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積水化成品工業㈱ほか1名による審決取消請求事件

独禁法3条後段・独禁法7条の2

東京高等裁判所

平成29年(行ケ)第3号

判決

平成30年3月23日

大阪市北区西天満二丁目4番4号
原告 積水化成品工業株式会社
(以下「原告積水化成品工業」という。)
同代表者代表取締役 《氏名》
北海道千歳市北信濃779番3
原告 株式会社積水化成品北海道
(以下「原告積水化成品北海道」という。)
同代表者代表取締役 《氏名》
上記両名訴訟代理人弁護士 碩省三
同 秋山 洋
同 見宮大介
同 武井祐生
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 横手哲二
同 榎本勤也
同 堤 優子
同 津田和孝
同 黒江那津子
同 栗谷康正

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 公正取引委員会平成25年(判)第1号,第3号,第5号及び第8号審判事件について,被告が平成29年2月8日付けで原告らに対してした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
⑴ 当事者(原告ら)
原告積水化成品工業は,発泡樹脂(発泡スチロール。以下「EPS」という。)の製造等を業とする株式会社であり,原告積水化成品北海道は,原告積水化成品工業の完全子会社で,合成樹脂製品の製造加工及び販売等を業とする株式会社である。
⑵ EPS工法
EPS工法は,1972年(昭和47年)にノルウェーで実用化され,新たな工法として日本に導入された盛土工事における工法の一つであり,盛土材として,土砂等の代わりに,発泡スチロールブロック(以下,EPS工法において使用される発泡スチロールブロックを「EPSブロック」という。)を用いる工法である。
⑶ 発泡スチロール土木工法開発機構の設立等
ア 発泡スチロール土木工法開発機構の設立
EPS工法は,昭和60年6月にノルウェーから日本に技術導入がされたが,EPS工法を確立するため,日本における様々な地盤,地形条件への適用,国内製造ブロックの力学特性の確認及び国内における実績作りなどの研究開発体制を固める目的で,昭和61年6月25日,総合建設業者,専門工事業者,ポリスチレンビーズなどの発泡スチロールブロックの材料製造業者等を会員とする,任意の事業者団体である発泡スチロール土木工法開発機構(以下「EDO」という。)が設立された。
イ EDOによる工法基準書の作成
EPS工法は,EDO及びその会員により,当初はノルウエ ェーの技術支援を受けながら,その普及と技術開発が進められたが,EDOは,平成4年,EPS工法の基準化のため,「発泡スチロールを用いた軽量盛土の設計・施工マニュアル」を作成し,さらに,平成14年5月,軽量材としてのEPSを盛土,擁壁,橋台等の抗土庄構造物の裏込めなどに使用する場合の設計に必要な事項を取りまとめた「EPS工法 設計・施工基準書(案)」(以下「EPS工法基準書」という。)を作成し,公表した。
⑷ 本件訴えの提起に至る経緯
ア 原告らに対する排除措置命令
公正取引委員会は,平成24年9月24日,原告ら,株式会社ジェイエスピー(以下「ジェイエスピー」という。),カネカケンテック株式会社(以下「カネカケンテック」という。),カネカフォームプラスチックス株式会社(以下「カネカフォームプラスチックス」といい,原告ら,ジェイエスピー及びカネカケンテックと併せて「5社」ということがある。),ダウ化工株式会社(以下「ダウ化工」という。),太陽工業株式会社(以下「太陽工業」という。),アキレス株式会社(以下「アキレス」という。)及び北海道カネパール株式会社(平成24年10月1日にカネカ北海道スチロール株式会社に商号変更。以下「北海道カネパール」といい,5社,ダウ化工,太陽工業及びアキレスと併せて「9社」ということがある。)が,共同して,特定EPSブロック(EPSブロックのうち,9社のうち一又は複数の社が,EPS工法を採用して施工することとされた工事(以下「EPS採用工事」という。)に係る設計図書の作成を含む設計業務を請け負った建設コンサルタント業者に対し,当該工事が発注される前に,自ら又は建設資材商社を通じ,当該設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面をEPS工法基準書に基づいて作成し,提供したEPS工法採用工事に使用されるものをいう。以下同じ。)について,詳細設計協力業者(後記のとおり,詳細設計協力を行う者をいう。)のうち最終図面(後記のとおり,発注されたEPS工法採用工事に採用されたEPSブロック図面をいう。)を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)をし,これに基づいて,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力することにより,公共の利益に反して,特定EPSブロックの取引分野における競争を実質的に制限していたもの(以下,この行為を「本件違反行為」という。)であって,本件違反行為は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであるとして,9社のうちカネカフォームプラスチックス及び北海道カネパールを除く7社に対し,排除措置を命じた(以下,この命令を「本件排除措置命令」という。)。
イ 原告らに対する課徴金納付命令
公正取引委員会は,平成24年9月24日,本件違反行為は独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであり,かつ,独占禁止法7条の2第1項2号ハに規定する,商品について取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものであるとして,原告積水化成品工業に対して7618万円,原告積水化成品北海道に対して649万円,ジェイエスピーに対して2740万円,カネカケンテックに対して349万円,カネカフォームプラスチックスに対して2524万円の課徴金の納付をそれぞれ命じた(以下,この命令を「本件課徴金納付命令」という。)。
ウ 5社に対する審決
5社は,平成24年11月22日,公正取引委員会に対し,それぞれ,自社に対する本件排除措置命令(ただし,カネカフォームプラスチックスを除く。)及び本件課徴金納付命令を不服として,その全部の取消しを求める各審判請求をした。
公正取引委員会は,5社の審判手続を併合して審理し,平成29年2月8日,5社の審判請求をいずれも棄却する旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,この審決書謄本は,同月9日,原告らに対して送達された。
エ 本件訴えの提起
原告らは,平成29年3月10日,東京高等裁判所に本件訴えを提起した。
⑸ 本件請求の内容
本件は,原告らが,本件審決が認定した本件合意の存在を認める実質的な証拠が不十分である等と主張して,本件審決の取消しを求めている事案である。
2 前提事実
以下の事実は,後掲証拠又は弁論の全趣旨により認められる事実(後記⑵及び⑶イ(ア)各一部),記録上明らかな事実(後記⑹エ)のほか,いずれも当事者間に争いがない事実である。
⑴ 当事者(原告ら)
原告積水化成品工業は,EPSの製造等を業とする株式会社であり,EPSブロックについては,EPS工法が日本に導入された当時から取扱いを開始し,以後,国内最大手としてシェア1位を維持している。
原告積水化成品北海道は,原告積水化成品工業の完全子会社であり,合成樹脂製品の製造加工及び販売等を業とする株式会社である。
⑵ EPS工法
EPS工法は,1972年(昭和47年)にノルウェーで実用化され,新たな工法として日本に導入された盛土工事における工法の一つである。EPS工法は,盛土材として,土砂等の代わりに,比重(密度)が土の100分の1程度という軽量で,自立性のあるEPSブロックを用いることにより,地盤への負荷を軽減し,盛土の横滑り,崩壊,地盤の沈下等を防ぎつつ,基礎地盤対策に係るコストの低減と工期の短縮を実現することができるというものであった(弁論の全趣旨)。
⑶ EDOの設立等
ア EDOの設立
EPS工法は,昭和60年6月に《A》(以下「《A》」という。)によりノルウェーから日本に技術導入がされたが,EPS工法を確立するため,日本における様々な地盤,地形条件への適用,国内製造ブロックの力学特性の確認及び国内における実績作りなどの研究開発体制を固める目的で,昭和61年6月25日,総合建設業者,専門工事業者,ポリスチレンビーズなどの発泡スチロールブロックの材料製造業者等を会員とする,任意の事業者団体であるEDOが設立された。EDOの事務局は,《A》の東京事業本部に置かれていたが,平成20年9月に《A》が再生手続開始を申し立てた後,平成21年1月に新たに設立された《B》の東京事務所に変更された(以下,上記2社を区別せず,「《B》」ということがある。)。
イ EDOの材料部会等
(ア) EDOの材料部会
EDOにおいては,総会,幹事会,技術委員会及び事務局が設けられ,技術委員会には,材料製造業者を会員とする材料部会,建設資材商社らからなる壁体専門部会及びゼネコン等の建設業者からなる施工研究グループが設けられていた。このうち材料部会は,毎年1回開催されるEDOの総会において,その年の活動内容として,EPS工法採用工事の年間施工実績,建設コンサルタント業者等に対する技術講習会の開催実績等を報告していた。材料部会の会員は,EDOの設立当時は,原告積水化成品工業,三菱油化株式会社及びダウ化工の3社であったが,平成16年4月1日時点では,原告積水化成品工業,三菱油化株式会社の発泡ポリスチレン(発泡スチロール)に係る事業を承継したジェイエスピー(査305ないし308),カネカフォームプラスチックス(平成22年10月1日以降はカネカケンテック),鐘淵化学工業株式会社(平成16年9月1日に株式会社カネカに商号変更。以下,この商号変更の前後を通じ,「カネカ」という。),ダウ化工,太陽工業及びアキレスの7社であった。
(イ) 材料部会の会員らの営業担当者による会合
材料部会の会員は,EPS工法の普及を目的とする建設コンサルタント業者に対する説明会の日時の決定,講習会の開催場所の選定等を行うため,定期的に,各社のEPSブロックの営業担当者が集まる会合(以下「広報委員会」という。)を開催していた。広報委員会は,平成10年頃には,東京,大阪,北海道及び九州で開催されていたが,北海道で開催される広報委員会には,材料部会の会員のほか,原告積水化成品北海道及び北海道カネパールも出席していた(以下,以上の広報委員会に出席する各社を「材料部会会員事業者等」という。)。
⑷ EDOによる工法基準書の作成
EPS工法は,EDO及びその会員により,当初はノルウェーの技術支援を受けながら,その普及と技術開発が進められたが,EDOは,平成4年,EPS工法の基準化のため,「発泡スチロールを用いた軽量盛土の設計・施工マニュアル」を作成し,さらに,平成14年5月,軽量材としてのEPSを盛土,擁壁,橋台等の抗土圧構造物の裏込めなどに使用する場合の設計に必要な事項を取りまとめたEPS工法基準書を作成し,公表した。
⑸ 材料部会会員事業者等による設計協力及び設計協力等を行った物件の登録
ア 材料部会会員事業者等による設計協力
材料部会会員事業者等は,昭和62年頃以降,当時,建設業関係者に広く知られていなかったEPS工法を選択してもらうため,EPS工法の普及活動を開始した。官公庁等の発注者は,概略設計(数種の工法を対照し,評価して,どの工法を採用するかを決めるための設計をいう。以下同じ。)を建設コンサルタント業者に発注することから,上記普及活動は,まず,概略設計業務を受注した建設コンサルタント業者に対し,EPS工法に係る技術提案及び助言を行うことから始まり,徐々に概略設計協力(各工法の比較表及び断面図,EPS工法採用工事に関する概算費用等に係る資料等を作成し,これらを無償で提供することによる概略設計への協力をいう。以下同じ。)を行うようになり,さらに,概略設計にとどまらず,詳細設計(工事の具体的な内容を決める設計をいう。以下同じ。)に関する詳細設計協力(設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面(以下「EPSブロック図面」という。)を作成し,これを無償で提供することによる詳細設計への協力をいう。以下同じ。)も行うようになった。
イ 設計協力等を行った物件の登録
材料部会会員事業者等は,遅くとも平成2年4月頃以降,EPS工法が採用されそうな物件の情報を入手したり,建設コンサルタント業者から設計業務に対する協力の依頼を受けたりした場合には,その物件名,発注者名,施工場所,建設コンサルタント業者名等の情報を,《B》に連絡し,《B》において,当該情報のデータベース化(以下,このデータベース化を「物件登録」という。)をしていた。
ただし,物件登録は,平成16年2月末日をもって廃止された。
⑹ 本件訴えの提起に至る経緯
ア 本件排除措置命令
公正取引委員会は,平成24年9月24日,9社が,共同して,特定EPSブロックについて,本件合意をし,これに基づいて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるように協力することにより,公共の利益に反して,特定EPSブロックの取引分野における競争を実質的に制限していたもの(本件違反行為)であって,本件違反行為は独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであるとして,9社のうちカネカフォームプラスチックス及び北海道カネパールを除く7社に対し,本件排除措置命令をした。
イ 本件課徴金納付命令
公正取引委員会は,平成24年9月24日,5社に対し,本件違反行為は独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであり,かつ,独占禁止法7条の2第1項2号ハに規定する,商品について取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響をすることとなるものであるとして,本件課徴金納付命令をした。
また,公正取引委員会は,同日,ダウ化工,太陽工業及びアキレスの3社に対しても課徴金の納付をそれぞれ命じた。
ウ 5社に対する審決
5社は,平成24年11月22日,公正取引委員会に対し,それぞれ,自社に対する本件排除措置命令(ただし,カネカフォームプラスチックスを除く。)及び本件課徴金納付命令を不服として,その全部の取消しを求める各審判請求をした(なお,ダウ化工,太陽工業及びアキレスに対する各排除措置命令及び課徴金納付命令は,いずれも確定した。)。
公正取引委員会は,5社の審判手続を併合して審理し,平成29年2月8日,5社の審判請求をいずれも棄却する旨の審決をし,同審決書謄本は,同月9日,原告らに対して送達された。
エ 本件訴えの提起
原告らは,平成29年3月10日,東京高等裁判所に本件訴えを提起した(記録上明らかな事実)。
第3 争点
本件における争点は,以下のとおりであるが,争点2及び3は,争点1で,本件審決で認定された,9社の間での特定EPSブロックについての合意の存在の事実につき実質的な証拠があると認められた場合の予備的な主張に係る争点である。
1 9社の間に,遅くとも平成19年1月以降(カネカケンテックにあっては,平成22年10月1日以降。以下同じ。),特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者(詳細設計協力を行う者をいう。以下同じ。)のうち最終図面(発注されたEPS工法採用工事に採用されたEPSブロック図面をいう。以下同じ。)を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力する旨の本件合意が存在したか。
2 原告ら以外のEPSブロック業者(EPSブロックの製造業者又は販売業者をいう。以下同じ。)が当該物件の存在すら認識していない物件(以下「不認識物件」という。),原告ら独自の工法が採用された物件(以下「独自工法採用物件」という。)及び建設資材商社である《C》(以下「《C》」という。)が独自の判断により原告らに対して発注した物件(以下「《C》物件」という。)が本件合意の対象となるか。
3 本件合意が独占禁止法2条6項の「公共の利益に反して」,又は「競争を実質的に制限する」と認められないものであるか。
第4 争点について本件審決が認定した事実
1 争点1の本件合意の存否について
①材料部会会員事業者等は,平成元年頃から,設計協力を行ったEPSブロック業者が当該工事に使用されるEPSブロックを他社に優先して販売すべきであるという考え方に基づき行動するようになり,物件登録が行われるようになった平成2年4月頃以降は,自社が物件登録を行った物件についてはそれを根拠にEPSブロックを販売する「権利」があると主張し,他社が物件登録を行った物件については営業活動を行わないようにするなど,EPSブロックの受注について協調関係にあったと認められること,②平成16年1月7日の広報委員会(以下「1月7日の広報委員会」という。)及び同年1月19日の広報委員会(以下「1月19日の広報委員会」という。)において,材料部会会員事業者等の間で,物件登録の廃止及びその後のルールについて話合いが行われ,同年2月末日をもって物件登録を廃止すること,及び物件登録の廃止後は,最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを優先して販売することができるものとし,互いに協力し合っていく旨が確認されたと認められること,③9社は,物件登録の廃止後も,自社が詳細設計協力をした物件については,当該物件を受注した建設業者に対する営業活動を積極的に行う一方,自社が詳細設計協力をした物件ではないと判別することができた場合等には営業活動の自粛等をすることで,詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注することができるように協力し合っていたものであり,9社が平成19年1月以降に,自社が詳細設計協力をしたことを根拠に他社に営業活動の自粛を求めた事例,見積価格に関する連絡を取り合うなどして詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注することができるように協力した事例,及び最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注するという前提の下に利益配分のための調整等を行った事例があると認められることにかんがみると,9社はいずれも,遅くとも平成19年1月以降,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力する旨の意思を有していたものであり,本件合意が存在していたものと認められる。
2 争点2の不認識物件等が本件合意の対象か否かについて
9社はいずれも,特定EPSブロックについて,最終図面を作成した詳細設計協力業者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力する意思を有していたものであり,その対象である特定EPSブロックについて,特段の限定を付したり,一部を除外したりするなどした事実は認められない。したがって,本件合意の対象は全ての特定EPSブロックであると認めるのが相当である。
⑴ 不認識物件について
9社は,自社が詳細設計協力をした物件についてはEPSブロックの受注に向けた営業活動を積極的に行う一方,自社が詳細設計協力をしていない物件についてはEPSブロックの受注を目指さないことで,EPSブロックの販売段階におけるEPSブロック業者間の競争を避け,詳細設計協力業者が詳細設計協力に要した労力及び費用を確実に回収することができるようにすることを図って,本件合意をしたものである。本件合意をすることにより,詳細設計協力業者は,他社が当該工事に係る特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるため,特定EPSブロックを確実に受注し,受注価格の面でも建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得ることができるが,かかる利益を得ることができるのは,当該物件の存在を認識している他社が本件合意に基づき営業活動の自粛等を行うことにより詳細設計協力業者の受注に協力する場合に限られるものではない。本体合意に基づき,他社が自身で詳細設計協力をしていない工事に係る特定EPSブロックの受注を目指さない結果,詳細設計協力業者が受注するまで他社が当該物件の存在を認識しなかった場合も,詳細設計協力業者は,同様の利益を得ることができる。これらの事情にかんがみると,本件合意は,不認識物件の場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から特段除外するものではなかったと認めるのが相当である。
⑵ 独自工法採用物件について
ア 9社は,特定EPSブロックの販売段階におけるEPSブ口ック業者間の競争を避け,詳細設計協力業者が詳細設計協力に要した労力及び費用を確実に回収することができるようにするため,本件合意をしたものである。また,本件合意が存在することにより,詳細設計協力業者は,他社が当該工事に係る特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるため,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競合他社の存在を意識して販売価格を殊更低額にする必要はなく,建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となる。そこで,独自工法が採用された場合でも,これにより特定EPSブロックの販売段階におけるEPSブロック業者間の競争がおよそ生じ得ないような客観的な状況がない限り,上記販売競争を避けて詳細設計協力業者が確実に受注することができるようにするために,この場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象に含める実益はあるといえる。したがって,上記状況にある場合を除き,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックも本件合意の対象であると認めるのが相当である。
イ 平成20年5月31日ないし平成22年5月30日当時,簡易壁体工法(EPS工法において,EPSブロックによる盛土ののり面部分を保護するための壁体の構築に,重機が必要となるH型鋼の支柱等を用いずに,人力のみで簡易に設置することが可能な方法を用いる工法をいう。以下同じ。)及びEPSのり面緑化工法(EPS工法において,EPSブロックによる盛土ののり面部分を緑化するための工法。以下同じ。)には,いずれも複数の工法が存在したことが認められる。また,EPS工法採用工事の発注者は,最終図面において簡易壁体工法及びEPSのり面緑化工法(以下「簡易壁体工法等」という。)が採用されていた,又は特定の簡易壁体工法等を採用したと解される記載があったとしても,通常は,安全性及び工期に影響がなければ,当該最終図面に記載された特定の簡易壁体工法等であることにこだわりを有しておらず,当該工事を受注した建設業者において,他の簡易壁体工法等に設計変更して当該工事を施工することは問題ないと考えており,EPSブロック業者も,建設業者が設計変更して工事を施工する意向をもち,発注者に設計変更が認められれば,当該特定の工法以外の簡易壁体工法等やH型鋼を支柱に用いる工法に設計変更して,当該工事を施工することは可能であると考えていたことが認められる。そして,実際に,特定のEPSブロック業者の独自工法を採用した工事が発注された後,設計変更が行われ,他社がその工事に使用されるEPSブロックを販売することとなった事例,詳細設計協力業者が自社の簡易壁体工法を織り込んだEPSブロック図面を作成したが,設計変更手続をすることなく,これと異なる簡易壁体工法で施工された事例が存在することが認められる。これらの事情にかんがみれば,仮に独自工法とその他の同種工法との間に差異が存在したとしても,各独自工法が,いかなる現場状況及び条件の工事においても,他の独自工法や通常のEPS工法と比較して,安全性,工期,工事費等の面で,他社の営業努力によっては補い切れないような優位性を有していたとまで評価することはできず,特定EPSブロックの販売競争の可能性を消滅させるほどの独自性があったとは認め難い。9社の営業担当者の供述調書その他の証拠をみても,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から除外していることをうかがわせる記載等は存在しない。したがって,本件合意は,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から特段除外するものではなかったと認めるのが相当である。
⑶ 《C》物件について
《C》は,本件合意の存在を認識していたことがうかがわれるから,《C》が本件合意と関係なく独自の判断で詳細設計協力業者に発注していたとは認められない。
3 争点3の本件合意が独占禁止法2条6項の「公共の利益に反して」,又は「競争を実質的に制限する」と認められないものであるか否かについて
9社の間には,遅くとも平成19年1月以降,本件合意が存在したことが認められる。このような取決めは,本来的には自由に特定EPSブロックの受注活動を行うことができるはずの9社が,これに制約された意思決定を行うことになるという意味において,各社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。また,本件合意の成立により,9社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し,認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,同項にいう「共同して・・・相互に」の要件も充足する。そして,本件合意は,特定EPSブロックの販売に係るものであるところ,9社は,特定EPSブロックのほとんど全てを受注していたことからすれば,本件合意により,9社がその意思で特定EPSブロックの販売分野における販売者及び販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたと認められる。したがって,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足する。また,以上のような本件合意が,同項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。
第5 争点に関する当事者の主張
1 争点1の本件合意の存否について
(原告らの主張)
⑴ EPS工法が徐々に普及するに連れて,物件登録を通じ,他社が既に設計協力を行っていることが判明した物件について営業活動を行わず,他の物件に対する営業に注力するという材料部会会員事業者等間での風潮は,平成16年当時は既に薄れており,少なくとも同年1月に物件登録が廃止された後は,上記風潮自体が存在しないことに疑いの余地はないから,物件登録の廃止前に材料部会会員事業者等がEPSブロックの受注について何らかの協調関係にあったとしても,このことは,本件合意が存在したことの根拠又は間接事実となるものではない。
⑵ 本件審決は,1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業が最終図面方式(詳細設計業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とする方式をいう。以下同じ。)に反対したことを認定しながら,その事実を無視し,原告積水化成品工業がその反対を撤回し,最終的に最終図面方式に同意をしたという認定すら十分にしていない。本件審決が採用した各供述調書(査21,57,165,168,178)は,ジェイエスピーの《D1》(以下「《D1》」という。)の供述調書(査21)以外は,1月19日の広報委員会に出席した者の供述調書ではなく,いずれの供述調書も,1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業が最終図面方式に同意したこと,及び当該同意に至る議論等の状況を述べるものではないから,本件合意の存在を認める実質的な証拠であるとはいえないし,これらの状況を供述する供述調書が存在しないこと自体,原告積水化成品工業が最終図面方式に同意しなかったことの証左である。1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業が最終図面方式に最後まで反対し,本件合意が成立しなかった旨を異口同音に述べる原告積水化成品工業の《E1》(以下「《E1》」という。),カネカケンテックの《F1》(以下「《F1》」という。)及びジェイエスピーの《D2》(以下「《D2》」という。)の各陳述について,個別に分析することなく,極めて大雑把に陳述全体に信用性なしとして安直に排斥することはできない。また,1月19日の広報委員会の出席者が作成したメモ及び電子メールには,本件合意が成立したと明確に記載したものはなく,その記載には,意味内容が不明確な点,実際の議論をそのまま反映していない点もあり,1月19日の広報委員会への出席者から事情聴取がされた様子もない。なお,原告積水化成品工業の《E2》(以下「《E2》」という。)作成の電子メール(査224)に,全社とも協調するということで,足並みが揃っているという記載があるが,この「全社」は,その直前に「最終図面案にする意見がおおい」と記載されていることからすると,「原告積水化成品工業以外の全社」を示す趣旨にすぎない。
1月19日の広報委員会で確認された合意の内容及び議論の状況等が記載された議事録は存在せず,本件合意の内容について,社内で伝達,周知がされた痕跡すらないこと,1月19日の広報委員会から約2週間後の平成16年1月31日付けで,カネパールサービス株式会社(以下「カネパールサービス」という。)が,カネカと連名で,他の材料部会会員事業者等の設計・営業活動に伴う先行出費にかかわらず,カネパールサービス独自の判断でEPSブロックの受注活動を行う旨等を記載した文書(査214。以下「カネカ文書」という。)を送付していることからすれば,1月19日の広報委員会において,材料部会会員事業者等の間で何らの合意も成立しなかったことが推認される。
仮に物件登録の廃止前の段階で材料部会会員事業者等に協調関係があったとしても,物件登録が廃止された平成16年2月末日後,その状況が大きく異なっているのに,本件審判手続に提出された供述調書のほとんどは,物件登録の廃止前の実態を述べたものにすぎず,本件合意の成立に関する核心部分の供述は一切存在しないだけでなく,本件審決の認定は,物件登録の廃止前の合意が廃止後も維持されていたとしているのか,物件登録の廃止と同時に本件合意が成立したとしているのかも不明であり,本件審決は物件登録の廃止の前後を区別することができておらず,その前提及び状況の相違を検討,考慮することができていない。少なくとも一貫して最終図面方式に反対していた原告らが,物件登録の廃止後の在り方について他社との間で何らかの合意又は取決めを行うことに同意していないからこそ,原告らの従業員が本件合意について述べた供述調書は一切存在しないのである。
⑶ 個別の調整行為等の認定の根拠とされた多数の供述調書は,1月19日の広報委員会に一切触れていない上,物件登録の廃止の前後により協調関係(合意)の内容が異なるはずであるのに,その点について言及する供述調書は皆無であって,これらの供述調書の大部分は,本件合意の成立あるいはその存在を認識していないのに,EPSブロック業者が経済合理性に基づく独自の判断により行動をとった結果,自然と同様の行動をとることとなるという実態をもって,「協力」,「ルール」又は「慣習」等と供述をするにすぎない。また,本件合意の内容に照らせば,個別の調整行為は特に必要ないはずで,それにもかかわらず個別調整が行われていることこそ,本件合意が存在しないことの証左にほかならない。
(被告の主張)
⑴ 物件登録の廃止前における材料部会会員事業者等のEPSブロックの受注についての協調関係が,平成16年当時にも存在したことは明らかであり,このような協調関係が存在することは,本件合意の内容と整合するものであり,本件合意の存在を認定する根拠の一つとなり得る。
⑵ 原告積水化成品工業は,当初,最終図面方式に反対していたとはいえ,1月19日の広報委員会において,自ら対案を提示するなどし,最終的には,最終図面方式を基本として協調していくことを確認した。また,《D1》の供述は信用に値し,これに整合する供述調書(査57,165,168,178)及び客観的証拠(査224ないし227)により補強されており,さらに,《E2》作成のメモ(査225)及び電子メール(査224)並びにアキレスの《G1》(以下「《G1》」という。)作成のメモ(査226)の内容は,何ら不明確なものではなく,前記各供述調書における供述内容を客観的に補強するものであって,これとあいまって,材料部会会員事業者等の間で最終図面方式を基本として協調していくことが確認されたという事実を認定する実質的な証拠というべきである。加えて,1月19日の広報委員会に関する議事録及びその結果を社内に伝達等した痕跡がないからといって,本件合意が存在しなかったことの証左となるものではないし,カネカ文書の送付がされたことをもってしても,本件合意が存在しなかったことの証左とはいえない。
材料部会会員事業者等の協調関係は,平成16年2月の物件登録の廃止後にも存続し,その内容も,詳細設計協力業者を重視するという点において,廃止の前後で基本的に異なるものではない上,各社の営業担当者の供述は,物件登録廃止後の材料部会会員事業者等の協調関係を述べたものである。また,違反行為の隠蔽工作が顕著な本件において,本件違反行為を否認する原告らの従業員において,本件合意に関する供述をする者がいないことは,本件審決の認定・判断を左右するものではない。
⑶ 本件審決が引用する各供述調書は,いずれも異口同音に本件合意に沿った協調関係があったことを述べた上で,又はそれを前提として,個別の調整事例について供述するものであり,これらの供述等から認定することのできる個別事例は,本件合意の存在を認定する根拠たり得ることが明らかである。本件合意の存在を前提としても,調整行為の必要が全くないとはいえず,個別に調整が行われていた事実は,本件合意の存在を基礎付けることこそすれ,本件合意が存在しないことの証左ということはできない。
2 争点2の不認識物件等が本件合意の対象か否かについて
(原告らの主張)
⑴ 不認識物件について
不認識物件を本件合意の対象とし,実質的な競争制限がされているとする本件審決の判断によれば,その論理的帰結として,材料部会会員事業者等は,不認識物件についてまで競争(作為)することを求められることとなり,①全国の膨大な盛土工事物件を調査し,その存在を把握し,EPS工法が採用されるか否かを確認した上,さらに,②EPS工法が採用されるのであれば,営業活動を行わなければならないという二重の作為義務が課されることとなる。しかし,このような作為義務を観念することはできず,不認識物件について営業活動をしないことが独占禁止法違反と認められる余地はないから,本件合意は独占禁止法違反を構成しない。また,不認識物件については,物件の存在すら認識していない以上,いかなる意味でも,当該詳細設計協力業者を除く材料部会会員事業者等が,本件合意に「制約された意思決定を行うこと」はなく,「事業活動を事実上拘束する結果」を生じることなどあり得ず,その「協力」も観念し得ない。さらに,本件合意は受注調整を行うためのものであるから,不認識物件について受注調整又は取決めを行う必要もない。以上からすれば,不認識物件については,本件合意と受注との間の因果関係も否定される。
⑵ 独自工法採用物件について
原告積水化成品工業が特許を有するソイレングリーンユニット工法及びラムダパネル工法などの各社の独自工法が詳細設計に組み込まれた場合に,当該独自工法を有する詳細設計協力業者がEPSブロックを受注することができていたのは,当該詳細設計協力業者以外の材料部会会員事業者等にとって,他社の独自工法を自社の独自工法に置き換えることを含めた設計変更に対応することが難しく,変更に多くの時間と労力を要するほか,技術面及び安全面のリスクを抱えるため,当該物件を獲得することが通常の場合より一層困難であるという実態によるものであって,本件合意の存在とは無関係である。本件審決が引用するわずか数例の代替工法への変更をもって,本件合意が存在するために詳細設計協力業者が受注を得られるとするのは論理に飛躍がある。
⑶ 《C》物件について
建設資材商社である《C》は,《C》独自の判断により詳細設計協力業者からEPSブロックを購入しているから,《C》が商流に加わった物件は,本件合意の対象とは認められない。《C》が本件合意を認識していたかどうかと,《C》が本件合意に従って独自の判断を放棄していたか否かとは全く別の問題であり,本件審決が引用する供述調書(査123,129)によっても,《C》の《C1》(以下「《C1》」という。)は,設計協力をしていないEPSブロック業者に見積りを依頼すると,図面を書き直す必要があるから,設計協力をしていないEPSブロック業者に見積りの依頼を行うことはあり得ない等と供述しており,本件審決が同供述を無視したことは,重大な誤りである。
(被告の主張)
⑴ 不認識物件について
本件合意を「不当な取引制限」として規制することは,何ら原告らが主張するような二重の作為義務を課すことにはならない。9社は,本件合意が存在することにより,他社が最終図面を作成した物件について,これを受注すべく積極的な把握に努めること,ひいては営業活動をすることを自制しているのであるから,結果的に不認識物件となった物件に対しても,本件合意に「制約された意思決定」を行っていたことは明らかであり,9社は,このようにして,本件合意に従って自らの事業活動に歯止めをかけ,具体的には認識していない受注予定者の受注にも協力し,その受注をより容易にするという結果をもたらしているのであるから,本件合意により各社の「事業活動を事実上拘束する結果」となっていることも明らかである。したがって,本件合意と不認識物件に係る特定EPSブロックの受注との間に因果関係が存在すること,ひいては本件合意と特定EPSブロックの販売分野における競争制限効果との間に因果関係が存在することも明らかである。
本件合意は,詳細設計協力業者が詳細設計協力に要した労力及び費用を確実に回収することができるようにすることを図ったものであり,複数のEPSブロック業者が物件を把握し,競合が生じた場合の調整弁としてされたものではなく,むしろ調整行為を要する事態を可及的に回避することを目指した合意であって,結果的に不認識物件が一定程度発生することは織り込み済みであるから,不認識物件の発生は本件合意によって競合を避けた結果の一つであって,決して,本件合意によれば調整を行う必要がないとか,不認識物件に係る特定EPSブロックが本件合意の対象でないということはできない。
⑵ 独自工法採用物件について
簡易壁体工法及びEPSのり面緑化工法は,それぞれ複数の工法があり,各独自工法について,他の独自工法又は通常のEPS工法と比較して,安全性,工期,工事費等の面で,他社の営業努力によっては補い切れないような優位性を有していたとまでは評価することができず,特定EPSブロックの販売競争を消滅させるほどの独自性があったとは認め難い。これは,ソイレングリーンユニット工法及びラムダパネル工法についても,異なるものではない。したがって,本件合意は,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックを,その対象から特段除外するものではなかった。
⑶ 《C》物件について
《C》は,本件合意の存在を認識しており,本件合意と関係なく独自の判断で詳細設計協力業者に発注をしていたとは認められないから,本件合意と《C》物件の受注との間に因果関係が存在し,ひいては,本件合意と特定EPSブロックの販売分野における競争制限効果の発生との間にも因果関係が存在することは明らかである。
《C》の営業活動に関する第三者の供述調書(査57,58,247,272)は,《C》が本件合意を是認していた様子を,実際のエピソードに基づく具体的な記憶として供述したものであり,各供述者は,《C》と取引等を行っていたEPSブロック業者の営業担当者であって,この点について虚偽の供述をする事情も認められないから,その信用性に疑いはなく,これらの供述調書は上記認定に係る実質的な証拠として十分である。また,《C1》の供述によっても,《C》が本件合意の存在を認識し,これを是認して詳細設計協力業者に対して特定EPSブロックを受注していたことは何ら否定されない。
3 争点3の本件合意が独占禁止法2条6項の「公共の利益に反して」,又は「競争を実質的に制限する」と認められないものであるか否かについて
(原告らの主張)
⑴ 本件合意の対象は,どこで発注されているかも不明な,工事規模も様々で,何らの限定もない「EPS工法採用工事」であるため,対象となる「取引」の範囲が非常に広範であり,本件合意のみで,個別の調整行為を要さずに「不当な取引制限」を構成するとすれば,9社にとって,予測可能性が全く欠ける範囲についてまで独占禁止法違反とされかねない。また,本件合意に関して「あるべき競争状態」を観念しようとすると,「EPS工法が採用された日本全国の工事について,遍く,受注に向けた営業活動を行うこと」となるから,原告らに対して無理を強いるに等しく,極めて不合理である。したがって,本件合意は,対象工事及び競争業者の範囲等が無限定で,その合意内容があまりに広範に過ぎるから,そもそも「不当な取引制限」の要件を満たさない。
⑵ EPSブロックの取引における主要な競争要素は,詳細設計業務の品質の優劣という設計協力段階にあり,かつ,設計協力の獲得の段階で現に熾烈な競争がされている以上,受注段階において,詳細設計協力の結果として当該詳細設計協力業者が受注を獲得する実態が生じ,事実上,競争がされないとしても,これをもって「公共の利益に反し」,又は「競争を実質的に制限する」とは評価し得ない。また,EPSブロック取引においては,詳細設計段階において,詳細設計協力業者が費用と労力を投じて詳細設計を行っているところ,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者が当該案件を受注するとなると,技術面,安全面,経済面での問題から,前業者による詳細設計をそのまま用いることはできず,詳細設計をやり直すこととなるから,元々の詳細設計は無駄となり,他方,前業者は,無駄となった費用を他に賦課せざるを得なくなり,効率的な資源の分配にマイナスの影響を生じさせ,公共の利益に反するものとなる。この点からも,本件合意が不当な取引制限に当たるとは認められない。
(被告の主張)
⑴ 本件合意の対象が特定EPSブロックであることは明確であり,これを対象とした本件合意の内容も十分に特定されており,さらに,本件合意によって競争が実質的に制限される特定EPSブロックの販売分野において,競争者として想定される者は,本件合意に参加していないアウトサイダー及び潜在的競争者を含めた我が国におけるEPSブロック業者全般である。9社は,本件合意の仕組みを利用して,遅くとも,平成19年1月以降,本件違反行為を継続してきたのであるから,「不認識物件」に係る特定EPSブロックについて本件排除措置命令の対象とされ,あるいは,その売上額を本件課徴金納付命令において課徴金の計算の基礎とされても,何ら予測可能性が害されることにはならない。
本件合意を「不当な取引制限」とすることは,不認識物件について営業活動等を行うことを義務付け,これを強制するものではないし,仮に観念されるべき「あるべき競争状態」を例示的に示すとすれば,それは,各EPSブロック業者が,「EPS工法が採用された日本全国の工事について,遍く,受注に向けた営業活動を行うこと」ではなく,「最終図面を作成した詳細設計協力業者の誰彼関係なく,特定EPSブロックの取引を受注するための情報を広く収集することに努めるか否か,収集した情報を基に営業活動を行うか否か,ひいては受注するか否か等を,競合他社の意向に制約されることなく,自主的に決定して事業活動を行っている状態」である。
⑵ 9社の間に,詳細設計業務を巡ってどの程度「熾烈な競争」があったのか疑問なしとしないが,その点はさて措き,仮に詳細設計業務を巡って何らかの競争があったとしても,EPSブロックの販売競争を制限する本件合意が何ら許容されるものではない。
また,仮に,無償で行われる設計協力の段階で何らかの競争を観念することができるとしても,特定EPSブロックの受注を巡っての競争が行われない以上,市場メカニズムは有効に機能せず,効率的な資源配分を期待することはできない。すなわち,建設業者等のEPSブロックの需要者が,詳細設計協力業者によって囲い込まれるために,特定EPSブロックの受注価格は,競争市場によって形成される市場価格を上回る水準で設定される蓋然性が高いから,本件合意により,市場メカニズムは損なわれており,効率的な資源配分は実現することができない。仮に,本件合意を「不当な取引制限」として排除することで,詳細設計業務に係る費用の回収が不能となり,特定EPSブロックの取引が立ち行かなくなるというのであれば,それは,設計業務を無償で行うという慣行を含め,9社のビジネスモデルが破綻していることを意味するにすぎない。さらにいえば,その結果,詳細設計協力自体が困難となり,建設業者がEPS工法を選択することが困難となるというのであれば,それは,EPS工法がコストに見合わない工法であることを意味するにすぎず,このような事態を,企業努力によって立て直すことなく,本件合意が許容される理由とすることはできない。
第6 当裁判所の判断
1 争点1の本件合意の存否について
⑴ 本件審決で認定された事実についての実質的な証拠の有無
ア 平成元年頃から物件登録の廃止前までの材料部会会員事業者等の協調関係について
《D1》(ジェイエスピー取締役常務執行役員第二事業本部EPS事業部事業部長)の各供述調書(査21(2ないし8頁),158),ジェイエスピー第一事業本部建築土木資材事業部土木資材部土木資材グループ主査の《D3》(以下「《D3》」という。)の各供述調書(査24(4ないし9頁),168(2ないし8頁)),ジェイエスピー大阪営業所土木資材グループ主査の《D4》の供述調書(査25(3ないし11頁)),ダウ化工九州営業所課長の《H1》の供述調書(査26(2ないし17頁)),《D2》(ジェイエスピー第一事業本部建築土木資材事業部土木資材部長)の供述調書(査34(5ないし8頁)),ダウ化工機能・生活資材部部長の《H2》(以下「《H2》」という。)の供述調書(査43(2ないし19頁)),《I》代表取締役社長(元太陽工業従業員)の《J1》の供述調書(査47(3ないし11頁)),カネカケンテック西日本事業部営業二部部長兼土木資材課長(九州)の《F2》(以下「《F2》」という。)の供述調書(査56(2ないし11頁)),《K》契約社員(元カネパールサービス従業員)の《K1》(以下「《K1》」という。)の供述調書(査57(3ないし15頁)),太陽工業国土環境エンジニアリングカンパニー環境資材グループ西日本営業課課長代理《J2》の各供述調書(査69(2ないし9頁),170),カネカケンテック営業二部土木資材課(名古屋)課長代理の《F3》の供述調書(査164(4,5頁)),太陽工業国土環境エンジニアリングカンパニー環境資材グループ営業課課長代理の《J3》(以下「《J3》」という。)の供述調書(査169(3ないし10頁)),元アキレス従業員の《G2》の供述調書(査172),原告積水化成品北海道札幌営業所長の《L1》の供述調書(査177(3ないし6頁)),《M》取締役指定管理事業部長(元太陽工業従業員)の《J4》(以下「《J4》」という。)の供述調書(査178(3ないし5頁))及びジェイエスピー福岡営業所土木資材グループグループ長の《D5》の供述調書(査267(3ないし6頁))においては,物件登録の廃止前,原告らを含めた材料部会会員事業者等の間で,EPSブロックの受注に関し,本件審決で認定された協調関係が形成されるに至った経緯,当該協調関係の内容,当該協調関係を前提とした見積価格の算出を含めたEPSブロックの営業の実態,及び各営業担当者等におけるEPSブロックの営業に対する認識について,具体的な供述がされているのであり,それらの供述は,相互に符合するとともに,当時作成された電子メール,メモ,マニュアル等の内容(査28,166,167,175,176,179,180,188,189,192ないし194)とも符合する。そうすると,上記各供述は,これを信用することができるから,本件審決で認定された,材料部会会員事業者等が,平成元年頃から,設計協力を行ったEPSブロック業者が当該工事に使用されるEPSブロックを他社に優先して販売すべきであるという考え方に基づき行動するようになり,物件登録が行われるようになった平成2年4月頃以降は,自社が物件登録を行った物件についてはそれを根拠にEPSブロックを販売する「権利」があると主張し,他社が物件登録を行った物件については営業活動を行わないようにするなど,EPSブロックの受注について協調関係にあったという事実については,実質的な証拠があると認められる。
イ 1月7日の広報委員会及び1月19日の広報委員会における話合いの内容等について
次に,《D1》の供述調書(査21(8ないし9頁)),《F1》(カネカケンテック取締役東日本事業部営業二部長)の供述調書(査41(6頁)),カネカケンテック東日本事業部営業二部土木資材課課長代理の《F4》(以下「《F4》」という。)の供述調書(査42(5,6頁)),《H2》の供述調書(査43(19,20頁)),《K1》の供述調書(査57(15ないし24頁)),カネカケンテック西日本事業部営業二部土木資材課課長代理の《F5》(以下「《F5》」という。)の供述調書(査152),ダウ化工産業資材部課長の《H3》(以下「《H3》」という。)の供述調書(査165),《D3》の供述調書(査168(6,7頁))及び《J4》の供述調書(査178(5ないし7頁))においては,物件登録の廃止後も,最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを優先して販売することができるものとし,互いに協力し合っていくというルールが存在することに沿うEPSブロックの営業の実態,及び各営業担当者等におけるEPSブロックの営業に対する認識について,具体的な供述がされ,それらの供述は相互に符合する。また,1月7日の広報委員会の内容を記録した《G1》作成のメモ(査213),《E2》作成のメモ(査215),1月7日の広報委員会の議事の結果を受けて作成された《E1》作成の電子メールの内容(査217),1月19日の広報委員会の議事の結果を受けて《E2》が作成した電子メール(査224。同メールには,材料メーカーの意見として現行システムを廃止し,最終図面案にする意見が多いことから今後は報告なしとなり,全社とも協調するということで足並みは揃っているという記載がある。),並びに1月19日の広報委員会の内容を記録した《E2》作成のメモ(査225)及び《G1》作成のメモ(査226。同メモには,最終図面を基本とし,月2回程度,状況確認,都度は担当者同士で調整,2月末をもってマークはやめて3月1日より上記にて運用という記載がある。)の各内容は,1月19日の広報委員会において最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを優先して販売することができるものとし,互いに協力し合っていく旨が確認されたという本件審決で認定された事実と符合し,これを裏付けるものである。そうすると,本件審決で認定された,1月7日の広報委員会及び1月19日の広報委員会において,材料部会会員事業者等の間で,物件登録の廃止及びその後のルールについて話合いが行われ,平成16年2月末日をもって物件登録を廃止すること,及び物件登録の廃止後は,最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを優先して販売することができるものとし,互いに協力し合っていく旨が確認されたという事実については,実質的な証拠があると認められる。
ウ 物件登録の廃止後の協調関係について
続いて,《H3》の供述調書(査146(6ないし8頁)),原告積水化成品北海道取締役営業部長の《L2》の供述調書(査151),アキレス断熱資材販売部販売二課主査の《G3》(以下「《G3》」という。)の各供述調書(査157(2ないし6頁),234(2ないし4頁),237(2ないし7頁),238(2ないし6頁))及び太陽工業国土環境エンジニアリングカンパニー大阪エリア長の《J5》の各供述調書(査233(2頁),236)においては,自社が詳細設計に協力した工事でないと判別することができた場合等に営業活動を自粛していたことについて,具体的な供述がされ,その供述に沿う内容の電子メール(査230)が存在するほか,《N》代表取締役社長の《N1》の各供述調書(査156,282(11,12頁))においては,詳細設計協力業者が他社に営業活動の自粛を求めた具体的な事例について供述がされ,その供述に沿う内容の電子メール(査148)が存在する。
また,カネカケンテック元従業員の《F6》(以下「《F6》」という。)の供述調書(査58(12ないし14,17ないし19頁)),ジェイエスピー第二事業本部特販部特販第二グループ主査の《D6》の供述調書(査139(2ないし6頁)),《F5》の供述調書(査152(8ないし10頁))及びダウ化工産業資材部課長の《H4》の各供述調書(査246(9ないし15頁),274)においては,材料部会会員事業者等の各営業担当者等の間で,受注の有無及び見積価格に関する連絡を取り合うなどして詳細設計協力業者が特定EPSブロックの受注をすることができるように協力した具体的な事例について供述がされ,その供述に沿う内容の電子メール等(査130,132,149,150,239ないし241,252ないし256,258,259)が存在する。
さらに,ダウ化工からEPSブロックの営業業務等を受託していた《O》(以下「《O》」という。)の供述調書(査27(10ないし12頁)),原告積水化成品工業第一事業本部土木資材事業部東京土木資材グループ主事の《E3》の供述調書(査52(3ないし16頁)),《F2》の供述調書(査56(5ないし8頁)),カネカケンテック北日本事業部営業部次長兼土木資材課長(技術担当)の《F7》の供述調書(査181(2ないし11頁)),ジェイエスピー札幌営業所土木資材グループグループ長の《D7》(以下「《D7》」という。)の供述調書(査293(5,6頁))及び《D2》の供述調書(査314(7ないし9頁))においては,詳細設計のやり直しがされたために異なる者が詳細設計協力を行った場合等に,最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注することを前提として,又はこれと矛盾しない形で,関与をした材料部会会員事業者等の間で,EPSブロックの納入につき配分が行われた具体的な事例について供述がされ,その供述に沿う内容の電子メール(査287ないし289,294ないし296,316)が存在する。
そうすると,本件審決で認定された,9社は,物件登録の廃止後も,自社が詳細設計協力をした物件については,当該物件を受注した建設業者に対する営業活動を積極的に行う一方,自社が詳細設計協力をした物件ではないと判別することができた場合等には営業活動の自粛等をすることで,詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注することができるように協力し合っていたものであり,9社が平成19年1月以降に,自社が詳細設計協力をしたことを根拠に他社に営業活動の自粛を求めた事例,見積価格に関する連絡を取り合うなどして詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注することができるように協力した事例,及び最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注するという前提の下に利益配分のための調整等を行った事例があったという事実については,実質的な証拠があると認められる。
エ 以上のとおり,いずれも実質的な証拠があると認められる前記アないしウの各認定事実にかんがみれば,9社がいずれも,遅くとも平成19年1月以降,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力する旨の意思を有し,本件合意が存在していたものと認定することは,合理的なものというべきである。そして,材料部会会員事業者等の間で最終的な合意がされた日時及び場所等を特定することができないものとしても,本件合意のようなインフォーマルな合意の成立を明確に認めるに足りる事実が証拠上認められないことはやむを得ない面があり,1月19日の広報委員会における材料部会会員事業者等の間での確認,同確認に沿った材料部会会員事業者等の実際の営業活動の事実が認められる以上,本件審決での認定が合理的なものであるという上記の判断を何ら左右するものではない。したがって,本件審決が認定した,遅くとも平成19年1月以降,9社の間に本件合意が存在していたという事実については,実質的な証拠があると認めることが相当である。
⑵ 原告らの主張に対する判断
ア 原告らは,EPS工法が徐々に普及するに連れて,物件登録を通じ,他社が既に設計協力を行っていることが判明した物件について営業活動を行わず,他の物件に対する営業に注力するという材料部会会員事業者等間での風潮は,平成16年当時は既に薄れており,少なくとも同年1月に物件登録が廃止された後は,上記風潮自体が存在しないことに疑いの余地はないから,物件登録の廃止前に材料部会会員事業者等がEPSブロックの受注について何らかの協調関係にあったとしても,このことは,本件合意が存在したことの根拠又は間接事実となるものではないと主張し,それに沿う《E1》の陳述(参考人審尋調書(参考人審尋速記録2,3頁),審A共6(15,16頁))が存在する。
しかし,材料部会会員事業者等の間で,物件登録の運用の変更又は物件登録を利用する方法の代替案の構築が問題となった平成15年12月下旬以降,原告積水化成品工業のEPSブロックの担当者間において,《E1》を中心として,物件登録の運用の変更等について検討がされることになったところ,その際に担当者間でやり取りがされた電子メールには,現行システムをできる限り長く維持することが必要(査201),現行ルールを遵守すべきであり,新たなルールの提案はジェイエスピー等のEPSブロックの自由競争による原料拡大戦略である(査202),現状のルール遵守が原告積水化成品工業にとって最も望ましく,その理由は,刈取主体になる傾向が顕著化し,価格下落,設計コストの元が取れなくなるからである(査204),原告積水化成品工業の場合は「後追いヤラレ」がほとんどになり,発注図面どころか,現場で図面を書き換えた者勝ちである(査205)等といった記載があること,さらに,これらの意見を受け,原告積水化成品工業が,1月19日の広報委員会において,最終図面のみによることは基本的に反対であり,EDO以外の組織を活用して現行システムを継続すべきであるという意見を述べていること(査224ないし226)からすれば,平成15年12月当時に材料部会会員事業者等の間でEPSブロックの受注についての協調関係が存在し,原告積水化成品工業にとって,当該協調関係をそのまま維持することが利益になると考えられていたことが明らかである。そうすると,《E1》の上記陳述の信用性を排斥し,平成16年1月当時を含めた物件登録の廃止前に,材料部会会員事業者等がEPSブロックの受注について協調関係にあったこと,当該事実を本件合意が存在したことの一つの根拠とすることは合理的なものである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ 原告らは,本件審決は,1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業が最終図面方式に反対したことを認定しながら,その事実を無視し,原告積水化成品工業がその反対を撤回し,最終的に最終図面方式に同意をしたという認定すら十分にしておらず,本件審決が採用した各供述調書は,《D1》の供述調書以外は1月19日の広報委員会に出席した者の供述調書ではなく,いずれの供述調書も,1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業が最終図面方式に同意したこと,及び当該同意に至る議論等の状況を述べるものではないから,本件合意の存在を認める実質的な証拠であるとはいえず,これらの状況を供述する供述調書が存在しないこと自体,原告積水化成品工業が最終図面方式に同意をしなかったことの証左であり,また,1月19日の広報委員会の出席者が作成したメモ及び電子メールには,本件合意が成立したと明確に記載したものはなく,その記載には,意味内容が不明確な点,実際の議論をそのまま反映していない点もあり,1月19日の広報委員会への出席者から事情聴取がされた様子もないのであって,他方,1月19日の広報委員会で確認された合意の内容及び議論の状況等が記載された議事録等は存在せず,本件合意の内容について社内で伝達,周知がされた痕跡すらないこと,1月19日の広報委員会から約2週間後の平成16年1月31日付けで,カネパールサービスが,カネカと連名で,カネカ文書を送付していることからすれば,1月19日の広報委員会において,材料部会会員事業者等の間で何らの合意も成立しなかったことが推認される等と主張し,1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業は最終図面方式に最後まで同意せず,結局,その後も含め,材料部会会員事業者等の間において,EPSブロックの販売等に関する協調について何らの合意はされていない等とする,《E1》の陳述(参考人審尋調書(参考人審尋速記録6ないし8頁),審A共6(19ないし21頁)),《D2》の陳述(参考人審尋調書(参考人審尋速記録4頁),審B共5(2頁))及び《F1》の陳述(審C共17(4,5頁))が存在する。
しかし,1月19日の広報委員会の議事の結果を受け,その翌日にその内容を報告するために《E2》が作成し,《E1》に送信した電子メール(査224)には,「※」を付した上,材料メーカーの意見として現行システムを廃止し,最終図面案にする意見が多いことから今後は報告なしとなり,全社とも協調するということで足並みは揃っている,現行システムは2月末まで使用する旨の記載があり,この内容は,1月19日の広報委員会の内容を記録した《G1》作成のメモ(査226)に記載された,最終図面を基本とし,月2回程度,状況確認,都度は担当者同士で調整,2月末をもってマークはやめて3月1日より上記にて運用とするという内容とも合致している。これらの記載は,1月19日の広報委員会において,出席した材料部会会員事業者等の間で,物件登録を廃止した平成16年3月以降,最終図面方式による協調関係,すなわち,本件合意の基本部分をなす,最終図面を作成した詳細設計協力業者がEPSブロックを優先して販売することができるものとし,互いに協力し合っていく旨が確認されたことを端的に示すものと解することができ(原告らは,《E2》作成の上記電子メールの記載中の「全社」を「原告積水化成品工業を除く全社」の趣旨であると主張するが,前後の記載からそのように解することは不自然との感を否めないし,《G1》作成のメモの内容に照らしても,同記載をそのような趣旨のものと認めることはできない。),しかも,これらの証拠は,1月19日の広報委員会の翌日に上司に報告をするために,又は同会の進行中に備忘のために作成されたと考えらえる信用性の高い証拠と評価することができる。そして,実際,1月19日の広報委員会の後,物件登録の廃止後の材料部会会員事業者等の間における協調関係について,広報委員会等において協議が継続された様子はない。
そうすると,上記電子メールやメモの各証拠の記載内容に反する《E1》等の各陳述の信用性を排斥し,上記各証拠及びそれらに記載された協調関係のルールが存在することに沿うEPSブロックの営業の実態及び各営業担当者等におけるEPSブロックの営業に対する認識を具体的に供述する各供述調書によって,1月19日の広報委員会において,材料部会会員事業者等の間で,平成16年2月末日をもって物件登録を廃止すること,及び物件登録の廃止後は,最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを優先して販売することができるものとし,互いに協力し合っていく旨が確認されたという事実を認定することが,合理的なものであることは明らかである。
そして,1月19日の広報委員会において,原告積水化成品工業の最終図面方式への同意,当該同意に至る議論等の状況を供述する供述調書が存在しないこと,1月19日の広報委員会で確認された合意の内容及び議論の状況等が記載された議事録が存在せず,本件合意の内容について社内で伝達,周知がされた痕跡がないこと,カネパールサービスが,カネカと連名で,平成16年1月31日付けのカネカ文書を送付していること,原告らの従業員が本件合意について述べる供述調書が存在しないこと等は,本件事案の内容及び物件登録の廃止に至った経緯等に照らせば,いずれも特段不自然なものということはできず,上記判断を左右するものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 原告らは,個別の調整行為等の認定の根拠とされた多数の供述調書は,1月19日の広報委員会に一切触れていない上,物件登録の廃止の前後で協調関係(合意)の内容が異なるはずであるのに,その点について言及する供述調書は皆無であって,これらの供述調書の大部分は,本件合意の成立あるいはその存在を認識していないのに,EPSブロック業者が経済合理性に基づく独自の判断により行動した結果,自然と同様の行動をとることになるという実態をもって,「協力」等と供述をするにすぎず,また,本件合意の内容に照らせば,個別の調整行為は特に必要ないはずで,それにもかかわらず個別調整が行われていることこそ,本件合意が存在しないことの証左にほかならないと主張する。
しかし,1月19日の広報委員会に参加していない,材料部会会員事業者等の各営業担当者の供述調書において,1月19日の広報委員会に触れていないことは不自然なものではないし,材料部会会員事業者等の間の協調関係は,物件登録の廃止の前後で,物件登録を利用するか,最終図面の作成によるかの差異があるだけで詳細設計協力業者がEPSブロックを受注するという基本的なルールに変更はないのであり,その点について言及する供述がないことも,あながち不自然なものともいえないから,これらの供述調書に信用性を認め,同供述調書の供述に基づいて事実を認定することは合理的である。また,前記⑴ウの材料部会会員事業者等の営業担当者が供述する個別調整の事例は,本件合意に基づく特定EPSブロックの販売を円滑に行うため,又は本件合意に基づく協力関係を実施しても,なお材料部会会員事業者等の間で調整が必要となる場合に,その調整の経緯等を供述するものであり,本件合意が存在することと何ら矛盾するものではないから,これらの個別調整が行われていることをもって,本件合意が存在しないことの証左であるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
2 争点2の不認識物件等が本件合意の対象か否かについて
⑴ 不認識物件について
ア 本件審決で認定された事実についての実質的な証拠の有無
前記1のとおり,遅くとも平成19年1月以降,9社の間に本件合意が存在していたという認定事実については,実質的な証拠があると認められるところ,本件合意の内容は,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力するというものであり,その協力の態様としては,例えば,自社が詳細設計協力をしていない物件についてはEPSブロックの受注を目指さず,当該物件につき見積りを求められた場合には高い見積価格を提示するなどし,受注予定者が受注をすることに協力したりすることとなる。そして,本件合意をすることにより,当該詳細設計協力業者は,少なくとも他の8社が,当該EPS工法採用工事に係る特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるため,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競合他社の存在を意識して販売価格を設定する必要がなく,需要者である建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得ることができることとなる。このような本件合意の内容及びその効果に照らせば,本件合意の実質的な意義は,他の8社が,特定EPSブロックの販売の段階で,当該特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるというところにあり,このことは,他の8社が当該EPS工法採用工事の存在を認識していたか,認識していなかったかにかかわるものではない。そうすると,本件合意は,不認識物件の場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から特段除外するものではなかったという本件審決における認定判断は,合理的なものであるから,同事実については,実質的な証拠があると認められる。
イ 原告らの主張に対する判断
原告らは,不認識物件を本件合意の対象とし,実質的な競争制限がされているとする本件審決の判断によれば,その論理的帰結として,材料部会会員事業者等は,不認識物件についてまで競争(作為)することを求められることとなり,①全国の膨大な盛土工事物件を調査し,その存在を把握し,EPS工法が採用されるか否かを確認した上,②EPS工法が採用されるのであれば,営業活動を行わなければならないという二重の作為義務が課されることとなるが,このような作為義務を観念することはできず,不認識物件について営業活動をしないことが独占禁止法違反と認められる余地はないから,本件合意は独占禁止法違反を構成することはなく,また,不認識物件については,物件の存在すら認識していない以上,いかなる意味でも,当該詳細設計協力業者を除く材料部会会員事業者等が,本件合意に「制約された意思決定を行うこと」はなく,「事業活動を事実上拘束する結果」を生じることもなく,その「協力」も観念し得ず,さらに,本件合意は受注調整を行うためのものであるところ,不認識物件について受注調整又は取決めを行う必要もないから,不認識物件については,本件合意と受注との間の因果関係も否定されると主張する。
しかし,本件合意の内容は,前記アのとおり,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力するというものであって,9社は,本件合意が存在することにより,他社が最終図面を作成した物件について,これを受注すべく積極的な把握に努めたり,営業活動をしたりすることを自制しているのであるから,結果的に不認識物件となった物件に対しても,本件合意に「制約された意思決定」を行っていたことは明らかであり,9社は,本件合意に従って自らの事業活動に歯止めをかけ,具体的には認識していない受注予定者の受注にも協力し,その受注をより容易にするという結果をもたらしているのであるから,本件合意により各社の「事業活動を事実上拘束する結果」となっていることも明らかであって,本件合意を「不当な取引制限」として規制することは,何ら原告らが主張するような二重の作為義務を課すことにはならない。
また,本件合意の趣旨は,受注予定者のみが特定EPSブロックの受注に向けた営業活動を行い,受注予定者以外の8社が営業活動をすることを自制しているという状況を作り出すことにあるから,不認識物件についても,各社が認識している物件と同様に,本件合意に「制約された意思決定」を行って「協力」するという状況が生じていて,各社の「事業活動を事実上拘束する結果」となっていること,その結果,本件合意の実質的な意義である,受注予定者以外の8社が,特定EPSブロックの販売の段階で,当該特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができる状況が実現していることは明らかである。
さらに,本件合意は,競合が生じた場合の具体的な受注調整をする前の段階で,競合が生じること自体を回避しようとするものであって,その性質上,具体的な受注調整を要しないものであることは明らかであるから,不認識物件について具体的な受注調整がされないが故に因果関係が否定されるなどということにはならない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
⑵ 独自工法採用物件について
ア 本件審決で認定された事実についての実質的な証拠の有無
(ア) 前記⑴アのとおり,9社は,本件合意が存在することにより,詳細設計協力業者が,他の8社が当該EPS工法採用工事に係る特定EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるため,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競業他社の存在を意識して販売価格を設定する必要はなく,需要者である建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得るのである。本件合意により当該詳細設計業者がこのような利益を享受することができるという状況は,不認識物件と同様に,いわゆる独自工法が採用されたか否かにより異なるところはないのであり,いわゆる独自工法が採用された場合でも,これにより特定EPSブロックの販売段階におけるEPSブロック業者間の競争がおよそ生じ得ないような客観的な状況がない限り,上記販売競争を避けて詳細設計協力業者が確実に受注することができるようにするために,特定EPSブロックを本件合意の対象に含める実益があると認められる。したがって,上記のような状況にある場合を除き,いわゆる独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックも本件合意の対象であると認めるのが相当であるという本件審決の認定判断は,合理的なものということができる。
(イ) そして,平成20年5月31日ないし平成22年5月30日当時,簡易壁体工法及びEPSのり面緑化工法には,いずれも複数の工法が存在したことは,当事者間に争いがない。
また,国土交通省北海道開発局釧路開発建設部次長の《P1》(以下「《P1》」という。)の供述調書(査330(9,14,15頁)),同省東北地方整備局仙台河川国道事務所工務第二課課長の《P2》(以下「《P2》」という。)の供述調書(査331)及び青森県県土整備部道路課企画・市町村道グループ主査の《Q》の供述調書(査338)においては,EPS工法採用工事を含めた土木工事の発注者側としては,複数の簡易壁体工法又はEPSのり面緑化工法の間に,安全性,工期,工事費等に大きな差異はなく,相互に代替性を有しており,通常,これらの間で特定の工法を指定することはないという供述がされているから,本件審決で認定された,EPS工法採用工事の発注者は,最終図面において簡易壁体工法等が採用されていた,又は特定の簡易壁体工法等を採用したと解される記載があったとしても,通常は,安全性及び工期に影響がなければ,当該最終図面に記載された特定の簡易壁体工法等であることにこだわりを有しておらず,当該工事を受注した建設業者において,他の簡易壁体工法等に設計変更して当該工事を施工することは問題ないと考えていたという事実については,実質的な証拠があると認められる。
さらに,《D2》の供述調書(査54(9頁)),《G3》の供述調書(査315)及び《H3》の供述調書(査327(7ないし10,18ないし20頁))においては,他社の簡易壁体工法が採用された物件でも,建設業者及び発注者が応じるのであれば,自社の簡易壁体工法又は従来型のH型鋼を支柱に用いる従来工法の採用をすることも可能であり,設計図面の書き換えも大きな手間がかかるものではないという供述がされている。そうすると,本件審決で認定された,EPSブロック業者も,建設業者が設計変更して工事を施工する意向をもち,発注者に設計変更が認められれば,当該特定の工法以外の簡易壁体工法等やH型鋼を支柱に用いる工法に設計変更して,当該工事を施工することは可能であると考えていたという事実については,実質的な証拠があると認められる。
そして,《F4》の供述調書(査313(2ないし11頁)),《D2》の供述調書(査314(2ないし7頁))及び《P1》の供述調書(査330(8ないし13頁))においては,特定のEPSブロック業者の簡易壁体工法を採用した工事が発注された後,設計変更が行われ,他社の異なる簡易壁体工法により当該者のEPSブロックが販売されることとなったという具体的な事例について供述がされ,それに沿う電子メール等が添付等されており(査313,319),また,《H3》の供述調書(査327(10ないし20頁))及び《P2》の供述調書(査331(2ないし15頁))においては,詳細設計協力業者が自社の簡易壁体工法を織り込んだEPSブロック図面を作成したが,当該部分に設計変更手続をすることなく,これと異なる他社の簡易壁体工法で施工された具体的な事例について供述がされている。そうすると,本件審決で認定された,特定のEPSブロック業者の独自工法を採用した工事が発注された後,設計変更が行われ,他社がその工事に使用されるEPSブロックを販売することとなった事例,詳細設計協力業者が自社の簡易壁体工法を織り込んだEPSブロック図面を作成したが,設計変更手続をすることなく,これと異なる簡易壁体工法で施工された事例が存在するという事実については,実質的な証拠があると認められる。
(ウ) 前記(イ)の事情によれば,仮に独自工法とその他の同種工法との間に一定の差異が存在したとしても,各独自工法が,他の独自工法や通常のEPS工法と比較して,安全性,工期,工事費等の面で,他社の営業努力によっては補い切れないような優位性を有していたとまで評価することはできず,特定EPSブロックの販売競争の可能性を消滅させるほどの独自性があったとは認め難いという本件審決の認定は,合理的なものというべきであり,9社の営業担当者の供述調書その他の証拠をみても,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から除外していることをうかがわせる記載等は存在しないことを併せ考慮すると,本件合意は,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から特段除外するものではなかったという本件審決が認定した事実については,実質的な証拠があると認められる。
イ 原告らの主張に対する判断
原告らは,ソイレングリーンユニット工法及びラムダパネル工法などの各社の独自工法が詳細設計に組み込まれた場合に,当該独自工法を有する詳細設計協力業者がEPSブロックを受注することができていたのは,当該詳細設計協力業者以外の材料部会会員事業者等にとって,他社の独自工法を自社の独自工法に置き換えることを含めた設計変更に対応することが難しく,変更に多くの時間と労力を要するほか,技術面及び安全面のリスクを抱えるため,当該物件を獲得することが通常の場合より一層困難であるという実態によるものであって,本件合意の存在とは無関係であり,本件審決が引用するわずか数例の代替工法への変更をもって,本件合意が存在するために詳細設計協力業者が受注を得られるとするのは論理に飛躍があると主張する。
しかし,詳細設計に組み込まれた独自工法を他の独自工法に置き換えることについて,設計変更に一定の時間と労力を要し,技術面及び安全面の観点から慎重な判断を要する場合があるとしても,前記ア(イ)のとおり,EPS工法採用工事の発注者は,最終図面において簡易壁体工法等が採用されていた等としても,通常は,安全性及び工期に影響がなければ,特定の簡易壁体工法等であることにこだわりを有していないこと,当該工事を受注した建設業者においても,他の簡易壁体工法等に設計変更して当該工事を施工することは問題ないと考えていたこと,EPSブロック業者も,建設業者が設計変更して工事を施工する意向をもち,発注者に設計変更が認められれば,当該特定の工法以外の簡易壁体工法等やH型鋼を支柱に用いる工法に設計変更して,当該工事を施工することは可能であると考えていたこと,実際,特定のEPSブロック業者の独自工法を採用した工事が発注された後,設計変更が行われ,他社がその工事に使用されるEPSブロックを販売することとなった事例,詳細設計協力業者が自社の簡易壁体工法を織り込んだEPSブロック図面を作成したが,設計変更手続をすることなく,これと異なる簡易壁体工法で施工された事例が存在することからすれば,各社の独自工法が,当該工法が採用された以上,特定EPSブロックの販売段階におけるEPSブロック業者間の競争がおよそ生じ得ないといえるほどの優位性を有していたとまで評価することはできず,ソイレングリーンユニット工法及びラムダパネル工法について,このような優位性を有していたことを認めるに足りる証拠もない。本件審決が認定する代替工法へ変更された事例について,その変更が各社の独自工法に違いがない,又はその違いが小さなものにとどまる特異な工事案件であったと認めることもできないのであり,本件審決で認定された代替工法への変更が数例であるとしても,発注者側の認識等と併せ考慮すると,本件合意が,独自工法が採用された場合に係る特定EPSブロックを本件合意の対象から特段除外するものではなかったという本件審決の認定判断が合理的であることを,左右するものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
⑶ 《C》物件について
ア 本件審決で認定された事実についての実質的な証拠の有無
①《K1》の供述調書(査57(20,21頁))においては,《K1》が,自社が設計協力をしていた物件につき建設業者に対する特定EPSブロックの営業活動をしていた《C》に対し,自社が設計協力をした物件なので,それ以上営業をしないように申し入れ,当該営業から手を引いてもらったという具体的な事例について供述がされ,また,②《F6》の供述調書(査58(19,20頁))においては,《F6》が,建設会社から原告積水化成品工業が詳細設計をしたと判断される物件に関してEPSブロックの見積依頼を受けた際,《C》に対し,提示すべき見積価格を照会したという具体的な事例について供述がされるとともに,それに沿う《C》の担当者宛ての書類送付状が添付され,さらに,③太陽工業九州支店長の《J6》の供述調書(査247(3ないし6頁))においては,同人は,平成12年頃,《C》の担当者から,原告積水化成品工業が設計協力をした物件につき安い見積価格を提出したことについてクレームを付けられたという具体的な事例について供述がされ,加えて,④《F2》の供述調書(査272(2ないし4頁))においては,《F2》が,《C》から,EPSブロックの自社による受注について,原告積水化成品工業がスペックした物件だと文句を言われ,原告積水化成品工業を商流に入れることで対応したという具体的事例について供述がされるとともに,それに沿う電子メールが添付されている。そうすると,本件審判で認定された,《C》は,本件合意の存在を認識していたことがうかがわれるという事実は,実質的な証拠があると認められ,また,当該認定事実に基づき,《C》が本件合意と関係なく独自の判断で詳細設計協力業者に発注していたとは認められないという認定も,合理的なものということができるから,実質的な証拠があると認められる。
イ 原告らの主張に対する判断
原告らは,建設資材商社である《C》は,《C》独自の判断により詳細設計協力業者からEPSブロックを購入しているから,《C》が商流に加わった物件は,本件合意の対象とは認められないのであり,本件審決が,《C》の《C1》による,設計協力をしていないEPSブロック業者に見積りを依頼すると,図面を書き直す必要があるから,設計協力をしていないEPSブロック業者に見積りの依頼を行うことはあり得ない等という供述を無視したことは,重大な誤りであると主張する。
しかし,前記アで供述されている具体的な事例からすると,《C》は,少なくとも平成12年の段階で本件合意の存在を認識し,それに沿って他の事業者の営業活動を制約する営業活動をしているから,本件合意を忠実に履行する形でEPSブロックの販売に関与していたとうかがわれる考えるのが自然であり,設計協力をしていないEPSブロック業者に見積りを依頼すると,図面を書き直す必要があるから,設計協力をしていないEPSブロック業者に見積りの依頼を行うことはあり得ないという《C1》の供述(査123(4頁))等を,額面どおりに受けとることは困難である。そうすると,《C1》の上記供述の信用性を排斥し,《C》が本件合意と関係なく独自の判断で詳細設計協力業者に発注をしていたとは認められないとした本件審決の認定判断は,合理的なものというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
3 争点3の本件合意が「公共の利益に反し」,又は「競争を実質的に制限する」と認められないものであるか否かについて
⑴ 本件審決で認定された事実についての実質的な証拠の有無
前記2⑴アのとおり,遅くとも平成19年1月以降,9社の間に本件合意が存在していたという認定事実については,実質的な証拠があると認められるところ,本件合意の内容は,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注することができるように協力するというものであり,その協力の態様としては,例えば,自社が詳細設計協力をしていない物件についてはEPSブロックの受注を目指さず,当該物件につき見積りを求められた場合には高い見積価格を提示するなどし,受注予定者が受注をすることに協力したりすることとなる。そして,本件合意をすることにより,当該詳細設計協力業者は,少なくとも他の8社が,当該EPSブロックの受注を目指して競争的な営業活動を行うことはないと期待することができるため,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競合他社の存在を意識して販売価格を設定する必要がなく,需要者である建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得ることができることとなる。
そうすると,本件審決において認定された,このような取決めは,本来的には自由に特定EPSブロックの受注活動を行うことができるはずの9社が,これに制約された意思決定を行うことになるという意味において,各社の事業活動が事実上拘束される結果となるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を,また,本件合意の成立により,9社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し,認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,同項にいう「共同して・・・相互に」の要件を,それぞれ充足し,さらに,本件合意は,特定EPSブロックの販売に係るものであるところ,9社は,特定EPSのほとんど全てを受注していたことからすれば,本件合意により,9社がその意思で特定EPSブロックの販売分野における販売者及び販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたと認められるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足し,以上のような本件合意が,独占禁止法2条6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであるとした判断が,合理的なものであることは明らかである。
なお,上記判断中の「9社は,特定EPSブロックのほとんど全てを受注していた」という事実については,《O》の供述調書(査27(9,10頁)),《G3》の供述調書(査143(5,6頁)),《J3》の供述調書(査169(7,8頁))及び太陽工業札幌営業所長の《J7》の供述調書(査277(7頁))において,自社が最終図面を作成するなど詳細設計協力をした物件に関しては,そのほとんど全てにつきEPSブロックの受注をすることができる一方,自社が詳細設計協力をしていない物件に関しては,例外を除く全てにつきEPSブロックを受注していない旨の供述がされており,これらの供述に照らせば,9社は,本件合意の存在及び各営業担当者等が本件合意に従った営業活動をすることにより,特定EPSブロックについて,そのほとんど全てを受注していたと推認することは合理的であるから,実質的な証拠があると認められる。
⑵ 原告らの主張に対する判断
ア 原告らは,本件合意の対象は,どこで発注されているかも不明な,工事規模も様々で,何らの限定もない「EPS工法採用工事」であるため,対象となる「取引」の範囲が非常に広範であり,本件合意のみで,個別の調整行為を要さずに「不当な取引制限」を構成するとすれば,9社にとって予測可能性が全く欠ける範囲についてまで独占禁止法違反とされかねず,また,本件合意に関して「あるべき競争状態」を観念しようとすると,「EPS工法が採用された日本全国の工事について,遍く,受注に向けた営業活動を行うこと」となるから,原告らに対して無理を強いるに等しく,極めて不合理であるから,本件合意は,対象工事及び競争業者の範囲等が無制限で,その合意内容があまりにも広範に過ぎるから,そもそも「不当な取引制限」の要件を満たさないと主張する。
しかし,本件合意の対象がEPS工法採用工事であるからといって,対象となる「取引」の範囲が直ちに広範囲に過ぎるなどということはできず,9社にとっては,本件合意の対象がEPS工法採用工事であること自体は自明であり,また,課徴金の算定の観点からも,自らが最終図面の作成を含めた詳細設計を行ったEPS工法採用工事について,特定EPSブロックの受注を受けた工事が対象となるだけであるから,本件合意が「不当な取引制限」を構成するとされたとしても,原告らの予測可能性を害するものともいえず,不当なものともいえない。また,本件合意に関して「あるべき競争状態」を観念しようとすれば,その状態は,「EPSブロック業者が,他のEPSブロック業者が最終図面を作成したか否かにかかわらず,自らの自由な判断により,当該EPS工法採用工事のEPSブロックの受注に向けた営業活動をするか否か,受注をするか否かを決定して事業活動を行わなければならない」ということになるだけであるから,原告らに対して無理を強いるに等しいわけでもなく,また,極めて不合理なものでもない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ また,原告らは,EPSブロックの取引における主要な競争要素は,詳細設計業務の品質の優劣という設計協力段階にあり,かつ,設計協力の獲得の段階で現に熾烈な競争がされている以上,受注段階において,詳細設計協力の結果として当該詳細設計協力業者が受注を獲得する実態が生じ,事実上,競争がされないとしても,これをもって「公共の利益に反し」,又は「競争を実質的に制限する」とは評価し得ず,また,EPSブロックの取引においては,詳細設計段階において,詳細設計協力業者が費用と労力を投じて詳細設計を行っているところ,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者が当該案件を受注するとなると,詳細設計をやり直すこととなるから,元々の詳細設計は無駄となり,他方,前業者は,無駄となった費用を他に賦課せざるを得なくなり,効率的な資源の分配にマイナスの影響を生じさせ,公共の利益に反するものとなるから,本件合意が不当な取引制限に当たるとは認められないと主張する。
しかし,前記⑴のとおり,9社は,本件合意をすることにより,特定EPSブロックを確実に受注することができ,受注価格の面でも,競合他社の存在を意識して販売価格を設定する必要がなく,需要者である建設業者等との交渉を有利に進めることが可能となるという利益を得ることができることとなり,それにより特定EPSブロックの販売段階において,いわゆる価格競争が十分に働かない結果となっていることが明らかである。このことは,設計協力の段階で現に熾烈な競争がされているか否かにより異なるものではないから,仮に9社の間で設計協力の段階で熾烈な競争がされていたとしても,これをもって「公共の利益に反し」,又は「競争を実質的に制限する」とは評価し得ないなどということはできない。
また,EPSブロックの取引において,詳細設計段階において,無償で,詳細設計協力業者が費用と労力を投じて詳細設計を行っている結果,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者が当該案件を受注するとなると,元々の詳細設計が無駄となり,他方,前業者は,無駄となった費用を他に賦課せざるを得なくなるとしても,これをもって,効率的な資源の分配にマイナスの影響を生じさせ,公共の利益に反するなどといえないことも明らかである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
4 結論
以上によれば,本件合意が存在すること,不認識物件,独自工法採用物件及び《C》物件が本件合意の対象であること,並びに本件合意により競争が実質的に制限され,本件違反行為が独占禁止法2条6項に該当することについて実質的証拠があると認められるから,本件審決の取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がない。
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

平成30年3月23日

裁判長裁判官 大段亨     
裁判官 小林元二     
裁判官 河村浩     
裁判官 西村英樹     
裁判官 松本 真

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