??label.textsizechange_en_US??
??label.bkcolorchange_en_US??
??label.textdisplay_en_US??
          ??label.textcontent_en_US??

??label.pdfdownload_en_US??

土佐あき農業協同組合による排除措置命令取消請求事件

独禁法19条一般指定12項

東京地方裁判所

平成29年(行ウ)第196号

判決

平成31年3月28日

高知市北御座2番27号
           土佐あき農業協同組合訴訟承継人
原告        高知県農業協同組合
同代表者代表理事  《 氏 名 》
同訴訟代理人弁護士  高橋善樹
同訴訟復代理人弁護士 木村智彦
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告  公正取引委員会
同代表者委員長  杉本和行
同指定代理人   大胡 勝
同        三好一生
同        多田 修
同        吉兼彰彦
同        笠置泰平
同        永井 誠
同        松田世理奈
同        柳原 健
同        長谷川和己
同        白石幸輔

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が土佐あき農業協同組合に対し平成29年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成29年(措)第7号)を取り消す。
第2 事案の概要
被告は,土佐あき農業協同組合が,自ら以外の者になすを出荷することを制限する条件を付けて,その組合員(以下,単に「組合員」ということがある。)からなすの販売を受託しており,これは不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号,第12項)に該当し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)19条に違反するとして,平成29年3月29日,同組合に対し,同法20条2項に基づき,当該行為を行っていない旨を確認することなどを命ずる排除措置命令(公正取引委員会平成29年(措)第7号。以下「本件命令」という。)をした。
本件は,土佐あき農業協同組合を吸収合併した原告が,本件命令には違反行為をした主体の認定に誤りがあり違法であるなどと主張して,被告に対し,本件命令の取消しを求める事案である。
1 前提事実(証拠等によって明らかに認められる事実は末尾等に証拠等を掲げた。)
 ⑴ 土佐あき農業協同組合及び原告
土佐あき農業協同組合(以下「土佐あき農協」という。)は,高知県安芸市,室戸市,安芸郡東洋町,安芸郡奈半利町,安芸郡北川村,安芸郡田野町,安芸郡安田町及び安芸郡芸西村の区域(以下「土佐あき農協管内」という。)の農業者によって組織された農業協同組合法(以下「農協法」という。)に基づく農業協同組合であり,協同して組合員の事業及び生活のために必要な事業を行い,もってその経済状態を改善し,かつ,社会的地位の向上を図ることを目的とする法人である(乙4)。土佐あき農協は,昭和38年10月1日に設立された安芸市農業協同組合が,平成10年10月1日,甲浦農業協同組合ほか10の農業協同組合を吸収合併するとともに,同日付けでその名称を土佐あき農業協同組合に変更して成立したものである(以下,当該合併前の12の農業協同組合を「単位農協」という。)。
土佐あき農協の組合員数は,正組合員と准組合員を合わせて,平成28年3月31日時点で,個人が1万3523名,法人その他の団体が48団体であった(乙5(14頁))。
⑵ 土佐あき農協におけるなすの販売受託に係る状況
ア 土佐あき農協は,なす等の園芸農産物(野菜,果実,花きその他の園芸農業により生産される農産物のことであり,本件ではゆずを除く。以下同様。)の選果等を行うための施設として,別紙2支部園芸部一覧表の「集出荷場名」欄に記載の各集出荷場を所有している。これらの集出荷場では,農業者が,園芸農産物の集出荷業務の円滑な運営と生産農家の所得向上を目的とする生産者組織として,支部園芸部を組織しており,同別紙のうち「集出荷場名」欄記載の集出荷場ごとに,同欄右の「支部園芸部名」欄記載の支部園芸部が存在する。(乙124。以下,支部園芸部の構成員を「支部員」といい,個別の支部園芸部について同別紙の「略称」欄記載の略称を用いる。)
なお,支部園芸部は土佐あき農協の組合員又は准組合員ではなかったが,平成29年6月に准組合員資格を取得した。
イ 土佐あき農協は,土佐あき農協が所有する集出荷場に出荷されたなす等の園芸農産物の販売を受託している。
土佐あき農協は,販売を受託したなすの全量について,園芸農産物の販売流通等の事業を行っている高知県園芸農業協同組合連合会(以下「園芸連」という。)に対し,販売を委託している(以下では,土佐あき農協管内で生産されるなすにつき,集出荷場に出荷され土佐あき農協が販売を受託し,土佐あき農協が園芸連に販売を委託することを「系統出荷」ということとする。)。さらに園芸連は,そのなすの販売を全国各地の卸売業者に委託している。
⑶ 他の青果卸売業者におけるなすの販売受託に係る状況
土佐あき農協管内及びその周辺地域においては,土佐あき農協以外にも卸売市場を開設し,なすを集荷,販売する青果卸売業者(以下「商系業者」という。)が3社(株式会社《A》,株式会社《B》及び有限会社《C》。以下,3社を併せて「商系三者」という。)存在する。土佐あき農協管内の農業者は,商系業者になすの販売を委託することができ(以下では,農業者がなすを集出荷場に出荷せず,商系業者に販売を委託することを「系統外出荷」ということとする。),商系業者は,そのなすを自らが開設する卸売市場において仲卸業者等に販売している。
集出荷場の中には,敷地内に商系業者が集荷に用いる置き場(以下,単に「置き場」という。)を設けているところがあり,農業者はこの置き場になすを持ち込むことによっても,商系業者に対してなすを出荷することができる(以下,農業者がこの方法でなすを商系業者に出荷することを「置き場出荷」という。)。
⑷ 本件命令
被告は,土佐あき農協が,かねてからなすの販売を受託することができる組合員を支部園芸部の支部員又は支部園芸部から集出荷場の利用を了承された者(以下,これらの者を併せて「支部員等」という。)に限定していたところ,遅くとも平成24年4月以降,平成28年10月31日までの間に,支部園芸部から除名又は出荷停止等の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託せず,あるいは支部員が集出荷場を利用することなく系統外出荷を行った場合には,支部園芸部が定めた系統外出荷手数料等を収受し,さらに,支部員の園芸連へのなすの出荷重量が一定水準を下回った場合には,支部園芸部が定めた罰金等をそれぞれ収受して,これらを自らの農産物販売事業に係る経費に充てて,なすの販売を受託していたとし,この行為(以下「本件行為」という。)は,組合員の事業活動を不当に拘束する条件を付けて組合員と取引していたものであって,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)の12項に該当し,独禁法19条に違反する行為であるから,本件行為は既になくなっているものの,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成29年3月29日,土佐あき農協に対し,同法20条2項に基づき,以下の内容の本件命令をした(乙124)。
ア 土佐あき農協は,次の事項を理事会において決議しなければならない。
(ア) 自ら以外の者になすを出荷することを制限する次の条件を付けて,組合員からなすの販売を受託している行為を行っていない旨を確認すること。
a 自ら以外の者になすを出荷したことにより支部園芸部を除名されるなどした者から,なすの販売を受託しないこと。
b 支部園芸部が定めた系統外出荷手数料等及び罰金等を収受すること。
(イ) 今後,組合員からのなすの販売の受託に関し,上記(ア)と同様の行為を行わないこと。
イ 土佐あき農協は,上記アに基づいてとった措置を,組合員に通知しなければならない。この通知の方法については,あらかじめ,被告の承認を受けなければならない。
ウ 土佐あき農協は,今後,組合員からのなすの販売の受託に関し,前記ア(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。
エ 土佐あき農協は,今後,自らに農産物を出荷する組合員との取引に関する独禁法の遵守についての行動指針の作成及び当該取引に係る事業に関わる役職員に対する周知徹底を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,上記ウで命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,被告の承認を受けなければならない。
オ 土佐あき農協は,前記ア,イ及びエに基づいてとった措置を速やかに被告に報告しなければならない。
⑸ 訴えの提起
土佐あき農協は,平成29年5月2日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
⑹ 法令及び定款等の定め
ア 農協法によれば,農業協同組合は,組合員の事業又は生活に必要な共同利用施設の設置(同法10条1項5号),農作業の共同化その他農業労働の効率の増進に関する施設(同項6号),組合員の生産する物資の運搬,加工,保管又は販売(同項8号)などの事業を行うことができる。また,農業協同組合は,定款の定めるところにより,組合員以外の者にその施設を利用させることができるが,一事業年度における組合員以外の者の事業の利用分量の額は,原則として当該事業年度における組合員の事業の利用分量の額の5分の1を超えてはならない(同条17項)。
なお,平成27年9月4日号外法律第63号による改正(平成28年4月1日施行)後の農協法10条の2は,農業協同組合がその事業を行うに当たっては,組合員に対しその利用を強制してはならないと規定する。
イ 土佐あき農協の定款(乙4)によれば,土佐あき農協は,組合員のために,組合員の事業又は生活に必要な共同利用施設の設置(定款7条1項5号),農作業の共同化その他農業労働の効率の増進に関する施設(同項6号),組合員の生産する物資の運搬,加工,貯蔵又は販売(同項8号)などの事業を行うこととしている。また,土佐あき農協は,組合員の利用に差し支えない限り,組合員以外の者に事業を利用させることができるが,組合員以外の者の利用は,農協法10条17項等に規定する範囲内とすることとされている(同9条1項)。
ウ 土佐あき農協は,販売品の受入,保管及び販売業務の取扱いについて,販売業務規程(乙6)を定めている。
販売業務規程によれば,土佐あき農協の販売方法は,原則として無条件による受託販売とし(2条1項),受託販売とは,組合員から販売品の販売委託を受けて販売を行い,その販売代金を基礎として精算することと定義されている(同条2項1号)。受託販売品の精算の基礎となる手数料の率は,生産部会の意見を徴して,原則として理事会で定め(10条1項),受託販売品の精算は,その品質,等級及び数量に応じて計算し,土佐あき農協の取扱手数料,受入れ及び販売のための運賃,荷役費,包装費及び運送保険料などの金額を控除して組合員に配分し(16条),販売品の代金は,原則として組合員の貯金口座に振り込むこととされている(19条)。
販売品は原則として系統農協連合会に販売するが,系統農協連合会が取り扱っていない販売品,又は地域的特殊性等により系統農協連合会に販売することが困難若しくは不合理と認められる販売品については,理事会の議を経てあらかじめ登録されている取引業者(以下「登録業者」という。)に販売することができ(26条1項),登録業者を選定したときは,取引業者登録台帳にその名称,業種,取引品目などを記載する(28条1項)。
⑺ 補助金等の諸制度
ア 強い農業づくり交付金制度とは,生産から流通までの総合的な農業づくりを推進するため,農特産物の高品質・高付加価値化,低コスト化及び食品流通の効率化・合理化等,地域における川上から川下までの取組みを支援する補助金制度である(甲45,弁論の全趣旨)。
土佐あき農協管内では,赤野,中芸及び安芸の各集出荷場において,強い農業づくり交付金による補助金を受け,なす自動選果機を導入している。また,穴内,芸西,羽根の各集出荷場においても,なす自動選果機導入に当たっては他の補助事業による補助金を受けている。(甲41)
イ 指定野菜価格安定対策事業(甲46)とは,農林水産省が所管する野菜生産出荷安定法に基づく野菜価格安定事業の1つである。同事業においては,農林水産大臣が指定野菜の種別ごとに一定の要件を満たす生産地域を野菜指定産地として指定し,指定野菜の平均販売価格が著しく低落した場合には,独立行政法人農畜産業振興機構が,当該指定野菜の登録出荷団体に対しその委託生産者に生産者補給金(価格差補給金)を交付するための生産者補給交付金を,登録生産者に対し生産者補給金をそれぞれ交付する。
土佐あき農協管内は,指定野菜である冬春なす(12月から翌年6月までを主な出荷時期として生産されるなすをいう。以下同様。)につき野菜指定産地としての指定を受けている。そして,高知県内では園芸連のみが登録出荷団体とされており,登録生産者はいない。したがって,土佐あき農協の組合員が冬春なすの系統出荷(園芸連に販売委託されるもの)を行った場合には生産者補給金を受け取ることができるが,冬春なすの系統外出荷を行った場合には生産者補給金を受け取ることができない。(争いなし)
また,野菜指定産地としての指定を維持するためには,区域内で生産される冬春なすでその出荷が共同出荷組織又は登録生産者の資格を有することとなる生産者により行われるものの数量の合計が,当該区域内で生産される冬春なすの全出荷数量の2分の1を超えているか,又はこれを超える見込みが確実である必要があり,この要件を欠くに至ったときは野菜指定産地の指定を解除される(野菜生産出荷安定法4条2項2号,7条1項,野菜生産出荷安定法施行規則2条1項1号,同条2項)。
土佐あき農協管内では,平成23園芸年度(平成22年8月1日から平成23年7月31日までの期間をいう。各園芸年度の始期が前年の8月1日,終期が当年の7月31日であることについて以下に同じ。)から平成27園芸年度にかけて,冬春なすにつき合計4億0242万1213円の生産者補給金が交付された(甲47)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
⑴ 土佐あき農協の「相手方」(一般指定12項)が組合員であるといえるか
(被告の主張)
土佐あき農協は,本件行為の期間中,組合員との間でなすの販売受託を行っており,土佐あき農協にとって,組合員が「相手方」(一般指定12項)に当たる。
ア(ア) 土佐あき農協は,農業者たる組合員の相互扶助を目的とする組織であるところの農業協同組合であって,その定款上,販売事業を「組合員のために」行う事業と記載している。これに対し,支部園芸部は,土佐あき農協のなすの販売事業を利用する組合員が集出荷場ごとに関係する組合員の意見を集約し,土佐あき農協の当該事業を円滑に実施するための生産者組織であって,なすの共同販売事業の枠組みにおいては土佐あき農協の業務執行下において活動するにすぎず,販売受託などの経済取引の主体となることを本来予定しておらず,そのような実体もない。
(イ) また,①土佐あき農協の販売業務規程は,土佐あき農協が組合員から直接販売を受託することを前提としており,土佐あき農協はなすについても当該規程に合致する販売受託を行っていたと認めるのが自然であること,②支部園芸部は,本件行為の期間中は土佐あき農協の組合員ではなく,仮に,土佐あき農協がその受託販売額の76%を占めるなすを含む野菜について支部園芸部から販売を受託していたとすると,農協法所定の利用分量を超える員外利用を行ったとして農協法違反となるおそれがあったこと,③土佐あき農協が指定野菜価格安定対策事業に関して定めた要領や,多くの支部園芸部の規約は,土佐あき農協が組合員から直接販売を受託することを前提としていたこと,④土佐あき農協のみが集出荷場で行われる販売活動に係る業務を行っており,土佐あき農協は販売再委託先である園芸連から受領した販売代金を直接組合員に支払い,その際販売手数料を差し引いていたこと,⑤支部園芸部が土佐あき農協と組合員との取引に介在する必要性がないこと,⑥土佐あき農協の役職員は,土佐あき農協が組合員からなすの販売を受託していると認識していたことからすれば,本件行為当時,土佐あき農協と組合員との間でなすの販売受託が行われていたことは明らかである。
イ(ア) 平成10年10月1日の単位農協の合併の際,単位農協又は園芸組合が保有していた集出荷場に係る財産及び集出荷場の職員は,全て土佐あき農協に移転され,販売事業を実施するために必要な物的・人的資源は土佐あき農協が保有することとなった。
(イ) また,その際,単位農協の臨時総会において,土佐あき農協が平成12年9月から園芸販売事業の統一した運営を行うことを目指す旨を含む合併経営計画書が承認され,その内容によれば,①生産者は土佐あき農協に販売を委託することから支部園芸部の規約において受託事業の記入は不要であり,②課税関係は土佐あき農協の他の事業と合算して申告し,③受託事業に係る機械施設,従業員,職員等は土佐あき農協の責任で処置し,④受託販売に係る手数料,人件費等は全て土佐あき農協の財務諸表に計上し,⑤支部園芸部は受託事業を行わず,土佐あき農協の受託販売事業に係る調整,生産・販売等に係る技術等の研究,園芸振興のための情報交換等の活動をし,⑥受託事業に要した経費は,委託者たる生産者が負担し,いわゆる総合事業の中での部門独立採算制を確立することとされていた。
そして,本件行為当時,支部園芸部の規約に受託事業を行う旨の記載がなく(上記①),土佐あき農協が受託事業に係る機械施設を所有し,その固定資産として固定資産管理規程に基づき管理し,かつ従業員や職員を雇用し(上記③),土佐あき農協は受託販売に係る手数料等を土佐あき農協の財務諸表に計上し(上記④),土佐あき農協は受託販売に係る課税につき他の事業と合算して計算し(上記②),ほとんどの支部園芸部の規約において,受託販売事業そのものではなく園芸農産物の「集出荷及び販売の検討」,その生産・販売に関する技術,情報の収集と提供及び検討といった,販売事業に係る調整等の業務が規定されており(上記⑤),平成10年10月の単位農協の合併時に計画されていた販売方法等の統一は一部を除き実現していた。
(ウ) さらに,土佐あき農協は,平成12年10月の理事会において,組合員から収受する販売受託の販売手数料の率を検討し,平成13園芸年度から,園芸手数料として2.7%を,出荷場経費として0.8%をそれぞれ徴収することを決定し,集出荷場ごとに異なっていた販売手数料の率を3.5%に統一した。
(エ) このように,園芸組合の販売受託を履行する機能(人的・物的資源)が単位農協ないし土佐あ農協に移管され,平成10年の単位農協の合併当時に土佐あき農協と組合員とが直接販売受託を行うことを前提として検討されていた販売事業のあり方の大部分が実現されていることからすれば,遅くとも本件行為の開始時までには,組合員が土佐あき農協になすの販売を委託していたとみるのが自然である。
(原告の主張)
支部員は,なすの販売を支部園芸部に委託し,支部園芸部は当該支部員の意思に従い,土佐あき農協,園芸連へと順次再委託するか,商系業者に再委託するかを選択していた。すなわち,土佐あき農協は,組合員からではなく支部園芸部からなすの販売を受託していたのであり,土佐あき農協にとって,組合員が「相手方」(一般指定12項)に当たるとはいえない。
ア 支部園芸部には,その代表者である運営委員長をはじめとする運営委員が複数存在し,支部員全員を構成員とする支部総会という意思決定機関が存在し,多数決の原則により運営され,また支部園芸部代表者名義の預金通帳を有しており,支部会費等の入金を受け必要な経費に支出するなどの管理を行っており,支部園芸部は権利能力なき社団としての実体を有している。
そして,支部園芸部は,委託者である支部員の指示に従い,土佐あき農協,園芸連へとなす販売の再委託を行うか,商系業者に再委託を行うかを決めている。具体的には,支部園芸部のうち少なくとも中芸支部,芸東支部及び唐浜支部は,集出荷場に置き場を設けており,支部員が置き場になすを置けば,商系業者に出荷することができる。支部園芸部の中には,置き場を設けていないところもあるが,支部員が希望すれば,各支部園芸部の判断により置き場を設けることが可能である。
イ そもそも土佐あき農協の管内では,農協法に基づく農業協同組合の発足に先立ち,生産者が共同で出荷・販売を行うための組織として園芸組合が存在し,集出荷場を所有していたが,昭和45年以降,園芸組合が集出荷場の所有権を単位農協に移転しつつもその運営を行う生産者組織(支部園芸部)として存続し,単位農協に販売事業を委託する形で,園芸組合と農協との統合が行われた。その後,平成10年10月に単位農協が合併して土佐あき農協が誕生するに先立ち,園芸組合や単位農協が所有する集出荷場を土佐あき農協に移管することについては合意が形成されたが,集出荷場の運営を土佐あき農協に一本化するには至らず,当該合併後も支部園芸部が従前どおり各集出荷場の運営を行うこととなった。被告が主張するような,土佐あき農協が平成12年9月から園芸販売事業の統一した運営を行うとの目標は,結局,実現しなかった。
こうした経緯からして,集出荷場は土佐あき農協が所有する施設であるが,その管理運営は支部園芸部が独自に行っている。実際に,集出荷に関する設備(選果機や荷造り包装機など)の導入の是非は,各支部園芸部の支部総会の決定事項である。また,支部規約,機械利用規約,運営委員の報酬,集出荷場のパートの雇用・給与,機械設備の購入や修繕,年末年始の営業日・営業時間等,集出荷場の運営に係る重要事項は全て支部園芸部の運営委員会の決定事項である。
このように,支部園芸部が集出荷場の運営管理を行っていることから,支部員が集出荷場になすを出荷すれば,それは土佐あき農協ではなく支部園芸部に対して出荷したことを意味する。
ウ 支部園芸部は,土佐あき農協との間で,出荷に伴う荷受処理,送り状の作成,野菜価格安定制度に係る会計事務,出荷資材の受発注,販売代金の精算業務,集出荷場に係る従業員の給与計算,雇用事務,園芸決算書の作成及び決算結果に伴う剰余金の精算並びに会計業務等の事務を土佐あき農協に委託し,その経費の支払に必要な資金をなすの販売代金の中から事務委託手数料として預託する内容の事務委託契約を締結している。土佐あき農協が組合員から販売品の販売委託を受ける旨定めた販売業務規程は,なすの販売受託には適用されない。土佐あき農協が農協手数料として徴収していると被告が主張する金銭は,この事務委託手数料である。
エ このように,支部園芸部は,土佐あき農協とは独立した取引主体として,支部員からなすの販売を受託し,土佐あき農協に再委託し又は商系業者に再委託している。
オ 被告は,土佐あき農協が組合員資格を有していない支部園芸部からなす等の販売受託を受ける行為が,農協法10条に反すると主張する。この点,そもそも支部園芸部は平成28年のうちに土佐あき農協の准組合員の資格を取得しており,このような状態は是正されている。しかも,支部園芸部はそのほとんどが組合員からなる権利能力なき社団であって,上記行為も実質的には員外利用制限の趣旨に反するものではない。支部園芸部に組合員資格が必要であるとの認識を欠いていたからといって,土佐あき農協が支部園芸部から販売委託を受けていた事実が覆るわけではない。
⑵ 土佐あき農協が組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」(一般指定12項)組合員と取引していたか
(被告の主張)
ア 相手方の事業活動を「拘束する条件をつけて,当該相手方と取引する」(一般指定12項)というためには,必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず,それに従わない場合に何らかの経済上の不利益を伴うことにより,取引において相手方の事業活動を制限する実効性が現実に確保されていれば足りる。また,当事者の合意の任意性など,主観的事情のいかんは問題とならない。
イ 本件においては,支部園芸部が以下の制度を設けていた。
(ア) 東洋支部及び赤野支部を除く支部園芸部は,その規約において,支部員が支部園芸部の勧告を無視して系統外出荷を続けた場合,その者を当該支部園芸部から除名し,又は出荷停止等の処分(以下,まとめて「除名等」ということがある。)をすることができることを定めていた。また,除名等の規定を有する支部園芸部のうち,唐浜支部及び芸東支部を除く各支部園芸部では,除名の処分を受けた場合には5年間当該支部園芸部への再加入ができないこととされていた。
中芸支部の運営委員会は,平成25年4月頃,集出荷場への出荷重量が少ない支部員に対し,出荷量が少ない理由につき聞き取り調査を行った。それによって系統外出荷をしていることが確認でき,かつそれを止めるつもりがなく,系統外出荷を認めてもらえないなら支部園芸部を辞めると回答した支部員3名について,中芸支部は,同年6月29日の運営委員会で,自主脱退を承認するとともに,自主脱退しない場合には除名することを決定した。
また,芸西支部は,数年間にわたり系統外出荷のみを行い,系統外出荷手数料を支払わなくなった支部員1名につき,平成27年10月の支部総会で除名の処分を行った。
(イ) 安芸支部,穴内支部,赤野支部及び芸西支部は,支部員から,系統外出荷したなすの販売金額に3.5%を乗じた金額を,「系統外出荷手数料」「系統外賦課金」などと称して徴収することとしていた(以下「系統外出荷手数料」という。)。
(ウ) 穴内支部及び赤野支部は,園芸連へのなすの出荷重量が10アール当たり12トン又は11トン未満の支部員から,当該重量に満たない重量1キログラム当たり3円を乗じた金額を「罰金」「反当徴収金」などと称して徴収することとしていた(以下「罰金」という。)。
ウ そして,土佐あき農協は,組合員との間におけるなすの販売受託を行うに当たって,以下のとおり,支部園芸部の除名,系統外出荷手数料及び罰金に関する各制度を取り入れて,土佐あき農協と組合員との間におけるなすの販売受託の条件としていた。すなわち,支部員である組合員が系統外出荷を理由に支部園芸部から除名されるなどした場合は,当該組合員からなすの販売を受託しないことを条件とし,また組合員が系統外出荷を行った場合は,当該組合員から支部園芸部が定めた系統外出荷手数料及び罰金を収受することを条件としてなすの販売受託をしており,これらの条件の実効性が確保されていた。
(ア) 土佐あき農協は,なすの販売を委託することができる組合員を支部員等に限定していた。このため,規約に基づき系統外出荷を理由に支部園芸部を除名等された者は支部員ではなくなり,土佐あき農協に対してなすの販売委託をすることができなくなるから,支部園芸部が定めた除名等の制度は,土佐あき農協が系統外出荷を理由に支部園芸部を除名されるなどした者からなすの販売を受託しないという条件として機能していた。
(イ) また,土佐あき農協がなすの販売を委託することができる組合員を支部員等に限定していたため,土佐あき農協になすの販売を委託しようとする組合員は支部員等にならなければならず,必然的に支部園芸部が定めた系統外出荷手数料及び罰金の制度に服するほかなかった。土佐あき農協は,支部園芸部の事務局を担当し,土佐あき農協の職員が支部園芸部の総会に参加するなどして,その規約や活動を認識,容認しつつ,集出荷場に配置された土佐あき農協の職員が系統外出荷手数料及び罰金を徴収し,土佐あき農協自体の販売事業の収益に関する勘定科目である「園芸雑収入」又は仮受金に関する勘定科目である「園芸諸掛仮受金」として収受し,組合員との販売受託に係る販売事業の経費に充てていた。このように,土佐あき農協は,自らの取引相手の限定や徴収行為等により,組合員が系統外出荷を行った場合に,当該組合員から支部園芸部が定めた系統外出荷手数料及び罰金を収受することを販売受託の条件としていたといえることは明らかである。
(ウ) これらの条件は,これに従わない場合には支部員である組合員が支部園芸部から除名され,土佐あき農協になすの販売を委託できなくなるという不利益や,系統外出荷手数料及び罰金を支払わなければならなくなるという不利益を伴うものであり,実効性が確保されていた。
エ 原告は,本件における被告の独禁法の適用及び執行が,JA新はこだて花卉生産出荷組合(以下「新はこだて花き組合」という。)に対する警告等の事件と整合を欠くと主張する。しかし,本件では,土佐あき農協が行う共同販売事業について,土佐あき農協自体が支部園芸部の定めた内容を取引条件として組合員と取引している事実を認めたことから,土佐あき農協の拘束条件付取引を認定したものであって,本件と新はこだて花き組合の事件は実質的に同一と評価できるものではない。
(原告の主張)
ア 本件において組合員からなすの販売を受託していたのは,土佐あき農協ではなく支部園芸部である。支部園芸部が,支部員から販売を委託されたなすについて,支部総会によって,土佐あき農協を通じて園芸連に販売委託をするか,商系業者に販売委託をするかを決めているのであり,土佐あき農協がなすの販売を委託することができる組合員を支部員等に限定しているのではない。
イ 組合員は,支部員としての資格が認められず又は資格を喪失した場合であっても,園芸連の規格,基準,品質を満たすなすを栽培し,土佐あき農協を通じて園芸連に依頼すれば,土佐あき農協ないし園芸連になすの販売を委託することが可能であった。
ウ そして,系統外出荷を理由とする除名の規定に基づき除名を行った支部園芸部は存在せず,中芸支部における3名の脱退も自主脱退である。系統外出荷手数料も自主申告制で徴収されており,園芸決算の際に系統外出荷手数料以上の金額を支部園芸部経由で支部員に返還している。罰金についても,これを徴収していた支部は少なく,徴収額も少なかった。結局,本件行為が系統外出荷を抑制する効果は極めて軽微であった
エ 系統外出荷手数料や罰金は,支部園芸部がその規約や支部総会等に基づき支部員から徴収していたものであり,土佐あき農協が組合員に取引条件を課していたのではない。土佐あき農協は,系統外出荷手数料や罰金を支部園芸部から受領してはいたが,これは支部園芸部との間の事務委託契約に基づいて,支部園芸部の経費の預り金として受領していたのであり,立替払いしていた集出荷場の運営経費に充てていたにすぎず,土佐あき農協の販売事業の経費に充当していたわけではない。
オ 被告は,本件命令の理由中,法令の適用の箇所で,土佐あき農協は自ら以外の者になすを出荷することを制限する条件を付けた旨を認定しながら,本件訴訟においては,土佐あき農協が付したという拘束条件の内容を①系統外出荷を行ったことにより支部園芸部を除名されるなどした者からなすの販売を受託しないという条件,②支部園芸部が定めた系統外出荷手数料及び罰金を収受するという条件へと再構成し,主張をすり替えている。被告は,土佐あき農協が「自ら以外の者になすを出荷することを制限する条件」を付けたことを何ら主張立証していない。
カ 被告は,新函館農業協同組合(以下「新函館農協」という。)の組合員が構成する新はこだて花き組合が,組合員の生産する花きについて,その全てを新函館農協に出荷すること等を内容とする規約を定めるとともに,これに反して新函館農協以外の者に出荷した組合員を議決権のない准組合員に降格させるなどして,組合員に対し,生産する花きの全てを新函館農協に出荷するようにさせた行為について,独禁法8条4号に違反するおそれがあるとして,平成22年7月14日付けで,新はこだて花き組合に対して,上記行為を取りやめ,今後このような行為を行わないよう警告を行うとともに,新函館農協に対し,新はこだて花き組合等が今後同様の行為を行わないための指導を着実に実施することを要請した。
新はこだて花き組合に対する警告等は,新はこだて花き組合と新函館農協が独立の関係にあり,かつ系統外出荷の抑制が問題となっている点で,本件と実質的に同一の事件と評価できるが,行政の恣意性を排除しその統一性と継続性を確保するため,実質的に同一の事件には実質的に同一の独禁法の適用及び執行がされるべきところ,被告が本件において支部園芸部ではなく土佐あき農協を違反行為の主体と認定していることは,新はこだて花き組合の事件との整合性を欠く。
⑶ 本件行為が「不当に」(一般指定12項)拘束する条件を付けた取引に当たるか
(被告の主張)
ア 一般指定12項にいう「不当に」とは,拘束条件付取引の公正競争阻害性を表現するものであり,公正競争阻害性があるというためには,具体的に競争を阻害する効果が発生していることや,その高度の蓋然性があることを要するものではなく,ある程度において競争を阻害する効果が発生するおそれがあると認められる場合であれば足りると解するべきである。
イ 本件においては,土佐あき農協に関し,以下の事情が認められ,これらの事情を総合的に考慮すれば,本件行為は競争を阻害する効果が発生するおそれがあり,公正競争阻害性があるといえる。
(ア) 本件において,土佐あき農協が平成24年4月から平成27年3月までの3年間に園芸連から支払を受けたなすの販売金額は,同販売金額と商系三者が仲卸業者等に販売したなすの販売金額との合計の4割を超えており,生産者である組合員にとって土佐あき農協は重要な流通経路である。また,土佐あき農協になすの販売委託を行う場合には,土佐あき農協の集出荷場を利用することができ,指定野菜価格安定対策事業に基づく価格差補給金を受領することもできるから,土佐あき農協は,その管内及びその周辺地域において特に有力な事業者である。
(イ) 土佐あき農協は,なすの取引先である組合員(平成27年3月31日現在で614名)の中の相当数の者との間で本件行為を行っていたところ,土佐あき農協管内のなす農家は平成28年7月末時点で1102名であり,同管内におけるなすの生産者のうちで本件行為の対象となる取引先事業者の割合は,過半を占めている。
(ウ) 本件行為は,組合員に対し,系統外出荷をした場合には系統外出荷手数料や罰金という金銭的不利益を課し,支部園芸部から除名されれば土佐あき農協に対するなすの販売委託自体ができなくなるという不利益を課して,なすの販売受託をするというものであって,組合員にとって,系統外出荷を行うことを避けたいという心理にさせるものである。
したがって,本件行為の拘束条件は,その性質上,組合員に系統外出荷を敬遠させ,系統出荷を事実上余儀なくさせるものであり,組合員が支部園芸部に加入している限り,長期間にわたって系統外出荷を抑制する効果を持つものであるから,組合員が本来自由な判断によって決定すべき取引先の選択及び系統外出荷を強く制限していたといえる。
(エ) また,土佐あき農協の受託販売金額のシェアが4割を超えていることや,高知県のなすの大部分が土佐あき農協管内から出荷されており,商系三者もその集荷するなすの大部分を同管内からの集荷に依存していたことからすると,拘束の対象となっている取引先事業者である組合員が,既存の競争業者である商系三者にとって,なすの取引先としての重要性が特に高かったことは明らかである。その結果,商系三者が,組合員に代わる取引先を確保することは容易ではなく,本件行為により,商系三者の取引の機会が減少することとなる。実際に,商系三者は,なすの出荷を要請した組合員等から,除名や罰金の対象となることを恐れて出荷量を減らされたり,出荷又はその増量を断られるなど,商系三者の集荷取引にも現実に具体的な影響が生じており,このことは本件行為に公正競争阻害性があることを実証的な観点から補強している。
ウ(ア) 原告は,系統外出荷をした支部員に対する除名等の規約,系統外出荷手数料及び罰金の各制度が,土佐あき農協が事業実施主体となる「強い農業づくり交付金」の制度及び指定野菜価格安定対策事業を支えるためのものであり,これらの制度には,①ブランドイメージの保護を通じた産地間競争の促進,②フリーライド防止という正当化事由があると主張する。
(イ) しかし,原告の上記正当化事由に関する主張は独禁法の解釈上の根拠が不明である上,つまるところ土佐あき農協の事業経営上の観点からみて上記各制度が必要であるというものにすぎず,一般指定12項に該当する本件行為を正当化するものではない。
(ウ) また,公正かつ自由な競争を促進させるためには,各取引段階においてそのような競争が確保されていることが必要であり,産地間の競争を促進することを目的としたとしても,かえって産地における競争が阻害されることがあってはならない。
「強い農業づくり交付金」の点については,原告は,これを利用して設置された機械等の利用率が低ければ補助金の返還を迫られるとするが,利用率が低い場合であっても,補助事業申請時の規模決定根拠が正しく申請されていれば,補助金の返還を求められるものではないから,原告の主張には根拠がない。
さらに,補助事業で目標とされている自動選果機の利用量を達成させ,系統出荷率が低下しないようにするためには,系統出荷をする組合員の生産力を高めたり,自動選果機を利用しやすくしたりして,系統出荷のメリットを高めるなどの改善に取り組むべきであって,系統外出荷を抑制して産地における商系業者との競争を阻害する本件行為は,合理的に必要かつ相当な手段とはいえない。
(エ) 系統外出荷手数料については,そもそも集出荷場を利用することなく系統外出荷をする組合員は,当該集出荷場を利用していない以上,土佐あき農協が主張するような,集出荷場の固定費を負担せずにこれを利用するというフリーライドの問題は存在しない。系統外出荷によって系統出荷量が低下すると,集出荷場の固定費や維持費用の捻出に支障が出るとしても,系統出荷のメリットを高める等の方法により系統出荷率の向上を目指すべきであって,土佐あき農協の集出荷場や販売事業を利用しない出荷に対して金銭的負担を求めること等の方法により実現すべきではない。本件行為はフリーライド問題の防止のために必要な手段とはいえない。
(原告の主張)
ア 公正競争阻害性があることにつき立証責任を負う被告は,土佐あき農協管内やその周辺地域における商系業者のなすの取引先減少について,流通・取引慣行ガイドラインの考え方に従い,市場閉鎖効果を主張立証せねばならない。市場閉鎖効果とは,商系業者にとって代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられるとか,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるとかいった,商系業者が排除され,又は取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じていることをいう。この「おそれ」の程度は,競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然としたもので足りると解するべきではなく,競争事業者の事業活動に具体的な影響が及ぶものでなければならない。
しかし,被告は,本件において,市場閉鎖効果が生じる場合のメカニズムを示していない。また,被告は,商系業者と組合員との取引機会の減少について極めて抽象的にしか示しておらず,どの程度の市場が閉鎖され,商系業者の事業活動にどのような影響が生じているのかについて,何ら主張立証していない。よって,本件では,市場閉鎖効果ないし公正競争阻害性があるとはいえない。
イ 本件においては以下の事情が認められ,これらの事情を総合考慮すれば,市場閉鎖効果のおそれがあるとはいえない。
(ア) 土佐あき農協管内のなすの出荷量に占める系統出荷及び置き場出荷を合計した量の割合は,平成24年度に69.4%,平成25年度に63.7%,平成26年度に59.5%,平成27年度に56.0%と一貫して低下しており,土佐あき農協管内又はその周辺地域のなすの集荷市場における土佐あき農協の地位は年々低下している。
(イ) また,平成28園芸年度における土佐あき農協管内のなす農家1102名のうち,支部員は632名(約57%)であり,本件行為による拘束が及ぶのは市場におけるなすの供給者の一部にすぎない。
(ウ) なすの産地間競争は激しく,高品質のなすを一定数量以上のボリュームでの出荷を確保することが不可欠であるから,本件行為により市場閉鎖効果が生じるおそれの有無について判断するにあたっては,ブランド間競争としての産地間競争上の必要性についても考慮しなければならない。
(エ) 各支部園芸部の管内において,支部園芸部,土佐あき農協を通じた園芸連への出荷を全くしていない支部員も存在し,ほとんどの支部員も園芸連への出荷のほかに商系業者への出荷も行っている。
(オ) 被告が主張する違反行為の期間内において,土佐あき農協管内の11の支部園芸部のうち,系統外出荷手数料を徴収していたのは4か部,罰金を徴収していたのは2か部にすぎない。
また,各支部における運営委員会の勧告を無視して系統外出荷を継続した場合を除名事由とする規約が存在した9か部においても,運営委員長や運営委員自身が商系業者になすを出荷しており,商系業者への出荷が除名につながるとの認識は支部員にはなかった。当該規約を理由に除名を行った支部園芸部も存在しない。被告が主張する中芸支部における3名の自主脱退は,系統外出荷を理由とする除名ではない。この件では,中芸支部が当該3名に集出荷場の運営費を賄うに足りるだけの出荷量の増加を求めたのに対し,当該3名は,現状の出荷を維持することが認められなければ自主脱退するとの意思が固く,最終的に自主脱退したにすぎない。また,被告が主張する芸西支部における1名の除名については,両親から独立して経営したかった支部員が存在し,本人の意思で芸西支部を辞めることになったものの,同支部の規約に脱退の規定がなかったために除名の形をとったにすぎない。やはり系統外出荷を理由とする除名ではない。
(カ) 系統外出荷手数料は自主申告制で徴収されており,支部園芸部は支部員の自主申告がない限り系統外出荷手数料の支払を求められないのであるから,系統外出荷に対する制限効果は極めて弱いものであった。また,土佐あき農協は,園芸決算において,預かった系統外出荷手数料以上の金額を支部園芸部に払い戻し,支部園芸部が支部員に返還しているから,この意味でも制限効果は弱いものであった。
(キ) さらに,穴内支部の罰金は,袋詰め機械やコンテナといった未償却の機械等の償却費に充当するために徴収したものである。そもそも罰金の徴収をしていた支部園芸部も少なく,徴収金額も僅かであって,系統外出荷に対する制限効果は極めて軽微である。
(ク) 系統出荷率50%以上が維持されているのは,支部員が,指定野菜価格安定対策事業の指定産地を外されないよう,その意思に基づいて選択した結果である。これによって組合員の取引先の選択の自由が侵害されていたとする被告の認定は著しく不合理である。
ウ(ア) 加えて,支部園芸部の除名等の規約,系統外出荷手数料及び罰金の各制度には,①顧客の信頼(ブランドイメージ)の保護を通じた産地間競争の促進及び②フリーライド防止という正当化事由がある。
(イ) まず,土佐あき農協管内のほとんどの支部園芸部では,「強い農業づくり交付金」制度の補助金を受けてなす自動選果機を導入している。また,生産者は,野菜生産出荷安定法に基づく指定野菜価格安定対策事業の指定野菜(冬春なす)の産地の指定を受け,冬春なすの価格低落時に価格差補給金を受け取っている。これらにより,土佐あき農協は,管内のなす生産者に対し,ブランド化にふさわしい品質を確保し,全国的な量販店等が求める出荷量や計画出荷に対応する能力やインセンティブを付与して,管内で生産されるなすの産地競争力を強化し,全国的ななすの産地間競争に打ち勝とうとしている。ところが,なすの出荷実績が自動選果機の導入時に設定,申告された出荷目標量に対して極端に低ければ,国から補助金の返還を求められてしまう。また,系統出荷率が50%を下回れば,指定野菜の産地の指定が解除されてしまう。支部園芸部は,このような事態を避けるために除名等の規約,系統外出荷手数料及び罰金の各制度を用いているにすぎない。加えて,支部園芸部の罰金制度は,なすの自動選果機導入に当たって機械導入費用を立替払した土佐あき農協に対し,法定償却期間内に法定償却費相当額を支払う方法として,機械の導入に賛同したにもかかわらず出荷数量が一定の基準に満たない支部員から機械利用料を徴収するためのものであり,機械利用料として公平に負担するための制度である。
したがって,上記の各制度は,顧客の信頼の保護を通じた産地間競争の促進等に資するものである。
(ウ) また,これらの制度は,支部員の一部が,「強い農業づくり交付金」制度の利用や指定野菜価格安定対策事業の産地指定の認定に賛同し,なす自動選果機の利用や価格差補給金の受領といった成果を享受していながら,これに伴う系統出荷や置き場出荷といった負担を自分以外の支部員のみに負わせることや,集出荷施設の人件費等,出荷量にかかわらず賄う必要がある費用を負担せずに集出荷場を利用することといった,いわゆるフリーライドを防止する観点からも,正当化事由として認められるべきである。
(エ) さらに,被告は,本件命令において,穴内支部の罰金について,なすの自動選果機本体の償却期間が経過する前である平成25年10月以前の徴収については違法と認定していない。この点,穴内支部は,同月の支部総会において,同月以後も袋詰め機械やコンテナといった未償却の機械等の償却が継続していたことから,これらの費用に充てるために罰金の徴収を継続することを決議したのであり,同月以後の罰金の徴収についても正当化事由が認められるべきである。そして,赤野支部は償却期間継続中であったから正当化事由が認められるべきである。
⑷ 本件命令が「特に必要があると認めるとき」(独禁法20条2項,7条2項本文)に当たるか
(被告の主張)
排除措置命令の発令において「特に必要があると認めるとき」(独禁法20条2項,7条2項本文)の要件に該当するか否かの判断については,被告に専門的な裁量があり,被告の判断が合理性を欠くといえないときには,排除措置命令について被告の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったということはできないと解すべきである。
本件において,支部園芸部は遅くとも平成28年10月31日までに除名等の規約,系統外出荷手数料及び罰金の各制度を廃止し,本件行為は終了したが,①本件行為が4年7か月の長期間にわたって行われており,②土佐あき農協は本件行為を取りやめる積極的な措置をとっておらず,支部園芸部による各制度の廃止も被告の審査活動を契機として行われたもので,自主的なものではなく,③土佐あき農協は,事務局等として支部園芸部の意思決定に関与し,その内容を認識していたにもかかわらず,漫然とその内容を前提として販売事業を行っており,④土佐あき農協の職員が,土佐あき農協の了解なく,系統外出荷手数料及び罰金の徴収等を行い,販売事業に係る経費に充当することはできなかったことからすれば,本件行為と類似の取引が繰り返されるおそれがある。また,土佐あき農協の取引の相手方である組合員はその多くが小規模の個人の農業者であるから,本件行為が排除されたことを確実に認識させることが重要であり,支部園芸部が制度を廃止しただけでは競争秩序の回復が不十分である。
したがって,被告が土佐あき農協に本件命令を命じることは「特に必要があると認められるとき」(独禁法20条2項,7条2項本文)に該当する。
(原告の主張)
被告は,違反行為の認定に当たって,支部園芸部の除名等の規約,系統外出荷手数料,罰金の各制度を前提としながら,違反行為の終期に関してのみ,支部園芸部によるこれらの制度の廃止とは別に,土佐あき農協の積極的措置を要求しており,背理である。
また,被告は,本件行為が長期間にわたり行われたなどと主張するが,土佐あき農協が支部園芸部の行為を是正しなかったことを問題視するにすぎず,このような消極的な不作為により本件命令の必要性があるとはいえない。
⑸ 本件命令が独禁法「第8章第2節に規定する手続」に従って行われたか
(被告の主張)
本件命令は,土佐あき農協に対する意見聴取(独禁法49条)や所定の事項を記載した排除措置命令書の送達(独禁法61条)など,独禁法「第8章第2節に規定する手続」(独禁法20条2項,7条2項本文)に従って行われた。
原告は,意見聴取の再開が独禁法59条に反し違法であると主張するが,意見聴取の終結後に排除措置命令の原因となる事実の範囲を超えた新たな事実又はこれに関する証拠が判明し,これにより処分の原因となる事実が大きく異なることとなる場合に,新たに意見聴取を行うことは可能である。被告は独禁法59条に規定する意見聴取の再開ではなく,新たな意見聴取を行ったものであり,このような処理は適法である。
(原告の主張)
被告は,平成28年5月27日,土佐あき農協に対して独禁法50条に基づき意見聴取通知書を送付し,同年6月16日及び7月15日に意見聴取期日が開催された。この段階での排除措置命令書(案)では,被告は,支部園芸部が土佐あき農協の内部組織であり,土佐あき農協が系統外出荷手数料及び罰金を徴収していたと認定し,法令の適用については一般指定11項(排他条件付取引)に該当するとしていた。しかし,被告は,同年10月4日になって土佐あき農協及び支部園芸部に対して立入検査を行い,平成29年1月26日,土佐あき農協に対し,2回目の意見聴取通知書を送付し,同年2月17日及び3月9日に意見聴取期日が開催された。この段階での排除措置命令書(案)においては,被告は,支部園芸部は土佐あき農協とは独立の生産者組織であり,系統外出荷手数料及び罰金は支部園芸部が定めて徴収していたなどと認定を変更し,法令の適用についても,一般指定12項(拘束条件付取引)に変更した。
同一事件につき意見聴取を再開することができるのは,「意見聴取の終結後に生じた事情に鑑み必要があると認めるとき」(独禁法59条),すなわち意見聴取終結後かつ排除措置命令を行うまでの間に,排除措置命令の原因となる事実の範囲内で当該事実関係の判断を左右し得る新たな証拠を得た場合など,意見聴取の終結後に生じた事情に鑑み必要があると認めるときに限られるべきところ,本件のように全く同一事件につき意見聴取手続の終了後に意見聴取を再開することは,同条を潜脱し,違法である。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,証拠(後記認定事実末尾記載の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
⑴ 支部園芸部の沿革及び単位農協の統合に関する経緯等
ア 園芸組合の発生と安芸市農業協同組合との統合
土佐あき農協管内では,農業協同組合が発足する以前の大正時代から,農業者が任意に結成した園芸組合が多数存在しており,これが集出荷施設を所有し,作業員を雇用するなどして,共同で出荷,販売を行う仕組みを構築していた。
単位農協の1つである安芸市農業協同組合の管内の園芸組合は,昭和45年頃,行政の指導により,園芸農産物専門の農業協同組合として独自の運営をするか,信用事業,販売事業,購買事業などを兼営する総合の農業協同組合である安芸市農業協同組合と統合して運営するかの検討を求められた。その結果,園芸組合は,安芸市農業協同組合に対し,所有する集出荷場などの施設,土地や機械を譲渡するが,集出荷場の運営を行う生産者組織自体は支部園芸部として残すこととして,当該管内の13の園芸組合と安芸市農業協同組合とが統合した(甲22)。
イ 平成10年10月の合併に向けた動き
JAグループは,農畜産物の輸入自由化,米流通の自由化,金融自由化などの情勢の変化に対応するため,合併による組織と経営基盤の強化に取り組み,全国的に農業協同組合の広域合併を進めていた。土佐あき農協管内においても,平成5年頃から高知県東部の農業振興の拠点となるべく単位農協が広域合併を行う機運が高まり,合併研究会が発足し,園芸農産物の販売事業のあり方についても研究,検討が行われた。その過程で,実質的には別の組織として活動している単位農協と園芸組合とが大同団結していく必要性が認識された。しかし,単位農協の合併実現の目標期限とされた平成10年10月が迫る中,園芸組合が既に単位農協の支部園芸部となっている場合でも,その運営に相当の差異が残っていたことなどから,直ちに園芸組合との統合を完了し運営を統一化することは断念しつつも,園芸組合との統合及び広域合併後の農業協同組合(土佐あき農協)の園芸部の運営について,以下のように取り組むこととし,同年2月,合併経営計画書が単位農協で承認された(乙98中の合併経営計画書(案)(18頁))。
(ア) 単位農協は園芸組合と協議し,平成10年10月までの統合に向けて取り組み努力し,それまでに統合が不可能な地区については,合併後速やかに統合できるよう引き続き取り組む。
(イ) 合併後の農業協同組合の園芸部の運営については,平成12年9月から統一することを目指す。農業協同組合と支部園芸部との関わり,位置付けにつき,農業協同組合の園芸部として以下のとおり明確にすることなどが事業運営に係る課題である。
a 生産者は農業協同組合に販売を委託し,受託者たる農業協同組合は,集荷,選別,荷造り,販売を通ずる受託事業を行う。したがって,支部園芸部の規約の中の事業については,受託事業の記入は不要である。
b 受託販売に係る課税関係は,農業協同組合の他の事業と合算して申告する。
c 受託事業に係る機械施設,従業員,職員等は,農業協同組合の責任において処置する。
d 受託販売に係る手数料,受託販売債権,債務,固定資産,人件費等は,全て農業共同組合の財務諸表に計上する。
e 支部園芸部は受託事業を行わないので,支部園芸部の規約は農業協同組合の下部組織として,農業協同組合の受託販売事業に係る調整や生産・販売等に係る技術等の研究,園芸振興のための情報交換等が中心となる。
f 受託事業に要した経費は,委託者たる生産者が負担することとし,総合事業の中での部門独立採算制を確立する。
ウ 安田農業協同組合と園芸組合の統合準備
単位農協の1つである安田農業協同組合は,平成10年9月にその管内にある2つの園芸組合(東島支所,唐浜支所)を同農業協同組合に統合するため,同年7月,これら2つの園芸組合との間で覚書を締結した。当該覚書及びこれに先立つ「園芸部統合に係る意見・要望等合意書」には,安田農業協同組合がこれらの園芸組合の所有する集出荷場建物等を買い取る等の方法で財産を引き継ぎ,また,これらの園芸組合の職員も引き継ぐこと,支所運営委員会と支所独立計算は安芸地区農協園芸部統合まで残すこと,系統外販売については安田農業協同組合が支所運営委員会と連携して対応することなどが記載された(甲23)。
エ 平成10年10月の合併と土佐あき農協の誕生
12の単位農協は平成10年10月に合併し,土佐あき農協となった。
その後,土佐あき農協は,平成12年10月24日の理事会において,園芸販売の事務取扱について協議し,平成13園芸年度から農協手数料を2.7%とし,支部運営手数料を0.8%とする旨決議した。その際,単位農協の合併に先立ち協議された園芸事業の統一は,同年9月までに達成できず遅れていること,指導販売委員会や集出荷場の組織代表者会で協議する予定であることが話し合われた。なお,上記の手数料率は,前園芸年度の集出荷場の運営が黒字であるか赤字であるかを問わず,土佐あき農協管内の全ての集出荷場につき一律に設定されたものである。(乙7,証人《D》)
⑵ 土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託を巡る状況等
平成24年産(平成23年12月から平成24年11月までを主たる収穫・出荷期間とする農産物のことである。以下に同じ。)から平成26年産のなすの高知県における出荷重量の合計は10万4400トンであり,そのうち土佐あき農協管内からのなすの出荷重量の合計は9万1317トンであって,約87.5%を占めていた(乙60,61)。
また,平成28年7月末の時点で土佐あき農協管内にはなす農家が1102名おり,そのうち632名がいずれかの支部園芸部の支部員である。土佐あき農協管内の各地域ごとのなす農家の数の内訳(括弧内はそのうち支部員の数)は,芸西地区207名(108名),赤野地区133名(81名),穴内地区100名(56名),安芸地区(赤野及び穴内を除く)392名(200名),中芸地区(唐浜含む)205名(129名),芸東地区65名(58名)である。
土佐あき農協管内及びその周辺地域においてなすの販売を受託している事業者は,土佐あき農協及び商系三者である。商系三者は,集荷するなすの約9割以上を土佐あき農協管内から集荷している(乙55~57)。土佐あき農協が平成24年4月から平成27年3月までの3年間に園芸連から支払を受けたなすの販売金額は,同販売金額と商系三者が仲卸業者等に販売したなすの販売金額との合計のうちの4割を超えていた。
⑶ 土佐あき農協を経て園芸連にするなすの販売委託
ア なすの販売委託の流れ
農業者は,土佐あき農協を通じて園芸連へなすの出荷を希望する場合には,土佐あき農協が所有する集出荷場になすを持ち込む。
集出荷場では,ここに勤務する土佐あき農協の従業員が,なす自動選果機を用いて又は手作業により,組合員が持ち込んだなすを重量,長さ,着色状況等により園芸連の規格(A~D及び規格外のE)に選別し,梱包等の出荷作業を行う。選別・梱包されたなすは,土佐あき農協から園芸連へと販売委託される(弁論の全趣旨)。
園芸連は,土佐あき農協から販売委託を受けたなすにつき,更に全国の卸売業者等に対して販売の再委託を行う。卸売業者等は,仲卸業者等になすを販売する。園芸連はその組合員以外の者からはなすの販売を受託していない。土佐あき農協は園芸連の組合員であるが,支部園芸部及び土佐あき農協の個々の組合員は,園芸連の組合員ではない。
イ 販売代金の精算
園芸連から販売委託を受けた卸売業者等は,仲卸業者等に販売したなすの販売代金の8.5%相当額を販売手数料として控除し,残額を園芸連に支払う。園芸連は,卸売業者等から支払われた金額から運賃等の諸経費を控除し,残額を土佐あき農協に支払う。土佐あき農協は,園芸連から支払われた金額から諸掛預り金等(後記⑸ウ(ア)参照)を控除し,当該控除後の残額から,当該残額に3.5%を乗じた金額(このうちの2.7%分が「農協手数料」であり,0.8%分が「支部運営手数料」である。)を更に控除する。土佐あき農協は,出荷から概ね20日後までに,農業者に対し,農協手数料及び支部運営手数料控除後の残額を農業者ごとの出荷実績に基づき精算した上で,販売代金として支払っている。
ウ 販売実績
土佐あき農協が平成24年4月から平成27年3月までの間に園芸連から支払を受けたなすの販売金額は,合計159億0492万1000円である(乙59)。なお,土佐あき農協は,園芸販売部門の事業計画の重点実施事項として,系統出荷率の向上を掲げている(乙5(89頁),24)。
⑷ 商系三者に対するなすの販売委託(乙55~57,59)
ア なすの販売委託の流れ
農業者は,商系三者へのなすの出荷を希望する場合には,原則として自ら選別,梱包を行い,商系三者又はその集荷拠点までなすを運搬するが,農業者の要望により商系三者の集荷担当者が農業者の自宅まで集荷に赴くこともある。
商系三者は,集荷したなすを,自ら開設する卸売市場において,仲卸業者等に販売している。
イ 販売代金の精算
商系三者は,仲卸業者等に販売したなすの販売代金の8.0%ないし8.5%を自らの販売手数料として差し引き,更にそこから集荷に係る荷捌き料等の諸経費を控除する。商系三者は,早ければなすが出荷された日の翌日までに,農業者に対し,当該控除後の残額を販売代金として支払っている。
ウ 販売実績
商系三者が平成24年4月から平成27年3月までの間に仲卸業者等に販売したなすの販売金額は,合計199億9172万8201円である。
⑸ 土佐あき農協におけるなすの販売受託及び集出荷場の運営
ア 集出荷場の所有及び従業員の雇用
土佐あき農協は,集出荷場の土地,建物,選果機等の集出荷のための機械設備等を所有している。また,土佐あき農協は,就業規則を定めて従業員を雇用し,集出荷場での園芸農産物の選果や梱包等の作業に当たらせている。
さらに土佐あき農協は,集出荷場ごとに場長,係長等の役職として雇用する職員を配置し,支部園芸部の運営委員会の事務局業務,支部園芸部管理通帳の入出金,出荷時の荷受処理,販売代金の精算業務(仮精算),出荷荷造経費の支払,場従業員の給与計算及び雇用事務,園芸年度ごとの園芸決算書の作成,園芸決算確定後の精算事務(本精算)などの職務に従事させている。
(乙11,12)
イ 園芸事業の精算
土佐あき農協の職員は,月に一度,1か月分の諸掛預り金については土佐あき農協の支所ごとに割り当てられた「園芸諸掛仮受金」の科目に,農協手数料については土佐あき農協の支所ごとに割り当てられた「園芸受入手数料」の科目にそれぞれ振り替えるとともに,支部運営手数料を支部園芸部の運営委員長などの名義で土佐あき農協に開設されている普通貯金口座(以下「支部口座」という。)に入金処理している。また,土佐あき農協の職員は,集出荷場の従業員の人件費や荷造りに要する段ボール代を,園芸諸掛仮受金の科目から振り替える方法で支払っている。
(乙21(10頁),46の1(11頁~)51)
ウ 園芸決算
土佐あき農協の職員は,園芸年度ごとに1回,諸掛預り金及び農協手数料を主たる収入として販売事業に係る精算を行っており,土佐あき農協ではこれを園芸決算と呼んでいる。園芸決算は,集出荷場ごとに,下記の諸掛会計,農協会計及び支部会計の3本立てで行われており,各会計ごとに損益計算書が作成される。(乙38~41)
(ア) 諸掛会計とは,諸掛預り金を主たる収入とし,荷造り材料費,従業員(詰め作業員)の賃金・法定福利費,機械(荷造り機械,包装器具,車両運搬具)の保守修繕・減価償却費,水道光熱費等を支出とする会計である。
(イ) 農協会計とは,農協手数料,園芸機械利用料(諸掛会計から機械の減価償却費として支出された分を繰り入れる)及び園芸雑収入(諸掛会計から水道光熱費として支出された分を繰り入れる)を主たる収入とし,場園芸担当職員の人件費,集出荷場建物固定資産税・減価償却費,施設管理費,諸掛会計から徴収する経費(機械の減価償却費,水道光熱費)などを支出とする会計である。
(ウ) 支部会計とは,支部運営手数料を主たる収入とし,正副運営委員長手当等の支部園芸部の役員手当,会議費,交際費,組織助成費などを支出とする会計である。
エ 剰余金の還元・赤字の補填
諸掛会計,農協会計及び支部会計のいずれについても収入が支出を上回れば,その分は農業者に還元される(諸掛会計につき諸掛還元金,農協会計及び支部会計につき賦課金還元金という。)。土佐あき農協の職員は,支部園芸部の総会決議に基づき,各支部員に対して支払う額を計算し,土佐あき農協名義の当座口座から支部員の口座に支払う手続をする(乙21(13頁))。穴内支部では,一旦穴内支部の支部口座に振り替えられた後,同日のうちに,支部員の口座に振り替えられ,又は現金で出金されて支払われる(甲97,98の2,99の1・2)。安芸支部や芸西支部では,土佐あき農協の勘定科目から個々の支部員の営農貯金口座又は普通貯金口座に振り替える方法で還元される(乙15(15頁~),乙18(11頁~),乙52の3(4,5頁))。
他方で,農協会計につき支出が収入を上回る場合には,支部会計又は諸掛会計に還元金があればそれを農協会計に繰り入れて補填し,それでも足りなければ当該支部員(農業者)から不足額を徴収して賄うことになっている(独立採算制。乙46の1(5頁等),51(8頁))。
オ 土佐あき農協における園芸決算等に関する職員への指示
(ア) 土佐あき農協では,平成22園芸年度までは,園芸決算において,集出荷場ごとに共通した収入項目と支出項目を用いた統一的な処理が行われていなかった。しかし,土佐あき農協は,平成23年頃に税務監査を受けたことを契機として,園芸課(販売事業を担当する園芸販売部に属し,園芸農産物の販売事業を管轄する部署である。)において前記ウの3つの会計の構成を整理し,各集出荷場で統一的な園芸決算を行う方法を検討した。その後,土佐あき農協は,本部園芸運営委員会や各支部園芸部の総会の了承を得て,園芸事業の事務処理マニュアル(23園芸年度版)を作成し,集出荷場に勤める土佐あき農協の職員等に対し,園芸決算に係る事務処理方法等を指示した。その結果,園芸決算に当たっては,まず農協会計,支部会計及び諸掛会計の損益決算書等を稟議書として園芸課に提出し,その稟議決裁を受けた後,支部園芸部の運営委員会に報告し,総会を開催することになった。各集出荷場の平成23園芸年度から平成28園芸年度までの園芸決算は,この指示に基づき統一的に行われた(乙46の1(14頁~),51)。
(イ) また,土佐あき農協の園芸販売部は,平成23年3月,土佐あき農協の職員である集出荷場の場長に対し,今般,土佐あき農協の販売業務規程により,系統外の販売取引先について,土佐あき農協の理事会の承認を受けて取引業者登録台帳を統一して作成・管理することになったこと,稟議決裁や理事会承認を受けていない取引先は土佐あき販売業務規程違反となることを告げ,管理簿を作成し園芸販売部まで送付するよう指示した(乙96)。
カ 土佐あき農協における業務報告
土佐あき農協は,事業年度(当年4月1日から翌年3月31日まで)ごとに高知県に業務報告書を提出していたところ,平成23年度から平成26年度にかけて作成された業務報告書では,土佐あき農協の販売事業の取扱高のうち組合員以外の者による利用高は0と記載されている。
また,平成27年度の業務報告書には,販売事業の当期取扱高107億3362万7519円に対し,当期組合員利用高106億8742万4626円と記載されている。同年度の原告の園芸販売部門取扱高のうち,なすは57億6413万円である。
(乙5(77頁),103の1~5)
⑹ 支部園芸部の集出荷場の運営
支部園芸部は,意思決定機関として支部員が構成する総会と,運営委員が構成する運営委員会を置いている。支部園芸部は,毎園芸年度終了後の毎年10月に総会を開催し,当該園芸年度の事業報告(集出荷場の出荷量,売上金額等)の承認,諸掛会計,農協会計及び支部会計の収支決算の承認,これらの会計から農業者への還元金がある場合にはその処分方法の承認,翌園芸年度の事業計画(出荷量,販売高の計画等)の承認,諸掛会計,農協会計及び支部会計の予算承認,選果機パソコンの入替えのための積立金などの議案につき決議を行っている。また,支部園芸部は,必要に応じて運営委員会を開催し,出荷数量当たりの諸掛預り金の額の決定などを行っている。(乙42の1~乙45の2)
⑺ 本件行為に係る条件の実施状況
ア 系統外出荷による除名等
(ア) 室戸,吉良川,羽根及びこれらが平成27年8月に統合した芸東,中芸,安芸,穴内,芸西の各支部園芸部は,その規約において,支部員が部会・運営委員会の勧告を無視して系統外出荷を続けるときは,出荷を停止し又は除名することができる旨の規定を置いていた(乙26の2~5・7・8・10・11)
また,唐浜支部は,支部の承認を得ずに支部に出荷すべき園芸生産物を他に売却する等で組織の団結を乱す行為をした支部員を除名できる旨の規定を置いていた(乙26の6)。
上記各支部のうち唐浜及び芸東以外の支部園芸部の規約には,除名の処分を受けた場合,当該支部園芸部への再加入が5年間できない旨の規定がある。
(イ) 土佐あき農協は,集出荷場への出荷以外の方法でなすの販売を受託し,園芸連に販売を再委託することはなかった(証人《E》,証人《F》,証人《G》)。
平成24年4月以降平成28年11月までの間,支部員以外の者が集出荷場になすを出荷した実績は,唐浜集出荷場における2人のみで,いずれも唐浜支部の運営委員会が非支部員利用を許可した者であった(乙12,54)。
また,農業者が集出荷場になすを出荷する方法で土佐あき農協になすの販売を委託するためには,各支部における運営委員会の承認を受け,生産者コードを付与され,販売代金精算システムに登録してもらわねばならず,集出荷場に設置されたなす自動選果機は,生産者コードを入力しないと動かない仕組みであった(乙19)。
加えて,安芸支部の支部員が平成24年10月に運営委員会から支部員資格の停止処分を受けた際,土佐あき農協の職員は,なす自動選果機等の機械設備のタッチパネルから当該支部員の氏名を消去し,当該支部員が機械設備を利用できないようにした(乙76)。
(ウ) 平成24年8月から平成25年2月までの中芸集出荷場への1農家当たりの出荷重量は10アール当たり平均5.5トンであったところ,中芸支部の運営委員会は,平成25年4月頃,出荷重量が10アール当たり3トン未満となっていた支部員13名に対し,出荷重量が少ない旨を勧告し,その原因が系統外出荷であるか等を確認するために聞き取り調査を行った。その後,当該支部員13名のうちの4名が,系統外出荷をやめるつもりはないとして中芸支部を脱退する旨を述べた。中芸支部は,同年6月29日の運営委員会において,当該支部員4名のうちの3名につき自主脱退を認め,脱退しなければ除名することを決定し,同年8月27日の運営委員会において,当該3名を含む5名の支部員の脱退を承認した。(乙14,58,77,79の1・2)
(エ) 芸西支部においては,自主脱退を希望した支部員がいたものの,同支部規約には任意脱退の規程がないため除名の形を取らざるを得ないなどとされ,同支部員は,平成27年10月の総会において,除名処分となった(甲17,弁論の全趣旨)。
イ 系統外出荷手数料
(ア) 安芸支部,穴内支部,赤野支部及び芸西支部では,支部員が商系業者に出荷したなすについて,商系業者から支払を受ける手取り金額(ただし,芸西支部においては,年間の販売金額から支部員が保有する栽培面積10アール当たり20万円を控除した金額)に3.5%を乗じた金額(系統外出荷手数料)を徴収していた。なお,安芸支部及び赤野支部においては,置き場出荷したなすについても同様に系統外出荷手数料が徴収されており,穴内支部は置き場を設けていなかった。(乙15~18)
(イ) 支部員から系統外出荷手数料を徴収していたのは,土佐あき農協の職員であった。土佐あき農協の職員は,支部員の貯金口座から,支部口座若しくは土佐あき農協の園芸雑収入の勘定科目に振り替える方法により,又は商系業者が支部員の依頼により系統外出荷に係る販売代金の3.5%を支部口座に振り込むなどの方法により,系統外出荷手数料を徴収していた。支部口座に振り替えられ又は振り込まれた系統外出荷手数料は,最終的に土佐あき農協の園芸雑収入の勘定科目に振り替えられていた。(乙15~18,21)
系統外出荷手数料は,園芸決算において,農協手数料と共に農協会計の収入として計上され,農協会計の支出(場園芸担当職員の人件費など。前記⑸ウ(イ)参照)に充てられていた(乙38~41)。
(ウ) 安芸支部,穴内支部,赤野支部及び芸西支部では,平成25園芸年度及び平成26園芸年度に,のべ409名から2265万8763円の系統外出荷手数料を徴収していた(乙81)。
ウ 罰金について
(ア) 穴内支部では,土佐あき農協に対し,穴内集出荷場に導入したなす自動選果機の減価償却費相当額の利用料として,支部員が集出荷場に出荷したなす1キログラム当たり6円を諸掛預り金の中から支払っていた。しかし,商系業者に出荷する支部員が当該利用料を負担しないことで減価償却期間が長くなることを防ぎ,また支部員間の不公平感を解消するため,平成21年の総会において,通常10アール当たり年間15トンのなすを収穫できることを前提に,集出荷場への年間出荷量が10アール当たり12トン以下の者に対し,下回る数量1キログラム当たり3円を罰金として徴収することとしていた。(乙74,84)
そして,穴内支部のなす自動選果機の減価償却は平成25年7月に終了したが,同支部では,同年10月15日の総会において,穴内集出荷場へのなすの年間出荷量が10アール当たり12トン以下の支部員から罰金を徴収することを継続すると決議した。その際,穴内支部の運営委員長は,市場出しをしている者がますます系統外に抜ける可能性が考えられ,系統外出荷を減らしたいために罰金制度を維持したい旨の発言をした。(乙74,115の1,証人《F》)
(イ) 赤野支部は,平成24年10月の総会において,系統出荷量が10アール当たり11トンに満たない支部員から,下回る数量1キログラム当たり3円を罰金として徴収することとした(乙85)。
なお,赤野支部では,置き場出荷したなすを系統出荷量に計上せず,罰金の対象としていた(乙17)。
(ウ) 支部員から罰金を徴収していたのは,土佐あき農協の職員であった。土佐あき農協の職員は,罰金の対象となった支部員の貯金口座からの引き落とし,又は当該支部員に対する還元金から控除する方法により徴収し,支部口座を経由し又は経由せず,土佐あき農協の園芸諸掛仮受金(年度末清算用)の勘定科目に振り替えていた(乙16,17)。
罰金は,園芸決算において諸掛会計の収入に計上され,諸掛会計の支出(荷造り材料費など。前記⑸ウ(ア)参照)に充てられていた(乙39,40)。
(エ) 穴内支部では,平成26園芸年度及び平成27園芸年度に,のべ20名から合計48万4408円の罰金を徴収した。赤野支部では,平成25園芸年度から平成27園芸年度までの間に,のべ16名から合計24万9075円の罰金を徴収した。(乙87)
エ 除名等の制度の廃止
支部園芸部は,遅くとも平成28年10月31日までに,支部園芸部の除名,系統外出荷手数料及び罰金に関する各制度を廃止した。
⑻ 本件命令の手続
被告は,平成29年1月26日,土佐あき農協に対し,意見聴取通知書を送付し,同年2月17日及び3月9日に意見聴取期日を開催した。当該意見聴取期日においては,被告の指定した職員が,土佐あき農協の意見陳述等の経過を記載した調書及び意見聴取に係る事件の論点を記載した報告書を作成した。そして,被告は,当該調書及び報告書の内容を参酌した上で,土佐あき農協に対し,本件命令をした。
被告は,同月29日,土佐あき農協に対し,本件命令を行い,命令書を土佐あき農協に対して送達した。
(乙2~乙3の2,124)
2 争点⑴(土佐あき農協の「相手方」(一般指定12項)が組合員といえるか)について
⑴ 「相手方」の意義
独禁法19条は,「事業者は,不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めているところ,同法2条9項6号ニは,不公正な取引方法に当たる行為の一つとして,相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引する行為であって,公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち,公正取引委員会が指定するものを掲げ,一般指定12項により「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取引すること。」(拘束条件付取引)が指定されている。このように拘束条件付取引が規制されるのは,相手方の事業活動を拘束する条件を付けて取引すること,とりわけ,事業者が自己の取引とは直接関係のない相手方と第三者との取引について,競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは,相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからである(最高裁平成6年(オ)第2415号同10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号1866頁参照)。そのことに鑑みれば,一般指定12項にいう「相手方」とは取引の相手方を意味しており,取引の相手方が誰であるかはその取引の実態に即して判断すべきである。
⑵ 本件における土佐あき農協の「相手方」
ア これを本件についてみるに,前記認定事実のとおり,土佐あき農協がなすの販売を受託するに際して,農業者がなすを持ち込む集出荷場の土地建物や集出荷のための機械設備等を所有し,作業員を雇用して選果・梱包等の作業に当たらせているのは土佐あき農協である(認定事実⑸ア)。また,園芸連から支払われたなすの販売代金から,諸掛預り金等,農協手数料及び支部運営手数料を控除し,その残額を農業者に支払っているのも土佐あき農協である(認定事実⑶イ)。
さらに,集出荷場に勤める従業員の給与や梱包に用いる段ボールの代金等は,一旦土佐あき農協が支払った上で,園芸年度ごとの園芸決算の際に諸掛預り金を収入として上記支払に充てられている(認定事実⑸イ)。また,集出荷場の建物の固定資産税や施設管理費等の支払には,農協手数料が充てられている(認定事実⑸ウ(イ))。そうすると,上記のとおり,諸掛預り金や農協手数料は農業者が販売を委託したなすの販売代金を原資とするものであるから,結局,なすの販売受託に要する費用を負担しているのは,第一次的には土佐あき農協,最終的には農業者であって,いずれにせよ支部園芸部ではない。この点,出荷数量当たりの諸掛預り金の金額を決定しているのは支部園芸部の運営委員会であるが(認定事実⑹),このような決定をしているからといって,支部園芸部が諸掛預り金を拠出しているとはいえない。
つまるところ,販売を委託するなすの授受,その販売の結果として得た金銭の授受,販売受託の実施に必要な人的物的資源や費用の提供は,いずれも農業者又は土佐あき農協ないしその職員が行っており,これらに支部園芸部ないしその職員は介在していない。
イ また,土佐あき農協の定款には,土佐あき農協が組合員のために組合員の生産する物資の販売などの事業を行うことが定められ(前提事実⑹イ),土佐あき農協の販売業務規程では,土佐あき農協が組合員から販売品の販売委託を受ける旨定めている(前提事実⑹ウ)。土佐あき農協がなすの販売受託においてしていた販売代金の精算方法(土佐あき農協が取扱手数料や経費を控除した残額を組合員の貯金口座に振り込む方法。認定事実⑶イ)や,取扱手数料の決定方法(理事会決議による。認定事実⑴エ)は,販売業務規程に定められた方法(前提事実⑹ウ)と一致している。また,土佐あき農協の園芸販売部は,集出荷場の場長に対し,販売業務規程に基づき系統外出荷の販売取引先の登録を要求しており(認定事実⑸オ(イ)),農業者から場の直売ができるようにしてもらいたい旨の要望があったことに対し,土佐あき農協の販売業務規程上,集出荷場への出荷物は原則として園芸連を通じての委託販売を行うこととなっている旨回答したりしているが(乙128),その際なすの販売委託について特段除外していない。以上のことからすれば,なすの販売委託についても,土佐あき農協が組合員から販売品の販売委託を受ける旨定めた販売業務規程の適用があったと推認することができる。
ウ 加えて,土佐あき農協は,高知県に対して,平成23年度から平成26年度までの間の販売事業の員外利用高を0円と報告し,平成27年度の組合員利用高を販売事業取扱高の99%以上に当たる106億8742万4626円(したがって,員外利用高は全体の1%に満たない)と報告している(認定事実⑸カ)。土佐あき農協の組合員又は准組合員ではなかった支部園芸部が土佐あき農協になすの販売を委託していたとすれば,上記報告が誤っていたことになる上,組合員以外の者の事業の利用分量の額は組合員の利用分量の額の5分の1を超えてはならない旨定める農協法の規定(前提事実⑹ア)に抵触しかねなかったといえる。
エ 以上のなす販売受託の実態等に鑑みれば,土佐あき農協は,組合員たる農業者からなすの販売を受託していたと認めることができ,土佐あき農協にとって組合員は「相手方」(一般指定12項)に該当するというべきである。
⑶ 原告の主張について
ア これに対し,原告は,支部園芸部が権利能力なき社団として実体を有していることを前提に,農業者が支部園芸部に,支部園芸部が土佐あき農協に,なすの販売を順次委託していた旨主張し,証人《E》,証人《G》の供述にはこれに沿う部分がある。しかし他方で,乙21号証,50号証及び71号証によれば,土佐あき農協の代表理事又は証人《G》が,自ら作成した陳述書又は被告の審査官に対する供述の中で,土佐あき農協が管内の農業者からなすの販売を受託している旨に言及していることからすると,上記証人らの証人尋問における供述のみを採用することはできない。
イ 原告は,なすの販売受託については土佐あき農協の販売業務規程の適用がなかった旨主張するが,本件全証拠を精査しても,同規程に代わり農業者と支部園芸部,支部園芸部と土佐あき農協との間のなす販売受託を規律する何らかの規程,契約等の存在を認めるに足りる証拠はない。
この点,原告は,支部園芸部と土佐あき農協との間では,なすの販売委託に関し,支部園芸部が土佐あき農協に対して事務(出荷に伴う荷受処理,販売代金の精算業務,集出荷場に係る従業員の雇用事務等)を委託する旨の事務委託契約が締結されており,土佐あき農協はこれに基づき販売代金の精算や従業員の雇用等を行っていると主張し,これに沿う証拠であるとして甲8号証の1ないし7の事務受委託契約書を提出する。しかし,これらの証拠によれば,同契約書は支部園芸部の会計及び事務を土佐あき農協に委託するもので,これを超えてなすの販売受託に係る事務を委託するものではない。さらに,証拠(乙35,49の2)によれば,土佐あき農協は,赤野集出荷場女性部や本部園芸運営委員会などの支部園芸部以外の組合員組織との間でも同内容の事務受委託契約を締結していると認められ,なすの販売委託に関して特に上記事務委託契約が締結されたということもできない。
よって,原告の上記主張は採用することができず,なすの販売委託について土佐あき農協の販売業務規程が適用されていたとの前記認定は左右されない。
ウ(ア) さらに原告は,支部園芸部が,土佐あき農協の発足以前から存在する園芸組合に端を発し,集出荷場を運営し続けてきた経緯からしても,農業者が集出荷場になすを出荷すれば,それは土佐あき農協ではなく支部園芸部に対して出荷したことを意味するなどと主張する。
(イ) この点,支部園芸部の前身である園芸組合が土佐あき農協発足以前から存在し,集出荷施設を所有し作業員を雇用するなどして,共同でなすの出荷,販売を行っていたことは,前記認定事実(⑴ア)のとおりである。また,本件行為の当時においても,支部園芸部の運営委員会が出荷数量当たりの諸掛預り金の額を決定し,支部園芸部の総会が諸掛会計,農協会計及び支部会計の決算を承認するなど,支部園芸部が集出荷場の運営に一定の関与をしている(認定事実⑹)。
(ウ) しかしながら,前記認定事実のとおり,農畜産物の輸入自由化などの情勢の変化に対応すべく,組織と経営基盤の強化のため農業協同組合の広域合併が進められ,土佐あき農協管内でも単位農協の合併が検討される中,単位農協と園芸組合との統合の必要性が認識され,単位農協の合併経営計画書において平成10年10月まで又はその後速やかに単位農協と支部園芸部との統合ができるよう取り組むこととされていた(認定事実⑴イ)。また,安芸市農業協同組合や安田農業協同組合がその管内の園芸組合と統合する際には,園芸組合が所有する集出荷施設や園芸組合の職員を引き継いでおり,なすの販売受託に必要な人的物的資源は農業協同組合が保有するに至った(認定事実⑴ア,ウ)。そのため,農業協同組合との統合後も園芸組合の組織が支部園芸部として残ったとはいえ,前記のとおり,支部園芸部は,なすの販売受託において,なす及びその販売代金の授受並びに販売受託の実施に必要な人的物的資源及び費用の提供をしていないことは明らかである。
(エ) これらに加えて,受託販売に係る農協手数料等が土佐あき農協の財務諸表に計上され,受託販売に係る課税につき土佐あき農協の他の事業と合算して申告されていた(乙46の1)など,農業協同組合による園芸部の運営の統一に向けた課題事項として合併経営計画書に盛り込まれた事項(認定事実⑴イ(イ)b,d参照)の多くが実現されていること,平成12年10月には,土佐あき農協の理事会決議において,平成12園芸年度まで集出荷場ごとに異なっていた手数料の率を,前園芸年度の集出荷場の運営が赤字であったか黒字であったかを問わず一律に,農協手数料2.7%及び支部運営手数料0.8%に統一し(認定事実⑴エ),また平成23年頃には,土佐あき農協が税務監査を受けたことを契機として集出荷場の園芸決算の方法を統一した(認定事実⑸オ(ア))など,土佐あき農協の下で園芸事業の運営が次第に統一されたことなどからすれば,遅くとも本件行為の始期である平成24年4月の時点における支部園芸部の集出荷場運営に対する関与のあり方は,園芸組合の頃のそれとは大きく変容していたというべきである。
よって,前記の経緯や支部園芸部の集出荷場運営への関与を踏まえたとしても,農業者による集出荷場へのなすの出荷が支部園芸部への販売委託であるとする原告の主張は,採用することができない。
⑷ 小括
したがって,土佐あき農協にとって,組合員はなすの販売受託の「相手方」(一般指定12項)であるといえる。
3 争点⑵(土佐あき農協が組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」(一般指定12項)組合員と取引していたか)について
⑴ 「拘束する条件」の意義
一般指定12項にいう拘束があるというためには,必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず,それに従わない場合に何らかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りるというべきである(最高裁昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)。
⑵ 土佐あき農協による本件行為
ア 土佐あき農協管内の支部園芸部の大半は,その規約において,支部員が支部園芸部の勧告を無視して系統外出荷を続けた場合には,除名又は出荷停止の処分をすることができる旨定めていた(認定事実⑺ア(ア))。土佐あき農協は,集出荷場への出荷以外の方法でなすの販売を受託し,園芸連に販売を再委託することはなかったところ(認定事実⑺ア(イ)),集出荷場を利用することができるのはおおむね支部員等のみであり,また支部員が支部員資格の停止処分を受けた際には,土佐あき農協の職員がなす自動選果機等の機械設備のタッチパネルからその者の氏名を消去し,その者が機械設備,ひいては集出荷場を利用することができないようにしていた(認定事実⑺ア(イ))。これらの事実によれば,土佐あき農協は,なすの販売を受託することができる組合員を集出荷場を利用することができる支部員等に限定しており,支部園芸部から除名又は出荷停止等の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託しないこととしていたと認められる。
イ また,安芸支部,穴内支部,赤野支部及び芸西支部では,支部員が商系業者になすを出荷した場合に系統外出荷手数料を徴収することとしていたところ,土佐あき農協の職員が実際に系統外出荷手数料を徴収し,土佐あき農協の園芸雑収入の勘定科目に振り替え,土佐あき農協の場園芸担当職員の人件費や土佐あき農協が所有する集出荷場建物の固定資産税,減価償却費等に充てていた(認定事実⑺イ)。
ウ さらに,穴内支部及び赤野支部では,支部員の年間の系統出荷量が10アール当たり12トン又は11トンに満たない場合に罰金を徴収することとしていたところ,土佐あき農協の職員が実際に罰金を徴収し,土佐あき農協の園芸諸掛仮受金(年度末清算用)の勘定科目に振り替え,土佐あき農協が雇用する集出荷場の作業員の賃金や,土佐あき農協が保有する機械の保守修繕・減価償却費等に充てていた(認定事実⑺ウ)。
エ この点,確かに支部園芸部の規約の内容や,系統外手数料及び罰金を支部員から徴収するかを定めていたのは各支部園芸部である(認定事実⑺ア(ア),イ(カ),ウ(ア),(イ))。しかしながら,土佐あき農協管内のなすの販売受託の実態等に鑑み,当該取引が土佐あき農協と組合員との間で行われていたことは前記争点⑴における認定のとおりである。そして,上記各支部園芸部の除名等の制度,系統外出荷手数料や罰金の徴収は,系統出荷率を可及的に増加させることを目的としたものであるといえ,これが土佐あき農協の園芸販売事業の事業計画の重点実施事項(認定事実⑶ウ)に沿うものであることに照らせば,土佐あき農協は,なすの販売を委託しようとする組合員(農業者)をして,系統外出荷を理由に除名されるなどした者から委託を受けないという条件,系統外出荷を行った場合に系統外出荷手数料及び罰金を収受するという条件という,組合員が土佐あき農協以外の者になすを出荷することを制限する条件を付して,なすの販売受託をしていたというべきである。
⑶ 原告の主張について
ア これに対し,原告は,土佐あき農協はなすの販売を受託する者を支部員等に限定しておらず,支部員等以外の者であっても,園芸連の規格等を満たすなすを栽培しさえすれば,集出荷場に出荷する方法によらずとも土佐あき農協を通じて園芸連になすの販売を委託することが可能である旨主張し,証人《E》や証人《G》は同旨の供述をする。しかし,これらの供述は,本件証拠上,土佐あき農協がこのような方法でなすの販売を受託した実績があったと認められないことや,土佐あき農協の理事が,理事会において,集出荷場が組合員と認めなければ出荷することができないと発言していること(乙75)に照らしてにわかに採用することができない。他に,土佐あき農協が,支部員等以外の者からであってもなすの販売を受託していたことを認めるに足りる的確な証拠はないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ さらに,原告は,被告が,本件命令の理由中においては土佐あき農協が自ら以外の者になすを出荷することを制限する条件を付けた旨を認定しながら,本件訴訟においては,土佐あき農協が,系統外出荷を行ったことにより支部園芸部を除名されるなどした者からなすの販売を受託しないという条件並びに支部園芸部が定めた系統外出荷手数料及び罰金を収受するという条件を付けたなどとして,主張をすり替えていると指摘する。
しかし,上記2つの条件は,いずれも組合員に対して土佐あき農協以外の者になすを出荷することを制限する条件を具体的に言い替えたものであると理解することができる。このことは,本件命令の主文第1項⑴においても,「自ら以外の者になすを出荷することを制限する次の条件を付けて」とした上で,上記の指摘に係る除名に関する条件並びに系統外出荷手数料及び罰金に関する条件を掲げていること(乙124)からも明らかである。
よって,原告の上記指摘に係る主張は失当といわざるを得ない。
ウ 加えて,原告は,被告が本件で土佐あき農協を違反行為の主体と認定したことが新はこだて花き組合の事件と整合を欠くなどと主張するが,本件において,土佐あき農協が組合員との取引に当たり組合員の事業活動を拘束する条件を付けていたといえることはこれまで認定,説示したとおりであって,上記事件とは前提となる事実関係が異なるといわざるを得ないから,やはり原告の主張は採用することができない。
⑷ 小括
したがって,本件において,土佐あき農協が,組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」(一般指定12項)組合員と取引していたといえる。
4 争点⑶(本件行為が「不当に」(一般指定12項)拘束する条件を付けた取引に当たるか。)について
⑴ 「不当に」の意義
一般指定12項にいう拘束条件付取引の内容は様々であり得るから,その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し,それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に,初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものというべきである(最高裁平成6年(オ)第2415号同10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号1866頁)。
そして,市場における有力な事業者が,取引先事業者に対し,自己の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為や,取引先事業者に対し,自己の商品と競争関係にある商品の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為を行うことにより,市場閉鎖効果,すなわち新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合には,公正な競争を阻害するおそれがあるというべきである。市場閉鎖効果が生じるか否かの判断に当たっては,具体的行為や取引の対象,地域,態様等に応じて,当該行為に係る取引及びそれにより影響をうける範囲を検討した上で,ブランド間及びブランド内の競争の状況,垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位,当該行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響,当該取引先事業者の数及び市場における地位を総合的に考慮して判断すべきである。
⑵ 本件における市場閉鎖効果
ア 本件において問題となるのはなすの販売受託取引であるところ,土佐あき農協管内からのなすの出荷重量は高知県全体のなすの出荷重量の約87.5%を占めており(認定事実⑵),高知県及びその周辺のなす販売受託業者が土佐あき農協管内以外の地域から十分な量のなすの販売受託を受けることは困難といい得る。加えて,なすが生鮮食料品であって,その生産者たる農業者が生産地から遠くの業者に販売を委託することが考えにくいことを合わせ考えれば,本件行為によって市場閉鎖効果が生じるかを検討するに際には,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託における市場閉鎖効果につき検討することが相当である。
イ 土佐あき農協管内及びその周辺地域において農業者からなすの販売を受託する事業者は,土佐あき農協及び商系三者であるが,平成24年4月から平成27年3月までの間に土佐あき農協が園芸連から支払を受けたなすの販売金額は,同販売金額と商系業者が仲卸業者等に販売したなすの販売金額との合計のうちの4割以上を占めている(認定事実⑵)。その上,農業者は,土佐あき農協になすの販売を委託する場合にのみ,土佐あき農協の集出荷場を利用し土佐あき農協の従業員に選果・梱包をしてもらえるほか(認定事実⑶ア),指定野菜価格安定対策事業に基づく価格差補給金を受領することができることからすると(前提事実⑺イ),農業者にとって土佐あき農協は重要な取引先であって,土佐あき農協はその管内及びその周辺地域におけるなす販売受託の取引市場において特に有力な事業者であるといえる。
ウ 土佐あき農協管内には,平成28年7月末日時点でなす農家が1102名いるところ,そのうち632名がいずれかの支部園芸部の支部員であった(認定事実⑵)。支部員のうち,系統外出荷を理由とする除名等の規定を規約に置いていた支部園芸部(芸西,穴内,安芸(赤野及び穴内を除く。),中芸,芸東)に所属する者は551名,系統外出荷手数料を徴収していた安芸支部,穴内支部,赤野支部又は芸西支部に所属する者は445名,罰金を徴収していた穴内支部又は赤野支部に所属する者は137名であって(以上,認定事実⑵),本件行為の対象となる取引先事業者の数は相当数に上るといえる。加えて,前記のとおり,土佐あき農協のなすの受託販売金額のシェアが4割を超えていることからしても,土佐あき農協管内及びその周辺地域のなす販売受託の取引市場において,本件行為の対象となっている農業者が占める割合は大きいといえ,集荷するなすの大部分を土佐あき農協管内からの集荷に依存していた商系三者にとって,本件行為の対象となっている取引先事業者たる農業者の重要性が高いことがうかがわれる。
これに対し,上記の支部員数に鑑みれば,土佐あき農協管内のなす農家のうち概ね半数は本件行為による拘束を受けていない。しかし,個々のなす農家の収穫量はその所有する農地の面積等による制約を受けることは自明であって,商系業者が,本件行為による拘束を受けていないなす農家に依頼し,増産により出荷量を増やしてもらうなどの方法により,本件行為の拘束を受ける農業者の生産するなすの収穫量に代わる十分な量のなすを集荷し,取引機会を得ることは困難というべきである。
エ そして,本件行為に係る条件は,その性質上,農業者に対し,有力な事業者である土佐あき農協へのなす販売受託ができなくなる事態を避けるべく,支部園芸部から除名等の処分を受けないよう,系統外出荷を行わず又は行うとしてもその量を抑制させるものであり,系統外出荷手数料や罰金の制度も,端的に経済的不利益を避けるべく系統外出荷量を抑制させる効果があるものであって,農業者が本来自由に決定すべき取引先の選択を制約するものであったというべきである。
オ 以上のとおり,高知県内のなすの9割近くという圧倒的多数を生産する土佐あき農協管内のなす農家のうち相当数の者に対し,上記のとおりの性質を有する本件行為による拘束が及んでいたことに加え,商系業者において,本件行為の拘束が及ばないなす農家から,これに代わる十分な量のなすを集荷することは困難と推認することができる。そうすると,土佐あき農協の本件行為によって,集荷するなすのほとんどを土佐あき農協管内から集荷している商系業者にとっては,取引機会が減少するような状態がもたらされるおそれが生じた,すなわち市場閉鎖効果が生じたといわざるを得ない。このことは,実際にも,商系三者が土佐あき農協の組合員に対してなすの出荷の増量や継続を依頼したところ,支部園芸部からの除名や罰金の対象となるおそれがあることを理由に断られたことがあること(乙55,56,122)からも,裏付けられる。
⑶ 原告の主張について
ア(ア) これに対し,原告は,被告が本件で市場閉鎖効果が生じるメカニズムを具体的に示していないなどと主張する。しかし,本件において,高知県内のなすのほとんどを生産する土佐あき農協管内のなす農家の相当数に対し,本件行為による拘束が及んでいることなどからすると,商系業者の取引機会が減少するおそれがあること,すなわち市場閉鎖効果が生じるといえることは,上記認定,説示のとおりである。
(イ) また,原告は,土佐あき農協管内のなすの出荷量に占める系統出荷の量と置き場出荷の量を合計した量の割合は,平成24年度の69.4%から平成27年度の56.0%へと一貫して低下しているとし,土佐あき農協管内又はその周辺地域のなすの集荷市場における土佐あき農協の地位は,年々低下していると主張する。そして,甲40号証によれば上記原告主張のとおりの出荷量の割合の低下を認めることができる。
しかしながら,系統出荷と置き場出荷を合わせた出荷量の割合が低下し,商系業者への出荷量の割合が増加しているからといって,原告の行為がなければ,商系業者へのなすの出荷量は更に増加していたかもしれず,本件行為によっても商系業者の取引機会が減少するおそれがなかったとまでいうことはできない。
(ウ) さらに,原告は,系統外出荷を理由として除名を行った支部園芸部は存在せず,中芸支部における3名の脱退や芸西支部における1名の脱退は自主脱退であること,系統外出荷手数料が自主申告制で徴収されていた上,園芸決算の際に系統外出荷手数料以上の金額を支部園芸部経由で支部員に返還していたこと,罰金を徴収していた支部は少なく,徴収額も少ないことから,本件行為が系統外出荷を抑制する効果は極めて軽微であったことなどを主張する。
しかしながら,上記の自主脱退の点については,中芸支部が,中芸集出荷場への出荷が少ない支部員に対し聞き取り調査を行い,支部員に対し,集出荷場に全量出荷するか支部を脱退するかを迫ったこと,同支部の運営委員会において,支部員3名の自主脱退を認めるが,自主脱退しなければ除名することを決定したことは,前記認定事実(⑺ア(ウ))のとおりである。そうすると,当該3名は,支部園芸部を自主脱退しなければ規約に基づき除名されていた可能性が高かったといえ,芸西支部において除名された1名が自主脱退を希望していた者であったこと(認定事実⑺ア(エ))を考慮しても,系統外出荷の抑制効果が極めて軽微であったということもできない。
(エ) また,系統外出荷手数料を徴収するに当たっては,商系業者に対して支部口座への入金を依頼する(安芸支部・乙15),支部員に商系業者が発行する売上高証明書を提出させる(赤野支部・乙17,芸西支部・乙18)など,系統外出荷及び置き場出荷の数量を正確に把握し得る手法が講じられていた。その上,集出荷場の場長や支部園芸部の運営委員は,支部員ごとの作付面積や系統出荷量を把握し,系統外出荷を行っている可能性が高い支部員を特定することができた(甲39,乙77)。また,場長が支部員の自宅を実際に訪れて聞き取り調査を行えば,系統外出荷をするための白箱と呼ばれる段ボール箱が多数存在することなどから,系統外出荷をしていることを容易に確認することもできた(乙14)。そして,系統外出荷手数料を徴収している支部園芸部の規約において,支部に対する義務の履行を怠ることも除名等の処分の対象となる旨規定されていること(乙26の7~10)などからすれば,たとえ系統外出荷手数料の徴収が自主申告に基づき行われていた(甲39)としても,支部員が,希望しない限り系統外出荷手数料を支払わなくてよいものであるとか,容易に支払を免れられるものであると認識していたとは認められず,系統外出荷を抑制する効果が小さいとはいえない。
加えて,園芸決算による支部員への返金方法は,支部園芸部の総会決議を経て決まるところ(認定事実⑸エ),系統外出荷手数料以外の収入も計上される農協会計(認定事実⑸ウ(イ))からの還元金は,結局のところ,系統出荷を多くした者(したがって系統外出荷手数料の支払額が少ない者)に対して多く分配されるであろうことが容易に推認され,系統外出荷手数料を支払った者のみにその分を返すものであるとは限らない。そうすると,園芸決算の際に系統外出荷手数料の総額以上の還元金がされた年が存在するからといって,個々の支部員にとって系統外出荷手数料を取られることが経済的不利益であることに変わりはない。
(オ) さらに,罰金の徴収を行っていた支部園芸部は穴内支部及び赤野支部の2か部ではあるが(認定事実⑺ウ),そこに所属する支部員は137名であり(認定事実⑵),少ないとはいえない。また,罰金の制度があることにより,支部員が系統外出荷を減らし,その分系統出荷を増やせば,徴収される罰金の額は減少する関係にあるから,実際に徴収された罰金の額が少額であることは,必ずしも罰金の制度が系統外出荷を敬遠させる効果が小さいことを意味しない。
(カ) したがって,原告の前記主張は,いずれも採用することができない。
イ(ア) 次に,原告は,本件行為について,ブランドイメージの保護を通じた産地間競争の促進や,フリーライドの防止という目的があり,これらは正当な目的であるから,本件行為は正当化されると主張する。
(イ) 独禁法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は,公正かつ自由な競争を促進することで,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること(独禁法1条参照)にあるから,取引に拘束条件を付すことについて,公正な競争秩序維持ないし一般消費者の利益確保の見地から正当な目的があり,かつその手段においても相当といえる場合には,一般指定12項にいう「不当な」拘束条件に当たらないと解するべきである。
(ウ) 原告が本件行為の目的の1つとして主張する産地間競争の促進は,公正かつ自由な競争を促進させる効果が認められることもあるから,それ自体として公正な競争秩序維持の見地から正当とされる場合があることを否定することはできない。しかし,公正かつ自由な競争が促進されるためには,各取引段階において公正かつ自由な競争が確保されていることが必要であるというべきであって,産地間競争の促進のための垂直的制限行為によって,産地内競争の減少・消滅等の競争阻害効果が生じる場合があることもまた明らかであることに照らせば,上記原告主張の目的があることのみをもって,土佐あき農協管内又はその周辺地域におけるなすの販売受託の市場における競争を阻害することが正当化されるということはできない。
(エ) また,原告は,「強い農業づくり交付金」を受けて導入したなす自動選果機の利用量が少ないと補助金の返還を求められるなどと主張し,これに沿う証拠として安芸市競争力強化生産総合対策事業費補助金交付要綱を提出する(甲87別紙3)。
この点,同要綱12条には,市長は,事業実施主体が虚偽又は不正の申請により補助金の交付を受けたときなどに,既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる旨の規定がある。そして,当該規定の適用に関する高知県担当者の説明(甲87(2頁))によれば,補助金の返還を求められるのは,導入した選果機の利用率が低くかつ改善の目処が立たないことなどから,補助事業申請時の規模決定根拠がおかしいとして,不正な申請をしたと判断される場合であると認められる。そうすると,選果機の利用率が低い場合であっても,補助事業申請時の規模決定根拠が正しく,不正な申請をしていないときには,補助金の返還を求められるものではない。
加えて,原告が主張するように,指定野菜価格安定対策事業の産地指定を維持するためには,共同出荷組織による出荷を増やす必要があるとしても,そのためには,その必要性を組合員に周知し,自動選果機を利用しやすくしたり,手数料を抑えたりして,系統出荷のメリットを高める取組みをすべきであって,本件行為により系統外出荷を抑制するという手段をとることが上記産地指定維持のために相当であるとはいい難い。
(オ) さらに,原告は,一部の支部員が,強い農業づくり交付金の出荷計画の達成や,野菜価格安定事業の価格差補給金の産地指定要件である自動選果機の利用目標量ないし系統出荷率の達成に協力しないことをもって,フリーライドと呼称し,それを防止することは正当なことであるから,本件行為も正当化されるなどと主張する。
しかしながら,支部員が自動選果機を利用し,あるいは価格差補給金を受給するためには,系統出荷を行う必要があるから,系統出荷をせずに自動選果機や価格差補給金の恩恵を受けることにはならないというべきである。
また,原告は,集出荷施設の人件費など,出荷量にかかわらず賄う必要がある費用があり,一部の支部員がこれを負担せずに集出荷場を利用するというフリーライドを防止する目的があるとも主張する。しかし,農業者が系統外出荷をする際には,利用料等を負担しないものの,そもそも集出荷場を利用していないのであるから,経費を負担せずに集出荷場を利用するというフリーライドの問題があるとはいえない。そして,系統出荷率が低下すると集出荷場の固定費の捻出に支障が出るというのであれば,固定費の削減に努めたり,系統出荷のメリットを高める等の方法により改善を図るべきであって,集出荷場を利用しない系統外出荷に対して金銭的負担を求めることで系統外出荷を抑制することになる本件行為が,集出荷場の固定費捻出の手段として相当であるとはいえない。
(カ) さらに原告は,穴内支部の罰金には平成25年10月以降も袋詰め機械等の減価償却費に充てるという目的があったのであり,赤野支部の罰金はなすの自動選果機の減価償却期間中に徴収されたものであったから,いずれも正当なものであるとも主張する。しかし,本件において,上記各支部における罰金が,これらの機械の減価償却目的を主なものとして実施されたことを裏付ける的確な証拠はない。証拠(甲100の2,乙115の2)によれば,平成25年10月の穴内支部の総会において罰金徴収の継続が決議された際,袋詰め機械等の減価償却に言及されたことは認められるが,他方で,同総会においては,自動選果機の減価償却が済んだ時点で本来罰金制度はなくなるが,今の状態で罰金をかけなければ,ますます系統外出荷が増える可能性があるとの理由で,罰金制度の継続が提案されたことや,要するに系統外出荷を減らしたいために罰金制度を継続するとの発言で議論が締めくくられて,罰金制度の継続が決議されたことも認められる。これらの事実によれば,罰金制度は系統外出荷を制限するために継続されたと推認することができるのであり,袋詰め機械等の減価償却費を捻出する目的を主なものとして罰金制度が継続されたとはいえない。
(キ) したがって,正当化理由があるとの原告の主張は,いずれも採用することができない。
5 争点⑷(本件命令が「特に必要があると認めるとき」(独禁法20条2項,7条2項本文)に当たるか。)について
独禁法20条2項,7条2項本文にいう「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断においては,我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるものというべきであり,その判断について合理性を欠き,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったといえる場合に違法になるというべきである。
本件において,本件行為が4年7か月にわたり行われており,本件行為を取りやめるに当たり,土佐あき農協において積極的な措置がとられたわけではなく,また支部園芸部による各制度の廃止も被告が審査活動に着手した後に行われたものであることや(認定事実⑺に加え,乙124),組合員の多くが個人の農業者であること(乙5(14頁))を合わせ考慮すれば,被告において,本件行為と類似の取引が繰り返されるおそれがあるとして,本件行為が排除されたことを取引の相手方に確実に認識させる必要があると判断して本件命令をしたことが,合理性を欠き,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったとはいえない。
したがって,本件命令は「特に必要があると認めるとき」(独禁法20条2項,7条2項本文)に当たる。
6 争点⑸(本件命令が「第8章第2節に規定する手続」に従って行われたか)について
本件命令が,土佐あき農協に対する意見聴取(独禁法49条)や排除措置命令書の作成及び送達(独禁法61条)など,独禁法20条2項,7条2項本文にいう独禁法第8章第2節に規定する手続を経て行われたことは前記認定事実⑻のとおりである。
この点,証拠(甲2,3及び12)によれば,被告は,本件命令の手続における平成29年1月26日の意見聴取通知書送付以前にも,平成28年5月27日に土佐あき農協に対して意見聴取通知書を送付し,同年6月16日及び7月15日に意見聴取期日が開催されたこと,その際に土佐あき農協に送付された排除措置命令書(案)は,支部園芸部を土佐あき農協の内部組織と認定し,法令の適用についても一般指定11項を適用するなど,本件命令とは異なるものであったことが認められる。そして,原告はこの点を捉えて,本件命令の手続(平成29年1月26日の意見聴取通知書送付,同年2月17日及び3月9日の意見聴取期日開催)における意見聴取の再開が独禁法59条に反し違法である旨主張する。
しかし,意見聴取の終結後に排除措置命令の原因となる事実の範囲を超えた新たな事実等が判明し,処分の原因となる事実が大きく異なることとなる場合には,この点を処分を受ける者に告知し,証拠の閲覧謄写,弁解の機会を与えるためにも,新たな意見聴取を行うことは可能と解するべきであって,原告の主張は独自の見解といわざるを得ず,採用することができない。
7 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成31年3月28日

東京地方裁判所民事第8部 
 裁判長裁判官  岩井直幸
 裁判官     吉岡正豊
 裁判官     太田慎吾

(別紙 省略)
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

??label.pdfdownload_en_US??

back new search