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都タクシー(株)ほか11名による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2

東京高等裁判所

平成27年(行ケ)第31号

判決

平成28年9月2日

新潟市中央区礎町通二ノ町2142番地1 
原告 都タクシー株式会社
同代表者代表取締役 高橋良樹

新潟市東区木工新町1193番地8
原告 富士タクシー株式会社
同代表者代表取締役 川口栄介

新潟市東区豊1丁目11番43号 
原告 さくら交通株式会社
同代表者代表取締役 三田正志

新潟市中央区上近江4丁目11番13号
原告 第一タクシー株式会社
同代表者代表取締役 金井正志

新潟市中央区下所島2丁目2番12号
原告 県都タクシー株式会社
同代表者代表取締役 佐藤真一

新潟市西区西有明町10番2号
原告 株式会社小針タクシー
同代表者代表取締役 横木幸一

新潟市北区太郎代71番地3
原告 東港タクシー株式会社
同代表者代表取締役 山口道夫

新潟市西区内野町525番地
原告 光タクシー有限会社
同代表者代表取締役 石川誉士

新潟市江南区亀田大月2丁目1番32号
原告 株式会社NK交通
同代表者代表取締役 田中恵子

新潟市北区松浜東町2丁目4番58号
原告 ハマタクシー株式会社
同代表者代表取締役 小林信太郎

新潟市北区白新町1丁目9番6号
原告 都タクシー株式会社
同代表者代表取締役 高橋良樹

上記原告11名訴訟代理人弁護士 飯村北
                     宮塚久
新潟市中央区西堀通4番町259番58号 西堀青藍館601号 髙野泰夫法律事務所
原告 破産者星山工業株式会社
     破産管財人 髙野泰夫

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 岩下生知
          榎本勤也
          多賀井満理
          山崎利恵
          塚田益徳

主文
1 原告らの各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨

 被告が,原告らに対し,平成27年2月27日付けでした公正取引委員会平成24年(判)第8号ないし第14号,第16号ないし第30号及び第32号ないし第39号排除措置命令及び課徴金納付命令審決のうち,原告都タクシー株式会社(本店:新潟市中央区礎町通二ノ町2142番地1)に対して排除措置及び課徴金3479万円の納付,原告富士タクシー株式会社に対して排除措置及び課徴金1423万円の納付,原告さくら交通株式会社に対して排除措置及び課徴金1409万円の納付,原告第一タクシー株式会社に対して排除措置及び課徴金1310万円の納付,原告県都タクシー株式会社に対して排除措置及び課徴金1039万円の納付,原告株式会社小針タクシーに対して排除措置及び課徴金753万円の納付,原告東港タクシー株式会社に対して排除措置及び課徴金716万円の納付,原告光タクシー有限会社に対して排除措置及び課徴金644万円の納付,原告株式会社NK交通に対して排除措置及び課徴金630万円の納付,原告ハマタクシー株式会社に対して排除措置及び課徴金516万円の納付,原告都タクシー株式会社(本店:新潟市北区白新町1丁目9番6号)に対して排除措置及び課徴金236万円の納付,原告破産者星山工業株式会社に対して排除措置及び課徴金1005万円の納付を命じる部分を取り消す。

第2 事案の概要(文中に定義が付されていない用語については別紙2記載の定義による。)

1 公正取引委員会は,原告らを含む26社(別紙1記載1ないし26の事業者であり,以下「26社」という。)が,共同して,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び待料金(以下「特定タクシー運賃」という。)を平成21年10月1日付けで改定された新潟交通圏に係る自動認可運賃(以下「新自動認可運賃」という。)における一定の運賃区分として定められているタクシー運賃とし,かつ,小型車については初乗距離短縮運賃を設定しないこととする旨を合意(以下「本件合意」という。)することにより,公共の利益に反して,新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(ただし,平成25年法律第100号による改正前のもの。以下,単に「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,同法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,平成23年12月21日,26社のうち株式会社三洋タクシーを除く25社に対し,排除措置及び課徴金の納付を命じた(以下,同排除措置命令を「本件排除措置命令」,同命令中で認定された不当な取引制限に該当する行為を「本件違反行為」といい,上記25社に対する同課徴金納付命令をまとめて「本件課徴金納付命令」という。)。
2 そこで,原告らを含む別紙1記載1ないし15の15社は,平成24年2月17日,それぞれ,自社に対する本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をしたが,公正取引委員会は,平成27年2月27日,15社の審判請求をいずれも棄却する旨の審決(公正取引委員会平成24年(判)第8号ないし第14号,第16号ないし第30号及び第32号ないし第39号事件審決。(以下「本件審決」という。))を行った。
3 これに対して,原告らは,平成27年3月30日,本件審決のうち原告らに関する部分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。なお,原告星山工業株式会社は,平成28年4月28日付けで破産手続開始決定を受け,その破産管財人が同年8月18日に本件訴訟を受継した(以下,星山工業株式会社については,破産手続開始決定の前後を問わず,「原告星山工業」という。)。

第3 前提となる事実等

 本件審決が認定する以下の各事実は,当事者間に争いがないか,原告らにおいて,これが実質的な証拠を備えることを争わず,当裁判所もこれを認める。なお,時期を明示していない事実は,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令発出時点の事実である。

1 タクシー事業者
(1) 法人タクシー事業者
 原告らは,いずれも新潟交通圏においてタクシー事業を行う法人(以下「法人タクシー事業者」という。)であるが,新潟交通圏における法人タクシー事業者は別紙1記載1ないし27の27社(以下「27社」という。)であった。このうち,日の出交通株式会社(以下「日の出交通」という。)を除く26社が本件合意を行ったとされている。
(2) 個人タクシー事業者
 新潟交通圏において個人でタクシー事業を営む者(以下「個人タクシー事業者」という。)は,平成22年3月31日時点で404名であった。(査41)

2 事業者団体等
(1) 新潟市ハイヤータクシー協会
ア 新潟市ハイヤータクシー協会(以下「市協会」という。)は,新潟交通圏に本社を有する法人タクシーを会員として設立された任意の事業者団体であり,27社は全て市協会の会員であり,27社以外に市協会の会員はいない。
イ 市協会の役員等
(ア) 市協会には,役員として会長,副会長,専務理事,理事及び監事が置かれている。市協会の会合には,全会員を構成員として毎月開催される例会,全会員を構成員として必要の都度開催される臨時例会,会長,副会長等の役員で構成される正副会長会議等がある。これらの会合には,原則として会員各社の代表取締役級の者が出席し,会長が議長として議事進行を行うこととなっていた。(査1)
(イ) 市協会の会長は,平成19年5月に,当時の会長であった原告都タクシー代表取締役高橋良樹(以下「原告都タクシーの高橋」あるいは単に「高橋」という。)が再任を断ったことから,空席となっていたが,平成21年10月9日に開催された市協会の連絡会議において,高橋が再び会長に選出された。また,この時,原告第一タクシー代表取締役金井正志(以下「原告第一タクシーの金井」という。),三和交通取締役小林稔(以下「三和交通の小林」という。)及び太陽交通代表取締役佐藤友紀(以下「太陽交通の佐藤」という。)が副会長に選出された。
(2) 新潟県ハイヤー・タクシー協会
ア 新潟県ハイヤー・タクシー協会(以下「県協会」という。)は,新潟県内に所在する法人タクシー事業者を会員とする任意の事業者団体であり,行政機関からの情報の会員への伝達,行政機関への各種申請・届出に係る会員からの相談への対応,会員に代わっての行政機関への申請・届出書類の作成・提出等の業務を行っている。県協会は,市協会の上部団体であり,市協会の会員である27社は,全て県協会の会員でもある。
イ 県協会の役員等
 県協会においては,新潟県長岡市に所在する旭タクシー株式会社代表取締役土屋蔵三(以下「県協会の土屋会長」という。)が会長を務め,27社の中では,原告都タクシーの高橋が副会長,東新タクシーの当時の代表取締役である菊地晴彦及び原告富士タクシー代表取締役川口栄介が理事,原告第一タクシーの金井が監事をそれぞれ務めていた。
(3) 個人タクシーの協同組合
 新潟交通圏には,個人タクシーで組織された事業協同組合として,新潟市個人タクシー事業協同組合,新潟地区個人タクシー協同組合及び新潟中央個人タクシー協同組合の3つの協同組合が存在している。このうち,新潟市個人タクシー事業協同組合には,新潟交通圏における個人タクシーの約7割が加入しており,理事長は山口廣(以下「新潟市個人タクシー組合の山口」という。)であった。

3 タクシー事業に関する制度の概要
(1) 道路運送法の概要
ア タクシー事業の許可
 タクシー事業を営もうとする者は,道路運送法の規定に基づき,国土交通大臣の許可を受けなければならない(道路運送法4条1項)。
イ タクシー運賃
(ア) タクシー運賃の認可等
 タクシー運賃の設定及び変更は,原則として,国土交通大臣(地方運輸局長)の認可を受けなければならない(道路運送法9条の3第1項)。
 タクシー運賃の設定又は変更の認可申請書には,原価計算書その他タクシー運賃の額の算出の基礎を記載した書類(以下「原価計算書類」という。)を添付することとされている(道路運送法施行規則10条の3第2項)。
(イ) タクシー運賃の認可基準
 国土交通大臣(地方運輸局長)は,タクシー運賃の設定又は変更の認可をしようとするときは,以下の基準によってしなければならない(同法9条の3第2項)。
① 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。
② 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと。
③ 他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること。
④ タクシー運賃が対距離制による場合であって,国土交通大臣(地方運輸局長)がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること。
(ウ) タクシー運賃の種類等
a タクシー運賃の種類は,距離制運賃(時間距離併用制運賃を含む。),時間制運賃,定額運賃とされ,料金の種類は待料金,迎車回送料金,サービス指定予約料金及びその他の料金とされている(国土交通省自動車交通局長の各地方運輸局長等宛て通達(平成13年10月26日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第100号「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について」(以下「国自旅第100号通達」という。)1.(1))。
b 距離制運賃の初乗距離は,各運賃適用地域ごとに地方運輸局長が定める距離により設定するものとされている(同通達1.(3)イ①)。
 初乗距離を短縮することもでき,その場合は初乗距離の短縮が現行の当該運賃適用地域において適用している初乗距離の半分程度で地方運輸局長が定めた距離により設定する場合に限るものとされている(同通達1.(3)イ⑤)。
(エ) 自動認可運賃
 タクシー運賃の設定及び変更の認可申請書には,原則として,原価計算書類を添付する必要があるが,運賃適用地域ごとに,一定の条件の下で初乗運賃額の上限運賃及び下限運賃を算出し,当該範囲内の初乗運賃額及びこれに対応した加算距離・加算運賃額として設定され,公示される自動認可運賃に該当する場合には,原価計算書類の添付の省略が認められる(道路運送法施行規則10条の3第3項,平成13年10月26日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第101号「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」以下「国自旅第101号通達」という。) 4.(1))。
 タクシー事業者が,地方運輸局長が定めた短縮距離を初乗距離として設定した上で,自動認可運賃の本来の初乗距離に達した際に,自動認可運賃の初乗運賃と同一となるように,初乗運賃及び本来の初乗距離に至るまでの加算運賃を定めた場合には,自動認可運賃に係る認可申請があったものとみなされる(国自旅第101号通達別紙4第4の1)。
(オ) 自動認可運賃の改定手続
 タクシー事業者が,運賃適用地域における自動認可運賃の上限を超える運賃の改定を地方運輸局長に申請した場合には,原則として最初の申請があったときから3か月の期間内に申請率(当該運賃適用地域における法人タクシー事業者全体の車両数に占める申請があった法人タクシー事業者の車両数の合計の割合をいう。)が7割以上となった場合に,運賃改定手続を開始することとされている(以下「7割ルール」ということがある。)。この運賃改定手続開始後において,申請の取下げにより申請率が7割を下回る事態となった場合には,その時点で運賃改定手続を一時的に中断するとともに,当該中断から3か月の期間内に追加的な申請により申請率が7割以上となった場合には,直ちに当該運賃改定手続を再開することとされている(国自旅第101号通達2.(1)及び(2))。
ウ 緊急調整地域,特別監視地域,特定特別監視地域の指定等
(ア) 国土交通大臣(地方運輸局長)は,特定の地域においてタクシー事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって,当該供給輸送力が更に増加することにより,輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは,当該特定の地域を,期間を定めて「緊急調整地域」として指定することができる(道路運送法8条1項)。
(イ) 国土交通省は,緊急調整地域の指定に至る事態を未然に防止するための運用上の措置として,供給過剰の兆候のある地域を「特別監視地域」に指定し,重点的な監査や行政処分の厳格化等の措置を講じるほか,特別監視地域のうち,供給拡大によりタクシー運転者の労働条件の悪化等を招く懸念がある地域を「特定特別監視地域」に指定し,タクシー運転者の労働条件の悪化や不適切な事業運営の下で行われる供給の拡大について,タクシー事業者の慎重な判断を促すための試行的な措置を講じている(平成13年10月26日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第102号「緊急調整措置の発動要件等について」)。
(ウ) 特定特別監視地域における具体的な措置としては,当該地域に存するタクシー事業者をその会員とする事業者の団体に対し,①利用者サービスの改善等によるタクシーの需要喚起に関する事項,②タクシー運転者の労働条件の改善に関する事項,③違法・不適切な経営の排除に関する事項,④その他必要と認められる事項を内容とするタクシー事業構造改善計画(以下「構造改善計画」という。)の作成を求めるものとされている。
エ 独占禁止法の関係
 道路運送法には,タクシー事業者の共同行為に関して,独占禁止法の適用を除外する旨の規定は定められていない。
(2) タクシー特別措置法の概要
ア 制定経緯及び目的
 タクシー事業については,平成14年2月に道路運送法が改正され,需給調整規制の廃止等の規制緩和が行われた。しかし,その後,長期的な需要の減少傾向の中,タクシー車両の大幅な増加等により,タクシー事業者の収益基盤の悪化やタクシー運転者の賃金等の労働条件の悪化等の問題が生じた地域がみられた。そこで,平成20年12月18日の交通政策審議会答申「タクシー事業を巡る諸問題への対策について」を受けて,タクシー車両の供給過剰によって生じるタクシー事業者の経営状況の悪化,タクシー運転者の労働条件の悪化,事故の増加等の問題を解消するための対策を講じることを目的として,平成21年6月26日にタクシー特別措置法が制定され,同年10月1日に施行された。
イ 特定地域の指定
(ア) 国土交通大臣は,供給過剰の進行等によりタクシー事業が地域公共交通としての機能を十分に発揮できていない地域を「特定地域」として指定し,当該特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化に関する基本方針を定めるものとされている(タクシー特別措置法3条,4条)。
(イ) 特定地域においては,地方運輸局長,地方公共団体の長,タクシー事業者,タクシー運転者の組織する団体,地域住民等の地域の関係者が,当該特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化の推進に関し必要な協議を行うための協議会(以下「地域協議会」という。)を組織することができる(同法8条)。
 地域協議会は,前記(ア)の基本方針に基づき,特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化を推進するための計画(以下「地域計画」という。)を作成することができ,地域計画においては,①タクシー事業の適正化及び活性化の推進に関する基本的な方針,②地域計画の目標,③地域計画の目標を達成するために行う特定事業その他の事業等に関する事項,④上記のほか地域計画の実施に関し地域協議会が必要と認める事項について定めるものとされている(同法9条)。
(ウ) 特定地域のタクシー事業者は,単独で又は共同して,地域計画に即して特定事業を実施するための計画(以下「特定事業計画」という。)を作成し,国土交通大臣の認定を受けることができ,特定事業計画においては,事業譲渡,合併,減車等の「事業再構築」について定めることができる(同法11条)。
 国土交通大臣は,タクシー事業者が共同して行う事業再構築(以下「共同事業再構築」という。)について認定する場合において,適正な競争が確保されるものであることを認定の要件(同法11条4項4号イ)とするとともに,必要があると認めるときは,公正取引委員会に対して当該共同事業再構築がタクシー事業における競争に及ぼす影響等について意見を述べることとされ,公正取引委員会においても,必要があると認めるときは,国土交通大臣に対し,意見を述べることとされている(同法12条)。
ウ 運賃認可基準の読み替え
 タクシー特別措置法附則5項により,道路運送法に基づくタクシー運賃の認可基準のうち,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの」は,当分の間,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの」と読み替えられることとされた。
 この改正により,上記基準は,認可されるタクシー運賃の上限を画する基準から,下限を画する基準へと性格を変え,認可されるタクシー運賃の下限を画する基準は,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」及び「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」となった。
エ 独占禁止法との関係
 タクシー特別措置法には,独占禁止法の適用を除外する旨の規定は定められていない。国土交通省の通達においては,タクシー特別措置法は,タクシー事業者が独占禁止法に違反することなく,運賃及び供給輸送力の適正化や事業の活性化等を図る仕組みを設けているものであり,独占禁止法に違反する行為を容認するものではないとされている(平成23年2月10日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第200号「タクシー事業の適正化及び活性化に係る取組みに際しての留意点について」)。
オ 附帯決議の内容
 タクシー特別措置法については,衆議院及び参議院それぞれにおいて附帯決議がなされ,政府が同法の施行に当たって留意すべき点として,①タクシー事業の健全な競争を図るため,同一地域同一運賃の実現が必要との意見を踏まえつつ,適切な運賃制度及びその運用を検討し,必要な措置を講じること,②自動認可運賃の幅を縮小するとともに自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃(下限割れ運賃)の審査を厳格化する措置を講じること,③下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対して定期的に報告を求め,その事業運営につき適切なチェックを行うこと等が指摘されている。
カ 「タクシー運賃制度研究会」の報告書
 国土交通省は,前記交通政策審議会答申の指摘を踏まえて,平成21年4月に「タクシー運賃制度研究会」を設置し,タクシー運賃の審査の在り方について検討し,タクシー特別措置法附則5項において道路運送法の運賃認可基準の読替規定が設けられたことなどを受け,同研究会は,同年8月,「タクシー運賃の今後の審査のあり方について」と題する報告書を取りまとめた。
 上記報告書においては,①地域の実情に即した自動認可運賃の幅を設定すべきこと,②下限割れ運賃の審査を慎重に行うべきこと,③下限割れ運賃を採用するタクシー事業者等に対する事後チェックを強化すべきこと(報告徴収,重点監査)等が指摘されている。
 そして,上記報告書を踏まえ,国自旅第101号通達が改正され,平成21年10月1日以降に処分するものから適用されることになった。
(3) タクシー特別措置法施行後の自動認可運賃制度の内容等
ア 自動認可運賃制度の内容の変更
 自動認可運賃は,制度導入当時,各地域における標準的,能率的な経営を行っている複数のタクシー事業者の全体の収支が償う水準の額を上限とし,全国一律で上限運賃から10パーセント下回る額を下限運賃として設定されていたが,タクシー特別措置法が施行されたことを受けて,下限運賃が「地域の実情に即した額」に変更された。
イ 下限割れ運賃について
(ア) 下限割れ運賃には,自動認可運賃の下限運賃を下回るタクシー運賃が設定された場合のほか,自動認可運賃の改定時に従来のタクシー運賃を据え置いたことにより,実質的に改定後の自動認可運賃の下限運賃を下回ることとなったものも含まれるが,タクシー特別措置法施行後も,下限割れ運賃は否定されていない。
(イ) タクシー特別措置法施行後の下限割れ運賃の取扱いは,次のとおりである。
a タクシー事業者が新たに下限割れ運賃の認可を申請した場合には,原価計算書類の提出を求め,運賃認可基準に照らし個別に審査を行うことになる。
 そして,タクシー特別措置法施行後は,認可基準が「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」と読み替えられることとなったが,認可申請運賃が運賃査定額(平年度における収支率が100パーセントとなる変更後の運賃額をいう。)以上である場合は,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものとして,当該地域において不当な競争を引き起こすおそれがない限り,認可されることとされている(国自旅第101号通達4.(2)及び(3),別紙4第3の1.2.3.(1)及び(2))。
 ただし,新たに申請された下限割れ運賃を認可するに当たり,①認可の期限は原則1年間とすること,②人件費,一般管理費,走行距離等について毎月報告すること,③関係法令違反により車両停止以上の行政処分を受けた場合には認可を取り消す場合があることを条件として付すとともに,タクシー事業者に対し,タクシー運転者の労働条件の確保のために必要な措置を講じることや,しかるべき時期にタクシー運転者の労働条件の確保の状況を公表すること等を指導することとされている。
 上記②は,交通政策審議会答申において下限割れ運賃を採用している事業者の経営実態を詳細に把握する必要性が指摘されたこと,タクシー特別措置法の衆議院及び参議院の附帯決議において,下限割れ運賃採用事業者に対して,人件費,一般管理費,走行距離等,必要な指標につき定期的に報告を求め,その事業運営について適切なチェックを行うことが求められたこと,タクシー運賃制度研究会の報告書で,下限割れ運賃を採用している事業者に対しては,当該運賃の認可後の需要(増収効果)への影響,運転者の労働条件(賃金等)の変化,利用者・他の事業者との混乱の有無等について検証を行うことが必要であると指摘されていることを受けて,通達に盛り込まれたものである。
b 自動認可運賃の改定が行われた場合,改定後の自動認可運賃への移行義務は課されておらず,従前のタクシー運賃が改定後の自動認可運賃との関係で下限割れ運賃となる場合においても,当該タクシー運賃を適用し続けることは可能である。ただし,タクシー特別措置法施行後に新たに認可されたタクシー運賃が,その後の自動認可運賃改定により,下限割れ運賃となる場合には,原則1年の認可期限が付され,自動認可運賃に該当しないタクシー運賃と同様に取り扱う旨の条件が付される(同通達別紙4第2の2)。
 また,タクシー運賃制度研究会報告書における指摘を踏まえ,タクシー特別措置法施行前に認可を受けたタクシー運賃を据え置いたことにより下限割れ運賃となっているタクシー事業者に対しても,人件費,一般管理費,走行距離等に関する報告を毎月求めることとなった(査17,25の4)。
c さらに,前記a及びbの報告を行わない者又は報告内容により法令違反の疑いがある者に対して巡回監査(重点事項を定めて法令遵守状況を確認するもの)が行われることとなった(平成21年9月29日付け国土交通省自動車交通局安全政策課長,同旅客課長及び同技術安全部整備課長通達・国自安第56号,国自旅第124号及び国自整第50号「旅客自動車運送事業の監査方針について」。同日付け国土交通省自動車交通局安全政策課長,同旅客課長及び同技術安全部整備課長通達・国自安第57号,国自旅第125号及び国自整第51号「旅客自動車運送事業の監査方針の細部取扱いについて」1.(2)⑦)。これは,前記タクシー運賃制度研究会報告書において,自動認可運賃改定時にタクシー運賃を据え置いたことにより実質的に下限割れ運賃となっている従前の自動認可運賃の採用事業者等を含め下限割れ運賃を採用している事業者については,下限割れ運賃を背景にした違法行為(労働基準法(昭和22年法律第49号)違反,最低賃金法(昭和34年法律第137号)違反,社会保険等未加入,道路交通法(昭和35年法律第105号)違反,改善基準告示違反等)が懸念されることから,重点的な監査を実施することが適当であるとされたからである。
 この監査の結果,違法行為が確認された場合,当該タクシー事業者に対し,口頭注意,勧告,警告又は行政処分(自動車その他の輸送施設の使用の停止処分,事業の停止処分,許可の取消処分等)が行われることになる(平成21年9月29日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自安第60号,国自旅第128号及び国自整第54号「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」)。
d また,現に認可されている下限割れ運賃のうち,認可後の経済社会情勢の変化などにより,不当な競争を引き起こすこととなるおそれが生じていると認められるものについて,それが旅客の利便その他公共の福祉を阻害している事実があると認められる場合には,道路運送法第31条に基づく事業改善命令により,当該運賃の変更を命ずることとされている(国自旅101号通達別紙4第3の3(5))。

4 新潟交通圏におけるタクシー事業の状況
(1) 営業区域及び運賃適用地域
ア 営業区域
 新潟市が含まれる営業区域は,北陸信越運輸局長の公示により,「新潟交通圏」 ,「新潟市B」,「新潟市C」及び「新潟市F」の4区域が定められ,「新潟交通圏」は,平成17年3月21日に他の市町村と合併する前の新潟市,同日に新潟市に編入された新潟県豊栄市及び同県中蒲原郡亀田町並びに同県北蒲原郡聖籠町の区域である。
イ 運賃適用地域
 新潟県の運賃適用地域は,北陸信越運輸局長の公示により,「新潟県A地区」及び「新潟県B地区」の2地区が定められ,「新潟県A地区」は,新潟交通圏と同じ区域を定めるものである。
ウ 27社は,いずれも,新潟交通圏を営業区域とし,新潟県A地区を運賃適用地域としている。
(2) 車種区分
 新潟交通圏(新潟県A地区)におけるタクシー事業に係る車種区分は,北陸信越運輸局長の公示により,「小型車」,「中型車」,「大型車」及び「特定大型車」の4区分とされている。
(3) タクシー運賃の状況
ア タクシー運賃の種類
 新潟交通圏(新潟県A地区)におけるタクシー運賃は,北陸信越運輸局長の公示により,運賃の種類が距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び定額運賃とされ,料金の種類が待料金,迎車回送料金,サービス指定予約料金及びその他の料金とされている。
イ 新潟交通圏における自動認可運賃
(ア) 旧々自動認可運賃
 北陸信越運輸局長は,平成14年7月1日付けで,車種区分ごとに,前記アのタクシー運賃のうち距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び待料金について,自動認可運賃を定め公示した(以下「旧々自動認可運賃」という。)。
(イ) 旧自動認可運賃
 旧々自動認可運賃は,新潟交通圏の法人タクシーがその上限運賃を超える運賃変更認可申請を行ったことを受けて,平成20年7月2日に北陸信越運輸局長公示により改定された(以下「旧自動認可運賃」という。)。
 旧自動認可運賃は,旧々自動認可運賃における初乗距離を1.5キロメートルから1.3キロメートルに設定し直すとともに,上限運賃及び下限運賃を引き上げたものである。(査33,34)
(ウ) 新自動認可運賃
 旧自動認可運賃は,タクシー特別措置法の施行日と同じ平成21年10月1日に,同法の趣旨を踏まえ北陸信越運輸局長公示により改定された(以下「新自動認可運賃」といい,その具体的内容は別紙3のとおりである。)。新自動認可運賃は,旧自動認可運賃における上限運賃を据え置いたまま,約10パーセントであった上限運賃と下限運賃の幅を約5パーセントに縮小することにより,下限運賃を引き上げるとともに,上限運賃から下限運賃までの運賃区分の種類を減らしたものである。
ウ 27社が適用しているタクシー運賃の種類
 27社は,車種区分ごとに,いずれも自動認可運賃制度の対象とされている距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び待料金を適用している。自動認可運賃制度の対象とされていないタクシー運賃については,万代タクシーのみがサービス指定予約料金のうちの車両指定配車料金を適用している。
エ 初乗距離の短縮
 新潟交通圏(新潟県A地区)においては,北陸信越運輸局長の公示により,本来の初乗距離である1.3キロメートルに対し,初乗距離を短縮する場合の距離が700メートルと定められている。
 27社のうち,新自動認可運賃の公示の時点で,小型車について初乗距離短縮運賃を設定していたタクシー事業者は,原告NK交通,東重機運輸,昭和交通観光,太陽交通,太陽交通新潟,新潟あさひタクシー,港タクシー,三洋タクシー及び日の出交通の9社であった。
(4) 新潟交通圏におけるタクシー車両の数
 新潟交通圏におけるタクシー車両数(福祉自動車を除く。)の合計は,平成22年3月31日時点で,1,573台であり,そのうち法人タクシーが1,169台,個人タクシーが404台であった。その車種別の車両数の内訳は下表のとおりであり,小型車が全体の9割以上を占めていた。(査41,42)
(表 省略)
(5) 新潟交通圏におけるタクシー事業に係る26社のシェア等
 平成22年度の新潟交通圏における法人タクシー及び個人タクシーのタクシー事業に係る営業収入の合計額は,約92億2000万円であった。このうち,26社の新潟交通圏におけるタクシー事業に係る営業収入の合計額は,約74億7000万円であり,新潟交通圏におけるタクシー事業に係る営業収入について,26社の占める割合は,約81.0パーセントであった。
(6) 特定特別監視地域の指定
 新潟交通圏は,平成20年7月11日に北陸信越運輸局長により特定特別監視地域に指定された。
 市協会は,これを受けて,同年9月,構造改善計画を策定し,その中で成果目標の1つとして「運賃多重化の解消」を盛り込んだ。
(7) 新潟交通圏地域計画等
ア 新潟交通圏は,タクシー特別措置法に基づき,平成21年10月1日に特定地域に指定された。また,新潟交通圏においては,同年11月6日,同法に基づき「新潟交通圏特定地域協議会」(以下「新潟地域協議会」という。)が組織された。
 新潟地域協議会は,北陸信越運輸局自動車交通部長が会長を務め,法人タクシーからは,県協会の土屋会長,市協会会長である原告都タクシーの高橋,同副会長である原告第一タクシーの金井及び太陽交通の佐藤が構成員となっていた。また,個人タクシーからは,新潟市個人タクシー組合の山口が,新潟地域個人タクシー連合会の会長の肩書きで構成員となっていた。
イ 新潟地域協議会は,3回の会合(平成21年11月6日,同年12月24日及び平成22年3月31日)を経て,平成22年3月31日付けで「新潟交通圏地域計画」(以下「新潟地域計画」という。)を作成し,同年4月9日に公表した。
 新潟地域計画においては,タクシー運賃に関し,「2.地域計画の目標及び目標を達成するために行う事業」の中に「(7)過度な運賃競争への対策」として,北陸信越運輸局が下限割れ運賃に対する審査を厳格化すること,現に下限割れ運賃を採用している事業者に対する輸送実績等の報告徴収を行うことなどが記載されている。

5 争点
(1) 争点1
 本件合意の成立の有無及び独占禁止法2条6項にいう「共同して・・・相互に事業活動を拘束」するのもの(以下「共同行為」という。)への該当性。
(2) 争点2
 本件合意は,強い行政指導によって意思決定の自由が失われ,自由競争市場が消滅された状態でなされたものとして正当化されるか。
(3) 争点3
 本件合意は,専門的な政策判断を体現する行政指導に従ったものとして正当化されるか否か。

6 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1
 本件合意の成立の有無及び共同行為への該当性。
(被告の主張)
 新潟交通圏における法人タクシー各社は,旧自動認可運賃公示後も解消されず,更に程度を増した運賃多重化の解消のために話合いを継続的に行っていたところ,新潟地域協議会への対応について話し合う必要が生じたことを契機として,タクシー運賃の変更についての話合いを行い,平成21年11月27日開催の市協会の臨時例会において,原告都タクシーの高橋は,27社が足並みをそろえて新自動認可運賃へ移行することを提案し,多くの出席者が新自動認可運賃へ移行する旨を述べ,日の出交通専務取締役坂井鶴美(以下「日の出交通の坂井」あるいは単に「坂井」という。)を除き,これに反対する者はいなかった。同年12月10日開催の例会においても,出席者は新自動認可運賃へ移行することを確認した。その後,平成22年1月20日開催の臨時例会においては,上記のとおり確認された新自動認可運賃への移行を前提として,出席者は新自動認可運賃へ移行する際にどの運賃区分に移行するかを話し合い,話合いの過程においては異論もあったが,移行する新自動認可運賃の運賃区分について,新自動認可運賃の下限運賃に移行し,初乗距離短縮運賃は設定しないこと,同年2月末までに運賃変更認可申請をすることで各社の方針を集約し,これを決定した。このことは,同年1月27日開催の臨時例会においても再確認された。その後,同年2月17日開催の例会において,25社は最終的に,特定タクシー運賃について,小型車については新自動認可運賃の下限運賃に移行し,かつ,初乗距離短縮運賃は設定しないこととすること,中型車についても新自動認可運賃の下限運賃に移行すること,大型車及び特定大型車については新自動認可運賃の上限運賃に移行することを決定し,上記例会を欠席した港タクシー代表取締役の鈴木寛も,同月20日までの間に,原告第一タクシーの金井からその旨の連絡を受けて,これに同調することを伝えた。
 以上によれば,26社は遅くとも平成22年2月20日までに,特定タクシー運賃について,
(ア) 小型車については,新自動認可運賃における下限運賃として定められているタクシー運賃とし,かつ,初乗距離短縮運賃を設定しないこととする
(イ) 中型車については,新自動認可運賃における下限運賃として定められているタクシー運賃とする
(ウ) 大型車については,新自動認可運賃における上限運賃として定められているタクシー運賃とする
(エ) 特定大型車については,新自動認可運賃における上限運賃として定められているタクシー運賃とする
旨の本件合意をしたことが認められ,これが共同行為に該当することは明らかである。
(原告らの主張)
  本件審決が認定した「本件合意」は,新潟地域協議会に臨むに当たって法人タクシー事業者の一般的な意見を取りまとめたものにすぎず,仮に本件合意が成立したとしても,原告らを含む26社を相互に拘束するような強い内容の合意ではなく,共同行為には該当しない。すなわち,本件審決が本件合意が形成された経緯として認定した,平成21年10月9日開催の連絡会議から平成22年2月17日開催の正副会長会議及び例会までの一連の会合は,タクシー特別措置法の施行を受けて新潟地域協議会が組織されて地域計画を策定することになり,これに向けて地域協議会に参加するタクシー事業者としての意見を取りまとめる必要が生じたことから,北陸信越運輸局等の強い行政指導の下に開催された会合である。そして,原告らを含む新潟交通圏の法人タクシー事業者27社は,当時,熾烈な運賃競争を繰り広げており,これらの会合で新潟地域協議会に臨むに当たっての意見を取りまとめることですら議論百出しており,まして各社の方針については,頑なに抵抗する事業者や,席上表だっては全く意見を述べない事業者などが存在していたのであって,いわゆる7割ルール下の特例的な運賃改定の試みが失敗した平成20年7月の経験があったこととも相俟って,いつ誰が造反し抜け駆けするか分からないといった疑心暗鬼の心理が蔓延し,一致団結して1つの意見が形成されるような状況にはなかったし,況んや相互に相手方を拘束できる合意が形成される信頼関係や協調関係は全くなかった。すなわち,本件合意といっても,それが26社を相互に拘束するような強い内容のものであったかどうか極めて疑わしく,26社が本件合意のとおり運賃変更認可申請を実行するのかどうかも全く分からないものでしかない。つまり,本件合意は,仮にそれが成立するとしても,最後まで暖昧で不確かな,何も決まっていないに等しい「薄っぺらい」ものに過ぎず,共同行為に該当するような「本件合意」など成立するはずはない。
(2) 争点2
 本件合意は,強い行政指導によって意思決定の自由が失われ,自由競争市場が消滅された状態でなされたものとして正当化されるか。
(原告らの主張)
ア 本件合意に関連する行政指導の範囲等
 本件合意に関連する行政指導を検討するにあたっては,①新潟交通圏においては,長年にわたって過度な運賃競争が行われており,その解消は監督官庁にとって長年の懸案事項かつ喫緊の課題であったこと,②監督官庁による法人タクシー事業者に対する指導は,従来から上意下達の仕組みである県協会や市協会を通じて行われてきたこと,③タクシー特別措置法の施行に伴い監督官庁において通達を改正し,監査権限の整備・強化をした上で指導が行われたことなどの本件の特徴を踏まえた上で,監督官庁から原告らになされた直接・間接の働きかけからなる一連の行政指導を全体としてとらえる必要がある。
 本件行為に関連して,原告らに対して,以下の行政指導が行われた。
① 平成21年6月10日開催の社団法人全国乗用自動車連合会(以下「全国乗用自動車連合会」という。)正副会長会議における国土交通省の本田勝自動車交通局長(以下「本田自動車交通局長」という。)の発言
② 平成21年7月1日開催の全国乗用自動車連合会全国協会長会議における国土交通省の本田自動車交通局長の発言
③ 平成21年10月9日開催の市協会の連絡会議における報告等
④ 平成21年10月13日開催のタクシー特別措置法説明会における新潟運輸支局の坂本巧首席運輸企画専門官(以下「坂本首席専門宮」という。)の発言
⑤ 平成21年11月6日の第1回新潟地域協議会以降の県協会に対する新自動認可運賃への移行に関する調査
⑥ 平成21年12月24日開催の第2回新潟地域協議会における北陸信越運輸局の担当官の発言
⑦ 平成22年初頭の新潟運輸支局の坂本首席専門官の県協会訪問と監査実施の予告
⑧ 平成22年2月の県協会への調査指示
イ 原告らになされた行政指導の内容
 これらの行政指導は,形式的,外形的には,「各社の収支状況に関わりなく,一律に新自動認可運賃に移行せよ」という行政指導であり,「下限割れ運賃の採用を中止して新自動認可運賃のうち下限運賃へ移行せよ」というものではなかったが,全社下限割れ運賃での激しい競争を繰り広げている新潟交通圏において下限運賃以上の値上げをしたら値下げ競争に慣れた乗客を失うことは火を見るよりも明らかであり,現実にこの行政指導に従って対応しようとすれば,いずれの事業者も「新自動認可運賃のうち下限運賃に移行する」よりほかはない状況に置かれていたものであり,新潟運輸支局等も,そのような状況を十分理解した上で行政指導を行っていたのであるから,本件における行政指導の内容は,原告らの置かれていた状況を加味して実質的に見れば,「各社の収支状況に関わりなく,一律に新自動認可運賃のうち特定の運賃区分に移行せよ」という行政指導であったというべきである。
ウ 行政指導の強制性
 本件において,原告らになされた行政指導は,以下に述べるとおり,原告らの意思決定の自由を失わせるに足る強力なものであった。
 まず,新潟交通圏においては,下限割れ事業者が林立し,運賃の多重化も進み,全国的にみても過度な運賃競争が顕著な地区であったことから,タクシー輸送の安全性とタクシー利用者の利益の低下を懸念した北陸信越運輸局が県協会や市協会と何度も協議し,平成20年7月に旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃へ改定を行ったが,旧自動認可運賃の運賃区分へ移行した法人タクシー事業者は8社にとどまり,また,同月,新潟交通圏が特定特別監視地域に指定されたことに伴い,新潟交通圏の法人タクシー事業者が取りまとめた構造改善計画には成果目標の1つとして運賃多重化の解消が盛り込まれたものの進捗が見られず,北陸信越運輸局が市協会に対して,運賃多重化の解消の見込みや旧自動認可運賃へ移行する見通しの報告を繰り返し求めていた。このような状況でタクシー特別措置法が施行され,新自動認可運賃のもとで全社下限割れ事業者となり,およそ法が適切に施行されているとはいい難い状況となっていたのであるから,新潟運輸支局等において,下限割れ運賃の解消を図るため,より強く,それこそ不退転の決意で臨んだことは容易に想像される。また,行政指導が強制性を伴うものであったかは,行政指導を受けた原告らの受け止め方も考慮されるべきであるところ,タクシー特別措置法の施行後は,下限割れ事業者に対しては,毎月の報告が求められ,報告を怠たりあるいは法令違反の疑いのあるものは巡回監査の対象とされることとなったが,報告義務の負担は大きいのみならず,報告内容に法令違反の疑いがあるとして運輸支局等から監査を受ける場合の300項目に及ぶ監査項目への対応は中小事業者にとって非常に重い負担となり,些細な過誤が何らかの法令違反に結びつけられる結果,他のタクシー事業者に対する見せしめの如く行政処分を受けるリスクを負うこととなるものであって,原告らにとってかかる報告義務は監督官庁による下限割れ事業者に対する強い圧力と感じられるに足るものであった。さらに,タクシー事業者は国土交通省の事業認可がなければそもそも営業することができず,また,国土交通省等は監査に入って累積違反点数を積み重ね,事業許可を取り消すこともできるなど,タクシー事業者の生殺与奪は国土交通省等が握っていることや法人タクシー事業者にとって県協会や市協会によって上意下達される国土交通省等の意向は絶対的なものであり,これに従わなければならないという心理が働いていたことを併せ考慮するならば,本件における行政指導が原告らの意思決定の自由を失わせる程度に強制性を有するものであったことは明らかである。
エ 強制による正当化
 事業者らの共同行為が,監査や行政処分を背景とした監督官庁の行政指導によって強制され,又は指示,要請もしくは主導され,意思決定の自由が失われた状態でやむを得ずなされたものであるときは,かかる強制又は指示,要請もしくは主導の下では,もはや自由競争の余地が失われていたのであるから,かかる共同行為は正当化される。すなわち,最高裁判所平成17年11月21日第二小法廷決定・刑集59巻9号1597頁は,需要者たる官庁によるいわゆる官製談合が行われていた事件において,「調達実施本部から提示された最低商議価格を基に落札され,指名競争入札制度が形がい化していたとしても,それらは,調達実施本部において,指示,要請し,あるいは主導したものではなく,現に,被告人会社等は,入札における自由競争が妨げられていたものではない。」と判示しているところ,この判示は,官庁による指示,要請,あるいは主導がなされ自由競争が妨げられた場合には,共同行為も正当化される場合があるという考え方が前提となっている。また,同じ事件について公正取引委員会の排除措置命令の当否が争われた東京高等裁判所平成21年4月24日判決(平成19年(行ケ)第7号)においても,「このような競争を阻害する行為等を発注者である国が指示,主導したものでない以上,競争市場は消滅するものではな」いとしており,ここでも,国の指示,主導の結果として競争阻害行為がなされた場合は,競争市場が消滅し,事業者の共同行為も正当化される場合があることが前提となっている。さらに,いわゆる接続約款認可処分が争われた事件でも,東京地方裁判所平成17年4月22日判決(平成15年(行ウ)第434号ほか)は,「事業者の行為の内容が,法律や法律の個別規定を執行するために制定された省令等において明確に規定され,覊束されている場合,当該事業者において,自由にその内容を決定することはできないのであるから,そのような行為を事業者の共同意思に基づく行為であるとは評価できない筋合いであり,独禁法3条,2条6項の適用の前提を欠くものといわざるを得ない」と判示している。これらの裁判例及び審決例においては,事業者において自由競争の余地が残されているか否かが重視されており,それが強制によって生じたのであるか,指示,要請又は主導によって生じたものであるかは,本質的な問題ではなく,事業者において少なくとも自由に意思決定ができない状況が生じているのであれば,その状況において行われた事業者の意思決定なり共同行為なりは,独占禁止法上,事業者の共同意思に基づく行為であるとは評価できないことになり,このことは,このような状況を生じさせたのが,行政指導であっても変わらないというべきである。
オ 予備的主張
 原告らは,本件合意を一個の合意とみて,上記内容の強い行政指導がなされたことを正当化事由として主張するものであるが,予備的に,本件合意を,小型車・中型車の運賃等についての合意,大型車・特定大型車の運賃等についての合意,初乗距離短縮運賃の設定の有無についての合意といった個別の合意の集合体とみて,個別合意ごとに正当化事由の有無が検討されるべきであり,少なくとも新自動認可運賃の下限運賃へ移行する小型車・中型車の運賃等についての合意については,行政指導の内容に従ったものとしての正当化事由があると主張する。
(被告の主張)
ア 本件合意に関連する行政指導の範囲等
 原告らは,平成21年10月9日に開催された市協会の連絡会議における報告も本件合意に関連する行政指導であると主張するが,運輸局から新潟地域協議会への参加の意向確認があったことの報告に過ぎず,新自動認可運賃への移行との関連性を欠き,考慮する必要は無い。
 さらに,原告らは,平成21年11月6日の第1回新潟地域協議会以降の県協会に対する新自動認可運賃への移行に関する調査,平成22年初頭の坂本首席専門官の県協会訪問と監査実施の予告,平成22年2月の坂本首席専門官の県協会への調査指示も,本件合意に関連する行政指導であると主張するが,これらの事実を裏付ける的確な証拠はなく,仮に原告ら主張の事実があったとしても,制度の説明または要望ないし一般的な指導の範囲を超えるものではない。
イ 原告らになされた行政指導の内容
 新潟運輸支局等の担当官の発言からは,新潟運輸支局等が新潟交通圏のタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することが望ましいとの考えを有していたことが認められるものの,その発言内容からすれば,新潟交通圏のタクシー事業者を強制的に新自動認可運賃に移行させる内容のものであったとは認められず,新自動認可運賃への移行を促す方向での要望ないし一般的指導の範囲にとどまるものであり,これを超えて監査や行政処分を背景として,収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃へ移行することを強制するような内容のものではない。
 さらに,原告らは,自動認可運賃の幅の枠内でタクシー運賃が多重化されることは元々想定されていたことであることを自認しており,高橋も運輸局等の指導は新自動認可運賃へ移行することであって,運賃多重化の解消までは指導していなかったこと,新自動認可運賃へ移行しても,その枠内で運賃が多重化することはあり得ることを陳述しているところである。
 また,新自動認可運賃の公示前は自動認可運賃の範囲内でも多様なタクシー運賃が存在したこと 本件合意に至る話合いの過程においても,小型車については新自動認可運賃の上限に移行することを提案した事業者や新自動認可運賃の範囲内である限り下限に集約する必要はないと述べる事業者がおり,また,中型車,大型車及び特定大型車については話合いの途中で一旦は新自動認可運賃の枠内で各社が自由に決定するということとされていたことからすると,新潟運輸支局等が,原告らに対して,新自動認可運賃の枠内で特定の運賃区分に移行することを求める行政指導を行ったことはない。
ウ 行政指導の強制性
 平成21年8月28日に新潟市で開催された新潟交通圏のタクシー事業者に対するタクシー特別措置法の説明会において,北陸信越運輸局の高橋旅客課長は,新自動認可運賃への移行を強制するものではなく,移行するかどうかは個々の事業者の判断であるとの趣旨の発言をしていること,長岡市におけるタクシー特別措置法の説明において,坂本首席専門官は新自動認可運賃に移行しないことも可能であると発言していること,日の出交通は,本件合意が行われた際に,これに加わらず,平成24年5月頃に新自動認可運賃の下限運賃区分に移行するまで下限割れ運賃を採用していたこと,原告都タクシーの高橋ですら,代表者審尋において,新自動認可運賃への移行は強制されたものではなく,自分の経営判断で行ったと明確に陳述していること,報告聴取については,毎月報告を要するものの,報告事項は,通常の経営,労務管理等に関連するものであり,継続して客観的に把握することが難しいなど対応が事実上困難なものではなく,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対して制裁的意味合いを有するものとは認められず,また,監査についても,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対し,監査の実施や法令違反の有無の判断等が恣意的に行われたことを窺わせる証拠はないことなどからすると,監督官庁による働きかけが原告らの意思決定の自由を失わせる程度の強制力があったとはいえない。
エ 強制による正当化
 原告らが引用する最高裁判所平成17年11月21日第二小法廷決定・刑集59巻9号1597頁は,発注者側である防衛庁調達実施本部において,指示,要請,主導がなかったことが明らかな事案であり,ひいては,入札の自由が害されたものではなく,原告らが主張するように「官庁による指示,要請,あるいは主導がなされ自由競争が妨げられた場合には,共同行為も正当化される場合があるという考え方が前提となっている。」とはいえない。また,併せて引用する東京高等裁判所平成21年4月24日判決(平成19年(行ケ)第7号)も,少なくとも,このような競争を阻害する行為等を発注者である国が指示,主導したものではない以上,競争市場は消滅するものではな」いと判示するのみであり,上記最高裁判所決定と同様,「国の指示,主導の結果として競争阻害行為がなされた場合は,競争市場が消滅し,事業者の共同行為も正当化される場合があることが前提とされている」などとはいえない。
(3) 争点3
 本件合意は,専門的な政策判断を体現する行政指導に従ったものとして正当化されるか否か。
(原告らの主張)
ア 原告らに対する一連の行政指導は,国土交通省が所掌する「輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益の保護」(道路運送法1条参照),「地域における交通の健全な発達」(タクシー特別措置法1条参照)といった社会公共的な目的を達成するためにした専門的政策判断を体現したものであり,原告らがこれに従って行った本件合意は,独占禁止法の究極的な目的に適うものであり,競争を実質的に制限するものではないから正当化される。
イ 国土交通省は,下限割れ運賃による過度な低額運賃競争がタクシー運転者の過労運転を招き,安全性やサービスの質を低下させ,タクシー利用者の利益を害するとの観点から,自らの所管事務下にある権限を行使してこれを実現するべく,タクシー運賃の認可に係る新たな制度及び審査のあり方(基準)を公示した上で,下限割れ運賃は認めない,新自動認可運賃へ移行せよとの行政指導を行ったものである。すなわち,国土交通省は,タクシー特別措置法の施行に伴い,タクシー運賃の認可に係る新たな制度と審査のあり方を公表し,タクシー運賃制度研究会の報告に従い,運送費人件費は申請値が標準人件費(地域の標準的,能率的な経営を行っているタクシー事業者の平均給与月額の平均の額)を下回っている場合は,標準人件費により査定するものとし,標準人件費を10%下回る額を運送費人件費の査定上の目安としていた従来の基準を改め,また,運送費人件費のほとんどを占める運転者人件費については,効率的な経営による差異を認めない経費とした。さらに,タクシー特別措置法は,その施行にあたり,タクシー運賃の認可に係る道路運送法の規定について読替特例を置いて(タクシー特別措置法附則5条),適正な原価に適正な利潤を加えたものを下回るタクシー運賃は認めないこととしていたから,国土交通省が,タクシー運賃の認可に係る新たな制度と審査のあり方を公表し,原価項目を積み上げて審査する総括原価方式を採用しながら,原価の大部分を占める運転者人件費については標準人件費に固定し,かつ,効率的な経費による差異を認めないということ自体が,その政策判断として,下限割れ運賃は認めないとの考え方をとっていることの現れである。そして,国土交通省は,その所管事務の範囲内で,タクシー運賃の認可という側面から新たな認可制度と審査のあり方を定め,下限運賃を設定することによりタクシー運転者の過労運転を防止し,輸送の安全を確保し,もって道路運送の利用者の利益の保護を図るという政策実現を目指していたのであり,新自動認可運賃へ移行せよとの行政指導は,このような国土交通省の政策判断を体現したものであり,これに従った原告らの行為は正当化される。
ウ 事業者らの共同行為が,監督官庁がその所掌する分野の社会公共的な目的を達成するために下した専門的な政策判断を体現する行政指導に従った場合に,このような共同行為は正当化されるのは,大阪バス協会事件審決(公正取引委員会平成7年7月10日審決)に照らしても明らかである。すなわち,大阪バス協会事件審決において価格協定が違反とされなかった実質的根拠は,価格協定を違反として自由な競争をもたらしてみても独占禁止法の究極目的には合致しない点にこそあり,事業法等によって刑事罰等をもって禁じられていたという点は,監督官庁によって好ましくない競争であるとの専門的な政策判断がなされていたことの最たる徴表として例示的に述べられたものにすぎないというべきであるから,監督官庁によって好ましくない競争であるとの専門的な政策判断がなされていたことの徴表としては,事業法等の「刑事罰」に限らず,監督官庁による行政指導も含まれるというべきである。
エ また,行政指導が違法か適法かを判断するのは事業者にとっては容易ではなく,規制業種における監督官庁と事業者の関係からすれば,事業者は監督官庁をおそれながらも,信頼しながらその指導に従うのが通常であり,違法であることに気付きにくいのであるから,客観的にあるいは事後的に行政指導が違法であったと判断されたとしても,事業者において,当該行政指導は適法であったと合理的に信じて行動することが十分考えられる。事業者らが,監督官庁がその所掌する分野の社会公共的な目的を実現するためにした行政指導であると合理的に信じて共同行為を行ったのであれば,このような共同行為は,独占禁止法の究極目的を実現するためになされた行動といえるのであり,これを独占禁止法違反として処分するのであれば,それは独占禁止法の究極目的の実現を遠のかせるものであって適当ではないから,行政指導が違法であったとしても,なお専門的政策判断に従ったものとして正当化されるというべきである。
(被告の主張)
ア 国土交通省を含む新潟運輸支局等の行政指導は,新自動認可運賃への移行を促す方向での要望ないし一般的指導の範囲に止まるものであり,新潟交通圏のタクシー事業者に対し新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行することや小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導をした事実はないから,原告らが新自動認可運賃に移行するばかりでなく,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分へ移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意したことは,行政指導の範囲を超えるものであり,そもそも原告らは行政指導に従ったものとはいえず,正当化されない。
イ 仮に,原告らの主張するような行政指導があったとしても,それは国土交通省を含む新潟運輸支局等による社会公共的な目的達成のための専門的な政策判断を体現したものとは到底いえず,原告らがこれに従ったとしても本件合意を正当化できるものではない。
 すなわち,タクシー特別措置法の下におけるタクシー運賃制度は,自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃を禁止していないのであるから,下限割れ運賃を認めないことを内容とする行政指導は,タクシー特別措置法に根拠のある行政指導とはいえない。もっとも,法律に直接の根拠を持たない価格に関する行政指導であっても,①これを必要とする事情がある場合(必要性)に,②これに対処するため社会通念上相当と認められる方法によって行われるもの(手段・手法の相当性)で,③一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進するという独占禁止法の究極の目的に実質的に抵触しないものである限り(目的の正当性)においては,違法とはならないが,原告らが主張する行政指導は,仮にそのような行政指導があったとすると,以下のとおり,上記①ないし③をいずれも満たさず,違法な行政指導といわざるを得ない。
(ア) 我が国の経済体制の根幹をなす自由競争経済秩序の下では,価格が市場における自由な競争によって決定されるべきことは,独占禁止法の最大の眼目とすべきところであって,行政が法律の根拠もなく価格形成に介入することは安易に認められるべきではなく,タクシー運賃の設定水準を指定するという内容を含む行政指導は緊急の経済情勢に対処するためにやむを得ないといえる必要性がある場合にのみ許容されるべきである。タクシー特別措置法施行時に,新潟交通圏は特定特別監視地域に指定され,供給過剰から生じる過度な低額運賃競争による弊害が危倶される状況にあったことがうかがえるが,タクシー利用者や国民経済に多大な影響を与える緊急事態であったとはいえない。しかも,タクシー特別措置法の下では,下限割れ運賃の認可に係る厳格な審査や報告徴収,タクシー運転者の労働条件の悪化及び運送の安全確保に係る懸念がある場合における監査等,タクシー特別措置法の所期の目的を達成するための必要な手段が用意されていたのであり,これらによる同法の運用の成果を見極めることもなく,直ちに同法の内容を超えた行政指導を行うべき緊急事態に直面していたとはいえない。
(イ) 本来,行政指導は,強制力・拘束力を有するものではなく,相手方の任意の協力によってのみ実現されるべきものであり(行政手続法32条1項),行政機関は相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱をしてはならないものである(同条2項)。仮に原告らが主張するとおり,監査と処分権限を背景として事実上の強制力を伴った行政指導がなされたとするならば,それ自体が違法な行政指導というほかなく,社会通念上相当とされる限度を逸脱したものといわざるを得ない。
(ウ) タクシー特別措置法の下における運賃制度は,交通政策審議会答申やタクシー運賃制度研究会報告の内容からも明らかなように,下限割れ運賃による良質安価なタクシー輸送サービスの提供を留保した上で,かかる意味でのタクシー利用者の利益を確保しつつ,個々のタクシー事業者の労働条件や輸送の安全を脅かすような水準のものとならないようにチェックすることにより,タクシー利用者の利益の確保と過度な低額運賃競争の抑制との調整を図ったものということができる。原告らの主張する下限割れ運賃を認めない行政指導は,タクシー事業者が,厳格な個別審査をクリアして下限割れ運賃を採用することや,厳格な監視をクリアするために経営努力して下限割れ運賃を採用し続けることを否定することとなる。これは,タクシー利用者の利益を必要以上に奪うものであるとともに,タクシー事業者によるタクシー運転者の労働条件や輸送の安全を確保した上で低廉なタクシー運賃を実現しようとする真撃な経営努力の余地を否定し,下限割れ運賃で事業活動を行う自由を制限するものである。しかも,自動認可運賃への移行に伴うタクシー運賃の引上げによって,タクシー事業者の運賃収入が増加したとしても,その増収分が人件費等のタクシー運転者の労働条件改善や輸送の安全確保のための経費に当然に投入されるというわけではなく,タクシー運賃の統制によって,直ちにタクシー運転者の労働条件や輸送の安全の確保という政策目的が達成される保証はない。そうすると,タクシー利用者の利益やタクシー事業者の事業活動の自由を制限してまで新自動認可運賃へ移行せよとの行政指導は,もはや一般消費者の利益を確保するものとはいえず,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを阻害するものであって,独占禁止法の究極の目的に反するものであるいうほかない。
 以上のとおり,仮に原告らの主張するとおり,実質的に各社の収支状況に関わりなく,一律に新自動認可運賃のうちの特定の運賃区分に移行せよとの行政指導があったとすると,そのような行政指導は適法な行政指導とはいえず,国土交通省等を含む新潟運輸支局等による社会公共的な目的達成のための政策判断を体現したものという余地はなく,このような行政指導には何人も従う義務はなく,むしろ拒否すべきであるから,本件合意が,本件行政指導に従ってなされたものであるとしても,およそ正当化されるものではない。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(本件合意の成否及び共同行為該当性)について
(1) 本件合意の成否等に関して,本件審決が認定する以下の各事実が実質的証拠を備えることを原告らは争わず,当裁判所もこれを認める。
ア 平成21年10月頃までの状況
(ア) 平成20年7月の自動認可運賃改定の際の状況
a 平成18年頃,タクシーの燃料価格の高騰により,新潟交通圏の法人タクシー事業者の多くは,タクシー運賃を値上げする必要性に迫られ,同年12月頃,市協会の例会等の会合の場において話合いを行い,日の出交通を除く法人タクシー事業者の多くが旧々自動認可運賃の上限運賃よりも高い運賃への運賃変更認可申請を行うこととした。(査47,48,62)
b 上記話合いを受けて,平成19年1月から同年4月までの間に,27社のうちの19社と当時新潟交通圏で事業を営んでいた法人タクシー事業者2社が旧々自動認可運賃の上限運賃を超える運賃での運賃変更認可申請を行ったところ,申請率が7割以上となったため,北陸信越運輸局は,自動認可運賃の改定手続を開始した。しかし,平成19年9月までの間に上記21社の中から運賃変更認可申請を取り下げる者が出たため,申請率が7割を下回ることとなり,北陸信越運輸局は,自動認可運賃の改定手続を中断した。その後,運賃変更認可申請を取り下げなかった者が,申請を取り下げた者に対し,再度,申請を行うよう働きかけ,平成20年1月頃に申請率が再び7割以上となったことから,北陸信越運輸局は,自動認可運賃の改定手続を再開し,その結果,同年7月2日に旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃へ改定され,公示された。(査34,47ないし55,62)
c 旧自動認可運賃の公示後,新潟交通圏における法人タクシー事業者は,市協会の会合において,特定タクシー運賃を旧自動認可運賃に移行することについて話し合った。しかし,これに同調しない法人タクシー事業者もいたことから,一旦は特定タクシー運賃を旧自動認可運賃に変更する旨の運賃変更認可申請を行ったものの,これを取り下げる者が出るなどしたため,最終的に,旧自動認可運賃の運賃区分での認可を受けた法人タクシー事業者は8社にとどまった。その結果,それまでも新潟交通圏における法人タクシー事業者のタクシー運賃は多種類のものが併存するいわゆる運賃多重化の状態であったが,更にその程度が増した。(査8,47,48,56ないし63,64の1,査65)
(イ) 運賃多重化の解消に向けた話合い
a 新潟交通圏は,平成20年7月11日,特定特別監視地域に指定されたことを受けて,新潟交通圏における法人タクシー事業者は,市協会の会合において協議を行い,同年9月末に「特定特別監視地域の指定に伴うタクシー事業構造改善計画について」と題する構造改善計画を作成し,その中で,成果目標の1つとして「運賃多重化の解消」を盛り込んだ。
b その後,新潟交通圏における法人タクシー事業者は,平成21年10月頃までの間,旧自動認可運賃への移行についての各社の意向を確認し合い,これを取りまとめ,市協会の場等において旧自動認可運賃への移行について話合いを行っていたが,当時採用していたタクシー運賃を維持する旨を表明していた者,全社が旧自動認可運賃へ移行するのであれば移行する旨を表明していた者等がおり,足並みはそろわなかった。
(査48,66,67,71ないし84(枝番を含む。))
イ 平成21年10月1日の新自動認可運賃の公示
 新潟交通圏において,平成21年10月1日,新自動認可運賃が公示されたが,新自動認可運賃は,旧自動認可運賃における上限運賃を据え置いたまま,下限運賃を引き上げるものであったことから,小型車及び中型車について,旧々自動認可運賃又は旧自動認可運賃を適用していた27社の特定タクシー運賃は,全て新自動認可運賃に対して下限割れ運賃となった。(査35,36の1及び2,査58)
ウ 平成22年2月20日頃までの状況等
(ア) 平成21年10月9日開催の連絡会議
a 開催日及び出席者
 平成21年10月9日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の連絡会議が開催され,27社のうち原告ハマタクシーを除く26社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
 第1回新潟地域協議会の開催日が同年11月6日に決定されたことを受けて,市協会から新潟地域協議会の構成員となるメンバーが前記第3の4(7)アのとおり選出された。また,空席となっていた市協会の会長には原告都タクシーの高橋が選出され,同様に副会長には原告第一タクシーの金井,三和交通の小林及び太陽交通の佐藤が選出された。
 原告都タクシーの高橋は,前記イのとおり新自動認可運賃が公示されたところ,平成20年7月の旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃への移行が不調に終わったことの二の舞となることを避けたいと考え,市協会の会長就任に際し,新潟地域協議会での議論を受けて市協会で行うこととなる運賃問題に関する話合いに会員の協力を得たい旨の挨拶を行った。
(査4,6,8,48,63,64の1,査65,85ないし87の1)
(イ) 平成21年11月10日開催の例会
a 開催日及び出席者
 平成21年11月10日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の例会が開催され,27社のうちはとタクシー,港タクシー,コバト交通及び三洋タクシーを除く23社と市協会の佐藤専務理事が出席した。(査63)
b 話合いの内容等
 新潟地域協議会への対応等について意見交換がなされ,運賃に関しては,「運賃の多重化をなぜ解消しなければならないか」,「一定水準の運賃に集約して,サービス向上を目指すべき」等運賃多重化の解消に向けた意見が出された。(査63,87の1)
(ウ) 平成21年11月16日開催の正副会長会議
a 開催日及び出席者
 平成21年11月16日,新潟東急インにおいて,市協会の正副会長会議が開催され,原告都タクシーの高橋その他市協会の役員が出席した。(査63)
b 話合いの内容等
 原告都タクシーの高橋は,出席者に対して,運賃多重化の解消のための検討項目を記載した文書及び同一地区同一運賃の必要性について記載した文書を配布した上で,市協会の会員全社が新自動認可運賃の下限運賃を下回った下限割れ運賃となっているので,今後,全社が新自動認可運賃ゾーンに入って値上げしていく必要があること,下限割れ運賃を採用しているタクシー事業者には,運輸局が経営状況の定期的な報告を求めたり,監査を行って行政処分を行うこともあること等の話をした。その上で,上記正副会長会議の出席者は,皆で新自動認可運賃に移行して値上げをすることを確認し合った。(査63)
(エ) 平成21年11月27日開催の臨時例会
a 開催日及び出席者
 平成21年11月27日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の臨時例会が開催され,27社のうち原告小針タクシー,聖篭タクシー及び港タクシーを除く24社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
i 原告都タクシーの高橋は,新潟交通圏における認可運賃,増減車等に関する資料や同月6日の第1回新潟地域協議会において配布された資料を配布して,その説明をした。
ii そして,原告都タクシーの高橋は,27社が足並みをそろえて新自動認可運賃に移行することを提案し,出席者に対し,座席順に新自動認可運賃への移行についての意見を求めたところ,多くの出席者は,新自動認可運賃に移行する旨を述べ,日の出交通を除き,高橋の上記提案に反対する者はいなかった。これに対して,日の出交通の坂井は,個人タクシーを含め新潟交通圏における全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行するならば,同社も移行を検討する旨を述べた。
ⅲ また,前記臨時例会に出席した24社のうち日の出交通を除く23社は,新自動認可運賃の運賃区分のうち上限運賃から下限運賃までのどの運賃区分に移行するかなどについては,その後の市協会の会合で検討することとした。
(査5,7,47,48,62,63,64の1,査65,86,87の1,査88ないし90,92ないし94)
c 前記臨時例会を欠席した3社については,当該臨時例会の後,原告小針タクシー及び聖篭タクシーの2社に対しては市協会の佐藤専務理事から,港タクシーに対しては原告第一タクシーの金井から,それぞれ当該臨時例会の内容を連絡し,新自動認可運賃への移行について了承を得た。市協会の佐藤専務理事は,「平成21年11月 臨時例会の概要」とのタイトルで,①協議の結果,参加した全社とも新自動認可運賃に移行することが確認されたこと,②新自動認可運賃への移行の個別具体的な内容は,後日検討することが記載されている文書を作成し,市協会の会員に対して送付した。(査7,88,89,94)
(オ) 平成21年12月10日開催の例会
a 開催日及び出席者
 平成21年12月10日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の例会が開催され,27社のうち原告NK交通,四葉タクシー,太陽交通新潟及び港タクシーを除く23社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
 平成21年11月27日開催の臨時例会に引き続き,出席者らは,新自動認可運賃に移行することを確認した。さらに,原告都タクシーの高橋は,新自動認可運賃への移行に当たり,初乗距離短縮運賃の取扱いについて検討する必要があるとの問題提起をした。
(査97ないし99,180の1及び2,査181)
(カ) 第2回新潟地域協議会における原告都タクシーの高橋の発言
 平成21年12月24日に開催された第2回新潟地域協議会において,新潟地域計画の素案が同協議会事務局から示されたところ,同協議会の会長であり議事進行を務めていた北陸信越運輸局の岡田博自動車交通部長(以下「岡田自動車交通部長」という。)は,同計画の目標や目標達成のために行う事業について構成員に対し意見を求めた。
 これを受け,複数の構成員が意見を述べる中,原告都タクシーの高橋は,「11月27日に市の協会,ということは新潟A地区の関係している地区の全員が集まるわけですが,その臨時例会の席で,運賃について運輸局より公示があった新しい運賃に皆で入るということが決まりました。」と発言するとともに,個人タクシーにも法人タクシーの値上げに同調して値上げをしてほしい旨を要望した。
(査63,87の1,査92ないし96)

平成28年9月2日

東京高等裁判所第3特別部

裁判長裁判官 永野厚郎
裁判官 見米正
裁判官 三浦隆志
裁判官 工藤正
裁判官 中山雅之

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