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㈱飯塚工業ほか5名による審決取消請求事件

独禁法3条後段・独禁法7条の2

東京高等裁判所

平成29年(行ケ)第33号

判決

令和元年5月17日

山梨県笛吹市御坂町井之上1511番地
原告  株式会社飯塚工業
代表者代表取締役   《 氏 名 》
山梨県笛吹市八代町北1047番地1
原告  風間興業株式会社
代表者代表取締役   《 氏 名 》
山梨県笛吹市八代町北1991番地
原告  矢崎興業株式会社
代表者代表取締役   《 氏 名 》
山梨県笛吹市石和町井戸111番地の1
原告  株式会社芦沢組土木
代表者代表取締役   《 氏 名 》
山梨県甲府市下向山町1667番地
原告  長田建設株式会社
代表者代表取締役   《 氏 名 》
山梨県中央市大鳥居2760番地
原告  中楯建設株式会社
代表者代表取締役   《 氏 名 》
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告  公正取引委員会
代表者委員長  杉 本 和 行
指定代理人 横 手 哲 二
同     榎 本 勤 也
同     堤   優 子
同     鵜 飼 正 明
同     津 田 和 孝
同     西 川 康 一

令和元年5月17日判決言渡
平成29年(行ケ)第33号
判決

当事者の表示   別紙1「当事者目録」記載のとおり
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告が,原告株式会社飯塚工業,同風間興業株式会社,同矢崎興業株式会社,同株式会社芦沢組土木,同長田建設株式会社及び同中楯建設株式会社に対する公正取引委員会平成23年(判)第53号,第55号,第57号,第61号,第63号ないし第65号,第67号,第69号,第73号及び第75号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件について,平成29年10月4日付けでした審決をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 事実の要旨
⑴ 被告は,原告らを含む別紙2「本件11社目録」記載の事業者11社(以下「本件11社」と総称し,各社については同別紙中の「事業者の略称」によって,その代表者については「代表者」又は「代表者の略称」によって表記する。)が,遅くとも平成18年4月1日から平成22年3月23日までの間(以下「本件対象期間」という。),別紙3「本件10社目録」記載の事業者ら10社(以下「本件10社」と総称し,各社については同別紙中の「事業者の略称」により表記する。また,本件11社と併せて「本件21社」という。)と共同して,別紙4記載の工事(以下「本件土木一式工事」という。)について,受注価格の低落防止を図るために,受注予定者を決定し,受注予定者は受注すべき価格を決め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)をし,本件合意の下で受注調整をしたことは,公共の利益に反して,本件土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限したものであって,この行為は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成23年4月15日,本件10社のうち当時事業活動の全部を取りやめていた7社を除く3社と本件11社を併せた14社に対し,排除措置を命じ(平成23年(措)第2号。以下「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。),さらに,本件違反行為は,同法7条の2第1項1号に規定する役務(以下「当該役務」という。)の対価に係るものであるとして,同日,本件11社のうち原告中楯建設を除く10社に対し,それぞれ別紙5「本件各課徴金納付命令目録」中の「課徴金額」欄記載の課徴金の納付を命じた(平成23年(納)第46号ないし第50号,第52号ないし第54号,第56号及び第57号。以下,上記10社に対する各課徴金納付命令を「本件各課徴金納付命令」と総称し,本件排除措置命令と併せて「本件各命令」という。)。
⑵ これに対し,本件11社は,独占禁止法49条6項に基づき本件排除措置命令の全部の取消しを求める審判請求(平成23年(判)第53号ないし第64号。このうち原告らの審判請求は同第53号,第55号,第57号,第61号,第63号及び第64号)をし,本件11社のうち原告中楯建設を除く10社は,同法50条4項に基づき本件各課徴金納付命令の取消しを求める審判請求(平成23年(判)第65号ないし第75号。このうち原告らの審判請求は,同第65号,第67号,第69号,第73号及び第75号)を併せて行った。被告は,平成29年10月4日付けで,本件11社の上記各審判請求をいずれも棄却する旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,その審決書の謄本は,同月5日,原告らに送達された。
⑶ 本件は,原告らが,被告に対し,①本件違反行為について合理的に推認できる実質的な証拠が存在しないにもかかわらず,その成立を認定し,②違反行為が既になくなっているため「特に必要があると認めるときに限って」排除措置を命ずることができるとされているにもかかわらず,本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれが客観的に認められない3社に対しでも排除措置を命じ,さらには,③本件合意に基づく受注調整が行われて具体的な競争制限効果が発生したことを推認できない工事の入札に対しても課徴金の算定対象とするものであるなどと主張し,本件審決は違法であるとして,本件審決のうち原告らの審判請求に係る部分の取消しを求める訴訟である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実,本件審決が掲記の証拠により認定した事実で原告らも実質的な証拠の欠缼を主張していない事実)
⑴ 本件21社の概要
本件21社は,いずれも山梨県笛吹市(平成18年4月1日から同年7月31日までの間にあっては,同市又は東八代郡芦川村。以下「石和地区」という。),同県甲府市又は同県中央市に本店又は支店を置く建設業者である。
なお,八木沢興業は,山梨県南巨摩郡身延町に本店を置く建設業者であるところ,平成20年10月1日,窪川組から同社の事業の全部を譲り受け,同社の本店を八木沢興業の峡東支店としたものである。(査3ないし5,7,55)
⑵ 本件土木一式工事の概要
ア 発注業務の担当部署
山梨県では,同県が発注する土木一式工事について,本庁又は出先機関の各部署が,それぞれの所掌する事務に応じて発注業務を担当している。
本件対象期間に発注された本件土木一式工事については,山梨県県土整備部(平成20年3月31日以前は土木部。以下同じ。)道路整備課,同部道路管理課,同部峡東建設事務所,同部流域下水道事務所(以下上記4部署をまとめて「山梨県県土整備部等」という。),同県農政部峡東農務事務所(以下「峡東農務事務所」という。),同県森林環境部峡東林務環境事務所(以下「峡東林務環境事務所」という。)等が発注業務を担当していた。(査17ないし19)
イ 入札参加資格者の等級区分及び名簿登載
山梨県は,本件対象期間において,同県が発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加を希望する事業者に対し,これらの入札に参加するために必要な資格の審査を行った上で,当該入札への参加資格を有すると認定した事業者を工事施工能力の審査結果に基づきA,B,C又はDのいずれかの等級に格付して(以下,A等級に格付されている事業者を「A等級事業者」,B等級に格付されている事業者を「B等級事業者」という。),入札参加有資格者名簿(以下「有資格者名簿」という。)に登載していた。(査21,22)
また,山梨県は,土木一式工事を予定価格に応じて区分し,個々の工事の発注に際しては,有資格者名簿に登載されている者のうち当該区分に対応した等級に格付されている事業者が入札参加資格を有する者とされていた。土木一式工事のうち予定価格がおおむね3億円以上の工事については,特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)の施工対象工事とされ,A等級事業者で構成されるJV(A等級事業者で構成することが難しい場合であって特に必要があると認められるときは,A等級事業者及びB等級事業者で構成されるJV)が入札参加資格を有する者とされていた。(査21,23,24)
本件21社は,本件対象期間(ただし,別紙6記載の事業者については,同別紙の「期間」欄記載の各期間)において,A等級事業者又はB等級事業者に格付されていた。(査1)
ウ 工事の発注方法
山梨県は,本件対象期間における本件土木一式工事について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注していた。一般競争入札には,価格により落札者を決定する通常の一般競争入札と,価格に加え評価項目ごとの評価点を考慮する総合評価落札方式による一般競争入札があった。入札の執行は,インターネット上のウェブサイトである山梨県公共事業ポータルサイト(以下「ポータルサイト」という。)の電子入札システム(以下「電子入札システム」という。)により行っていた。(査18,18の2,査23)
本件対象期間における本件土木一式工事の具体的な発注方法は,以下のとおりである。
(ア) 指名競争入札
a 入札参加者
山梨県は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間,予定価格が1億円未満の本件土木一式工事の一部について,指名競争入札の方法により発注し,その大部分において,石和地区に本店を置くA等級事業者又はB等級事業者の中から当該入札の参加者を指名していた。(査18,21,25)
b 入札の実施方法
山梨県は,指名競争入札の方法により発注する場合,有資格者名簿において当該入札の予定価格の区分に対応する等級に格付されている事業者の中から原則として6社ないし10社を指名業者として選定し,当該事業者に対し,入札書提出締切日の約15日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した指名通知書を送付することにより指名していた。
指名を受けた事業者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査21,26,27) 
(イ) 一般競争入札
a 入札参加者
山梨県は,本件対象期間における本件土木一式工事について,指名競争入札の方法によらない場合は一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,山梨県山梨市,同県甲州市(以下,両市の区域を併せて「塩山地区」という。)又は石和地区の区域(以下,石和地区と塩山地区を併せて「峡東地域」という。)に本店を置くA等級事業者又はB等級事業者であることを入札に参加するための条件(以下「入札参加条件」という。)として,公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者又はJVを当該入札の参加者としていた。
なお,本件対象期間に一般競争入札の方法により発注された本件土木一式工事の中には,峡東地域又は中北地域(平成22年6月25日時点における山梨県甲府市,韮崎市,南アルプス市,北杜市,甲斐市,中央市又は中巨摩郡昭和町の区域をいう。)に本店を置くA等級事業者又はB等級事業者であることを入札参加条件とするものや,山梨県内に本店を置くA等級事業者又はB等級事業者であることを入札参加条件とするものもあった。(査18,18の2,査25)
b 入札の実施方法
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約25日前までに,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約1週間前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した競争参加資格確認通知書を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査27ないし29)
(ウ) 総合評価落札方式による一般競争入札
a 導入時期,種類,落札者の決定方法及び入札参加者
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する本件土木一式工事の一部について,平成18年頃から,総合評価落札方式を導入した。
総合評価落札方式には,簡易型(平成18年度導入),特別簡易型(平成20年度導入),特別簡易型(Ⅰ)及び特別簡易型(Ⅱ)(いずれも平成21年度導入。なお,特別簡易型(Ⅰ)は,平成20年度における特別簡易型に相当する。)等の種類がある。
総合評価落札方式では,以下のとおり,入札価格が予定価格の範囲内にある入札者について,あらかじめ定められた評価項目ごとの評価点を合計した後,各入札者の評価点の合計点数の比に応じて加算点(加算点の満点は工事ごとに定める。)を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者としていた。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格×100,000,000
総合評価落札方式における入札参加者は,前記(イ)aと同じである。(査18,18の2,査30ないし34)
b 評価項目
評価項目は,簡易型では①企業の施工実績,②地域精通度,③地域貢献度,④配置予定技術者の能力及び⑤施工計画,特別簡易型(Ⅱ)では上記①ないし④,特別簡易型及び特別簡易型(Ⅰ)では上記①ないし③であり,いずれも評価項目ごとに最高評価点が設定されていた。(査30ないし34)
c 評価点の算出方法
評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料(以下「技術審査資料」という。)に基づき,発注業務を担当する部署(以下「発注担当部署」という。)において,以下のとおり,評価項目ごとに算出することとされていた。
前記b①の企業の施工実績については,都道府県又は国・公団等の同種工事の施工実績の有無,山梨県発注の土木一式工事での工事成績評定点の平均点等,同②の地域精通度については,近隣地域での施工実績の有無等,同③の地域貢献度については,災害協定の締結の有無,土木施設等緊急維持修繕業務委託の実績等,同④の配置予定技術者の能力については,1級土木施工管理技士等又は技術士であるかどうか,同種工事の施工実績等といった客観的なデータを基に入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載した根拠資料を提出することにより点数化されることとされていた。
なお,配置予定技術者は,一定の資格を有することのほかに,対象工事に専任で配置することが必要とされていた。
前記b⑤の施工計画については,入札参加者が客観的なデータを提出するものではなく,「工程管理に係わる技術的所見」,「品質管理に係わる技術的所見」等の5項目の中から選択された1ないし2項目について,入札参加者が提出する施工計画書の内容により,10点(内容が適切であり,重要な項目が記載され,工夫が見られる),5点(内容が適切であり,工夫が見られる),0点(内容が適切である),又は欠格(未記入,又は不適切である)と評価されていた。(査30ないし34)
d 評価項目等の公表
山梨県は,総合評価落札方式における評価項目,評価の方法,最高評価点及び評価値の算出方法について,「山梨県建設工事総合評価実施要領」(以下「総合評価実施要領」という。)に記載し,公表していた。(査30ないし34)
e 入札の実施方法
山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約半月ないし1か月前までに,当該工事の入札方式,総合評価落札方式の種類などの総合評価に関する事項,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約2日ないし7日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した競争参加資格確認通知書を送付していた。入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査27,33ないし35)
エ 最低制限価格及び低入札価格調査の基準価格
(ア) 最低制限価格
山梨県は,本件土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注するもの及び総合評価落札方式以外の一般競争入札の方法により発注するものについて,最低制限価格を設定し,同価格を下回る価格の入札は失格としていた。(査18)
(イ) 低入札価格調査の基準価格
山梨県は,本件土木一式工事のうち総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注するものについて,低入札価格調査の対象とする基準価格(以下「低入札調査基準価格」という。)を設定していた。
山梨県は,入札の結果,評価値が最も高かった者の入札価格が低入札調査基準価格を下回った場合には,落札者の決定を保留した上で,当該入札額で契約の内容に適合した履行がされるか否かについて調査を行い,その結果,適合した履行がされると認めたときは当該入札者を落札者とし,適合した履行がされないおそれがあると認めたときは,他の入札者のうち最も評価値の高い者を落札者としていた。
(査18,36)
オ 入札情報の公表
(ア) 予定価格,最低制限価格及び低入札調査基準価格
山梨県は,本件土木一式工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時又は指名通知時に予定価格を公表していたが,最低制限価格及び低入札調査基準価格については,入札書提出締切日前には公表していなかった。(査37)
(イ) 入札参加者
山梨県は,本件土木一式工事について,入札書提出締切日前には入札参加者を公表せず,落札者決定後速やかに公表していた。(査37)
(ウ) 入札結果
山梨県は,本件土木一式工事の入札結果について,山梨県県民情報センター及びポータルサイトにおいて閲覧に供する方法により,落札者決定後速やかに公表していた。
また,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を,評価調書の様式によりポータルサイトにおいて公表していた。(査30ないし33,37,85)
カ 本件対象期間における本件土木一式工事の発注及び受注状況
本件対象期間に発注された本件土木一式工事は,別紙7「物件一覧」のとおり174件であり(以下「174物件」という。また,個別の工事については,同別紙の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」等と表記する。),その大部分を本件21社又は本件21社のいずれかで構成されるJVが受注した。
174物件の発注担当部署,入札公告日(又は指名通知日),開札日,工事名,施工場所,発注方法,入札参加条件としての本店所在地,予定価格,予定価格の事前公表の有無,入札参加者,入札価格,入札率(予定価格に対する入札価格の割合),落札者,落札率(予定価格に対する落札価格の割合),並びに総合評価落札方式の種類,入札価格以外の評価結果及び評価値は,それぞれ別紙7の該当欄記載のとおりである。
174物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんどにおいて,本件21社の中から当該入札の参加者が指名されている。また,174物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事の入札参加者は,その大部分が本件21社で占められている。(査18,18の2,査153,153の2)
キ 原告ら(ただし,原告中楯建設を除く。)5社の売上額
本件各課徴金納付命令における本件違反行為の実行期間において原告ら(ただし原告中楯建設を除く。)5社(以下「原告ら5社」という。)が受注した本件土木一式工事の売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙8の1ないし5の各「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,原告ら5社の各売上額は上記各別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」欄記載の金額となる。(査18,18の2)
⑶ 石和地区における建設業協会等の概要
ア 社団法人山梨県建設業協会石和支部
(ア) 事務所
社団法人山梨県建設業協会石和支部(以下「石和支部」という。)は,社団法人山梨県建設業協会の支部であり,山梨県笛吹市石和町広瀬765番地に所在する同支部の会館(以下「石和支部会館」という。)内に事務所を置いていた。(査3ないし5)
(イ) 会員及び事業
石和支部の規約によれば,同支部は,山梨県県土整備部峡東建設事務所管内(平成23年9月16日当時の所管区域は,山梨市,笛吹市及び甲州市の区域)に本店又は営業所等を有する建設業者を会員とし,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,官庁その他関係団体及び機関との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
本件21社のうち八木沢興業を除く20社は遅くとも平成18年4月以降に,八木沢興業は平成20年10月頃以降に,それぞれ石和支部の会員となっていた。
また,本件対象期間において,石和支部の会員のうち,A等級事業者又はB等級事業者であって本件土木一式工事の入札に参加していた事業者は,本件21社のみであった。(査3ないし7,55)
(ウ) 役員
石和支部では,支部長,副支部長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長(以下「石和支部の執行部」と総称する。)は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた。
平成18年度ないし平成21年度の石和支部の支部長は原告飯塚工業の《A1》社長,副支部長は原告矢崎興業の《B》社長であった。また,平成19年度からは小泉建設の《C1》社長が,平成21年度からは栗田工業の《D1》社長が,石和支部の副支部長に加わった。(査3ないし7,56)
(エ) 職員
石和支部は,事務員として《E》(以下「《E》事務員」という。)を雇用しており,同事務員は石和支部会館において勤務していた。(査3,4,62)
(オ) 石和支部に対する過去の勧告審決
被告は,平成6年5月16日,石和支部が遅くとも昭和62年4月までに,山梨県が指名競争入札の方法により発注する土木部所管で石和土木事務所の管轄区域を施工場所とする土木一式工事(共同施工方式により施行される工事を除く。)について,支部員の受注価格の低落を防止するため,支部員に,あらかじめ受注予定者を決定させ,受注予定者が受注できるようにさせていた行為が,当時の独占禁止法8条1項1号の規定に違反するものであるとして,同支部に対し,勧告審決をした(平成6年(勧)第15号。以下「石和支部に対する平成6年の勧告審決」という。)。
本件21社のうち友愛工業,原告芦沢組土木,原告長田建設,八木沢興業及び地場工務店の5社を除く16社は,石和支部に対する平成6年の勧告審決以前から石和支部の会員であったところ,平成7年4月14日,被告から,同審決に伴い課徴金納付命令を受けた。(査38,39)
イ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部
(ア) 事務所
社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(以下「土地協会峡東支部」という。)は,社団法人山梨県土地改良協会の支部であり,石和支部会館内に事務所を置いていた。(査8ないし10)
(イ) 会員及び事業
社団法人山梨県土地改良協会の定款及び土地協会峡東支部の規約によれば,同支部は,峡東農務事務所管内に本店を置く建設業者を会員とし,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,関係団体との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
本件21社のうち八木沢興業を除く20社は遅くとも平成18年4月以降に,八木沢興業は平成20年10月頃以降に,それぞれ土地協会峡東支部の会員となっていた。(査7ないし11,55)
(ウ) 役員
土地協会峡東支部では,支部長,副支部長及び理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,支部長及び副支部長のうち石和地区に本店を置く事業者の役員又は従業員を「土地協会峡東支部の執行部」と総称する。)。
平成18年度の支部長は塩山地区に本店を置く株式会社《会社名略》の《氏名略》社長,副支部長は宮川工務所の《氏名略》社長,栗田工業の《D2》社長(同人は,平成20年7月に栗田工業の代表取締役を退任している。以下「栗田工業の《D2》前社長」という。)であった。また,平成19年度ないし平成21年度の支部長は原告矢崎興業の《B》社長,副支部長はいずれも塩山地区に本店を置く《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び《会社名略》株式会社の《氏名略》社長であった。(査8ないし10)
ウ 塩山地区治山林道協会
(ア) 事務所
塩山地区治山林道協会(以下「塩山治山協会」といい,石和支部及び土地協会峡東支部と併せて「石和支部等」という。)は,社団法人山梨県治山林道協会の地区協会であり,山梨県甲州市塩山熊野137番地に所在する山梨県建設業協会塩山支部会館内に事務所を置いていた。(査12ないし15)
(イ) 会員及び事業
社団法人山梨県治山林道協会の定款及び塩山治山協会の規約によれば,塩山治山協会は,峡東林務環境事務所管内に本店を置く建設業者を会員とし,治山事業並びに林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布,官庁その他関係団体及び機関との連絡,交渉並びに提携等の事業を行うものとされていた。
本件21社のうち原告芦沢組土木,原告長田建設,八木沢興業,地場工務店及びサノ工業の5社を除く16社は遅くとも平成18年4月以降に,八木沢興業は平成20年10月頃以降に,塩山治山協会の会員となっていた。(査7,12ないし16,55)
(ウ) 役員
塩山治山協会では,会長,副会長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,会長及び副会長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,塩山治山協会の会長及び副会長のうち石和地区に本店を置く事業者の役員又は従業員,石和支部の執行部及び土地協会峡東支部の執行部を併せて「石和支部等の執行部」という。)。
平成18年度の会長は,塩山地区に本店を置く株式会社《G》の《G1》社長,副会長は三興産業(なお,同社は,平成19年2月19日に商号を初海工業株式会社から現商号に変更した。)の《氏名略》社長(ただし,任期途中で中村工務店の《F1》社長に交代した。),塩山地区に本店を置く《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び《会社名略》株式会社の《氏名略》社長であった。
また,平成19年度ないし平成21年度の会長は上記《会社名略》株式会社の《氏名略》社長,副会長は塩山地区に本店を置く《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び中村工務店の《F1》社長であった。(査12ないし14,45)
⑷ 被告による立入検査
被告は,平成22年3月24日,本件について独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。本件11社は,同日以降本件違反行為を行っていない。
⑸ 本件各命令
被告は,平成23年4月15日,本件各命令を発令した。
第3 本件審判手続における争点並びに本件審決の認定及び判断
1 争点
⑴ 本件21社が本件合意をしていたか否か(争点1)
⑵ 本件11社(ただし,原告中楯建設を除く。)が受注した別紙8の1ないし5記載のものを含む各工事は,当該役務に該当するか否か(争点2)
⑶ 小泉建設,原告長田建設及び原告中楯建設(以下「本件3社」という。)に対し,排除措置を特に命ずる必要があるか否か(争点3)
2 上記各争点に対する本件審決の判断及び判断の基礎とされた証拠
⑴ 本件審決が認定した事実
被告は,本件審決において,当事者間に争いのない事実,公知の事実及び以下に掲記の証拠から次の事実を認定した。
ア 石和支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況
山梨県では,平成17年度頃までは,指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かった。
石和地区の建設業者は,石和支部に対する平成6年の勧告審決を受けたにもかかわらず,再び受注調整を行うようになり,石和地区を施工場所とする土木一式工事の指名を受けると,指名を受けた旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を,石和支部等の執行部又は石和支部の事務員に連絡し,石和支部において指名業者及び受注希望者を取りまとめた上,受注希望者同士で話合いを行うなどして受注予定者を決め,受注予定者は,他の指名業者に対し,当該指名業者の入札すべき金額を記載した紙を渡す,電話で当該指名業者の入札すべき金額を伝える,又は自社の作成した当該工事の本工事費内訳書を当該指名業者の積算の参考のために交付するなどして自社の受注に協力するように依頼し,受注予定者以外の指名業者は,上記のとおり連絡を受けた価格で入札するなどして受注予定者の受注に協力していた。(査40の1ないし3,査41,42の1・2,査43,49,50,52,60,61,123,166ないし169,171)
イ 本件21社による受注調整の方法及びその実施状況
(ア) 入札参加者の情報集約
本件21社は,遅くとも平成18年4月1日以降,一般競争入札の方法により発注される本件土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,当該工事の入札に参加する旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を,石和支部等の執行部又は石和支部の《E》事務員に,ファクシミリ,電話又は口頭で連絡していた。また,本件土木一式工事が指名競争入札の方法により発注される場合においても,当該入札に指名された旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を同様に連絡していた。
石和支部等において上記連絡を受けると,《E》事務員が,発注担当部署ごとに区別することなく,入札公告が行われた工事ごとに入札参加者及び受注希望者を取りまとめた一覧表(以下「入札参加者等取りまとめ表」という。)を作成していた。また,《E》事務員は,上記工事のうち,峡東林務環境事務所を発注担当部署とする工事のみに係る入札参加者等取りまとめ表を別途作成していた。
具体的には,《E》事務員が,ポータルサイトに掲載された入札公告に基づき,各工事の発注担当部署,工事名,予定価格等の情報をパソコンに入力し,これを打ち出した表の余白に手書きで,入札参加の連絡を受けた事業者の社名を記載し,そのうち受注を希望する旨の連絡を受けた事業者については当該社名を丸で囲んでいた。《E》事務員は,以前は,入札参加者等取りまとめ表に入札参加者名を記載する欄を設けて,入札参加の連絡を受けた事業者の社名もパソコンに入力していたが,石和支部等の執行部の指示により,同欄を削除し,欄外に手書きで記載するようになった。
なお,石和支部等の執行部の指示により,《E》事務員は,入札参加者等取りまとめ表及びファクシミリによる連絡文書を一般の者の目に触れることがないように管理していた。また,《E》事務員は,事業者名が書き込まれていない入札参加者等取りまとめ表のデータをパソコンのハードディスクではなくUSBメモリに保存し,かばんに入れて常時携帯していたほか,落札者が決定した工事に係る入札参加者等取りまとめ表及びファクシミリによる連絡文書をシュレッダーにかけて廃棄していた。
このように石和支部等において入札参加情報等を集約していたのは,この情報を利用して受注調整を行うためであった。(査18,18の2,査46,47,49,52,58ないし64,66,67,78,94,95,171,182の1・2,査183,194の1,査225)
(イ) 受注予定者の決定方法
本件21社は,前記(ア)の連絡を行うことにより石和支部等において集約された入札参加者及び受注希望者に関する情報を利用し,受注予定者を決定していた。
具体的には,発注担当部署の区分に応じて,石和支部等のそれぞれの執行部が入札参加者等取りまとめ表で入札参加者及び受注希望者を確認するなどした上,受注希望者が1社のときは,その者が受注予定者である旨を当該受注希望者に連絡し,受注希望者が複数のときは,受注希望者同士で話合いをするよう受注希望者に連絡するなどしていた。
このようにして,受注希望者が1社のときは,その者が受注予定者となり,受注希望者が複数のときは,受注希望者同士で話合いをするなどして,受注予定者を決定していた。
受注希望者同士の話合いに際しては,工事ごとに,各受注希望者が,当該工事の施工場所が自社の事務所等に近いといった事情(以下「地域性」という。)や,過去に受注した工事との継続性(以下「継続性」という。)等の自社が受注予定者たり得る理由を主張し合い,受注予定者を決定していた。上記話合いがまとまらなかった際には,石和支部等の執行部が調整会議と称する会合を開催して,受注予定者を決定したり,助言を行ったりすることもあった。
本件21社は,受注予定者とならなかった場合でも,発注者に入札への意欲を示したり,受注予定者に対して今後受注協力の実績を主張したりすることを目的として入札に参加し,受注予定者の受注に協力していた。(査46,47,49,52,60,82,83,129,130,171)
(ウ) 入札価格等の連絡
前記(イ)により受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨を連絡するとともに,当該他の入札参加者の入札すべき価格若しくは予定価格に対する率又は自社の入札する価格若しくは予定価格に対する率を連絡し,自社が作成した本工事費内訳書を配布するなどしていた。他の入札参加者は,上記のような価格連絡を受け,受注予定者よりも高い価格で入札したり,入札を辞退したりするなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
なお,工事によっては価格連絡を行わない受注予定者もいたが,そのような場合であっても,他の入札参加者は,予定価格に極めて近い価格で入札したり,入札を辞退したりするなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。(査44,46,47,50ないし52,60,61,73,74,76,86,89,92,93,131ないし138,171,202,203,205ないし207,209ないし213,216ないし220,224)
(エ) 総合評価落札方式の工事の場合の協力
総合評価落札方式による一般競争入札で発注される工事(以下「総合評価落札方式の工事」という。)における評価項目のうち,企業の施工実績,地域精通度及び地域貢献度は,前記第2の2⑵ウ(ウ)のとおり,いずれも客観的なデータに基づいて算出されるものであり,入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載して提出した根拠資料に基づいて点数化されることが,総合評価実施要領で公表されていた。そのため,本件21社は,過去の入札結果等により,各入札参加者の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち配置予定技術者の能力も,前記第2の2⑵ウ(ウ)cのとおり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものであるため,少なくとも,入札参加者において自社の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち施工計画については,企業の施工実績等と異なり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が発注者の裁量に委ねられるために,正確に評価点を予想することはできなかったが,0点,5点又は10点と3段階で配点されていたこともあり,少なくとも,入札参加者において,自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であった。
このような状況の中で,本件21社は,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,自社の評価点が高いことが見込まれる場合は入札を辞退する,又は高い価格で入札する,受注予定者は,最も高い評価値を得ることができるよう入札価格を低めに設定する,他社の受注に協力する場合よりも綿密に施工計画書を作成するなどして,総合評価落札方式の工事の入札においても,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた。(査49,50,52,76,78,83,87,91,92)
ウ 個別工事における受注調整
本件審判手続において,審査官が,本件合意に基づき受注調整が行われた工事であると主張するもの(以下「本件違反対象物件」という。)は,174物件のうち,①本件21社以外の事業者が落札した物件(物件6,7,13,30,64,67,77,99,102,107,144),②風間建設が受注調整の一切を明確に拒否し,独自に受注した物件(物件68,98,101。以下「3物件」と総称する。)及び③本件21社のうちの入札参加者が1JV又は1社のみであった物件(物件86,134)の合計16物件を除いた158物件(以下「158物件」という。)であるところ,158物件のうち,少なくとも別紙7の「別紙9等」欄に「○」の付された40物件(以下「40物件」という。)については,入札公告への書き込みやメモなど本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠等(査73ないし76,78ないし83,86,87,89,90,92,94,95,108の1・2,査109の1・2,査127ないし134,190,201,219,220,224,235)が存在する。
また,少なくとも別紙7の「別紙9等」欄に「●」の付された4件(以下「4物件」といい,40物件と併せて「44物件」という。)については,当該工事について入札参加者等取りまとめ表の作成や,入札参加者による石和支部等に対する当該工事の入札に参加する旨の連絡,入札参加者に対する受注調整の働きかけなど,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことを示す客観的な証拠(査63,66,225,237)が存在する。
44物件の工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式による一般競争入札のいずれも含んでおり,発注担当部署も,山梨県県土整備部等,峡東農務事務所及び峡東林務環境事務所のいずれも含んでおり,発注時期も本件対象期間の全般にわたっている(査18,18の2)。
エ 本件対象期間に発注された本件土木一式工事の落札率
本件対象期間に発注された本件土木一式工事である158物件は,いずれも本件21社が受注しているところ,その平均落札率は94.0%である。(査18,18の2)
オ 本件対象期間に原告風間興業の社長を務めていた《I1》(以下「《I1》前社長」という。),原告矢崎興業の《B》社長,栗田工業の《D2》前社長,本件対象期間に風間建設の常務取締役を務めていた《H2》(以下「《H2》常務」という。),風間建設の《H3》営業部長(以下「《H3》部長」という。),風間建設の《H4》営業部課長(以下「《H4》課長」といい,《H2》常務及び《H3》部長と併せて「風間建設の《H2》常務ら」という。),石和支部の会員である《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び石和支部の《E》事務員らは,本件土木一式工事における受注調整の方法について,前記イ(イ)及び(ウ)の認定に沿う供述をしている。(査46ないし53,60ないし62,183)
⑵ 争点⑴(本件21社が本件合意をしていたか否か)について
ア 前記⑴アのとおり,山梨県では,平成17年度頃までは指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,本件21社を含む石和地区の建設業者は,石和支部に対する平成6年の勧告審決以降も,石和地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど,協調関係にあったことが認められる。
また,山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,同時期から,一般競争入札の方法により発注される土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入したが(別紙7,査18,18の2),前記⑴イのとおり,本件21社は,平成18年4月1日以降も,これらの石和地区に係る土木一式工事について,石和支部等において入札参加情報等を集約し,受注希望者が1社の場合はその者を受注予定者とし,受注希望者が複数の場合は地域性,継続性等を勘案して受注希望者同士の話合いなどにより受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していたことが認められる。
さらに,前記⑴ウのとおり,本件対象期間に発注された本件土木一式工事である158物件のうち,少なくとも40物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが客観的な証拠によって認められ,また,少なくとも4物件(158物件のうちの物件5,60及び97並びに158物件に含まれないが物件99)について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが客観的な証拠によって認められる。また,これらの工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式による一般競争入札のいずれも含んでおり,発注担当部署は,山梨県県土整備部等,峡東農務事務所及び峡東林務環境事務所のいずれも含まれ,発注時期も本件対象期間の全般にわたっている。
加えて,前記⑴エのとおり,158物件は,いずれも本件21社が受注したものであり,158物件の平均落札率も,94.0%という高いものであったことが認められる。
イ 以上の事情に鑑みれば,本件21社のうち原告芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除く18社は,遅くとも平成18年4月1日までに,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,本件合意の下に受注調整を行っていたことが認められる。
また,原告芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店は,いずれも平成18年4月1日時点においては本件土木一式工事の入札参加資格を有していなかったが,原告芦沢組土木については,平成19年度からB等級事業者に格付されたことにより(査1),八木沢興業については,平成20年10月1日に窪川組から同社の事業の全部を譲り受けたことにより(前記第2の2⑴),地場工務店については,平成21年度にB等級事業者に格付されたことにより(査1),本件土木一式工事の入札参加資格を有するようになったことが認められる。
これらの事実からすると,原告芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店は,遅くとも,自社が本件土木一式工事の入札参加資格を有するようになって以降に最初に入札に参加した本件土木一式工事の入札書提出締切日である,原告芦沢組土木については平成19年6月19日(物件61及び物件63〔査18〕),八木沢興業については平成20年10月2日(物件119及び物件120〔査18〕),地場工務店については平成21年7月30日(物件148及び物件149〔査18〕)までに,それぞれ本件合意に参加していたと認められる。
⑶ 争点⑵(本件11社(ただし,原告中楯建設を除く。)が受注した,別紙8の1ないし5記載のものを含む各工事が当該役務に該当するか否か)について
ア 当該役務
不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的とする課徴金制度の趣旨に鑑みると,独占禁止法7条の2第1項所定の課徴金の対象となる当該役務とは,本件においては,本件合意の対象とされた工事であって,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果(以下「具体的競争制限効果」という。)が発生するに至ったものをいうと解される。
本件21社は,前記⑴のとおり,遅くとも平成18年4月1日以降,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,本件合意の下,受注調整を行っていたものである。
そして,本件においては,①本件21社が,石和支部等において,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるよう協力し合っており(前記2⑴イ(ア)・(イ)),受注調整を組織的に行っていたものであること,②本件21社は,本件土木一式工事の全てを対象に受注調整を行うことが容易な立場にあり,実際に,本件対象期間に発注された本件土木一式工事のほとんどを,本件21社又は本件21社のいずれかで構成されるJVが受注しており,158物件の平均落札率も94.0%という高いものであったこと(前記第2の2⑵ア,前記2⑴エ),③本件21社が本件合意の内容に沿った受注調整を行ったこと又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことが客観的な証拠によって裏付けられている44物件について(前記2⑴ウ),発注方法,発注担当部署,工事内容及び発注時期において特段の偏りはみられないこと,④本件21社の代表者及び従業員のうち,本件合意への参加を認める旨の供述をする者が複数いる(前記⑴オ)一方,本件土木一式工事に該当する特定の工事について本件合意に基づく受注調整が行われなかった旨を供述している者はいないこと,⑤本件合意の目的が受注価格の低落防止にあること(前記⑵イ)に照らすと,本件土木一式工事の全てを受注調整の対象とするのが合理的である。
したがって,本件土木一式工事に該当し,かつ,本件21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものとの推認(以下「本件推認」という。)をするのが相当である。
イ 本件11社(ただし,原告中楯建設を除く。)が受注した別紙8の1ないし5記載のものを含む各工事について
本件対象期間に本件11社のうち原告中楯建設を除く10社が受注した,別紙8の1ないし5記載のものを含む各工事は,いずれも本件合意の対象である本件土木一式工事に該当し,本件21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事であるところ,前記アのとおり,かかる工事については,特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと推認される。
また,これらの工事の中には,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたこと又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在する工事(44物件)も相当数含まれている。
本件11社のうち原告中楯建設を除く10社が受注した上記各工事には,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情はなく,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認められるから,これらの工事はいずれも独占禁止法7条の2第1項にいう当該役務に該当する。
⑷ 争点⑶(本件3社に対し,排除措置を特に命ずる必要があるか否か)について
独占禁止法7条2項本文は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,違反行為者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ,同項の「特に必要があると認めるとき」とは,排除措置を命じた時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される。
平成22年3月24日に本件立入検査が行われ,本件11社は同日以降本件違反行為を行っていない(前記第2の2⑷)ことからすると,本件違反行為は,同日以降事実上消滅していると認められる。
しかし,これは,被告が本件立入検査を行ったことによるものであり,本件11社らの自発的意思に基づくものではなかったこと,本件11社らは平成18年4月1日から平成22年3月24日までの約4年間という長期間にわたり本件違反行為を継続していたことなどの事情を総合的に勘案すれば,本件3社についても,本件排除措置命令の時点において本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあると認められ,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法7条2項)ことは明らかである。
⑸ 本件審決の結論
ア 本件排除措置命令について
本件合意は,本件土木一式工事に係る入札市場において,本件21社が共同して,相互にその事業活動を拘束し,競争を実質的に制限するものであるから,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反する。
また,本件違反行為は既に消滅しているが,本件違反行為が長期間にわたり行われ,本件11社の大半は,石和支部に対する平成6年の勧告審決に伴い課徴金納付命令を受けたにもかかわらず再度同様の行為をしており,自主的に本件違反行為を取りやめたものではないことなどを総合的に勘案すれば,本件排除措置命令の時点において,原告らを含む本件11社は本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあったと認められ,特に排除措置を命ずる必要がある(同法7条2項)と認められる。
したがって,本件排除措置命令は相当である。
イ 本件課徴金納付命令
(ア) 課徴金に係る違反行為
本件違反行為が独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであることは,本件合意の内容から明らかである。
(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実(ただし,原告ら5社に関する部分のみ抜粋)
a 事業者
原告ら5社は,いずれも本件土木一式工事を請け負う事業を営んでいた者である。(争いがない。)
b 実行期間
⒜ 原告飯塚工業,原告矢崎興業,原告長田建設
原告ら5社のうち,原告飯塚工業,原告矢崎興業,原告長田建設は,平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は同月23日であると認められ,他方,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は平成19年3月23日以前である。したがって,上記3社については,独占禁止法7条の2第1項の規定により,その実行期間は同月24日から平成22年3月23日までの3年間となる。
⒝ 原告風間興業
原告風間興業は,平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないが,同日前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約を同月30日に締結していることから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は同日であると認められ,他方,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成19年3月30日以前である。したがって,原告風間興業については,独占禁止法7条の2第1項の規定により,その実行期間は同月31日から平成22年3月30日までの3年間となる。
⒞ 原告芦沢組土木
原告芦沢組土木は,平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は同月23日であると認められ,他方,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,同原告が本件違反行為に基づき最初に本件土木一式工事の入札に参加した平成19年6月19日であると認められる。したがって,原告芦沢組土木については,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は同月19日から平成22年3月23日までとなる。
c 売上額
原告ら5社の前記bの各実行期間における本件土木一式工事に係る売上額を独占禁止法施行令6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙8の1ないし5の各「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,各原告の売上額は上記各別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる(前記第2の2⑵キ)。
d 算定率
原告ら5社は,いずれも前記bの実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。したがって,原告ら5社は,いずれも独占禁止法7条の2第5項1号に該当する事業者である。(争いがない。)
e 課徴金の額
以上によれば,原告ら5社が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法7条の2第1項及び第5項の規定により,それぞれ別紙8の1ないし5の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」に記載の金額に100分の4を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された,上記各別紙の「3 課徴金額」記載の各金額である。
第4 本訴における争点及び当事者の主張
1 本訴における争点
⑴ 本件合意の存在について実質的証拠が存在するか否か
⑵ 原告ら5社が受注した別紙8の1ないし5記載の各工事が当該役務に該当することについて実質的証拠があるか否か
⑶ 本件3社のうちの原告長田建設及び原告中楯建設に対し,排除措置を特に命ずる必要があるか否か
2 前提としての被告の主張
前記第3の2のとおり,本件審判手続における争点に関し,本件審決は,⑴本件21社は,本件合意をしたものであり,⑵本件11社(ただし,原告中楯建設を除く。)が受注した各工事は当該役務に該当し,⑶本件3社に対し排除措置を特に命ずる必要がある旨の認定判断をした。これらの認定判断については,いずれも本件審決掲記の証拠によって合理的に認定判断することができるもので,これらを立証する実質的な証拠に基づくものである。
3 争点⑴(本件合意の存在について実質的証拠が存在するか否か)について
⑴ 原告らの主張
ア 違法収集証拠の排除について
(ア) 風間建設の《H2》常務らの各供述調書(査49ないし51。以下「本件各追加供述調書」という。)は,以下のとおり,課徴金納付命令(案)が送達された後に談合を認める供述調書を作成する見返りに3物件を課徴金算定対象から除外してもらうという現行法の下においては許されない司法取引的な方法により作成された証拠であるから,それらを違法収集証拠として証拠排除した上で本件違反行為の存否を判断すべきである。それにもかかわらず,本件各追加供述調書を採用して本件合意及び本件違反行為を認定する本件審決の判断は,極めて恣意的な証拠の選択及び証拠の評価を行った結果であり,違法収集証拠に基づくもので,何ら実質的証拠に基づかない違法なものであるから,速やかに取り消されるべきである。
a 本件では,課徴金納付命令(案)が出された平成23年2月7日には課徴金算定対象に含まれていた3物件が平成23年4月15日付けの本件各課徴金納付命令の対象には含まれていない。
本件における審査の過程において,平成22年5月28日には《H2》常務による査第48号証の「否認調書」が録取されていたところ,上記期間に,風間建設の《H1》社長から,3物件が課徴金の算定対象となる工事に該当しない旨の意見書(査144)及びその添付資料として受注調整が行われていたことを認めつつ3物件が本件合意と無関係であることを述べる《H2》常務の陳述書が提出され,その後,風間建設の《H2》常務らにより受注調整の存在を認める本件各追加供述調書が作成された。
そして,被告の従前の取扱い(審査終了後に正式に通知した事前の行政処分案を変更するのは,名宛人となるべき者の事業撤退のために排除措置の必要性が無くなっているなど,名宛人側から行政処分案に係る意見の客観的証拠が提出された場合に限られる。)に反し,本件では,客観的な証拠の状況は全く変わっておらず,新たな証拠は何ら存在していないにもかかわらず,3物件が課徴金算定対象から除外された。
したがって,外形的に見て,審査段階における本件11社の対応から,審査終了段階に審判手続へ移行して違反行為の有無が正面から争われることが予想される中で,各信用性は別にして本件の受注調整を認める参考人の供述調書は4名分しか作成できていなかったにもかかわらず,本件各追加供述調書を作成させて合計7名が談合を認める供述をした形を作った見返りに3件の工事を課徴金算定対象から除外してもらったと考えるのが極めて合理的である。
b 本件審決は,原告らが提起した前記aの問題点について,原告らの主張していない「これらの供述調書の内容を裏付ける客観的証拠はなく,内容も不自然であり信用性がない。」との主張を付加することによって,本件各追加供述調書は違法手続により作成されたから証拠排除されるべきとの主張に対して一切判断を示さず,供述調書の信用性の問題にすり替え,他の供述調書と一緒くたにして,証拠と整合するから「これらの供述の信用性は高いと認められる」などとして事実認定の根拠としている。このような本件審決の認定は,極めて不当であり,決して許されるものではない。
(イ) 以上の原告らの主張に対し,被告は,後記⑵ア(イ)のとおり,事前手続を経て,事前に通知された行政処分案がその後に見直されることがあるということは,制度上当然に予定されたところであり,3物件を課徴金算定対象から除外した経緯は不当ではない旨を主張するが,同主張は,長年にわたる被告自身の課徴金に関する立証責任の基本方針に明白に反する。すなわち,被告は,課徴金納付命令からの除外を証する客観的証拠が提出されない限り,算定対象から除外されるべきであるとの被審人からの事前の意見申述など一切受け入れないのであって,それが被告の後述の推認原則の基本方針に基づく旧法下から続く一貫した姿勢なのである。
本件において,風間建設の意見書(査144)に添付された陳述書における《H2》常務の3物件に関する各陳述は,正式の事前通知として被告自体が認定了承した行政処分案を「補充調査」をしてまで変更する必要があったと判断するには,余りにも内容に乏しく,「補充調査」で作成された本件各追加供述調書には,3物件についての「補充調査」と見られる質問や供述は一切なく,本件土木一式工事に関する「本件合意」の認定に供し得る内容としての供述証拠として作成されている。
イ 総合評価落札方式の工事について
(ア) 本件審決は,本件審判手続において審査官が主張していた「本件合意」とは異なる事実を認定しているところ,審査官が主張していた本件合意は,受注予定者が定めた「受注価格を中心とした受注調整」の合意である。時系列的にみても,また,本件審判で審査官が主張していた本件合意の内容からしても,平成18年4月1日段階で既に存在していた受注価格を中心とした受注調整ルールである本件合意が,平成19年7月以降に本格的に導入され入札価格のみでは落札者が決まらない総合評価落札方式の一般競争入札を対象としていなかったことは,客観的に明白な事実である。
(イ) 総合評価落札方式の一般競争入札による工事が本件合意の対象であるというのであれば,入札価格による受注調整を内容とする本件合意と,入札価格のみでは落札者が決まらない総合評価落札方式の入札とがどのように結び付くのか,受注価格を中心とした受注調整の合意による競争制限効果が総合評価落札方式の入札にも及び得るという事実認定はいかなる理由に基づくものなのか,当然判断が示されなければならない。その判断を怠ったまま総合評価落札方式の工事も本件合意の対象であったとする本件審決の認定は,何ら実質的証拠に基づかない違法なものである。
(ウ) また,本件審決は,原告らの異議申立てを受けて,慌てて「……総合評価落札方式も……本件合意の上記目的及び内容と相容れない発注方法ではなく,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象から除外されると解すべき理由はない。」などと判断しているが,独占禁止法違反行為は,具体的な市場の競争状況(これは発注方法等によって異なる。)を前提に,その競争を制限する「意思の連絡(合意)」を捉えるものであるから,最初からあらゆる競争状況に対応するような「スーパー合意」などは存在せず,本件審決の上記判断は本末転倒である。
(エ) さらに,本件のような談合案件において,課徴金の算定対象となる「当該役務」(独占禁止法7条の2第1項)については,具体的競争制限効果の発生が必要とされ,本件合意の対象に含まれるということから具体的競争制限効果を推認するのであれば,本件合意の内容は極めて重要な事実であるところ,受注調整が可能であることや受注調整を疑わせる証拠があることをもって,総合評価落札方式の工事を本件合意の対象と認定する本件審決は,全くナンセンスであり,総合評価落札方式の入札について受注調整が認定できるというのであれば,それを間接事実とした「価格だけを手段としない受注調整」を内容とする基本合意が認定されなければ,上記のような推認も不可能である。
(オ) 証拠に裏付けられた間接事実から受注調整の対象工事の範囲が明確であり,受注予定者の決定方法(基準)等も明白な強い内容の基本合意を推認できる場合には,基本合意の対象物件に対する具体的競争制限効果の発生についても強い推定力が及ぶのに対し,逆にそれらが曖昧な弱い内容の基本合意では推定力の及ぶ範囲も限定されるといわざるを得ない。被告の反論は,そのような間接事実から本件における基本合意の内容がどのような合意として推認され認定されるべきであったのか,という視点が全く欠落している。
⑵ 被告の反論等
ア 違法収集証拠について
本件各追加供述調書が,風間建設と被告との司法取引的な方法に基づくものであるとの原告らの主張は,客観的な事実関係や証拠に基づくものではなく,原告らの憶測以外の何ものでもない。
(ア) そもそも,《H2》常務の供述調書である査第48号証は,「否認調書」と評価されるべきものではないし,本件各追加供述調書においても,物件138に関する受注調整に同社が関与していないことについて,何ら供述は変遷しておらず,本件各追加供述調書が録取された経緯は,司法取引的な事実が疑われるものではない。
原告らの上記主張は,恣意的な評価を加えた上で事実関係を時系列に指摘したものにすぎず,何ら客観的な裏付けがないものであるから,本件審決が直接的にその判断を示さなかったからといって,違法・不当ということはできない。また,独占禁止法の関係法令には,違法収集証拠等の証拠能力制限に関する規定は存在せず,違法収集証拠の排除に関する申立ても,「明白な違法ないし不当性が認められ」るものとして採否の段階でこれを排除することは格別として,採用された証拠については最終的には証明力・信用性の問題に帰着すると解されるから,本件審決が本件各追加供述調書の信用性について判断したことも不合理ではない。
(イ) 独占禁止法49条5項,50条6項,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による改正前の公正取引委員会の審査に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第5号)(以下「審査規則」という。)24条,29条等による事前手続(以下単に「事前手続」という。)は,名宛人となるべき者に対して意見申述や証拠提出の機会を与えるものであるから,同手続を経て,事前に通知された行政処分案がその後に見直されることがあるということは,制度上当然に予定されたところである。
本件においても,被告が,風間建設に対し,事前手続に基づいて,3物件を課徴金の対象物件に含んだ課徴金納付命令書(案)を送達したところ,同社からの意見書(査144)の提出を経て,補充調査の結果(査49ないし査51),同社に対して3物件を課徴金対象物件から除外した内容の課徴金納付命令を発出したことは,上記事前手続にのっとった正当な経緯であり,違法・不当なことではない。
したがって,風間建設に対する課徴金算定対象から3物件が除外されるに至った経緯は,制度上当然に予定されているものであって,不可解でも不透明なものでもなく,司法取引的な事実が疑われるものではない。
イ 総合評価落札方式の工事について
以下のとおり,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象であったことは,本件審決掲記の証拠から合理的に認定できるのであって,本件審決の認定判断が,実質的証拠に基づかない違法なものであるとの原告らの主張は理由がない。
(ア) 本件審決は,審査官の主張とは異なる「本件合意」を認定したものではない。また,本件合意は,特定の発注方法を前提とするものではなく,協力の方法を限定したものでもない。本件合意内容を実現するためには,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格での受注に協力すれば足り,それは総合評価落札方式の工事においても実現することができることであって,本件合意とは別に「価格だけを手段としない受注調整」を内容とする合意などは必要としない。
そして,総合評価落札方式は,入札価格のみで落札者が決定されるものではないものの,受注価格の低落防止という本件合意の目的や,受注予定者を決めてその者が定めた価格での受注に協力するという本件合意の内容と相容れない発注方法ではないから,本件合意の対象でないとはいえない。
本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが客観的証拠等により認められる40物件の半数が,総合評価落札方式による一般競争入札に係る物件であり,そのうちには自社や他の入札参加者の評価点を予想して,自社が落札するための入札価格をシミュレーションしていたものも認められる。本件21社が実際にも総合評価落札方式の工事を対象として受注調整を行っていたことからすれば,これが本件合意の対象であったことは明らかである。総合評価落札方式の工事が本件合意の対象に含まれていないことが客観的に明白であるとは到底いえない。
(イ) また,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象に含まれることを認定するに当たって,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象に含まれるに至った時期や経緯といった具体的な過程を明らかにすることを要するものではない。
(ウ) 仮に,原告らが主張するように,具体的な市場の競争状況が発注方法等によって異なることがあるとしても,本件土木一式工事においては,発注者,入札参加資格,工事の内容等からみても,総合評価落札方式の工事に係る取引とそれ以外の競争入札の工事に係る取引との間の競争状況に顕著な相違は存在しない。本件審決は,あらゆる競争市場における競争制限行為を包摂するような,原告らがいう「スーパー合意」なるものを認定しようとしたものでもない。
4 争点⑵(原告ら5社が受注した別紙8の1ないし5記載の各工事が当該役務に該当することについて実質的証拠があるか否か)について
⑴ 本件審決の認定判断の方法について
ア 原告らの主張
本件審決は,第3の2⑶アに掲げられた各事情から本件推認を導いているが,前記3⑴イ及び後記⑵で指摘するとおり,当該各事情から総合評価落札方式の工事に推定力を拡大する解釈は理論的に不可能である。また,本来,推認を妨げる特段の事情の有無については,個々の工事ごとに,当該工事について受注調整をうかがわせる証拠があるか,発注方法,入札参加者,入札率,落札価格,その他入札に関する具体的な事実関係等を詳細に検討して判断されるべきものである。それにもかかわらず,個々の工事ごとに異なる具体的な事実関係を捨象して都合よく勝手に4つのグループに分けて,それらをまとめて排斥する本件審決の認定判断は,実質的証拠に基づかないものである。
イ 被告の反論等
前記第3の2⑶ア①~⑤の各事情は,本件推認を導くには十分であるとともに,上記各事情を総合してみれば,本件合意の対象物件にはこれに基づく受注調整が行われたことをうかがわせる極めて高度の蓋然性があるというべきである。したがって,本件土木一式工事に該当し,かつ,本件21社のいずれかが入札に参加して受注した工事に該当すれば,特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したことが,経験則上,強く推認されるというべきである。
⑵ 本件合意の対象となっているか否かが問題となる工事について
ア 原告らの主張
前記3⑴イのとおり,時系列的にみても,また,本件審判で審査官が主張していた本件合意の内容からしても,本件合意が総合評価落札方式の一般競争入札を対象としていなかったことは客観的に明白な事実である。したがって,そもそも総合評価落札方式の工事については,本件合意の対象外であるから,特段の事情の有無を検討するまでもなく,課徴金算定の対象に含めることはできない。
イ 被告の反論等
総合評価落札方式の工事が本件合意の対象ではないとの原告らの主張に理由がないことは,前記3⑵イのとおりである。
⑶ 特段の事情の有無が問題となる工事について
ア 総合評価落札方式の工事
(ア) 原告らの主張
本件審決は,「ある程度予想することは可能であった」などという受注調整方法に関する抽象的な可能性と単なる憶測を繰り返すだけであり,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象であり,入札参加者の評価点を予想するなどして受注調整が行われていたことについて,証拠に基づく具体的な認定をしていない。本件審決が挙げる証拠(査49ないし52,76,78,83,87,91,92)は,いずれも,総合評価落札方式の工事の入札においても,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していたことを裏付けるものではない(なお,被告は,「評価点を予想することが可能であった」という抽象的な可能性について裏付けとなり得る証拠が存在することを述べるが,評価点を予想していたこと,予想した評価点を用いて受注調整が行われていたことを裏付けるものではないので,およそ的外れであるといわざるを得ない。)。例えば,査第76号証及び第87号証については以下のとおりである。
a 査第76号証
同書証は,小泉建設が初めて臨む総合評価落札方式における技術審査資料の書き方のサンプルを見たかったという単純な理由から,事務員同士に個人的交友があり頼みやすかった原告長田建設に技術審査資料の送付を依頼したものにすぎない。同工事には,ほかに風間建設,原告芦沢組土木,窪川組も入札参加しているところ,仮に,受注調整の手段として総合評価に係る評価点(技術審査資料)の連絡があったのであれば,小泉建設は,原告長田建設の技術審査資料のみならず,それ以外の3社の技術審査資料も当然授受しているはずのところ,そのような事実を裏付ける証拠は一切ない。同書証のみがたまたま残っていたというのは不自然である。
このことは,査第76号証の送信が,受注調整の手段として行われたものではないことを示しているが,本件審決は,このような不都合な事実からは目を背け,何の判断も示していない。
b 査第87号証
同書証は,物件165の入札終了後に,原告風間興業の《I2》社長が,今後の入札のために他社の入札価格と評価点における評価値を検証するため,他の入札参加者4社の中から会社規模等が比較的似ている友愛工業と中村工務店の2社を取り上げ,試算を行ったものである。同書証は,原告風間興業がこのような試算を行っていたという事実を裏付けるだけであり,その試算結果に基づいて各入札参加者に入札価格を連絡していた事実を示す証拠はない。
そして,同書証には,物件165の入札に参加していた原告飯塚工業や原告矢崎興業に関する記載が一切なく,また,原告風間興業から原告飯塚工業及び原告矢崎興業に対して入札価格の連絡や入札辞退の要請を行ったことがうかがわれるような証拠もないことからすれば,むしろ同書証は,原告風間興業が他社との競争に備えて勉強していたことを示す証拠,すなわち入札談合などしていなかったことを示す証拠にほかならない。
本件審決自らが,総合評価落札方式においては,落札者が入札価格のみで決定されるものではなく,通常の一般競争入札とは異なり,価格連絡のみで受注調整を行うことが困難であることを認めていることからすれば,総合評価落札方式による発注という事実そのものが,それだけで本件合意に基づく受注調整が行われて具体的競争制限効果が発生したとの推認を妨げる特段の事情に該当するものである。
それにもかかわらず,総合評価落札方式により発注された工事についても,「ある程度予想することは可能であった」などという受注調整方法に関する抽象的な可能性と単なる憶測のみを根拠として具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらないとする本件審決の判断は,先に結論ありきの極めて恣意的な評価であり,何ら実質的証拠に基づかないものであるから,取消しを免れない。
(イ) 被告の反論等
本件審決は,総合評価落札方式の工事に係る入札においても,受注調整が可能なことを掲記の証拠(例えば査91,49,76,78,83,87)に基づいて具体的に認定したものであり,抽象的な可能性や単なる憶測をいうものではない。そのことは,査第50号証,第52号証からもうかがわれる。本件審決掲記の証拠を総合すれば,本件21社が,総合評価落札方式の工事に係る入札においても,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していたことが裏付けられている。原告らが指摘する査第76号証及び第87号証もそれぞれそのような裏付けとなる証拠の1つである。
そして,総合評価落札方式の工事においても,必ずしも緻密なシミュレーションや入札参加者間での評価点の連絡を行わなくとも,受注予定者が,過去の入札結果から予想可能な評価項目等の評価点に基づいて,自社及び他の入札参加者の入札価格を決めるなどし,僅かな入札価格の調整によって受注調整を行うことは十分に可能である。
イ 受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われた工事
(ア) 原告らの主張
本件審決の「入札参加者全員が自由に入札することとした場合は格別,受注予定者を1社に絞り込めずに2社以上で争われたという事実のみでは,当該工事における具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。」という考え方は,競争単位が減少したという事実から直ちに具体的競争制限効果の発生を導いており,被告自らの先例審決に明らかに反する。
受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われる工事の多くで実際に競争単位から除外されるのは,もともと入札価格面で劣っていて受注意欲がないなど実質的な競争単位として機能していなかった競争事業者であるから,競争単位が減少することによって,直ちに公正かつ自由な競争による価格の形成が担保できなくなるというものでもない。本件においても,受注予定者が1社に絞り込めずに2社以上で争われた事実を被告が認めている物件の全てにおいて受注価格が大幅に低落し,受注価格の低落防止という本件合意の目的に反する結果となっている(物件60(落札率74.4%),物件62(落札率72.6%),物件90(落札率76.1%),物件104(落札率79.1%),物件145(落札率83.0%),物件174(落札率81.0%)等)。
さらに,被告は,3物件を課徴金対象物件から除外したのであるから,同じく,「受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われた工事」や「落札率の低い工事」についても,同様に課徴金対象物件から除外されるべきであり,風間建設が受注した3物件についてだけ課徴金対象物件から除外することは,公平性を著しく欠いた極めて恣意的な行政処分であるといわざるを得ず,違法であることが明白である。
(イ) 被告の反論等
競争単位が減少すれば,公正かつ自由な競争の結果生じる価格が担保できなくなることは明らかである。したがって,受注予定者が1社に絞り込めずに2社以上で争ったからといって,直ちに受注価格の低落防止という本件合意の目的に反することにはならない。
原告らは,本件審決が従来の被告の実務に反するかのように主張するが,従来の実務においても,具体的競争制限効果の発生に落札価格の高額化を特段要するものとはしていない。また,本件合意の内容は,受注予定者が1社に絞り込めなかった場合にフリー物件とするものではない。本件審決は,単に競争単位が減少したことをもって具体的競争制限効果を認定したものではないから,競争単位の減少から直ちに具体的競争制限効果の発生を導いた判断の不合理をいう原告らの主張は,前提を欠き,失当である。
ウ その他本件推認を妨げる特段の事情があると主張されている工事(物件60,62,90,96,104,109,141,145,147,171,174)
(ア) 原告らの主張
上記各物件には,別紙9の「原告らの主張」欄に記載するとおり,本件合意に基づいて受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したという推認を妨げる特段の事情があり,他方で,審査官からは受注予定者決定の大筋及び落札者の当該個別調整への関与を証明するそれ以上の立証はないのであるから,具体的競争制限効果の発生を推認することはできず,課徴金算定対象から除外されるべきである。それにもかかわらず,これらの事実を無視して,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらないとする本件審決の判断は,審判手続で取り調べられた証拠及び事実の詳細な検討を怠ったものであり,実質的証拠に基づくものとはいえない。
(イ) 被告の反論等
別紙9の「被告の反論等」欄に記載するとおり,上記各物件は,いずれも本件土木一式工事に該当し,かつ,本件21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事であるから,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと強く推認されるところ,いずれについてもこれを覆すような特段の事情はうかがわれない。
なお,原告らの主張中には,前記各物件(ただし,物件104を除く。)につき,当該物件を落札した原告らが,当該物件の受注調整に「直接又は間接に関与」したとはいえない旨の主張部分があるが,物件60,96,147及び174についていえば,当該物件を落札した原告らが,事前に,石和支部等に入札参加を連絡し(査225,94,95),あるいは,他の入札参加者に入札すべき価格を連絡する(査73,74,211)など,受注調整に「直接又は間接に関与」したことが客観的な証拠から明らかである。また,その他の物件についても,本件推認の下,受注調整が行われたとは認められない特段の事情もないことからすれば,受注調整に関与したことを示す直接的な証拠がなくとも,当該物件を落札した原告らが「直接又は間接に関与」した受注調整が行われたものと認定できる。
5 争点⑶(本件3社のうちの原告長田建設及び原告中楯建設に対し,排除措置を特に命ずる必要があるか否か)について
⑴ 原告らの主張
ア 独占禁止法7条2項は,違反行為が既になくなっている場合,「特に必要があると認めるときに限って」排除措置を命ずることができるところ,本件審決は,「特に必要があると認めるとき」の要件該当性に関する具体的な判断において,原告らが指摘する客観的な事実から目を背け,極めて恣意的な証拠の選択及び証拠の評価を行った結果,原告長田建設及び原告中楯建設を含む本件3社について,本件排除措置命令の時点において本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあると認定するものであり,何ら実質的証拠に基づかないものであるといわざるを得ない。
イ 本件3社は,本件立入検査に先立つ平成21年10月時点において,本件土木一式工事の入札参加資格を事実上奪われたため,間もなく石和支部を退会したのであり,本件3社の本件違反行為の終了は,石和支部の脱会という自らの自発的意思に基づくものであって,本件立入検査を契機とするものではない。
ウ また,本件違反行為は,受注調整方法の重要な手段として石和支部の全面的な関与を前提としており,本件土木一式工事については,峡東地区に本店を置く業者で石和支部に加入していない者も多く入札に参加していたにもかかわらず,石和支部の会員でない事業者が本件違反行為の当事者から当然のごとく除外されている。したがって,実質的かつ現実的な入札参加資格を失ったという事実のみならず,支部員という形式的な立場を失ったという事実は,本件違反行為及びそれと同一性を有する行為を繰り返すおそれを検討するに当たって,極めて重要な事実である。
エ さらに,山梨県内の市町村合併や山梨県が定める入札参加条件の変更等によって,そもそも本件3社が本件土木一式工事の入札にほとんど参加できなくなっていたこと等,違反行為の実行を困難とする市場の状況が出現していた。
オ 以上のとおり,本件土木一式工事の市場における競争秩序の回復・維持を図る目的を達成するためには,本件3社に対して排除措置を命ずることについて,「特に必要があると認めるとき」に該当するとは認められない。よって,原告長田建設及び原告中楯建設に対し排除措置命令を出すことは許されず,本件排除措置命令を是認した本件審決のこれら2社に対する部分は取り消されるべきである。
⑵ 被告の反論等
ア 本件違反行為は,平成22年3月24日以降事実上消滅していると認められるが,これは被告が本件立入検査を行ったことによるものであり,本件11社の自発的意思に基づくものではなかったこと,本件11社は平成18年4月1日から平成22年3月24日までの約4年間という長期間にわたり本件違反行為を継続していたことなどの事情を総合的に勘案すれば,原告長田建設及び原告中楯建設を含む本件3社についても,本件排除措置命令の時点において本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあると認められ,特に排除措置を命ずる必要がある (独占禁止法7条2項)ことは明らかである。
イ 本件立入検査以前から本件3社が石和地区特定土木一式工事の入札に参加していなかったとしても,本件3社が入札参加資格を有する同工事の発注の可能性がなくなっていたわけではなく,入札に参加しなかったのは本件3社の事情によるものであって,結果論にすぎない。
ウ なお,本件において石和支部等の会員以外の事業者を本件合意の当事者と認めなかったのは,それらの者については本件合意に係る意思の連絡を認定するに至らなかったからであり,石和支部等の会員でないことから画一的に除外したものではない。
第5 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件合意の存在について実質的証拠が存在するか否か)について
⑴ 本件審決は,前記第3の2⑴のとおり,本件21社間の協調関係(同ア),受注調整のための石和支部等による入札参加者の情報集約(同イ(ア)),受注予定者の決定方法(同イ(イ)),受注予定者による他の入札参加者に対する入札価格等の連絡と他の入札参加者の協力(同イ(ウ)),総合評価落札方式の工事の場合の協力(同イ(エ)),個別工事における受注調整(少なくとも40物件について客観的な証拠等から本件合意内容に沿った受注調整が行われたことが認められ,4物件について客観的な証拠等から本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められること。同ウ),本件対象期間に発注された本件土木一式工事(158物件)の平均落札率(同エ)等を認定し,これらの事実に基づき,本件21社のうち原告芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除く18社は,遅くとも平成18年4月1日までに,原告芦沢組土木は遅くとも平成19年6月19日以降,八木沢興業は遅くとも平成20年10月2日以降,地場工務店は平成21年7月30日以降,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために,受注予定者を決定し,受注予定者は受注すべき価格を決め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意(本件合意)をしたと認めた(前記第3の2⑵)。
前記第3の2⑴アないしエの各認定事実は,これに沿った内容を述べる本件21社に含まれる原告風間興業の《I1》前社長の供述(査46),原告矢崎興業の《B》社長の供述(査47),風間建設の《H2》常務らの各供述(査48ないし51)並びに栗田工業の《D2》前社長の供述(査52,53),石和支部の《E》事務員の供述・陳述(査62,182の1,査183),本件21社に含まれないが石和支部の会員である《会社名略》株式会社の《氏名略》社長の供述(査60,61),塩山地区の建設業者であり,石和地区の業者と取引のある《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》の供述(査171)並びにこれを裏付けるメモや日記を含む多数の客観的証拠(前記第3の2⑴各認定事実末尾の括弧内に掲記したもの)によって裏付けられており,客観的証拠の中には,《E》事務員が作成した入札参加者等取りまとめ表の一部(査66,67,78,83,94,95,225。なお,査78,83,94,95,225は中村工務店が保管していたものであり,書き込みがされている。),「一般競争入札」(公告)や指名通知書,競争参加資格確認書等の欄外に入札価格等の書き込みがされたもの(査73,74,131ないし138,202,203,205ないし207,209ないし213,216ないし220),原告長田建設から小泉建設にファクシミリで送信された原告長田建設の技術審査資料(査76),中村工務店から原告風間興業に電子メールで送信された本工事費内訳表(査93)なども含まれている。
したがって,本件審決が上記各事実を認定したことは合理的であり,上記事実に基づいて本件合意の存在を認定した本件審決の判断には実質的証拠があるといえる。
⑵ 違法収集証拠について
以上に対し,原告らは,本件審決が上記認定の基礎とした本件各追加供述調書は,現行法の下においては許されない司法取引的な方法により作成された証拠であるから,それらを違法収集証拠として証拠排除した上で本件違反行為の存否を判断すべきである旨を主張しているところ,本件各追加供述調書が作成されたのが風間建設に対する課徴金納付命令(案)の通知がされた後であること,課徴金納付命令(案)の段階では同社に対する課徴金の算定対象に含まれていた3物件が,本件各課徴金納付命令においては同対象から除外されていたことについては争いがない。
しかしながら,独占禁止法は,事前手続の制度を設け,処分の名宛人となるべき者に,事前に通知された課徴金納付命令(案)に対する意見申述・証拠提出の機会を与えているのであり,制度上,意見申述・証拠提出の結果として,事前に通知された行政処分案が見直され得ることが予定されている。そうすると,被告の従前の実務において,事前手続を経ることによって課徴金納付命令の算定対象が見直された例がどの程度あったかにかかわらず,本件において,被告が風間建設からの意見書(査144)の提出を受け,補充調査を行って,3物件を同社に対する課徴金の算定対象から除外すること自体は,制度にのっとった適法なものというべきである。
原告らは,風間建設が提出した意見書を端緒として補充調査がされたことや,補充調査の内容に疑問を呈する。しかしながら,査第144号証に添付された《H2》常務の陳述書は,風間建設が平成19年7月頃から平成20年頃までの間,受注調整に対する協力を一切拒否し,本件合意とは無関係に3物件を落札した旨を述べるものであり,これは3物件について本件推認を妨げる特段の事情となり得るものであるから,被告がその存否の判断のために補充調査を行うことは特段疑問を抱かせるものではない。また,補充調査により作成された《H2》常務の供述調書(査49)は,3物件について風間建設が他の参加者からの協力を期待できない状況であったことなどを詳細に述べるものであるし,《H3》部長及び《H4》課長の各供述調書は,上記《H2》常務の供述・陳述のうち3物件を受注した時期以外において行われていた受注調整,入札実務について述べ,これによって平成19年7月頃から平成20年頃までの間の3物件を落札した時期との状況の違いを明らかにするものといえる。したがって,原告らの主張は前提を欠く。
原告らはそのほかにもるる主張するが,いずれも,本件各追加供述調書が,原告らの主張するような,談合を認める供述調書を作成する見返りに3物件を課徴金算定対象から除外してもらうという違法な司法取引的方法により作成されたものであることを裏付けるものではなく,憶測の域を出ないというべきである。したがって,本件各追加供述調書を違法収集証拠として証拠から排除すべき理由はないから,原告らの主張を採用することはできない。
⑶ 総合評価落札方式の工事について
ア 原告らは,本件審決は,本件審判手続において審査官が主張していた「本件合意」とは異なる事実を認定しているか,審査官が主張していた「本件合意」を前提にすると,そのような本件合意は総合評価落札方式の一般競争入札を含まない旨主張する。
しかしながら,本件審決が認定した本件合意は,受注価格の低落防止を図るために,受注予定者を決定し,受注予定者は受注すべき価格を決め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意であり,審査官の主張していた本件合意と異なるものではない。
そして,上記のとおり,本件合意は,受注予定者に対し受注予定者が決めた価格で受注できるよう協力する旨の合意であり,特定の発注方法を前提とするものではない。本件合意の下で,他の参加者が,受注予定者が受注予定者の決めた価格で受注できるように協力することが可能であることは必要であるとしても,その協力の方法は限定されていない。
前記第3の2⑴イ(エ)のとおり,総合評価落札方式の工事における評価項目のうち大半は,客観的なデータに基づき評価点を予想することが可能であり,評価項目のうちの施工計画についても,評価が発注者の裁量に委ねられるため正確に評価点を予想することはできなかったものの,ある程度予想することは可能であったと認められる(査49ないし52,76,78,83,87,91,92。なお,原告らは,評価点を予想することが可能であったという抽象的な可能性の裏付けとなり得る証拠があることを述べても的外れである旨主張するが,前記のとおり評価点をある程度予想することが可能であり,それによって,参加者が総合評価落札方式の工事においても,受注予定者が受注予定者の決めた価格で受注できるように協力することができるのであるから,これらの証拠も本件審決の認定を基礎づける実質的証拠となる。)。
現に,40物件のうち約半数の物件(物件113,116,119,120,137,140,147,150,151,153,155ないし158,164,165,167,173)は,総合評価落札方式の工事であるところ,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠等が存在する(査75,76,78,82,83,87,128,134,224)。
以上のとおり,総合評価落札方式の工事も本件合意に含まれるというべきである。したがって,総合評価落札方式の工事も本件合意の対象であったとする本件審決の認定が実質的証拠に基づかない違法なものであるとする原告らの主張を採用することはできない。
イ 原告らは,争点⑵において総合評価落札方式の工事が当該役務に該当するか否かを争う中で,本件合意に沿った受注調整があったことを裏付ける客観的証拠の存否という形で,本件審決が総合評価落札方式の工事も含めて本件合意があったことを認定する際の基礎とした証拠について争っているので,これらの証拠についてもここで併せて判断する。
(ア) 査第76号証
総合評価落札方式の工事である物件116の入札に関する原告長田建設の技術審査資料であり,同原告から落札者である小泉建設にファクシミリ送信されたものである。
原告らは,同書証は,小泉建設が初めて臨む総合評価落札方式における技術審査資料の書き方のサンプルを見たかったという単純な理由から,事務員同士で個人的交友があり頼みやすかった原告長田建設に技術審査資料の送付を依頼したものにすぎない旨主張する。
しかしながら,これから発注者に提出予定である重要な競争手段であるはずの記入済みの技術審査資料を,単に同書類の記入方法を教示するために授受するとは考え難い。本資料は,原告長田建設が,小泉建設が同物件の受注予定者であることを把握した上で,同社の受注に協力するために,自社の「施工実績」等の評価項目に関する情報が記載されている技術審査資料を小泉建設に送信したものと認めるのが自然かつ合理的である(なお,同書証のみが留置され,ほかに同種の書類が残っていないとしても,廃棄し損ねていた場合も含め様々な理由を想定し得るから,そのような事実は同書証の信用性や性格に影響するものではない。)。
したがって,同書証は,総合評価落札方式の工事について受注調整を裏付ける客観的証拠といえる。
(イ) 査第87号証
同書証は,本件違反対象物件とは別の物件についての「総合評価落札方式に関する評価調書」であるところ,同書証上には,物件165について,「風興17」,「友愛26」,「中村24」等と実際の評価点とは異なる点数や,「友愛67,700」,「中村67,600」等と価格と思われる数字が手書きで記載されている。
原告らは,上記書き込みについて,物件165の入札終了後に,原告風間興業の《I2》社長が,今後の入札のために他社の入札価格と評価点における評価値を検証するため,他の入札参加者4社の中から会社規模等が比較的似ている友愛工業と中村工務店の2社を取り上げ,試算を行ったものにすぎない旨主張し,これに沿う原告風間興業の《I2》社長の陳述がある(審A共5,16)。
しかしながら,本工事を落札した原告風間興業が,開札後に,他の入札参加者のうち一部の業者のみを取り上げ,事後に公開される物件165の評価調書ではなく,別物件の評価調書を用いて,これらの業者の実際の入札価格及び仮想した評価点を前提に,自社の落札し得る入札価格をシミュレーションするということについて,合理的な理由は見いだし難い上,原告風間興業の《I2》社長の陳述・供述は,作成時期が開札前であるか開札後であるか変遷しており,採用することができない。
上記書き込みは,物件165の入札前に,原告風間興業において,友愛工業及び中村工務店が入札参加予定であることを把握し,その評価点を見込んだ上で,自社が確実に落札できるであろう入札価格を試算していたものと認めるのが合理的である。
したがって,査第87号証も,総合評価落札方式の工事について受注調整を裏付ける客観的証拠といえる。
⑷ 小括
以上のとおりであるから,争点⑴に関する原告らの主張は,いずれも採用することができない。
2 争点⑵(原告ら5社が受注した別紙8の1ないし5記載の各工事が当該役務に該当することについて実質的証拠があるか否か)について
⑴ 本件審決の認定判断の方法について
本件審決は,当該役務とは,本件においては,本件合意の対象とされた工事であって,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される(最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)とした上で,前記第3の2⑶ア①ないし⑤の事情に照らすと,本件土木一式工事の全てを受注調整の対象とするのが合理的であることを根拠として,本件土木一式工事に該当し,かつ,本件21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事は,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であると判断した。本件審決のこのような判断は相当なものであり,原告らもこの判断枠組み自体を争っているのではなく,本件への当てはめ及び前提となる本件合意について争っているものと解される。
⑵ 本件合意の対象となっているか否かが問題となる工事について
原告らは,総合評価落札方式の工事は本件合意の対象外であるから,特段の事情の有無を検討するまでもなく,当該役務に該当せず,課徴金算定の対象に含めることができないと主張するが,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象に含まれることは前記1のとおりであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
⑶ 特段の事情の有無が問題となる工事について
ア 総合評価落札方式の工事
原告らは,総合評価落札方式においては,落札者が入札価格のみで決定されるものではなく,価格連絡のみで受注調整を行うことが困難であることから,総合評価落札方式による発注という事実そのものが,本件推認を妨げる特段の事情に該当するものであると主張する。
しかしながら,総合評価落札方式の工事においても受注調整が可能なことは前記1で説示したとおりであるから,原告らの主張は前提を欠いており,総合評価落札方式の工事であるというだけでは,本件推認が妨げられ,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということはできない。
イ 受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われた工事
原告らは,受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われる工事については,多くの場合競争単位から除外されるのは実質的な競争単位として機能していなかった競争事業者であるから,直ちに公正かつ自由な競争による価格の形成が担保されるわけではなく,また,受注価格が低額化し本件合意の目的に反する結果となっていると主張する。
しかしながら,受注調整の結果,受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われたとしても,受注調整により受注を諦めた事業者が存在すれば,本来自由に行われるべき入札の参加者が減少することになるし,受注価格についても,受注を諦めた業者は予定価格に近い高い価格で入札するなどして受注予定者のいずれかが受注するように協力することになるから,具体的競争制限効果が生じることになる。この場合に競争単位から除外されるのは,実質的な競争単位として機能していなかった競争事業者であるとは限らないし,受注予定者が1社に絞られた場合と比較して,受注予定者を1社に絞り込めず2社以上で争われた工事においては,受注価格が低額化することが多いということはできるとしても,必ずしも本来自由な市場で形成されるべき価格と同様の状況になるとは限らない。したがって,受注予定者を1社に絞り込めず2社以上で争われた工事であることをもって,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情に当たるということはできない。
なお,原告らは,風間建設が受注した3物件についてだけ課徴金の算定対象から除外されたことは公平性を著しく欠くと主張しているが,前記1⑵でも指摘したとおり,3物件が課徴金の算定対象から除外されたのは,2社以上で争われた工事だからではなく,風間建設が本件21社からの受注調整に対する協力を一切拒否し,本件合意とは無関係に3物件を落札したことがうかがわれるからである。受注調整によることを拒否せずに,ただ最終的に受注予定者が1社に絞り込めなかったため複数の者が落札を争う結果となった物件,すなわち,競争単位が減少した状況を利用し,他の入札参加者の協力によって落札した物件に係る場合とは事案を異にする。したがって,この点に関する原告らの主張も理由がない。
ウ その他本件推認を妨げる特段の事情があると主張されている工事(物件60,62,90,96,104,109,141,145,147,171,174)
(ア) 物件60,62,104,145,174
原告らは,これらの物件においては落札した各原告が非常に低い落札率で,最低制限価格ギリギリの価格で落札していること,他の入札者も低い入札率であったこと,物件60については1番札の入札参加者が最低制限価格を下回って失格となっていることなどから,いずれも本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情がある旨主張する。
しかしながら,これらの場合も競争単位が減少していることは明らかであり,たまたま入札価格が最低制限価格に近く,低い落札率で落札する結果になったからといって,直ちに本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということはできない。
(イ) 物件90
原告らは,本物件は総合評価落札方式であるから,入札を辞退する方法により落札に協力するのが一番間違いのない方法であるのに,辞退した者がいないこと,一番札の入札参加者が評価点加算の結果,2番札であった原告風間興業が逆転して落札したこと,落札率が低いことなどから,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があったと主張する。
しかしながら,受注調整への協力の方法は様々であり,入札辞退者がいなかったからといって落札に協力した者がいないとはいえない。また,落札率が低いことや,総合評価落札方式において評価点加算の結果2番札の入札参加者が逆転して落札したことは,いずれも本物件において受注調整が行われたことと相反する事情ではなく,受注調整が行われたとは認められない特段の事情に該当するとはいえない。
(ウ) 物件96
原告らは,落札者である原告風間興業が他の入札参加者に連絡したとされる金額(6900万円)よりも大幅に低い価格(約1000万円低い価格)で入札し,2番札の入札参加者よりも6.3%も低い落札率で入札しているから,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があったと主張する。
しかしながら,上記事情も本物件において受注調整が行われたことと相反する事情ではなく,受注調整が行われたとは認められない特段の事情に該当するとはいえない。
(エ) 物件109
原告らは,本物件は,入札参加者3社のうちの1社がアウトサイダーであること,アウトサイダーは評価点が高く入札行動が競争的であること,最低価格で入札したのは中村工務店であるが,原告飯塚工業が評価点で逆転して落札したものであるから,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があったと主張する。
しかしながら,アウトサイダーの入札価格は予定価格の99.3%であり,必ずしも競争的とは認められないし,総合評価落札方式の入札においては,受注予定者と受注予定者が受注できるように協力する他の入札参加者の各施工計画の評価いかんによって,受注調整が功を奏さない結果を招くことがあり得るから,最低価格で入札した中村工務店ではなく5%以上も高い入札率で入札した原告飯塚工業が落札することになったからといって,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということはできない。
(オ) 物件141
原告らは,落札した原告芦沢組土木が,2番札より15.7%,3番札より20.3%も低い入札率で,入札率78.9%に相当する低い価格(最低制限価格をわずか381万円だけ上回る金額)で入札して落札していることから,本件合意の目的に反する状況が生じており,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があった,原告芦沢組土木の思い入れが強い工事であったために赤字覚悟でどうしても落札したくて低い価格で入札したから受注調整とは無縁であったと主張する。
しかしながら,本件合意の目的が受注価格の低落防止にあるとしても,受注すべき価格は受注予定者が様々な状況を考慮して任意に定めるものであるから,2番札の入札参加者より大幅に安い価格で入札したからといって,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があったということはできないし,赤字覚悟でどうしても落札する覚悟で入札したことと受注調整が行われたことが矛盾するとはいえない。
(カ) 物件147
原告らは,本物件は,総合評価入札方式ではあるものの特別簡易型(Ⅰ)であるから,被告によれば評価点を入札前に正確に見込むことが可能であるはずであるにもかかわらず,原告芦沢組土木が2番札の入札参加者より入札率にして7.0%もの差をつけた低い価格で入札し,評価点にして14.739の大差をつけて落札しているから,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があったと主張する。
しかしながら,本件合意の目的が受注価格の低落防止にあるとしても,受注すべき価格は受注予定者が様々な状況を考慮して任意に定めるものであるから,2番札の入札参加者より大幅に安い価格で入札したからといって,受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということはできない。
(キ) 物件171
原告らは,落札した原告矢崎興業が低入札価格調査の基準価格ギリギリの低価格で落札したこと,2番札の入札参加者を15.5%も下回る価格で入札していること,他の入札参加者が施工計画の評価点で高得点を取得して競争的な入札行動をとっていたことから受注調整が行われたとは認められない特段の事情があったと主張する。
しかしながら,本物件のような総合評価落札方式の入札においては,入札参加者の評価点を確実に予想することはできなかったことから,受注予定者において,確実に受注できるように自社の入札価格を低めに設定することも当然に起こり得ることであるから,原告ら主張の事由をもって受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということはできない。
3 争点⑶(本件3社のうちの原告長田建設及び原告中楯建設に対し,排除措置を特に命ずる必要があるか否か)について
⑴ 本件審決は,独占禁止法7条2項本文の「特に必要があると認めるとき」とは,排除措置を命じた時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解されるとした上で,本件違反行為は,平成22年3月24日以降事実上消滅していると認め,これは,公正取引委員会が本件立入検査を行ったことによるものであり,本件11社らの自発的意思に基づくものではなかったこと,本件11社らは平成18年4月1日から平成22年3月24日までの約4年間という長期間にわたり本件違反行為を継続していたことなどの事情を総合的に勘案すれば,本件3社についても,本件排除措置命令の時点において本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあると認められ,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法7条2項)ことは明らかであると認定判断した。
⑵ これに対し,原告らは,本件違反行為が事実上消滅したのは,自発的意思に基づくものであって,本件立入検査を契機とするものではない,本件3社は,本件土木一式工事の入札にほとんど参加できなくなっていた,本件違反行為は,受注調整の重要な手段として石和支部の全面的な関与を前提としており,本件3社は支部員という形式的な立場を失っていたなどとして,「特に必要があると認めるとき」に該当するとは認められない旨主張する。
しかしながら,本件3社が本件立入検査より前に石和支部を退会したことを認めることはできず,本件3社が自主的に違反行為を停止したと認めることもできない。また,本件3社が入札参加資格を有する本件土木一式工事は,本件立入検査の後も発注される可能性があったことは明らかであるから,本件3社についても,本件排除措置命令の時点において,本件違反行為と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあると認められる。
第6 結語
以上のほか,本件審決の認定判断について実質的証拠に基づかない点や不当な点などは認められない。よって,本件審決は相当であり,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第3特別部                 
裁判長裁判官  萩原秀紀     
裁判官  馬場純夫     
裁判官  西森政一     
裁判官  矢向孝子     
裁判官河田泰常は転補につき署名押印することができない。     
裁判長裁判官  萩原秀紀


注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

【別紙7ないし9添付省略】     

令和元年5月17日

裁判長裁判官 萩 原 秀 紀
   裁判官 河 田 泰 常
   裁判官 馬 場 純 夫
   裁判官 西 森 政 一
   裁判官 矢 向 孝 子






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