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土佐あき農業協同組合による執行停止申立事件

独禁法19条一般指定12項

東京地方裁判所

平成29年(行ク)第122号

決定

平成29年7月31日

高知県安芸市幸町1番16号
申立人  土佐あき農業協同組合
同代表者代表理事  《氏名》
同代理人弁護士  高橋善樹
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
相手方  公正取引委員会
同代表者委員長  杉本和行
同指定代理人   田邊陽一
同        多田 修
同        大胡 勝
同        岡村佳明
同        中島康平
同        海住幸生
同        柳原 健
同        吉兼彰彦
同        近藤綾乃
同        板崎一雄
同        長谷川和己
同        今野清人

主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
理由
第1 申立て
相手方が平成29年3月29日付けでした排除措置命令(平成29年(措)第7号)は,本案事件の判決確定までその効力を停止する。
第2 事案の概要
1⑴ 相手方は,申立人が,自ら以外の者になすを出荷することを制限する条件を付けて,申立人の組合員(以下,単に「組合員」ということがある。)からなすの販売を受託するという私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)19条に違反する行為を行っていたとして,平成29年3月29日,同法20条2項に基づき,申立人に対し,当該行為を行っていない旨を確認することなどを命ずる排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)をした。
⑵ 本件は,申立人が,相手方に対し,本件排除措置命令の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起し,本件排除措置命令により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると主張して,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,本件排除措置命令の効力の停止を求める事案である。
2 前提事実(後掲の疎明資料又は審尋の全趣旨により一応認められる。)
⑴ 申立人
申立人は,高知県安芸市,室戸市,安芸郡東洋町,安芸郡奈半利町,安芸郡北川村,安芸郡田野町,安芸郡安田町及び安芸郡芸西村の区域(以下「申立人管内」という。)の農業者によって組織された,農業協同組合法に基づく法人である。
申立人の組合員は,平成28年3月31日時点で,1万3571人である(疎乙2・14頁)。
⑵ 申立人におけるなすの販売受託取引に係る状況
ア 申立人は,なす等の園芸農産物(野菜,果実,花きその他の園芸農業により生産される農産物のことである。以下同様。)の選果等を行うための施設として,別表「集出荷場名」欄に記載の各集出荷場を所有している。
これらの集出荷場では,農業者が,園芸農産物の集出荷業務の円滑な運営と生産農家の所得向上を目的とする生産者組織として,支部園芸部を組織しており,別表「集出荷場名」欄記載の集出荷場ごとに,同欄右の「支部園芸部名」欄記載の支部園芸部が存在する。(疎甲18)
イ 申立人は,販売方法,取扱品目,精算方法等について理事会が定めた販売業務規定に基づき,申立人が所有する集出荷場に出荷されたなす等の園芸農産物の販売を受託している。
申立人は,販売を受託したなすの全量について,園芸農産物の販売流通等の事業を行っている高知県園芸農業協同組合連合会(以下「園芸連」という。)に対し,販売を委託している(以下,申立人管内で生産されるなすにつき,このように申立人を通じて園芸連に出荷することを「系統出荷」といい,それ以外を「系統外出荷」という。)。さらに園芸連は,そのなすの販売を全国各地の卸売業者に委託している。
⑶ 他の青果卸売業者におけるなすの販売受託取引に係る状況
申立人管内及びその周辺地域には,申立人以外にも卸売市場を開設し,なすを集荷,販売する青果卸売業者(以下「商系業者」という。)が3社存在する。申立人管内の農業者は,商系業者になすの販売を委託することができ,商系業者は,そのなすを自らが開設する卸売市場において仲卸業者等に販売している。
⑷ 本件排除措置命令
相手方は,平成29年3月29日,申立人に対し,申立人が,かねてから,なすの販売を受託することができる組合員を支部園芸部の支部員又は支部園芸部から集出荷場の利用を了承された者に限定していたところ,遅くとも平成24年4月以降,自ら以外の者になすを出荷したことにより支部園芸部を除名されるなどした者からなすの販売を受託しないこととして,あるいは集出荷場を利用することなく系統外出荷を行った場合に組合員から支部園芸部が定めた系統外出荷手数料等を,系統出荷の重量が一定水準を下回った場合に組合員から支部園芸部が定めた罰金等を,それぞれ収受してこれを自らの農産物販売事業に係る経費に充ててなすの販売を受託しており,これらの行為(以下「本件違反行為」という。)は,組合員の事業活動を不当に拘束する条件を付けて組合員と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の12項に該当し,独禁法19条に違反する行為であるから,本件違反行為は既になくなっているものの,特に排除措置を命ずる必要があるとして,同法20条2項に基づき,以下の内容の本件排除措置命令をした(疎甲18)。なお,下記イにおける通知は,平成24年4月以降支部園芸部の支部員かつ申立人の組合員であった者に対して行うべきであるところ,その総数は約1300人である。
ア 申立人は,次の事項を理事会において決議しなければならない。
(ア) 自ら以外の者になすを出荷することを制限する次の条件を付けて,組合員からなすの販売を受託している行為を行っていない旨を確認すること。
a 自ら以外の者になすを出荷したことにより支部園芸部を除名されるなどした者から,なすの販売を受託しないこと。
b 支部園芸部が定めた系統外出荷手数料等及び罰金等を収受すること。
(イ) 今後,組合員からのなすの販売の受託に関し,前記(ア)と同様の行為を行わないこと。
イ 申立人は,前記アに基づいて採った措置を,組合員に通知しなければならない。この通知の方法については,あらかじめ,相手方の承認を受けなければならない。
ウ 申立人は,今後,組合員からのなすの販売の受託に関し,前記ア(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。
エ 申立人は,今後,自らに農産物を出荷する組合員との取引に関する独禁法の遵守についての行動指針の作成及び当該取引に係る事業に関わる役職員に対する周知徹底を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,前項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,相手方の承認を受けなければならない。
オ 申立人は,前記ア,イ及びエに基づいて採った措置を速やかに相手方に報告しなければならない。
⑸ 訴えの提起及び本件申立て
申立人は,平成29年5月2日,当庁に対し,申立人には独禁法に違反する行為がないとして,本件排除措置命令の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起し,同日,本件排除措置命令の効力の停止を求める本件申立てを行った(当裁判所に顕著な事実)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
⑴ 本件排除措置命令により重大な損害が生じ,それを避けるため緊急の必要があるか
(申立人の主張)
ア 本件排除措置命令により重大な損害が生ずること
(ア) なすや柚子酢の販売量が大幅に減少する可能性
a 本件排除措置命令により,組合員の申立人に対する信頼が著しく毀損され,申立人の組合員からのなすの受託販売量が大幅に減少するおそれがある。また,本件排除措置命令により申立人の信用が毀損されれば,園芸連と大手量販店等との間の取引が打ち切られたり,《A》株式会社と開発した新商品の今後の新規取引が中止されたりするなど,有利な販路が無くなるおそれがある。
そうすると,本件排除措置命令により,申立人のなすの販売量が大幅に減少するおそれがある。
b 申立人は,柚子加工場で搾汁した柚子酢を株式会社《B》に販売しているが,本件排除措置命令により,同社が申立人との柚子酢取引を打ち切る可能性がある。
そうすると,本件排除措置命令により,申立人の柚子酢の販売量が大幅に減少するおそれがある。
(イ) 農産物販売以外の事業で深刻な顧客離れ
申立人は,申立人管内の地域住民に対して信用事業,共済事業,小売店の運営等の事業を行っているが,本件排除措置命令により申立人の信用が著しく毀損されることで顧客離れが進むおそれがある。
(ウ) 国,高知県及び市町村から補助金が受けられなくなるおそれ
a 国の産地パワーアップ事業推進費補助金が受けられなくなるおそれ
申立人は,下記2件の国庫補助事業を申請し,平成29年3月に補助金交付決定通知を受けているが,本件排除措置命令により,申立人が補助事業の実施主体としてふさわしくないとして,上記補助金に係る要綱(疎甲10)を根拠にこれらの補助金の交付が取り消されるおそれがある。
(a) 平成28年度室戸市産地パワーアップ事業
芸東集出荷場のなす自動選果ラインの処理能力を増大する事業につき補助金1億8637万5000円の交付決定
(b) 平成28年度高知県産地パワーアップ事業
芸西村に花き栽培用の低コスト耐光性ハウス6棟を整備する事業につき補助金1億8992万円の交付決定
b 高知県や市町村の園芸用ハウス整備事業補助金が受けられなくなるおそれ
高知県やその市町村では,新規就農者等が園芸用ハウスを整備する際に,その経費の一定割合を補助する園芸用ハウス整備事業が行われている。申立人は,農業者が当該補助金を利用する際,園芸用ハウス導入時の費用をいったん全額負担した上で,補助金が交付されればそれを受領し,残りの農業者の自己負担分を,当該農業者から14年償還で回収している。
ところが,申立人の担当者は,本件排除措置命令の翌日,高知県農業振興部の担当者から,園芸用ハウス事業を含めた県単独の補助事業全般について申立人への補助金の交付が難しい旨の連絡を受けており,申立人は,本件排除措置命令により園芸用ハウス整備事業費補助金を受けられなくなるおそれがある。
c まとめ
以上のとおり,申立人は,本件排除措置命令により各種補助金を受けられなくなることにより,重大な損害を被るおそれがある。
(エ) 園芸農産物の消費宣伝活動の支障
申立人は,高知県内外の量販店等で,試食宣伝等を行い,ハウスでの収穫体験やなす祭りなどのイベント活動を行って園芸農産物の消費宣伝活動を行ってきた。しかし,本件排除措置命令に至る経緯がメディアで報道されてから,このような活動の実施を先方から断られるなどしており,安芸市の納涼祭やよさこい祭り等への参加自粛を余儀なくされている。このように,本件排除措置命令により,今後も,申立人の消費宣伝活動に支障を来すおそれがある。
(オ) 申立人の信用毀損
申立人が本件排除措置命令を履行することにより,通知の相手方となる組合員等は,申立人が独禁法違反を自認したと受け止めることになる。そうすると,申立人の信用が毀損され,今後の人材採用が困難になるほか,申立人の今後の事業に影響が及ぶことになる。
(カ) まとめ
以上に照らせば,本件排除措置命令により申立人に重大な損害が生ずるといえる。
イ 重大な損害を避けるため緊急の必要があること
相手方は,本件排除措置命令に基づき,申立人が相手方に対して通知の方法や講じるべき措置の内容の承認を求める申請の期限を平成29年5月12日と定めたため,申立人は,相手方が承認すればその日から15日以内に通知や措置を履行しなければならない。申立人がこれを怠れば過料の制裁を受けることとなるため,本件排除措置命令の効力がある限り前記アの重大な損害を避けることはできない。
したがって,本件排除措置命令により生じる重大な損害を避けるため,その効力を停止する緊急の必要がある。
(相手方の主張)
ア 本件排除措置命令により重大な損害が生ずるとはいえないこと
(ア) なすや柚子酢の販売量
本件排除措置命令に基づく通知の対象は申立人の組合員に限定されており,大手量販店,《A》株式会社及び株式会社《B》はその対象に含まれていないから,本件排除措置命令によりこれらの者との間でなすや柚子酢の取引が打ち切られたり中止されたりする関係にはない。実際にも,本件排除措置命令の公表後現在までの間に,なすの販売委託量の減少や柚子酢の取引の解消が発生していない。
(イ) 農産物販売以外の事業への影響
本件排除措置命令は,なすの販売受託取引に係るものであり,申立人の信用事業等とは何ら関係ない。実際にも,本件排除措置命令後現在までの間に,貯金等についての他事業者への切り替えや共済契約の解約などは発生していない。
(ウ) 国及び地方公共団体からの補助金
a 国の産地パワーアップ事業推進費補助金
申立人の主張する平成28年度の各産地パワーアップ事業については,国の産地パワーアップ事業費補助金交付要綱が適用されるところ(疎乙41,42),同要綱における補助金交付の対象となる「基金事業者」及び「整備事業者」は,前者については基金管理団体(具体的には公益財団法人《C》),後者については都道府県をいうのであって,いずれも申立人ではなく,申立人が本件排除措置命令を受けたとしても同要綱を直接の根拠として申立人に対する補助金交付決定が取り消される関係にはない。
そして,申立人に対する補助金交付決定を取り消すか否かは,補助金の交付を受けた高知県の知事等の判断に委ねられており,本件排除措置命令により直ちに申立人に対する補助金交付決定が取り消されるものではない。
b 高知県や市町村の園芸用ハウス整備事業補助金
高知県及び申立人管内の安芸市の園芸用ハウス整備事業被補助金交付要綱に定める「補助事業」は園芸用ハウス整備事業であって,申立人の農産物販売事業ではないから,販売事業において本件排除措置命令を受けたことで直ちに園芸ハウス整備事業の実施が著しく不適当であると認められることにはならない。
(エ) 園芸農産物の消費宣伝活動への支障
本件排除措置命令により申立人の消費宣伝活動にどのような影響があったのかは不明であり,各種イベントへの参加自粛も申立人独自の判断にすぎず,そもそも申立人が主張する影響のいくつかは本件排除措置命令以前のものであって,本件排除措置命令により生じたものではない。
(オ) 申立人の信用毀損
本件排除措置命令の履行により通知を受ける組合員は全組合員の10分の1以下にとどまる上,申立人が本件違反行為の不存在を主張し,本件排除措置命令の取消訴訟を提起していることを公表することなどは何ら禁止されていないから,申立人の信用毀損の可能性はそもそも存在しないか,それを回避することが可能である。
(カ) まとめ
以上のとおり,本件排除措置命令の履行により申立人に重大な損害が生じることについての疎明はなく,しかも,申立人が主張する損害はいずれも財産的損害であって,事後的な金銭賠償によって補填可能であるから,申立人の損害の回復が困難とは到底いえない。
よって,本件排除措置命令により申立人に重大な損害が生ずるとはいえない。
イ 重大な損害を避けるため緊急の必要があること
申立人の主張は争う。
⑵ 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ
(相手方の主張)
本件違反行為は長期にわたって行われており,この間申立人は何ら積極的な是正措置を採っていないことなどに鑑みれば,競争秩序の回復及び再発防止を確固たるものとするため,本件排除措置命令に基づく措置を行わせる必要性が高い。本件排除措置命令の執行を停止すると,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。
(申立人の主張)
本件違反行為は平成28年10月31日までに終了しているから,競争秩序の回復のために本件排除措置命令に基づく措置を履行する必要性はない。他方で,履行により申立人が被る損害は重大である。
⑶ 本案について理由がないとみえるか
(相手方の主張)
申立人は,支部園芸部が定めた条件を自己の取引条件に取り込んで組合員と取引しており,申立人自身が組合員に対して拘束条件を付けて取引をしていたと評価できる。また,組合員から系統外出荷手数料や罰金を収受していたのも申立人である。したがって,本件違反行為をしていたのは支部園芸部ではなく申立人である。
また,申立人は,相手方が平成28年6月16日に申立人に対する意見聴取を行ったにもかかわらず,事実認定を差し替えて平成29年2月17日に再度の意見聴取を行って本件排除措置命令を発したことが違法である旨主張するが,意見聴取の結果,新たな事実又は証拠が判明した場合に再度の意見聴取を行うことは適法である。
よって,本案に関する申立人の主張にはいずれも理由がなく,「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)に該当する。
(申立人の主張)
本件違反行為をしたのは申立人ではなく支部園芸部であり,本件における相手方の再度の意見聴取は独禁法59条を潜脱するものであるから,申立人を対象として再度の意見聴取を経てされた本件排除措置命令は違法であり,本件は「本案について理由がないとみえるとき」には当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件排除措置命令により重大な損害が生じ,それを避けるため緊急の必要があるか)について
⑴ 認定事実
前記前提事実に加え,後掲の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 国の補助事業(産地パワーアップ事業)について
(ア) 申立人は,以下に掲げる国庫補助事業である高度化整備事業を申請し,平成29年3月,以下に記載する額の補助金交付決定通知を受けた(疎甲10)。
a 平成28年度室戸市産地パワーアップ事業として,総事業費2億6838万円をかけて芸東集出荷場のなす自動選果ラインの処理能力を増大する事業
補助金1億8637万5000円の交付決定
b 平成28年度高知県産地パワーアップ事業として,総事業費4億1022万7200円をかけて芸西村に花き栽培用の低コスト耐光性ハウス6棟を整備する事業
補助金1億8992万円の交付決定
(イ) 上記整備事業については,国が都道府県へ,都道府県が市町村へ,市町村が農家や農業協同組合等へと,それぞれの産地パワーアップ事業費補助金交付要綱に基づき順次補助金を交付している(疎乙42,43)。
(ウ) 高知県,室戸市及び芸西村の産地パワーアップ事業費補助金交付要綱には,いずれも,その首長が,補助事業の実施が著しく不適当であると認めたときは,補助金の交付の決定を変更し,若しくは取り消し,又は既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる旨の定めがある(疎乙44(14条4項),疎乙45(13条4項),疎乙46(14条4項))。
ここでいう補助事業とは,育苗施設や集出荷貯蔵施設の整備事業等,補助金交付の対象となる事業のことであって,申立人が行う農産物販売事業はこれに当たらない(疎乙44ないし46(いずれも2条及び3条),疎乙43)。
イ 高知県や市町村の園芸用ハウス整備事業について
(ア) 高知県や市町村では,農業協同組合等が農業者に貸す園芸用ハウス等を整備する場合に,その経費の一定割合を補助する園芸用ハウス整備事業が行われている。平成29年度においても,園芸用ハウス15棟が当該事業により整備される予定であり,申立人は,補助金合計1億8137万5000円の交付を申請している。(疎甲11)
(イ) 高知県や申立人管内の安芸市の園芸用ハウス整備事業費補助金交付要綱には,いずれも,その首長が,補助事業の実施が著しく不適当であると認めたときは,補助金の交付の決定を変更し,若しくは取り消し,又は既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる旨の定めがある(疎乙47(16条4項),疎乙48(平成29年4月1日施行の安芸市園芸用ハウス整備事業費補助金交付要綱16条4項))。
ここでいう補助事業とは,園芸用ハウス等の整備事業のことであって,申立人が行う農産物販売事業はこれに当たらない(疎乙47(2条及び3条),疎乙48(平成29年4月1日施行の安芸市園芸用ハウス整備事業費補助金交付要綱2条及び3条),疎乙43)。
ウ 本件排除措置命令後の対応等
(ア) 本件排除措置命令が出された翌日である平成29年3月30日,全国紙や高知県の地方紙で同命令が申立人に対して出されたことが報道された(疎乙35~37)。高知県知事は,同日の記者会見で,申立人が不服申立ての訴訟提起も含めて検討していると聞いているので今後の推移を見守ること,申立人の行為が違法かどうかにつき,今の段階で決めつけるのは早すぎると考えることを述べた(疎甲44)。
また,高知県は,同年4月5日頃,申立人に対し,平成29年度園芸品集出荷支援事業に係る補助金の交付決定をしている(疎甲47)。
(イ) 申立人は,本件排除措置命令が出された平成29年3月29日,自らのホームページに,同命令を受けたこと及び申立人は相手方の事実認定等を争う旨のコメントを掲載し,同年5月8日には,同命令には承服することができず,今後は相手方に対して訴訟を提起し,申立人の主張をしていく旨を掲載した(疎乙32,34)。
⑵ 検討
ア 申立人は,本件排除措置命令により,①なすや柚子酢の販売量が大幅に減少するおそれがあり,②申立人の農産物販売以外の事業で深刻な顧客離れが生じ,③国や地方公共団体から補助金を受けられなくなり,④園芸農産物の消費宣伝活動に支障を来し,⑤申立人の信用が毀損され,これらの結果,重大な損害が生ずる旨主張する。
イ なすや柚子酢の販売量への影響について
前記前提事実及び認定事実によれば,本件排除措置命令は平成29年3月29日に出され,その事実は翌30日に全国紙や申立人が所在する高知県の地方紙で報道されているものの,本件において,その後,組合員からのなすの販売委託量が大幅に減少したとか,申立人が株式会社《B》から柚子酢の取引につき打切り等の申入れを受けたなどの事実を認めるに足りる証拠はない。
これに対し,申立人は,本件排除措置命令により,今後,なすや柚子酢の販売量が大幅に減少する旨主張するが,一件記録に照らしても,同主張を認めるに足りる証拠はない。
ウ 申立人の農産物販売以外の事業への影響について
申立人は,本件排除措置命令によって申立人の信用が著しく毀損されることにより,農産物販売以外の事業で深刻な顧客離れが進むおそれがある旨主張する。しかし,一件記録によっても,申立人の信用事業や共済事業に関し,貯金や融資の他の事業者への切り替えや共済契約の解約が多発するなどの動きは認められず,そのほかに,本件排除措置命令が発出された平成29年3月29日以降,申立人の農産物販売以外の事業において顧客離れが生じていることうかがわせるに足りる証拠もない。
エ 国や地方公共団体からの補助金への影響について
申立人は,国の産地パワーアップ事業推進費補助金及び高知県や市町村の園芸用ハウス整備事業補助金について,本件排除措置命令によりこれらの補助金の交付が取り消され,あるいは交付を受けられなくなるおそれがある旨主張するが,一件記録によっても,同主張に係る補助金交付の取消し等の可能性が高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。
かえって,前記認定事実(ア(ウ),イ(イ))によれば,上記補助金の交付要綱には,その首長が,補助事業の実施が著しく不適当であると認めたときは,補助金の交付の決定を取り消すなどの定めがあるものの,申立人の行う農産物販売事業は,これらの要綱にいう補助事業には当たらないのであるから,申立人が農産物販売事業について本件排除措置命令を受けたことから直ちに上記の定めによって補助金交付の決定が取り消されるわけでもない。
この点,申立人は,本件排除措置命令が出された翌日,高知県農業振興部の担当者から,補助事業全般について申立人への補助金の交付が難しくなるとの連絡を受けた旨主張するところ,一件記録によっても,申立人の主張に係る事実自体を認めるに足りる的確な証拠はない。もっとも,疎乙43号証によれば,高知県の職員が,申立人の担当者に対し,園芸用ハウス利用者を決定する際に系統出荷を強制していないことを確認することができないと事業の採択の判断が難しいと説明したことが認められるが,申立人が園芸用ハウス利用者を決定する際に系統出荷を強制しているか否かは,申立人が当該補助事業を適切に実施しているかに関することであって,上記の補助事業と異なる農産物販売事業に関して本件排除措置命令を受けたこととは直接には関係しないといわざるを得ないから,高知県の職員による上記説明を前提としても,本件排除措置命令によって申立人が補助金を受けられなくなるとまで直ちに認めることはできない。
オ 園芸農産物の消費宣伝活動への影響について
一件記録に照らしても,本件排除措置命令により,申立人の消費宣伝活動に支障が生じ,申立人に重大な損害が生じると認めるに足りる証拠はない。
カ 申立人の信用への影響について
申立人は,本件排除措置命令を履行することにより,申立人が本件違反行為を自認したと組合員等から受け止められ,申立人の信用が毀損される旨主張する。
しかし,そもそも申立人の主張する信用毀損の内容が抽象的なものにとどまっていることに加え,本件排除措置命令において申立人が行うことを命じられているのは,前記第2の2⑷のとおり,申立人の理事会において,当該決議時点において本件違反行為を行っていないことなどを決議し(同ア),そのような内容を組合員約1300人に通知すること(同イ)などであり,本件排除措置命令において,申立人が過去に本件違反行為をしていたことを自認するかのような文言での理事会決議や通知が求められているわけではないことからすると,申立人が本件排除措置命令を履行することによって申立人の信用が毀損され,これを重大な損害であると認めることは困難である。
この点,相手方が作成した通知文案(疎甲46)には,申立人が本件排除措置命令の主文第2項に従い通知する旨の記載があるものの,これは通知発出の根拠を示しているにすぎず,この文言があるからといって,当該通知文に接した組合員が,同通知を発出したことによって申立人が本件違反行為をしたことを自認したと認識することになるかは明らかではないといわざるを得ない。仮にそのようなおそれがあるならば,同命令に従い通知を発することが違反行為の自認を意味しない旨を同時に周知すれば足りる。
また,前記認定事実(ウ(ア),(イ))によれば,申立人が本件排除措置命令を受けたことは,全国紙や高知県の地方紙で報道されており,今後申立人が本件排除措置命令に従って通知を発したとすれば,その事実がメディアを通じ一般消費者や取引先の知るところとなる可能性は否定することができない。しかし,申立人は,既に本件排除措置命令に係る相手方の事実認定等につき争う趣旨のコメントや訴訟を提起した旨を申立人のホームページに掲載するなどの行動をとっているのであるから,仮に申立人が通知を発した事実が報道されたからといって,申立人の信用が殊更に毀損されるとか,申立人の事業に重大な影響が生じると認めることは困難である。
そうすると,本件排除措置命令を履行することによって,申立人の信用が毀損されるということはできない。
キ 以上のとおり,本件においては,本件排除措置命令により申立人に重大な損害が生じると認めることはできず,しかも申立人が主張する損害はいずれも財産的損害にすぎないのであって,事後的な金銭賠償によって回復することが困難であるということもできない。
そうすると,本件排除措置命令によって申立人に重大な損害が生じ,それを避けるために緊急の必要がある(行政事件訴訟法25条2項)とはいえない。
2 結論
以上によれば,本件申立ては,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。

平成29年7月31日

東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官  岩井直幸
裁判官     久田淳一
裁判官     太田慎吾

(別表 省略)
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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