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(株)クボタほか2名に対する件

独禁法7条の2(独禁法3条後段)

平成12年(判)第2号ないし第7号

課徴金の納付を命ずる審決

大阪市浪速区敷津東一丁目2番47号
被審人 株式会社クボタ
同代表者 代表取締役 益本 康男
同代理人 弁 護 士 寺上 泰照
同          岩下 圭一
同          佐藤 水暁

大阪市西区北堀江一丁目12番19号
被審人 株式会社栗本鐵工所
同代表者 代表取締役 福井 秀明
同代理人 弁 護 士 高橋 善樹
同          岡田 英夫
同          鈴木 伸佳

東京都中央区日本橋人形町一丁目3番8号
被審人 日本鋳鉄管株式会社
同代表者 代表取締役 秋田 眞次
同代理人 弁 護 士 池田 幸司

公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官原啓一郎,審判官中出孝典及び同佐藤郁美から提出された事件記録並びに規則第84条の規定により被審人らから提出された異議の申立書及び規則第86条の規定により被審人らから聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主     文
被審人株式会社クボタは金70億7208万円(平成12年(判)第2号につき金33億2689万円,平成12年(判)第5号につき金37億4519万円)を,
被審人株式会社栗本鐵工所は金29億3489万円(平成12年(判)第3号につき金13億6828万円,平成12年(判)第6号につき金15億6661万円)を,
被審人日本鋳鉄管株式会社は金10億5354万円(平成12年(判)第4号につき金5億1802万円,平成12年(判)第7号につき金5億3552万円)を,
それぞれ課徴金として,平成21年9月1日までに国庫に納付しなければならない。

理     由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第6と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人らに対し,独占禁止法第54条の2第1項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成21年6月30日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 濱崎 恭生
委 員 後藤  晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代

別紙

平成12年(判)第2号ないし第7号

審   決   案

大阪市浪速区敷津東一丁目2番47号
被審人 株式会社クボタ
同代表者 代表取締役 益本 康男
同代理人 弁 護 士 寺上 泰照
同          岩下 圭一
同          佐藤 水暁

大阪市西区北堀江一丁目12番19号
被審人 株式会社栗本鐵工所
同代表者 代表取締役 福井 秀明
同代理人 弁 護 士 高橋 善樹
同          岡田 英夫
同          鈴木 伸佳

東京都中央区日本橋人形町一丁目3番8号
被審人 日本鋳鉄管株式会社
同代表者 代表取締役 秋田 眞次
同代理人 弁 護 士 池田 幸司

上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づき本審決案を作成する。

主     文
被審人株式会社クボタは金70億7208万円(平成12年(判)第2号につき金33億2689万円,平成12年(判)第5号につき金37億4519万円)を,
被審人株式会社栗本鐵工所は金29億3489万円(平成12年(判)第3号につき金13億6828万円,平成12年(判)第6号につき金15億6661万円)を,
被審人日本鋳鉄管株式会社は金10億5354万円(平成12年(判)第4号につき5億1802万円,平成12年(判)第7号につき金5億3552万円)を,
それぞれ課徴金として国庫に納付しなければならない。

理     由
第1 課徴金に係る事実
1 被審人らについて
(1) 被審人株式会社クボタ(以下「被審人クボタ」という。),被審人株式会社栗本鐵工所(以下「被審人栗本鐵工所」という。)及び被審人日本鋳鉄管株式会社(以下「被審人日本鋳鉄管」という。)の3社(以下「被審人3社」という。なお,被審人3社それぞれを指すときは「各社」ということがある。)は,いずれも,ダクタイル鋳鉄管直管の製造販売業を営む者である。(争いがない。)
(2) 平成8年度(平成8年4月から平成9年3月まで。以下「年度」というときは,この例による。)及び平成9年度において,ダクタイル鋳鉄管直管について,被審人3社の累積出荷集中度(シェアの合計)は100パーセントであり,それ以前を含めて,被審人3社のダクタイル鋳鉄管直管の供給量の合計は,我が国における同製品の総供給量のほとんどすべてを占めている。(査第54号証の1及び2)
2 製品について
(1) ダクタイル鋳鉄管直管は,水道,下水道,農業用水道,工業用水道,都市ガス等の導管として用いられている。(争いがない。)
(2) ダクタイル鋳鉄管直管は,その形状等に応じて様々な品種に区分されるが,一部大口径の製品を除いては被審人3社のいずれもが製造・販売を行っており,その品質・性能に大差はない。(査第9号証,審A第5号証)
(3) ダクタイル鋳鉄管直管については,小口径のもの及び中口径のものの一部を中心に見込生産を行う割合が高くなっている。(査第45号証ないし第47号証)
(4) ダクタイル鋳鉄管直管の流通経路は,
ア 水道事業又は水道用水供給事業を経営する地方公共団体等(以下「水道事業者」という。)に対して被審人3社から直接供給される経路(以下,この経路によるダクタイル鋳鉄管直管の取引分野を「直需分野」という。その大部分は競争入札の方法により発注されている。)
イ ダクタイル鋳鉄管直管の布設工事を受注した建設業者(以下「建設業者」という。)に対して被審人3社から第一次販売業者,第二次販売業者等の販売業者を経由して,あるいは,都市ガス供給業者等の需要者に対して被審人3社から直接又は販売業者を経由して供給される経路(以下,この経路によるダクタイル鋳鉄管直管の取引分野を「間需分野」という。)
に分かれており,平成8年度及び平成9年度当時,直需分野における供給量がダクタイル鋳鉄管直管の総供給量に占める割合は約20パーセント,間需分野による供給量の同割合は約80パーセントとなっている。
(争いがない。)
3 課徴金に係る違反行為等
(1) 違反行為
以下の事実については,おおむね争いがなく,かつ,後記第5の2(2)の判断において掲記する証拠によっても,認めることができる。
ア 被審人3社は,かねてから,我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要数量に対する各社の受注すべき数量の基本的な割合を,被審人クボタについては63パーセント,被審人栗本鐵工所については27パーセント,被審人日本鋳鉄管については10パーセント(使用鉄材の重量ベース。以下,この割合を「基本配分シェア」という。)とすることとし,これに基づき年度ごとに前年度までの各社の受注数量等を勘案して当該年度の総需要数量に対する各社の受注すべき数量の割合(以下「年度配分シェア」という。)を決定していた。
イ 平成8年度の違反行為
(ア) 被審人3社は,平成8年5月上旬ころ,北海道地区,東北地区,東京地区,中部地区,大阪地区及び九州地区と称する全国を区分した6地区(以下「6地区」という。)における平成8年度におけるダクタイル鋳鉄管直管の需要見込数量を把握した上,平成8年6月4日ころから同月下旬ころまでの間,被審人日本鋳鉄管の本店会議室又は被審人栗本鐵工所が借用した東京都港区に所在する貸会議室において,被審人3社の東京地区の営業担当課長級の者による会合を数度にわたり開催し,
a ダクタイル鋳鉄管直管の6地区における需要見込数量に基づいて平成8年度の我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,6地区のうち東京地区を除く5地区における各社の受注すべき数量の割合を取りまとめ(以下,地区ごとの各社の受注すべき数量の割合を「地区配分シェア」という。),
b 前記aの総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に各社の平成7年度の受注数量等を勘案した数量を加減して算出した平成8年度の各社の受注見込数量の前記aの総需要見込数量に対する割合,すなわち,被審人クボタについては62.85パーセント,被審人栗本鐵工所については26.97パーセント,被審人日本鋳鉄管については10.18パーセントを平成8年度の年度配分シェアとするとともに,
c 前記bの各社の受注見込数量から,東京地区を除く5地区の地区配分シェアに基づく各社の受注見込数量の合計を差し引いた残余に占める各社の受注見込数量の割合を東京地区の地区配分シェアとした上で,
平成8年度の年度配分シェア,6地区における地区配分シェア等を内容とする計画案を作成した。
(イ) 被審人3社は,平成8年8月20日ころ,東京都中央区所在の水道用ポリエチレンパイプシステム研究会会議室で開催した各社の営業担当部長級の者及び東京地区の営業担当課長級の者の会合において,平成8年度の年度配分シェアを前記(ア)の計画案に基づくものとすることを決定し,同年度末までに各社においてそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合をこの決定に係る同年度の年度配分シェアに合致させるよう,受注数量の調整を行うことを合意した。
(ウ) 被審人3社は,前記(イ)の合意に基づき,ダクタイル鋳鉄管直管に係る被審人3社と販売業者との間及び販売業者と建設業者との間のそれぞれの取引関係が固定的であることを利用し,その取引関係を維持しつつ,毎月の受注数量を相互に連絡して,各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異を確認した上で,水道事業者が競争入札の方法により発注するダクタイル鋳鉄管直管について,物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにするなど,各社のダクタイル鋳鉄管直管の受注数量の調整を行い,年度の途中において,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量の増加が見込まれるときは,年度配分シェアの微調整を行うことによって,平成8年度の年度配分シェアにほとんど一致する割合でダクタイル鋳鉄管直管を受注していた。
ウ 平成9年度の違反行為
(ア) 被審人3社は,平成9年5月中旬ころ,6地区における平成9年度のダクタイル鋳鉄管直管の需要見込数量を把握した上,同年6月10日ころから同月20日ころまでの間,被審人日本鋳鉄管の本店会議室又は被審人栗本鐵工所が借用した東京都港区に所在する貸会議室において,被審人3社の東京地区の営業担当課長級の者による会合を数度にわたり開催し,
a ダクタイル鋳鉄管直管の6地区における需要見込数量に基づいて平成9年度の我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,地区配分シェアを取りまとめ,
b 前記aの総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に各社の平成7年度及び平成8年度の受注数量等を勘案した数量を加減して算出した平成9年度の各社の受注見込数量の前記aの総需要見込数量に対する割合,すなわち,被審人クボタについては62.91パーセント,被審人栗本鐵工所については26.95パーセント,被審人日本鋳鉄管については10.14パーセントを同年度の年度配分シェアとするとともに,
c 前記bの各社の受注見込数量から,東京地区を除く5地区の地区配分シェアに基づく各社の受注見込数量の合計を差し引いた残余に占める各社の受注見込数量の割合を東京地区の地区配分シェアとした上で,
平成9年度の年度配分シェア,6地区における地区配分シェア等を内容とする計画案を作成した。
(イ) 被審人3社は,平成9年7月9日ころ,東京都新宿区所在の日本水道協会会議室で開催した各社の営業担当部長級の者及び東京地区の営業担当課長級の者の会合において,平成9年度の年度配分シェアを前記(ア)の計画案に基づくものとすることを決定し,同年度末までに各社においてそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合をこの決定に係る同年度の年度配分シェアに合致させるよう,受注数量の調整を行うことを合意した。
(ウ) 被審人3社は,前記(イ)の合意に基づき,ダクタイル鋳鉄管直管に係る被審人3社と販売業者との間及び販売業者と建設業者との間のそれぞれの取引関係が固定的であることを利用し,その取引関係を維持しつつ,毎月の受注数量を相互に連絡して,各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異を確認した上で,水道事業者が競争入札の方法により発注するダクタイル鋳鉄管直管について,物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにするなど,各社のダクタイル鋳鉄管直管の受注数量の調整を行い,よって,平成9年度の年度配分シェアにほとんど一致する割合でダクタイル鋳鉄管直管を受注していた。
(2) 本件違反行為の性質と不当な取引制限該当性
前記(1)によれば,被審人3社は,平成8年度及び平成9年度において,共同して,当該各年度のダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,当該総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて得られた数量に,前年度までの受注数量等を勘案した数量を加減して,当該年度の各社の受注見込数量を算出し,当該受注見込数量の上記総需要見込数量に対する割合,すなわち年度配分シェアを決定し,各社において,当該年度末までにそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合を年度配分シェアに合致するよう受注数量の調整を行うことを合意したものである。そして,当該各違反行為は,カルテルに参加した事業者が,共同して,ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野全体における実際の総販売数量に占める各カルテル参加者の販売数量の割合をあらかじめ決定し実行する合意であって,いわゆるシェア配分カルテルに該当する。
そして,これにより,被審人3社は,公共の利益に反して,ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
以下,ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野を「本件市場」という。また,前記(1)イの違反行為を「平成8年度違反行為」と,前記(1)ウの違反行為を「平成9年度違反行為」といい,両違反行為を併せて「本件各違反行為」又は「本件カルテル」という。
なお,平成9年度違反行為については,平成11年4月22日に排除措置を命じる勧告審決(平成11年(勧)第7号。公正取引委員会審決集第46巻201頁。以下「平成9年度違反行為に係る勧告審決」という。)がなされている。また,本件各違反行為については,東京高等裁判所より被審人3社に対し,独占禁止法第95条第1項,第89条第1項第1号,第3条に該当するものとして有罪判決がなされている(東京高等裁判所平成12年2月23日判決・公正取引委員会審決集第46巻733頁。以下「東京高裁刑事判決」という。)。
第2 課徴金の計算の基礎となる事実
以下の事実関係については,本件各違反行為が独占禁止法第7条の2第1項に規定する「実質的に商品・・・の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」に該当し,したがって課徴金の対象となるとの点を除き,争いがない。
1 被審人3社の概要
被審人3社は,いずれもダクタイル鋳鉄管直管の製造販売業を営む者である。
2 実行期間
(1) 平成8年度
被審人3社が平成8年度違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成8年8月20日である。また,平成9年4月1日以降,当該違反行為の実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,被審人3社の平成8年度違反行為に係る実行期間は,平成8年8月20日から平成9年3月31日までである(以下「平成8年度の実行期間」という。)。
(2) 平成9年度
被審人3社が,平成9年度違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成9年7月9日である。また,平成10年4月1日以降,当該違反行為の実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,被審人3社の平成9年度違反行為に係る実行期間は,平成9年7月9日から平成10年3月31日までである(以下「平成9年度の実行期間」という。)。
3 課徴金の計算の基礎としての売上額及び課徴金額の算定等
(1) 被審人クボタ
ア 被審人クボタの平成8年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)第5条の規定に基づき算定すべきところ,同規定に基づき算定すると,554億4829万7751円である。
イ 被審人クボタの平成9年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,独占禁止法施行令第5条の規定に基づき算定すべきところ,同規定に基づき算定すると,624億1984万3791円である。
ウ したがって,被審人クボタが国庫に納付しなければならない課徴金の額は,平成8年度違反行為については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記554億4829万7751円に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された33億2689万円であり,平成9年度違反行為については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記624億1984万3791円に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された37億4519万円である。
(2) 被審人栗本鐵工所
ア 被審人栗本鐵工所の平成8年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,独占禁止法施行令第5条の規定に基づき算定すべきところ,同規定に基づき算定すると,228億472万5884円である。
イ 被審人栗本鐵工所の平成9年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,独占禁止法施行令第5条の規定に基づき算定すべきところ,同規定に基づき算定すると,261億1021万1195円である。
ウ したがって,被審人栗本鐵工所が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,平成8年度違反行為については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記228億472万5884円に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された13億6828万円であり,平成9年度違反行為については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記261億1021万1195円に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された15億6661万円である。
(3) 被審人日本鋳鉄管
ア 被審人日本鋳鉄管の平成8年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,独占禁止法施行令第5条の規定に基づき算定すべきところ,同規定に基づき算定すると,86億3381万1123円である。
イ 被審人日本鋳鉄管の平成9年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,独占禁止法施行令第5条の規定に基づき算定すべきところ,同規定に基づき算定すると,89億2537万8852円である。
ウ したがって,被審人日本鋳鉄管が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,平成8年度違反行為については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記86億3381万1123円に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された5億1802万円であり,平成9年度違反行為については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記89億2537万8852円に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された5億3552万円である。
第3 本件の争点
本件の争点は,以下のとおりである。
(1) 本件各違反行為は,独占禁止法第7条の2第1項に規定する「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」(以下「供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテル」という。)に該当するか,すなわち,
ア シェア配分カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るか否か(争点1)。
イ 本件カルテルは供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たるか否か(争点2)。
(2) 間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれるか否か(争点3)。
なお,被審人3社は,本審判について手続違背をも主張するが,この点については,後記「第5の1」で判断する。
第4 当事者の主張
1 争点1(シェア配分カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るか否か。)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項の解釈
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項にいう「供給量」とは,市場に供給される商品又は役務の量であり,「供給」とは,商品又は役務を販売又は提供するために市場に供することである。すなわち,ここでいう「商品の供給」とは,市場全体についてみなければならないが,それは,事業者による販売が実現することまで要するわけではなく,生産や流通の段階で在庫として保有されるものを含めて販売又は提供の用に供されるものであればよい。したがって,「商品の供給量」とは,このような在庫を含めて販売できる状態に置かれた商品の量の市場における総量をいう。
「制限する」とは,限界・範囲を定め,当該限界・範囲の中に抑えることをいう。また,独占禁止法第7条の2第1項に規定する「実質的に商品…の供給量を制限する」に該当するためには,不当な取引制限となる行為が供給量の制限を直接の目的としていなくとも,当該行為が,それによって供給量の制限をもたらすものであればよい。
「対価に影響があるもの」とは,「実質的に供給量を制限すること」とは別個の要件として解釈されるべきものである。ただし,市場メカニズムの下では,価格と数量を介して需給が調整されて資源の最適配分が達成される機能,すなわち,需要量と供給量の関係で価格が決まってくるという機能及び価格の変化を通じて需給が調整される機能が働くべきところ,供給者が実質的に供給量を制限することとなるようなカルテルを行い,もって当該市場における競争が実質的に制限されるに至っていれば,上記機能は発揮されず価格への影響が及ぶ。このことは,例えば,公定価格制度が採られ,かつ,当該公定価格がその商品の需給関係とは全く無関係に決定される仕組みとなっているというような極めて異例な状況がない限り,経済的経験則に照らして当然であり,実質的に供給量を制限するカルテルであることが立証されれば,それが対価に影響を及ぼすものであることは事実上推定される。
(イ) 以下のaないしcの要件を充足する独占禁止法第3条に違反するカルテルは,市場全体に対する供給数量が,カルテルなかりせば達成されたであろう供給数量を下回るという意味において,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たる。
a 独占禁止法第3条違反が認定された「一定の取引分野」それ自体が,供給量の増える可能性のあるものであること(以下「要件①」という。)
独占禁止法第3条違反が認定された一定の取引分野においても,もしもカルテルがなければ,供給量を増やすことができるということである。当該一定の取引分野が,公的規制などのカルテル以外の理由によって既に全体の供給量を増やすことができない市場であれば,その市場の性質からして,カルテルによって,供給量を制限することがあり得ないからである。
b カルテル参加者が,一定の取引分野全体への供給量を増やす能力を持つ者であること(以下「要件②」という。)
カルテル参加者が,もしもカルテルがなければ,一定の取引分野全体への供給量を増やす能力のある者であるということである。なぜなら,当該一定の取引分野自体は供給量が増える可能性のあるものであったとしても,カルテル参加者自身が,カルテル下における量以上の量を供給するだけの能力を有していないのであれば,カルテルが供給量を制限する効果を持つことがないからである。この要件の成否は,カルテル参加者全体で一定の取引分野全体への供給量を増加させることができるか否かという観点から判断されるのであって,カルテル参加者のうち一部の事業者に,当該事業者単体としては供給量を増やすことが不可能な者があることにより左右されない。
c カルテルが,要件②のカルテル参加者の一定の取引分野全体への供給能力の行使を制限するものであること(以下「要件③」という。) 問題となっているカルテルが,それ自体,要件②のカルテル参加者の一定の取引分野全体への供給能力の行使を制限する内容のものと評価できるものであることを意味する。問題となっているカルテルが,このような内容のものと評価できるものであるならば,当該一定の取引分野に係る市場における供給量が,当該カルテルがなければ実現されていたであろう水準よりも低位の水準となる可能性があるからである。
イ シェア配分カルテル
シェア配分カルテルは,前記第1の3(2)のとおり,カルテルに参加した事業者が,共同して,市場全体における実際の販売数量に占める割合をあらかじめ決定し,当該市場における実際の販売数量に占める割合が前記割合と一致するように事業活動を行う旨の合意であるから,以下の(ア)ないし(ウ)のとおり,必然的に要件③を充足する。
(ア) シェアは,事業者間の競争の結果として,市場全体における販売量と個々の事業者の販売量との比率として事後的に決まるものである。したがって,シェア配分カルテルによって事業者間で事前にシェアを決定し,実際にこれを実現しようとするならば,カルテル参加者は,必然的に,実現シェア基準時まで,市場全体に販売する量の予測・予定を立ててそれに基づいて行動せざるを得ない。そして,シェア配分カルテルで決められるシェアは,市場全体における販売予定量を分母とし,各カルテル参加者の販売予定量を分子とするものであるから,各事業者は,シェア配分カルテルを実施するに際しては,自己の市場への販売量を自己が自由に決定することはできず,飽くまでも,カルテルによって配分されたシェアが実現されるように販売しなければならない。そして,シェア配分カルテルによって決定された各社のシェアは,当該比率としてのシェアのみでは単なる題目にすぎず,実際にはその各社のシェアを達成するための各社の販売予定量を設定しなければならない。
また,決定されたシェアを実現できるように各事業者の販売量を設定するためには,分母である市場全体における販売予定量を取りあえずいったん固定(仮置き)しておかなければならない。ただ,この取りあえずいったん仮置きされた分母たる市場全体における販売予定量は,市場全体における総需要量予測としてカルテル参加者が設定するものではあるが,飽くまで分子,すなわち各社の販売予定量を算出するために仮に固定されたものであり,供給量の上限として合意されるものではない。仮置き数字が新たに設定されるまでの当面の目標として,当該仮置き数字から導かれる各カルテル参加者の販売予定数量は,各カルテル参加者にとってこれを超えて実際には販売してはいけない数量として機能する。また,各カルテル参加者にとってシェア配分カルテルを実施する上で販売数量の上限となる各社の販売予定数量の合計である仮置き数字は,結果として,市場全体における販売数量の上限として機能する。
(イ) シェア配分カルテルの下においても,具体的な市場の状況や時間の推移に伴って仮置き数字を変更・修正し,新たな分母を仮に固定した上で,それを前提に改めて決められたシェアを実現するための分子(各カルテル参加者の販売予定量)を設定し直すことは可能である。この修正を行う場合であっても,修正により新たな各カルテル参加者の販売予定量を算定し直すまでは,既に算出されている販売予定量は,それを超えて実際には販売してはいけない数量として機能することが各カルテル参加者によって認識され,それを超えて販売することは原則として許されないこととなる。なぜなら,それを許してしまうと,そのときに仮置きされている市場全体への販売予定量の下では,決められたシェア配分が達成できなくなってしまうからである。
言い換えれば,シェア配分カルテルにあっても,そもそも一度仮置きした市場全体への販売予定量を,何があっても修正せず,実際の市場における買い手のニーズ(実需要量)がそれを超えたとしても,それ以上は販売しないというもの(以下「仮置き数字固定型」という。)から,実際の市場における買い手のニーズ(実需要量)がいったん仮置きした市場全体への販売予定量を超えてしまう場合には,それに伴って仮置きした市場全体への販売予定量を逐次修正した上,そこから算出される各カルテル参加者の販売予定量を変更することにより,シェア配分(比率)は変えないまま,実際の販売予定量が実需要量を下回らないようにするもの(以下「仮置き数字修正型」という。)まで,様々である。しかし,そのいずれの場合においても,いったん仮置きした市場全体への販売予定量を基に算出された各カルテル参加者の販売予定量は,少なくとも新たな販売予定量を算定し直すまでは,それを超えて実際に販売してはならない上限として機能することには変わりはない。
そして,このような上限としての機能は,その上限についてカルテル参加者間で合意していなくても,飽くまでも,シェア決定に際して分母となる数値を設定することに伴う効果として発生するのである。
(ウ) また,シェア配分カルテルの参加者が,当該カルテルによって配分されたシェアを実現しようとすると,少なくとも,他社よりもコスト競争力なり営業競争力なりに優れた事業者は,カルテルがない状態,つまり競争が機能している状態であれば獲得し得たであろう販売量を自己抑制して,低位の水準に抑えることが要求される。すなわち,シェア配分カルテルの参加者が当該カルテルを実施するに際しては,カルテルによって配分されたシェアが実現されるように販売しなければならず,そのためには,各参加者に配分されるシェアの前提となった市場全体における販売量から算出される各社の販売予定量に一致するように,特に競争力の強い事業者は当該販売予定量を上回らないように販売活動を行わなければならないので,シェア配分カルテルがカルテル参加者について実現される各社の販売量の縮減効果を有する。かかる効果は,シェア配分カルテルの合意から導かれるものであって,シェア配分カルテルに供給量制限合意を伴わなくとも生じるものである。
(エ) さらに,各事業者は,競争が機能している状況下では,コスト競争力などの優劣にかかわらず,受注活動を行おうとする限り,受注に成功した場合の供給を確保するため,実際には受注に失敗することで無駄になるかもしれない量に対応するものも含めて,受注を期待する数量に応じた量の在庫を保有する必要がある。しかし,コスト競争力を有する事業者にとっては,シェア配分カルテルによって販売量が競争下で予測されるよりも低い水準に制約される一方で,当該制約された販売予定量を実際に販売し切ることは相当程度保証され,かつ,保証される販売量の水準が事前に明らかになっているため,シェア配分カルテルの参加者にとっては,保証された販売量に見合った在庫量を確保しておけば十分であり,意に反して抱え込んで余分な在庫となるかもしれない商品を保有する必要がなくなる。各事業者は,自己の販売見込数量に見合った自己の在庫量を想定して,自己の生産数量を調整するため,シェア配分カルテルは,特にコスト競争力のある事業者にとっての実現される販売量の縮減効果とともに,各カルテル参加者の在庫量も縮減する効果を有する。
(オ) 以上のとおり,シェア配分カルテルは,一定の取引分野全体への供給量を増やす能力を有する事業者について,必然的に,在庫量を含めた各社の供給量をカルテルがなかった場合に比べて低位の水準に抑えるものということができるので,これら事業者の一定の取引分野全体への供給量を増やす能力を有するカルテル参加者の一定の取引分野全体への供給能力の行使を制限する内容のものと評価することができ,要件③を充足する。
したがって,シェア配分カルテルは,要件①及び②を充足する場合には,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当することとなる。
(2) 被審人3社の主張
ア 被審人クボタ
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項の解釈
a 独占禁止法第7条の2第1項は,カルテルによる不当利得を得ていることが明白かつ確実なカルテルの典型例として価格カルテルを挙げ,これと実質的に同視し得るものとして供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルを挙げている。これは,価格カルテルのみを課徴金納付命令の対象行為とすると,価格に強い影響を与える事項についてカルテルを行うことで実質的に価格を操作し利益を得るという脱法行為を許してしまうこととなるから,価格に強い影響を与える事項として供給量を選び,それを制限するカルテルが課徴金の対象となるカルテルに加えられたものである。
すなわち,一般的な市場においては,価格の変動と供給量及び需要量の変動は密接な関係があり,このような関係を背景として,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルはその性質上,価格カルテルと実質的に同視し得るものとして,課徴金賦課の対象とされたものである。直接的に供給量を制限するカルテルがこれに当たることは論を待たないところであるが,解釈上の拡張として,供給量を制限する効果を有することが類型的に明らかなカルテルもこれに含まれることに合理性があるので,法は,このような類型的なものも含まれることを明確にするために,「実質的に」という表現を加えているのである。
そして,供給量と価格の関係は,一般的・典型的な市場構造(例として,需要と供給によって価格が決定される完全競争市場が挙げられる。)において妥当する議論であり,その他の要因(典型例として,法令による価格の統制などが挙げられる。)により必ずしもすべての市場において供給量の制限が価格に影響を与えるわけではない。そこで,法は,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルの内容として,供給量の制限のみならず,供給量の制限によりその対価に影響があるものという限定を付しているのである。
b 一般に,市場への供給量を制限するカルテルにおいては,例えば業界全体又はカルテル参加者全体の年間生産数量を決定してそれを一定の比率(多くの場合には市場におけるシェア)に従って各参加者に生産量として割り当てる,という方法でその目的を達成している。この場合には,販売量そのものは制限の対象にせず,生産量を制限することにより市場への供給量を制限するという構造になっている。その結果として市場における需給関係をタイトに誘導して価格への影響を与えようとしているのである。このような需給メカニズムを介した価格への影響が明らかに認められる関係の存在が独占禁止法第7条の2の要件事実となっている。 
したがって,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルは,およそカルテルであって供給量に影響があるものであれば何でもよいというのではなく,例えば,共同して設備の廃棄を行う場合などのように,カルテルの実施によって供給量の制限を直接もたらすことが類型上明らかなものに限られるというべきである。
c また,独占禁止法第7条の2が,課徴金の賦課という不利益を国民に負わせ,実質上刑罰にも類する制裁的措置であることに照らすと,同条項の解釈は明確かつ限定的になされなければならない。供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルは,対価に影響を及ぼすような供給量の制限,すなわち需給を逼迫させる供給量の制限を必要とすると解すべきである。
d さらに,公正取引委員会は,従来,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルについて,「価格カルテル及び価格に影響があることが明白かつ直接的なものに限る」という整理をして法運用をしてきている(審A第10号証)ところ,対価に影響があることが不明確かつ間接的なシェア配分カルテルを,従来の解釈・運用の限度を逸脱して,課徴金の対象とすることは,極めて恣意的かつ違法な法運用であり,また,前記cのとおり,同条が課徴金の賦課という不利益を国民に負わせるものであり,実質上刑罰にも類する制裁的措置であることに照らすと,罪刑法定主義の理念に従い,実質的に事後法に当たるような同条項の運用は許されるべきではない。
e 一般に市場に供給される商品又は役務の量(供給量)は,一定の期間に供給される量として測定されるものであって,いわゆる「フロー」として把握される量をいう。これに対し「在庫」とは,ある一定時点における有り高として測定されるものであって,いわゆる「ストック」として把握される量をいう。市場における供給量は,通常,市場全体として把握した販売量ないし生産量として説明され,在庫を供給量に含めることをしないのであるから,独占禁止法第7条の2第1項の解釈として,「市場における対価に影響する供給量」は「販売量」とするのが適切である。
f 審査官は,供給量を制限すれば対価に影響があることが強く推定されるとして,対価への影響についての立証を不要と主張する。しかし,そもそも,行政機関が国民に不利益処分を課そうとする場合において,その根拠となる法律要件に該当する事実は,法律によって立証責任の転換がなされない限り,すべて当該行政機関の側で主張立証すべきことが行政法の大原則であり,処分の根拠となるべき法律に定められた要件の一部が,他の法律上の根拠もなく要証事実から抜け落ちるなどあり得ない。
また,本件後の平成17年4月27日に成立した改正法は,独占禁止法第7条の2の「対価に影響があるもの」との規定を「対価に影響することとなるもの」と改めており,これは対価への影響の存在を蓋然性のレベルで足りるとしたものと解されるところ,それとの対比においても,独占禁止法第7条の2の規定は,審査官に対し,違反行為によって現実に「対価に影響」が生じたことを,因果関係を含めて立証することを求めていると解すべきである。
(イ) シェア配分カルテルについて
a 本件カルテルのように,供給量制限合意も伴わず設備廃棄合意や設備能力の制限合意も伴わないシェア配分カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たらないことは論ずるまでもない。もともと,シェア配分カルテルは,価格カルテルや数量カルテルを行う際にその補完的な手段として行われるシェア固定の合意がほとんどすべてを占めており,独立して行われることは事実上ないというに等しいのである。本件は,独立して行われたシェア配分カルテルというまれな例に属し,しかも,独占禁止法第3条にいう一定の取引分野における競争の実質的制限の効果が曲りなりにも認められた,極めて特殊な例なのである。
本件カルテルの下における市場の供給状況が,見込需要を大幅に超過する実際の需要に対しても過剰在庫と評価し得るような十分な運転在庫を保有して,円滑に対応していたという実態であったことは,シェア配分カルテルが何ら供給量を制限する効果を伴わないという被審人クボタの主張を実態面から裏付けているのである。
b シェアそのものは,審査官が主張する仮置き数字を決めなくとも,過去の販売実績などの統計数字で割り出せるものであるし,極端な場合には計算根拠を示すことなく単に比率を確認するだけでもよいのであるから,単なる比率に基づいてシェア配分カルテルを行うことは容易である。
また,価格カルテルの実現を図る補助的手段としてシェア配分カルテルを行う場合には,仮置き数字や仮置き数字の数量制限機能などを問題とすることもない。仮置き数字はシェア配分カルテルにおけるシェアの決定には必須のものではなく,また仮置き数字が数量制限機能を持つことも自明ではない。どのような内容のカルテルを形成するかは,カルテル参加者の協議と合意によって決するものである。すなわち,審査官が主張するような比率によって定めた枠が数量枠としても機能するという効果は,市場全体を対象としたシェア配分カルテルから必然的に生ずるものではなく,シェア配分時点で確認されている需要見込量に数量の制限枠としての意味を合意によってもたらせることにより,初めて生ずることが期待できるというべきである。需要見込量をどのように取り扱うかは専ら協定の合意内容によるのであるから,「比率によって定めた枠が数量枠としても機能する」ようにするのであれば,需要見込量と配分シェアによって計算された数量が合意されていること,すなわち,シェア配分カルテルに付加された数量の取扱いに関する合意が存在しなければならないのである。
c 以上から,数量制限合意を伴わないシェア配分カルテルは,およそ供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得ないというべきである。
イ 被審人栗本鐵工所
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項の解釈
昭和49年9月18日の独占禁止法についての公正取引委員会改正試案において,課徴金が賦課されるカルテルは,値上げカルテルに限定されていたが,その後,昭和50年4月25日に提出された政府案では,値上げカルテル以外のカルテルも対象とすることになった。しかし,そこには,飽くまでも「対価に係る」,「対価に影響のある」という限定が加えられているのである。すなわち,カルテルを防止する必要性はすべてのカルテルに共通であり,課徴金の対象についてもすべてのカルテルを対象とする選択もあり得たところであるが,あえてそうせず「対価に係る」,「対価に影響のある」という限定を付したのは,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは,供給量の制限という手段により価格に影響を及ぼすという点で価格カルテルと同様の効果を持つカルテルをいうと考えたからであり,この趣旨は,同条項の解釈に反映されなければならない。
とすれば,独占禁止法第7条の2第1項に該当するカルテルとは,「供給量の制限という手段により価格に影響を及ぼすという点で価格カルテルと同様の効果を持つカルテル」をいい,当該カルテルの対象とされた市場の全体の供給量を制限する効果を持つかどうかを具体的に判断する必要がある。
(イ) シェア配分カルテルについて
a その性質上,価格や数量を直接左右するものではなく,シェアだけを決めるシェア配分カルテルの下においては,供給量は需要に応じて増加し得るので,市場の供給量を左右するものではない。
b 改正法により,独占禁止法第7条の2第1項において,「商品又は役務について」「市場占有率を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの」が追加された。改正前には,「対価に係るもの」又は「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」のみを課徴金の対象としていたのである。
公正取引委員会ホームページに掲載されていた「独占禁止法研究会報告書について」の別紙「独占禁止法研究会報告書のポイント」4頁における「○課徴金の適用範囲の拡大」の項に,明確に「シェア・カルテル,取引先制限カルテル,購入カルテル,対価に係る私的独占,競争事業者を排除する私的独占等」と記載されていることや,平成15年10月に独占禁止法研究会から公表された「独占禁止法研究会報告書」によれば,シェア配分カルテルを課徴金の対象とした改正法による改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「改正後の独占禁止法」という。)第7条の2第1項第2号ロは創設的規定と解するべきであり,したがって,本件違反行為当時における独占禁止法第7条の2第1項の解釈においては,シェアだけを決めるシェア配分カルテルは対象とされていないと解釈すべきである。
シェア配分カルテルが改正法以前においても当然に課徴金の対象となるのであれば,改正によりおよそ「市場占有率」の条項(改正後の独占禁止法第7条の2第1項第2号ロ)を追加する必要は全くないのであり,審査官の主張は,上記改正の経緯からみて整合性を欠く解釈に基づくものといわざるを得ない。
c 審査官が主張する仮置き数字固定型は,いわば数量カルテルそのものであって,シェア配分カルテルではない。なぜなら,仮置き数字固定型では分母が固定され,シェアを出すとともに,それに対応した実際の販売数量に置き換えることになるが,それは正に数量カルテルにほかならないからである。したがって,審査官の主張する仮置き数字固定型は,そもそもシェア配分カルテルとは関係がなく,かかる主張自体失当である。
審査官が主張する仮置き数字修正型のシェア配分カルテルは,カルテル参加者の販売量の上限を画する機能は有しておらず,また,被審人3社にはその認識もないこととなる。このことは,仮置き数字修正型のシェア配分カルテルは,供給量を制限しないという結論を導くはずである。
d したがって,シェア配分カルテルが,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当することはあり得ない。
ウ 被審人日本鋳鉄管
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項の解釈
独占禁止法第7条の2第1項の「供給量を制限する」を「市場への供給量に限界・限度を設け,その上限枠の中に抑える」の意に解すれば,そのような供給量を制限するカルテルは,価格に影響を及ぼすことが明らかであり,類型的・定型的にも価格カルテルと実質的に同一の効果を有するものと認め得るから,課徴金賦課の対象とすることが正当と評価できることとなる。「供給量を制限する」とは,そうした「価格カルテルと実質的に同一の効果を有するカルテル」が抽出されるよう絞りをかけた文言である。すなわち,独占禁止法第7条の2第1項が課徴金賦課の対象として「対価に係るカルテル」と並べて「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるものをしたとき」を規定しているのは,そのように規定することにより,課徴金賦課の対象を価格カルテル及び価格カルテルと実質的に同一の効果を有するカルテルに絞り込み,それらを課徴金の対象として抽出するとの観点から絞りをかけたものであるから,安易に拡張解釈されるべきではなく,文言に忠実に,かつ,厳格に解釈されるべきである。
そのことは,改正法を巡って日本経済団体連合会等から寄せられた「シェア・取引先を制限するカルテル等を新たに課徴金適用の対象に加える理由が不明。」との意見(コメント)に対し,公正取引委員会がそれらのカルテルを新たに課徴金の賦課対象に加え拡大を図った理由を説明するに当たり,改正前の課徴金対象行為の性格について,「現行の課徴金対象行為は,課徴金制度創設時において,価格引上げカルテルが頻発していた状況に対応するということを念頭に,課徴金の対象については,価格カルテル及び価格に影響があることが明白かつ直接的なものに限るという整理がなされたことによる」という考え方を公表していることによっても裏付けられる。
(イ) シェア配分カルテルについて
a 改正法に向け,公正取引委員会が公表した平成16年5月19日付け「独占禁止法改正について」の添付資料3「独占禁止法改正(案)の考え方」には,改正前の独占禁止法上の課徴金の賦課対象として「入札談合,価格・数量カルテル」との記載があり,改正(案)に関しては,「入札談合,価格・数量・シェア・取引先を制限するカルテル/私的独占,購入カルテル」との記載がある。これらは明らかに,改正前の独占禁止法第7条の2第1項が課徴金の賦課対象として規定するのは「入札談合,価格・数量カルテル」のみであるが,改正によりそれを「シェア・取引先を制限するカルテル」も含むようにその拡大を図った,との趣旨と解することができる。
公正取引委員会が課徴金の納付を命じたシェア配分合意の事案をみても,およそ各社のシェアのみを協定したというシェア配分カルテルの事案は見当たらない。
b シェア配分カルテルは最終的な総需要に対する参加者の供給量の割合を協定するものにすぎないから,審査官も認めるとおり最終的な総需要数量が確定しない限り各カルテル参加者のシェア配分に相当する供給量は把握し得ない。したがって,仮に審査官が主張するような「いったん仮置きした販売予定量」なるものを想定したにしても,それは飽くまで「仮」の「暫定的な」ものにすぎず,それ自体がいわば総需要予測の変動に伴い幾らでも変動し更新され続けていく性格のものである。しかも,それは事業者の意思や思惑に左右されることなく動くものである。したがって,そうしたそれ自体が動いてしまうものを指して,限度・限界というのは甚だ言葉のルーズな用法であり,限度・限界の意味を実質的に骨抜きにする許されざる拡張解釈であり,供給量を制限するとの解釈の範囲を超える。
2 争点2(本件カルテルは供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たるか否か。)について
(1) 審査官の主張 
ア 本件カルテルが,要件①ないし③を充足することについて
(ア) 本件カルテルの対象であった本件市場は,以下のa及びbのとおり,独占禁止法第3条違反が認定された「一定の取引分野」それ自体が,供給量の増える可能性のあるものであり,要件①を充足する。
a 被審人3社は,ダクタイル鋳鉄管直管を生産するために何らかの許認可を受けることを必要としているわけではなく,また,生産した商品の全部又は一部について販売できる状態に置くことのできないような特段の事情もない。
b ダクタイル鋳鉄管直管については,小口径のもの及び中口径のものの一部を中心に見込生産を行う割合が高く,見込生産は,被審人クボタにあっては全生産量の約67パーセント,被審人栗本鐵工所にあっては全生産量の約77パーセント,被審人日本鋳鉄管にあっては全生産量の約71パーセントを占めている。また,各社は,生産量あるいは計画生産量に対して,約13パーセントから約25パーセントの在庫を保有している。これらのことから,ダクタイル鋳鉄管直管は,在庫を保有して販売する商品であって,決してすべてが特注品で確定的な受注があるまで生産に着手しないような商品ではないのであり,本件カルテルの対象であった本件市場は,それ自体,供給量を増やすことができるものであることが認められる。
(イ) 本件カルテルは,以下のaないしcのとおり,カルテル参加者である被審人クボタ,被審人栗本鐵工所及び被審人日本鋳鉄管のいずれも,本件カルテルの実行期間中,ダクタイル鋳鉄管直管について,一定の取引分野全体への供給量を増やす能力を持つものであり,要件②を充足する。
a 被審人クボタの最大月産能力は,4万4150トンである。他方,平成9年度の一月当たりの生産実績は,3万2260トンで,これを上記最大月産能力と比較した稼動率は73.1パーセントとなる。
被審人栗本鐵工所の堺工場における平成9年12月以降の稼動体制の下における生産能力は,月9300トンである。また,加賀屋工場における当時の稼動体制の下における生産能力は,月4800トンであるが,稼動時間を増やすには残業で対応せざるを得ないため,増産には限りがある。これに対し,同社の平成9年度における生産量は15万9641トンで,前述の一月当たり各生産能力から算出される年間生産能力と比較した場合の稼働率は,加賀屋工場の残業による稼動時間の増加が全くないと仮定したとしても,94.4パーセントとなる。
被審人日本鋳鉄管については,平成10年度時点における通常の生産量は一日当たり240トンであり,これに同年度における月間の平均稼動日数20日を乗じれば月間4800トンは生産可能であるということができる。これに対し,平成10年度の生産計画は,年度合計で5万198トン,すなわち,月間4183トンである。したがって,同社の平成10年度における稼動率は87.1パーセントとなる。
b したがって,少なくとも,被審人クボタは,平成9年度において,一月当たり1万1890トン(最大月産能力である4万4150トンから,平成9年度における生産実績である3万2260トンを控除したもの),被審人栗本鐵工所は,平成9年度において,一月当たり797トン(最大月産能力である1万4100トンから,平成9年度における一月当たり生産実績[15万9641トン÷12=1万3303トン]を控除したもの),被審人日本鋳鉄管は,平成10年度において,一月当たり617トン(最大月産能力である4800トンから,平成10年度における月間計画生産量である4183トンを控除したもの)の供給余力を有していたこととなる。
c また,実際にも,平成8年度においては,阪神・淡路大震災の復興に伴う水道工事量の増加に伴うダクタイル鋳鉄管直管の需要見込数量が当初の予想をはるかに上回ることとなったほか,年度当初には予想していなかった神奈川県広域水道企業団による大量の発注があったことから,同年度においては,実際の需要量は56万105トンと,当初需要見込数量51万4700トンを大幅に上回る事態が生じたが,このような状況の下でも,被審人3社は,当該需要増に対応して供給を行うことができた。
(ウ) a 主位的主張
本件カルテルは,シェア配分カルテルであり,前記1(1)イで述べたとおり,当然に要件③を充足する(以下,この主張を「主位的主張」という。)。
b 予備的主張
仮に,審査官の主位的主張が認められないとしても,本件カルテルについては,以下の(a)ないし(g)の事実があるので,正に前記1(1)イに述べた仕組みを実践するものであるといえ,要件③を充足する(以下,この主張を「予備的主張」という。)。
(a) 被審人3社が,我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給者のすべてであること
(b) ダクタイル鋳鉄管直管は,メーカーによって品質に差異がなく,価格以外の付加価値による差異がないこと 
(c) 被審人3社は,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を極めて正確に見積もっていたこと
被審人クボタの東京本社鉄管営業部第一部第一課長の小林悠貴(当時。以下「被審人クボタの小林」という。),被審人栗本鐵工所の鉄管事業部東部営業部東京営業一課長の友雅男(当時。以下「被審人栗本鐵工所の友」という。),被審人日本鋳鉄管の営業本部営業一部次長の白石一二(当時。以下「被審人日本鋳鉄管の白石」という。)の3人(これら3人を併せて,以下「小林ら3人」という。)は,平成8年度,平成9年度のいずれについても,総需要見込数量の算定に当たっては,地区ごと,また,東京では発注事業体ごとに精緻な見積りを行い,各社の担当者から報告された総需要見込数量の妥当性についても細かく検討し,現実に発生するであろう需要量にできる限り近い数量を見込むべく,慎重を期して算出を行っていた。平成8年度について,年度途中に見直しを行った際にも,同様の手順を繰り返して,詳細な算出を行っていた。この結果,被審人3社は,平成5年度から9年度までの期間において,阪神・淡路大震災による大規模な復興需要等の変動要因があったにもかかわらず,受注実績との乖離が1.2パーセントないし5.2パーセントという精度の高い需要見通しを行っていたのである。
総需要見込数量の算定の対象となる取引が我が国全体におけるダクタイル鋳鉄管直管の取引であることを踏まえると,受注実績との乖離が結果的にわずか数パーセントの範囲にとどまっていることは,被審人3社が極めて正確な見積りを行っていたと評価するに十分である。
(d) 被審人3社はダクタイル鋳鉄管直管の実際の販売量を頻繁かつ詳細に報告し合っていたこと
小林ら3人は,最終的に年度配分シェアどおりの受注数量となるよう調整するために,資料を作り,毎月,受注予定数量と実際の受注数量の相違等を把握していた。小林ら3人は,毎月,被審人3社の各地区の営業担当者から送付される受注実績の報告を基に作成された表の送付を受けて,年度配分シェアの達成状況を管理していた。
(e) 被審人3社は,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を柔軟に変更していたこと
各社の年度配分シェアは,全国の総需要見込数量に各社の基本シェアを乗じて得られる数量に,前年度における総販売数量に各社の配分シェアを乗じて得られた数量と受注実績との間の過不足分を加減した数量を分子として,これを全国の総需要見込数量で割ることにより決められるものであり,受注調整を行う上で基本となるものであった。
しかし,全国の総需要見込数量と発注実績が大きく食い違った場合,また,前年度の繰越量のウェイトが変わり,従って配分されるべきシェアも変わってくるような場合には,この年度配分シェアを見直すこともあった。
実際,平成8年度には,当初は全国の総需要見込数量は51万4700トンとされ,また,各社のシェアについては,被審人クボタ62.85パーセント,被審人栗本鐵工所26.97パーセント,被審人日本鋳鉄管10.18パーセントと決定されたが,実際の発注量はこれを大幅に上回ることが見込まれたため,同年度の総需要見込数量は53万5000トンとされ,これに基本シェアを乗じて得た数量に前年度の過不足を加減して算出される各社の受注予定数量及びそのシェアは,被審人クボタ62.85パーセント,被審人栗本鐵工所26.98パーセント,被審人日本鋳鉄管10.17パーセントと修正された。
なお,審査官は,総需要見込数量を必要に応じて柔軟に変更する仕組みにより,被審人3社が本件カルテルをより実効性のあるものとしていたことを主張しているのであって,実際の変更の頻度ではなく,かかる仕組みの存在自体が,供給量制限との関係で意味を有するものである。
(f) ある年度において,決定された年度配分シェアに基づく販売予定数量を被審人3社のいずれかの販売数量が上回った場合には,翌年度の年度配分シェアを決定する際に当該超過分が販売予定数量から差し引かれること
年度配分シェアは,全国の総需要見込数量に被審人3社の基本シェアを乗じて得られる数量に,前年度における計画上の受注数量と受注実績との間の過不足を加減することにより決定されていた。被審人3社は,本件カルテルの実施方法を踏まえ,また,年度配分シェアを超過したことにより,翌年度の年度配分シェア決定に際して,受注予定数量から前年度分の年度配分シェア超過分が差し引かれるという事態を回避するため,年度配分シェアの遵守を図るために東京地区の直需分野を中心に受注予定者を決定したり,販売業者の営業活動に関与する等して年度配分シェアを厳密に遵守すべく取り組んできた。
(g) 被審人3社は高い利益率を享受し,それが生産管理の容易さと過剰在庫の圧縮によるものであるとの認識を有していたこと
(エ) 被審人3社は,本件カルテルの調整担当者がその年度における総需要見込数量の見積作業に着手する時点(平成8年度及び平成9年度いずれにおいても5月の連休明けころ)より前の時点で,各支店から情報を集めて,販売計画を策定し,これを生産計画に反映させているところ,このときのデータは,需要先別に,管種(査第48号証によれば,業界においては,細かい管種をグループにまとめたものを「機種」と呼んでいることが認められるが,「管種」というときはこの機種を指すこともある。以下同じ。)・口径別にトン数ベースで表されたものとなっている。本件カルテル実施のための数値も,上記のデータを基に,更にその後に判明した最新の情報を加味して策定している。また,本件カルテルにおける総需要見込数量の見積りに当たっては,各地区の営業担当者による地区レベルでの調整を経た上での数字が東京の本件カルテルの調整担当者に報告されている。
このような被審人3社の生産計画の策定方法及び本件カルテルの需要見込数量の策定方法を踏まえると,各社が,本件カルテルにおいてトン数ベースでみたシェアしか配分されなかったとしても,その販売シェアに基づく販売予定数量を具体的な管種等ごとの販売計画・生産計画に還元するための基礎となる情報を有していることから,本件カルテルの内容が具体的な管種等ごとの販売計画・生産計画に反映されていくのであって,それに応じて生産数量と販売数量の差である在庫量も具体的な管種等ごとに決まってくるのである。
イ 対価影響性
本件カルテルに関しては,前記アのとおり,「実質的に商品の・・・供給量を制限する」に当たることが認められるので,前記1(1)ア(ア)で述べたとおり,「その対価に影響がある」ことは推認することができる。
仮に,本件カルテルに関して,そのような推定をすることができないとしても,本件では,被審人3社が本件カルテルを取りやめた時期の前後を通じたダクタイル鋳鉄管直管の入札価格の推移等からみて,本件カルテルが,「対価に影響がある」ものであったことは明らかである。
ウ 以上より,本件カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たる。
(2) 被審人3社の主張
ア 被審人クボタ
(ア) 本件カルテルの供給量制限効果について
a 本件カルテルは受注数量に係る単なる配分比率の合意たるシェア配分カルテルであって,審査官がいう上限機能を有する仮置き数字の設定を伴うことになるシェア配分カルテルには該当しない。
すなわち,本件カルテルは,①当該年度のダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を,使用鋼材のトン数ベースで,小林ら3人の間のみで予測して決定し,②それを被審人クボタ63パーセント,被審人栗本鐵工所27パーセント,被審人日本鋳鉄管10パーセントの基本配分シェアで按分した数量を算出し,③前年度の実績受注総数量に,各社の前年度の配分シェアを乗じて算出した数量と各社の受注実績数量との乖離分を算出し,④上記②の結果に③の結果を加減算して得た各社の数量の比率を当年度の各社の年度配分シェアとして合意したものである。
そして,この年度配分シェアが被審人3社の実際の事業活動に関して使用されたのは,直需分野の受注予定者決定基準の一つとされた程度にとどまる。審査官が提出した証拠上そのような事実が概括的に認められるのは,東京都水道局発注分を除く東京地区の直需分野(以下「東京地区の一般直需分野」という。)と北海道地区の直需分野(札幌市及び函館市の発注分)についてのみである。この両地区については,年度の終盤から年度末(おおむね1月から3月)にかけて,年度配分シェアのつじつま合わせをするために,東京地区の一般直需分野については全国の年度配分シェア,北海道地区については北海道地区の地区配分シェアについて,シェア未達の業者に優先的に割り当てたり,翌年度の受注分の一部を計算上付加したりするなどの方法が採られていたことを示しているにすぎないのである。
以上述べた本件カルテルの実態によれば,年度配分シェア算定の際に予測した総需要見込数量は単に年度配分シェア計算のために設定されたものであって,その供給量の上限を画する機能については全く意識されていなかったこと及び本件カルテルは単に受注数量の比率を定めた合意にすぎず,審査官の主張するような機能を有する仮置き数字は全く存在していないことが明らかである。
本件カルテルのように仮置き数字に数量制限機能がない場合には,シェア算定の分母となる数量は年度内に受注された数量の総合計ということになるが,その結果は年度の集計をしてみないと判明せず,年度の途中においては受注数量の過不足を確定することができない。したがって,年度末の一時期を除き,通常の営業活動においては年度配分シェアと受注実績数量との関係において受注予定者を決めることができないのである。このことは,日常的な営業活動において自社が受注活動を抑制すべきか否かを判断することができないことを示しており,本件カルテルにおいては,供給量制限効果が生じる余地がない。
b また,実際の市場における被審人3社の事業活動は,需要に対しては常にこれに応じて円滑に供給・販売するというものであって供給量を制限するものではなく,間需分野においてはそれぞれの営業戦略に基づいた販売チャネルの確立・維持とその効率的な活動を助長する様々な施策を通して激しい競争が行われており,本件カルテルによる受注数量制限の効果や,受注数量制限を目指した行動は全くみられない。市場における実際の需要量に応じて速やかに供給(販売)するという各社の対応があったことは,総需要見込数量を大幅に超過する実績需要量(受注量)がごく自然に達成されていることからも明らかである。
また,ダクタイル鋳鉄管直管の市場において,需要者である水道事業者が思うように製品の購入ができなかったという事実は存在しない。被審人3社の意識としては,ダクタイル鋳鉄管直管の供給に支障を来すことは需要者である水道事業者に迷惑をかけ,ひいてはライフラインの構築を阻害するという重大な社会問題にもつながりかねず,その場合には被審人3社そのものの社会的信用を失墜させることになるので,本件カルテルを実施するにしても需要に対応した円滑かつ確実な供給を行うことが大前提となっていたのである。
本件カルテルの下における市場の供給状況が,見込需要を大幅に超過する実際の需要に対しても過剰在庫と評価し得るような十分な運転在庫を保有して,円滑に対応していたという実態であったことは,本件カルテルが何ら供給量を制限する効果を伴わないことを実態面から裏付けている。
c 以上のとおり,本件カルテルでは,①小林ら3人の間で検討・決定された総需要見込数量が,単に年度配分シェアを計算するための過程における数字にすぎず,総需要見込数量と実際の需要数量は,ほとんどの年度において相当量の食い違いを生じており,到底正確な見積りということはできないこと,②総需要見込数量に基づく計算をしたのは,前年度の年度配分シェアの実績上の過不足を年度配分シェアに反映させるために,単なる比率を数量に置き換える計算上の必要性があったためにすぎないこと,③前年度配分シェア実現の過不足の議論に際しては,前年度当初の総需要見込数量に触れたことは一切なく,実績としての総受注量とその中における受注シェアのみが問題とされていたこと及び,④年度途中の受注実績の集計から,年度途中において合計した受注数量やその中における自社の受注数量に基づいて,実際の自社の販売活動を抑制したり強化したりという行動を採った等の事実は認められないこと(唯一,年度配分シェアの帳尻合わせをするため,年度末の1月ないし3月の時期に,東京地区の一般直需分野と北海道地区の直需分野における落札・販売業者の地位を,シェア未達の業者に優先して割り当てていた事実が存在するのみである。それも,総需要見込数量には全く触れていない。)ことから,年度配分シェアの合意に際して設定されていた総需要見込数量について,供給量制限機能を有する仮置き数字が合意されたと解する余地は一切ない。
また,平成8年度の需要見込数量は53万5000トン(修正後)に対し,受注実績は56万268トンであり,平成9年度の需要見込数量が52万4000トンに対し,受注実績は52万7691トンであることからすれば,被審人3社が行った総需要見込は正確な予測とはいえない。
d 仮に仮置き数字に販売数量制限機能があったとしても,多種多様な製品が存在するダクタイル鋳鉄管直管の市場を前提とした場合,使用する鉄材の数量による市場に対する販売数量を仮置き数字とするシェア配分カルテルは,在庫数量を含めた市場に対する供給量を制限する効果を有しない。なぜなら,各社は販売可能数量の上限に達するまでは,管種・口径にこだわらずに自由に販売でき,生産する管種・口径と需要のある管種・口径が一致しない場合には,供給過多の製品をそのままにして供給不足の製品を追加的に製造して販売することができるから,製品の管種・口径別に観察すれば,常に供給過剰状態(見込み外れによる過剰在庫の発生)が生ずる可能性を否定できないからである。また,このような需給の不一致は営業局面における個別企業の判断によるものであって,シェア配分カルテルの有無とは無関係に生じ得るものである。
すなわち,販売する商品の種類などを全く考慮の外においた使用鉄材のトン数のみの仮置き数字では,上記のとおり,市場に対する具体的な商品の販売量を制限する機能がないのであるから,個別商品について生ずる需要との過不足(作り過ぎや欠品)の発生を阻止することはできない。ダクタイル鋳鉄管直管の場合は,仮に鉄材の数量で保証された販売量の水準が存在しても,それは具体的な製品の販売を何ら保証するものではない。ましてや,大量に消費される標準品は,審査官が指摘するとおり見込生産であるから,適切な在庫とそれを支えるに必要にして十分な生産を行うという立場からは,販売数量の配分シェアは実際の生産量や在庫量に何ら影響がないのである。
また,被審人クボタにおいては,鉄管事業部の年度の事業計画(受注計画,生産計画,出荷計画,利益計画等)は,全国の営業担当者からの情報だけでなく,過去の実績,予算の執行状況,景気の動向等をはじめとする経済情勢など膨大な情報を収集し,多くの人員と時間を投入してその調整を行い,生産部門とも協議・調整を行って策定しているものであること及び同被審人の全社的な観点から鉄管事業部に対して要求されている利益目標を踏まえて鉄管事業部の事業計画が策定されていることに照らせば,本件カルテルとそれに関連するシェア配分担当者らの活動と同被審人の現実の事業活動の間には関連性が全く認められない。
(イ) 審査官の主張に対して
a 本件カルテルが,審査官が主張するような効果を有するシェア配分カルテルに該当するかどうかは,実際に被審人3社が行った合意が,審査官のいう仮置き数字をその要素とするシェア配分カルテルであったという事実を主張するものでなければならない。また,その事実の存在を立証する実質的証拠が存在しなければならない。
しかるに,本件カルテルが,供給量の上限を画する機能を有する仮置き数字を要素とするものとして認識されていたこと,その前提で合意が形成されていたことを認めるに足りる証拠は存在しない。
本件では,①総需要見込数量の正確性について誤差が生じていること,②年度途中における誤差調整の協議などを行う場が設けられていないこと,③年度配分シェアやその計算過程で了解された総需要見込数量が,被審人クボタの生産・受注・出荷等の事業活動に直接影響する構造になっていないこと,④同被審人の事業活動が,年度配分シェアとその計算の前提となった総需要見込数量から算出される販売可能数量に基づいて行われたことを示す実質的証拠が全く存在しないことからすれば,数量制限機能を有する仮置き数字を合意した事実はない。月次の受注実績を把握しても,期中においてはシェアの達成状況を示すものではなく,シェア達成の過不足調整の手段とすることも不可能であり,供給量の制限に結びつくものではなく,また,平成8年11月に行われた総需要見込数量の見直しも,前年度の繰越しを考慮した場合に年度配分シェアの計算に大きな相違が生ずるかどうかを確認し,同時に,旺盛な実需に合わせた受注実績を基礎として計算した年度配分シェアとの乖離分を,東京地区の一般直需分野で対応し切れるかどうかの見直しをしたものであって,販売可能量の上限を決め直す趣旨ではない。
ダクタイル鋳鉄管直管の需要の80パーセントは,水道工事を受注した工事業者によるものであるところ,これら工事業者にとっては,水道工事の進捗に応じて随時必要な管材を工事現場に届けること,積算や工場計画策定上の技術協力を行うこと等の付随的なサービスが重要な付加価値となっているのであり,ダクタイル鋳鉄管直管には品質に差異がなく,価格以外には付加価値がないものではない。
また,ダクタイル鋳鉄管部門の利益率を超える部門は多数存在するのであり,本件カルテルがその利益率に影響したことはない。
b 本件の審判長は,第13回審判期日において,本件カルテルはシェア配分及び供給量調整のカルテルであるとの審査官の第10回準備書面における主張を制限し,審査官に対し,本件カルテルはシェア配分カルテルであるとの審査官の第9回準備書面以前の主張に沿って主張を整理することを指示する旨審判指揮した(第13回審判調書及び第14回審判調書参照。以下,これを「第13回審判期日における審判指揮」という。)。
仮に,審査官が主張するように,本件カルテルが,各社の販売数量の上限を画し,その合計数量である市場における販売数量の上限を画する機能を有する仮置き数字を設定したのであれば,それは,すなわち数量制限カルテルそのものであって,審査官はそれまでの単純なシェア配分カルテルの主張に替えて「仮置き数字」を必須とする類型のシェア配分カルテルを主張していることになり,これは,第13回審判期日における審判指揮を事実上逸脱するものである。また,その旨の記載のない審判開始決定書記載の事実とは同一性がなく,独占禁止法第7条の2第6項に照らしても,当該主張は制限されるべきである(なお,経済学において,シェア配分カルテルを論ずる場合,一般的には,カルテル参加者の結合利潤を最大化する業界全体の生産量(販売量)を算出し,それを合意されたシェアに基づき割り振ることをいうものとされており,独占禁止法の立場からは,正に数量制限カルテルを論じているのである。)。
平成9年度違反行為に係る勧告審決の事実認定及び本件各審判開始決定書記載の事実を前提にすれば,本件カルテルは審査官のいう仮置き数字を欠如しているものであって,審査官が主張するような効果を有するシェア配分カルテルに該当しないことは明白である。
c 審査官主張のシェア配分カルテルにおいては,その構造上必然的に在庫量の縮減効果が生ずるものではなく,仮に審査官が主張するような事情が存在するとしても,審査官の主張するその内容は,特定の経営判断について述べるものにすぎず,カルテルにおける構造的なものではない。実際問題として,本件カルテルの下では,在庫量の縮減効果はなく,被審人クボタにおいてはむしろ過剰在庫が生じていたものである。実際に,同被審人の在庫水準を決定していたのは,シェア配分合意ではなく,ダクタイル鋳鉄管直管の供給に対する方針(品不足は生じさせないという方針),競争に対処するために生じた見込生産の思惑はずれ,入札案件における先行手配等の事情によるものである。
d 被審人3社の事業活動においては,シェア配分担当者間で取り決めた総需要見込数量や年度配分シェアとは無関係に,それぞれ独立した事業者の立場から独自の事業計画(生産計画,受注・出荷計画,利益計画等)を策定してその実施・遂行という形で事業活動を行っていたこと,供給面においては,被審人3社が市場の需要に対して円滑かつ充分な供給を行うことを心掛けていたこと,特に被審人クボタにおいては平均在庫月数4か月という大量の在庫を抱え,仮に被審人栗本鐵工所や被審人日本鋳鉄管が欠品等で供給できない場合でも,それに代わって速やかに供給することができる状況だったこと等の事実が認められるのであり,市場における販売量の制限というにとどまらず,審査官のいう在庫を加味した市場に対する販売可能量の総体としての供給量という観点でみても,何ら供給量の制限が生じていなかったことは明らかである。
(ウ) 対価影響性
a 独占禁止法第7条の2にいう「供給量を制限することにより対価に影響がある」という要件は,一般的に,需要・供給・価格の3要素間の関係に関する経済学的な認識を基礎として定められている。そこにおいて前提とされているのは,需要曲線が右下がりに描かれる一般的な市場である。このような一般的な市場においては,供給量が減少すれば,価格が上昇し,それに伴って需要も減少して需給の均衡がもたらされる反面,価格が下がれば需要が増大して市場への供給量も増大して,需給の均衡がもたらされるといういわゆる市場メカニズムが存在していると考えられている。独占禁止法第7条の2の法律要件は,そのようなメカニズムの存在を前提にしていることは,多くを論ずるまでもない。しかしながら,価格の変動に応じた需要量の増減が生じない市場,即ち需要の価格弾力性が極めて低い市場においては,上記のような需給関係による価格メカニズムは機能しないのである。
b (a) ダクタイル鋳鉄管直管は,必要な需要量(主に更新需要)が水道事業者の事業計画等によって決まっており,その需要の性格から,価格が下落しても需要量が増加することはなく,反面,価格が上昇しても需要量が減少することはない。したがって,仮に「供給量の制限によって価格が上昇する」という事態が生ずるとすれば,事前に水道事業者の事業計画によって決定している需要量(管種・口径別に把握される)に対して供給の絶対量が不足し,買取価格を引き上げなければ他の需要者を差し置いて自己の必要量が確保できない,という状況が発生しなければならないであろう。この状況は,昭和48年のオイルショック時に一部みられたような需要の逼迫という社会現象の発生を意味する。本件では,もちろん,直需分野の顧客である水道事業者の調達においても,間需分野において水道工事を請負った建設業者の調達においても,そのような事態は一切生じていない。ダクタイル鋳鉄管直管の市場は,価格が下がっても需要量が拡大しない市場,すなわち需要の価格弾力性が低い市場なのであって,そもそも需給関係を基礎とした価格メカニズムが機能しない市場に該当するのであるから,「供給量を制限することにより対価に影響がある」という事態が生じるはずはないのである。
(b) ダクタイル鋳鉄管直管の市場は,若干の民間需要(ガス,通信)はあるものの,そのほとんどは水道事業者を中心とするいわゆる官公需要によって形成されている。水道事業における需要の状況についていえば,平成4年以降,水道普及率は90パーセント台後半に達するに至り,新規布設の需要は頭打ちとなって,市場における主要な需要は,いわゆる更新需要が主なものとなっている。これらの需要を左右するのは新たな水道管路の布設工事量及び古い水道管路の更新工事量であるが,これらの工事量は,水道設備更新の必要性と公共工事の予算規模(更にいえば,政府の水道事業者に対する補助金の予算規模とその執行状況)によって決定される。このほかに,重大な災害などによる水道施設の破壊が生じた場合には,その復旧のための特殊な需要が生ずることがある。平成7年1月の阪神・淡路大震災後の復旧需要と耐震管への需要シフトによる需要増大はその例である。
このように,ダクタイル鋳鉄管直管の市場は,その需要のほとんどすべてが,公共事業としての水道事業の趨勢やこれらの事業に対する国の補助金その他の官公庁予算の規模とその執行状況によって左右されているので,需要の価格弾力性がないことは明らかである。
なお,民間需要としてのガス及び通信も,水道に準ずる社会的なインフラに係るもので,需要の価格弾力性が低いことも水道需要とほぼ同様である。したがって,民間の需要を考慮しても,ダクタイル鋳鉄管直管の市場は,価格弾力性が無視し得る程度に低いことは明らかである。 
新たな管路の布設を伴わない既設管路の耐震管への交換であっても,公共団体である水道事業者の厳格な意思決定の手続と事前の予算措置等が行われてはじめて発注に結びつくものであって,価格が下がったことや供給量が増加したことで新たに需要が喚起されるという要素はない。
(c) 水道工事を請負った建設業者を直接の顧客とする間需分野においても,ダクタイル鋳鉄管直管の需要は発注される工事量に依存しており,建設業者の需要がダクタイル鋳鉄管直管の価格に対して価格弾力性を持っていないことは同様である。実際問題としても,被審人3社は,それぞれの計算に基づいた生産計画・販売計画を策定してその実現に向けて努力していたものであり,供給面においてはかなり過剰な在庫をほぼ維持するような生産を継続し,最終需要者が必要とする需要量を十分に満たしてきたのである。間需分野においては,バランスの取れた需給関係の下で様々な競争が行われ,被審人3社の間の価格競争もそれなりに行われていたことは明らかである。
したがって,本件市場の市場特性という側面と需給と価格の関係という経済学の一般的な考え方からみても,本件カルテルによって供給量の制限がもたらされ,それが対価に影響を与えたとみる余地はないというべきである。
(d) 水道工事予算の中に占めるダクタイル鋳鉄管直管の費用はごく低率にすぎず,ダクタイル鋳鉄管か鋼管か塩ビ管かの選択も主として管の口径や使用条件などによって決まるものであり,金額的な面が問題となるとしてもそれぞれの管種に応じた布設工事費用なども含めたトータルコストで選択されているという実情にあるので,ダクタイル鋳鉄管直管の価格そのものの変動が水道工事量に影響を及ぼすという関係は成立していない。
c 前記bのとおり,ダクタイル鋳鉄管直管の市場は,価格が下がっても需要量が拡大しない市場,すなわち需要の価格弾力性が低い市場なのであって,そもそも需給関係を基礎とした価格メカニズムが機能しない市場に該当する。また,何らかの事情で制限される供給量がごくわずかで価格に対する定量的な効果を期待し得ない場合などのように,当該市場の条件や具体的な行為の態様から供給量の制限が直ちに対価に対する影響に結びつかないと考えられる場合には,当該課徴金賦課の対象から除外されるべきである。
(エ) 以上いずれの点からも,本件カルテルは供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たらない。
イ 被審人栗本鐵工所
(ア) 本件カルテルの供給量制限効果について
a 本件カルテルは,シェア算出の分母として設定された市場全体への総販売数量を超えた販売を行わないとの合意は伴っておらず,それ故,需給を逼迫させることなく,カルテル参加者間の販売数量の割合のみを制限するシェア配分カルテルである。
本件カルテルはシェアを決めていただけで,数量を決定していたわけではないという点でこれまでの事件の中で異例な存在であるというだけでなく,受注量の約8割を占める間需分野において被審人3社が互いに販売競争を展開していながら,約2割を占める直需分野でしか受注調整が行われていないという極めて変則的なカルテルである。被審人3社は,具体的な作業の中で,各社のシェアを当該年度の需要予測に基づく需要量を表す数字に置き換えることはあっても,間需分野の取引においては,上記のとおり原則として受注調整を行っていないため,その数字自体は意味を持たないものであった。
したがって,少なくとも年度当初に設定された市場全体の販売予定数量にシェアを乗じた数値は,被審人3社の販売の上限を画する機能を有していない。よって,当然,被審人3社は,上記当初の市場全体の販売予定数量にシェアを乗じた数値が販売の上限を画する機能を持つと認識していなかった。
実際,被審人3社は,自社の販売数量を1か月遅れで集計していたが,その数値は東京地区の一般直需分野での受注調整に用いられただけで,間需分野においては何ら目安とはなっていなかった。
b 本件においては,ダクタイル鋳鉄管直管の需要が増えれば,それに対応して被審人3社の供給量も増加しており,また,シェア配分により決めたとされる被審人3社の受注予定量の合計を,被審人3社の実際の受注量と比較しても,平成9年度から翻って過去14年間のうちの11年分について,実績の方が予定された受注量を上回っていたのであり,このことからも本件カルテルにおける総需要見込数量の算出は,ダクタイル鋳鉄管直管の供給量に上限を設定する効果がなかったことは明らかである。
実績すなわち市場への供給量が予定を上回っていた事実は,供給量制限効果との関係では極めて重要な意味を持つ。すなわち,一般に供給量の制限は,市場全体の供給量を一定の上限を超えて増加させない効果を持つが,本件カルテルは,供給者は需要の増加に対応して供給することがその内容となっていたのであり,市場全体の供給量に上限を設定するものではなかったということである。
c 被審人栗本鐵工所は,経営3か年計画を策定して,これを単年度の受注・売上・利益計画に反映させていた。これを基に各営業部,本支社,各営業担当者の目標値(ノルマ)が決まっており,事業部の受注,売上計画から生産計画や在庫,人員計画,物流などの販売直接費など事業部のあらゆるものの計画が決定されていた。配分シェアの目標値は,事業部の受注・売上・利益計画には全く連動していないどころか全く考慮されていないし,同被審人の業務部には全く知らされておらず,利益計画に反映させることもなかった。実際,同被審人における人事評価は,受注売上目標値すなわち単年度利益計画で決められた目標値の達成度により行われていたのであり,同被審人の営業担当者にとって,ノルマ達成度が極めて重要な要素となっており,本件カルテルにおけるシェアの数値とは無関係であったことは明白である。また,同被審人の営業担当者は,本件カルテルにおけるシェアの数値よりかなり高い数字を目標値として事業活動を行っていたのである。
同被審人は,ダクタイル鋳鉄管直管を市場に供給するに当たって,独自に前年度及び当該年度に利益計画を策定,修正した上で,具体的な生産計画を立てて,いつまでに,どの管種をどれだけ製造するかを決め,工場関係者とラインや工程等を打ち合わせた上,その時点での受注残本数や基準在庫に対する不足本数等を考慮しながら製造していたのであり,かかる現場の生産過程をみれば,受注予定者を決定していない間需分野においては,シェアに関する調整が生産,供給の過程には及んでいなかったことは明らかである。
実際上も,ダクタイル鋳鉄管直管の販売傾向が下期偏重型であることから,上期において,下期の繁忙期に売れるであろう管種を見込んで生産していた事実などの様々な実態を考え合わせると,本件カルテル自体が市場におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給をコントロールしていたとする審査官の主張は,事実的裏付けを欠く抽象的な机上の立論にほかならない。
(イ) 審査官の主張に対して
a 各社のカルテル実行担当者が,それぞれ,仮置き数字が各社の販売数量の上限を画する機能を有することを認識しているということは,正に従来の公正取引委員会の考え方からすれば,当然にカルテル担当者間に暗黙の了解があるとして,販売数量を制限する合意があると結論付けるのが論理的帰結であるはずである。
すなわち,仮置き数字に供給量の上限を画する機能を認め,被審人3社にその認識があるとする審査官の主張は,供給量ないし生産数量制限合意の主張と同様の主張であり,第13回審判期日における審判指揮と同様に,審判開始決定に記載のない主張と認められるべきであり,かかる主張をカルテルの実行期間が終了した日から3年を経過した後に持ち出し,当該違反行為に係る課徴金の納付を命ずることは,独占禁止法第7条の2第6項本文に反し許されない。
b 多様な品種があるダクタイル鋳鉄管直管においては,規格だけでなく,外面塗装の仕上がり具合など外観面の良し悪しも品質の差となり,また,付随する種々のサービスなどが付加価値として考慮されている。また,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を正確に見積もることは極めて困難であり,見込数量と実績数量とはかけ離れている(例えば,昭和59年度は,計画と実績の差異を割合でみると3.7パーセントの差異であるが,金額にすると37億円ないし38億円の差となり,この違いは非常に大きなものである。また,昭和62年度でみると,計画と実績の差異の割合は11.7パーセントであるが,金額でみると116億円ないし117億円もの差異となる。)。
さらに,被審人3社で我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の100パーセントを供給していること,ある年度において被審人3社のうちいずれかの販売数量が,決定された年度配分シェアに基づく販売予定数量を上回った場合には,翌年度の年度配分シェアを決定する際に当該超過分が販売予定数量から差し引かれていることは,供給量制限とは直接結び付く事実ではなく,供給量制限を基礎付けるものではない。また,間需分野の実際の取引における発注物件の中には,ダクタイル鋳鉄管直管以外の製品も多く含まれており,それらの価格,品揃え,納期対応,様々なサービスも大きな要素となっており,受注の可否は,ダクタイル鋳鉄管直管だけの品質及び価格だけでは決まらない。
ダクタイル鋳鉄管直管は,口径,継ぎ手の接合形式,管厚によって区分される種類,管内面の塗覆装,管外面の塗覆装及び用途に応じて様々な規格がある。こうした多品種のダクタイル鋳鉄管直管においては,規格だけでなく,外面塗装の仕上がり具合など外観面の良し悪しも品質の差となり得る。こうした製品だけでなく,付随する種々のサービス等付加価値の要素は数多く存在する。また,被審人栗本鐵工所では,建材事業部が最も利益率が高く,鋳鉄管事業部は2番目の利益率にすぎない。
c 審査官は,在庫量も供給量に含めて本件カルテルの供給量制限効果を主張するが,そもそも在庫は,各社の経営政策により決定されるものであり,被審人栗本鐵工所もコンサルタントの提案を受け,削減を行ったり,その結果が失注を招いたという反省の下に在庫量を増加させたりしているのであって,在庫量は供給量の制限とは無関係である。
ダクタイル鋳鉄管直管の種類は小口径だけでも多種多様である。例えば,平成8年度及び平成9年度に製作していた継ぎ手の種類もA型やK型,T型,SII型など,また,管の厚さも1種管と3種管,管内面塗装の種類もセメントライニングや粉体塗装など様々な組合せができる。本件カルテルは,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要量に対して,同被審人が受注できるトン数の割合を決めていたものであるが,生産計画に必要な継ぎ手,口径,管厚,塗装,本数などを決めていたわけではない。具体的なダクタイル鋳鉄管直管の製品を製造し市場に供給する数量を,自ら策定した利益計画に基づき,具体的な生産計画を立てて,いつまでに,どの口径のどの管種をどれだけ製造するかを決め,工場関係者とラインの能力や工程などを打ち合わせた上,その時点での受注残本数や基準在庫に対する不足本数などを考慮して製造していたのである。つまり,シェアの合意は,何ら具体的な生産や製品の供給には結びついていないのである。したがって,本件カルテルによって工程管理が行いやすく,結果として実需に沿った生産を行うことができ,過剰な在庫を抱えなくてすむという在庫の縮減効果は発生しない。
完成したダクタイル鋳鉄管直管はほとんどが社団法人日本水道協会の検査を受検し,合格したものを販売しているが,その有効期限は原則3年とされている。営業,業務が販売できるであろうと予測し,見込生産を行った製品であるが,その期限を経過したものは原則死蔵品(不良在庫)となる。その不良在庫は毎年相当量あり順次廃却されていく。これは,実需に沿った生産を行っていたのではなく,営業,業務が販売できるであろうと予測し,見込生産を行った製品が受注に結びつかず不良在庫となったことを証明することにもなる。
(ウ) 対価影響性
a 供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当するとするためには,本件カルテルがダクタイル鋳鉄管直管の市場全体の供給量を制限する効果を持つかどうかを具体的に判断した上で,そのことにより当該市場の価格に対して価格カルテルと同視し得る程度に経済的に有意な影響を及ぼすこと,具体的には,本件カルテルにより現実の市場価格が上昇したことを審査官が立証しなければならない。本件において審査官の上記立証がないことは明らかであるから,本件について課徴金を課すことはできない。
b 本件において,直需分野の大部分では,単価契約の形態で取引が行われており,受注調整があったものについても,受注予定者は決定されたが,単価には本件カルテルの影響はない。また,直需分野の取引の約半分は,水道事業者側から随意契約で発注されるため,被審人3社は,受注予定者すら決めていないのであるから,直需分野においても,独占禁止法第7条の2第1項に定める「その対価に影響があるもの」との要件を欠くものである。
(エ) 以上いずれの点からも,本件カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たらない。
ウ 被審人日本鋳鉄管
(ア) 本件カルテルの供給量制限効果について
本件カルテルは,総需要見込数量に対する被審人各社のシェアを決めたものにすぎず,供給量制限効果はない。
(イ) 審査官の主張に対して
a 審査官は,本件カルテルでは当事者が「一定の仮置きした販売予定数量」なるものを置いてそれを限度・限界として行動・活動したことを合意し(少なくとも認識把握し),そのように行動・活動した,ということを主張する趣旨であれば,それは正にそうした「事実」があったことを主張しているにすぎず,そうだとすれば,それに係る具体的な事実を主張立証しなければならない。しかし,具体的な事実を踏まえ「本件カルテルが供給量を制限するものといえる」理由を明らかにする主張であるとすると予備的主張においても,何らそうした裏付けとなる具体的な事実の主張がなく,その立証もない。また,供給量が制限されたとする具体的な数量についても,およそ一切主張がない。
b 審査官が「供給量を制限する」の意義として主張するのは,「供給量に限界・範囲を定め,供給量をその限界・範囲の中に抑える」というものであるところ,予備的主張を構成する各事実がそれとどのように結び付くのかおよそ明らかにされていない。すなわち,被審人3社が,我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給者のすべてであること及びダクタイル鋳鉄管直管は,メーカーによって品質に差異がなく,価格以外の付加価値による差異がないことは,ダクタイル鋳鉄管直管の市場状況や商品特性をいうものであるが,それらは審査官の主張する「供給量を制限する」ことに直ちに結び付く事実ではない。また,被審人3社は総需要見込数量を極めて正確に見積もっていたこと,実際の販売量を頻繁かつ詳細に報告し合っていたこと,総需要見込数量を柔軟に変更していたなどの事実についても,審査官の主張が生産調整カルテルであったとの主張を前提としないのであれば,当然,そもそも,客観的な事実として,過剰在庫の圧縮が図られたという事実が存在したか,その数量はどの程度か,それはどういうメカニズムによって実現したといえるか,それは本件カルテルによるものといえるか,などの点を客観的に明らかにしなければならず,そうした客観的な事実に係る具体的な主張立証もないままに,被審人3社は高い利益率を享受し,それが生産管理の容易さと過剰在庫の圧縮によるものであることの認識を有していたと主張したからといって,「本件カルテルは供給量を制限するものといえる」とする合理的な理由根拠を明らかにしたことにはならない。
仮に審査官がいうように販売数量をより確実に見込んだとしても,それに合わせて生産量の調整を行わなければ,およそ在庫量の縮減はあり得ない。しかしながら,審査官は,そのような生産調整の主張を行っていない。
c 被審人3社がダクタイル鋳鉄管直管の販売予定数量をより確実に見込み,その予想数量に合わせて生産調整を行っていたとの事実はない。被審人3社は,各社の受注数量の総需要見込数量に対する比率を合意決定したシェア配分比率に合致させるための最終調整弁としての役割を,受注調整の可能な東京地区の一般直需分野における受注調整に委ねていたことから,その受注調整の要否や内容を決定するため(すなわち,最終調整のためにも,どのように受注調整を行ったらいいのかを決定するため)に総需要数量の見込みを行っていたものであり,これによって得られたデータに基づいて被審人3社が日々の事業活動において生産調整を行っていたというものではない。また,東京高裁刑事判決も,本件カルテルに関し,生産調整に係る行為や合意(カルテル)について一切事実認定しておらず,逆に「本件違反行為は,受注量の配分協定にとどまるものであり,その意味で,公共の利益に直結する市場価格や市場への供給量などについての影響は,間接的であったと認められる」と判示し,本件において生産調整に係る行為やカルテルの事実がなかったことを認めているのである。
(ウ) したがって,本件カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たらない。
3 争点3(間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれるか否か。)について
(1) 審査官の主張
ア 間需分野における供給量制限効果
(ア) 本件カルテルにおける年度配分シェアは,東京地区のみならず全国の市場を対象としており,しかも,直需分野だけでなく間需分野も対象としていることは,年度配分シェアの決定方法からみて明らかである。このうち,東京地区の一般直需分野は,地区ごとに地区配分シェアに基づく受注活動が行われているということを前提に,全国の直需分野・間需分野を対象とした年度配分シェアの実現のための最終的な調整を行う場であったのであって,本件カルテルは,東京地区の一般直需分野のみで機能していたのではなく,直需分野も間需分野も包括した全国のダクタイル鋳鉄管直管の市場において機能していたのである。
(イ) 間需分野においては,年度配分シェアに相当するための意図的な受注調整は直需分野に比較して少なかったことが認められるものの,間需分野も本件違反行為による競争制限の影響下に置かれていたものであり,間需分野の一部において価格競争が行われたとしても,このことは,間需分野における本件カルテルの成立を妨げるものではない。
イ 被審人3社の主張について
(ア) 被審人3社は,間需分野においては,一部の大口の受注などについて受注調整を行う場合を除き,個別の物件ごとに,被審人3社間であらかじめ定めた年度配分シェアに基づき受注調整を行うのではなく,ダクタイル鋳鉄管直管に係る被審人3社と販売業者との間及び販売業者と建設業者との間のそれぞれの取引関係が固定的であることを利用し,これを維持することで,年度配分シェアに近い受注量が現実にほぼ確保できている状況を乱さないよう努めたことにより,本件市場全体の20パーセントを占めるにすぎない直需分野での個別物件ごとの受注予定者決定を通じた調整によって,各社のダクタイル鋳鉄管直管全体の受注数量を年度配分シェアにほとんど一致する割合で受注できていたのである。
(イ) 被審人3社の年度末における販売数量の比率は,当該年度配分シェアに極めて近似した水準となっていたこと,各年度の1年間を通して年度配分シェアを実現していく過程における被審人3社の受注の推移パターンは,平成8年度も平成9年度も同じであること(被審人クボタは,年度当初から一貫して年度配分シェアよりも低位で推移し,8月以降シェアを増していく,被審人栗本鐵工所は,年度当初は受注量が多いが,7月から8月以降の受注量は減少していき,年度末になってまた受注量を増やしていく,被審人日本鋳鉄管は,年度末になって,かろうじて年度配分シェアを達成している。),被審人3社は,自社の販売を年度配分シェアの達成に向けて行うのみならず,販売業者の販売についても,被審人3社の年度配分シェアの達成を妨げるような販売業者の行為に対しては,出荷停止など圧力をかけて,それを断念させるなどしていたこと及び自社の系列の販売業者の販売に際しても,年度配分シェアを守るように協力を働きかけていたこと等をみても,ダクタイル鋳鉄管直管の市場のほぼ8割を占める間需分野において,被審人3社が自由に競争を行っていたなどという被審人3社の主張は誤りである。
(ウ) 間需分野において,役所に対する営業活動の中で入手した情報の第一次販売業者への提供,建設業者に対する各種接待などの被審人3社による系列の販売業者等への営業協力等の競争的な事業活動のようにみえるものがあったとしても,それは,飽くまでも本件カルテルによる年度配分シェアに見合った受注数量を確保するためのものであり,また,競争における最も重要な要素である価格競争についても,被審人3社が間需分野において値引きを認めるのは年度配分シェアの確保・維持に必要な場合が基本であり,間需分野において値引き販売による自由な顧客獲得競争が全般的に行われていたとは認められない。
(エ) また,販売奨励金制度が存在し,その運用が行われていたことから直ちに間需分野において自由な競争が行われていた事実を導き出すことには論理的な飛躍があり,さらに,被審人3社が販売する場合の標準価格である仕切値ないし仕切価格は,そもそも相当高値に設定されていると見受けられるので,実際の販売における仕切値ないし仕切価格からの割引があったことのみから,単純に価格競争があったとの結論を導くのは誤りである。加えて,間需分野における販売業者と建設業者との関係については,固定的かつ継続的な取引関係があったことは明白である。
(オ) したがって,間需分野における取引に係る売上額も,課徴金額の算定の基礎に含まれる。
(2) 被審人3社の主張
ア 被審人クボタ
(ア) 市場に対する供給量の制限が対価に影響を及ぼしているかどうかは,市場原理に基づいて評価されることとなるが,その場合には,市場原理が働く場である市場は,違反行為による経済的な効果が評価できるだけの同質性を有することが必要である。本件で問題とされている直需分野と間需分野は,公共団体である水道事業者が製造業者から直接商品を購入する市場と,私的経済主体である建設業者が第一次販売業者や第二次販売業者から商品を購入する市場という,全く性格を異にするものであり,これらを同一のものとして捉えることは,余りに経済実態を無視した形式論にすぎない。
本件において審査官は,本件カルテルが供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当するものであることを,実質的証拠をもって立証する必要がある。そのためには,仮置き数字が供給量制限機能を持っている場合のみならず,そのような機能を持たないものであった場合においても,なお,本件カルテルが市場への供給量を制限したことを立証する責任がある。その責任を果たすために,間需市場における取引ないし競争の実態から,供給量の制限効果が生じたことを立証しなければならず,この審査官の立証は,いわゆる本証でなければならない。被審人は,そのような審査官の本証に対し,その証明力を減殺する反証を提出すればよいという立場にある。
(イ) 間需分野においては,年度配分シェアを意識した受注調整は実態としてほとんど行われておらず,年度末の年度配分シェア達成の帳尻合わせの際にも間需分野については全くの手付かずであった。本件カルテルは,全国的な受注数量を基礎としたものであって,その計算過程において地区別の地区配分シェアを算出して,一部地区では当該地区の年度末調整にその地区配分シェアが利用されたことはあるものの,間需分野及び直需分野の市場別の年度配分シェアは決定されていないのである。したがって,本件カルテルの下では間需分野での被審人3社の事業活動を規制する基準が何ら定められていないことは明らかである。地区(北海道地区及び東北地区)の営業担当者の供述においても,仮置き数字が供給量を制限するものであるとの認識やそのような認識を前提とする行動を採ったことを示すものは一切存在しないのである。
(ウ) 間需分野は,水道事業者から工事を請負った建設業者の資材調達の市場(工事1件に必要な資材全般の一括取引で,ダクタイル鋳鉄管直管はその一部にすぎない。)であり,建設業者と販売業者との間は,長年の取引関係や付随的サービスの積み重ねで培われてきた信頼関係を重要な要素として固定化される傾向が強い。水道事業者が材料支給方式の工事発注形態から材工込みの工事発注形態に切り替える動きが出て,間需分野が形成されるようになると,被審人3社はそれぞれの都合と取引上の伝手を頼って第一次販売業者網を形成してきたという歴史的な背景があり,審査官がいう系列とはそのように長年にわたって形成されてきた販売業者との安定的な取引関係をいい,そのような取引関係は,独占禁止法的にみて特に問題はなく,販売業者が得意先となる建設業者との取引を競争的に行うことができる背景ともなっている。
このように,間需分野においては,ダクタイル鋳鉄管直管の市場が直需分野から間需分野へシフトしていく傾向にある中で,被審人3社の間で必然的に競争が発生していた。間需分野においては,シェアの協定は意味がなく,専ら自社の生き残りをかけた販売網の構築を目指して競争が行われていたのである。
(エ) 間需分野においては取引関係の固定化の傾向が見受けられるが,その背後には厳しい顧客獲得競争が存在し,市場において一種の拮抗状態が生じた結果として,市場の安定性がもたらされているのであり,間需分野においては実態として,付随サービス(技術支援を主体とする)や適切な現場への配送などの非価格要因による競争が盛んであり,価格競争対応の結果である「特別価格仕切り」と称する値引きの例が相当量に達し,また,積極的で効果的な販売奨励金制度の運用も行われている。
間需分野においては,①円滑・正確な配送,②的確な技術援助サービスの提供,③価格などを競争要素として,販売業者を中心とした自由な顧客争奪競争,製造業者を中心とした販売網の構築に関する競争が継続して行われているという実情にあり,市場に対する供給量の制限やそれによる対価への影響は全く生じていない。
(オ) したがって,間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれない。
イ 被審人栗本鐵工所
(ア) 市場は,一般に,①取引の対象,②取引の段階,③取引の地域,④取引の相手方の4つの要素から判断されるところ,ダクタイル鋳鉄管直管の直需分野と間需分野では,②取引の段階と④取引の相手方が異なる。そして,直需分野は,一般に入札という方法を通じて製品が流通するのに対し,間需分野では通常の売買により流通するという点で根本的に異なっている。
本件カルテルが市場の供給量を制限していたか,価格に影響を与えるものであったか否かを考察する場合,シェア配分カルテルの機能が両者の市場では大きく異なる点に十分配慮する必要がある。すなわち,直需分野においては,シェア配分の取決めが入札に際して,受注予定者の決定に直接結び付いているのに対して,間需分野においては,一部の大口径の受注を除いてその大部分では受注調整が行われておらず,シェアの取決めが受注予定者の決定等の受注調整には結び付いてないという点に大きな差異があるのである。
(イ) 直需分野においては,被審人3社が受注予定者を決定することにより受注調整が行われていたが,そもそも被審人3社が水道事業者の実施する入札に参加していない間需分野においては,一部地域の大口径の取引を除いては被審人3社が受注調整することは不可能であった。ダクタイル鋳鉄管直管を使用する建設業者の数は膨大であり,その種類も管工事業者,土木業者,ゼネコンを含む建設業者等多種多様な構成となっており,被審人栗本鐵工所において,全国における建設業者の数や存在を把握すらできないのが実態である。特に地元の建設業者の独立性は強く,建設業者と被審人3社との間,建設業者と販売業者との間において,流通の系列化といえるような実態もない。このことは,東京高裁刑事判決も指摘するところである。
間需分野において水道事業者の発注する水道管工事は,地場の中小の建設業者育成のため,小口に細分化されている。そのため,一取引当たりの発注量は小さく,取引数も膨大である(被審人栗本鐵工所だけでも年間2万件を超えている。)ことからしても,被審人3社間で受注調整をすることは不可能である。しかも,1回1回の取引もダクタイル鋳鉄管直管だけではなく,異形管,バルブ,塩化ビニール管,ポリエチレン管,消火栓,蓋,テープ類などの諸資材を含めて取引されるケースが多く,ダクタイル鋳鉄管直管だけの受注調整は無意味である。さらに,小口径管(250ミリ以下),中口径管(300~800ミリ)の発注から納品までの期間を考えると,メーカーたる被審人3社で受注調整を行うことなどおよそ不可能である。
(ウ) 間需分野においては,被審人3社は,販売業者側の求めに応じ,在庫等を確認しながら供給するだけであり,また被審人3社によるシェアの取決めは,具体的な管種,口径等ごとの受注や出荷を何ら指示する機能を有するものではないから,本件カルテルは間需分野の供給量を左右するものではない。
本件において,直需分野においてシェア協定に基づいて調整を行ったとしても,本件シェア協定の価格や供給量に対する直接的な影響力は飽くまで受注調整を行った直需分野に及ぶにすぎないのである。原則的に受注調整が行われていない競争の結果である受注量をシェアの計算の基礎としたとしても,本件カルテルが間需分野の供給量や価格に影響を及ぼしたことにはならない。
(エ) また,間需分野については,①平成11年9月に行った被審人栗本鐵工所についての第一次販売業者とそれ以外の販売業者及び建設業者に対する過去3か年(平成7年から平成9年)に及ぶ売上実績の推移,受注確率,他社との競合状況の調査結果によると,販売業者と建設業者間の取引関係が固定的かつ継続的なものではなく,販売業者間に競争が存在していたことが認められること,②同被審人においては,単年度利益計画における目標(平成8年度では受注15万1000トン)達成のために,第一次販売業者に対して販売奨励金制度を設けているが,売上目標達成奨励金の支払が右上がりで推移しており,本件カルテルによって受注量が確保できるのであればこのような制度を設ける必要はなく,このような制度がなければならないほど競争が行われていることを示していること,③価格競争及び非価格競争のいずれもが行われていること及び④同被審人は工場生産能力を増大させ,設備投資を行ってきたことに照らせば,本件カルテルは間需分野において供給量を制限するものではなく,また,対価にも影響しないことは明らかである。
(オ) したがって,間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれない。
ウ 被審人日本鋳鉄管
(ア) 直需分野と間需分野とでは商品の市場への供給構造が全く異なるのであるから,本件カルテルが双方を合わせた市場全体で「市場への供給量に限度・限界を設けるもの」といえるためには,直需分野及び間需分野のそれぞれにおいて,市場への供給量に限度・限界を設けるものといえることが確認されなければならない。
本件の直需分野と間需分野は,その市場としての性格,競争の実態,商品供給の形態・構造,市場価格形成の仕組みやその在り方等の点において,およそ性格の異なった市場といえる。供給量を制限するか否か,すなわち市場への商品の供給量が問題となる場面では,流通経路すなわち市場へ商品が供給される経路・形態の違い,流通機構,流通構造の違いが大きな意味を持つのは当然であって,これらの市場の違いを全く無視し,独占禁止法第3条のカルテルの成立する市場の全体につき,一刀両断的に,当該カルテルが,実質的に供給量を制限するカルテルに当たるか否かを問うのは,甚だ適切さを欠き,その必然性もない。もともと間需分野は,被審人3社の思惑どおりになるような市場構造にはなっておらず,被審人3社としても間需分野において原則的に個別調整はしておらず,相当程度にわたって活発な価格競争を行っていたというのが実情であり,だからこそシェアの調整は直需分野における取引に委ねざるを得なかったのである。
(イ) 間需分野においては,需要者の大半が何万という数にも上る零細な建設業者で占められており,それらの事業者はそれぞれが一国一城の主という気概を強く持っており,被審人3社が何らかのコントロールを加えたり,組織化を図ったりすることはとてもできない状況にあった。そして,それらの事業者は,ダクタイル鋳鉄管直管の購入に当たっても,複数の第二次販売業者に相見積りを出させ,最も安い店から仕入れる,といったことが多々あり,そうした第二次販売業者段階からの価格競争にさらされていたことから,被審人3社としても取引先確保のために仕切価格を下回る価格で販売することも決して珍しくはなく,間需分野においては被審人3社をも巻き込んだ販売競争,価格競争が日常的に行われていたのである。もちろん,間需分野で価格カルテルが行われていた事実も,取引先の固定を図る顧客争奪禁止カルテルが行われた事実もない。したがって,およそ間需分野においては,供給量を制限する,すなわち,市場に供給される数量について限度・限界が設けられるようなことは一切なかった。
(ウ) 被審人3社は,第一次販売業者に対し,いわゆる仕切価格を設定し取引していたが,各取引段階の価格競争を反映して,各第一次販売業者に対する販売価格の実情は仕切価格どおりではなかった。被審人3社が価格競争にさらされる中で仕切価格を下回った価格(特別価格)で販売していた状況は,数量ベース(加重平均)で常時3割程度を占めており,また,公正取引委員会の立入検査後の価格下落は,間需分野においては直需分野の6分の1以下であり,その違いは余りに大きく,間需分野と直需分野との間には,いずれの市場も,同じように,市場への供給量に上限が設けられ,その中に供給量が抑えられていたとは到底評価し得ない質的な違いのあることを裏付けている。
間需分野における競争実態は,取引段階ごとにあり,かつその取引段階ごとに被審人3社以外の独立した事業者が当事者として価格競争に関与しており,少なくとも被審人3社の思惑だけで市場支配ができる状況・構造にはなかったものである。間需分野において一定程度の系列化は認められるにしても,取引の各段階において価格競争がほとんどないというまでに系列化が貫徹・浸透していたという状況にはない。
(エ) もともとシェア配分合意のみである本件カルテルは,間需分野に関しては,独占禁止法が課徴金制度の創設時に課徴金の対象として想定していた価格カルテルにも,価格に影響があることが明白かつ直接的なカルテルにも当たらないことが明らかである。
また,前記(ウ)のとおり,本件カルテルが公正取引委員会に取り上げられた後の価格下落には,受注調整が行われ価格への影響が明白かつ直接的であった直需分野と基本的に受注調整が行われていなかった間需分野とでは余りに大きな違いがあり,その点からも,間需分野においては直需分野の場合のように本件カルテルをもって価格への影響が明白かつ直接的であったとか価格カルテルと実質的に同一であるとは到底いえないことが明らかである。
なお,審査官が本件カルテルが対価に影響があるものであったこと等を立証趣旨に掲げる査第36号証ないし第39号証は,いずれも直需分野における価格動向を示すものであり,間需分野の価格動向を含むものではない。上記立証趣旨を掲げて審査官から提出された証拠には間需分野の価格動向を内容とするものは存在しないのである。
東京高裁刑事判決は,間需分野では,一部の例外はあったとしても,基本的に受注調整は行われておらず,被審人3社による活発な販売競争,価格競争が行われていたのであり,本件違反行為はシェアの配分協定にとどまり,市場価格や市場への供給量などについての影響も直接的なものではなかったことを認めている。
(オ) 以上のように,本件カルテルは,間需分野に関しては,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルには該当しないから,間需分野における取引に係る売上額は課徴金額の算定の基礎に含まれないというべきである。
第5 審判官の判断
1 本審判手続違背の主張について
(1) 本審判手続について,被審人3社は,審判長が審査官の主位的主張及び予備的主張を制限しなかったという点において瑕疵がある旨主張するので,まず,この点につき判断する。
(2) 被審人3社の主張の要旨
ア 主位的主張及び予備的主張は,審判開始決定から3年9か月も経過し,また第13回審判期日における審判指揮から約9か月にも及ぶ長期の審理空白後に行われたものであり,時機に後れた攻撃防御方法である。(被審人3社)
イ 主位的主張及び予備的主張は,審査官第10回準備書面において自ら全面的に否定し撤回した審査官第9回準備書面までの主張の蒸し返しにほかならないのであり,禁反言に違反し,信義則に反するばかりか,甚だしく手続の安定を害し,被審人の利益を損ない,その防御権を侵害し,主張自体許されない。(被審人栗本鐵工所,被審人日本鋳鉄管)
ウ 予備的主張は,審査官第10回準備書面と実質的には同じ内容を,供給能力の不行使の合意という用語を使用せず言い換えただけのものにすぎず,信義則に違反し,さらに,カルテルの実行期間の終了から4年余が経過しており,実質的に独占禁止法第7条の2第6項に違反する。(被審人栗本鐵工所,被審人日本鋳鉄管)
エ 予備的主張は,実質的には数量制限の合意があったとの主張にほかならないのであり,また,本件カルテルが供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たるとする根拠となる事実について何ら審判開始決定書に具体的,明瞭に記載されていないのであるから,もはや許されないものである。(被審人日本鋳鉄管)
オ 主位的主張及び予備的主張は,それまでの単純なシェア配分カルテルに替えて,仮置き数字を必須のものとする類型のシェア配分カルテルを主張することであり,第13回審判期日における審判指揮を逸脱し,審判開始決定書に記載されていない事実を主張するものである。(被審人クボタ,被審人栗本鐵工所)
カ 主位的主張及び予備的主張を許せば,今後の審理に長期間を要するところ,審査官の主張の内容に照らせば,これ以上審理を継続させる必要性に乏しく,直ちに審判手続を終結すべきである。(被審人3社)
(3) 委員会決定
前記(2)の被審人3社の各主張に対して,審判長は,第15回審判期日及び第16回審判期日において,主位的主張及び予備的主張はシェア配分カルテルに生産量調整の合意を付け加えるものではないことを確認した上で,同主張は第13回審判期日における審判指揮に沿ったものであり,当該主張を前提として審理を続行する旨の審判指揮を行った(第15回及び第16回審判調書参照)。
上記審判指揮に対して,被審人クボタが平成16年4月27日付けで,被審人栗本鐵工所と被審人日本鋳鉄管が同年5月19日付けで,それぞれ公正取引委員会に対して異議を申し立て,これらの異議申立ては,同年6月24日付けで,以下のとおりの理由で,公正取引委員会決定により却下された(公正取引委員会審決集第51巻735頁)。
「一般に審判手続において従来の主張への変更が直ちに許されないとする理由はないことに加え,本件においては審査官の主位的主張を許容することで審判手続上申立人らに看過できない具体的な不利益が生じるとは認め難い。また,審査官の予備的主張については,第10回準備書面と主張の構成・内容を異にしており,他方で審判開始決定書の記載事実との同一性を害するとも認められないから,第13回審判期日における審判官の処分に反するということはできない。そもそも,本件審判事件は未だ争点整理段階にあり,申立人らは以後の手続において防御を尽くすことが十分可能であること,現段階で審査官の主張変更を許したのでは,申立人らの防御を不可能又は著しく困難にする,あるいは,審判手続の著しい遅延を招くなどの特段の事情は認められないこと,本件審査官主張は・・・第13回審判期日における審判官の処分に対応してなされたものであることなどにかんがみれば,同主張を許すことが,直ちに申立人らの防御権を侵害し,審判手続上の信義則等に反するとはいえない。本件審査官主張を時機に後れたものとして却下すべきかという点については,同主張が相当期間遅れて提出されたものであるとしても,上記のとおり本件において同主張を許すことが直ちに申立人らの防御権を侵害し審判手続の著しい遅延を招くとは認められないこと,そもそも当委員会の審判手続は独占禁止法違反被疑事実等に対する適正な対処を図り同法の目的を達成するという公共的見地から実施される行政手続であることなどにかんがみれば,その提出が遅れたことをもって,本件審査官主張自体を排斥するということは相当でない。また,本件審査官主張は,主張自体失当として排斥されるべきものとも認められず,直ちに本件審判手続を終結することも相当でない。」
(4) 結論
以上の審判手続の経緯に照らすと,本審判手続には手続上の瑕疵があるということはできず,被審人3社の主張はいずれも採用できない。
2 争点1ないし3に対する判断の前提となる事実
(1) 本件カルテルに至るまでの経緯
査第9号証,第10号証,第13号証,第27号証,第43号証,第44号証,審A第3号証,第5号証,参考人塩本勝也によると,本件カルテルに至る経緯は以下のとおりである。
ア ダクタイル鋳鉄管直管の販売については,当初,被審人クボタと被審人栗本鐵工所との間で,被審人クボタ7割,被審人栗本鐵工所3割でシェアを決めていたところ,昭和20年代後半,東京瓦斯株式会社(以下「東京ガス」という。)を顧客としてガス管を供給していた被審人日本鋳鉄管が水道管市場への進出を図った。これに対抗して被審人クボタや被審人栗本鐵工所が水道管を増産したこともあって,被審人3社間で激しい価格競争となり,各社とも収支が急速に悪化した。
昭和31年3月ころ,特に収支が悪化した被審人日本鋳鉄管を再建するために,被審人クボタと被審人栗本鐵工所は,それぞれシェアの1割(被審人クボタから0.7割,被審人栗本鐵工所から0.3割)を被審人日本鋳鉄管に拠出して,同社の救済を図ることとした。その理由は,水道事業者が,水道管のような重要な公共財については,製造業者が相当数存在して安定的に供給できる体制にあることを重視していたため,ダクタイル鋳鉄管直管の製造業者が減少すると,製造業者が相当数ある鋼管,合成管,コンクリート管といった競合管が採用される可能性があること及び同被審人が市場から撤退することになれば,同社の顧客である東京ガスにガス管を供給する競合管メーカーの大手鉄鋼会社などが鋳鉄管業界に参入する可能性があることであったとうかがわれる。
イ 被審人3社は,昭和30年代前半ころから,毎年度ダクタイル鋳鉄管直管の全国市場の総需要数量の予測を立てるとともに,被審人クボタ63パーセント,被審人栗本鐵工所27パーセント,被審人日本鋳鉄管10パーセントの基本配分シェアを前年度の各社の実績と計画率との過不足で修正した当該年度の各社の受注計画率(年度配分シェア)を策定した上,予測した総需要数量をこの年度配分シェアで分配して各社の当該年度の受注予定数量を決定し,これを営業活動の指針とするとともに,各水道事業者が実施する入札において,談合で受注予定者を決めるという方法で,年度配分シェアが実現されるような受注調整を行っていた。
なお,被審人クボタは,戦後いち早く,ダクタイル鋳鉄管の発明に注目して独自の製造技術を開発しつつ特許の実施許諾を受け,大量生産のための鋳造法の技術開発や実用化の研究を行っていた。そして,同一規格の水道管が複数の製造業者によって供給されることを希望する水道事業者の意向に従い,被審人栗本鐵工所や被審人日本鋳鉄管に,自社が取得した特許技術の実施を許諾し,ノウハウの一部も提供してきている。したがって,被審人3社が製造するダクタイル鋳鉄管直管そのものについて,品質の相違はほとんどなく,また技術的な差別化も行われていなかった。
ウ 昭和30年代当時,ダクタイル鋳鉄管直管の取引は,水道事業者が直接被審人3社から入札により購入するという直需分野におけるものがほとんどであったため,被審人3社は,入札において受注予定者を決定するという方法で年度配分シェアを維持していたが,昭和42年ころから,大都市を除く水道事業者等では,地元建設業者の育成や購入したダクタイル鋳鉄管直管の保管管理に係る経費の節約等のため,管路工事を地元の指定工事店や地元ゼネコンに,また大型工事は大手ゼネコンに発注するようになり,間需分野の取引が増えていった。このため,被審人3社は,基本配分シェアに応じたダクタイル鋳鉄管直管の販売網を構築していくことにより,年度配分シェアを維持していた。
エ 昭和50年代ころまでの間には,ダクタイル鋳鉄管直管の需要量が伸び,新規水道事業者や新規建設業者の出現がみられた。被審人クボタの有力な第一次販売業者である安田株式会社(以下「安田」という。),扶桑建設工業株式会社,富士機材株式会社及び渡辺パイプ株式会社は,需要が増えた地域に店舗展開を行ったが,当該販売業者が新たに営業所を設けたり,あるいは新しい建設業者と取引を開始するに当たっては,同被審人の了解を必要としていた。
オ 昭和60年代に入るまでには,給水人口の大きな水道事業者の施設整備が一段落し,比較的給水人口の小さな水道の開発や従来の水道事業者による補充的な開発などが中心となって,一般的に工事規模が小さくなり,新設の施設建設の件数が減っていたが,間需分野の最終需要者である,主に給水人口50万人以下の市町村の水道事業者等は,管路更新,管路の耐震化,そして若干残っている未給水地区の解消等の事業を行っており,全国におけるダクタイル鋳鉄管直管の需要は40万トンから50万トンの間で推移し,平成10年当時まで至っていた。
また,工事を受注する建設業者の顔ぶれも全体としては大きな変化がなく,ダクタイル鋳鉄管直管を購入する建設業者は,同製品の最終的な需要者である水道事業者等から発注されるおおむね一定量の工事を,おおむね一定量ずつ受注した上,特定の第一次販売業者又は第二次販売業者から管路工事に必要な資材を購入していた。一方,第一次販売業者は,特定のダクタイル鋳鉄管直管の製造業者と販売代理店契約を締結しており,更に第一次販売業者と有力な第二次販売業者との取引も固定的であった。
カ 間需分野の需要動向が安定してきた昭和60年代ころには,間需分野における被審人3社の全販売量に占める各受注量の割合は,基本配分シェアに近いものとすることができていた。
(2) 本件シェア配分カルテルの実施方法
 前記(1)で述べた本件市場の状況を背景として,被審人3社は極めて長期間にわたり,シェア配分カルテルを実施してきた。本件違反行為である平成8年度及び平成9年度における本件カルテルの実施手順は,以下のとおりである。
ア 被審人3社による年間総需要見込数量の設定
(ア) 被審人3社による年間総需要見込数量の把握
被審人3社は,それぞれ,全国を北海道地区,東北地区,東京地区,中部地区,大阪地区,九州地区の6地区に区分していた(なお,被審人日本鋳鉄管は大阪地区以西には営業拠点を持っていない。)。そして,小林ら3人は,毎年,5月ころ,被審人3社における各地区(小林ら3人が受注調整を担当する東京地区を除く。)の受注調整担当者に対し,それぞれが担当する地区の当該年度の需要見込数量を報告するよう求めていた。
被審人3社の各地区における受注調整担当者は,各社の需要見込数量を算出するとともに,同じ地区の他の被審人の受注調整担当者と連絡を取り合って,それぞれが算出した需要見込数量を比較検討し,当該地区における被審人3社の共通の認識としての総需要見込数量を,小林ら3人のそれぞれに対して報告していた。また,各地区における各社のシェアについても,事前に被審人3社の当該地区の受注調整担当者間で調整してから,地区原案として5月末から6月初めにかけて報告していた。
なお,被審人クボタは毎年2月ころ,被審人栗本鐵工所は毎年1月末ころ,被審人日本鋳鉄管は毎年2月中旬ころに,それぞれ社内で需要予測を立てていた。
(査第6号証,第10号証,第14号証,第16号証ないし第25号証,第27号証,第47号証)
(イ) 被審人3社による総需要見込数量の決定
各地区の受注調整担当者からの報告を受けた小林ら3人は,毎年5月下旬か6月の初めごろ,各社ごとに,これらの報告のほか,過去の地区別の受注実績,各地区の意見や要望なども集約検討した上で,以下のとおり会合を開き,全国及び地区ごとの需要見込数量を設定していた。(査第23号証)
a 平成8年度
小林ら3人は,平成8年6月上旬から下旬にかけて,被審人日本鋳鉄管の本店会議室又は被審人栗本鐵工所が借用した東京都港区に所在する貸会議室において,平成8年度の総需要見込数量を設定するための検討会議を3回実施した。
(a) 平成8年6月4日に行われた1回目の検討会議において,小林ら3人は,それぞれ社内で作成した東京地区における発注事業体区分ごとの需要見込数量及び全国の地区別の需要見込数量を持ち寄り,報告を行った。
東京地区における発注事業体区分ごとの需要見込数量については,各社が持ち寄った数値が区々であるために,小林ら3人の間で調整を行った上で,発注事業体区分ごとに統一した数量を設定する作業が行われるが,その調整には1回当たり3時間から4時間を要するため,需要見込数量が完成するまでの間には,通常,2回から3回の検討会議が行われていた。
なお,被審人3社は,東京地区の事業体について,①東京ガス,京葉瓦斯株式会社等のガス会社の区分,②東京都水道局など直接被審人3社からダクタイル鋳鉄管直管を購入する水道局等の事業体の区分,③被審人3社が販売業者等を通じて建設業者にダクタイル鋳鉄管直管を販売する間需分野,④NTT,電力会社等民間の区分並びに⑤農業用水及び下水の区分の5つの需要者群に区分して,需要見込数量を設定していた。
全国の地区別需要見込数量については,小林ら3人は,各社において取りまとめられた各地区における需要見込数量を基に調整を行った結果,北海道地区2万9000トン,東北地区4万9000トン,東京地区19万8720トン,西地区(中部地区,大阪地区及び九州地区)23万9920トンとし,全国では51万6640トンの数値を仮設定し,これを被審人日本鋳鉄管の白石が表に取りまとめた。
(b) 6月11日行われた2回目の検討会議は,東京地区における需要見込数量の設定について更に慎重を期すために行われ,小林ら3人は,1回目に報告のあった数値を修正するなどして発注事業体別に調整を行った上で,東京地区の需要見込数量を19万9000トンと設定した。
(c) 3回目の検討会議は6月24日に行われ,東京地区の需要見込数量を確定させるとともに,東京地区以外の各地区の需要見込数量を見直して全国の総需要見込数量を設定した。
東京地区については,会議の席上,神奈川県内広域水道企業団の発注が翌年度に回ることが判明したため,前回設定された19万9000トンから19万5700トンに修正された。また,全国については,東北地区を4万9000トンから5万トンに,西地区を23万9920トンから24万トンに,それぞれ修正した。この結果,全国の総需要見込数量は51万4700トンと設定された。
(査第16号証,第22号証,第24号証,第25号証)
b 平成9年度
小林ら3人は,平成9年6月10日ころから同月20日ころまでの間,被審人日本鋳鉄管の本店会議室又は被審人栗本鐵工所が借用した東京都港区に所在する貸会議室において,平成9年度の総需要見込数量を設定するための検討会議を数回にわたり実施した。
(a) 平成9年度の総需要見込数量の設定のための検討会議は,平成9年6月10日,開催された。東京地区における発注事業体区分ごとの需要見込数量について,各社がそれぞれ持ち寄った見込数量を報告し,被審人クボタの小林が作成し同被審人の見込数量を既に記載済みの東京地区の発注事業体区分ごとの需要見込数量の表に,同日本鋳鉄管の白石がその余の数値を記入していった。
小林ら3人の検討の結果,東京地区の需要見込数量は19万3950トンとなったが,この数量では,平成8年度の実績である21万3779トンを大幅に下回るし,そのように大幅に下回る事情も見当たらないので,需要見込数量をもっと増やそうということになり,発注事業体区分ごとの数量を見直すこととなった。
(b) 6月20日に開催された第2回の検討会議では,平成8年度の総需要見込数量を設定したのと同様の方法により,まず,東京地区における需要見込数量について,各社の需要見込数量から更に多めに決めていった結果,その合計を19万7000トンとし,次に,平成9年度における全国の地区別需要見込数量を設定していった。この結果,平成9年度における全国の総需要見込数量は,52万4000トンと設定された。また,同日,発注事業体区分ごとの需要見込数量も設定された。
なお,この際にも,東京地区及び各地区から報告のあった地区別の需要見込数量を足し上げると,昨年度の発注実績を下回る数字であり,このように下回る特段の事情も見当たらなかったことから,各地区からの需要見込数量の報告を見直し,少しずつ多めの需要見込数量に変更した。
(査第6号証,第17号証,第22号証,第23号証,第27号証)
イ 各社の受注予定数量及び年度配分シェアの決定
(ア) 前記アのとおり全国の総需要見込数量及び地区ごとの需要見込数量が設定されると,小林ら3人は,当該設定された年度の総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に各社の前年度の受注数量等を勘案した数量を加減して,当該年度の各社の受注予定数量の総需要見込数量に対する割合を決定していた。
地区配分シェアについては,各地区から小林ら3人の下に報告が行われる以前に,事前に各地区の受注調整担当者間ですり合わせが行われている場合もあり,原則として,各地区から報告を受けた地区配分シェアを優先して使うこととしていたが,最終的には,過去の実績等も勘案しつつ,小林ら3人による検討会議の場で調整が行われ,決定されていた。
(査第6号証,第18号証,第22号証)
a 平成8年度
(a) 平成7年度の受注実績については,被審人3社の間で,年度配分シェアに総販売数量を乗じた数値と実際の販売実績との間に大きな過不足が生じていた。すなわち,平成7年度の被審人3社の受注実績は,平成7年度の年度配分シェアに同年度の総販売数量を乗じた数量と比べると,被審人クボタについては2369トン,被審人栗本鐵工所については380トンの超過となっており,逆に被審人日本鋳鉄管については2749トンの不足という状況にあった。
この過不足は,平成7年1月の阪神・淡路大震災の復旧に伴う被審人クボタ及び被審人栗本鐵工所の受注増と,被審人日本鋳鉄管の顧客である東京ガスがポリエチレン管を採用したことによる同被審人の受注減によるものであった。この過不足分を平成8年度の年度配分シェアに反映させると,東京地区で受注調整を行う上で影響が大き過ぎ,単年度では消化し切れなくなるため,小林ら3人は,被審人日本鋳鉄管の了承を得て,この過不足分については,平成8年度以降の3年間にわたり3分の1ずつ反映させることにより調整することとした。
(b) 前記(a)のとおり,平成8年度は,被審人日本鋳鉄管については,不足分2749トンの3分の1である920トンを繰り越すこととなり,また,被審人クボタと被審人栗本鐵工所については,超過分(被審人クボタについては2369トン,被審人栗本鐵工所については380トン)の3分の1である790トン及び130トンを両被審人の受注予定数量から減ずることとなった。
これにより,平成8年度の被審人3社の受注予定数量は市場全体の総需要見込数量である51万4700トンに,基本配分シェアである被審人クボタ63パーセント,被審人栗本鐵工所27パーセント,被審人日本鋳鉄管10パーセントをそれぞれ乗じた各社の基本受注予定数量に上記過不足の調整分を加減して,被審人クボタ32万3470トン,被審人栗本鐵工所13万8840トン,被審人日本鋳鉄管5万2390トンとなった。年度配分シェアは,総需要見込数量に占める各社の受注予定数量の割合を算出することにより,被審人クボタ62.85パーセント,被審人栗本鐵工所26.97パーセント,被審人日本鋳鉄管10.18パーセントとされた。
また,既に東京地区を除く各地区における地区別の需要見込数量が設定されていることから,これに各社の地区配分シェアを乗じることによって,各社の地区別の受注予定数量を算出した。東京地区については,平成8年度の各社の受注予定数量から東京地区を除く各地区の受注予定数量の合計を差し引いたものを東京地区における各社の受注予定数量として決定した。
(査第6号証,第16号証,第17号証,第24号証,第25号証,第27号証)
b 平成9年度
平成9年度の総需要見込数量である52万4000トンを被審人3社の基本配分シェアで配分した上で,前年度までの過不足を加減した結果,平成9年度の被審人3社の受注予定数量は,それぞれ,被審人クボタ32万9638トン,被審人栗本鐵工所14万1218トン,被審人日本鋳鉄管5万3144トンとなり,これらの値を総需要見込数量で割ること等によって各社の年度配分シェアを,それぞれ,被審人クボタ62.91パーセント,被審人栗本鐵工所26.95パーセント,被審人日本鋳鉄管10.14パーセントとした。
全国各地区の各社の受注予定数量及び地区配分シェアについては,平成8年度と同様の方法により決定した。
(査第6号証,第17号証,第23号証,第27号証)
(イ) こうして小林ら3人によって決定された全国の総需要見込数量,各地区及び東京地区における需要見込数量,各社の受注予定数量及び年度配分シェアに係る計画案(以下「計画案」という。)を「市場別・地区別計画総量」との標題の表にまとめ,小林ら3人等がそれぞれの上司に報告した上,最終的には,次のとおり,小林ら3人及び各社の担当部長等による会議(以下「部長会」という。)の場でそれぞれ原案どおり正式に決定した。
a 平成8年度
平成8年8月20日ころ,東京都中央区所在の水道用ポリエチレンパイプシステム研究会会議室で部長会が開催され,平成8年度の年度配分シェアを計画案に基づくものとすることが決定され,同年度末までに各社においてそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合を前記年度配分シェアに合致させるよう,受注数量の調整を行うことを合意した。
b 平成9年度
平成9年7月9日ころ,東京都新宿区所在の日本水道協会会議室で部長会が開催され,平成9年度の年度配分シェアを計画案に基づくものとすることが決定され,同年度末までに各社においてそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合を前記年度配分シェアに合致させるよう,受注数量の調整を行うことを合意した。
なお,被審人クボタの小林は,平成9年度の部長会の席上,平成8年度においては,実際の発注量が当初の総需要見込数量を大幅に超えた理由として,①阪神・淡路大震災の特需が残っていたこと,②各地区でダクタイル鋳鉄管を耐震管に替える需要が発生したこと,③大型補正予算による発注があったこと等による旨説明した。
また,同部長会では,①被審人クボタの第一次販売業者である安田が同被審人に報告せず勝手に東京都練馬区に営業所を開設したことから,同被審人は販売店としては安田の練馬営業所を認めない等の対処方法,②山梨県下において第二次販売業者が安値により他の被審人の販売店の得意先建設業者に対して売り込みをかけるケースが見受けられ,これにより山梨県におけるダクタイル鋳鉄管直管等の販売価格が安くなっていることへの対応,③併売店(第二次販売業者のうち複数の被審人のダクタイル鋳鉄管直管の販売業務を行っている第二次販売業者をいう。以下同じ。)が安値による売り込みをかけることが多く見られることから,今後は併売店をなくしていくとの方針等が話し合われた。
(査第7号証,第8号証,第13号証,第16号証,第17号証,第23号証ないし第25号証,第27号証,第29号証,第44号証)
ウ 被審人3社における社内への地区配分シェア等の伝達
小林ら3人は,全国各地区における各社の受注予定数量及び地区配分シェアを,それぞれ自身が担当する東京地区を除く各地区の受注調整担当者に伝えていた。
被審人クボタでは,地区の受注調整担当者の本件カルテルの認識の程度に応じて,当該担当者の担当地区以外の地区や全国についての総需要見込数量や年度配分シェアを伝える場合もあった。さらに,会社としてどの程度受注することになるのか,地区別ではどうなっているのかを部長以上の者に知らせるため,社内の鉄管営業部門の部長級以上の者が集まる会議においても,受注調整の計画を説明していた。
被審人栗本鐵工所の友は,各地区内で地区配分シェアに基づき受注数量を調整させるため,各地区の支店等の営業担当課長に対し,地区ごとの需要見込数量及び地区配分シェアを連絡していた。
被審人日本鋳鉄管の白石又は同被審人営業部長の木村太一は,各地区の営業所長が出席する営業所長会議の後などに,地区配分シェアについて説明を行い,各担当者にこのシェアとなるように受注数量の調整を行う旨指示した。
(査第6号証,第8号証,第10号証,第17号証ないし第25号証,第27号証)。
エ 被審人3社による毎月の受注実績の把握
小林ら3人は,最終的に年度配分シェアどおりの受注数量となるよう調整するために,資料を作り,毎月,受注予定数量と実際の受注数量の相違等を把握していた。
(ア) 被審人クボタでは,各地区における被審人3社の受注実績等に関するデータを毎月作成していた。そして,被審人クボタの本社の鉄管企画部販売促進課では,毎月3日又は4日に出力されるこのデータを集計し,「月ごとの地区別受注実績表」(以下「1番目の表」という。),「月ごとの市場別受注実績表」(以下「2番目の表」という。),地区別及び市場別の受注実績を一つにまとめ,毎月の実績を累計により示した表(以下「3番目の表」という。)及び上水市場におけるブロック別・都道府県別の受注実績表(以下「4番目の表」という。)を作成していた。
同課の集計作業担当者は,これらの4つの表に同被審人の数値を記入し,さらに,毎月10日ころには被審人日本鋳鉄管から送付されたデータを付けて,これらを被審人栗本鐵工所の担当者に送付していた。
被審人栗本鐵工所の担当者は,自社の実績及び被審人日本鋳鉄管のデータを整理して,上記4つの表を完成させ,毎月20日から25日ころまでの間に被審人クボタの集計作業担当者に送り返していた。
(イ) 被審人クボタの集計作業担当者は,これらの4つの表を本社の鉄管企画部販売促進課長に交付し,本社の鉄管企画部販売促進課は,毎月,1番目ないし3番目の表並びに4番目の表のうち東北地区及び東京地区の分を被審人クボタの小林に社内便で送付し,中部地区,大阪地区及び九州地区の分は,本社鉄管営業部の課長に手渡していた。被審人クボタの小林は,これらの送付を受けて,毎月,需要見込数量と比べた受注数量の割合,年度配分シェアと比べた各社の受注実績及び地区別の地区配分シェアと比べた各社の受注実績が分かるようにした「地区別実績表」,東京地区における市場分野別,主たる発注事業体別,都県別の受注実績を示した表である「東京地区実績表」及び上工水の都県別,直需・間需別の配分率又は受注見込割合と比べた各社の受注実績を示した表である「上水受注実績表」という3つの表を,自ら作成して,小林ら3人で,毎月の進捗状況を管理していた。
(ウ) さらに,小林ら3人は,例年,2月か3月の年度末近くに会合を開催して,それまでの受注実績と3月の各社の受注予定を持ち寄り,それを集計して,当該年度の最終的なシェアの実績の見込みについて検討していた。
(査第11号証,第16号証ないし第18号証,第22号証,第24号証,第25号証,第29号証ないし第33号証)
オ 東京地区の直需分野における受注数量の調整
(ア) 東京地区における受注調整担当者でもあった小林ら3人は,各社の全国における受注数量を年度配分シェアに従ったものとするため,東京地区の直需分野を中心に受注調整により受注予定者を決めることで,最終調整を行っていた。
ただし,東京都水道局発注分については,従来の経緯により被審人クボタ58.0パーセント,被審人栗本鐵工所27.0パーセント,被審人日本鋳鉄管15.0パーセントと定まっていたことから,かかる調整のために利用することはなく,実際の調整枠に当てられていたのは,東京地区の一般直需分野であった。このため,同分野について,小林ら3人は,その受注予定数量の合計についてのみ各社の配分シェアを決め,水道事業者別の受注予定数量や配分シェアはあえて決めずに,柔軟に調整を行うこととしていた。
(査第6号証,第16号証,第24号証,第25号証,第29号証)。
(イ) 東京地区の一般直需分野における受注予定者の決定は,入札などの指名がある都度行われていた。発注者から入札参加の指名等があった場合は,その発注者を担当している各社の担当課長から,発注物件,物件ごとの数量,入札日等の連絡があり,小林ら3人は,相互に電話で連絡を行い,入札案件ごとに,対象となる管種,口径の在庫があるか否か,納期に間に合うか否か等の事項を確認した上で,決められた配分シェアとなるよう受注予定者を決めていた。
しかし,当初の総需要見込数量と実際の発注実績及び年度配分シェアと各社の実際の受注実績の間には差異が生じるため,小林ら3人は,毎年1月ころからは,東京地区の一般直需分野の配分シェアにとらわれず,前記エ(イ)の資料等を見ながら,最終的に各年度配分シェアどおりとなるように受注予定者を決定していた。
(査第11号証,第23号証,第24号証,第29号証)
(ウ) 東京地区の直需分野で受注調整した結果については,被審人栗本鐵工所の友が,被審人3社の受注実績を,月別,発注事業体別に取りまとめ,パソコンで管理し,これを被審人クボタの小林に渡し,同人はこれを確認した上で被審人日本鋳鉄管の白石に渡していた。
なお,東京地区の直需分野の受注調整は,被審人3社の年度配分シェアの計画がまだ決まっていない年度当初の4月から行っていたが,例年,被審人3社のシェアに大きな変動がないことから,受注シェアの配分が決まる前までに受注調整を行う場合は,取りあえず,前年度の配分シェアに基づいて受注調整を行っていた。
(査第11号証,第18号証,第22号証,第24号証,第25号証)
カ 年間の総需要見込数量の修正(平成8年度に実施)
(ア) 前記イのとおり,各社の年度配分シェアは,全国の総需要見込数量に各社の基本配分シェアを乗じて得られる数量に,前年度において生じた,各社の年度配分シェアに基づいて計算される受注予定数量と受注実績との間の過不足分を加減することにより決められるものであり,受注調整を行う上で基本となるものであった。しかし,全国の需要見込数量と発注実績が大きく食い違ったこと等により配分すべきシェアも変わってくるような場合には,この年度配分シェアを見直すこともあった。
(イ) 平成8年度においては,阪神・淡路大震災に係る復興需要等により,当初の総需要見込数量を大幅に超えて発注がなされた。被審人クボタの小林が平成8年11月初旬に算出したところでは,平成8年度当初の総需要見込数量は51万4700トンであったのに対し,10月までの発注量は34万6867トンで,需要見込数量に対する発注量の割合である進捗率は67.4パーセントであった。これは平成7年度に比べて高いものであり,9月時点でもその傾向は既にみられていた。また,被審人日本鋳鉄管が余り営業を行っていない西日本地区におけるダクタイル鋳鉄管直管に対する需要が拡大し,全国レベルで約2万トンのダクタイル鋳鉄管直管の需要量の増加が見込まれた上,同被審人の顧客であった東京ガスが,東京地区においてダクタイル鋳鉄管直管をポリエチレン管に切り替えていった等の事情から,東京地区の一般直需分野の配分枠では調整し切れなくなる可能性が生じた。このため,小林ら3人は,前記アと同じ方法で,当該年度の総需要見込数量の再設定を行うことを決定した。
なお,被審人日本鋳鉄管の白石は,総需要見込数量の再設定に当たり,上司から,12月以降同被審人の東北地区(なお,東北地区は間需分野の取引のみで直需分野における取引はない。)における地区配分シェアを上方修正するよう,小林ら3人における会議の場で協議するべく指示を受けた。
(ウ) 小林ら3人は,11月下旬に,それぞれ見込んだ平成8年度の総需要見込数量を持ち寄り,検討会議を行った。同会議における見直しの結果,平成8年度における総需要見込数量を当初のそれより約2万トン増加させて53万5000トンとし,これに基本シェアを乗じて得た数量に前年度の過不足分を加減して算出される被審人各社の受注予定数量を被審人クボタが33万7050トン,被審人栗本鐵工所が14万4450トン,被審人日本鋳鉄管が5万3500トンに変更し,年度配分シェアを被審人クボタ62.86パーセント,被審人栗本鐵工所26.98パーセント,被審人日本鋳鉄管10.16パーセントと修正した。
さらに,小林ら3人は,見直し後の総需要見込数量を基に東京地区の地区配分シェア及び同地区の一般直需分野の配分シェアを算出し,今後,どのような割合で東京地区の一般直需分野における受注予定者を決めていけばよいのかを検討した。その結果,今後の発注予定にかんがみると,被審人日本鋳鉄管の生産管種及び生産能力では,同被審人に配分された同分野における受注割合は実現することが難しいと判断されたため,それまでの同被審人の受注実績を勘案して,東北地区及び大阪地区における同被審人の地区配分シェアを見直すこととした。
これらの見直しの結果について,小林ら3人は,いずれも上司の担当部長に報告し,その了承を得た。
(エ) 被審人3社は,平成8年12月ころまでは,前記(ウ)の修正後の東京地区の一般直需分野の配分シェアに従って受注予定者を決めていたが,被審人クボタの小林が毎月作成する年度配分シェアと実際の受注を比較すると,全国ベースでは,被審人日本鋳鉄管が2245トンもマイナスとなっていた。また,平成9年の3月までには,消費税率の引上げ前の駆込み需要や補正予算の執行などにより更に多くの発注が予想されたことから,平成8年度の総需要見込数量は,11月時点での見込みを更に上回り,当初のそれより4万5000トンの需要量の増加(総需要量56万105トンに達する。)が見込まれた。このため,平成9年3月10日ころ,小林ら3人は,平成8年分の最終的な需要見込数量と受注シェアを検討するために,会合を開き,平成8年度の総需要見込数量を56万105トン(被審人クボタ35万2866トン,被審人栗本鐵工所15万1228トン,被審人日本鋳鉄管5万6011トン)とする調整を行った。
(査第14号証,第16号証,第18号証,第19号証,第22号証,第24号証,第25号証,第29号証,第33号証ないし第35号証)
キ 年度配分シェアの達成状況
被審人3社は,以下のとおり各年度の年度配分シェアにほとんど一致する割合でダクタイル鋳鉄管直管を受注していた。
(ア) 平成8年度
前記カ(ウ)のとおり,平成8年11月下旬に実施された総需要見込数量の修正の結果,平成8年度の年度配分シェアは,被審人クボタ62.86パーセント,被審人栗本鐵工所26.98パーセント,被審人日本鋳鉄管10.16パーセントと合意されていたところ,平成8年度における受注実績は,被審人クボタ62.75パーセント,被審人栗本鐵工所27.03パーセント,被審人日本鋳鉄管10.22パーセントであった。(査第6号証)
(イ) 平成9年度
前記イ(ア)bのとおり,平成9年度の年度配分シェアは,被審人クボタ62.91パーセント,被審人栗本鐵工所26.95パーセント,被審人日本鋳鉄管10.14パーセントと合意されていたところ,平成9年度における受注実績は,被審人クボタ62.82パーセント,被審人栗本鐵工所27.30パーセント,被審人日本鋳鉄管9.88パーセントであった。(査第11号証)
3 争点1(シェア配分カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るか否か。)について
(1) 独占禁止法第7条の2第1項の趣旨
ア 独占禁止法第7条の2第1項は,「事業者が,不当な取引制限・・・で,商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるものをしたときは,・・・事業者に対し,・・・当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額」に所定の率を乗じて得た額に相当する額を,課徴金として国庫に納付するよう命じなければならない旨規定して,独占禁止法第3条に違反する不当な取引制限のうち,「対価に係るもの」(価格カルテル)と,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」(供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテル)について,課徴金の対象となることを定めている。
この課徴金の制度は,昭和52年法律第63号(以下「昭和52年改正法」という。)による改正において,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(独占禁止法第89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(独占禁止法第25条)に加えて新設されたものである。
イ この制度新設の過程において,公正取引委員会は,当初,昭和49年9月に公表した「独占禁止法改正試案の骨子」において,「カルテルにより不当な価格引上げが行われた場合」に課徴金の納付を命ずることができるものとし,課徴金の額はカルテルによる引上げ額を基準として算定する考え方を提示していたが,その後の政府内の検討を経て,前記アのように,課徴金の対象たる違反行為を,カルテルのうち,「対価に係るもの」(対価の引上げに限らない。以下「価格カルテル」という。)に加えて,「実質的に・・・供給量を制限することにより対価に影響があるもの」(供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテル)にまで拡大するとともに,課徴金を課するか否かについての公正取引委員会の裁量を排除し,課徴金の賦課を義務的なものとし,かつ,課徴金の算定においては,具体的なカルテルによる経済的利得とは切り離し,一律かつ画一的に算定される金額をもってその額とすることとして,昭和50年3月に政府提出法案として提出され(公正取引委員会昭和49年度年次報告参照),昭和52年改正法として,同年6月に成立するに至ったものである。
このように,価格カルテル(価格引上げに係るものに限る。)に限り課徴金の対象とするとの当初の考え方を修正して,価格カルテルのほか供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルをもその対象とすることとされた趣旨を推し量れば,独占禁止法が目的とする公正かつ自由な競争の促進のためには,価格を介して需給が調整され,もって資源の最適配分が達成されるという機能,すなわち,需要量と供給量の関係で価格が決まり,価格の変化を通して需要と供給が調整されるという市場メカニズムが発揮される市場を維持,促進することが,消費者の利益に適い,最も重要であるとの考え方を踏まえ,供給量制限効果に重きを置いて課徴金の範囲を価格カルテル以外に拡大したものと考えられる。
そして,法律の文言上も,価格カルテルについては「対価に係るもの」との表現を用いているのに対し,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルについては,「供給量制限に係るもの」といった表現を用いず,個別のカルテルの供給量制限効果と対価影響性を実質的に判断することとする表現を用いているのである。
この点に関し,上記法案に関する国会における質疑において,柴田政府委員は,「この法案の中で『実質的に供給量を制限することによりその対価に影響があるもの』については,市場への供給量を制限することは必然的にその対価に影響を与えるものであるということから,その態様のいかんを問わず,価格カルテルと同様の効果を持つものとして課徴金の対象とするとの趣旨に基づき定められたものであ」り,また,「個々のカルテルがこれに当たるかどうか」は,「当該カルテルが供給量を制限するものであるかどうか,あるいは実質的に供給量を制限する効果を持つものであるかどうか,それによって決まってくるだろうというふうに考えておりまして,最終的には個別のカルテルの実態に即して,具体例によって判断をして」いく旨発言している(第120回国会衆議院商工委員会議録第8号)。(査第2号証)
ウ 前記イで述べた立法経緯や文理等にかんがみると,独占禁止法第7条の2第1項にいう「供給量」とは,需要量と供給量の関係で価格が決まってくるという機能における「供給量」を意味し,生産や流通の段階で在庫として保有されるものを含めて販売又は提供のために市場に供される商品又は役務(以下合わせて「商品等」という。)の量をいうと解釈すべきであり,「供給量を制限する」とは,価格の変化を通じて需給が調整され,供給量が決定されるという機能の発揮を阻害する人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定して当該限界・範囲の中に供給量を抑えることをいうものと解すべきである。また,「実質的に・・・供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは,市場全体に対する供給量総量を制限するものであることを要するが,供給量を制限することを合意の内容とし,又はそれを直接企図したカルテルに限られず,供給量を制限する効果を有するカルテル,すなわちカルテルの効果として市場全体の供給量を制限することとなるものは,これに含まれるものと解すべきである。
そして,商品等の市場全体への供給量が制限されれば,それが対価に影響を与えることは経済上の経験則であるから,当該市場がかかる需給関係が機能しない市場である等の特段の事情がない限り,価格に影響を及ぼすことになるというべきである。
以上の考え方は,後記(2)イ(ウ)で述べる公刊された解釈論の状況からも支えられるものということができる。
エ 被審人3社は,独占禁止法第7条の2第1項の趣旨は,本来,価格カルテルのみを課徴金納付命令の対象行為とすることにあり,価格カルテルに加えて供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルを課徴金の対象としたのは,価格カルテルの脱法的行為を防止するためであるから,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルとは,「供給量の制限を直接もたらすことが類型上明らかなもの」(被審人クボタ),「価格カルテルと同様の効果を持つカルテル」(被審人栗本鐵工所),「価格カルテルと実質的に同一の効果を有するカルテル」(被審人日本鋳鉄管)に限定されるべき旨主張する。
しかし,これらの主張中被審人クボタの主張は,前記ウに述べたところから採用することができないし,その余の被審人3社の主張は,前記ウの解釈と必ずしも矛盾するものではない。
なお,被審人クボタは,独占禁止法第7条の2が,課徴金の賦課という不利益を国民に負わせ,実質上刑罰にも類する制裁措置であることから,同条第1項の解釈は明確かつ限定的に行われるべき旨主張し,また,被審人日本鋳鉄管も,文言に忠実に,かつ厳格に解釈されるべき旨主張するが,法律の規定は,法の趣旨と文理等に照らし合理的に判断すべきものであって,上記各主張は前記ウの解釈を左右するものではない。
(2) シェア配分カルテルの一般的性質について
前記第1の3(2)で述べたとおり,本件カルテルは,独占禁止法第3条の規定に違反するシェア配分カルテルに当たるところ,シェア配分カルテルが,その性質上一般的に,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るか否かについて検討する。
ア シェア配分カルテルの実施方法
シェア配分カルテルは,カルテルに参加した事業者が,共同して,当該市場全体における一定の期間(以下「シェア算定期間」という。)の実際の総販売数量に占める各カルテル参加者の販売数量の割合(シェア)をあらかじめ決定し実行する合意である。シェアは事後の総販売数量に対する割合であるため,シェア算定期間における総販売数量が判明した後に初めて算出可能となるものである。このように事後的に定まるべきシェアを,事前にカルテル参加者間で合意して実行するために,シェア配分カルテルは,通常,以下のような仕組みを有することとなる。
(ア) カルテル参加者による総需要見込数量の設定
シェア配分カルテルを実行するためには,まず,カルテル参加者間において,シェア算定期間におけるシェア配分カルテルの対象となる商品等の総需要見込数量を設定することが必要である(審査官が「仮置き数字」と主張するものがこれに該当する。)。
そして,上記総需要見込数量を設定するためには,カルテルの対象となる商品等について,ある特定の価格を前提にすることとなるところ,独占禁止法第3条に違反し,競争を実質的に制限する実効性のあるシェア配分カルテルを行うことができるのは,市場において有力な地位を有する者であるから,その参加者は,共同することにより,この場合の価格を,ある程度自由に設定することが可能な地位にいることとなる。すなわち,カルテル参加者が,現行価格からの値上げを期する場合には値上げ予定価格を前提として,現行価格の維持を期する場合には現行価格を前提として,それぞれ算出された需要数量を総需要見込数量とすることが可能となるのである。
(イ) カルテル参加者の供給能力行使の制限
前記(ア)の総需要見込数量にカルテルで合意するシェアを乗じた販売予定数量が各カルテル参加者に配分され,参加者が,自社に割り当てられた販売予定数量の範囲内に収まるように商品等の販売を行うことによって,カルテル参加者間において設定された総需要見込数量の実現可能性,ひいては合意されたシェア維持の可能性が高まることとなる。このため,各カルテル参加者は,自社に配分された販売予定数量の範囲内に収まるように商品等の販売を行うのである。そして,各カルテル参加者は,当該販売予定数量を考慮の上生産計画を立て,市場に供する供給量を調整することとなる。
したがって,シェア配分カルテルは,各カルテル参加者の供給能力の行使を制限する効果を有するものであり,これにより,各カルテル参加者の供給能力の和であるカルテル参加者全体の供給能力の行使もまた制限されることとなる。
シェア配分カルテルにより,各カルテル参加者に販売予定数量を割り当て,各カルテル参加者の供給能力の行使を制限したとしても,各カルテル参加者が事業活動を行う上で,総需要見込数量と結果としての需要量(以下「実需要量」という。)との間で齟齬が生じることは当然予想されるため,シェア配分カルテルでは,カルテル参加者全体の総販売数量における各カルテル参加者の実販売数量の割合がカルテルによって配分されたシェア内に収まるように,シェア算定期間中において,調整手段を有するのが通常である。
また,シェア配分カルテルでは,カルテル参加者各社のシェアに応じた進捗状況を定期的に確認し,管理したり,またカルテル違反となった場合に次年度のシェアを減じるなどの制裁措置を講じる場合もある。
こうした仕組みが整備されるほど,シェア配分カルテルの実効性は高まり,各カルテル参加者の供給能力の行使が総需要見込数量を基に配分された販売予定数量の範囲内に制限されるという効果が高まることとなる。
さらに,事前の総需要見込数量に見込み違いがあり,当該総需要見込数量を基に各カルテル参加者に配分された販売予定数量のまま維持したのでは,シェア配分カルテルが維持できないような場合には,総需要見込数量の再設定が行われることがある(審査官が「仮置き数字修正型」と主張するものである。総需要見込数量の再設定が行われない場合は審査官が「仮置き数字固定型」と主張するものである。)。この場合の総需要見込数量の再設定は,予定外の需要の発生に応じて随時,即時に,何度でも行うことができるというものではなく,当初に行われた総需要見込数量の設定と同様の手順を踏んで行われるのが通常である。このような総需要見込数量を再設定する仕組みを有することは,再設定が実施され総需要見込数量の変更が確定するまでの間は,従前の総需要見込数量に基づき設定された各社の販売予定数量が各カルテル参加者による供給能力行使の基準として実効的に機能していることを推認させるものである。
イ シェア配分カルテルの供給量制限効果及び対価影響性
(ア) シェア配分カルテルの供給量制限効果
前記アで述べたとおり,一般的に,シェア配分カルテルは,カルテル参加者がカルテルの対象となる商品等について,その総需要見込数量を設定し,これを合意されたシェアに応じて販売予定数量として各カルテル参加者に割り当て,各カルテル参加者は,当該販売予定数量に適合するように自社の供給能力を行使することとなり,その数量を超えて供給しようとはしないことになるから,その供給量,すなわち販売等のため市場に供する商品等の数量は,自由競争の下におけるそれよりも結果として低位の水準に抑えられることになり(そのことは,在庫量についてみれば,販売の促進に備えるための在庫量の抑制として現われる。),その結果参加者全員の市場への供給量を抑えることになる。
また,前記ア(ア)で述べたように,カルテル参加者は,価格をある程度自由に決定することができる地位にあるから,設定する総需要見込数量は,カルテルによる相互拘束状態において形成されるであろう(又は,これまで形成されてきた)価格を前提としてのものであり,自由競争の下に形成されるであろうそれとは異なるものであって,一般的に前者は後者より低い数量に抑えられるものである。
以上のとおり,シェア配分カルテルの拘束の下に形成される各参加者の供給量の和,すなわち供給総量は,自由競争市場におけるそれよりも抑制されるから,シェア配分カルテルは,アで述べたような一般的性質を有するものである場合には,需要量が外的要因により完全に固定的であること,カルテル参加者の供給能力が完全に固定されていること(すなわち,審査官が主張する要件①及び要件②の事由が存しないこと)などの特段の事情がない限り,全体の供給量を制限,抑制する効果を持つものである。
(イ) 対価影響性
シェア配分カルテルが前記(ア)で述べたように供給量制限効果を有するものに該当する限り,前記(1)ウ第2段落で述べたとおり,特段の事情のない限り,価格に影響を及ぼすことになる。
ところで,シェア配分カルテルは,シェア獲得競争を制限するものであるから,そのこと自体によって価格競争を行う経済的誘因を阻害し,カルテルがなかった場合より高い利益を可能とする水準での価格の安定効果(価格の高値安定効果)が生じる(この点について,東京高裁刑事判決は,「被告3社が事実上寡占する本件製品の市場において,被告3社の立場はそれぞれに安定したものとなり,自社の本件製品の標準価格を,他社よりも一方的に値下げするなどの事業活動は,自社製品の売上げ増をもたらし,勢いシェア協定で合意された他社の受注シェアを蚕食することになって,シェア協定違反を招来するであろうから,事実上,実行困難となることは自明の理である」旨述べているところである。)が,これに加えて,上記の供給量制限効果によっても,当該商品の価格の高値安定効果を有するものであり,この双方があいまって,対価に影響を及ぼすことになる。
したがって,シェア獲得競争の制限自体による対価影響性が存在することは,「供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」との要件該当性を妨げるものではない。
(ウ) 小括
以上より,シェア配分カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るものであり,かつ,個別のシェア配分カルテルが以上に述べたような一般的性質を具有する場合には,前記特段の事情がない限り,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当するものと判断される。
ちなみに,「供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」の範囲に関し,公刊された解釈論を概観すると,以下のとおりである。
a 「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは,いわゆる数量制限カルテルを典型的には指しているが,実質的に商品若しくは役務の供給量を制限する効果を持つカルテルはすべて含まれる。すなわち,実質的に商品若しくは役務の供給量を制限すれば,対価に影響が生ずると考えられるからである。(中略)生産数量を制限するカルテルの場合には,通常供給数量が,制限されることとなるが,設備制限カルテル,投資制限カルテル,技術制限カルテル,取引先制限カルテルなどは,実質的に供給量を制限する効果を常に有するとは限らず,ケース・バイ・ケースで,課徴金賦課の対象となるかどうかを判断すべきであろう。」(柴田章平編「改正独占禁止法一問一答」大成出版社48頁・昭和53年9月)(査第1号証)
b 「課徴金制度の対象が,放置すればやり得となるほとんどすべてのカルテルを含みうるほど広くなっており,この点では,目的実現にとってほぼ満足しうるものとなっている。すなわち,対価に係るカルテルだけではなく,実質的に供給量を制限することにより対価に影響を与えるカルテルをもその対象となっており,後者のカルテルには,生産や販売の数量制限,生産設備の制限,操業度の制限など供給量の制限を直接目的ないし内容とするカルテルのみではなく,結果として供給量を制限するカルテルも含まれるので,生産分野の協定,市場分割,技術の制限,参入阻止などのカルテルをも課徴金制度の対象に入れることができるからである。(中略)後者のカルテルの場合には,供給量の制限は必然的に対価に影響を与えるものであるから,実質的に供給量を制限するカルテルであることが立証されれば十分であろう。」(根岸哲「違法カルテルに対する課徴金制度」法律時報49巻11号54頁・昭和52年9月)(査第3号証)
c 「実質的に商品もしくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響を与えるカルテルとしては,生産数量制限カルテルおよび販売数量カルテルがこれに該当する。しかし,結果として供給量の制限をもたらすカルテルもここに含まれるから,市場分割カルテル,シェアーを固定化するカルテル,新規参入者を阻止するカルテルなども課徴金の対象となる。このように非常に広範囲のカルテルに課徴金が課せられることになる。」(金子晃「違法カルテルに対する課徴金」企業法研究第267号23頁・昭和52年8月)(査第4号証)
d 「実質的に供給量を制限することにより対価に影響があるものとは,類型的にみて供給量の制限をもたらすものを意味し,実際に相当程度に供給量を制限したか,それが対価に影響があったかは問わない。生産制限・供給制限,これらに伴う出荷比率の決定などがこれに該当することに問題はない。」(実方謙二「独占禁止法」有斐閣217頁・昭和62年2月)
e 「『実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響がある』不当な取引制限行為が課徴金徴収の対象となる。この条項も,独占禁止法改正論上,当初のうちは存在しなかった規定であったが,後に追加され改正法にとり入れられるに至ったものである。それだけに,この規定がどの範囲の不当な取引制限を対象にしているかについては,あいまいさが残されている。不当な取引制限のうち,何らかの意味で供給量の制限につながるものをひろってみると,次のようなものがあげられる。①販売数量カルテル,出荷数量カルテル,生産数量カルテル。数量のかわりに率で決めるものも含まれる。これらは,供給量制限カルテルの典型的な類型といえるであろう。②原材料の割当カルテル,中間材の生産制限カルテル,技術制限カルテル,設備使用制限カルテル,設備投資制限カルテル等。これらは,結果的には供給量の制限に連なることが多いが,単なる数量カルテルというよりも,若干その対象を拡げるものであり,類型をやや異にするので,本稿では拡大第一類型と呼ぶことにする。③さらに広くとらえると,拡大第二類型が考えられる。販売地域制限カルテル,取引先制限カルテル,顧客割当カルテル,受注予定者決定カルテル,販路制限カルテル,市場分割カルテル,参入阻止カルテル等である。(中略)現在までに発表されている学説は,以上のうち,①は当然に課徴金徴収の対象となり,②については,その多くの場合が対象になるとし,③については,有力な学者がこれを肯定しているという状況にある。」(植木邦之,川越憲治「判審決独占禁止法」社団法人商事法務研究会400頁・昭和61年1月)
f 「供給量の制限を直接,間接にもたらすカルテルをいうものと理解される。供給量の制限がもたらされるものであれば,その対価に影響があることは必然だからである。したがって,供給量の制限がもたらされるものであれば,その対価に影響があることを立証する必要はない。(中略)これに該当するカルテルの具体的な行為類型が問題となる。まず,販売数量制限カルテル,生産数量制限カルテルについては問題はない。また,販売比率,生産比率を定めるカルテルも販売数量の制限や生産数量の制限に帰着するものは問題ない。」(波光巌「カルテル規制と課徴金の徴収」ジュリスト685号32頁・昭和54年3月)
g 「当初公取試案で考えられたような値上カルテルに限られず,対価維持を目的とするものも含まれ,また,直接の価格カルテルのみならず対価に影響を与える供給制限カルテルも含まれる。供給制限カルテルは,すべて当然に対価に影響があるものに該当する。けだし,対価は,需給関係の反映であるから,供給制限行為は,当然に,対価に影響があることになるし,またそうであればこそ,それを内容とするカルテルがつくられることになるのである。供給制限は直接でなくても,原料割当,操業制限,中間生産財の生産制限など,『実質的に』その効果を生ずる手段によるものであればよい。(中略)しかし,顧客割当,市場分割などは,対価に影響を与えることにはなるが供給量の制限といえるかどうかは疑問である。(注)実方教授,根岸教授は,『結果として供給量を制限するカルテルも含まれる』という論拠から,販売地域の協定や販売比率(シェア)を固定するカルテル(実方313頁),生産分野協定や市場分割(根岸54頁)も含まれると説く。生産・販売比率の制限は数量制限に帰着するが,その他の場合はいかがなものであろうか。」(今村成和「独占禁止法[新版]」有斐閣346頁・昭和53年6月)
h 「価格の引上げや維持が,供給量の制限をとおして行われることが多く,実質的には直接価格の引上げや維持を図るカルテルと同じ機能を果たしているとみられるので,供給量制限カルテルが価格カルテルと並んで課徴金対象カルテルとされたものである。では,供給量制限カルテルとしては具体的にどのようなものがあげられるのか。まず,生産数量(比率)制限カルテル,出荷数量(比率)制限カルテル,販売数量(比率)制限カルテルのように,数量制限を直接目的とするカルテルが,その典型的類型であることについては異論がないが,法文は「実質的に供給量を制限する」ものとその範囲を拡大しているので,結果的に供給量制限につながるカルテル類型も,課徴金の対象カルテルとなることになる。(川井克倭「カルテルと課徴金」日本経済新聞社132頁・昭和61年3月)
i 「『供給量を制限する』カルテルとしては,生産数量,販売数量を制限するカルテルが,もっとも典型的である。これに加えて,供給量の制限を目的とするカルテル,および供給量の制限という効果を伴うカルテルが,これに含まれることになる。操業率の制限,操業時間の制限,中間製品の生産制限,生産設備の制限,生産設備投資の制限などは,供給量を制限するカルテルということになる。かかる形態のカルテルが行われた場合には,カルテルの性格自体が,『供給量の制限』にあると認められ,課徴金の徴収が行われることになる。問題となるのは,市場分割協定,顧客の制限協定,生産分野協定などの競争制限的協定の場合である。競争者間で,供給の相手方を制限することによって,市場における供給者間の競争を制限しようとするこれらの協定が,価格に影響を及ぼすことは否定できないが,これらの行為が,その性格上,ただちに供給量の制限に連なるということは困難な場合もあろう。また,技術の制限を内容とするカルテルの場合も,必ずしも供給量の制限に結びつくとは限らないのである。したがって,これらのカルテルは,ただちに『供給量の制限』を内容とするものということはできない。しかしながら,市場分割等右に述べた協定も,具体的な協定の内容と当該業界の実態との関係いかんによっては,『供給量の制限』に連なる場合があることも否定できない。本条は,『実質的に供給量を制限する』カルテルを,課徴金の対象となるカルテルとして定めているので,これらのカルテルについては,個々の事例に即して,その影響を具体的に判断し,実質的に供給量の制限という結果と結びつくと判断される場合には,課徴金の対象とすべきと解する。この場合には,当該カルテルによって,供給量の制限がもたらされたことを立証することが必要となる。」(正田彬「全訂独占禁止法[I]」日本評論社556頁・昭和55年10月)
j 「およそカルテル行為において,対価に何等の影響も及ぼさないものは考えられないのであるが,カルテル行為による経済的利得の剥奪という課徴金制度の趣旨からして,影響の程度の大きいものとして法は『供給量を制限する』という行為類型を規定したものである。不当な取引制限の定義規定である法第2条第6項は『数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等』と,対価に直接に係るカルテル行為以外の行為類型を規定しているが,これらのうち『実質的に商品若しくは役務の供給量を制限する』ものだけが課徴金の対象となるのである。『実質的に商品若しくは役務の供給量を制限する』とは,供給量を制限することにより不当な取引制限が成立するに至ればすべて課徴金の対象となる趣旨であり,制限が実質的であるか否かは,数量的な制限の比率等のみを基準として判断すべきものではない。また,『対価に影響のあるもの』ということも,供給量の制限が現実に対価に影響し,例えば直ちに市場価格の変動をもたらしたという結果までを必要とするものではなく,当該供給量の制限という行為が,結果として当然に対価に影響を及ぼすべき性質を有するものであれば足りるものと考えられる。(中略)現在までに公正取引委員会が違反事件として取り扱ったもののうち,供給量の制限に該当するものとして最も多いのは,事業者間の生産比率又は販売比率の決定行為がある。これらは個々の事業者の生産又は販売の数量をその者に割り当てられた比率にまで制限するものであるから,その行為が不当な取引制限に該当するものである限り課徴金の対象となるものと解される。」(相場照美「課徴金の納付と徴収の手続」ジュリスト656号108頁・昭和53年1月)
k 「例えば,事業者間で販売比率を協定するというカルテル,若しくは生産比率を協定するというカルテル,こういったいわゆる各社のシェアといいますか,配分を決定するようなカルテルについては,全体としての供給量を制限するとは必ずしも言えないわけですが,それぞれの定められたシェア,配分されたシェアの中でしか販売できない,若しくは生産できないという意味で,それぞれの事業者については供給量を制限してゆく,こういうように解されるかと思います。」(相場照美「課徴金制度」公正取引委員会事務局編 別冊公正取引「改正独占禁止法の知識」34頁・昭和53年3月)
以上のとおり,シェア配分カルテルも「供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」に含まれる,あるいは含まれ得るものとの解釈を採っているものが多い一方,供給量の制限を合意の目的とし,又は直接これを企図するカルテルに限定されるとする解釈論は見当たらないのである。
ウ 被審人の主張について
(ア) a 被審人クボタは,シェア配分カルテルは,総需要見込数量の決定がなくとも,過去の販売実績等の統計数字で割り出すことにより実行できるものであるし,極端な場合には単に比率を確認するだけでも実行できる旨及び単純な価格カルテルの補助的手段としてシェア配分カルテルを行う場合には,総需要見込数量の決定やその数量の制限機能などを問題とすることもなく,仮置き数字はシェア配分カルテルにおけるシェアの決定に必須のものではない旨主張する。
しかしながら,指摘のような方法によるシェア配分カルテルがあり得るとしても,前記(2)アで述べた一般論を左右するものではない。
なお,価格カルテルの補助的手段としてシェア配分カルテルを行う場合は,価格カルテルによって合意された価格に基づいて設定された総需要見込数量を,シェアに応じてカルテル参加者に配分することによって,値上げにより予想される需要量の減少分を,シェアに応じてカルテル参加者に負担させるとともに,カルテル参加者に値上げを維持させるという効果を有するのである。
b 被審人クボタは,総需要見込数量が仮置き数字として機能するためには,総需要見込数量がそのようなものとして合意されていることが必要である旨主張するが,シェア配分カルテルにおける総需要見込数量の機能は前記ア(イ)のとおりであり,この機能が発揮されるためには,カルテル参加者によって総需要見込数量が合意されていることまでは必要ではない。
(イ) 被審人日本鋳鉄管は,審査官が主張する総需要見込数量は飽くまでも「仮」の「暫定的な」ものにすぎず,それ自体がいわば総需要予測の変動に伴い幾らでも変動し更新され続けていくものであるから,限度とか限界として認識され把握されるという性格のものではなく,このような動くものを指して,限度・限界というのは,限度・限界の意味を実質的に骨抜きにする拡張解釈であり,供給量を制限するとの解釈の範囲を超えると主張する。
しかしながら,前記(1)ウのとおり,「実質的に・・・供給量を制限する」とは,人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定し,当該限界・範囲の中に供給量を抑える効果を有するものと解すべきところ,前記ア(イ)において述べたとおり,シェア配分カルテルの各参加者の供給量の和,すなわち供給総量は,特段の事情のない限り,自由競争市場におけるそれよりも抑制されるのであるから,総需要見込数量が仮置きであることは前記判断を左右するものではない。
したがって,被審人日本鋳鉄管の主張は理由がない。
(ウ) 被審人日本鋳鉄管は,公正取引委員会が課徴金の納付を命じたシェア配分合意の事案をみても,およそ各社のシェアのみを協定したというシェア配分カルテルの事案は見当たらないと主張するが,これは,かかる事案がなかったということにすぎず,そのようなカルテルを課徴金の対象から除外する運用を行ってきたことを意味するものではない。
(エ) 被審人クボタ及び被審人日本鋳鉄管は,公正取引委員会は従来,独占禁止法第7条の2の供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルについて,「価格カルテル及び価格に影響があることが明白かつ直接的なものに限る」という整理をして法運用をしてきた旨述べ,その根拠として被審人クボタは甲南大学法科大学院教授・神戸大学名誉教授の根岸哲の意見書(審A第10号証。以下「根岸教授意見書」という。)を提出し,シェア配分カルテルは「価格に影響があることが明白かつ直接的なもの」には該当しない旨主張する。
根岸教授意見書等において,上記主張を裏付ける資料として提出されているものは,平成16年5月19日に,独占禁止法の改正(以下「平成17年改正」という。)に先立ち,公正取引委員会が公表した「独占禁止法改正(案)の概要」及び「独占禁止法改正(案)の考え方」に対し寄せられた意見について,立案事務作業の一環として当該案の考え方を回答したものである。具体的には,シェア・取引先を制限するカルテルを新たに課徴金適用の対象に加える理由が不明との日本経済団体連合会等の質問に対して,「現行の課徴金対象行為は,課徴金制度創設時において,価格引上げカルテルが頻発していた状況に対応するということを念頭に,課徴金の対象については,価格カルテル及び価格に影響があることが明白かつ直接的なものに限るという整理がなされたことによる。しかしながら,課徴金制度創設後,四半世紀が経過し,経済活動も多様化してきたことに伴い,単純に対価・供給量を直接相互拘束の対象とするような違反行為のほかに,価格・数量の制限を内容としていない取引先制限カルテル事件などの違反行為類型がみられるようになってきている。このような違反行為は,違反事業者がその意思である程度自由に価格・供給量を決定することができ,経済実態として,価格カルテル等と変わるものではない。したがって,不当な取引制限のうち,対価に係るものと,供給量,市場占有率又は取引の相手方を制限することにより対価に影響することとなるものを対象とするものである。」と回答したものである。
このような回答の性質及び文理上,回答中の指摘の部分は,昭和52年改正法の立法趣旨について概括的に言及したものにすぎず,これが法律の解釈についての公正取引委員会としての公式見解としてその判断を左右すべきものということはできないし,また,その回答が公正取引委員会が行ってきた法運用について述べたものでないことは文言上明らかである。また,「価格に影響があることが明白かつ直接的」との意義も,一義的に明らかではないのであって,先に述べた考え方がそれと相矛盾するものであるともいえない。
(オ) 被審人3社は,シェア配分カルテルが供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当する旨の解釈は,平成17年改正により第7条の2第1項に「市場占有率カルテル」が創設されたことと矛盾すると主張する。
しかしながら,この改正は,以上に述べた改正前の規定の解釈を前提としても,課徴金の対象となるカルテルの範囲をより明確にするとともに,以上に述べた供給量制限効果の存否についての個別的な判断を要せず,シェア配分カルテルは対価に影響することとなる限り課徴金の適用対象となることとしたことに意義があるのであるから,この改正がされたことをもって,前記結論を左右するものとはいえない。
4 争点2(本件カルテルは供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに当たるか否か。)について
(1) 本件カルテルの供給量制限効果について
ア 前記3(2)において述べたように,シェア配分カルテルは,一般的に供給量制限効果を伴うものであるところ,前記2(2)ア,イ及びオにおいて認定した各事実によれば,被審人3社は,ダクタイル鋳鉄管直管の年間総需要見込数量を設定するに当たって,地区ごと,また,東京地区では発注事業体区分ごとに精緻な需要量の見積りを行い,各社の担当者から報告された総需要見込数量の妥当性についても細かく協議し,実需要量にできる限り近い数量となるべき総需要見込数量の算出を行っていること,そして,このような精緻な方法で算出され,被審人3社間の協議で慎重に設定された総需要見込数量に基本配分シェアを乗じた数量を各社に割り当て,これに前年度分の年度配分シェアを超過した数量分を減じ又は前年度分の年度配分シェアに足りなかった数量分を上乗せした結果の数量を,各社の販売予定数量とし,これを総需要見込数量との関係で比率に換えて,各社の年度配分シェアとしたこと,更に当初の総需要見込数量と実際の発注実績及び年度配分シェアと各社の実際の受注実績の差異は,最終的には東京地区の一般直需分野等で調整されていたことが認められるのである。
加えて,前記2(2)カによると,本件カルテルでは,全国の総需要見込数量と発注実績が大きく食い違ったことにより配分されるべきシェアが変わってくる場合には,年度当初の総需要見込数量の設定時と同様の慎重な手順を経て,総需要見込数量の再見積りを実施し,これにより修正された総需要見込数量等を基に各社に販売予定数量を配分し,これを修正した総需要見込数量との関係で比率に換えて各社の年度配分シェアとしたことが認められるのであるから,本件カルテルについて,総需要見込数量に基づいて各社に配分された販売予定数量は,各社において,これを超えて販売してはならない販売予定数量として実効的に機能していたと認められる。
なお,被審人3社が決定した総需要見込数量が実需要量にできるだけ近いものとなるようにして設定されていたことは,被審人クボタの小林が,本件カルテルにおいて,総需要見込数量が「市場の実態に合わせた数字を出す等し,これに基づく受注調整を完璧に行うという責務が課せられている」(査第6号証)及び「何故このように慎重を期するかと申しますと,需要見込数量は,年度配分シェアを出すうえで影響のあるものであり,従ってなるべく市場の実態に即した数字を必要とするからです。・・・凝りもしないで慎重を期していたのは,受注調整の業務を行うように命令された以上,私はできる限りのことを行うことにより,受注調整を完璧に近い形にするための責務を果たそうとの思いがあったからです。この思いは,受注調整の担当チームである友課長,白石次長も同じであったはずです。」(査第16号証)と供述していることからも裏付けられるところであり,また,小林ら3人が,総需要見込数量が実需要量にできるだけ近いものとなる責務を負っていたことは,平成8年度において,実際の発注量が当初の総需要見込数量を大幅に超えた理由を部長会で報告していたこと(前記2(2)イ(イ))からも裏付けられるところである。
イ そして,前記2(2)イ(ア),ウないしオによると,被審人3社は,総需要見込数量と年度配分シェア及び地区の販売予定数量と地区配分シェアを,それぞれ当該地区の受注調整担当者に伝えていたこと,毎月,受注予定数量と実際の受注数量の相違等を把握して,本件カルテルの進捗状況を確認し,管理していたこと及び被審人各社が販売数量が合意された年度配分シェアを上回った場合には,当該超過分が翌年度における被審人各社の販売予定数量から差し引かれていたことが認められるのであるから,本件カルテルは,各社の販売数量が合意されたシェアに対応する範囲内に収まることで,被審人3社間で設定した総需要見込数量に近似する販売総量が実現され,よって被審人3社間で合意されたシェアが維持できるという仕組みを有するという実効性の高いシェア配分カルテルであり,このような実効性の高いシェア配分カルテルの場合には,カルテル参加者は,自社に配分された販売予定数量に応じて生産計画を立て供給量を調整し,当該販売予定数量の範囲内に自社の販売数量を制限しようとすることとなるから,本件カルテルにより各社の供給能力の行使が制限され,その和である被審人3社の市場全体の供給能力の行使もまた制限されることとなる。
なお,前記第1の1(2)のとおり被審人3社のダクタイル鋳鉄管直管の供給量の合計は我が国における同製品の総供給量のほとんどすべてを占めており,そして前記2(1)のとおり被審人3社は長年にわたりダクタイル鋳鉄管直管市場においてシェア配分カルテルを継続してきたものであるところ,本件カルテルにおいて被審人3社が設定した総需要見込数量は,前記3(2)ア(ア)及びイ(ア)で述べたように,被審人3社が長年にわたり継続してきたシェア配分カルテルの下において形成されてきた,自由競争の下で形成されるであろうそれよりも抑制されたものということができる。
査第51号証ないし第53号証及び参考人塩本勝也によると,本件カルテルの実施中,ダクタイル鋳鉄管直管について,被審人クボタは9パーセント,被審人栗本鐵工所は6パーセント,被審人日本鋳鉄管は10パーセントをそれぞれ超える高い利益率を維持していたと認められることに加えて,被審人栗本鐵工所九州支店長の鹿野紘史(当時。以下「被審人栗本鐵工所の鹿野」という。)が「結論として,客観的に高い利益率を維持できたということは,製品価格の高値安定ということをも意味しており」と供述(査第10号証)していること,及び被審人日本鋳鉄管の営業本部営業一部長の高橋信夫(以下「被審人日本鋳鉄管の高橋」という。)が「3社が,基本シェアや年度配分シェアを取り決めてお互いの競争を実質的に制限していたのは,互いに共存共栄を図りつつ,価格競争を避けることによって,安定した高値でダクタイル鋳鉄管直管を販売し,高い利益率を維持することを可能にするためでした。実際,当社では,3社のシェア配分の協定のおかげで,数ある取り扱い品種の中で,とりわけダクタイル鋳鉄管直管の売上が安定しており,高く安定した利益率を維持できていました。」と供述(査第15号証)していることにかんがみると,被審人3社が総需要見込数量を設定する際に前提としたダクタイル鋳鉄管直管の価格は,本件カルテルがなかった場合よりも高い利益を可能とする水準で設定されていたものと推認される。本件カルテルにおける総需要見込数量は,かかる価格の下でのものということができる。
ウ 以上によれば,本件カルテルは,前記3(2)ア及びイにおいて述べた一般論が妥当するものであり,本件市場がカルテルの存否にかかわらず需要量や供給能力が完全に固定的であるなどの特段の事情のない限り,本件市場全体の供給量を制限,抑制する効果を持つものである。しかるに,査第45号証ないし第47号証によると,被審人3社は,本件市場全体への供給量を増やす能力を持つ者であること(要件②)が認められるほか,かかる特段の事情が存するものとは認められない。その詳細は,後記(2)で被審人3社の主張に対応して述べるとおりである。
(2) 供給量制限効果に関する被審人3社の主張について
ア 年度配分シェアの機能
被審人3社は,本件カルテルにおける年度配分シェアが各社の実際の事業活動に関して使用されたのは,直需分野において受注予定者の決定基準の一つにされた程度にとどまり,本件カルテルの実態にかんがみれば,市場に対する販売量及び生産量を制限する効果はなかった旨主張する。
しかしながら,前記(1)ウのとおり,本件カルテルは,前記3(2)に述べたシェア配分カルテルの一般的性質を有するものであり,年度配分シェアが直需分野における受注予定者の決定基準の一つにされた程度にとどまるとの被審人3社の主張は事実に反して採用できない。
イ 総需要見込数量の合意の不存在
被審人クボタは,本件カルテルにおいて供給量制限機能を有する総需要見込数量が合意されたと解する余地は一切ない旨主張するが,本件カルテルの実施に当たって,被審人3社間で極めて精緻な方法で可能な限り実需要量と一致するように総需要見込数量の算出が行われ,被審人3社間において,こうして算出した数量を当該年度の総需要見込数量として,被審人各社に販売予定数量を割り当てていたことは前記(1)アにおいて述べたとおりであり,この結果,供給量の制限効果が認められるのであって,総需要見込数量が合意されたか否かは上記判断を左右するものではない。
ウ 需要に応じた供給
(ア) 被審人クボタ及び被審人栗本鐵工所は,本件カルテルの下では,需要が増えれば,それに対応して被審人3社の供給も増加しており,また,本件カルテルの下における市場の供給状況が,見込需要を大幅に超過する実際の需要に対しても円滑に対応していたという実態,すなわち,平成8年度の総需要見込数量は53万5000トン(再見積後)であったのに対し,受注実績は56万268トンであり,平成9年度の総需要見込数量は52万4000トンであったのに対し,受注実績は52万7691トンであり,受注実績の方が総需要見込数量を上回っていたことは,本件カルテルが何ら供給量を制限する効果を伴わないことを実態面から裏付けている旨主張する。
(イ) 確かに,本件カルテルにおいては,その多くが公共の水道管に用いられるというダクタイル鋳鉄管直管の特殊性から,総需要見込数量を超える数量についても需要に応じて供給することが社会的に要求されていたものであり,また,阪神・淡路大震災に係る大幅な需要増に対しても対応する等,ダクタイル鋳鉄管直管の需要増に伴い供給が維持されてきたことが認められる。
しかしながら,前記3(2)イ(ア)で述べたように,シェア配分カルテルによる供給量制限効果は,実需要量をシェアに応じてカルテル参加者に販売数量として割り当てることにより,その数量を超えて供給しようとしないことになるため,参加者が市場に供する数量を自由競争の下におけるそれよりも低位の水準に抑えることになること及びカルテル参加者は共同して価格をある程度自由に決定することができる地位にあるため,カルテルの下における実需要量は,自由競争の下におけるそれよりも低位の水準に抑えられることになることによりもたらされるのであるから,被審人3社が社会的要請に基づく実需要増に対し相応の対応をしてきたということは,本件カルテルによる供給量制限効果の判断を左右するものではない。
エ ダクタイル鋳鉄管直管の特殊性
(ア) 被審人クボタ及び被審人栗本鐵工所は,ダクタイル鋳鉄管直管の生産は,口径,継ぎ手形状,内面仕上げ,管厚,本数等の細部が決まらなければ実施することができないところ,本件カルテルにおいて,被審人3社間で取り決められていたのは,ダクタイル鋳鉄管直管に使用されている鉄材の重量による総需要見込数量とそれに基づいた鉄材の重量によるシェア配分であって,合計1800種類以上にも及ぶ製品そのものの数量ではないこと及び年間生産計画は,本件カルテルとは独立して策定されていることから,本件カルテルにおけるシェアは,各社の供給量の調整には影響を及ぼさず,本件カルテルは市場に対する供給量を制限する効果を有しない旨主張する。
(イ) しかしながら,審A第6号証,参考人東千秋及び同市川孝によると,被審人クボタが,収益見込みや原材料の数量等を見積り,ダクタイル鋳鉄管直管事業における利益計画(固定費を回収して,目標とされた利益を上げるための生産計画等)を策定するためには,生産数量を管種別にトン数で表示する必要があり,製品ごとの生産計画を立てることは必要ではなかったこと,また,査第47号証によると,被審人日本鋳鉄管も毎月2月中旬に営業本部で半期ごとの需要予測を立て,トン数ベースの販売計画数量を算出して販売計画を作成し,これを基に生産販売計画を策定していることがそれぞれ認められ,これらの点については,被審人栗本鐵工所の鹿野が「各年度毎の事業計画,利益計画の策定において,シェアに基づく予測を基本として,鉄管事業部の損益計画をたてることが可能であり,原価管理がやりやすく,コストを適正に算定予測することが可能であったことなどから,無駄を省いた利益計画の策定が可能となり,高い利益率を長年にわたって維持,確保することができた」旨供述(査第10号証)していることからも裏付けられるところである。
(ウ) 加えて,前記2(2)アにおいて認定した各事実によると,本件カルテルは,各地区の営業担当者による当該地区の需要見込数量等を基に年度配分シェアを算定しているところ,被審人3社が策定するダクタイル鋳鉄管直管の生産計画もまた,各地区の営業担当者からの当該地区の総需要見込数量及び受注予定を基礎に策定されており,営業担当者からの同一データを基礎とするものであり(参考人親泊利昭),また,①被審人クボタにおいては,営業担当者から報告される3か月分先の最終需要者別具体的製品別の受注本数の月別見込等(最終需要者別に管種,口径,本数,出荷時期などの詳しい情報が含まれている。)を考慮して,毎月,翌月の生産計画を作成していたこと及びオンラインの情報照会画面等を通じて製品単位の受注の状況を把握し,今後の動向を意識して工程計画を作っていたこと(査第48号証,参考人市川孝),②被審人栗本鐵工所においても,各営業担当者が毎年1月に作成している翌期のダクタイル鋳鉄管直管の需要予測を基に,毎年3月に利益計画を立て,この利益計画に基づき年間のダクタイル鋳鉄管直管の生産計画が策定されていること,毎年8月に各営業担当者が1月に立てた需要予測の見直しを行っており,この結果に基づいて利益計画及び年間の生産計画を修正(毎年5月以降は,毎月20日ころに出荷,在庫等の状況をみて,生産計画を修正)していること(査第10号証,第46号証,審B第1号証の2,第11号証,参考人親泊利昭)及び③被審人日本鋳鉄管においても,需要予測,販売計画及び生産計画は毎年8月に見直しがされていること,さらに,毎月中ごろに半期の生産計画の数字を参考に,実際に必要な管種を見極めて翌月の生産計画を立てていたこと(査第47号証)が認められるのであるから,各社は,それぞれ本件カルテルによって決定された自社の販売予定数量及び本件カルテルの実施の過程において得た情報等を基に,年度当初に当該年度における利益計画や生産計画を策定及び修正することが可能であったのであり,各社におけるダクタイル鋳鉄管直管の生産計画が,本件カルテルとは独立に策定され,本件カルテルの影響を全く受けないものであったとは到底認められない。
(エ) したがって,被審人クボタ及び被審人栗本鐵工所の前記主張は採用できない。
オ 需要の価格弾力性
(ア) 被審人クボタは,ダクタイル鋳鉄管直管を必要とする工事は,新たな水道管路の布設工事及び古い水道管路の更新工事であり,この数量は,水道設備更新の必要性等の公共事業としての水道事業の趨勢と,これらの事業に対する国の補助金その他の官公庁予算の規模とその執行状況によって決定され,本件市場は,価格によって需要が左右される市場ではないと主張し,参考人東千秋及び同塩本勝也もこれに沿う供述をする。そして,このような価格の変動に応じた需要量の増減が生じない市場,すなわち価格弾力性が極めて低い市場においては,需給関係による価格メカニズムは機能しない旨主張し,これを裏付けるものとして,神戸大学大学院経済学研究科の柳川隆教授の意見書(審A第11号証。以下「柳川教授意見書」という。)を提出する。
しかしながら,独占禁止法が保護すべき需給調整機能が働く市場とは,供給量又は需要量の変動に伴い価格が上下する可能性のある市場であれば足り,供給量又は需要量が変動することに伴う価格変動の大小を問題とすべきものではない。そして,ダクタイル鋳鉄管直管の需要が,公共工事の予算の在り方によって影響を受けるということは,ダクタイル鋳鉄管直管の価格が低下すれば,同じ予算でより多くの水道工事を実施することが可能となることを意味するのであり,また,参考人塩本勝也によると,平成7年1月の阪神・淡路大震災後にはダクタイル鋳鉄管直管を含む水道管の耐震管の需要が急増し,平成7年度ないし平成9年度は,各水道事業者において水道管の耐震化の傾向が非常に旺盛であり,既存の管を耐震管に取り替える需要が伸びてきたことが認められ,ダクタイル鋳鉄管直管の価格が下がれば,同じ予算でより多くの取替工事が行われ,水道管の耐震管へのシフトが早急に進められた可能性があるのであるから,本件市場が,その価格の低下に伴って需要が増加する可能性を有しない市場であるとまでは認められない。
(イ) 加えて,東京都水道局では,災害や事故に備えて,給水の安定確保を図るという見地から,常時一定量のダクタイル鋳鉄管直管を確保するため常備品を置いてあり,例えば,平成10年度の場合,耐震管であるSⅡ形管及びNS管のそれぞれ350ミリメートル以下の口径のものが常備品とされている(査第36号証)こと,また,横浜市水道局や千葉県水道局でも同様に,口径が300ミリメートル以下の使用頻度の高い水道管については一定の量(横浜市水道局では購入する水道管の約半分が貯蔵品である。)を常に備蓄するようにしている(査第37号証,第38号証)ことが認められ,これらの保管のためのダクタイル鋳鉄管直管の数量は,予算や保管コストなどによる制約は受けるものの,災害や事故等が生ずる可能性,それに必要な作業の規模の予測,価格等の諸条件を総合的に勘案した各自治体の判断によって決定されるものであるから,この点でも本件市場が価格による影響を受けないものであるとは認められない。
(ウ) なお,柳川教授意見書では,需要の非弾力的な市場で需要に応じた供給をしている限り,シェア配分カルテルが販売量を制限するものではないこと,間需分野においては,販売業者の行動に対して非拘束的であり,基本的に建設業者の求めに応じて販売業者を通じて供給しており,供給量を制限したものではないこと等を理由として,本件カルテルは対価に影響がある供給量制限効果を有しない旨述べるが,後者の見解は,本件カルテルが直需分野における取引においてのみ機能していたことを前提としたものであるところ,後記5(1)で判断するとおり,本件カルテルは間需分野におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給量をも制限するものであることが認められるのであるから,本意見書はその前提たる事実を異にする。前記(ア)に述べた,価格が低下すれば工事が増えるという関係は,数多くの入札を包含する直需分野全体を対象とする取引においても妥当するものであるから,直需分野のみを捉えても,ダクタイル鋳鉄管直管の価格は需要量に影響を与えるものであり,本件市場において価格メカニズムが機能しない市場とはいえず,この点からも柳川教授意見書の見解は採用できない。
(エ) 被審人クボタは,水道工事予算の中に占めるダクタイル鋳鉄管直管の費用はごく低率にすぎず,布設工事費用などを含めた総額で水道工事量が決定されているのであるから,ダクタイル鋳鉄管直管の価格そのものの変動が水道工事量に影響を及ぼすという関係は成立していない旨主張するが,審A第5号証の被審人クボタの塩本勝也の陳述書及び審B第7号証の布設工事に係る工事業者発行の見積書をみても,ダクタイル鋳鉄管直管に係る対価の比率は30パーセントを超えているのであり,水道工事費用におけるダクタイル鋳鉄管直管の比率が工事量に影響を及ぼす可能性がないほどの低率ともまた認められない。
カ 在庫縮減効果
被審人クボタ及び被審人栗本鐵工所は,本件カルテルからは在庫縮減効果は発生せず,実際上も,被審人3社の在庫水準等を決定していたのは,本件カルテルではない他の事情である旨主張する。確かに,在庫水準をどのように設定するかは,種々の要素を考慮して決定されるものと考えられるが,販売しようとする予定数量の多寡が在庫水準の設定に影響を及ぼすことは明らかであるところ,前記4(1)イのとおり,本件カルテルによって被審人3社は,詳細な販売数量予測に基づいて,効率的にダクタイル鋳鉄管直管の生産を行うことができていたものと認められるのであるから,これにより,本件カルテルがない場合に比べて在庫量を縮減する効果を有することは明らかというべきである。
キ 審査官の主張の許否
(ア) 被審人クボタ及び被審人栗本鐵工所は,本件カルテルが,各社の販売数量の上限を画し,その合計数量である市場における販売数量の上限を画する機能を有する総需要見込数量を決定したのであれば,それは,すなわち数量制限カルテルそのものであって,審査官は第9回準備書面までの単純なシェア配分カルテルの主張に替えて総需要見込数量の合意を必須とする類型のシェア配分カルテルを主張することとなり,第13回審判期日における審判指揮を事実上逸脱し,審判開始決定書に記載されていない事実を主張するものであって許されない旨主張する(前記1(2)エのとおり,審判長の審判指揮に係る手続違背の項においてではあるが,被審人日本鋳鉄管も予備的主張について同様の主張を行っている。)。
(イ) しかしながら,本件カルテルにおいて行われる総需要見込数量の設定は,カルテルの実施過程において,各社のシェアに応じた販売予定数量を割り出すために行われるものであり,当該総需要見込数量を販売予定数量とすること自体をカルテルの内容としているものではない。
そして,本件カルテルは,総需要見込数量を超えた販売を直接禁止するものではなく,設定された総需要見込数量を超えても実際の総販売数量に占めるシェアが維持されている場合には,カルテル違反とはならないのに対し,数量制限カルテルは,総販売数量を決定し,これをカルテル参加各社に配分し,当該数量を超えて販売した場合にはカルテル違反となるのであるから,両者の相違は明らかである。
また,本件の審判開始決定書には,前記第1の3(1)及び(2)のとおり,平成8年度及び平成9年度の我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,これに各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に各社の前年度の受注数量等を勘案した数量を加減して算出した平成8年度及び平成9年度の各社の受注予定数量の当該総需要見込数量に対する割合を当該年度の年度配分シェアとすることを決定し,それぞれの受注数量の総需要数量に対する割合をこの決定に係る年度配分シェアに合致させるよう受注数量の調整を行うことを合意した旨記載されているのであり,審査官の本件カルテルに係る主張は,審判開始決定書の記載事実との同一性を害するとも認められない(前記1(3)における公正取引委員会決定参照)。
したがって,被審人3社の主張は採用できない。
(3) 対価影響性について
以上のとおり,本件カルテルは,本件市場における供給量を制限する効果を有するものであり,また,前記(2)オのとおり,需給関係による価格メカニズムが機能しない市場である等の特段の事情も認められないのであるから,前記3(2)イ(イ)に述べたとおり,供給量を制限することによる対価への影響が認められるものである。
また,平成10年度のダクタイル鋳鉄管直管の直需分野における価格をみると,平成9年度と比較して1トン当たりの価格が1500円下落しており,間需分野においても,単価が240円下落している(査第15号証。また,査第36号証によると,東京都水道局発注分について平成10年5月ないし6月ころに落札単価が下落している。)ことも,本件カルテルによる対価への影響を裏付けるものである。前記3(2)イ(イ)で述べたように,この対価への影響は,シェアの維持自体によるものを含むと考えられるが,前記のとおり本件市場が価格の変化を通して需要と供給が調整されるという価格メカニズムが機能する市場である以上,上記の対価への影響のうち少なくとも一部は,本件カルテルの供給量制限効果によるものであると認められる。
なお,被審人栗本鐵工所は,直需分野の大部分では単価契約の形態で取引が行われており,被審人3社による受注予定者の決定は単価には影響はなく,また,直需分野の取引の約半分は,水道事業者側から随意契約で発注されるため,受注予定者さえも決めていないのであるから,本件カルテルは価格に影響を与えるものではない旨主張するが,対価影響性は市場全体の供給量制限効果によるものをいうのであるから,個々の取引における事情は,シェア配分カルテルによる価格への影響の判断に意味を有するものではない。
5 争点3(間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれるか否か。)について
(1) 間需分野における供給量制限効果について
ア 前記第1の3のとおり,本件カルテルにおける年度配分シェアの決定は,直需分野及び間需分野を区別することなく,ダクタイル鋳鉄管直管の取引の総体に関して行われたものであり,また,年度末までに調整を行うことを合意した受注数量も,各社のダクタイル鋳鉄管直管全体の受注数量である。さらに,前記2(2)エのとおり,被審人3社が,毎月の受注数量を相互に連絡して確認した各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異は,直需分野と間需分野を合わせた各社の受注数量と,年度配分シェアに基づいて算出された各社の受注すべき数量との差異であったこと及び被審人3社が間需分野において年度配分シェア以上の実績を上げることは,結局は直需分野における自社の取り分の減殺につながることに照らすと,以上に述べた本件カルテルによる供給量制限効果及び対価影響性は,直需分野及び間需分野を通じて機能していたものというべきである。
したがって,本件カルテルによる間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれる。
イ 被審人3社は,間需分野における取引は販売業者を経由した取引であり,被審人3社は販売業者の注文に応じてダクタイル鋳鉄管直管を供給しており,間需分野への供給量を制限していなかったのであるから,間需分野においては本件カルテルの供給量制限効果は発生していない旨主張するが,前記アのとおり,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルである本件カルテルが間需分野を含むダクタイル鋳鉄管直管の取引の総体を対象としたものである以上,その供給量制限効果が間需分野にも及ぶことは当然であり,被審人3社の主張は採用できない。
(2) 被審人3社のその余の主張について
前記(1)のとおり,本件カルテルにおける間需分野における供給量制限効果は認められるものであるが,なお,念のため,被審人3社のその余の主張についても検討することとする。
ア 間需分野の取引については以下の各事実が認められる。
(ア) 前記2(1)のとおり,昭和30年代前半ころから続くダクタイル鋳鉄管直管に係る被審人3社によるシェア配分カルテルによって,昭和60年代には,市場におけるダクタイル鋳鉄管直管の被審人3社のシェアが,基本配分シェアに近いものとなっていたこと。
(イ) 前記2(2)イ(イ)のとおり,平成9年度に開催された部長会において,被審人クボタの販売業者が同被審人に無断で営業所を開設したことについての対処方法,第二次販売業者が他の被審人の販売店の得意先に対して売り込みをかけることにより価格が下がっていることへの対応,併売店が安値による売り込みをかけることを理由に,今後併売店をなくしていくとの方針等が被審人3社間で検討されたこと。
(ウ) 前記2(2)ウのとおり,被審人各社は,各地区の受注調整担当者に対して当該地区の受注予定数量や地区配分シェアなどを伝達していたこと。
(エ) 被審人3社の有力な第一次販売業者は,本件カルテルにおける基本配分シェアの存在を認識していたこと(査第43号証,第44号証,第49号証)。
イ 加えて,本件カルテルでは,①間需分野の取引のうち大手ゼネコンが受注するような大型工事について被審人3社が受注調整を行っていた(査第44号証),②取引先販売業者が安値による売り込みをかけた場合にそれを押さえ込むようにしていた(査第7号証の添付資料には,「市況において,価格戦争が行なわれている様であるが具体的な実例を提出して下さい 当社が,価格的,負けのケース,他社に対し,申入れする参考資料です。」との記載がある。第14号証,第49号証),③販売業者が,その系列にある被審人に注文を行った場合であっても,在庫がないからといって注文を断ったり(査第50号証),納期に間に合わない等の理由で他の被審人の製品を販売させることがあった(査第42号証)等,被審人3社による間需分野におけるシェアを維持するための介入行為が行われていたことも認められるのであるから,被審人3社は,長年にわたるダクタイル鋳鉄管直管に係るシェア配分カルテルの実施の過程で形成してきた販売網を維持することにより,間需分野においても本件カルテルを実施していたものと認められる。
ウ 被審人3社は,間需分野においては「組織的に,これら系列の特約販売店に指示を与え,あるいは工事業者らとの個々の取引にまで介入するなどして,間需市場における受注量調整を,積極的に行っていたとまで認めるべき証跡は見出せず,せいぜい支店レベルでの系列特約販売店の利用が散見されるにとどまる」及び「年度配分シェアに相応するための受注の調整は,主として,受注の約二割を取り扱う直需市場での『名義決め』によってまかなっていた」旨の東京高裁刑事判決を引用して,間需分野においては,受注調整が行われていなかった旨主張する。
しかしながら,シェア配分カルテルとは,自社に割り当てられたシェアを維持することであるから,カルテル参加者が既にシェアを維持し得ている場合には,新たに積極的な受注調整のための行動を採ることは必ずしも必要としない。本件カルテルは,前記アのとおり,被審人3社による長年にわたるシェア配分協定の実施の過程において第一次販売業者を系列化した結果,主として直需分野における受注調整を行うことによって,全体としてシェアを維持することができていたのであるから,仮に間需分野において積極的な受注調整が行われていないということがあったとしても,それは,シェアを維持するために積極的な受注調整が不要であったことを意味するものにすぎず,間需分野を含めて本件カルテルが行われていたことを否定するものではない。東京高裁刑事判決も,「被告3社それぞれの営業能力,各社に系列化された特約販売店の販売能力,これまでの長期にわたる基本シェア合意の存在などの諸要素が総合されて,本件製品市場における被告3社の力関係は,大きく変動することなく推移してきたため,受注量の約8割を占める間需市場で互いに販売競争を展開しながらも,被告3社間の受注実績は,全体として一種の均衡を保っていた」旨述べるところである。しかも,前記イで述べたように,間需分野におけるシェア維持のための介入行為も行われていたのである。
したがって,被審人3社の主張は採用できない。
エ 被審人3社は,販売業者間において,値引きを伴う相当熾烈な価格競争が行われており,この結果,事実,間需分野における被審人3社と販売業者間の取引についても,3割近くは値引きされていたのであるから,被審人3社間においても活発な価格競争が行われていた旨主張する。そして,当該主張を裏付ける証拠として,被審人クボタは審A第5号証,被審人栗本鐵工所は審B第7号証,第8号証及び第11号証並びに被審人日本鋳鉄管は審C第26号証を提出し,参考人親泊利昭及び同塩本勝也もこれを裏付ける供述をする。
しかしながら,本件カルテルにおいては,製造業者である被審人3社間における共同行為が問題となっているのであるから,販売業者間における価格競争の存在は,間需分野の取引における被審人3社間の自由競争の存在を直ちに裏付けるものではない。また,間需分野の取引の約3割において被審人3社の標準仕切価(標準販売価格からトン当たりにつき一定額を引いた額)からの値引きが認められるとしても,前記4において認定した本件カルテルによるダクタイル鋳鉄管直管に係る価格への影響が否定されるものではない上に,被審人クボタの場合,標準仕切価からの値引きには,値引き額の多寡に応じて,担当課長,担当部長又は役員の決裁が必要とされており,しかも値引きに応じるのは,二次販売店が自社の系列下に入った場合や複数の第一次販売業者が同じ建設業者に営業し,競合を避けるために双方が流通に入って利益を分け合うこととした場合のほかは,自社の得意先である建設業者に対して他メーカーの系列販売業者が安値を提示した場合や得意先の建設業者が積算ミス等により安値で工事を受注してしまった場合のように自社の得意先を維持・確保するためがほとんどである(査第13号証,第14号証,第43号証,第44号証,審A第3号証)から,ダクタイル鋳鉄管直管の取引において,建設業者との取引において値引きが存在したとしても,それは,シェア維持のために行われた値引きと推認され,本件カルテルの効果の範囲内である。
なお,被審人栗本鐵工所は,間需分野において自由な競争が行われていたことの根拠として,第一次販売業者に対する販売奨励金の存在及び営業担当者に対するノルマの設定を挙げるが,前記ア(ウ)及び(エ)のとおり,各社の営業担当者及び有力な第一次販売業者は,本件カルテルの存在を知っており,また販売奨励金の対象となる目標達成数量やノルマも,本件カルテルによる年度配分シェアを基礎に算定されている可能性があるのであるから,被審人栗本鐵工所が主張するような自由競争の存在を根拠付けるものとはいえない。この点については,被審人日本鋳鉄管の高橋が,「間需市場そのものが,販売店同士の熾烈な競争によってかき乱されるということは現実にはありませんでしたし,ましてや,間需市場でのメーカー間の競争というものはありませんでした」旨供述している(査第12号証)ところである。
また,被審人栗本鐵工所は,間需分野においては,自己のシェアを維持するという競争を行っていた旨主張するが,本件においては,シェア配分カルテルである本件カルテルが認められるのであるから,そのような行為は本件カルテルの実施行為として評価されるものであり,上記主張は前記(1)における結論を左右するものではない。
オ 被審人クボタは,間需分野においては,本件市場が直需分野から間需分野へシフトしていく傾向の中で,被審人3社の間で必然的に競争が発生しており,間需分野においては,シェアの協定は意味がなく,専ら自社の生き残りをかけた販売網の構築を目指して競争が行われていたと主張するが,前記2(1)のとおり,間需分野における取引関係の固定化は,被審人3社による長年にわたるシェア配分協定の結果被審人3社がシェアを維持するために形成されてきたものであり,被審人クボタの主張は採用できない。
カ 被審人3社は,ダクタイル鋳鉄管直管では,非価格競争すなわちサービス競争も含めた活発な競争が行われていた旨主張する。しかしながら,サービス競争が活発であったとしても,そのサービス競争はシェアを維持するという範囲における競争とみるべきであることは,前記エにおいて価格競争について述べたところと同様である。したがって,被審人3社の上記主張も意味を有するものではない。ほかに,被審人栗本鐵工所は,工場生産能力を増大させ,設備投資を行ってきた旨も主張するが,このことは,本件カルテルを超えて競争が行われてきたことを裏付ける事実とはならない。
キ 以上より,間需分野において自由な競争が行われていた旨の被審人3社の各主張も事実に反して採用できない。
第6 法令の適用
以上によれば,本件カルテルは,独占禁止法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となるべき不当な取引制限に該当するものであり,かつ,被審人3社の平成8年度及び平成9年度の実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額全額が課徴金の算定の基礎とされるべきである。
よって,本件については,独占禁止法第2条第6項,第3条,第7条の2第1項,第2項及び第4項の規定を適用して,被審人3社に対し,それぞれ独占禁止法第54条の2第1項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成21年3月19日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  原    啓一郎

審判官  中 出  孝 典

審判官  佐 藤  郁 美


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