,DVD製造者,車載機器製造者,携帯電話製造者等様々である。技術の需要者という面から市場をみてもパソコンAV技術取引市場は適当ではなく,AV市場を検討対象市場と考えるべきである。
(エ) ある行為が独占禁止法に違反するかを判断するに当たり最も適した市場は何かという観点からのアプローチ
公正競争阻害性の認定作業は,検討対象市場として画定された特定の市場について,当該市場の状況を具体的に把握し,また,当該具体的な市場の状況が具体的にいかなる形で影響を受けるのかも明らかにした上で,当該影響が独占禁止法のエンフォースメントによる是正対象とされるに値する程度に具体的な影響であるといえるかを吟味してなされるべきものであるから,検討対象市場の画定についても,こうした作業を行うのに適した市場を画定すべきである。
そもそも技術の開発は,その技術を製品に取り入れたり,ライセンスするために行う。そしてライセンスされた技術は結局ライセンシーによって製品に取り入れられるのだから,技術の研究開発意欲について判断するときには,開発の対象となる技術がどのような製品に使われるかが大きな意味を持つことはいうまでもないことである。
ところで,前記のとおりパソコンAV技術は,パソコン以外の家電製品やネット家電製品にも広汎に利用されるもので,専らパソコンのみ若しくは主としてパソコンに使用される技術はほとんどない。そして,これらの技術が取引される市場は,パソコンよりも一般のAV家電製品の製造・販売の方がはるかに大きいのであるから,当然,一般のAV技術取引市場を検討対象市場としてみるのであれば,こうした技術についての研究開発意欲を検討するには,パソコン用AV技術市場ではなくAV技術一般の市場をみるべきである。パソコン製造販売業者に販売するのに多少の制約はあっても,これよりも大きい一般のAV技術家電製品市場において販売できるのであれば,研究開発意欲は阻害されないからである。以上にかんがみると,検討対象市場をパソコンAV技術市場に限定することは,検討対象市場画定の目的に沿うものではない。
イ パソコンAV技術取引市場について
(ア) 市場への悪影響を認定するには,①本件非係争条項が問題とされる時期において,パソコンAV技術取引市場全体の規模がどの程度であったか,②現在どの程度であるのか,③市場の規模はどのように推移してきたのか,④市場における競争者はだれなのか,⑤それぞれの競争者の占有率はどのような状況であるのか,⑥新規参入の状況はどのような状況であるのかといった市場全体についての説明が必要となるところ,審査官は,これらの説明を全く行うことなく,公正競争阻害性を主張しており失当である。
(イ) 特許・ノウハウガイドラインによれば,ある分野における「有力な」ライセンサーが,非係争条項により当該分野における「有力な地位」を強化した場合に違法とされることとなる。そして,「流通・取引慣行に関する独占禁止法の指針」に従うと,市場における占有率が10パーセント未満であり,かつ,その順位が上位4位以下である下位事業者や新規参入者が非係争条項を含むライセンス契約を締結したとしても,通常違法とされるものではなく,また,仮に市場における占有率が10パーセント以上,又はその順位が上位3位以内である場合であっても,競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがない場合には,違法とならない。
被審人は,パソコンAV技術取引市場における新規参入者であり,また,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術に関する必須特許の保有件数からも,被審人がパソコンAV技術取引市場における有力な事業者ではないことは明らかである。さらに,パソコンAV技術取引市場には多数の競争者がしのぎを削っており,各社の占有率を測ることができない点において一般のAV技術取引市場と変わりがなく,セーフハーバーの対象となる競争減殺効果の軽微な市場であることが明らかである。
被審人はパソコンAV技術取引市場における有力な事業者ではなく,また,OEM業者のパソコンAV技術研究開発意欲を損なわせなかったこと,OEM業者は開発した特許をライセンスする機会を失っていないこと,本件非係争条項は均衡を失するものではないことから,本件非係争条項は,パソコンAV技術取引市場における被審人の地位を強化するものではない。
(ウ) 仮に本件非係争条項によりOEM業者の研究開発の意欲が損なわれ,新たな技術の開発が阻害された場合であっても,それが検討対象市場であるAV技術取引市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあることを個別・具体的に立証されない場合(具体的には当該検討対象市場における競争阻害効果・競争回避効果が本件非係争条項の競争促進効果を上回ることが立証されない場合)には,本件は違法とはならない。保護されるべきものは競争であり競争者ではないのであって,拘束条件付取引においては,行為の市場に対する客観的競争減殺効果が問題となるのである。
ここで,OEM業者の研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,AV技術取引市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるとは,AV技術取引市場における競争回避効果(価格,数量,品質,技術などの競争を回避する効果)又は競争(者)排除効果(既存又は新規参入の事業者の競争行動を排除する効果)のいずれかを意味するのであり,審査官は具体的にAV技術取引市場においてどのような競争回避効果又は競争(者)排除効果が生ずるのかを主張・立証する必要がある。
しかしながら,審査官は,①本件非係争条項は,パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を弱め,被審人の地位を強化するものであること,②OEM業者と被審人はパソコンAV技術取引市場において競争関係にあること,③OEM業者は当該市場における有力な事業者であることから,本件非係争条項が,当該市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると主張するのみで,これは本件非係争条項が検討対象市場における競争回避効果又は競争(者)排除効果を主張・立証するものではないことはいうまでもない。
さらに,①被審人は,AV技術取引市場においては,市場占有率も順位も低く,また,AV技術取引市場には極めて多くの競争者が存在し,厳しい競争が行われる一方で,コーデック技術については,一つの機器に複数のコーデックが搭載されており,一台のパソコンにどの圧縮解凍技術が採用されるかという競争は存在せず,これはパソコンAV技術取引市場においても同様であること,②本件非係争条項がOEM業者に与える拘束は極めて限定されており,OEM業者の検討対象市場における活動に大きな影響を与えるものではなかったこと,③OEM業者は直接契約の締結を余儀なくされていなかったこと,④本件非係争条項が正当な目的のため使用されており,かつその拘束の程度も,その目的を達成するための相当な範囲に限定されていること,⑤本件非係争条項には競争促進効果があること,⑥本件非係争条項によりOEM業者のAV技術の研究開発意欲が損なわれたことはなく,かつ現在も阻害されていないこと,⑦本件非係争条項は被審人の地位を不当に強化していないことから,本件非係争条項は,何ら競争回避効果又は競争(者)排除効果を生じるものではなく,パソコンAV技術取引市場に悪影響を及ぼさないことは明らかである。
7 本件非係争条項によるパソコン市場における競争への悪影響の有無(争点(7))について
(1) 審査官の主張
ア パソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性による悪影響
我が国におけるパソコン市場においては,パソコン製造販売業者が,多様な機能を有するパソコンを品質や価格の優劣などによってユーザーを確保すべく競い合っており,通常,パソコンにウィンドウズシリーズをプレインストールするとともに,ウィンドウズシリーズに加えて,多様な機能を提供するために自社又は他社が開発したソフトウェアをプレインストールして,販売している。
本件非係争条項は,その削除前においても削除後においても,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらすものであるから,新たなパソコンAV技術を搭載したパソコンの供給を抑止させることとなり,多様な機能を有するパソコンを品質や価格の優劣によって競い合うというパソコン市場における競争秩序に悪影響を与えることとなる。
イ パソコンの差別化が困難になることによる悪影響
パソコン市場においては,パソコンによりデジタル化された音声や画像を視聴するニーズが高まっている。このようなニーズに対応して,パソコンAV技術の開発を積極的に行い,当該技術をウィンドウズシリーズに加えて自社のパソコンに搭載することにより,自社のパソコンを他社のものより優位なものとなるよう差別化する戦略を採ることもパソコンを製造販売していく上で重要な競争手段の一つとなっている。
しかし,OEM業者が自己のパソコンに独自性を持たせるために開発した技術であっても,本件非係争条項によっていったんウィンドウズシリーズに取り込まれると,そのライセンスを通じて他のOEM業者の世界的販売ネットワークに乗り,迅速かつ広範にフリーライドされることとなる。その結果,自社のパソコンを他社よりも優位なものとなるよう差別化する戦略を採っているOEM業者にとって,当該差別化が極めて困難になる。
本件非係争条項は,パソコンAV技術の開発によって自社のパソコンを他社よりも優位なものとする差別化戦略を困難にするものであって,競合パソコンに対する優位性を人為的に弱めるのみならず,OEM業者の差別化戦略を無意味にさせるものであるから,パソコン市場における競争秩序に悪影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 被審人の主張
ア 検討対象市場について
審査官は,平成16年7月26日付け勧告書及び同年9月1日付け審判開始決定書では全く問題としなかったにもかかわらず,第1回準備書面において突如として「パソコン市場」を持ち出し,同市場における公正競争阻害性を主張する。パソコン市場も検討対象市場であるとする審査官の主張は,審判開始決定書の記載と食い違い,審判の対象とすべき事項の範囲を超えて不当である上に,被審人はそもそも同市場で事業を遂行しておらず,しかも同市場において差別化の阻害が発生することにより超過利潤を得る立場になく,また,かかる事態の発生を望んでいるものでもないから,同市場に仮に公正競争阻害性が生じているとしても,かかる阻害性の発生につき責を問われるべき立場にない。これまでに被審人が利益を得ていない市場における反競争性が問題となった事件は皆無に近く,対象となる市場において利益を得なければ,違法にならないことが公正取引委員会における確立した実務であることは明らかである。
イ パソコン市場について
審査官は,本件非係争条項が,パソコンの差別化を困難にすることにより,パソコン市場に悪影響を及ぼすと主張する。しかし,審査官の当該主張は,以下(ア)ないし(ウ)において述べるとおり,合理的根拠がない。
(ア) パソコン市場は非常に多数の当事者がしのぎを削る競争の激しい市場である。また,この市場における差別化は,AV技術によるものに限られているわけではなく,さらに,松下電器産業及び三菱電機はAV技術による差別化を全く行っていない。
(イ) 本件非係争条項によって差別化が阻害されたとする審査官の主張において具体的に主張されるAV技術の大半は,「MPEG LA」等のパテントプールを通じて包括的にライセンスされている。これらの技術は,合理的かつ非差別的な条件でひとしくライセンスされており,従って当該技術の開発者は当該技術を自社の製造販売するパソコンの差別化のためのてことして用いることができないのであるから,AV機能によるパソコンの差別化のための技術研究開発意欲が損なわれたとの審査官主張には合理的根拠がない。
(ウ) 以下aないしdのとおり,AV技術で差別化したパソコンの優位性が低下するおそれはない。
a そもそもOEM業者の大半はAV技術による差別化を指向していない。音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術の性格上,当該技術を製品差別化に用いることは実質的に不可能なのである。なぜなら,ある圧縮・伸長技術が普及し定着するためには,多数の者が当該技術を使用したコンテンツ(音楽ファイル,動画ファイル)を作成し,それが多数のユーザーの保有するパソコン,あるいはテレビやDVDレコーダなどで再生可能であることが必要であり,特定のOEM業者製のパソコン上でしか再生できないような圧縮・伸長技術は,利用者が極めて限られてしまい,だれも関心を持たないからである。圧縮・伸長技術の普及のためには自社で技術を独占することはできず(そうすると当該技術を扱える機種が自社製に限定され,端末数が増えない。),広く他社にも使用を許諾することが必要である。したがって,技術の開発者は,開発した技術を自社製パソコンでのみ利用可能とすることは現実的に不可能であり,他社にも低廉なロイヤリティで広くライセンスすることが必要不可欠である。だからこそ,今日,圧縮・伸長技術の多くがパテントプールを介して特許を広くライセンスしているのである。
b 審査官は,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術その他の複雑なAV技術が,消費者がパソコン購入を決定する根拠又はOEM業者のパソコンの「差別化の特徴」であるとみていることを主張立証していないから,そもそもAV技術がOEM業者の営業上有意な差別化をもたらすことを立証していない。
c 本件非係争条項によって差別化が阻害されたとする主張において具体的に主張されるAV技術の大半は,「MPEG LA」を通じて包括的にライセンスされており,パソコンの差別化のためのてことして用いることができないことは前記イ(イ)のとおりである。例えば,コーデック技術を利用する多様なソフトウェアは現実にリアルネットワークス,アップル等の独立系業者から提供されている。したがって,パソコン製造販売業者は直接契約締結の有無にかかわらず,各社の保有するパソコンAV技術による差別化の利益を独占的に享受できる地位にない。

d OEM業者は,自社のパソコン上に独立系ソフトウェアを搭載することによって,多様なAV関連技術を盛んに提供している。例えば,「Real Player」,「Quick Time」,「Music Match」等OEM業者がプレインストールしている第三者の製品,又はOEM業者自身のソフトウェアにより,パソコン上のAV機能における差別化は高度に進展している。
8 本件非係争条項は正当化事由を有するか否か(争点(8))について
(1) 被審人の主張
ア 本件非係争条項の目的及び競争促進効果
被審人が直接契約において本件非係争条項を採用した目的は以下(ア)ないし(ウ)のとおりであり,また,本件非係争条項は同様の内容の競争促進効果をも有するものである。本件非係争条項には特許権侵害訴訟の濫用,時機に後れた提訴を防止し,プラットホーム製品であるウィンドウズシリーズの下で多くの業者が安心してビジネスを行い,利用者が安心して利用するという手段としての必要性・合理性があり,制限の程度も目的を達成するための最小限のものである。
また,被審人は,他社の特許技術を利用して新バージョンのウィンドウズシリーズを開発する場合,特許権保有者が当該新バージョンのウィンドウズシリーズにつき直接契約を締結することが見込まれるか否かにかかわらず,当該特許権保有者からライセンスを受けロイヤリティを支払っており,ライセンスの取得を回避する目的で本件非係争条項を使用したことはなかった。本件非係争条項は時限的な仕組みであり,ウィンドウズシリーズの新バージョンが普及する前に知的財産権に係る懸念を解決するための契約条項であった。
このような具体的かつ現実に存在する本件非係争条項の高い競争促進効果が,抽象的な競争阻害のおそれを根拠とする予防的措置により覆されることは,独占禁止法がその目的として掲げる自由かつ公正な競争及び消費者利益の見地から到底正当化され得ないものである。
(ア) 特許リスクの事前評価
被審人は,後記(イ)において述べるとおり,本件非係争条項により時機に後れた特許権の主張を制約していたからこそ,安価で,かつ,固定のロイヤリティによりウィンドウズシリーズのライセンスを提供することができたのである。すなわち,OEM業者からの特許権侵害の主張がライセンス契約締結前の適時になされれば,問題の特許権について被審人が当該OEM業者から合理的なロイヤリティの支払を条件にライセンスを受けるか,あるいは不合理に高額のロイヤリティを請求される場合は対象の機能をウィンドウズシリーズから削除する等の措置により,安価で固定のロイヤリティによるウィンドウズシリーズのライセンスを提供することが可能となる。
これに対し,仮に本件非係争条項がなく,OEM業者がウィンドウズシリーズの普及後に特許権侵害を主張した場合には,被審人は,OEM業者によるウィンドウズシリーズ搭載パソコンの出荷を継続的に可能とするためには,不合理に高額なロイヤリティを請求されても,それに応じるしか選択肢がなくなる。これは,特許権に差止請求権という強力な効果が付与されているために不可避な問題である。いつそのような事態が生じるかもしれないという場合,被審人としては,あらかじめそうしたリスクを想定して,ウィンドウズシリーズのロイヤリティを高めに設定せざるを得なくなる。
本件非係争条項は,このような問題に対処するために,被審人が事前にウィンドウズシリーズによる特許権侵害のリスクを評価できるようにするために必要なものであったのである。
(イ) 時機に後れた特許権主張の未然防止(プラットホームの安定性)
OEM業者が,ウィンドウズシリーズによって自らが保有する特許権が侵害されていると考えた場合には,当該ウィンドウズシリーズの普及後まで当該特許権侵害の主張を遅らせることにより,特許権侵害に基づく損害賠償の金額を高額化させるとともに,被審人が当該特許権に係るライセンスを取得せざるを得ない状況に追い込んで,当該特許権に係る交渉において有利な地位を得ようとする誘引が生じる。
他方,相当期間にわたり,いわば潜伏していた特許権の保有者が当該特許権に基づき特許権侵害訴訟を提起することにより生じる混乱は甚大である。特に,当該特許権侵害の主張が標準規格やデファクト・スタンダードに係る場合には,当該規格又は標準等に依拠してソフトウェア又はハードウェアが多数開発・製造され,使用されていることが通常であるから,当該訴訟提起による混乱は相当なものとなる。
ウィンドウズシリーズは社会的に広く利用されるプラットホームであり,様々なソフトウェアやハードウェアなどの前提となるものであるから,その安定性は社会的に強く要請される。特許権侵害などを理由に,販売済みのウィンドウズシリーズ並びに当該ウィンドウズシリーズに対応したソフトウェア及びハードウェアについて設計変更その他の改変等が要求される場合には,被審人のみならず,ウィンドウズシリーズに基づきウェブページ,ソフトウェア又はハードウェアを構築しているソフトウェア開発業者,ハードウェア製造業者及びOEM業者等のみならず,そのユーザーにも,回復困難な多大の混乱が生じることとなるのである。これに対して,特許権侵害の主張が適時になされるようにすれば,当該特許権侵害の主張による混乱に巻き込まれる当事者の数は少なくなる。また,かかる段階であれば,一般的にソフトウェア及びハードウェア開発業者も単純かつ費用の掛からない方法によって問題を解決できることが期待し得るのである。
このため,本件非係争条項が存在するのであり,また,本件非係争条項は,特許権侵害の主張に係る社会的な費用を削減し,かつウィンドウズシリーズ対応ソフトウェア等の開発及びウィンドウズシリーズを用いて展開される諸事業活動の円滑な遂行を促進するのであるから,著しい競争促進効果を有するものであったのみならず,多様な製品の消費者への提供を通じて一般消費者の利益(独占禁止法第1条)にも資するものでもあった。
また,直接契約により低いロイヤリティとなっているOEM業者に時機に後れた特許権の主張を認めると,OEM業者は,直接契約ゆえ低いロイヤリティによってウィンドウズシリーズのライセンスを受け,自らウィンドウズシリーズ搭載パソコンの販売によって利益を得ながら,他方では特許権侵害の主張を遅らせることで巨額の損害賠償金を手にする,という二重の利益を得ることになる。しかもOEM業者は,ウィンドウズシリーズのライセンスを受ける前に特許権侵害調査のため十分な情報の提供を受けており,特許権侵害の有無について検討する合理的な期間を有しているのである。かかる事情が存在するにもかかわらず,OEM業者がウィンドウズシリーズの普及後に特許権侵害の主張をすることは,取引の信義誠実の原則に反するものといわざるを得ない。
OEM業者は,他の者に比して,被審人からより多くの技術情報を入手できることから,いわゆる妨害特許を取得の上,それに対する侵害を理由に,時機に後れた特許権侵害訴訟を提起する危険性が他の者に比して高い。また,OEM業者の多くは企業規模が大きく,それに応じて相対的に多数の特許権を保有しているから,特許権侵害のリスクも相対的に大きい。そうだとすれば,そのような危険性の高いOEM業者との間で本件非係争条項を締結し,時機に後れた特許権侵害訴訟の提起を防止しておくことは,それにより生じる混乱を防止するという本件非係争条項の目的を達成する上で,十分に効果的であり,極めて合理的であるといえる。
以上のとおり,被審人は,本件非係争条項により時機に後れた特許権の主張を制約していたからこそ,安価で,かつ,固定のロイヤリティによりウィンドウズシリーズのライセンスを提供することができたのであり,また,ソフトウェア開発業者,ハードウェア製造業者,OEM業者及びエンドユーザーが特許権の行使による混乱という被害を防止できたのである。
(ウ) AV技術,ソフトウェア及びハードウェアに関する技術の開発の促進
本件非係争条項は,特許紛争の解決費用を軽減するほか,OEM業者,ソフトウェア及びハードウェアの開発業者によるウィンドウズシリーズ上で稼働するソフトウェア及びハードウェアに関連する技術開発を促進することをもその目的としている。
ウィンドウズシリーズの開発は,被審人がウィンドウズシリーズの開発過程の早い段階からOEM業者やソフトウェア開発業者と技術仕様等の知的財産を開示しつつ行われる。被審人は本件非係争条項があるからこそ情報を安心して開示できたのである。OEM業者やソフトウェア開発業者は,かかる情報共有により,新バージョンのウィンドウズシリーズの発売と同時にプラットホームを構築し,またアプリケーションソフトを発売することができる。技術の幅広い普及は,新しい技術の利用を拡大することにより,新製品の開発を更に促進する。特にAV技術に関してはこのことが顕著である。だからこそOEM業者は,被審人に対して,積極的に新技術のサポートを要求し,奨励し,また被審人はこれに応えたのである。
ところで,特許の請求項は,出願後も所定の期間中は大幅に補正することが許されている。そのため,ベータ版の調査や,被審人から開示される技術情報などに基づき,ウィンドウズシリーズに新たに採用される新機能を把握した上で,当該新機能をカバーするように審査係属中の請求項を補正することが可能である。また,米国特許法は,日本の先願主義と異なり先発明主義を採用している。そのため,新機能を搭載したウィンドウズシリーズが発売された後に,当該新機能を請求項に記載した出願をして,特許を取得することが可能である。こうした出願は,先願主義の下では新規性を欠き特許が付与されることはないが,先発明主義の下では,出願人により発明がなされたのが被審人によるウィンドウズシリーズの新機能の発明よりも以前であることが証明されれば特許権は成立し得るからである。
本件非係争条項がない場合,被審人としては,OEM業者への開発情報の開示範囲を限定したり,あるいは,開示時期を可能な限り遅らせたりするなどの対策を採り,特許権侵害リスクを低減するほかなくなる。本件非係争条項を採用することで,被審人はこのような行為を恐れることなく開発情報を開示し,OEM業者と共有することが可能となる。これにより,被審人は,OEM業者からのソフトウェア・サポートの要請に応じることを容易にし,もって,技術開発を一層促進することができたのであり,また,OEM業者は,新バージョンのウィンドウズシリーズのプラットホームとしての安定性に対する信頼の下に,活発に技術開発を行うことができたのである。
なお,OEM業者に利益をもたらすことと,被審人にとってもメリットがあることとは何ら矛盾するものではない。
このように,本件非係争条項は,世界中でウィンドウズシリーズと互換性のある製品の迅速かつ効率的な開発を促進することにより新製品の開発を推進している。かかる競争促進効果は,ウィンドウズシリーズ対応ソフトウェア等における新製品開発及び技術の発展のスピードの速さにより裏付けられている。
イ 本件非係争条項の相当性(非係争条項の限定的性格)
前記2(2)において述べたとおり,本件非係争条項は限定的性格を有するものであり,その適用範囲は,前記アにおいて述べた本件非係争条項の正当な目的を達成するために必要な合理的範囲に限定されていた。
また,被審人は,パソコンや家電製品などのハードウェア事業を行っていないため,OEM業者と事業領域が異なること,また最近になるまで特許ポートフォリオが貧弱なものであったことから,OEM業者とクロスライセンス契約を締結することは現実的な選択肢ではなかった。このような状況の中で,富士通とのクロスライセンス契約は極めてまれな例外事例であって,富士通とのクロスライセンス契約の存在を根拠として,他のOEM業者とのクロスライセンス契約が現実的な選択肢であったとする審査官の主張は事実誤認である。
このように,本件非係争条項と同じような役割を果たすクロスライセンス契約を被審人が締結することは,わずかな例外を除き,つい最近になるまで極めて困難であって,被審人は前記の目的を達成するためには本件非係争条項に頼らざるを得なかったのである。
なお,被審人が本件非係争条項を削除したのは,本件非係争条項が前記の正当な目的を達成するための相当な手段であり,適法な条項であると確信しつつも,本件非係争条項に対するOEM業者の懸念を認識し,それを解消し,顧客満足度を高めるために,本件非係争条項の削除を決定したためである。
(2) 審査官の主張
ア 本件では,本件非係争条項の客観的な不合理性や,本件非係争条項がパソコンAV技術取引市場及びパソコン市場に及ぼす客観的な影響等が問題であり,被審人が主観的にいかなる目的で本件非係争条項を導入したかは,本件についていえば,重要とまではいえない。
イ また,本件非係争条項の目的が,少なくとも,被審人の主張する競争促進ではないことは,①被審人から提供されたウィンドウズシリーズに関する情報は,特許権侵害を検証するには極めて不十分なものであり,OEM業者が特許権侵害の有無を確認することができないものであったこと,②仮に,被審人が自社の新バージョンのウィンドウズシリーズがOEM業者の特許権を侵害しているリスクをライセンス時に確認しようと考えるのであれば,そのような特許権侵害の有無をOEM業者が判断できるようにするはずであること,③OEM業者とのみ本件非係争条項を締結しても,システムビルダーからのウィンドウズシリーズ販売後の特許権侵害訴訟の提起を阻止する手段はないこと及び④かかる要請が継続しているにもかかわらず,平成16年8月1日に突如として本件非係争条項を削除したという事実と矛盾することからも明らかである。
なお,本件非係争条項が,被審人に対する無償の特許ライセンスとして機能するという観点からすれば,本件非係争条項の主たる目的は,被審人がパソコン用OS市場において独占的な地位にあることをてことして,OEM業者からライセンスを受けずに,その保有する膨大な特許権を無償で利用することにあったと考えざるを得ない。
ウ 本件非係争条項によってウィンドウズシリーズに対する特許権侵害訴訟の提起等が禁止されるのは,OEM業者のみであり,OEM業者以外の世界中のおよそすべての特許権者が,いつでも特許権侵害訴訟の提起等を行うことができるのであり,被審人の主張する本件非係争条項による安定効果は見せかけのものにすぎず,かかる安定効果を前提として競争促進効果はあり得ない。仮に特許ポートフォリオの強いOEM業者の特許権侵害訴訟の提起等を禁止すれば,かかる禁止がない場合と比較して,相対的に幾分かの安定効果を有するとしても,本件非係争条項はそれを達成する手段としては,過度に制限的であり,かつ「特許権の機能を不当に麻痺させるような」手段そのものであって容認されないことは自明である。
このように,本件非係争条項による安定効果は見せかけのものにすぎないから,かかる安定効果を前提とした競争促進効果などあり得るはずもなく,また,ウィンドウズシリーズと互換性のある製品の開発がなされていたとしても,それはパソコン用OS市場において被審人が独占的地位にあり,ウィンドウズシリーズがプラットホーム的機能を有することに起因するものであって,本件非係争条項との因果関係はないのであり,本件非係争条項には,競争促進効果は存在しない。
また,被審人が主張するように,本件非係争条項により,被審人がウィンドウズシリーズに係る情報を開示し,もって,新バージョンのウィンドウズシリーズのリリースに遅れないようにソフトウェアや周辺機器の市場展開の準備をさせることができたとしても,そのことは,被審人がウィンドウズシリーズの新バージョンを販売するに当たって不可欠なことであり,そのための情報提供を被審人が行うことは,OEM業者に対するサポートというよりも,むしろ,被審人自身のためのものであるから,本件非係争条項の有無にかかわらず行われるべきものであり,本件非係争条項による競争促進効果ではない。
9 排除措置の相当性(争点(9))について
(1) 被審人の主張
ア 本件非係争条項を独占禁止法違反とすることは,以下(ア)ないし(エ)に述べる理由から不当である。
(ア) 本件非係争条項は,特許権侵害訴訟に伴うリスクや,そうしたリスクを軽減するために必要な費用を軽減しつつ新技術を普及させるため,AV家電業界を含むテクノロジー関連企業一般において日常的に利用されている合理的な規定である。非係争条項はその定義上特許権侵害訴訟の提起を妨げるものであるから,抽象的な机上の議論では技術研究開発意欲に影響を及ぼすという可能性は常に生じることになる。したがって,そのような抽象的な可能性をもって直ちに違法と判断するのであれば,それは非係争条項そのものを原則違法としているに等しい。
しかしながら,上記のとおり,その目的において合理性があり,業界で広く利用されている非係争条項に対して違法の判断を行う場合には,これを違法とするだけの具体的な競争法上の理由が必要である。本件非係争条項が違法となる基準が明確とならない状態で本件非係争条項を違法とすると,非係争条項を利用してきた業界の混乱は必須であり,この影響は計り知れず,正当な知的財産ライセンス慣行に甚大な混乱が生じるおそれがある。
また,OEM業者は,過去長年にわたって本件非係争条項によって,特許訴訟を心配することなくビジネスを行うメリットを受けてきたのであり,OEM業者は本件非係争条項が自らはもとより他のOEM業者にも適用されることを期待していたのである。本件非係争条項を破棄させる命令は,こうした期待を損なうものである。
さらに,本件非係争条項は,ウィンドウズシリーズのライセンスと引換えに,OEM業者から提供される対価の重要な部分であり,本件非係争条項があったからこそ,OEM業者のロイヤリティを低くすることができたのであるから,審決によって過去にさかのぼって,本件非係争条項が無効となるのであれば,これまで本件非係争条項によって低いロイヤリティを享受したすべてのOEM業者のうち,本件非係争条項を無効としたい者は,ロイヤリティの優遇部分を被審人に対して返納しない限り不当である。
(イ) 競争法の執行において国際的ハーモナイゼーションへの配慮は必要であることは言を待たない。被審人は本件非係争条項を全世界で使用しており,また,非係争条項一般についても日本企業を含め全世界の企業がグローバルに使用している。こうした状況の下,競争当局は,同じ取引行為に対し法的原則を適用する場合不調が生じることのないようにすべきである。そうでないと,世界規模のいわゆるAV家電業界を含む企業は,法的基準に対応したライセンス業務や取引慣行を策定する上で不確実性に直面することとなる。
(ウ) 本件非係争条項は,平成16年7月31日以前において,欧米の競争法当局の調査を受けていたが,被審人は本件非係争条項の削除又は変更を要求されたことはなかった。また,本件非係争条項について欧米の競争当局が違法であるとの判断を行ったことはない。したがって,本件非係争条項が違法と判断されると,日本と欧米とで全く同じ非係争条項についての判断が正反対のものになる。
(エ) また,勧告書と同じような内容の排除措置命令が出た場合には,米国司法省との和解契約に基づく被審人と米国司法当局と米国競争法当局との間の義務と矛盾する。米国司法省との和解契約により,被審人は,大手OEM業者20社に対し統一的な条件でウィンドウズシリーズの使用をライセンスする義務を負っている。本社が日本にある一部のOEM業者との既に期限の切れた本件非係争条項を過去にさかのぼって削除するならば,上記統一条件によるライセンスの義務を負わせることを執行した米国競争当局の競争法執行との間に矛盾を生ぜしめる可能性がある。
イ また,本件非係争条項に何らかの問題があるとしても,日本におけるOEM業者の本件非係争条項への態度は様々であるから,こうした様々な業者について一律の解決は適当ではない。個々の会社が裁判所に訴えを提起して個別に解決を図るべきものであり,本件非係争条項について公正取引委員会が法を執行すること自体が不適切である。
(2) 審査官の主張
ア 審査官の承知する限り,本件非係争条項が競争法の観点から合法と確認されたことはない。
また,本件は,本件非係争条項が我が国のパソコンAV技術取引市場及びパソコン市場の公正な競争を阻害するおそれがあるとするものであり,本件以前に,他の市場において,当該国の競争当局によりどのような判断が下されたかは,本件とは関係がない。
イ 本件非係争条項によって公正な競争を阻害するおそれがあると認められるのであれば,被審人に対し独占禁止法を適用し,公正な競争を回復すべきことは当然である。かかる場合,仮に被審人が主張するような知的財産ライセンス慣行があったとしても,一般的な非係争条項に係る知的財産ライセンス慣行自体を違法とするわけではなく,知的財産ライセンス慣行があると信頼する他の事業者に不利益を生じさせるものでもない。
ウ 米国司法省との和解契約はOEM業者上位20社のみについて契約条項を統一のものとすることを求めているのであり,すべてのOEM業者に対してこれを求めるものではない。また,本件非係争条項を作成するよう義務付けられてもいない。さらに,OEM業者と個別交渉を行うこと自体は,米国司法省との和解契約においても禁じられていない。
第4 審判官の判断
1 公正競争阻害性の判断基準
(1) 独占禁止法第19条の解釈
独占禁止法第19条は,「事業者は,不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めているところ,同法第2条第9項第4号は,不公正な取引方法に当たる行為の1つとして,相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引する行為であって,公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち,公正取引委員会が指定するものを掲げており,これを受けて,一般指定告示第13項において,「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取引すること。」が指定されている。そして,同項に規定する「不当に」の要件は,独占禁止法第2条第9項が規定する「公正な競争を阻害するおそれ」(「公正競争阻害性」と呼ばれる。)があることを意味するものと解されている。
独占禁止法が不当な拘束条件付取引を規制するのは,競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは,相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからであり,拘束条件付取引の内容が様々であることにかんがみると,不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては,個々の事案ごとに,その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し,それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められるか否かを検討することが必要となる(前記資生堂事件判決及び花王事件判決参照)。
また,不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては,被審人が主張するような具体的な競争減殺効果の発生を要するものではなく,ある程度において競争減殺効果発生のおそれがあると認められる場合であれば足りるが,この「おそれ」の程度は,競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解すべきではなく,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して,公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である。
なお,被審人は,市場における自由競争機能が正常に機能している場合には,当該市場に対する介入は差し控えられるべきであり,また,被審人の行為は,競争促進効果を有するものであるから,公正な競争の確保を職務とする公正取引委員会が,文言それ自体が明確でない「おそれ」の段階で,し意的に公正競争阻害性の認定を行うことは,憲法違反になる等と主張するが,独占禁止法第19条が「公正な競争を阻害するおそれがある」場合を不公正な取引方法として違法とするのは,競争制限の弊害が現実に生じる萌芽の段階において,不公正な取引方法を規制し,よって実質的な競争制限に発展する可能性を阻止する等の趣旨を有するものであるから,その認定に当たって,公正な競争を阻害することの立証まで要するものではなく,公正な競争を阻害するおそれの段階をもって,不公正な取引方法に該当するか否かが判断されるべきである。さらに,被審人は,知的財産権のライセンスは競争促進効果を有するから,知的財産権に係る制約については,抽象的な競争阻害のおそれをもって断じることで足りるとすべきではない旨も主張するが,知的財産権のライセンスが一般的には競争促進効果を有することにより,独占禁止法第19条における公正な競争を阻害する「おそれ」についての解釈が左右されるものではない。
(2) 特許・ノウハウガイドラインについて
特許・ノウハウガイドラインは,非係争条項が不公正な取引方法に該当し,違法となる場合として,ライセンシーの特許権等の行使が制限されることによって「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合」を挙げる(特許・ノウハウガイドライン第4の3(6))。
特許・ノウハウガイドラインの当該部分は,特許又はノウハウのライセンス契約において非係争義務が課された場合の独占禁止法上の考え方等を記載したものであり,そこに記載された事案以外に独占禁止法違反に該当する場合があることを否定するものでないことは当然であるが,公正取引委員会は,自らの独占禁止法運用上の基準を明確にして,事業者の予見可能性と法運用の透明性を確保するために,運用指針としてガイドラインを作成・公表していること,そして,同ガイドラインが,公正取引委員会によって作成され,公表されることにより,取引社会における行為指針としての役割を果たしていることにかんがみると,同ガイドラインにおける記述は,本件における公正競争阻害性の認定においても尊重されるべきである。
ところで,被審人は,同ガイドラインの当該記載によれば,本件非係争条項の公正競争阻害性を判断するに当たっては,現実に,「ライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術開発を阻害『すること』」が不可欠な前提要件であるから,本件においては,本件非係争条項によって,現実にどのライセンシーのどのような研究開発の意欲をどのように損ない,どのような新たな技術の開発をどのように阻害『すること』になったのかという事実につき,主張・立証されることが必要であると主張し,これを裏付ける審第171号証の甲南大学法科大学院の根岸哲教授(神戸大学名誉教授,以下「根岸教授」という。)の意見書を提出する。
しかしながら,同ガイドラインの当該記載の文理自体から,被審人の主張するような解釈が必然的に導かれるというものではない上に,独占禁止法第2条第9項は,既に述べたように,一定の要件に該当する行為であって,公正な競争を阻害するおそれがあるものを不公正な取引方法と規定しているのであるから,同ガイドラインの解釈においても,当該要件に該当する行為により結果として公正な競争を阻害するおそれが認められれば,不公正な取引方法に該当するものとすべきであり,被審人が主張するように,ライセンシーの研究開発意欲を損ない,そして,新たな技術の開発を阻害することになったことについての立証がなければ不公正な取引方法に該当しないと解釈すべきではない。
(3) 結論
以上より,本件非係争条項により,公正な競争を阻害するおそれが生じたか否かを判断するに当たっては,特許・ノウハウガイドラインの記述を尊重しつつ,専ら公正な競争秩序維持の見地に立ち,被審人の行為の態様,競争関係の実態及び市場の状況等を総合考慮して,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して公正な競争を阻害するおそれがあるか否かの観点から検討することとなるところ,本件において,被審人がパソコン用OS市場における有力な地位を有していることを利用して,OEM業者に対して,不合理な内容である本件非係争条項の付された直接契約の締結を余儀なくさせ,その結果,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性が高く,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合には,被審人とOEM業者の間の本件非係争条項の付された直接契約の締結は,不当な拘束条件付取引に該当し,独占禁止法第19条に違反することとなる。
なお,被審人は,公正競争阻害性を判断する前提として,まず,検討対象市場を画定すべきである旨主張する。しかしながら,本件においては,本件非係争条項により,技術の研究開発意欲が損なわれ,公正な競争秩序への悪影響が及ぶおそれがあることが問題とされているのであるから,まず,どのような技術に係るOEM業者の研究開発意欲が損なわれる蓋然性があるか否かについて検討し,当該研究開発意欲が損なわれることにより影響を受ける取引市場を本件における検討対象市場として,その市場における公正な競争秩序への悪影響の有無を判断すべきである。
以上より,まず,本件非係争条項の適用範囲をみた上で,本件非係争条項の公正競争を阻害するおそれの有無について順次検討していく。
2 本件非係争条項の適用範囲
(1) 本件非係争条項の対象となる製品
ア 前記第1の6(2)ア(ア),同イ(ア)a(b)及び同イ(イ)によると,本件非係争条項の対象となる製品は,平成5年以降被審人によって使用を許諾された製品(以下「ライセンス対象製品」という。)であり,平成5年ころに許諾が開始された「Windows 3.1」以降のすべてのウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けているOEM業者にとってみれば,「Windows 3.1」,「Windows NT Professional」,「Windows 95」,「Windows 98」,「Windows 2000 Professional」,「Windows Millennium Edition」,「Windows XP Home Edition」,「Windows XP Professional Edition」,「Windows XP Media Center Edition」などのすべてのウィンドウズシリーズ(これには,「Windows Media Player」等のすべてのアプリケーションソフトウェアを含む。)が本件非係争条項の対象となる。
イ また,ライセンス対象製品がOEM業者の特許権を侵害している場合には,当該特許権侵害に係る発明又は特徴及び機能が,ライセンス対象製品の将来製品,交換製品又は後継製品(以下これらを併せて「後継製品等」という。)において使用されている場合には,後継製品等のライセンス契約に本件非係争条項が存在していなくとも,またOEM業者が後継製品等についてはライセンスを受けていなくとも,ウィンドウズシリーズについてライセンスを受けて,ライセンス対象製品を販売している限り,本件非係争条項の将来的効力により,OEM業者は,後継製品等に含まれる当該発明又は特徴及び機能に関しても,被審人等に対して特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
したがって,被審人が,OEM業者が特許権を保有する技術をいったんウィンドウズシリーズに取り入れたら,以後,当該技術がウィンドウズシリーズから削除されるということがない限り,OEM業者は,半永久的に,被審人等に対して特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
(2) 本件非係争条項が適用される特許権
ア 前記第1の6(2)ア(イ)によると,平成13年契約の本件非係争条項において,本件非係争条項が適用されるOEM業者の特許権は,直接契約の終了前に行われた発明及び直接契約の終了前にOEM業者が権利を保有又は取得している世界中のすべての特許権である。また,前記第1の6(2)イによると,平成14年契約以降の本件非係争条項においては,ライセンス対象製品により侵害されるOEM業者の特許権で,直接契約の終了前にOEM業者が保有し又は取得する世界中のすべての特許権がその適用対象とされる。
したがって,平成5年ころに許諾が開始された「Windows 3.1」以降のすべてのウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けているOEM業者については,本件非係争条項が付された最後の直接契約の契約期間終了時である平成16年7月31日までに取得し,「Windows 3.1」,「Windows NT Professional」,「Windows 95」,「Windows 98」,「Windows 2000 Professional」,「Windows Millennium Edition」,「Windows XP Home Edition」,「Windows XP Professional Edition」,「Windows XP Media Center Edition」などのすべてのウィンドウズシリーズにおいて利用されている技術に係るすべての範囲の特許権が本件非係争条項の適用を受けることとなる。
イ そして,直接契約は,前記第1の3(4)アのとおり,おおむね1年あるいは2年ごとに繰り返し締結される継続的取引契約としての性質を有し,実質的な契約期間は長期にわたるものであることに照らすと,本件非係争条項の対象となる特許権は,被審人が主張するような各直接契約の契約終了時までに取得した特許権に限定されるものではなく,後記4において認定するとおり,OEM業者が新バージョンのウィンドウズシリーズのライセンス契約を締結せざるを得ない以上,必然的に,OEM業者が各直接契約の終了時以降に取得するであろう特許権も含まれていくこととなる。
また,前記第1の2(3)及び(4)のとおり,被審人は,ウィンドウズシリーズにパソコン用OSとしての機能以外の機能を搭載し,これらの機能を拡張してきており,このパソコン用OSとしての機能以外の機能に係る特許権についても,本件非係争条項の対象となっていくのであるから,ある時点での直接契約のライセンス対象製品には含まれていなかった技術であっても,将来的にウィンドウズシリーズが拡張する可能性のある範囲における特許権も,本件非係争条項の対象の特許権に含まれていくこととなる。この点は,ソニーの知的財産戦略部統括部長である稲深思(以下「ソニーの稲」という。)が,「マイクロソフトコーポレーションのライセンスは,非係争条項の対象となる機能や技術の範囲が限定されておらず,Windows OSの機能拡張とともに,非係争条項の対象となる範囲がどんどん広がっていってしまうことに問題があると考えています。ここが最大の問題であり,他の非係争条項に相当する規定やクロスライセンス契約とは異質のものであります。」と述べるところである。(査第65号証)
なお,被審人は,ウィンドウズシリーズで利用されている技術については,特許法第29条第1項の要件を欠き,特許権を取得できないのであるから,本件非係争条項が将来の特許権について適用される余地は無い旨主張するが,前記第1の3(3)のとおり,被審人はすべてのライセンシーに対してウィンドウズシリーズのリバースエンジニアリングを禁止しており,また,後記3(3)のとおり,ウィンドウズシリーズの情報は開示されているものではないから,ウィンドウズシリーズに利用されるすべての技術について,必ずしも特許法第29条第1項の要件を欠くこととなるものではない。
(3) 特許権を行使できない相手方
OEM業者が特許権侵害訴訟の提起等をすることができない相手方には,前記第1の6(2)ア(ア),同イ(ア)a(c)及び同イ(イ)によると,被審人,被審人の関連会社のほか,これらのライセンシー,すなわちウィンドウズシリーズのライセンスを受けたOEM業者,システムビルダー,エンドユーザー等のすべてのライセンシーが含まれる。このため,本件非係争条項の適用を受ける特許権を保有するOEM業者は,競争者たるOEM業者等のウィンドウズシリーズの利用者に対して自社の特許権侵害訴訟の提起等をすることができない。
したがって,OEM業者の特許権に係る技術がウィンドウズシリーズにおいて利用された場合には,当該OEM業者以外のOEM業者は,被審人からウィンドウズシリーズのライセンスを受けるだけで,他のOEM業者が開発した技術を無償で利用することができることとなる。
なお,被審人は,本件非係争条項における非係争義務は,仮に本件非係争条項が特許権のグラントバックとして規定されていた場合には,被審人のライセンシーであるOEM業者に対しては,あえてライセンスを付与しなくても,消尽理論によって,当然特許権侵害の訴えを提起できなくなるような態様の利用方法である旨主張するが,本件非係争条項の権利行使の適用範囲を論ずるに当たって,グラントバックが実施された場合を仮定して比較することに意味があるものとは考え難い上に,そもそも,消尽理論とは,正当な権利者やそれからライセンスを受けたものが,ライセンスを受けた『物』を正規に流通に置いた場合,当該『物』に関しては特許権の行使は認められないというドクトリンと解釈されている(東京大学大学院法学政治学研究科の中山信弘教授(当時。以下「中山教授」という。)。査第121号証)ことからすると,前記第1の3(6)イのとおり,ウィンドウズシリーズとともに,多様な機能を実現するソフトウェアを搭載したパソコンを製造するというOEM業者の行為に必ずしも消尽理論が適用されるものとはいえない。
3 本件非係争条項の不合理性について
(1) 無償の特許ライセンスとしての性質
ア 本件非係争条項は,被審人のウィンドウズシリーズがOEM業者の特許権を侵害していたとしても,当該OEM業者による特許権侵害訴訟の提起等を阻止させるものであり,これにより,OEM業者が平成16年7月31日までに世界中で取得するすべての特許権を,事実上,一方的かつ無償で半永久的にウィンドウズシリーズにおいて利用させることを可能とさせる点で,無償の特許ライセンスとしての性質を有するものである。
このことは,次のような効果をもたらすものということができる。
(ア) 前記2(1)イのとおり,本件非係争条項は,ライセンス対象製品がOEM業者の特許権に係る技術を利用していた場合には,OEM業者は後継製品等に対しても,当該技術について特許権侵害訴訟の提起等を行うことができないのであるから,被審人はOEM業者の当該技術を後継製品等に承継させることにより,本件非係争条項の効力を長期間にわたり存続させることができる。
(イ) 前記2(2)ア及びイのとおり,本件非係争条項の対象となる特許権がOEM業者のパソコンに係る特許権に限定されていないのであるから,被審人は,OEM業者のあらゆる分野における特許権に係る技術を利用して,随時,ウィンドウズシリーズの機能を拡張し,当該ウィンドウズシリーズをライセンスすることによって,本件非係争条項の対象となるOEM業者の特許権の範囲を拡大することができる。
(ウ) 前記2(3)のとおり,OEM業者はウィンドウズシリーズのすべてのライセンシーに対して,特許権を行使することができなくなるため,OEM業者が開発したパソコンAV技術をライセンスしようとしても,ウィンドウズシリーズと重複するパソコンAV技術をパソコン製造販売業者等に供給する余地は著しく減少し,またOEM業者が開発したパソコンAV技術を自社のパソコンに使用して他のOEM業者のパソコンと差別化することも困難となる。
イ これに対し,被審人は,本件非係争条項により,OEM業者の特許権を自ら無償で利用でき,ウィンドウズシリーズの機能拡張を図ることを可能とする地位を取得するばかりでなく,被審人のすべてのライセンシーに対して,ウィンドウズシリーズが特許権侵害訴訟の提起等によって差止めを受けることのないというウィンドウズシリーズの安定性を無償で提供することが可能となるのであり,これはパソコン用OS市場及びパソコンAV技術取引市場における競争において,極めて優位な地位を被審人にもたらすものである。
(2) 本件非係争条項の不均衡性
以上より,本件非係争条項は,その適用範囲がウィンドウズシリーズに限定されているものであるとしても,OEM業者の保有する特許権を極めて広い範囲で,極めて長期間にわたり,事実上,一方的かつ無償で,被審人らに利用させることを可能とさせるという意味において,そして,被審人及び被審人のライセンシーに対して特許権侵害訴訟の提起等によって差止めを受けることがないという安定性を有したウィンドウズシリーズを提供することを可能とさせるという意味において,被審人とOEM業者の間で均衡を欠いたものである。
(3) ウィンドウズシリーズの技術情報の開示
もっとも,OEM業者が,ウィンドウズシリーズのライセンス契約を締結する際に,本件非係争条項の対象となるウィンドウズシリーズに関して,当該OEM業者の特許権の侵害の有無を確認することができ,これに基づき特許権の侵害を主張して契約交渉に当たることができたのに,それにもかかわらず,当該特許権について無償のライセンスとして機能することを認識し,あるいは認識し得た上で,本件非係争条項の付されたライセンス契約を締結したというのであれば,上記の不均衡をもって必ずしも不合理とはいえないと解する余地があるので,以下,この点について検討する。
ア 前記2(1)のとおり,OEM業者がウィンドウズシリーズのライセンスを受けた場合には,本件非係争条項によりOEM業者は当該ウィンドウズシリーズに係る特許権侵害を主張できないこととなる上,OEM業者がいまだライセンスを受けていないウィンドウズシリーズについても,本件非係争条項の将来的効力により,既にライセンス対象製品において利用されている技術に係る特許権については特許権侵害訴訟の提起等をすることができないのであるから,OEM業者が被審人に対して特許権侵害につき権利主張をすることができるのは,当該OEM業者の特許権が,ライセンスを受けようとするウィンドウズシリーズによって新たに侵害されていることをOEM業者が確認できた場合に限られることとなる。
そこで,検討するに,前記第1の6(3)によると,OEM業者は,パソコンAV技術の中核的技術である音声データや画像データの圧縮・伸長に関連する技術等について,OEM業者保有の特許権の被審人による侵害を懸念しているところ,音声データや画像データの圧縮・伸長技術のようなアルゴリズムが中心となる技術の場合は,そのソフトウェアが内部でどのような処理・演算をしているかが重要になるので,OEM業者は,人間が読み取れるような高水準言語やアセンブリ言語で書かれたプログラムであるソースコードを見ないと特許権侵害の有無を確認することはできない(査第66号証,稲深思参考人)こと,及び,前記第1の4のとおり,新バージョンのウィンドウズシリーズのライセンス前において,OEM業者が被審人より開示を受ける新バージョンのウィンドウズシリーズの情報は,主に新バージョンのウィンドウズシリーズのベータ版及びRC版であるところ,これはオブジェクトコードによる提供であり,ソースコードの提供は行われておらず,かつリバースエンジニアリング等のオブジェクトコードの解析等を禁止しており,また,ソースコード等を確認できないため,ウィンドウズシリーズによるOEM業者の特許権の侵害を短期間で完全に確認・立証することは極めて困難であること(査第60号証,第65号証,第78号証,第80号証,第81号証)が認められるのであるから,被審人は,OEM業者に対してライセンス契約が締結されるまでに,ライセンス対象製品となるウィンドウズシリーズに追加された技術が自社の特許権を侵害しているか否かを検証するに足りる情報を開示していなかったものと認められる。
そして,いったん当該ウィンドウズシリーズについてライセンス契約を締結すれば,OEM業者は,既に述べたように当該ウィンドウズシリーズにより侵害された特許権については権利主張をすることができないこととなるのであるから,その後において,多大のコストと時間をかけて権利侵害の有無について調査することは期待できない(査第60号証,第66号証,第78号証,第120号証)のである。
イ この点について被審人は,OEM業者に対して,特許権侵害の調査のために豊富かつ詳細な情報を早期に開示しており,OEM業者は,ライセンス契約を締結するに当たり,十分な時間的余裕をもって,新バージョンのウィンドウズシリーズの技術情報を検討することができ,また現に検討していたものであると主張し,これを裏付ける証拠として,審第137号証ないし第153号証を援用する。
しかしながら,前記第1の4(1)イによると,ベータ・プログラム等において被審人がOEM業者に提供した情報は,OEM業者が,ハードウェアが当該ベータ版などによって正常に作動するかどうかの確認作業を行うためであるから,これらの情報は,アルゴリズムが中心となる技術に関する特許権の侵害の有無を確認するに足りるものとは認められない。また,被審人が援用した前記証拠のうち,「Windows XP」に係る情報についての証拠となる審第137号証(Windows XPのベータ版の新規特徴を簡単に説明),審第147号証の1及び2(「WindowsXPは,高品質の音響・映像コンテンツの発見,ダウンロード,パーソナリゼーション,再生について最高の体験を提供します」との記載),審第148号証(Windows XPは,Windows Media Player 8の新しい特徴を提供していること,「Windows Media Player 8は,Windows MediaやDVDの映像を見ること,CDを再生・録音すること,Windwos Media及びMP3の音楽を再生すること,インターネットラジオを聴くこと,映像と音楽を一緒に機器に転送することなどをサポートする唯一の一体型デジタルメディア製品です。」等の記載),審第150号証(平成13年7月2日にRC版の提供が開始されたこと等の記載),審第151号証(平成13年3月に被審人が行った「Windows XP」に関するプレゼンテーション資料)をみても,被審人が開示した情報は,いずれも新しいウィンドウズシリーズである「Windows XP」がどのような特徴及び機能を有しているかについての説明にとどまり,どのような技術を用いて当該特徴及び機能を実現したかについての情報を提示するものではない。
なお,被審人は,各OEM業者,とりわけ松下電器産業,三菱電機及びソニーの各社は,自ら最先端のAV技術を盛んに開発し,AV技術に通暁していたのであるから,新バージョンのウィンドウズシリーズのAV技術に係る特徴及び機能を理解するに足る最高水準の知識及び分析能力を当然に有していたと主張するが,この点を考慮してもなお,被審人が提供した前記情報では,被審人に対して,特許権侵害を主張し,これを確認させるに足りる情報と認めることはできない。
また、被審人は,特許権侵害訴訟を提起する場合の情報としては,被審人がOEM業者に開示した情報で十分であり,また,ソースコードが開示されるか,リバースエンジニアリング等を行わなければ侵害が立証できないような特許権は,権利の行使が不可能又は著しく困難なのであって特許権者としては行使することが期待できないものである旨主張する。しかしながら,本件において被審人がOEM業者に開示した情報は,本件非係争条項を付する際の情報として不十分であることは,上記判断のとおりであり,また,権利の行使が実効を挙げ得るかどうかは,上記判断に影響しない。
ちなみに,被審人が,非係争条項が一般的に利用されている証拠として援用する審第172号証に引用された契約等や,「Mini Disc−MD Player and MD Recorder」に係る契約(査第65号証)は,下記「The GNU General Public License」を除くすべてが,特許権や特許製品に係るライセンス契約であるが,特許権に係るライセンス契約の場合はライセンスの対象となる特許権に係る技術自体が公開されるものであり,また,試験・研究発明のために特許製品の解析が自由であり,ライセンスの対象となった技術内容をライセンシーが確認することが可能である。さらに,ソフトウェアに関するライセンス契約である「The GNU General Public License」についても,ソースコードが公開されている(審第172号証)のであるから,非係争条項が適用されるべき技術内容はライセンシーの側にとっても認識可能であるといえる。ソースコードが開示されず,かつリバースエンジニアリング等によるライセンス製品の解析等が禁止された状況における本件非係争条項は,この点において,他の非係争条項との間に根本的な違いがあるというべきである。
(4) 結論
本件非係争条項は,OEM業者に対して特許権侵害の主張を可能とするための情報を開示しない状態で,前記(2)のとおり,極めて広い範囲にわたるOEM業者の保有する特許権を,極めて長期間にわたり,事実上,一方的かつ無償で,被審人らに利用させることを可能とさせるものであり,OEM業者と被審人間の均衡を欠いた不合理なものである。
なお,被審人は,直接契約においては,ウィンドウズシリーズに係る著作権だけでなく,その他の多様な機能に関わる被審人の特許権についても,不行使が黙示的に合意されていたのであるから,本件非係争条項は正に双務的であると主張する。また,直接契約がOEM業者に対してウィンドウズシリーズに係る知的財産権の使用をライセンスするものであるという基本的な構造及び被審人がOEM業者の特許権を基にウィンドウズシリーズ以外の製品のための技術を開発することは不可能であり,また将来に向けて使用することができないことにかんがみると,本件非係争条項を含む直接契約が,いわゆるクロスライセンス契約よりも均衡を失しているとはいえない旨主張する。しかしながら,本件非係争条項の不合理性は上記のとおりであるから,契約において本件非係争義務が双務的であるか,クロスライセンス契約と比して均衡を失しているか否か(なお,本件非係争条項がクロスライセンス契約より競争制限的であることは後記9において判断する。)は,上記の判断を左右しない。
さらに,被審人は,本件非係争条項が不合理な内容ではないとする理由として,本件非係争条項は,改良発明等の非独占的ライセンス義務をOEM業者に課していないこと,本件非係争条項の制約は一般的に使用されている非係争条項に比して限定的であること,本件非係争条項はOEM業者にグラントバック義務を課していないこと,本件非係争条項による制約は特許・ノウハウガイドラインの想定する非係争条項の制約に比べて著しく狭いこと等を主張するが,本件非係争条項が不合理であることの意味は,前述のとおりであるから,これら被審人の主張もまた上記の判断を左右するものではない。
4 OEM業者は,本件非係争条項が付された直接契約の締結を余儀なくされていたか否かについて
被審人がOEM業者に対してウィンドウズシリーズのOEM販売を許諾するに当たり,OEM業者は,前記のとおり不合理な内容である本件非係争条項の付された直接契約を受け入れざるを得ない状況にあったか否かについて検討する。この場合において,直接契約の締結を余儀なくされたか否かについては,被審人のパソコン用OS市場における地位及び代替手段の存否の観点から,客観的に判断されるべきである。
(1) 被審人のパソコン用OS市場における地位
ア 前記第1の2(2)のとおり,平成12年には,ウィンドウズシリーズが全世界におけるパソコン用OSの90パーセントを占め,年々その割合が増加しており,我が国のパソコン用OS市場におけるウィンドウズシリーズの占める地位がそのような状況の例外であるとうかがうべき事情はないから,OEM業者にとって,パソコン製造販売事業を継続するためには,ウィンドウズシリーズのOEM販売の許諾を受けることが必要不可欠であると認められる。
イ また,本件では,以下の(ア)ないし(ウ)の事実が認められ,これらの事実にかんがみると,OEM業者にとって,最新バージョンのウィンドウズシリーズの販売開始とともに,当該ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを販売していくことが,パソコン製造販売事業を継続していくために必要不可欠であることが認められる。
(ア) 日立製作所のグループ資材本部グローバル調達部ソフト・アライアンスグループ主任である大串克宣(以下「日立製作所の大串」という。)が,その供述調書において,「当社は,このバージョンアップに対応し,すなわち同じタイミングでWindows XPをプレインストールした新機種を即発売,つまり市場に投入してきております。これは,当社だけでなく競合する主要なパソコンメーカーも同じであります。」,「競合他社も即対応して新機種を投入するという市場環境の中では,当社だけが,仮に旧バージョンのOSを搭載し続けるという選択は取り得ないことであります。」(査第60号証)と述べ,また,OEM業者の多くが,新バージョンのウィンドウズシリーズの販売開始と同時期に当該ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを出荷していること。(査第63号証)
(イ) 「Windows 98」について,日経BP社,日経マーケット・アクセスが平成10年4月から5月にかけて実施した「Windows98乗り換え意向調査」によれば,ウィンドウズシリーズのエンドユーザーの約80パーセントは,新バージョンのウィンドウズシリーズの販売とともにウィンドウズシリーズを購入する予定であること及びそのうちの約39パーセントは,新しいハードウェアをも購入する意向を持っていることがうかがえるのであり(査第7号証),このような調査結果によれば,新バージョンのウィンドウズシリーズの販売開始は,OEM業者にとって,当該ウィンドウズシリーズを搭載したパソコンの商機であると認められること。
(ウ) 前記第1の4において認定したように,被審人は,新バージョンのウィンドウズシリーズの発売に先立って,新バージョンのウィンドウズシリーズの情報(ベータ版の提供等を含む。)をOEM業者等に開示しているが,これは,新バージョンのウィンドウズシリーズを搭載したパソコンを販売と同時に店頭販売させることを予定したものと考えられること。(査第60号証)
(2) 直接契約に代わり得るウィンドウズシリーズのライセンス契約の存否
ア OEM業者が本件非係争条項を含む直接契約の締結を余儀なくされていたと認められるには,直接契約と代替可能なOEM販売のライセンス契約が存在していないことが必要となる。そして,被審人は,直接契約に代わるウィンドウズシリーズのOEM販売のライセンス契約として,間接契約を挙げるので,以下,この点について検討する。
なお,この点を検討するに当たっては,OEM業者が競争力をもってパソコン製造販売事業を継続することが可能となる代替手段かの観点から検討すべきである。間接契約を選択した場合に,OEM事業を継続することが困難となるのであれば,OEM業者にとって,事実上,直接契約以外の選択は不可能となるからである。
イ マイクロソフト株式会社のシステムビルダーグループ シニアマーケティング スペシャリストである森洋孝の供述(査第5号証)によると,①システムビルダーとは,ウィンドウズシリーズのライセンスを受けている自作パソコンユーザー向けにパソコンショップを秋葉原等で展開しているパソコンメーカーのことと認識されていること,②間接契約は,規模の小さいパソコンメーカーがウィンドウズシリーズを簡単に手に入れて使用することができるように,契約内容が複雑な直接契約とは別に設けられている契約形態であること,③システムビルダーの中には,第1の3(5)エのなお書きに記載されたOEM業者以外には,主要なパソコン製造販売業者は存在していないこと及び④被審人は,社内文書において,ブランド名を付したパソコンを製造する計画がなく,リカバリーディスクを作成する等の技術的能力がない場合などは,システムビルダーからOEM業者への移行が適当ではないとしていることが認められ,これらの事実に照らすと,被審人においても,OEM業者は,OEM業者のブランド名を冠したパソコンを大量に製造販売し,リカバリーディスクを作成できる技術的能力のある大手のパソコン製造販売業者であり,システムビルダーは,ウィンドウズシリーズを自社が販売するハードウェアにプレインストールして販売する小規模のパソコン製造販売業者であると認識していたことが認められる。
また,OEM業者は,前記第1の3(4)ウのとおり,いずれもそのブランドに顧客誘引力のある主要なパソコン製造販売業者であり,また,数多くのアプリケーションソフトウェアをウィンドウズシリーズ上に搭載した状態でパソコンを販売し(査第56号証),上記のとおり,リカバリーディスクを作成する技術力を有する企業であることを考慮すると,一般消費者においても,システムビルダーとOEM業者は明確に区別されていたものといえる(被審人のホームページには,「Windows XP」を購入する方法として,システムビルダーによる販売の場合とOEM業者が販売する場合について,購入方法が分けて説明されている(査第28号証)が,このことも一般消費者にとっても両契約が区別されていることを裏付けるものである。)。
さらに,直接契約と間接契約には,前記第1の3(6)において認定した各相違点が存在するところ,OEM業者の東芝がその報告書(査第44号証)において,被審人の販売代理店からシステムビルダーパックを購入する場合,ロイヤリティの金額は直接契約に基づく場合に比べて約1.5倍程度の上昇が推定され,競合するパソコン製造販売業者との価格差を勘案すると,この価格上昇はパソコン事業として甘受できない程度のものである旨述べるように,多くのOEM業者は,この価格差のため,直接契約から間接契約に切り替えることは,市場における競争力の低下に直結すると考えており(査第46号証ないし第48号証,第50号証ないし第53号証の1及び2,第60号証,第61号証,第102号証,第103号証),また,複数のOEM業者が,間接契約の短所としてリカバリーディスクをエンドユーザーに提供できないことを挙げていること(査第45号証,第47号証,第48号証,第50号証,第52号証,第60号証,第61号証)にもかんがみると,OEM業者にとって,間接契約によるOEM販売は,パソコン製造販売における競争力を著しく減殺し,よって,OEM販売によるパソコン製造販売事業の継続を困難なものにするものと認められる。
ウ 被審人は,OEM業者が間接契約を選択した場合には,本件非係争条項の適用を受けず,したがって,ウィンドウズシリーズが当該OEM業者の特許権を侵害していた場合には収入を確保できること,また,リカバリーディスクの有無やプロダクトアクティベーションにおけるその他の差異は,いずれも軽微な差異であることから,間接契約が現実的な選択肢ではないとは到底言い得ない旨,また,OEM業者は,直接契約では特許権侵害訴訟等の提起をすることができなくなることを踏まえた上で,合理的なビジネス上の判断として間接契約ではなく直接契約を選択したのであるから,直接契約の締結を余儀なくされてはいなかった旨主張する。
しかし,前記(1)に述べたウィンドウズシリーズのパソコン用OSに占める地位と上記ア及びイに述べた直接契約と間接契約の差異に照らすと,事業戦略におけるビジネス判断において,特許権を侵害されていた場合の損害賠償請求権を考慮して契約方法を取捨選択するのが通常であるとは考えられない上,そのような選択は,侵害されている自社特許権の内容をOEM業者が知っている場合に初めて可能なものであるが,被審人はこのための情報を開示していなかったことは前記3(3)のとおりである。また,前記第1の3(6)において認定したように,直接契約によるロイヤリティと間接契約によるロイヤリティの価格差に加えて,間接契約による場合には,リカバリーディスクもなく,プロダクトアクティベーションの実施も必要となり,エンドユーザーに対して利便性が損なわれたパソコンしか提供できず,その上,被審人の販売代理店からウィンドウズシリーズが格納されているCD3枚が入った「システムビルダーパック」を購入して,これをインストールすることになるが,大量のハードウェアにウィンドウズシリーズを搭載する方法として,これは極めて非効率な方法であること等をも考慮すると,直接契約と間接契約における差異は甚大である。
したがって,被審人のこれらの主張は,採用できない。
(3) 本件非係争条項の削除の可能性等
ア 削除の可能性
被審人は,OEM業者との交渉におけるOEM業者の要請に応じて本件非係争条項を頻繁に修正してきており,OEM業者が真摯に交渉すれば本件非係争条項は削除されたと主張する。
しかし,前記第1の6(3)において認定したところによれば,被審人が行った本件非係争条項の修正は,いずれも本件非係争条項が有する事実上の無償のライセンスとしての性質を失わせない範囲内のものであり(前記第1の6(3)掲記の各証拠,審第48号証),これを超えて本件非係争条項の削除の可能性をうかがわせる事情は認められない。
また,被審人のOEM営業本部の制度・ポリシーグループのゼネラル・マネージャーであるダイアン・ディアカンジェロから被審人のOEM営業本部においてアジア地域を担当するゼネラル・マネージャーであるジョー・ウィリアムス(以下「被審人のウィリアムス」という。)にあてた平成15年9月17日付け電子メール及び被審人のウィリアムスからマイクロソフト株式会社のOEM営業担当者にあてた同日付け電子メール(査第4号証)によると,被審人の経営トップレベルでの承認が得られない限り,本件非係争条項を削除することは極めて困難であったことが認められ,さらに,マイクロソフト株式会社のOEM営業本部執行役本部長である香山春明も,平成15年9月の時点において,被審人のウィリアムスから本件非係争条項については変更するつもりはないと聞いていたと供述していること(査第4号証)からすると,被審人自身も,本件非係争条項の削除は,OEM業者の真摯の交渉をもってしても困難であるとの認識を有していたと認められる。
さらに,前記第1の6(3)ア(ア)d,同エ,同ク及び同ケによると,クロスライセンス契約が締結された場合には、直接契約から本件非係争条項が削除されていることが認められるが,後記イで述べるように,クロスライセンス契約が締結された例は,平成12年ころより前のことであり,また前記3(3)において認定したところに照らせば,それ以降においてクロスライセンス契約が可能となるのは,新バージョンのウィンドウズシリーズに新たに付け加えられた「特徴及び機能」に関して特許権侵害を明白に立証できるだけの根拠となる資料が存在した場合に限られるものとうかがわれ,この点については,三菱電機の知的財産渉外部第3グループに所属する浜田文子(以下「三菱電機の浜田」という。)が,「平成14年に,合法性が疑わしいこと,アンフェアな条項である等と概念的な指摘をして交渉した結果,マイクロソフトは非係争条項を一言一句変えないというスタンスであったので,今度マイクロソフトに対して非係争条項について交渉するとすれば,そのような概念的な指摘ではなく,具体的に当社の特許が侵害されていることを示す確固たる証拠を持って交渉に臨まなければ,進展しないと考えている」と供述しているとおりである。(査第78号証)
イ クロスライセンス契約
被審人とクロスライセンス契約を締結したOEM業者には,富士通,HP,IBMがあるが,前記第1の6(3)エ,ク及びケによると,それぞれが被審人とクロスライセンス契約を締結したのは,IBMについては平成4年,富士通については平成5年,HPについては平成8年(平成14年の契約は,平成8年の契約を実質上継続したものである。)であり,いずれも本件非係争条項が導入された時点又は導入初期の段階においてである(被審人は,デルとの間でもクロスライセンス契約を締結しているが,審第30号証によると,これも平成7年である。)。
一方,多くのAV技術に関する特許権を保有するOEM業者が,被審人に対し,本件非係争条項の問題点を指摘して,本件非係争条項の削除を求めたのは,ウィンドウズシリーズのAV機能が拡大した平成12年ころ以降である。そのころには,前記第1の2(3)及び(4)イ(ウ)によると,ウィンドウズシリーズに,パソコン上においてAV機能を実現する「Windows Media Player 6」が既に搭載されており,OEM業者は,「Windows Media Player 6」が有するAV機能については,これに係る特許権についての侵害を被審人らに主張することができなくなっていたのであるから,被審人にとって,これらOEM業者らとクロスライセンス契約を締結する必要性に乏しくなっていたものとうかがわれる。
また,ソニーが,本件非係争条項における被審人との交渉において,本件非係争条項に同意しない場合の支払条件や価格について問い合わせたところ,被審人からは,(クロスライセンス契約ではなく)間接契約を締結することのみを提案された(査第65号証)ことに照らすと,平成12年ころまでに本件非係争条項を受け入れていたOEM業者にとって,本件非係争条項の受け入れを拒絶するためには,間接契約の選択しかなかったと推認される。
さらに,被審人は,特許権侵害の疑いを有するOEM業者との交渉に時間が必要な場合には,スタンドスティル契約のような暫定的な契約をしてウィンドウズシリーズのライセンスを受けることができたと主張し,被審人のリーガル・アンド・コーポレート・アフェアーズ部門の社内弁護士であるデビット・ウィルソン(以下「被審人のウィルソン」という。)も,自らの陳述書において,OEM業者の一つであるサムスンと締結したスタンドスティル契約は,サムスンが将来のウィンドウズシリーズに対する特許権を主張する権利を放棄することなく「Windows XP」をライセンス期間の満了まで頒布することができるものであり,これにより,サムスンと被審人は,サムスンの特許権侵害の懸念について議論する時間的余裕をもたらし,本件非係争条項の特許ポートフォリオへの影響を理解することができた旨陳述する(審第170号証の1及び2)。しかしながら,被審人からOEM業者であるサムスンに対する平成13年8月31日付け電子メール(審第71号証の1)及び平成14年3月11日付け書面(審第71号証の2)によると,被審人の主張するスタンドスティル契約は,サムスンが主張する「Windows XP」の特許権侵害について被審人が検討するために,「Windows XP」について6か月間のライセンスを付与するというものにすぎず,しかも,特許権侵害についての被審人の検討結果,サムスンは,過去に締結した直接契約の本件非係争条項によりサムスンが「Windows XP」について当該特許権の侵害を主張できない,又は「Windows XP」はサムスンの特許権を侵害していないことが判明したという回答を受けたにすぎなかったのであるから,スタンドスティル契約により,本件非係争条項の削除がもたらされた可能性が生じるものとは認められない。
(4) 結論
前記(1)ないし(3)のとおり,OEM業者は,パソコンの製造販売事業を継続するために,新バージョンのウィンドウズシリーズについて直接契約によってOEM販売の許諾を受けざるを得ない状況にいたのであるから,OEM業者は,不合理な本件非係争条項の付された直接契約の締結を余儀なくさせられていたものと認められる。
なお,被審人はパソコン用OS市場における市場占有率は,公正競争阻害性の成否と直接の関係を有しない旨主張するが,前記(1)で述べたとおり,OEM業者がパソコン製造販売事業を継続するためは新バージョンのウィンドウズシリーズのライセンスを受けるほかない地位にいたことが,直接契約によるライセンス契約の締結を余儀なくされていたことの内容であるから,被審人のパソコン用OS市場における市場占有率は,公正競争阻害性の認定に関わる重要な要素である。
5 平成16年7月31日以前において,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性について
(1) はじめに
自由な競争は,様々な種類の機能をもった新規のより性能のよい製品の出現を促すものであり,また,多種多様な機能を有する製品の出現は,経済活動の活発化をもたらすとともに,消費者の選択の幅を広げる。そして,多種多様な機能を有する製品の出現を促す自由な競争が維持されるためには,これらの技術を開発する能力を有する者の技術の研究開発のインセンティブが機能し,研究開発意欲が損なわれない状態であることが肝要である。
以下,本件非係争条項により,主要なパソコン製造販売業者であり,かつAV技術を保有するOEM業者のパソコンAV技術に関する研究開発のインセンティブ,すなわち,OEM業者のパソコンAV技術に関する技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性の有無について検討する。
(2) 研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性
ア 前記3(1)アにおいて認定したように,本件非係争条項は,その将来的効力により,本件非係争条項の対象となる製品がライセンス対象製品のみならず将来製品にも及び,かつ,極めて長期間にわたり,さらに,ウィンドウズシリーズの機能の拡張に伴い,広範な特許権が将来的に無償ライセンスの対象となっていく可能性があるところ,①ウィンドウズシリーズはパソコンOS用市場において,平成15年当時においては94パーセントという高い市場占有率を有していることから,いったんOEM業者の特許権に係る技術がウィンドウズシリーズに取り入れられてしまった場合には,パソコンを利用するほとんどすべての者が当該OEM業者の特許権を利用することができることになり,OEM業者は自社のパソコンAV技術を第三者に許諾するという方法で技術開発の対価を回収することが困難となること,②これらの特許権を利用できる者の中には,当該特許権を開発したOEM業者の同業者である他のOEM業者も含まれているため,OEM業者は自ら開発したパソコンAV技術を第三者に許諾せず自社製品のみに利用して自社製品を差別化するという方法を選択することも困難となること,③前記3(3)において認定したとおり,ウィンドウズシリーズの技術情報の開示が不十分であって,OEM業者にとって,自社の特許権がウィンドウズシリーズにおいて利用されているかが不明であり,契約締結時の交渉において特許権侵害の主張を被審人に対して行うことができないこと,そして④被審人は前記第1の2(4)のとおりウィンドウズシリーズのAV機能の拡張・強化を行っており,本件非係争条項については,複数のOEM業者が,本件非係争条項が自社のパソコンAV技術に係る特許権に影響を与える旨の懸念(松下電器産業はAV技術特許全般についての懸念,ソニーは「MPEG−1」,「MPEG−2」,「IEEE1394」関連の標準規格,「MPEG−4」のAV標準規格,デジタルビデオ放送標準規格及びマルチメディアプラットホーム標準規格についての懸念,東芝は「IEEE1394」関連の標準規格,「MPEG−2」のAV標準規格及び「MPEG−4」のAV標準規格についての懸念。被審人準備書面(3)別紙1事実供述書(2))を表明して,被審人に対してその削除を要求していたことからも,OEM業者は,現実にも,パソコンAV技術についてウィンドウズシリーズに取り込まれる可能性を認識しつつ,パソコンAV技術を開発しなければならない状況にあったと認められる。
これらにかんがみると,本件非係争条項の付された直接契約の締結を余儀なくされることは,OEM業者によるパソコンAV技術の研究開発の意欲を妨げることになるものと推認することができるというべきである。このことについては,中山教授がその意見書(査第121号証)において,「特許制度とは,良い発明をなした者に対して,特許権という独占的利用権を与えることにより,新たな発明へのインセンティヴを図ることを目的としている。」「優れた発明をした者には何らかの利得を与え,それを開発へのインセンティヴとする,というのが特許法の趣旨である。」「MSの対象商品の場合には,MS一社が頂点にあり,当初から特許権や著作権による囲い込みを前提にビジネスが行われている。このような状況の下においては,OEM業者としては自己が有する特許権を最大限に活用できるという保証がないと,特許法の機能は喪失し,OEM業者自身による技術開発への投資インセンティヴが減殺されてしまうこととなる。」と述べるところが妥当するものというべきである。
イ そして,一般的に,事業者が技術の研究開発の意欲を損なうとは,当該技術についての資本の投下を減縮することを意味するものであり,これにより,当該技術分野における研究開発が不活発となり,新規技術や改良技術の開発の停滞をもたらすおそれが生じる。特に,前記第1の5(1)において認定したとおり,我が国における15社のOEM業者の中には,有力なAV技術を保有するOEM業者が数多く存在することにかんがみると,このような有力なAV技術を保有するOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれ,当該技術に対する資本の投下が減縮されると,パソコンAV技術に係る新規製品,新技術及び改良技術等の出現が妨げられるおそれは容易に推認されるところであり,この点は,査第53号証の1及び2において,IBMが「技術革新の成果が非係争条項のもと無料でライセンスされるとなると,研究及び開発に注がれるインセンティブの低下からくる定量化できない費用が発生します。」と述べていること,査第59号証の1及び3において,HPが「HPが研究開発費用に対して合理的なリターンを得ることができない場合,HPは将来,当該事業を革新するのを止めることになります。」と述べていること等からも裏付けられる。
なお,被審人は,本件非係争条項の公正競争阻害性を認定するには,本件非係争条項によって,現実にどのライセンシーのどのような研究開発の意欲をどのように損ない,どのような新たな技術の開発をどのように阻害することになったかに係る事実につき主張・立証されることが必要と主張するが,前記1(1)において述べたとおり,公正競争阻害性の認定においては,公正競争を阻害するおそれの有無が問題となるのであるから,新製品の開発を断念したことまでも主張・立証される必要はない。
ところで,審査官は,本件非係争条項により,本来得られるはずのライセンス収入を得ることができず,これを将来の技術開発投資に配分できず,技術開発の循環システムに支障を生じさせることも技術研究開発意欲が損なわれることに当たると主張する。
証拠(査第120号証,加藤恒参考人,稲深思参考人,實方秀樹参考人)によれば,三菱電機,ソニー及び松下電器産業においては,ライセンス収入の一定割合が技術開発の投資に充てられるシステムを採っていたことが認められ,このようなシステムが各OEM業者に一般的に採用されていたかどうかは明らかではないものの,少なくとも,ライセンス収入の多寡が当該技術部門に係る技術開発の資金の多寡に影響を及ぼすであろうことは容易に推測できるところであるから,審査官の上記主張は,その限度において妥当するものというべきである。
(3) AV技術としての利用について
ア 被審人は,パソコンAV技術はAV技術と同一であり,OEM業者は他のAV製品にAV技術を利用することができるのであるから,本件非係争条項によってパソコンAV技術の研究開発意欲は損なわれないと主張し,また,慶應義塾大学環境情報学部の武藤佳恭教授は,「パソコンAV技術は,DVDプレーヤーやハードディスクレコーダなどパソコン以外の家電製品やネット家電製品にも広汎に利用されるもので,パソコンのみもしくは主としてパソコンに使用される技術はほとんどない」ということができ,「パソコンの市場に比べて,他のAV家電製品の市場規模はブロードバンドの急速な発展とともに非常に拡大しており,パソコン以外のAV家電製品やネット家電製品に対して特許権を行使できるならば仮にパソコンAV技術に対して特許権を行使できないとしても,特許の取得ないしその基礎となる技術開発に対する意欲が損なわれるとは考えられない。」との意見を述べる(審第162号証の1)。さらに,東京大学の白石忠志教授は,本件は,AV技術を開発しようとする者が,パソコン用では研究開発意欲を損なわれ,パソコン以外の一般的機器用では研究開発意欲を損なわれない,ということがあるかどうかが問題である旨の意見書(審第178号証)を提出する。
イ 確かに,前記第1の5のとおり,パソコンAV技術とは,AV技術を含むものである。例えば,パソコンAV技術である音声データ又は画像データの圧縮・伸長技術には,「MPEG−2」や「MPEG−4」等の様々な種類の「MPEG」規格と,被審人が開発した「Windows Media Technologies」に含まれる「Windows Media Audio」及び「Windows Media Video」等が存在するが,稲深思参考人が「パソコンに使われるAV技術というのは,パソコンだけに使われるものもあるかもしれませんが,多くの場合は,その技術はほかの製品に共通に使われるものだと思います。」と述べるとおり,これらの「MPEG」規格や「WMA」等の音声データ又は画像データの圧縮・伸長技術は,AV家電機器及びパソコンの両者に利用される基本技術である。(稲深思参考人,加藤恒参考人)
ウ しかしながら,パソコンAV技術がAV家電機器にも利用される技術であり,パソコンAV技術が利用される可能性のあるAV家電製品の市場規模が巨大であったとしても,パソコン市場において当該技術を利用できなくなる可能性があることは,そのような可能性が存在しない場合に比べて,事業者の研究開発資金の投入の程度に差異が生じるであろうことは当然予想されるところであり,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性を覆すものとはならない。
そして,本件において研究開発意欲が損なわれることが問題とされるパソコンAV技術に係るパソコン市場の市場規模は,約1.6兆円であり,AV家電機器市場の市場規模である約2.3兆円に比べても相当程度の大きな市場規模を有するものであること(審第162号証の4)並びに加藤恒参考人,稲深思参考人及び實方秀樹参考人が,パソコン市場において各社が保有するパソコンAV技術に係る特許権の使用を許諾するとしたらそのロイヤリティとしても,年間数十億円以上の収入を見込めたであろうと供述していること,ソニーの稲が,平成14年に本件非係争条項によりソニーの損害として平成14年にウィンドウズシリーズがインストールされたパソコンに使われた特許権のロイヤリティを算定すると13億米国ドルが損害となる旨供述していること(査第66号証)に照らすと,パソコンAV技術に対する企業の資本の投下金額も本件非係争条項が存在するか否かによって影響されることが推認され,パソコンAV技術に係る研究開発意欲が損なわれる蓋然性があるものと認められる。
くわえて,①被審人が開発したパソコンAV技術である「Windows Media Technologies」は,MPEG−4等のAV機器にも使用されるパソコンAV技術を基本として,これに被審人独自の技術が加えられたものと理解されており(加藤恒参考人,實方秀樹参考人),パソコンAV技術にはAV家電機器にも利用される技術のほかにパソコン用途向けの技術も存在すると推認されること,②前記第1の5(1)イ及び加藤恒参考人によると,「MPEG」のパソコンAV技術の中でも,「MPEG−4」は,圧縮率を高めたり,圧縮するアルゴリズムの負荷を軽減することによってソフトウェアの中に取り込みやすくしたという特徴をもつ規格であることから,多種多様なAV技術の中には,パソコン用途向けに適したAV技術やAV家電機器向けに適したAV技術が存在することが認められること,また,③加藤恒参考人が,パソコンAV技術の一種であるコーデック技術について今後利用範囲を広げる技術が重要となっていくと供述していることから,AV技術の中にも用途に特化した技術開発が行われていることがうかがわれることなどに照らし,パソコン用に特化したAV技術が少なからずあるものと認められ,このような技術の分野においては,被審人の前記アの主張が当たらないことが明らかである。
したがって,パソコンAV技術の多くがAV家電機器においても使用することができる技術であったとしても,このことをもってパソコンAV技術に係る研究開発意欲が損なわれる蓋然性が否定されるものではない。
(4) その他の被審人の反論
ア 被審人は,被審人がウィンドウズシリーズに新しいAV技術を搭載し,第三者がこれを利用できるようにすることにより,OEM業者は新しいパソコンAV技術についての開発を促進されたのであり,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれるということはないと主張する。しかしながら,本件では,前記のとおり,ウィンドウズシリーズにおける「Windows Media Player」が実現するAV機能に対抗することのできるパソコンAV技術の新技術あるいは改良技術についてのOEM業者の研究開発意欲が損なわれるか否かが問題なのであるから,この被審人の主張は,前記の判断を左右するものではない。
イ 被審人は,OEM業者はパソコンAV技術の研究開発を活発に行っており,本件非係争条項を理由にそれを断念したことはない,また,現実にOEM業者は活発な研究開発を行っており,研究開発意欲の減殺などは発生していないし,特定のプロジェクトあるいは新製品の開発が停止したことが主張されてもいないと主張する。しかしながら,前記1(1)のとおり,不公正な取引方法の認定に当たっては,研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性が認められ,公正競争を阻害するおそれが認められれば足り,研究開発が具体的にどのように減殺されたかまで立証される必要はないのであるから,被審人の主張は採用できない。
なお,OEM業者がパソコン用途のAV技術の研究開発を活発に行っていることを認めるに足りる証拠はない。
ウ 被審人は,本件非係争条項は,OEM業者の特許権へのフリーライドを目的とするものではなく,他社の特許権に係る発明を使用して新バージョンのウィンドウズシリーズを開発する場合には,当該特許権の保有者が当該ウィンドウズシリーズについて直接契約を締結することが見込まれるか否かにかかわらず,当該特許権保有者から,長年にわたりライセンスを受けロイヤリティを支払っている旨主張するが,被審人の意図するところが何であったかはOEM業者の研究開発意欲が損なわれるおそれの認定を左右するものではなく,また,被審人が他社の特許権に係る発明を使用して新バージョンのウィンドウズシリーズを開発する場合はライセンスを受けていたとしても,当該特許権のライセンス契約を締結する場合もあったというだけにすぎず,OEM業者の研究開発意欲の阻害のおそれを否定するものとはならない。
(5) 結論
以上より,平成16年7月31日以前における本件非係争条項によって,OEM業者のパソコンAV技術に対する研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性があったものと認められる。そして複数のOEM業者がウィンドウズシリーズによるパソコンAV技術に係る自社の特許権侵害の懸念を指摘して,被審人に対してその削除を強く要請したのは,被審人が「Windows XP」を販売開始した平成12年ころ以降であること(前記第1の6(3),査第65号証)にかんがみると,遅くとも平成13年1月1日ころから,OEM業者のパソコンAV技術に関して,研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性があったものと認められる。
6 平成16年8月1日以降におけるOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が阻害される高い蓋然性について
(1) はじめに
平成16年8月1日以降に被審人とOEM業者間で締結される直接契約からは本件非係争条項が削除されたことにより,OEM業者が同日以降研究開発するパソコンAV技術については,これが将来的にウィンドウズシリーズにおいて利用されることによって,当該パソコンAV技術に係る特許権の侵害を主張することができなくなるという平成16年7月31日以前にOEM業者が有していた懸念の一部は一応解消されたとみることができる。
しかしながら,前記5において認定したとおり,平成16年7月31日以前における本件非係争条項の存在により,平成13年1月1日以降平成16年7月31日までの長期間にわたり,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性が存在し,その結果,パソコンAV技術に係る新規技術や改良技術及びその技術に係る製品の出現などが妨げられていたおそれがあること,また,平成16年8月1日以降であっても,本件非係争条項の将来的効力により,平成16年7月31日以前のライセンス対象製品から継承された機能及び特徴部分については,平成16年8月1日以降に使用許諾されるウィンドウズシリーズについても,本件非係争条項の効力が及ぶことを考慮すると,本件非係争条項が直接契約から削除されたことから,直ちに,OEM業者のパソコンAV技術に係る研究開発意欲が損なわれる蓋然性が消滅し,OEM業者のパソコンAV技術に係る資本投下の縮減が回復され,パソコンAV技術に係る研究開発が活発化するものということはできない。
そこで,以下,平成16年8月1日以降においてOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性が消滅したか否かについて,平成16年8月1日以降におけるOEM業者の認識及びパソコンAV技術取引市場の状況等を勘案の上,判断することとする。
(2) ウィンドウズシリーズに係るOEM業者の特許権侵害の認識
ア 平成16年7月31日以前に本件非係争条項の対象となったウィンドウズシリーズについて,OEM業者のパソコンAV技術に係る特許権侵害についての各OEM業者の認識は,以下のとおりである。
(ア) 松下電器産業は,自社のパソコンAV技術の中核的技術が,平成12年ころには既に「Windows Media Technologies」に取り込まれている可能性が高いと認識していた。(査第120号証,實方秀樹参考人)
また,松下電器産業は,被審人が標準化を意図して仕様を公開した「Windows Media Technologies」の一部を構成する「Windows Media Video 9」(VC−1)のデコーダの公開された仕様を調査した結果,松下電器産業が保有する特許権26件を侵害している可能性が高いことを認識した。(査第50号証)
(イ) ソニーは,平成15年6月19日ころに実施した調査により,「Windows XP」の音声データ及び画像データの圧縮・伸長機能などの基本的なAV機能に係る自社の特許権の侵害について,「実施」が9件,「有用」(実施の有無は確認していないが,この技術分野では使う可能性が高い特許)が115件,また,「Windows XP Media Center Edition」に搭載されたDVDビデオ,電子番組表及びパソコンでテレビ番組を録画等できるパーソナル・ビデオ・レコーダー機能の拡張AV機能に係る自社の特許権(ATRAC3を構成する特許権等)の侵害について,「実施」が21件,「有用」が103件存在するとの認識を有していた。(査第66号証,第116号証,稲深思参考人)
(ウ) 三菱電機は,「MPEG−4」に係る特許権を保有しているところ,当該特許権はどのような画像データの圧縮技術であろうと使用されると思われる中核的な部分の発明であるため,自社の特許権がウィンドウズシリーズにより侵害されている可能性があると認識していた。(査第78号証,加藤恒参考人)
イ そして,前記OEM業者の認識を裏付けるものとして,以下の事実が認められる。
(ア) 「Windows Media Technologies」は,「MPEG−4」規格を基本として,被審人独自の技術が付加されたものと一般的に理解されていたこと。(加藤恒参考人)
(イ) 前記第1の5(3)アのなお書きのとおり,「Windows Media Video 9」は,後に「VC−1」と改称され,「MPEG LA」のパテントプールの対象となったこと,「MPEG LA」が2004年3月にこれを公表して,ライセンサーとなる技術を保有している者を募ったところ,「VC−1」として開発されるであろうパテントプールの基本特許を保有する者として12の企業が名乗りを上げたこと。(審第130号証)
(ウ) 「VC−1」の必須特許の保有者は,被審人のほか,OEM業者である富士通,松下電器産業,三菱電機,シャープ,ソニー,東芝及び日本ビクターの7社が含まれており,「MPEG−4 Visual」,「MPEG−4 AVC/H.264」,「VC−1」を構成する必須特許には,富士通の「US 5,235,618」など,複数の共通する特許権が使用されていること。(審第219号証,第221号証,第222号証)
(エ) 稲深思参考人が,「VC−1」が,「Windows Media Video 9」と同じ内容を含んでいるのであれば,ソニーの特許権を侵害していると確定できる旨述べていること。(稲深思参考人)
(オ) 三菱電機の浜田の供述調書(査第78号証)によると,被審人は,本件非係争条項の削除に関する交渉時において,「MPEG-4」規格の特許を使っていないと主張していたことが認められるが,その後,被審人は,平成11年から「MPEG-4 Visual」をウィンドウズシリーズに搭載していたことを認めていること。(査第153号証の1及び2)
(カ) 「VC−1」のロイヤリティは,平成18年1月1日から支払が開始されたが,被審人については,別途締結された契約により,同日以前の期間についても,さかのぼってロイヤリティを支払うこととされたこと。(審第183号証)
ウ 以上ア及びイにおける各事実並びに前記第1の6(3)における事実を総合的に評価すると,少なくとも,OEM業者の松下電器産業,三菱電機及びソニーは,平成16年7月31日以前に出荷された「Windows XP」を含むウィンドウズシリーズによって,パソコンAV技術の中核的技術である音声データ及び画像データの圧縮技術の「MPEG」規格等に係る自社の特許権が侵害されている可能性が高いと認識しており,そして,OEM業者の当該認識には合理的な根拠が存在したことが認められる。
なお,第1の5(1)イ(イ)ないし(エ)によると,被審人は,平成15年3月ころに「MPEG−4 Visual」,平成16年6月ころに「MPEG−4 AVC/H.264」,平成17年10月ころまでに「IEEE1394」のパソコンAV技術に関して,「MPEG LA」との間でライセンス契約を締結したことが認められるが,このことは当該パソコンAV技術以外のパソコンAV技術に係る特許権侵害の懸念を否定するものではなく,また,前記5(2)アによると,松下電器産業はAV技術特許全般について,ソニーは「MPEG−1」,「MPEG−2」,「IEEE1394」関連の標準規格,「MPEG−4」のAV標準規格,デジタルビデオ放送標準規格及びマルチメディアプラットホーム標準規格,東芝は「IEEE1394」関連の標準規格,「MPEG−2」のAV標準規格,「MPEG−4」のAV標準規格についての懸念を表明していたのであるから,ウィンドウズシリーズがOEM業者が保有するパソコンAV技術の中核的技術に係る特許権を侵害している旨の懸念はいまだ継続しているものと認められる。
また,特許権侵害について具体的に認識しているのは,前記(2)アのとおり,日本企業では松下電器産業,三菱電機及びソニーの3社であるが,日立製作所の大串が,ウィンドウズシリーズのライセンスを受けるために本件非係争条項を含む直接契約を締結した以上,特許権侵害訴訟を提起等をすることができないのであるから,特許権侵害の有無に関する特許評価のために膨大なコストをかけることは考えていなかった旨述べていること(査第60号証)からうかがえるように,これは,特許権侵害の有無を真しに検討したのが上記3社にとどまったということにすぎず,ウィンドウズシリーズにおけるAV機能の特許権侵害の可能性についての認識が上記3社のみにとどまるとはいえない。
(3) OEM業者の研究開発意欲が損なわれる蓋然性
ア 前記第1の5(3)のとおり,被審人は「Windows Media Technologies」と称するパソコンにおける音声データ及び画像データの圧縮・伸長,配信及び再生等の機能に係るパソコンAV技術(「Windows Media Video」,「Windows Media Audio」,「Windows Media DRM」等を含む。)を保有するものであり,被審人はこれらのパソコンAV技術を搭載したウィンドウズシリーズをパソコン製造販売業者及びエンドユーザーに供給している。そして,前記第1の2(2)で認定したウィンドウズシリーズの占有率,前記第1の5(3)アのなお書きのとおり被審人のパソコンAV技術である「WMV」が「SMPTE」により標準規格として採用されたこと,及び平成12年7月19日時点において「Windows Media」形式対応のデジタルメディア提供サービスが世界的に拡大をしており,日本でも「Windows Media」形式を利用した視聴サービスが本格的に開始されたこと(査第22号証)等を考慮すると,平成16年8月1日時点において,既に,被審人のパソコンAV技術は,パソコン製造販売業者,エンドユーザー及びソフトウェア開発業者等のパソコンAV技術の需要者に広く普及していたことが認められる。
そして,前記(2)のとおり,平成16年7月31日時点のウィンドウズシリーズである「Windows XP」が,OEM業者の特許権を侵害している旨のOEM業者の認識に合理性が認められ,更に第1の5(2)で認定したとおり,当該特許権に係る技術は,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術というパソコンAV技術の中核的技術であること並びに当該技術自体の開発は一定レベルまで達しており,今後は,当該圧縮技術の利用範囲を広げる技術の開発競争となること(加藤恒参考人)が認められるのであるから,OEM業者がウィンドウズシリーズによって取り込まれたと認識されているパソコンAV技術を基礎として,パソコンAV技術の研究開発を行っても,ウィンドウズシリーズに対して,パソコンAV機能における独自性を打ち出すことは困難と考え,パソコンAV技術の開発に対する資本投下を抑制することは,事業者の判断として合理的といえる。
また,OEM業者が,平成16年7月31日以前に既にウィンドウズシリーズに利用されている可能性のあるパソコンAV技術の中核的技術を基に新規技術を開発したとしても,OEM業者が被審人に主張することのできる特許権は,当該新規技術のうち改良された部分に係る特許権に限定され,そのロイヤリティも,当該改良部分に係る特許権についてのロイヤリティに限定されることを考慮すると,既にパソコンAV技術の中核的技術について特許権が侵害されている旨の認識を有するOEM業者にとって,当該中核技術の改良技術についての研究開発意欲もまた損なわれる蓋然性を有するものというべきである。
さらに,本件非係争条項における「特徴及び機能」との文言は,その文言自体があいまいである(加藤恒参考人)にもかかわらず,この点について,被審人は,ソニーに対して,「特徴及び機能」かどうかはソフトウェアに存在する機能であって,それがどのように使用されているかではない旨の回答(査第65号証,第104号証の1及び2,第105号証の1及び2)をしているのみであり,その他OEM業者に対して,「特徴及び機能」についての明確な説明を行っていない(査第120号証)ことにかんがみると,OEM業者の特許権が行使できない対象製品の範囲が不明確といわざるを得ず,また,被審人のし意的な解釈により「特徴及び機能」の範囲が拡大される可能性も否定できないのであるから,中山教授がその意見書(査第121号証)において指摘するように,OEM業者としては,パソコンAV技術に係る特許戦略を立てにくくなり,これにより研究開発意欲の萎縮が生じるおそれもまた認められる。
イ 以上のとおり,本件では,平成16年8月1日時点において,既にウィンドウズシリーズにOEM業者が保有するパソコンAV技術の中核的技術が利用されている旨のOEM業者の認識があり,当該認識が合理的な根拠を有するものと認められることから,直接契約から本件非係争条項が削除された後においても,過去の直接契約における本件非係争条項の将来的効力により,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性がなお継続していると認めるのが相当である。
なお,被審人は,本件審判の審理過程において,本件非係争条項が適用される将来の製品の範囲を明確にしたのであるから,本件非係争条項が適用されることとなる「特徴及び機能」の範囲は明確であると主張するが,被審人の主張は,侵害されている自社特許権の内容をOEM業者が知っていることを前提とするものであり,前記3(3)において認定したとおり,ライセンス対象製品においてどのような特許権が侵害されていたか否かについて,OEM業者は,確認することができないのであるから,被審人の主張は採用できない。
また,被審人は,将来の技術が「機能及び特徴」に含まれることはないのであるから,OEM業者の研究開発意欲が損なわれることはない旨,また「会社の特許」の範囲に平成16年8月1日以後にOEM業者が取得した特許権が含まれることはないから,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる抽象的なおそれもない旨主張するが,平成16年8月1日以降におけるOEM業者の研究開発意欲が損なわれることの内容は前記アのとおりであるから,将来取得する特許権の行使が制限されないこととなったとしても,このことはOEM業者の研究開発意欲が損なわれるおそれを否定するものではない。
7 パソコンAV技術取引市場における競争への悪影響について
(1) 検討対象市場について
ア 市場の公正な競争秩序に悪影響が及ぶおそれがあるか否かを判断するに当たり,被審人の行為の態様,競争関係の実態及び市場の状況等を総合考慮し,本件非係争条項により研究開発意欲が損なわれるおそれがある技術を踏まえた上で,当該研究開発意欲の阻害による公正な競争秩序への影響を検討する必要があることは,前記1(3)で述べたとおりである。
また,検討対象市場については,本件非係争条項により損なわれるおそれがある研究開発意欲及びそれにより影響を受ける範囲により,本件において検討されるべき市場が判断されるのであり,より広い市場において競争が行われていると認められるとしても,同時に,その市場内において細分化された市場について公正な競争秩序に与える悪影響が認められる場合には,当該細分化された市場における悪影響が検討されるべきである。
イ そして,前記第1の5(2)において認定したとおり,本件では,ストリーミング方式又はダウンロード方式で送信される圧縮された音声データ及び画像のデータを,パソコンにより受信し,伸長し,再生する機能をソフトウェア等で実現するための「Windows Media Technologies」等のパソコンAV技術及びこれを取引する市場が存在し,AV技術市場から細分化された市場としてパソコンAV技術取引市場を観念することができる。加えて,前記第1の5(2)ウに述べたとおり,このようなパソコン上で音声や画像を視聴できる形式として,被審人の「Windows Media」形式のほか,リアルネットワークスの形式,「Quick Time」形式等が存在し,また,再生ソフトウェアとして,被審人の「Windows Media Player」のほか,ソニーの「Sonic Stage」,リアルネットワークスの「Real One」,「Real Player」,アップルの「Quik Time」等が存在する。さらに,パソコンAV技術の利用者としては,パソコン上で様々なファイル形式に対応し,受信した音声データ及び画像データを再生できることを期待するエンドユーザー,パソコンAV技術を搭載したパソコンやその周辺機器を販売しようとするパソコン製造販売業者及びパソコンAV技術を利用するアプリケーションソフトウェアを開発するソフトウェア開発者が存在する(被審人準備書面(3)別紙1(事実供述書(2)))のであり,これらパソコンAV技術取引市場における競争は,AV技術取引市場における競争とは区別されるべきである。
(2) パソコンAV技術取引市場における悪影響
ア 前記第1の5(3)において認定したとおり,被審人は「Windows Media Technologies」と称するパソコンにおける音声データ及び画像データの圧縮・伸長,配信及び再生等の機能に係るパソコンAV技術(「Windows Media Video」,「Windows Media Audio」,「Windows Media DRM」等を含む。)を保有する。この被審人のパソコンAV技術については,被審人のウィンドウズ ニュー メディア プラットフォーム ディヴィジョン担当の副社長であるウィル・プールが,コロンビア特別区連邦地方裁判所における直接証言において,被審人は,「Windows Media」形式による音声コンテンツ及び画像コンテンツの圧縮・伸長に用いられるアルゴリズムであるコーデックを着実に向上させ,音声データの分野では,競合するファイル形式でコード化された音声コンテンツと比較して優れた品質を提供している旨述べるところである。(査第122号証の1及び2)
そして,前記6(3)アのとおり,被審人は,自社のパソコンAV技術をウィンドウズシリーズに搭載することによって,自社のパソコンAV技術を普及させることが容易となるのであり,被審人は,自社のパソコンAV技術を迅速かつ広範に世界中に頒布・普及させることができる地位にいる。
イ 他方,OEM業者が音声データ及び画像データの圧縮・伸長に係る多くのMPEG関連技術等のパソコンAV技術を保有していることは,前記第1の5(4)において認定したとおりであり,OEM業者は,パソコンAV技術取引市場における有力な事業者である。そして,被審人とOEM業者は,パソコンAV技術取引市場における競争者の関係にある。
なお、被審人のパソコンAV技術とOEM業者のパソコンAV技術の競合関係の例を具体的に挙げれば,以下のとおりである。
(ア) 音声データの圧縮・伸長技術
被審人のオーディオ・コーデックである「Windows Media Audio(WMA)」は,ソニーのオーディオ・コーデックである「ATRAC」及びOEM業者らが保有する必須特許を用いた標準規格である「MPEG−4 Audio」と競合する技術である。(稲深思参考人,實方秀樹参考人)
(イ) 画像データの圧縮・伸長技術
被審人のビデオ・コーデックである「Windows MediaVideo(WMV)」は,被審人及びOEM業者らが保有する必須特許を用いた標準規格である「MPEG−4 Visual」又は「MPEG−4 AVC/H.264」と競合する技術である。(審第111号証,加藤恒参考人,稲深思参考人)
(ウ) DRM技術における地位
被審人の「Windows Media DRM」は,ソニーのDRM技術である「OpenMG」と競合する技術である。(査第50号証,第61号証,第122号証の1及び2,審第105号証)
ウ 前記のとおり,有力なパソコンAV技術に関する特許権を保有し,技術力を有するOEM業者が,前記5及び6において認定したとおり,平成13年1月1日以降現在に至るまで,本件非係争条項によりパソコンAV技術に関する研究開発意欲が損なわれ,パソコンAV技術に係る新技術や改良技術又は新規製品等の出現が妨げられるおそれが認められるのであり,また,これによりパソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位は低下する。
他方,OEM業者の研究開発意欲の低下により,パソコンAV技術取引市場における前記アに述べた被審人の地位は強化されるとともに,前記3(1)イにおいて認定したとおり,被審人は,本件非係争条項により,OEM業者のパソコンAV技術に関する特許権を無償でウィンドウズシリーズにおいて利用できる地位を獲得し,また,特許権侵害訴訟を提起等されない安定したパソコンAV技術を自社のライセンシーに提供できることから,パソコンAV技術取引市場における地位を強化することとなる。
この点に関し,ソニーの稲は,ソニーが「VAIO」で実現した様々な特徴,例えばギガポケットというパソコンAV技術に係るソフトウェアの機能であるEPG機能が,被審人の「Windows XP Media Center Edition」において利用されており,このEPG機能が「Windows XP」の新バージョンである「Windows Vista」にも利用されると,ウィンドウズシリーズによって十分なAV機能が実現されてしまうことになり,ウィンドウズシリーズ以外の製品が不要となってしまう等の懸念を述べている(査第65号証,第66号証)ところである。
さらに,本件においては,パソコン等の情報通信機器やこれに係る技術の持つネットワーク効果(被審人のパソコンAV技術の利用者が増えることにより,それに対応したパソコンAV技術を持つユーザーが増え,そのやりとりが便利になるという便益が生じ,ますますユーザーを獲得することができるという効果。稲深思参考人によると,パソコンAV技術にはこのネットワーク効果が働くことが認められる。また,東芝や松下電器産業はAV家電機器用にWMTのライセンス契約を締結している(査第44号証,第52号証)が,これもネットワーク効果によるものとうかがわれる。)により,いったんパソコンAV技術取引市場における被審人の地位が強化されると,ますます,被審人のパソコンAV技術取引市場における地位は向上することとなり,よりOEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれる蓋然性を高めることとなる。
エ 以上アないしウにより,本件非係争条項は,パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を弱め,被審人の地位を強化するものである。そして,OEM業者と被審人はパソコンAV技術取引市場において競争者の関係にあり,かつ,OEM業者は有力なパソコンAV技術を保有する事業者であることを勘案すると,本件非係争条項は,被審人のパソコンAV技術に対抗するパソコンAV技術やこれに関する製品の出現を妨げ,パソコンAV技術取引市場における競争を停滞,排除させるおそれを有するものであり,パソコンAV技術取引市場における競争秩序に悪影響を及ぼすものである。また,そのおそれは,前記6(3)ア及び前記アで述べた平成16年7月31日以前における被審人のパソコンAV技術取引市場における地位及びそのネットワーク効果をも考慮すると,本件非係争条項が削除された同年8月1日以降現在に至るまで継続されていると認められる。
そして,被審人は,本件非係争条項により,前記第1の5(2)ウのリアルネットワークスやソニーとのメディアプレーヤーに係る競争においても,より低いコストで,安定性の優れたパソコンAV技術を開発できるという意味において競争上有利な地位を獲得することができることとなる。このような他製品を排除するおそれのある被審人の行為は,様々な品質や性能を有する多様な製品の中から,価格と品質に応じて製品を選択するという消費者の利益を最終的に損なわせることにもつながるものである。ソニーの稲が,現在は情報家電製品の開発にエンジニアリングを数百人規模で投入しているが,ウィンドウズシリーズのAV機能の拡張が更に進めば,自社開発をするより被審人から購入するほうがよいとの判断も出てくる旨供述する(査第65号証)のは,このことを述べるものである。
(3) 被審人の主張について
ア 被審人は,審判開始決定書における市場はAV技術取引市場とされていたところ,これをパソコンAV技術取引市場に変更する審査官の主張は許されるべきではないと主張する。
しかしながら,審判開始決定書は,「OEM業者のAV機能に関する技術の開発意欲が損なわれることとなり,我が国の当該技術に係る分野における公正な競争が阻害されるおそれがある。」と記載しており,「OEM業者のAV機能に関する技術に係る分野」とのみ特定しているのであり,AV技術取引市場であると特定したものではない。また,審判手続については,被審人の防御権を保障し審決の適正を期する趣旨から対審構造が採られているものであるから,審判の範囲又は審決の認定事実は,必ずしも審判開始決定書に記載された事実そのもののみに限定されるものではなく,これと多少異なる事項にわたったとしても,審判開始決定書に記載された事実の同一性を害せず,かつ,審判手続全体の経過からみて被審人に防御の機会を閉ざしていない限り違法とはならない(最高裁判所昭和50年7月10日判決,公正取引委員会審決集第22巻173頁)。本件において,審査官は,本審判における第1回準備書面から,悪影響を受けるべき市場をパソコンAV技術取引市場と特定しているのであるから,本件非係争条項による悪影響の範囲をパソコンAV技術取引として捉えることは,被審人の防御権を侵害するものではない。
イ 被審人は,拘束条件付取引においては,行為の市場に対する客観的競争減殺効果が問題となり,ここで,OEM業者の研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,AV技術取引市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるとは,AV技術取引市場における競争回避効果(価格,数量,品質,技術などの競争を回避する効果)又は競争(者)排除効果(既存又は新規参入の事業者の競争行動を排除する効果)のいずれかを意味するのであり,審査官は具体的にAV技術取引市場においてどのような競争回避効果又は競争(者)排除効果が生ずるのかを主張・立証する必要がある旨主張する。
しかしながら,本件非係争条項のパソコンAV技術取引市場における競争減殺効果は,被審人がパソコン用OS市場における有力な地位を利用して,パソコンAV技術取引市場における有力な競争者たるOEM業者に対して,OEM業者に極めて不合理な内容である本件非係争条項の付された直接契約の締結を余儀なくさせ,よって,OEM業者のパソコンAV技術の開発意欲を損なわせる高い蓋然性をもたらし,新規技術等の対抗技術の出現を妨げるおそれを発生させ,パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を弱め,被審人の地位を強化することにより,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあることにあるのであり,これらについてはこれまで認定してきたとおりである。
被審人は,パソコンAV技術取引市場における新規参入者であり,音声データ及び画像データの圧縮・伸長技術に関する必須特許の保有件数が少ないことからも,被審人がパソコンAV技術取引市場における有力な事業者ではないことは明らかである旨主張するが、被審人がパソコンAV技術取引市場において有力な事業者であったか否かは,以上の判断を左右するものではない。
また,被審人は,パソコンAV技術取引市場には多数の当事者が存在しており,競争減殺効果は軽微であると主張するが,前記のとおり,本件非係争条項がパソコンAV技術取引市場における競争に悪影響を与えるおそれがあることが認められるのであるから,競争減殺効果が軽微であるとの被審人の主張は理由がない。
さらに,市場において多数の競争者が存在していることや,パソコンには複数のAV技術が搭載されるということも,パソコンAV技術取引市場における被審人の地位が強化されるという認定を妨げるものではなく,反対に,パソコンAV技術においては,特許権を取得している事業者が多く,パテントプールが構成されていることからも,特許権を保有しない事業者がパソコンAV技術取引市場に新規参入するという可能性も少ないという点にかんがみると,本件非係争条項によりOEM業者の開発意欲が損なわれることのパソコンAV技術取引市場における悪影響のおそれは大きいというべきである。
なお,被審人は,市場への悪影響のおそれを判断するためには,①本件非係争条項が問題となる時期において,パソコンAV技術取引市場全体の規模がどの程度であったか,②現在どの程度であるのか,③市場の規模はどのように推移してきたのか,④市場における競争者は誰なのか,⑤それぞれの競争者の占有率はどのような状況であるか,⑥新規参入の状況はどのような状況であるのかといった市場全体についての説明が必要である旨主張するが,本件における競争への悪影響の意味は,以上に述べたとおりであって,被審人が主張するような市場全体についての説明が必要となるものではない。
8 パソコン市場における競争への悪影響について
OEM業者は,開発したパソコンAV技術を自社のパソコンに搭載することによって,自社のパソコンの差別化を図ることができる。たとえば,ソニーがVAIOにおいてAV機能を強化することによりパソコンの差別化を図ってきたことは,前記第1の5(4)アにおいて認定したとおりである。
パソコンAV技術とは,パソコンにおいて実現されるAV機能に係る技術であるから,本件非係争条項によってパソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれると,パソコンのAV機能の研究開発が阻害され,AV機能によるパソコンの差別化が損なわれることは当然に予想されることである。また,前記第1の5(3)イのとおり,被審人は,自社のパソコンAV技術をウィンドウズシリーズに搭載して,パソコン製造販売業者等に供給していることに照らすと,OEM業者がパソコンAV技術の開発によって自社のパソコンを他社のパソコンよりも優位なものとする差別化戦略をも困難にするものであることが認められる。
しかしながら,前記1(1)のとおり,パソコン市場における量的又は質的な影響が判断されることが必要であるところ,パソコンの差別化はパソコンにおけるAV機能以外の機能によっても行うことができ,OEM業者は,様々な戦略をもって,パソコン販売に係る競争を行っていることが認められる(審第164号証,第167号証ないし第169号証)のであるから,パソコン市場における公正な競争秩序への悪影響を判断するためには,少なくとも,パソコンにおけるAV機能の役割を含めパソコンAV技術による製品差別化が困難となることによるパソコン市場における影響の程度についての分析が必要となるが,本件記録上,これらパソコン市場における公正な競争秩序への悪影響を認定・判断するに足りる証拠は十分とはいえない。
したがって,パソコン市場における本件非係争条項の影響については,パソコンAV技術の研究開発意欲が損なわれることによりパソコンAV技術によるパソコンの差別化が困難となるという範囲においてのみ首肯し得るものである。
9 本件非係争条項の正当化事由について
(1) はじめに
前記7のとおり,平成13年1月1日以降現在に至るまで本件非係争条項の効力が継続することにより,パソコンAV技術取引市場における公正な競争秩序への悪影響が認められるものであるが,例外的に,本件非係争条項がパソコンAV技術取引市場における競争を促進する目的・機能を有し,さらに当該目的・機能を達成する手段としての必要性・合理性の有無・程度等からみて,本件非係争条項が公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるとはいえない事情が認められる場合には,当該事情を公正競争阻害性の判断において考慮する必要がある。
なお,被審人は,本件非係争条項によって安価なロイヤリティによってウィンドウズシリーズのライセンス付与が可能となり,ウィンドウズシリーズのライセンスが普及できたことを本件非係争条項の競争促進効果として主張するが,第三者の特許権の権利行使を否定することによる反射的効果として実現した安価なロイヤリティによるライセンス付与は,競争法上保護すべき効果として評価することはできない。また,本件非係争条項の導入に当たっての被審人の主観的な意図が何であったかということも,上記判断において考慮されるべきではない。
(2) 本件非係争条項の競争促進機能及びその必要性
ア 被審人は,ウィンドウズシリーズは社会的に広く利用されるプラットホームであり,様々なソフトウェアやハードウェアなどの前提となるものであるから,その権利義務に関する安定性は社会的に強く要請されるのであり,仮に,特許権侵害などを理由に,販売済みのウィンドウズシリーズ並びに当該ウィンドウズシリーズに対応したソフトウェア及びハードウェアについて設計変更その他の改変等が要求される場合には,被審人のみならず,ウィンドウズシリーズに基づきウェブページ,ソフトウェア又はハードウェアを構築しているソフトウェア開発業者,ハードウェア製造業者及びOEM業者等のみならず,エンドユーザーにも,回復困難な多大の混乱を生じることになるところ,本件非係争条項は,ウィンドウズシリーズの権利義務に関する安定性をもたらしており,それゆえ競争促進的であると主張する。
イ 確かに,複数のOEM業者も,本件非係争条項の利点として,他のOEM業者から特許権を行使されないという点を述べており(査第45号証,第46号証,第49号証),根岸教授もその意見書(審第171号証)においてこれを支持する見解(本件非係争条項には,プラットホーム製品の典型であるパソコン用OS事業において,パソコン用OSがプラットホーム的機能を果たすことにより,パソコン市場が拡大し,エンドユーザーが優秀な多数のパソコンから選択できる利益を得ているビジネスモデルを,パソコン用OSの普及後における特許権の行使による混乱,コストの増加から守るという重要な競争促進効果を有している旨)を述べるとおり,ウィンドウズシリーズが有するプラットホームとしての機能にかんがみると,その安定性の確保が重要であることは認められる。
しかしながら,本件非係争条項は,前記4において認定したとおり,パソコン用OS市場における有力な地位を利用して,パソコンAV技術の競争者であるOEM業者に本件非係争条項の受入れを余儀なくさせて特許権侵害訴訟の提起等を否定するものであり,また,そのことを通じて,前記3(1)イのとおり,パソコン用OS市場における被審人の地位を強めるものであるから,そのような不当な手段である本件非係争条項によって被審人の主張するようなウィンドウズシリーズの安定効果が図られるとしても,その競争に対する悪影響の認定を覆すに足りるものとは評価されない。
さらに,被審人が主張するようなウィンドウズシリーズの安定性は,IBMやソニーが指摘するように,本件非係争条項を,特許権による差止請求のみを禁止する内容に変更するという方法(査第53号証,第65号証)や,富士通等と締結したクロスライセンス契約等の他の契約を締結する方法など,本件非係争条項に比べより競争制限的ではない他の方法でも達成することが可能であったこと及び,被審人が主張する上記安定性は,主にウィンドウズシリーズのパソコン用OS機能において求められるものであるから,「Windows Media Player」等のAV機能を実現するアプリケーションソフトウェアをウィンドウズシリーズから分離してパソコン用OSのみを販売するという方法(査第146号証の1及び2並びに第147号証の1及び2によると,被審人は,平成17年1月ころの欧州委員会の決定に従って,「Windows Media Player」が搭載されていない「Windows XP Home EditionN」を発売していること(販売時期は不明)が認められ,このことは,「Windows Media Player」を含まないウィンドウズシリーズを販売することが可能であることを示している。)によって図ることも可能であったことを考慮すると,被審人の主張する競争促進効果は,本件非係争条項のパソコンAV技術取引市場における悪影響を覆すに足りるものとはなり得ない。
被審人は,クロスライセンス契約は本件非係争条項と比べてより競争制限的でない手段であるとはいえない旨主張する。確かに,クロスライセンス契約の内容は契約当事者の合意によって様々であり,合意の内容によっては,本件非係争条項と同程度に競争制限的なものともなり得る。しかしながら,クロスライセンス契約は,直接契約とは別に締結される契約であり,また,パソコンAV技術を保有するOEM業者とのみ締結することとなるものであって,OEM業者が,パソコンAV技術の保有の程度にかかわらず,一律にその適用を受けることを余儀なくされる本件非係争条項は,クロスライセンス契約に比べより競争制限的なものというべきである。
また,被審人は,OEM業者とは事業領域が異なり,最近になるまで,特許ポートフォリオが貧弱であったため,OEM業者とクロスライセンス契約を締結することは現実的ではなかった旨主張する。しかし,クロスライセンス契約は,被審人とOEM業者の自由な交渉によって,ロイヤリティやライセンスの範囲等を決定することができるのであるから,事業領域が異なることや,特許ポートフォリオが弱かったことは,クロスライセンス契約の締結の可能性を否定するものではない。
なお,被審人は,本件非係争条項は,特許権主張の時限的性格を有するものであり,ウィンドウズシリーズが普及した後における特許権侵害訴訟の提起等を防止するものである旨主張するが,被審人が主張するような機能をもって本件非係争条項による競争促進効果が考慮されうるのは,新バージョンのウィンドウズシリーズのライセンス契約を締結する際においてOEM業者が自社の特許権が侵害されているか否かについて確認できるようになっていることが前提であるところ,これが認められないことは前記3(3)において認定したとおりである。
(3) 被審人のその他の主張について
ア 被審人は,OEM業者が直接契約により低価格でウィンドウズシリーズを入手したにもかかわらず,OEM業者が保有する特許権について被審人に対してロイヤリティを請求することは,OEM業者が二重の利益を得ることになるのであり,公平の原則に反する旨主張し,被審人のウィルソンもその陳述書において,本件非係争条項は明確な公平原則(OEM業者はウィンドウズシリーズを可能な限り最も低いロイヤリティで頒布しながら全く同一の製品の頒布について被審人及びそのライセンシーを訴えるべきではないという原則)に基づいていたと述べる。(審第170号証の1及び2)
しかし,当該主張は競争促進効果に関するものではない上に,前記4(4)において認定したとおり,OEM業者は本件非係争条項を付した直接契約を締結せざるを得ない地位にいたのであるから,本件非係争条項が被審人のいう公平の原則に基づいたものであったとしても,そのことは本件非係争条項を正当化するものとはならない。
イ 被審人は,本件非係争条項を付することにより,ウィンドウズシリーズの開発の早い段階において,ウィンドウズシリーズの情報が開示され,当該情報に基づき,OEM業者,ソフトウェア開発者などが技術開発を行うことができた旨主張する。しかしながら被審人の主張する当該競争促進効果は,そもそも本件非係争条項の効果とは言い難い上に,本件において考慮されるべきものではないことは,前記アにおいて述べたところと同様である。また,開示情報の秘密保持の手段についても,特許権侵害訴訟の提起等を否定するまでもなく,秘密保持契約などの契約において,開示情報の不当な利用行為を禁止することが可能であり,事実,被審人は,前記第1の4(1)ウにおいて認定したとおり,新バージョンのウィンドウズシリーズの販売開始前に製品等を提供する際には秘密保持義務をOEM業者に課しており,さらに,前記第1の3(4)アのとおり,直接契約締結とともにNDAも締結しているのであるから,これに加えて,開示情報の不当利用を防止するために本件非係争条項を付するまでの必要性があったとは認められない。
ウ 他に被審人は本件非係争条項の正当化事由として,本件非係争条項が限定的であること等るる主張するが,被審人のこれらの主張はいずれも,前記判断を左右するものではない。
10  結論
前記2ないし5において認定したとおり,被審人は,遅くとも平成13年1月1日以降平成16年7月31日まで,パソコン用OS市場における有力な地位を利用して,パソコンAV技術取引市場における有力な競争者であるOEM業者に対して,極めて不合理な内容である本件非係争条項の受入れを余儀なくさせたものであり,当該行為は,OEM業者のパソコンAV技術の研究開発意欲を損なわせる高い蓋然性を有するものである。また,前記6において認定したとおり,直接契約から本件非係争条項が削除された平成16年8月1日以降においても,本件非係争条項の将来的効力により,OEM業者のパソコンAV技術に対する研究開発意欲が現在に至るまでなおも損なわれている高い蓋然性を有するものであり,これらにより,前記7で認定したとおり,本件非係争条項は,パソコンAV技術取引市場におけるOEM業者の地位を低下させ,当該市場における被審人の地位を強化して,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれを有するものである。
そして,前記9のとおり,本件非係争条項には,パソコンAV技術取引市場における公正な競争秩序への悪影響を覆すに足りる特段の事情も認められないことから,平成13年1月1日以降における被審人及びOEM業者の間の本件非係争条項の付された直接契約の締結並びに本件非係争条項によるOEM業者の事業活動の拘束行為は,公正競争阻害性を有し,一般指定告示第13項の不当な拘束条件付取引に該当すると認められる。
11  排除措置の相当性について
(1) 以上により,被審人には独占禁止法第19条の規定に違反する行為があると認められるから,同法第20条第1項に規定する措置を命ずべきであるが,被審人は,平成16年8月1日以降,本件非係争条項を付された直接契約の締結を取りやめているところ,①それ以降における本件非係争条項の効力は,平成16年7月31日以前に締結された直接契約に基づくものであること,②本審決案に係る手続の終了時点において,本件非係争条項の将来的効力が及ぶ可能性があるウィンドウズシリーズは,過去にOEM販売の許諾を受けたウィンドウズシリーズにおける発明又は機能及び特徴を引き継いだウィンドウズシリーズに限定されていること,③独占禁止法第19条が「公正な競争を阻害するおそれ」の段階をもって独占禁止法違反とするのは,前記1(1)に述べたとおり,弊害が現実的に生じる萌芽の段階でもって不公正な取引方法を規制し,よって実質的な競争制限に発展する可能性を阻止する等の趣旨を有するものであること等をも考慮し,本件においては,今後出荷されるウィンドウズシリーズに関して本件非係争条項の将来的効力が及ぶことを排除するとともに,違反行為の再発を防止する等のため,同法第20条第1項に規定する措置として,主文掲記のとおり命ずるのが相当であると考える。
(2) 被審人は,本件非係争条項は,AV家電業界を含むテクノロジー関連企業一般において日常的に利用されている合理的な規定であり,これを違法とすると正当な知的財産ライセンス慣行に甚大な混乱が生じるおそれがあると主張する。しかしながら,前記のとおり,本件は,本件非係争条項の独占禁止法違反の有無を検討するものであり,非係争条項が一般的に違法であると判断するものではないのであるから,被審人の主張は失当である。
また,被審人は競争法の執行において国際ハーモナイゼーションへの配慮が必要である旨主張し,本件非係争条項について欧米の競争当局が違法であるとの判断を行ったことはない旨主張する。国際ハーモナイゼーションへの配慮が競争政策において必要であることは否定されるものではないが,欧米の競争当局が本件非係争条項が適法である旨の判断を行った事実は認められず,また,本件非係争条項が独占禁止法に違反するか否かは,我が国の競争秩序において判断されるべきことである。
さらに,被審人は,本件非係争条項に何らかの問題があるとしても,それは,裁判所において訴えを提起して個別に解決を図るべきものと主張するが,前記のとおり,公正取引委員会は,公正かつ自由な競争秩序を維持,促進するという目的のために,違反行為を排除するために必要な措置を命ずべき責務を負っており,また,本件非係争条項の効力は,現在もなお継続しているのであるから,本件非係争条項に関して,公正取引委員会が法を執行することが不適切であるとする理由はない。
第5 法令の適用
以上に判断したとおり,被審人の行為は,一般指定告示第13項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものであるから,同法第54条第1項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成20年7月30日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  寺 川 祐 一

審判官  小 林   渉

審判官  佐 藤 郁 美


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