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カネカケンテック㈱ほか1名による審決取消請求事件

独禁法3条後段・独禁法7条の2

東京高等裁判所

平成29年(行ケ)第4号 

判決

平成30年4月20日

東京都千代田区内幸町1丁目3番3号
原告 カネカケンテック株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
大阪市西区江戸堀1丁目10番8号
原告 カネカフォームプラスチックス株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
上記両名訴訟代理人弁護士 茂木龍平
同 長澤哲也
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 横手哲二
同 榎本勤也
同 堤 優子
同 黒江 那津子
同 津田和孝
同 栗谷康正

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
公正取引委員会平成25年(判)第1ないし第9号審判事件について,被告が平成29年2月8日付けで原告らに対してした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
 1 用語
   別紙の用語欄記載の用語は,同定義欄記載の意味で用いる。
   会社の商号中の「株式会社」の記載は,初出のもの以外は省略する。
 2 本件審決に係る手続経過
(本件については,平成25年法律第100号附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律が適用される。以下,これを単に「独占禁止法」という。)
⑴ 被告は,原告ら,積水化成品工業株式会社,株式会社積水化成品北海道,株式会社ジェイエスピー,ダウ化工株式会社,太陽工業株式会社,アキレス株式会社及び北海道カネパール株式会社(以下「本件9社」という。)が特定EPSブロックについて独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に該当する行為を行っていたとして(以下「本件違反行為」という。),平成24年9月24日,本件9社のうち事業承継に伴いEPSブロックに係る事業を既に営んでいなかった原告カネカフォームプラスチック及び北海道カネパールを除く7社に排除措置を命じ(平成24年(措)第8号),北海道カネパールを除く8社に課徴金の納付を命じた。このうち後記審判請求をした5社の課徴金の額等は以下のとおりである。
      (会社)              (事件番号)        (課徴金の額)
   ア 積水化成品工業          平成24年(納)第11号    7618万円
   イ 積水化成品北海道            同第17号         649万円
   ウ ジェイエスピー             同第13号        2740万円
   エ 原告カネカケンテック          同第18号         349万円
   オ 原告カネカフォームプラスチックス    同第14号        2524万円
⑵ 上記5社は,上記排除措置命令及び課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をした(平成25年(判)第1~第9号)。なお,ダウ化工,太陽工業及びアキレスからの審判請求はなく,この関係は確定した。
⑶ 上記審判事件は併合審理されることとなり,全15回にわたる審判期日が開かれ,参考人審尋等の手続が行われた。被告は,平成29年2月8日,審判官作成の審決案に基づく審決(このうち原告らに係る部分が本件審決)をした。その審決書謄本は同日原告らに送達された。
⑷ これに対し,原告らが本件審決を不服としてその取消しを求めて出訴したのが本件である。なお,積水化成品工業及び積水化成品北海道も,別途,上記審決の取消しを求めて出訴している(当庁平成29年(行ケ)第3号)。
3 本件審決の認定判断の要旨
⑴ 本件審決が認定した事実関係の要旨は,以下のとおりである。
ア 発泡スチロールブロックを用いた軽量盛土技術は,昭和60年6月に民間企業によってノルウェーから技術導入され,EPS工法と命名された。そして,EPS工法を確立するため,昭和61年6月25日,任意の事業者団体であるEDOが設立された。その後,EDOにおいてEPS工法の普及活動が行われ,平成14年5月にはEDOによりEPS工法基準書が作成され公表された。この間,EPS工法の施工実績は拡大していき,EDO材料部会会員事業者等は,一定の規格に従ったEPSブロックについて,それぞれブランド名を付して製造販売していた。
イ 官公庁等が軟弱地盤上の盛土等の土木工事を発注する場合,建設コンサルタント業者に対し,どの工法を採用するかを決めるための概略設計を依頼し,当該建設コンサルタント業者は,EPSブロック業者又は他工法のメーカーの協力を求めるのが通常である。EPSブロック業者は,EPS工法が採用されるようにするため,建設コンサルタント業者に概略設計協力の申出を行い,作成した関係資料を無償で提供する。そして,発注者がEPS工法の採用を決めると,発注者から建設コンサルタント業者に対し,工事の具体的内容を決める詳細設計を依頼し,当該建設コンサルタント業者はEPSブロック業者に詳細設計への協力を求めるのが通常である。EPSブロック業者は,設計図書のうちEPSブロックの使用に係る部分の図面を作成し,これを無償で提供する。
ウ EDO材料部会会員事業者等は,遅くとも平成2年4月以降,建設コンサルタント業者から設計協力の依頼を受けた場合等に,その物件の情報をEDOの事務局に連絡し,物件情報をデータベース化していた(以下,その仕組みを「物件登録」という。)。
エ EDO材料部会の会員の間では,設計業務に協力したEPSブロック業者が「頑張った業者」,「汗をかいた業者」であり,設計業務への協力に要した費用等を回収する意味からも,他の業者に優先して当該設計に係る工事に使用されるEPSブロックを販売すべきであると考えられるようになった。そして,物件登録情報は,そのような自社の権利を主張するための根拠として利用されていた。
オ 平成15年末頃,原告カネカフォームプラスチックスの代表取締役社長であった《A1》は,親会社である株式会社カネカが価格カルテル事件で調査を受けたことを契機に,独占禁止法に違反する懸念のある物件登録をやめるよう社内に指示を出した。そのため,原告カネカフォームプラスチックスの土木営業本部東日本営業部長兼東京技術課長であった《A2》(以下「《A2》」という。)は,ジェイエスピーの土木資材部グループ長であった《B1》(以下「《B1》」という。),積水化成品工業の建設資材事業部副部長であった《C1》(以下「《C1》」という。)らと相談し,平成16年1月7日及び同月19日のEDO材料部会広報委員会においてこの問題が議論された。
カ その結果,同年2月末をもって物件登録は廃止するものとされたが,その後の受注調整の方法として,最終図面方式(最終図面を作成した詳細設計協力業者が特定EPSブロックを販売することとし,各社がこれに協力し合う方式)によることを確認した。
キ 本件9社は,物件登録の廃止後も,自社が詳細設計に協力した工事については,特定EPSブロックを確実に受注するため,当該工事を受注した建設業者に対する営業活動を積極的に行う一方,それ以外の工事については営業活動を行わないようにすることにより,詳細設計協力業者が特定EPSブロックを受注できるように協力していた。
ク 以上の経緯の下,遅くとも平成19年1月以降,本件9社の間には,特定EPSブロックについて,詳細設計協力業者のうち最終図面を作成した者を受注予定者とし,それ以外の者は受注予定者が受注できるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)が存在した。
ケ 原告カネカフォームプラスチックスは,平成22年10月1日,吸収分割によりEPSブロックに係る事業を原告カネカケンテックに承継させた(以下「本件吸収分割」という。)。原告カネカフォームプラスチックスは,同日以降,本件違反行為を行っていない。
コ 被告は,平成23年5月31日,本件違反行為に関する立入検査を行った。原告カネカケンテックは,同日以降,本件違反行為を行っていない。
⑵ 上記事実に基づく本件審決の判断の要旨は,以下のとおりである。
 ア 排除措置命令について
本件合意は,独占禁止法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反する。原告らに対する本件違反行為の排除措置命令は,同法7条2項所定の必要性が認められ,相当である。
 イ 課徴金納付命令について
(ア) 本件違反行為は,独占禁止法7条の2第1項2号ハに規定する,商品について取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものである。
(イ) 課徴金の基礎となる実行期間は,原告カネカフォームプラスチックスが平成19年10月1日から平成22年9月30日まで(本件吸収分割の日の前日から遡る3年間),原告カネカケンテックが平成22年10月1日から平成23年5月30日まで(本件吸収分割の日から上記⑴コの前日まで)となる。
(ウ) この実行期間における売上額(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令5条1項の規定に基づいて算定した額)は,原告カネカフォームプラスチックスが25億2448万3755円,原告カネカケンテックが3億4919万9497円であり,これに独占禁止法7条の2第5項2号所定の軽減後の卸売業に係る算定率100分の1を乗じ,同条23項に従って端数処理をした金額は,原告カネカフォームプラスチックスが2524万円,原告カネカケンテックが349万円である。よって,原告らに対して同額の課徴金納付を命じた課徴金納付命令は相当である。
4 原告らの主張
⑴ 本件合意の不存在(争点1)
ア EPSブロック業者が自ら設計協力を行っていない物件の営業に消極的で,詳細設計に協力したEPSブロック業者が物件を受注することが多いという実態が存在するのは事実であるが,その理由は,以下に述べるとおり,設計協力を行ったことによる技術的・経済的優位性によるものであり,本件合意によるものではない。
すなわち,詳細設計において想定されていない問題が施工段階で発生した場合でも,詳細設計協力業者は現場の状況に関する情報を豊富に有しているため迅速的確に対応することができるが,設計協力を行っていない業者に十分な対応は期待できない。建設業者はこのようなメリットを考慮して詳細設計協力業者にEPSブロックを発注することが多かった。また,EPSブロック業者においても,詳細設計の内容には各業者によって独自のノウハウとポリシーがある。そして,EPSブロック業者の役割には設計施工の側面があり,他社が設計協力した物件を受注した場合,設計についての一定の責任を負わざるを得ないため,再設計しようとしても,設計協力を行っていないEPSブロック業者が現場の物件情報を把握することは容易でなく,再設計を行うには困難を伴うことが多い。また,設計協力業者は,様々な営業情報の面でも他の業者よりも有利な地位を占めており,設計協力を行っていないEPSブロック業者は,わざわざ受注の可能性の低い物件情報を入手して,設計協力業者以上の営業を行う経済的なメリットを見いだせないのである。
イ 本件審決は,本件合意の認定根拠として,①EDO材料部会会員事業者等は,物件登録が行われるようになった以降,EPSブロックの受注について協調関係にあったこと(根拠①),②平成16年1月の広報委員会において物件登録の廃止が決定された後は,最終図面を作成した詳細設計協力業者がEPSブロックを優先的に受注できるよう相互に協力し合っていくことが確認されたこと(根拠②),③平成19年1月以降,本件9社が本件合意に基づいて調整行為等を行ったことを示す個別事例が多数存在すること(根拠③)を挙げるが,以下に述べるとおり,いずれも本件合意の認定根拠たり得ないか,あるいはそのような事実を認定するに足りる実質的証拠を欠いている。
(ア) 根拠①(物件登録下での協調関係の存在)について
確かに,後発技術であるEPS工法を普及させ工法として確立・浸透させるため,まずは1つでも多くEPS工法の需要を創出することが重要であったことから,EPSブロック業者は,物件登録制度を通じて,他社が既に営業活動(設計協力)を行っていることが判明した物件については,あえて重複して営業活動を行わず,別の物件に対する営業に注力するという風潮・実態が形成されていったこと自体は事実である。しかし,そのような風潮自体,平成16年頃までには既に薄れていた上,前提となっていた物件登録が廃止されている以上,根拠①は,その後の時期に本件合意が存在したことの根拠となるものではない。
(イ) 根拠②(平成16年1月の広報委員会での合意)について
平成16年1月7日及び同月19日の広報委員会において,物件登録の廃止が決定されたこと,これに代わる新たなルールとして,ジェイエスピーから最終図面方式の提案があったことは確かである。しかし,EPSブロック業界のトップシェアを誇っていた積水化成品工業の《C1》は,最終図面方式の背景には,積水化成品工業のシェアを奪う別の思惑があるのではないか,例えば,他社の設計図面に本来必要のない書き換えをして,形ばかりの最終図面設計者として優先権を主張するような営業手法にその狙いがあるのではないかという懐疑的な考えを有しており,最終図面方式には一貫して反対意見を述べていた。積水化成品工業がこの立場を翻して最終図面方式に同意するに至ったという証拠はないし,本件審決もそのような証拠を示していない。このほかにも,上記広報委員会で本件合意が形成されたことを根拠づける実質的証拠はない。
(ウ) 根拠③(本件合意に基づく調整行為等を示す個別事例)について
本件審決は,多数の供述調書に基づく個別物件の調整行為等を挙げているが,これらの供述調書の大部分は,本件合意とは関係なく,EPSブロック業者としての経済合理性に基づく独自の行動をとった結果を供述するものにすぎない。そもそも,本件合意を前提にすれば個別の調整行為など必要ないはずであり,個別調整が行われていることこそ,本件合意が存在しないことの証左にほかならない。
ウ 本件審決は,本件合意の存在を否定する参考人ら(積水化成品工業の《C1》,原告カネカケンテックの《A2》,ジェイエスピーの《B1》)の陳述を排斥しているが,十分な分析・検討を経ていないずさんな認定である。
⑵ 本件合意の「不当な取引制限」該当性(争点2)
 ア 事実認定の誤り
本件合意は,対象工事及び競争事業者の範囲等が無限定であり,入札談合などと比較してその合意内容があまりに広汎にすぎ,「競争を実質的に制限」するものとはいえない。すなわち,本件合意に関して「あるべき競争状態」を観念しようとすると,不認識物件(受注したEPSブロック業者以外のEPSブロック業者が当該工事の存在を認識していない工事をいう。以下同じ。)についてまで競争を強制される結果となり,その不合理さが浮き彫りとなる。
 イ 法令解釈の誤り
EPSブロックには,D型(型内発泡法により製造)とDX型(押し出し発泡法により製造)とがあるが,いずれも他の用途にも使用される成熟製品,汎用品であって,製造業者間で品質・価格に大きな差異はない。特定EPSブロックにおいて,主要な競争要素は,EPSブロックそのものではなく,設計(納入後の設計変更への対応,会計検査院への対応等を含む。)であり,詳細設計業務はEPSブロックそのものと一体として商品を成している。そして,建設コンサルタント業者による詳細設計協力業者の選定において,上記の主要な競争要素について,EPSブロック業者間の競争が行われる。
そして,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者も含めて納入段階で改めて競争することとしても,資源の効率的な分配に資するような競争促進効果は認められず,むしろプロセス全体の競争上の評価からして,本件合意は資源の効率的分配に資するものといえる。
よって,本件合意があったとしても,「公共の利益に反し」又は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件が欠けるため,不当な取引制限に該当しない。
⑶ 本件合意の対象外の物件の課徴金算定からの除外(争点3)
ア 不認識物件について
盛土工事は全国で膨大な件数が実施されているが,各工事物件でEPS工法が採用されているかどうかは調査をしなければ分からないし,地域等に限定はなく規模も大小様々である。このような実態から,他のEPSブロック業者に知られることなく,特定のEPSブロック業者だけが営業を行い受注に至る不認識物件が多数存在している。
本件審決は,このようなものについてまで実質的な競争制限がされていると判断するが,これは,EPSブロック業者は全国の膨大な盛土工事案件の調査をしてEPS工法採用の有無を確かめ,EPS工法採用工事であれば営業活動を行わなければならないという机上の空論をいうものにすぎない。
不認識物件まで違反の対象とする本件審決の判断は誤りであり,課徴金算定の対象から除かれるべきである。
イ 《D株式会社》関係物件について
本件審決は,《D株式会社》が商流に入った物件まで違反の対象としているが,建築資材商社である《D株式会社》は,同社の独自の判断により詳細設計協力業者から特定EPSブロックを購入しているのであり,本件合意と発注との間に因果関係はない。
5 被告の主張
⑴ 争点1(本件合意の不存在)について
ア 原告らは,詳細設計協力会社が物件を受注することが多いのは,設計協力を行ったことによる技術的・経済的優位性によるものにすぎない旨主張する。しかし,建設業者の判断として詳細設計協力業者からEPSブロックを購入すべきであるなどと考えていたわけではなく,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者からの調達を建設資材商社に依頼しても断られてしまうなど,本件合意の存在が建設業者の判断に影響を与えていたものである。また,EPSブロック業者の側でも,詳細設計協力業者以外のEPSブロック業者が受注しても,常に設計変更が必要となるわけではなく,また,物件情報を入手すること自体が困難であるともいえない。本件9社が自ら設計協力を行っていない物件の受注に消極的だったのは,本件合意が存在したからにほかならない。
イ 原告らは,本件審決が本件合意を認定した根拠①(物件登録下での協調関係の存在)は,その後の時期に本件合意が存在したことの根拠となるものではないと主張するが,物件登録が廃止された平成16年当時にも材料部会会員事業者等の協調関係は存在しており,その後も最終図面方式により互いに協力し合っていくことが確認されたのであり,原告らの主張は理由がない。
ウ 原告らは,本件審決が本件合意を認定した根拠②(平成16年1月の広報委員会での合意)は実質的証拠に欠けると主張するが,査21(ジェイエスピーの《B2》の供述),査165(ダウ化工の《E1》の供述),査224~226(積水化成品工業の《C2》のメモ等)等が実質的な証拠といえる。
エ 原告らは,本件審決が本件合意を認定した根拠③(本件合意に基づく調整行為等を示す個別事例)は本件合意の存在を示すものではないと主張する。しかし,本件審決の認定する個別事例における本件9社間の調整行為は,受注調整に関する何らかの協調関係がなければあり得ない事実であり,また,本件合意の存在を前提としても調整行為の必要がないとはいえず,原告らの主張は失当である。
オ 参考人らの陳述を排斥した理由は,本件審決に示されているとおりであり,十分な根拠がある。
⑵ 争点2(本件合意の「不当な取引制限」該当性)について
ア 原告らは,本件審決によると不認識物件についてまで競争を強制される結果となる旨主張するが,本件合意を規制することは,原告らの主張するような作為義務を課すものではない。
イ 原告らは,詳細設計業務はEPSブロックそのものと一体として商品を成しており,建設コンサルタント業者による詳細設計協力業者の選定において実質的な競争が行われる旨主張する。しかし,本件で問題となっている特定EPSブロックの販売取引は,EPSブロックを対象としたものであり,詳細設計業務役務を対象としたものではない。また,その最終的な需要者は建設業者であって,設計業務を担う建設コンサルタント業者ではない。原告らの主張は,EPSブロックの販売取引が詳細設計業務と一体として商品を成しているという前提において失当である。また,この点の原告らの主張を前提としても,本件合意による効率的な資源の配分など期待できない。
⑶ 争点3(本件合意の対象外の物件の課微金算定からの除外)について
ア 原告らは,不認識物件は本件合意の対象外であると主張するが,本件合意が複数のEPSブロック業者間の競合が現実に生じた場合に限定すべき証拠はなく,不認識物件を除外するものではなかったというべきである。
イ 原告らは,《D株式会社》関係物件については,同社の独自の判断により詳細設計協力業者から特定EPSブロックを購入しているから本件合意の対象外であると主張する。しかし,《D株式会社》が本件合意と関係なく独自の判断で詳細設計協力業者に発注していたとは認められず,むしろ本件合意の存在を認識し,これを是認していたと認められる。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件合意の不存在)について
⑴ 原告らは,詳細設計協力業者が物件を受注することが多いのは,設計協力を行ったことによる技術的・経済的優位性によるものであり,本件合意によるものではないと主張する。
ア しかし,EPSブロックの調達業務に関わった経験のある複数の建設業者の関係者は,設計協力をしたかどうかではなく安く調達できる材料メーカーを選定したいと思っていたとか,詳細設計協力業者以外の業者からEPSブロックを調達しようとして建設資材商社に依頼しても,詳細設計の図面を作成した業者と異なる業者から仕入れるのは無理であると断られたといった趣旨の供述をしており(《F株式会社》購買部部長《F1》の供述調書ほか。査82~86),これに沿う供述は多数存在する(《G株式会社》代表取締役社長《G1》の供述調書ほか。査87~99,101~122,129)。詳細設計協力業者には,他の業者と比較して,設計協力を行ったことによる技術的・経済的優位性が事実として存在することは否定できないにせよ,上記のような供述に照らすと,詳細設計協力業者が物件を受注することが多い理由として,本件合意の存在が少なからぬ影響を及ぼしていたことは優に認めることができる。
イ また,原告らは,EPSブロック業者が他社の詳細設計協力に係る物件を受注した場合,設計変更が事実上不可避となるところ,現場の物件情報を把握していないため再設計を行うのは困難なことが多いと主張する。しかし,アキレスで営業及び設計業務に従事していた《H》は,上記のような場合であっても設計変更自体不可避ではなく,また設計変更をすることも容易である旨を供述している(査37,48)。EPSブロック業者の営業の立場においても,本件合意がなければ,自社が設計協力した物件以外の物件についても積極的な営業を展開していたものと推認される(査157,233,245)。
なお,原告らは《H》の供述の信用性を争っているが,その供述内容に格別不自然・不合理なところはなく,上記認定の根拠とするに足りる合理的な証拠ということができる。《H》の供述を採用した審決の認定は,恣意にわたるとか経験則に反するとは認められず,実質的証拠がある。
⑵ 原告らは,本件審決が本件合意を認定した根拠①(物件登録下での協調関係の存在)は,そのような協調関係が平成16年頃までに既に薄れていた上,前提となっていた物件登録が廃止されている以上,その後の時期に本件合意が存在したことの根拠となるものではないと主張する。
ア そこで検討するに,まず,前述した本件審決認定事実(第2の3⑴アからエまで)の経過により,EDO材料部会会員事業者等の間では,設計協力業者が当該工事に使用するEPSブロックについて優先して販売すべきであると考えられるようになり,他の業者はこれに協力するという協調関係が存在していたこと,その優先権を主張するための根拠として物件登録が利用されていたこと,以上に関しては,原告らも実質的証拠の欠缼を主張していない。したがって,これを前提に判断する。
イ 原告らの上記主張のうち,協調関係が平成16年頃までに既に薄れていたとの部分は,本件審決もそのような認定をしているわけではなく,これを認めるに足りる証拠はない。
本件審決が認定しているのは,平成8年頃以降,概略設計協力業者と詳細設計協力業者が異なる場合が生じるようになってきた中で,「先駆者利益」(概略設計を重視する方向性の考え方と解される。)と「設計労働力利益」(詳細設計を重視する方向性の考え方と解される。)のいずれを重視するかという議論がされ,後者を優先する考えに集約されていったという事実である(本件審決39~40頁)。その意味では先駆者利益と親和的と考えられる物件登録という仕組みが実態と合わない部分が生じていたことは認められるものの,その背後に大枠として存在する事業者間の協調関係自体が薄れていたものではない。
ウ 次に,本件合意が存在していたという時期(本件審決の認定では遅くとも平成19年1月以降)以前に物件登録が廃止されていたこと自体は原告らの主張するとおりであるが,本件審決が本件合意を認定した根拠①(物件登録下での協調関係の存在)に関する推論過程に影響を及ぼすものではない。
原告らの主張は,物件登録下での協調関係は物件登録の廃止によっていわばリセットされ,その後の本件合意との間に連続性はないという前提に立つものと理解される。しかし,本件審決の認定する本件合意形成に至る基本的な事実の推移は,次のようなものと理解される。すなわち,設計協力業者に当該案件のEPSブロック販売の優先権を認め他の業者はこれに協力するという協調関係自体は,物件登録の廃止の前後において基本的に変わっておらず,多数のEPSブロック業者が上記優先権の所在につき共通認識を持つことができるようにするためのツールとして,従来の物件登録に代えて,「設計労働力利益」を優先するというその当時の事業者間の共通認識とも整合的な最終図面方式の採用に至ったという流れである。
本件審決は,以上のような認識に基づいて,物件登録下での協調関係の存在を本件合意の根拠の一つとして挙げているのであって,その推論の過程には合理性がある。原告らの主張は,本件審決の認定判断構造と異なる前提に立ってこれを論難するものであり,採用することができない。
⑶ 原告らは,本件審決が本件合意を認定した根拠②(平成16年1月の広報委員会での合意)は,積水化成品工業の《C1》が最終図面方式に一貫して反対意見を述べていた事実と整合せず,実質的証拠に欠けると主張する。
ア 確かに,証拠(《C1》の参考人審尋における陳述,査218)によれば,EPSブロック業界のトップシェアを有していた積水化成品工業の《C1》は,平成16年1月7日及び同月19日の広報委員会を通じて,物件登録の廃止自体については賛成したものの,これに代わるルールとしてジェイエスピーが提案していた最終図面方式は,他社の設計図面に本来必要のない書き換えをして形ばかりの最終図面設計者として優先権を主張するような営業手法を助長させることになるのではないかと懸念し,これに反対する意見を述べていたことが認められる。
イ しかし,他方,上記広報委員会において,物件登録を廃止しても,従前から行われてきた「設計労働力利益」の尊重を基本とする協調関係は維持されることを前提に,物件登録廃止後において優先権の所在を認識するためのメルクマールをどうするかという代替案の協議がされたこと,この代替案としてジェイエスピーから提案されたのが最終図面方式であること,これに対し《C1》からの反対意見はあったものの,大勢は最終図面方式に賛成する意見であり,《C1》を含めて他から対案が提示されることもなく委員会は終了し,出席者らは,最終図面方式が採用されたものと理解したことが認められる(ジェイエスピー取締役常務執行役員・第二事業本部ESP事業部事業部長《B2》の供述調書ほか〔査21,57,165,168,178〕,積水化成品工業の《C2》のメール文書ほか〔査224~227〕)。これに沿う本件審決の認定は,上記引用の証拠がその認定に足りる合理的な証拠ということができ,その認定が恣意にわたるとか経験則に反するとは認められないから,実質的証拠がある。
ウ 以上のとおり,上記アの事実(《C1》が最終図面方式に反対意見を述べていたこと)は,本件審決が平成16年1月の広報委員会での合意を本件合意の認定根拠として挙げたことの妨げとなるものではなく,この点の本件審決の認定に所論の違法はない。
⑷ 原告らは,本件審決が本件合意を認定した根拠③(本件合意に基づく調整行為等を示す個別事例)は,本件合意と関係なく独自の行動をとった結果を供述するものにすぎないこと,本件合意を前提とすればそもそも個別調整など必要ないことから,本件合意の存在を示すものではないと主張する。
ア しかし,本件審決が掲げる多数の個別事例のうちでも,特に,ダウ化工北海道営業所EPSブロック営業・技術担当《E2》の供述調書ほかの供述(査27,56,58,151,157,165,246,282)は,本件合意に沿った内容の協調関係があったことを明確に認めた上で,それを前提とする個別の調整等の事例を述べるものであり,本件合意と関係ない独自の行動を供述するにとどまるものでないことは明らかである。
イ また,原告らは,本件合意を前提とすれば個別調整は必要ないはずであるとも主張するが,本件合意は,独占禁止法違反を指摘されかねない受注調整を目的とする取決めであって,正式な文書等でその細目を含めた内容を確定するようなことは,事柄の性質上はばかられるものであったと解される。このため現実の運用上の問題から個別の調整等が発生しても,何ら不思議なことではない。また,本件合意を十分認識していなかった営業担当者らの行為に起因して,事後的な調整が必要となる場面等も考えられるところである。以上のとおり,本件合意があれば個別調整の必要はないなどと単純にいうことはできず,原告らの上記主張は採用することができない。
⑸ 原告らは,本件審決は参考人ら(《C1》,《A2》,《B1》)の陳述を排斥するに当たっての分析・検討が不十分であると主張するが,これまでに認定説示したところによれば,本件合意の存在を認めるに十分な根拠と実質的証拠があるということができる。これと異なる趣旨を述べる上記参考人らの陳述を排斥した本件審決の判断に所論の違法はない。
2 争点2(本件合意の「不当な取引制限」該当性)について
⑴ 原告らは,本件合意はその合意内容があまりに広汎にすぎ「競争を実質的に制限」するものとはいえないとして,具体的には,不認識物件についてまで競争を強制されるのは不合理である旨主張する。
EPS工法採用工事の実態として,原告らの主張するところの不認識物件が相当数存在するであろうことは想像に難くない。しかし,本件合意に基づく本件違反行為の排除を求めたからといって,これを受けて個別のEPSブロック業者の営業判断として実際に競争を行うかどうかは,別の問題であって,排除措置命令は,原告らの主張するような「競争の強制」を何ら帰結するものではない。原告らの主張は,採用することができない。
⑵ 原告らは,①詳細設計業務はEPSブロックそのものと一体として商品を成しており,建設コンサルタント業者による詳細設計協力業者の選定において実質的な競争が行われること,②本件合意はむしろ資源の効率的分配に資することから,本件合意は「公共の利益に反し」又は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を欠くと主張する。
しかし,EPSブロックの最終需要者である建設業者において,EPSブロックの購入価格に詳細設計業務の対価が含まれているものと認識していたとか,EPSブロック業者に対し詳細設計協力業務を行うことを取引条件に盛り込んでいた等の事情をうかがわせる証拠はなく,「詳細設計業務がEPSブロックそのものと一体の商品を成す」という原告らの主張の前提は,その根拠が不明といわざるを得ない。
原告らが上記主張において意図する趣旨は,無償で行われる詳細設計協力業務で負担した費用を回収する必要性とその合理性を訴えるものとも推察される。しかし,上記費用を回収するための方策は,飽くまでも公正な競争ルールを前提に,詳細設計協力業務の有償化を含めた別途の方策を通じて検討されるべき事項であり,詳細設計協力業務が無償で行われる慣行があるからといって,本件合意による受注調整を正当化する理由にはならないというべきである。
3 争点3(本件合意の対象外の物件の課徴金算定からの除外)について
⑴ 原告らは,不認識物件は本件合意の対象外であると主張するが,上記2⑴で述べたところに照らして,採用することはできない。そもそも,本件合意の存在ゆえに,多くのEPSブロック業者は,自社が詳細設計に協力した工事とは別の案件に関心を払わず,それが不認識物件を生じさせているという側面も大きいと推認されるところであり,これを課徴金算定の対象から除外することは適切でない。
⑵ 原告らは,《D株式会社》関係物件については,同社の独自の判断により詳細設計協力業者から特定EPSブロックを購入しているから本件合意の対象外である主張する。
しかし,原告らは,原告らに対する課徴金の対象物件の中に《D株式会社》が商流に入った物件が現実にあるのか,具体的にそれがどれかを特定明示していないから,主張自体失当である。また,これを措くとしても,《D株式会社》が本件合意の存在を認識していたことは本件審決の認定するところであり(78頁),かつ,この認定には実質的証拠(元カネパールサービス株式会社従業員《A3》の供述調書ほか。査57,58,247,272)があると認められるから,いずれにせよ原告らの上記主張は採用することができない。
第4 結論
   よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成30年4月20日

裁判長裁判官  野山 宏     
裁判官  宮坂昌利     
裁判官  吉田 彩     
裁判官  角井俊文     
裁判官大塚博喜は転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官  野山 宏   

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

【別紙添付省略】

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