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伊予鉄道(株)による一般乗合旅客自動車運送事業の禁止等請求控訴事件

独禁法3条前段、独禁法10条、独禁法旧21条
道路運送法20条

高松高裁

昭和51年(ネ)第141号

独禁法関係民事事件判決及び決定

 

言渡昭和61年4月8日交付昭和61年4月8日裁判所書記官

愛媛県松山市湊町4丁目4番地1
控訴人 伊予鉄道株式会社
右代表者代表取締役 新野 新一郎
右訴訟代理人弁護士 松本 正雄
同 石丸 友二郎
同 米田 正弌
同 白石 健三
同 関根 俊太郎
同 畠山 保雄
同 日上 弘三
同 田島 孝
同 藤原 寛治
同 白石 喜徳
愛媛県松山市三番町4丁目5番地6
被控訴人 奥道後温泉観光バス株式会社
右代表者代表取締役 藤原 西一
右訴訟代理人弁護士 色川 幸太郎
同 篠原 三郎
同 林 藤之輔
同 大白 勝
右訴訟復代理人弁護士 後藤 由二

主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、
(一) 路線
(1) 起点 松山市末町字土井谷291番地先
10.90キロメートル
終点 同市大手町2丁目9番地先
(2) 起点 同所
9.30キロメートル
終点 同市高浜町5丁目1556番地先
(3) 起点 同市石手町351番地先
3.95キロメートル
終点 同市千舟町5丁目1番地先
(4) 起点 同市花園町6番地先
6.25キロメートル
終点 同市南吉田町松山飛行場用地内
(5) 起点 同市平和通り2丁目3番地先
8.55キロメートル
終点 同市堀江町1742番地先
(二) 運行系統及び回数
(1) 奥道後—国鉄松山駅前 38回
(2) 同—松山観光港 10回
(3) 同—松山空港 5回
(4) 同—堀江港 7回
の道路運送法に基づく一般乗合旅客自動車運送事業(非限定)を経営してはならない。
3 被控訴人は、運輸大臣に対し申請した前項の予定路線における一般乗合旅客自動車運送事業(非限定)の免許申請(高松陸運局昭和46年自公第14号旅A第18号)の取下手続をせよ。
4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二 当事者の主張及び証拠関係
一 原判決の引用
この第二の点は、次の二のとおり補正し、三及び四のとおり従前の主張を訂正、補足し、五のとおり証拠を附加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。なお、以下略語はすべて原判決の略語に従うこととする。
二 原判決の補正
1 原判決5枚目表3行目及び10枚目裏5行目の各「73条の4」を、いずれも「63条の4(ただし、当時の条文)」に改める。
2 同15枚目表6行目の「同」を「奥道後」と改める。
3 同18枚目表9行目から同裏7行目までを削る。
4 同22枚目表2、3行目の「発注」を「受注」と改める。
5 同24枚目表5行目の「戸まどおたり」を「とまどったり」と改める。
6 同26枚目裏3行目から7行目までを削る。
7 同28枚目裏11行目の「独占事業であって、」から同29枚目表3行目までを「独占事業であるから、仮に原協定(三)の約条が独占禁止法上の私的独占または不当な取引制限に当たるとしても、独占禁止法の適用が除外され、右約条が無効となるものではない。」と改める。
8 同31枚目裏8行目から同32枚目表5行目までを次のとおり改める。
「(4) なお、被控訴人は第2次免許申請に先立ち、昭和39年5月ころ、その申請書案を控訴人方に持参したが、その案では国鉄松山駅—奥道後の運行回数は、被控訴人自らの手によって第1次免許申請の1日105回が1日42回に削減されており、その際、被控訴人の担当者も、保有車両及び乗務員数からどうしても運行回数は42回しかできないと述べていた。そこで、控訴人は主として停留所及び旅客の範囲の表示などの問題について、被控訴人と折衝し、被控訴人の運行回数1日42回については、そのままこれを認め、同年6月29日被控訴人と運輸協定を締結し、原協定(七)の約条に基づき、被控訴人の第2次免許申請に同意した。」
9 同35枚目表9行目から同裏3行目まで及び同4行目冒頭の「二、」を、同11行目から同36枚目表3行目まで及び同4行目冒頭の「二、」をいずれも削る。
三 控訴人の主張
1 認否及び主張の訂正
控訴人は、原審において控訴人が被控訴人から示された第2次免許申請の原案では、第1次免許申請の内容と同じく、国鉄松山駅—奥道後間の運行回数が1日105回となっていたこと及びこれについて控訴人が被控訴人に助言をして右105回の運行回数を42回に削減させたことを認めたが、原判決後調査した結果、真実は、右105回から42回への運行回数の削減は、被控訴人がその内部において第2次免許申請の原案を作成する際に自ら行ったものであることが判明した。よって、原審での前記認否は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるから、これを撤回し、右判明した事実のとおり主張を訂正する。
2 原判決の誤り
(一) 控訴人に競業避止義務がないことについて
原協定は、愛媛県政財界の有力者が、被控訴人の第1次免許申請によって既設の免許路線を有する控訴人との間に無用の競争及び摩擦が生ずる事態を憂慮し、控訴人の中予地区における運輸業者としての実績と立場を尊重しつつ、被控訴人の限定免許申請の認許を容易ならしめる目的をもって調停を行った結果、成立したものである。従って、その内容は、第1に控訴人が被控訴人の免許申請路線に同意し、第2に被控訴人の運送事業を限定免許とし、他の旅客を取り扱わないことの合意を骨子とするもので、それ以上に控訴人に自らの有する既設路線権を放棄し、奥道後遊園地発着の観光旅客を取り扱わないとの競業避止義務を負わしめるものではない。
原協定(二)の約条によれば、控訴人と被控訴人とは、3対7の割合で出資して設立した新会社により限定バスを運行することになっていた(その後、修正協定により控訴人が被控訴人の資本の3割を出資することに変更された)が、これは新会社と同路線を走る控訴人との間に不測の紛争が起ることを防止せんとしたものにすぎず、競業避止義務の有無とは何ら関係がない。控訴人が被控訴人に対し奥道後への観光客を競争的立場において取り扱わないという競業避止義務を原協定により負担している、などというような認識は、坪内寿夫はもちろん原協定に関する交渉、協議に当たった双方の担当者、原協定の調停者などの関係者にはなかった。被控訴人人の限定免許申請の目的は、奥道後観光開発事業の一環としての交通の確保にあり、みずから交通の手段を確保しておけば、交通事業者である控訴人人によるバス運行とあわせて補助的機能を果たし、もって十分なサービスの供与を観光客になし得るというのであった。もし、奥道後遊園地への観光客輸送を新会社に専ら委ねるとすれば、第1次免許申請において被控訴人が予定した停留所以外の停留所からの、または右停留所への客は交通の便を失うことになるのみならず、中予地区における旅客運送事業に全般的な責務を有する控訴人が、免許路線の一部区間の経営を実質上放棄することになり、公共事業としての企業の基本を問われることとなる。原判決は控訴人に競業避止義務を認めたが、右判断の理由とするところは誤まっている。すなわち、原判決は、先ず控訴人が奥道後の観光客の輸送について被控訴人側からの協力要請を断ったことが被控訴人の第1次免許申請の動機であったとしているが、そのような事実はない。また、原判決は、控訴人が系列会社と同一の運輸系統の路線において、奥道後の観光客を対象として競業することが建前であったとすると新会社を設立する趣旨が不分明に帰するというが、新会社はあくまで限定輸送のみを行い、控訴人が既設路線において従来からの運輸業者としての責任を果たすことは何ら矛盾するものではなく、かえって、双方の特色を生かすことにより利用者の便をはかる結果となる。原判決は、さらに、被控訴人が第1次免許申請書に国鉄松山駅—奥道後の運行回数を105回と記載していることを前提とし、これに対し控人訴のバスが同一路線に介入する余地はない、としているが、もともと、被控訴人の事業計画は杜撰なもので、その保有車両及び乗務員数をもってしては、右運行回数を実施することは不可能であったから、このような杜撰な運行回数を、永い経験を誇り、右路線を熟知している控訴人がそのままうのみにして、自らは被控訴人と競業する余地はないと判断したはずはなく、原判決の認定は合理性を欠く。原判決は、控訴人が被控訴人に対し「昭和35年10月5日付同意書を交付していることは、第1次免許申請がそのまま認可されることがあり得ることを予測していたもの」というべきであると述べているが、右同意書は協定に基づき、原協定(七)の運輸協定に代えて控訴人から被控訴人に交付されたものであって、それは被控訴人の限定免許申請及びその申請路線に同意することのみを意味し、避行回数105回に同意する趣旨ではなかったから、右判断も誤まりである。また控訴人は被控訴人が経営を予定する申請路線において既に免許を有しており、控訴人はその免許路線において、いつでも運行系統を変更し、運行回数を増減できる立場にあるから、控訴人に競業避止義務をおわせることになったとすると、それはきわめて重要な事項に当たり、むしろその旨を明文化して疑義を避けるべきであったはずである。従って原判決が「控訴人が新会社と競業することの権利ないし利益を確保したものとすれば、それはきわめて重要な約条であるから、原協定の契約書に、その競業する区分割合とあわせて明文化して疑義を避けるべきであったはずである」としているのは、逆である。
(二) 控訴人に背信行為のないことについて
原判決は、控訴人にいくつかの背信行為を認定しているが、右認定は誤まっている。控訴人に何らの背信行為がないことは、原判決の事実摘示(抗弁に対する原告の答弁及び主張二)のとおりである。さらに、前記のとおり控訴人に競業避止義務はないから、控訴人の背信的競業行為という非難は、その前提を欠き、失当である。
(三) 協定が死文化していないことについて
原判決は、協定はその締結以後、実質的に機能したことは一度もない、として「協定は宙に浮いて形骸化し、死文化したというのが真の実態である」旨判示しているが、この判断は誤りである。
控訴人に被控訴人主張のような背信行為のなかったことは前記のとおりであり、第2次免許申請に際し控訴人と被控訴人との間に締結された運輸協定は、原協定(七)の約条に基づき、控訴人が被控訴人の免許申請に対してなすべき同意を同協定(六)に定める本来の方法によって行ったものであるから、右運輸協定によって、被控訴人が予定どおり限定免許を取得した本件では、協定が実質的に機能したものであることは、明白である。原判決は「協定の目的に反した競業関係が10余年来継続」していることを、協定の死文化の理由の一つとしてあげているが、被控訴人の第2次免許申請が昭和39年11月に免許せられて以来、同一路線で被控訴人の限定輸送と控訴人の従来からの非限定の輸送とが10年余継続していることは、むしろ、協定が機能している結果である。
3 抗弁に対する控訴人の反論の補足
(一) 独占禁止法違反の主張について
(1) 原協定及び修正協定は、被控訴人が奥道後遊園地への入園客の利便を図ることを目的として、一般乗合旅客自動車運送事業(限定)の第1次免許申請を行ったことに関し、控訴人は当初の反対を撤回し、愛媛県政財界の有力者のあっせんの下に、地域の経済発展のため大局的見地から右免許取得を容易ならしめるため、締結されたものである。右免許申請にかかる路線は、すべて控訴人が免許を得ていた路線と重複するものであり、控訴人が反対する限り、被控訴人の免許申請は、当時の運輸行政の実情に照らし認許される可能性はなかった。従って、原協定及び修正協定は、通常は既存路線への新規参入が困難とされる運輸行政の実情の下で、被控訴人に対しバス事業への新規参入に途を開き、従前に比してむしろ競争関係を導入したものということができる。しかも、被控訴人が第1次免許申請において対象とした路線区間の大半は、訴外瀬戸内運輸、宇和島自動車、国鉄など他事業者のバス路線が競合しており、控訴人がバス事業を独占していたものでないから、本訴請求は控訴人が右路線区間について完全な独占的地位を享受していたことを前提として、その独占的地位をそのまま維持または強化しようとするものではあり得ない。従って、原協定(三)の約条は、そもそも独占禁止法にいう私的独占または不当な取引制限に当たらない。
(2) 仮に原協定(三)の約条が一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであるとしても、その制限的要素が実質的に運輸行政当局(運輸大臣ないし陸運局長とそれらの下部事務機構を含む行政組織体を指す。以下同じ)の裁量基準に合致し、同当局の適正な裁量権限の行使に等しいと認められる場合には、独占禁止法の価値基準である自由競争原理のみによって、これを違法、無効とすることはできない(第1次的主張)。のみならず、競争制限的要素を含む合意が、実質的に運輸行政当局の適正な裁量権限の行使を経た、ないしは、運輸行政当局の公的是認を得たに等しいものと認められる場合には、事情の変更がない限り(本件では、そのような事情の変更はない)、将来に向かって、このような合意の実行を求めることは、独占禁止法2条5項にいう「公共の利益に反」する場合に当たらない(第2次的主張)。あわせて、被控訴人が協定の無効を主張することは信義則に反し許されない旨主張する。以下分説する。
(イ) 道路運送法1条は「道路運送事業の適正な運営」、「公正な競争の確保」、「道路運送に関する秩序の確立」という3つの目的を総合的に考慮し、「道路運運送の総合的発達を図」ることによって「公共の福祉」を増進することを基本目的としているところ、右にいう「公共の福祉」とは、独占禁止法にいう「公共の利益」の概念を包摂し、自由競争秩序の観点にとどまらず、前記諸目的を総合的に考慮した国民全般の利益を眼中においた概念であることは明らかである。そして道路運送法は、右の目的を達成するために、道路運送事業につき免許制を採用し、同法6条において免許の基準要件を定めているのであるが、この基準要件を充たすかどうかの判断は、運輸行政につき専門的知識経験を有する運輸行政当局の適正な裁量判断によって初めてよくなし得る事柄である。してみると、法は一定の地域においてどの路線を免許すべきか、既免許路線が存在する場合に重複して路線の免許を与えるべきか、また、いかなる形で重複路線を免許すべきか等の点についての判断を運輸行政当局の専門的知識経験に基づく適正な裁量判断に委ねることによって公共の福祉を実現しようとしているものと解される。
一方、経済活動の秩序づけという視点から見ると、独占禁止法は自由競争秩序の維持を目的とする一般法、原則法であり、道路運送法は、道路運送事業分野について同法1条の総合的目的に由来する競争制限的要素を含む特別の秩序を確立することを目的とする特別法と認められるから、運輸行政当局が道路運送事業分野において、その裁量判断により設定した道路運送に関する秩序は、たとえ競争制限の要素を含む場合であっても、その裁量判断が同法1条の目的を実現するため運輸行政当局に認められた裁量権限の範囲内のものとして適法と認められる限り、裁判所としてはこれを公の秩序として尊重すべきである。換言すれば、道路運送事業は、道路運送法1条の目的を達成するための運輸行政当局の裁量統制(競争制限の要素を含む)に服する点で、自由競争原理の支配する一般の事業分野とは、その性格を異にし、この事業分野において、運輸行政当局がその裁量権限の範囲内において設定した道路運送に関する秩序は、たとえ競争制限的要素を含む場合であっても、独占禁止法の適用圏外におかれることとなるのである。
ところで、協定が成立した当時、路線の免許を受けて非限定の路線バス運送事業を営む既存の事業者がある場合には、重複して非限定の路線バス事業はおろか、限定路線バス事業ですらも、原則としてこれを認めないとする運輸行政当局の裁量基準が設定されており、この裁量基準は多年にわたる免許行政の実績ないしこれに添う行政指導を通じて業界に公知となっていたのである。そして、この裁量基準は、既免許事業者が公益事業者としての責務を全うしていないとか、重複して非限定の路線バス事業を免許するに足る輸送需要の存在することが顕著であるというような特別の事情のない限り、運輸行政当局に任された裁量権限の範囲内に属するものとして、客観的に適法と認められるのである。このような背景の下では、被控訴人が非限定の路線バス事業の免許を申請しても、到底認許の見込みはなく、被控訴人はたかだか控訴人の同意を得て限定路線バス事業の免許を得ることができるに過ぎない立場におかれていたので、被控訴人は第1次免許申請において、自ら進んで限定免許の申請をしているのである。協定が行われた当時においても、被控訴人側が限定免許の途を選ぶこと、従って非限定一般路線バス事業には進出しないことが当事者間で当然の了解事項とされていたのであって、協定はこれを前提として限定免許の申請をしようとする被控訴人と非限定の乗合自動車事業を営む控訴人との間で、限定免許の対象旅客の範囲を画定するとともに、控訴人の同意により被控訴人に限定免許取得の途を開くことを主眼としたものである。してみると、協定に含まれる競争制限的側面は、合意に基づくものであって、実質的には運輸当局に採用され既に業界に公知となっていた前記裁量基準の反映以外の何物でもないのである。すなわち、私的合意である協定の競争制限的側面は、実質的には運輸行政当局の適正な裁量権限の行使によって生じた競争の制限に等しいものということができるから、前記のようなわが国の全体法秩序の下で、適正な行政裁量を尊重すべき立場にある裁判所としては、協定が競争制限の側面をもつことだけをとらえて、自由競争原理を唯一の価値基準として、これを違法・無効とすることはできない。
(ロ) 独占禁止法上、私的独占または不当な取引制限は「公共の利益に反」することを要件としている(同法2条5項、6項)ところ、協定は被控訴人の輸送する族客の範囲を奥道後発着の旅客に限定し、他の旅客は取扱わないという点において競争の制限を目的とする合意を含んではいる。しかし、本件においては、協定に基づく被控訴人と控訴人との間に「公共の福祉増進と相互に不当競争を避けるため」に被控訴人の取扱う旅客の範囲を「奥道後遊園地に入園する旅客に限る」との趣旨の運輸協定が結ばれ、運輸大臣の認可を得るとともに、被控訴人に対し運送する旅客を右範囲に限定する限定免許が付与されているのである。してみると、被控訴人が第4次免許申請により新規参入を求めている路線区間に関する限り、控訴人が非限定の一般路線バス事業を営み、被控訴人が運送旅客の範囲を前記のように限定して、相互に不当競争を避けながら秩序ある競争を維持することこそ、公共の福祉を増進するゆえんであることが、運輸協定を認可し、限定免許を付与する運輸大臣の裁量判断によって、公的に是認され、この公的判断は現になお存続するものと認められるのである。そうであるならば、協定を根拠として、被控訴人による非限定のバス運送事業免許申請を阻止しようとする本訴請求は、単なる私的合意に基づき競争の制限を求める場合とは異なり、運輸大臣の公的判断によって公共の福祉に適合するものとして是認された競争の制限に関する合意の実行を求めるものにほかならず、従って私的独占あるいは不当な取引制限の構成要件である「公共の利益に反して」の要件を欠くものとして、独占禁止法違反を構成しないものというべきである。
(ハ) 協定は、前記免許に関する行政の実情の下で、既設路線権者たる控訴人の同意を取りつけ、被控訴人の第1次免許申請の認許を容易ならしめることを主目的として両者の利害を調整して締結されたものであり、その結果、被控訴人は第2次免許申請に基づき、行政当局の簡易な審査手続のみで、すみやかに免許を取得することができたのである。かように、被控訴人は協定によって自己が取得することを予定していた利益をすでに享受しているのであり、それにもかかわらず、自己の利益はそのままにして、これと均衡を保つ形で定められた控訴人の利益の享受を否定するために、独占禁止法違反を理由として協定の無効を主張することは、信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。
(3) 独占禁止法の適用除外について
乗合自動車事業について、独占禁止法21条の適用があること、従って原協定(三)の約条が独占禁止法3条に抵触するものでないとの、原判決事実摘示(抗弁に対する原告の答弁及び主張二の2の(二))のとおりの主張に加え、次の主張を附加する。
前記のとおり、道路運送事業は、道路運送法1条の目的を達成するための運輸行政当局の裁量統制(競争制限の要素を含む)に服する点で自由競争原理の支配する一般の事業分野とは、その性格を異にし、この事業分野において運輸行政当局がその裁量権限の範囲内において設定した道路運送に関する秩序は、たとえ、競争制限の要素を含む場合であっても、独占禁止法の適用圏外におかれることとなるところ、原協定(三)の約条に含まれる競争制限的側面は、実質的には運輸行政当局の適正な裁量権限の行使によって生じた競争の制限に等しいものということができるから、独占禁止法の適用はない。
(4) 独占禁止法違反の私法上の効力について
(イ) 仮に原協定(三)の約条が独占禁止法に違反するとしても、その私法上の効力には何らの影響を及ぼすものではなく、個々の事案における具体的事情の下で、公序良俗に反すると認められる場合に限って、正にその理由によって無効とされる場合ががあるに過ぎないと解するのが相当で、この趣旨は歩積両建預金契約に関する最高裁判所昭和52年6月20日判決(民集31巻4号449頁、以下「両建預金判決」という。)の判示するところである。その理由は、次のとおりである。
(a) 独占禁止法は、公正取引委員会という専門的機関を設けて、同法違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し、違法状態の具体的かつ妥当な収拾、排除を図るに適した内容の勧告、差止命令を出すなど、弾力的な措置をとらしめることによって、同委員会に全国的な統一的基準で独禁政策の遂行に当たらせることにしている。そして、司法権は、公正取引委員会の排除措置に関する審決を事後的に司法審査するという立場に位置づけられ、東京高等裁判所の特別合議体の専属管轄とされている(同法85条、87条)。 独占禁止法違反の事件を、各地方裁判所がばらばらに、かつ、第1次的に有効・無効の問題として判断すべきものとすれば、右に述べた制度の趣旨はまったく没却され、公正取引委員会に負託された任務を司法権がとって代ることになる。
(b) 独占禁止法は、もともと、私人の経済活動の経済社会に及ぼす事実上の影響という視点から、現実に市場機能(自由競争原理)の作動を阻害する行為及び現実に市場機能を阻害するまでには至っていなくとも、その可能性を含む行為を、公正取引委員会の排除措置の対象としてとらえようとしたものであって、これらの独占禁止法違反行為は、多くの場合、「私法的には性格を異にする多種多様の行為の総合体なるを常とし、しかも、それは時間的にも場所的にも社会的にも広範に分散し、相互に因となり果となって発展しつつある諸行為の包括的観念」であって、私法上の有効・無効の判断基準のみによって対処することには、無理があり、私的独占の排除、防止の目的を達することも困難である。例えば、ある事業者がプライス・リーダーシップの地位を占めるに至れば、私的独占を構成するといわれているが、この地位自身は、私法的法律関係としてとらえることはできず、単なる事実上の経済関係に過ぎない。従って、法律行為の有効・無効の判断基準のみによっては、この地位を解消させることはできないのである。
(c) 従って、事業者の行為が独占禁止法の構成要件に該当し違法であるということは、ただそれだけでは、公正取引委員会によって弾力的に運用されることが予定されている排除措置の対象となり、科刑の前提要件となる同委員会による告発の対象となることを意味するにとどまり、私法上の効力には関係がない。私法上の効力いかんは、別個に私法上無効原因があるかどうかということ—その一般的なものは、公序良俗違反という判断基準である—によって決すべきものと解するのが相当である。
(ロ) 右の見地に立って協定が果たして公序良俗に違反するかどうかの点について考えてみる。
独占禁止法制定前においては、営業の自由の制限が公序良俗に反するかどうかの問題について、大審院は一貫して、営業の種類、区域、あるいは時期のいずれかの点について限定を設けて営業の自由を制限することは、公序良俗に違反しないとの見解をとっていた。その後、新憲法下で経済基本法としての独占禁止法が制定されるに及んで、営業の自由を制限される者の不利益にとどまらず、新たに、私的独占、不当な取引制限等による一般消費者の被る不利益という観点が公序良俗違反の有無を判定するに当たって重要な要素として考慮されるべきことになった。しかし、本件の事案においては、原協定は独占禁止法に対し特別法的地位を占める道路運送事業分野における合意であって、競争制限的要素を含むとはいえ、その競争制限的側面は、実質的には、運輸行政当局の採用する適正な規制基準の反映にすぎないと認められる程度のものである反面、競争導入的側面をも併せもつという特殊、具体的事情が重視されるべきであるから、協定が競争制限の要素をもつという一事によって公序良俗に反するということはできないという結論に達する。
(二) 被控訴人の契約解除理由の補足に対する反論
被控訴人は当審において、解除原因として控訴人の不信行為を加え、しかも契約締結当時予想されなかった事情の変更や相手方の不誠実な行動は「己ムコトヲ得サル事由」に当たり、このような場合には法理上契約を解除できると主張する。
しかし、期間の定めのない継続的債権契約の場合でも、契約の目的、内容等によって具体的な適用法規を考察する必要があるのであって「己ムコトヲ得サル事由」があれば解除できるとの一般法理が当然に存在するものではない。
仮に「己ムコトヲ得サル事由」がある時は、契約の解除が出来るとしても、被控訴人主張のような背信行為が存在しないことは、前記のとおりであるから、被控訴人の右解除の主張は理由がない。のみならず、控訴人が協定を履行し、被控訴人のバス事業免許取得に協力したにもかかわらず、被控訴人は免許取得のため協定を利用しただけで、ことごとく協定を踏みにじり続けてきたのであるから、協定の解除を主張することは、そもそも信義則に照らして許されないものといわなければならない。
四 被控訴人の主張
1 自白の取消しに対する異議
控訴人は、当審において被控訴人が持参した第2次免許申請の原案では国鉄松山駅—奥道後間の運行回数が、第1次免許申請の1日105回から1日42回に被控訴人自らの手によって削減されていた旨主張を訂正したが、控訴人は従前被控訴人から示された第2次免許申請の原案の内容は第1次免許申請のそれと同一のものであったこと及び被控訴人をしてその内容を後の正式の第2次免許申請書のとおり修正させたことを認めていたから、右主張の変更は自白の撤回に当たるものというべく、被控訴人はこれに異議がある。従って控訴人は、前記自白が真実に反し錯誤に基づくことを立証すべき責任があるところ、証拠を検討してもその立証があるとは、とうてい認め難い。
2 協定における競業避止義務について
原協定の骨子とするところは、その成立の経緯及び背景、目的並びに経過からみて、奥道後遊園地への観光客のバス輸送は専ら新会社がするものとし、控訴人は右分野において、新会社と競業を避止すべき義務を負担するとともに、反面、新会社は同一路線において前記観光客以外の一般旅客のバス輸送をする控訴人と競業することを避けるべき義務を負担し、それぞれの事業分野を区分することにより利害の対立を防止、調整することにあったのである。このことは、修正協定により新会社の設立に代え、被控訴人の定款を一部変更(商号並びに主目的を自動車旅客輸送とすることを主旨とすることに変更)することにより、奥道後遊園地観光客のバス輸送を被控訴人が行うものとされた場合においても、何ら変るところはない。また、原協定は控訴人と被控訴人が共同出資して新会社を設立し、右新会社をして奥道後温泉遊園地への入園客を乗合自動車をもって運送させることを目的とする右2者間の契約であるから、控訴人においても奥道後への旅客を運送しうるものとすれば、その分だけ新会社の運送旅客が減少し、その結果被控訴人出資分(7割)にも、出資比率に応じたマイナスを与え、被控訴人の権利を害することとなる。従って、被控訴人が右不利益を甘受する旨特段の意思を明示した事実は一切存しない本件では、前記の内容、目的を有する新会社の設立に合意した以上、控訴人が同一路線(第1次申請における計画路線)において奥道後遊園地への入園客を運送することは、原協定そのものに基づき禁止されていたものというべきである。なお、控訴人が右競業避止義務の存在を認識していたものと解されることは、控訴人が新会社の取締役として控訴人の現職取締役を派遣する意図であったこと、かかる取締役が第3者である控訴人のため新会社の競業の部類に属する取引をすることは、新会社の株主総会において、7割の出資をしている被控訴人が反対する限り、絶対に商法264条1項の認許を受ける余地がなかったこと、控訴人の役員らもこれを認識して原協定を締結したものと解されること等に徴し明らかである。
3 原協定(三)の約条が独占禁止法に違反することについて
この点については、原判決の抗弁一において主張したところであるが、以下(一)において右約条が私的独占または不当な取引制限に当たることについて、(二)において右約条が同法の適用除外に当たらないことについて(三)において独占禁止法違反の私法上の効力について補足分説する。
(一) 原協定(三)の約条は、私的独占または不当な取引制限に該当する。
(1) 「私的独占とは、事業者が……いかなる方法を以てするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、……公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」(独占禁止法2条5項)のであるから、先ず事業者が他の事業者の事業活動を排除するものでなければならない。原協定締結当時、控訴人が本件路線におけるバス運送事業を独占する事業者であったこと、及び被控訴人がバス運送事業を営んでいなかったことは争わないが、控訴人の右独占は免許を受けていたのが控訴人1社のみで、独占禁止法にいう競争という現象が起り得ず、「他の事業者の事業活動を排除」するという私的独占の構成要件が事実上存在しない状態であったというにすぎない。また、当時、被控訴人はバス運送事業の事業者ではなかったが、新たに同種の事業者となるべく免許を申請中であり、申請が認許される可能性が十分で、免許が下付されれば日ならずして、運行を開始し得たであろうことは疑問の余地がなく、被控訴人が原協定締結当時、有力な潜在的競争事業者であったことは明らかであったから、これを排除して、その新規加入を妨げ、一定の取引分野における自己の事実上の独占的状態を維持するために、協定を締結させることにより、予定された競争を制限することが私的独占に当たることは、いうまでもない。
(2) 原協定は、要するに、被控訴人が奥道後の観光開発のため、控訴人の既設バス路線に競合してバス事業を企画し、第一次免許申請をしたところ、競争者の出現を嫌忌した控訴人が猛然と反対するに至ったので、有力2社による対立抗争の激化を憂慮した地元有力者が乗り出し居中調停の労をとった結果、締結されたもので、これにより被控訴人に対しその受けるべき免許は、奥道後遊園地発着以外の旅客は一切輸送することを得ない、いわゆる限定免許とする旨の制約を課し、一定の取引分野、すなわち、松山空港、国鉄松山駅、松山観光港、高浜港及び堀江港など松山市内の交通拠点と奥道後とを直結する(途中に停留所が全然存在しないということではない)バス路線事業において、被控訴人を一般旅客輸送についての競争から排除し、競争を実質的に制限するものであるから、私的独占に当たることは明らかである。又、協定により被控訴人は専ら奥道後の観光客を輸送し、それ以外の通常の旅客を輸送しない義務、控訴人は奥道後の観光客を取扱う目的をもって、被控訴人が免許を受けた事業計画の運行系統と同一の始終点による新路線を開設したり、既存の河中線を増便したりしないで、同路線及びその他の競合する既設路線において、原則として奥道後の観光客以外の通常の旅客を輸送する義務、すなわち互に競業避止義務を負担するに至ったものであるから、事業者である控訴人と被控訴人が協定を結び、公衆の便益を顧慮することなく、共同して取引の相手方を制限し、相互にその活動を拘束することによって前記取引分野における競争を実質的に制限したものというべく、独占禁止法2条6項の不当な取引制限にも当たる。
控訴人は、控被訴人が第1次及び第4次免許申請で対象とした路線区間の大半は、控訴人以外の事業者のバス路線が競合しており、控訴人のみが対象路線区間を独占していたものでないから、原協定(三)の約条による制限は、競争の実質的制限に当たらない旨主張する。しかしながら、松山市内において他の事業者のバス路線と控訴人の営む路線とが一部重複あるいは競合する区間があるにしても、松山市内の各交通拠点と奥道後とを直結するバス路線区間において、競争関係が成立しうる事業者は、控訴人と被控訴人の2社のみであるから、右主張は失当である。
(3) 私的独占、不当な取引制限は、「公共の利益」に反する行為であることを、その実質的要件としているが、元来独占禁止法の法益は自由競争経済秩序そのものであるから、そこにいう「公共の利益」とは自由競争秩序を維持することそのものであり、これを阻害する行為が、「公共の利益」に反するものであることは、論ずるまでもないところである。原協定(三)の約条は、非限定免許を得て事業を拡大しようとする被控訴人の事業活動を阻止しようとするもので、「公共の利益」に反することは明らかである。
控訴人は、原協定が一定の取引分野における競争の実質的制限に当たるとしても、運輸大臣は公益上の見地から、被控訴人に対し本件限定免許を与えたのであるから、反公共性の要件を欠く旨主張するが、これは被控訴人の申請自体が限定免許であることを看過している点で極めて初歩的な誤りをおかしている。さらに、独占禁止法の法益が自由競争経済秩序そのものであり、これを阻害する行為は、独占禁止法上「公共の利益」に反することは論ずるまでもないから、運輸大臣のなした許認可により公共性が担保されているとの控訴人の主張は全くの見当違いである。又、控訴人は、道路運送法1条にいう「公共の福祉」は、独占禁止法の「公共の利益」と異なるものであって、自由競争秩序の観点にとどまらず、同条所定の諸目的を、総合的に考慮して国民全般の利益を眼中においた概念である、同法は右目的を達成するため免許制を採用し、同法6条所定の免許の基準要件を充たすかどうかの判断を運輸行政当局の専門的知識経験に基づく適正な裁量判断に委ねることによって公共の福祉を実現しようとするものである、従って道路運送事業は右目的を達成するための運輸行政当局の裁量統制に服する点で、自由競争原理の支配する一般の事業分野とその性格を異にし、この事業分野において当局が適法に設定した道路運送に関する秩序は、たとえ競争制限を含んでいても、裁判所において尊重されるべきである旨主張する。
しかし、独占禁止法にいう「公共の利益」とは、自由競争秩序の維持そのものであり、その限りでは憲法その他における法律用語としての「公共の福祉」と必ずしも一致するものではない。しかし、独占禁止法のめざす自由競争経済秩序の堅持という独禁政策にも当然一定の限界があり、自由競争を維持させることが、狭い範囲の消費者の利益にはつながっても、より高い見地から見ると、いわゆる公益に合致しない場合も稀にはあり得る。独占禁止法1条において「以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」とあるのは、独禁政策の最終目的が上述の理を有するものであることを示すものである。一方「公共の福祉」は実に多義的な概念であって、その意味を一義的に措定することは不可能に近い。実質的に考察するならば、行政法規に「公共の福祉」とあるのは、行政がすべて公共の利益に奉仕するものであるという極めて当然のことをいっているに止まり、その意味では「公共の福祉」は、常識的一般名辞たるに過ぎず、厳密な法律解釈の基準たるに値しない。のみならず、行政立法においても、「公共の福祉」と全く同じ用法で「公共の利益」としている例もあり、立法上「公共の福祉」と「公共の利益」の2つを概念として峻別しているわけではなく、質的内容を考えるならば「公共の利益」を全く顧みない、それの対立物としての「公共の福祉」なるものがおよそあり得る筈はない。控訴人は、道路運送事業は自由競争原理の支配する一般事業分野とは性格を異にするというが、これは道路運送法1条が「公正な競争の確保」をうたっていることを無視するものである。独占禁止法がいわゆる政府規制産業にも及ぶものであることは、同法制定前後の事情からしても明らかで同法適用除外の明文の規定がない以上、道路運送事業にも独占禁止法の適用がある。現在の日本において独禁政策だけが唯一絶対の価値を有するものでないし、また「公共の利益」が一般の行政法規にいう「公共の福祉」と両々相背馳するものでなく、「公共の利益」は「公共の福祉」の概念に包摂されるものだと考えることができるとすれば競争を軽視ないし敵視する如き道路運輸行政当局の判断は、何らの尊重に値しない。
さらに、控訴人は、原協定締結当時、路線の免許を受けて非限定のバス事業を営む既存業者がある場合には、非限定の路線バス事業はおろか、限定路線のバス事業ですらも原則として重複しては認めないのを原則とする運輸行政当局の裁量基準が設定されており、道路運送事業分野では政府が道路運送法1条の目的に添う規制基準(競争制限的要素を含む)を採用し、そのことが多年にわたる免許行政の実績ないしこれに添う行政指導を通じて、業界に常識として知られているような場合には、事業者が右のような規制基準の存在を前提として事業活動を行うことは当然であるところ、原協定はこのような事情の下に成立したものであるから、その競争制限的側面は、右規制基準の反映に過ぎず、独禁法の価値基準によって違法、無効とさるべきでない旨主張する。
しかし、既存業者があれば、後発の免許申請は問題としない、という行政庁の裁量基準があるとすれば、適正であるどころか、それこそ道路運送法1条にいう「公正な競争の確保」を無視した違法なもので、このような基準などあるべきはずはないし、そのような基準が何らかの形で国民に明示された証拠もない。仮にそのような裁量基準があったとしても、それは原協定締結当時におけるもので、それから20年以上を経過した今日、右基準がいまなお堅持されていると考えることは、常識上も幻想に過ぎない。
(二) 独占禁止法適用除外の主張について
控訴人は、自動車運送事業は独占禁止法21条にいう「性質上当然に独占となる事業」(いわゆる自然独占産業)であって同法の適用が除外される旨主張する。しかし、右主張は道路運送法1条が「公正な競争の確保」を目的としており、道路運送事業は競争原理が作用することを前提とした事業分野であることを看過していること、同法21条が「運輸に関する協定」についてのみ、独占禁止法の適用除外を認めていることと対比するとき誤まっている。さらに、いわゆる「自然独占」を経済的あるいは実質的見地から検討しても、控訴人の立論は誤まりである。独占禁止法21条が「鉄道事業、電気事業、ガス事業その他その性質上当然に独占となる事業を営む者の生産、販売または供給に関する行為であって、その事業に固有のもの」について同法を適用しないこととしているのは、これらの事業が一定の経済的特質を備えており、競争原理によっては、その目標とする結果が生じないため、独占を容認せざるを得ないからである。ところで、右経済的特質とは、鉄道、電気、ガス事業の実情から共通的に見出しうるとおり、商品、サービスを生産、販売、供給するためには、固定的でしかも特殊な設備のため巨額の投資を必要とし、従って総費用に占める固定費用の割合が極めて高いこと、また、消費者に対する商品、サービスの提供が事業者の生産設備と密接な連絡の下においてなされる意味での設備拘束性と、設備建設のために特別に適した場所と位置を必要とする意味での場所的拘束性が本質的に存在することである。これを一般乗合旅客自動車運送事業についてみるに、本事業に必要不可欠なサービス供給設備は、道路、事業用自動車、車庫(土地、建物)である。経済的見地からみる限り、これらの設備で最も巨額の投資を要するものは、いうまでもなく道路である。しかしながら、本事業は高速自動車国道、一般国道、都道県府道、市町村道を利用してなされるのが通常であり、これら道路は本事業を営む者の投資によって設置されることはない。また、事業用自動車は、比較的短期間に償却される資産であり、性質上全部または一部の他路線への転用、さらに第3者への売却が容易であるから、固定的かつ特殊な設備に該当せず、道路に比しその投資額も僅かである。車庫は比較的簡易な構造を有する建築物であるから、論ずるまでもない。結局、一般乗合旅客自動車運送事業は、乗客運送が生産設備たる事業用自動車の運行によってなされる点での「設備拘束性」はあるが、設備自体は移動可能で、「場所的拘束性」を帯有しないから、自為独占事業に当たらず、従って独占禁止法が適用されることは明らかである。
(三) 独占禁止法違反の私法上の効力について
独占禁止法の関係法条が強行法規に当たることは、異論がなく、強行法規に反する行為は、特別の事情がない限り、公の秩序に反し無効である。他面、独占禁止法違反とされる行為はこれを個々にとり出して観察する限り、資本主義社会において通常合法的行為とされるものが大部分で、ただ同法の制定によりはじめて特定事業者の事業活動を総合的に考察して自由競争の理念に反するものとしてこれを禁止するものであるから、同法違反のすべての行為を絶対無効とするときは、第3者に不測の影響を及ぼすおそれがある。これを同法の規定について考察するならば、同法は排除措置として営業の一部譲渡、株式の処分、役員の辞任等を命じ得べきことを定めており(同法8条の2、17条の2)、この規定は、営業用財産や株式の取得などが、仮に違法行為に基づくものであっても、有効なことを前提とするのでなければ理解することのできないものである。このような両面を併せ考えると、独占禁止法に違反する契約は無効であり、かかる契約に基づいて権利を行使することに法的保護は与えられないが、その契約が任意に履行された結果生じた状態については、法はその効力を否定することなく、法目的の達成は、もっぱら、公正取引委員会による排除措置に依存する建前となっていると解すべきである(いわゆる制限的無効説)。換言すれば、経済秩序の規制を目的とする独占禁止法の建前上、ある契約が同法に違反するに拘らず、裁判所がその効力を認めて、それによる履行を強制し得るようなことは、もとより不合理である。また、債務者が、かかる契約について、その無効を主張して義務を免れることは必ずしも不当とはいえないし、契約後の事情の変化により法違反の状態を生ずる以上、履行不能を主張することは、当然に許されてよい。しかし、違反行為に基づいて、新たな法律関係が形成、発展せしめられた後において、当該法律行為の無効を理由に、既に引渡した物の返還、株式取得、役員就任の効力の否認などを主張することは許されない、ということである。この制限的無効説に従って原協定(三)の約条を考察すると、これに基づいて権利を行使せんとすることに裁判所が法的保護を与えるべきでないことは明らかであり、その効力を否認しても第3者乃至社会の法的安定や取引の安全を害することもないから、結局右約条の如きものは、無効とされることが最も妥当かつ典型的な場合に属するものというべきである。
控訴人は、両建預金判決を引用して独占禁止法に違反するというだけでは、私法上の効力に何ら影響がなく、その行為が公序良俗に反する場合に限って無効とされる場合があるに過ぎない旨主張するが、控訴人の右判決の理解に問題があるばかりでなく、原協定(三)の約条は、被控訴人の自制にかかる限定免許申請に対し、いかなる新規加入も許さずとして猛然たる反対運動を展開し、有力者の居中調停となるや、右申請に同意する代償として控訴人が被控訴人に締結させたもので、控訴人の露骨なエゴに基づくものであること、右約条に基づく競争制限には何ら期間の制限がなく、無期限で、被控訴人は半永久的に行動上の制約を受け、自由な競争を圧殺されること、この場合に一般消費者すなわち乗客の被る不利益は控訴人の眼中になかったこと、原協定(三)の約条が無効とされた場合、不利益を受けるのは、理不尽な行動をした控訴人のみであり、乗客はもちろん、県の運輸行政にも何らの影響がないこと等両建預金判決の事案と決定的な差異がある。
次に公正取引委員会の権限をめぐる控訴人の主張であるが、およそ法律上の争訟はすべて裁判所の管掌するところであり、私的独占なり、不公正な取引方法が独占禁止法に違反するかどうかという法律上の争訟は1次的にも終局的にも、裁判所こそが審理判断すべきもので、ただ独占禁止法違反の特殊な性格に鑑み、その排除措置のみを行政機関に負託せしめたにとどまるのである。控訴人は独占禁止法違反行為に対しては、先ずもって公正取引委員会による排除措置にまつべきだとする如くであるが、かかる排除措置があっても、独占禁止法違反の法律行為が私法上有効か無効かは、訴訟が係属する以上、裁判所が別途に判断する義務があるのであって、排除措置の制度がある以上、違反行為を無効とするわけに行かないという論理には何の根拠もない。プライスリーダーに関する控訴人の主張も同様であって、このような権利紛争に属しない、従って法律的な判断を必要としない単なる事実上の経済関係にすぎないものは、およそ裁判に親しまない事象であるから、公正取引委員会の排除措置に委ねて妥当な収拾排除を図れば足り、私法上の効力を論ずる必要はない。しかし、独占禁止法違反の法律行為は、もとよりこれと本質を異にしている。
4 控訴人の信義則違反、背信行為について
(一) 原協定に基づく控訴人の被控訴人に対する資本参加がなされなかったことの責任は、すべて控訴人の背信行為に原因するものである。原判決は、その責任が被控訴人にあるとしているが誤まっている。一般に、出資比率を3割と定められた場合、出資者は投資効果の発生を確実に期待しうる時期まで出資をためらうのが通常である。被控訴人が定款を変更した昭和35年9月の時点では、奥道後開発はその緒についたばかりであり、その後昭和38年に入るまでは、用地に関する紛争のため、控訴人の出資を求めうる状況ではなかった。のみならず、被控訴人が増資をした昭和39年1月においてさえも、開園時期は未確定であり、控訴人から出資の時期、額、方法について何らの申出はなかったから、出資が実行されなかったことの責任は、専ら打算のみに基づく控訴人の日和見的、消極的態度に起因するというべきである。また、被控訴人が第2次免許申請につき経営免許を受けた昭和39年11月中に、控訴人から仮に資本参加の意向打診がなされたとしても、当時愛媛日野によるバス受注辞退という事態が発生していたため、被控訴人としてもそれ以上資本参加に関する話合いを進めるわけに行かなくなり、交渉は立消え同様となってしまい、更に、後述の控訴人による競業開始によって共同出資に関する話合いは完全に打ち切られた。ここにおいて、原協定中の共同出資条項は、効力を失ったものというべきであるから、いずれにせよ、控訴人の資本参加がなされなかった原因は、すべて控訴人の背信行為によるものである。
(二) 第2次免許申請に対する控訴人の背信行為
被控訴人の第2次免許申請の原案が控訴人の不当な要求により修正を余儀なくされたことは、原判決抗弁三の3記載のとおりである。その事情の詳細は、次のとおりである。
被控訴人は、昭和39年4月頃、第2次免許申請をなすべく所管庁の内意を確かめたところ、先に控訴人より交付を受けた同意書の再交付を受ければ足りるとのことであったので、同年5月初め頃原案を提示して第1次免許申請のときと同様の同意書の交付を求めたところ、控訴人はこれに応じないばかりか、主幹線である国鉄松山駅—奥道後間10分間隔1日105回(自11月1日至3月31日は85回)の運行回数を大幅に削減することを要求し、被控訴人がこれに応じなければ、第2次免許申請に対し同意書を交付しないとの態度を示すに至った。右の如き控訴人の態度は、明らかに原協定(七)の約条に違反するものであったが、被控訴人としては、別会社ながら極めて密接な関係にある奥道後国際観光株式会社が奥道後遊園地開発として、既に巨額の資本を投下し、同年末開園を目指して鋭意準備中であったところから、開園見通しが得られてもバス経営免許が間に合わなければ観光客を誘致することができず、かくては、これまで関係者が注いで来た努力が水泡に帰することを憂慮し、また、控訴人はいずれ3割の資本参加により共同経営者となるものであることを考慮した結果、仲介者の説得もあって、前記運行回数を削減するのやむなきに至ったのであって、被控訴人において自主的に削減したものではない。
(三) 控訴人の競業開始による背信行為
控訴人は、前記競業避止義務に違反して、奥道後遊園地開園日の翌日から国鉄松山駅—奥道後間のバス路線を開設し、1日31回の運行を開始した。しかも、控訴人はこれを実施の当日まで秘匿し、被控訴人に事前に何ら連絡することなく、抜き打ち的に実施したもので、第2次免許申請に際して、需要が少いことを理由として極めて強引な態度、方法により被控訴人の運行回数を削減させたことと相俟って、控訴人の重大な背信行為であるといわざるを得ない。3割出資による経営参加が立消えになり、企業主体としての危険性、困難性を一切負担しないでおきながら、被控訴人の多年にわたる経営努力によって生み出された新規輸送需要の相当部分を、たかだかこれに要するバス購入費程度の資本投下によって獲得しようとする控訴人の態度は、事業家としてのモラルにも反し、商業的秩序を破壊するものである。
5 被控訴人は、原判決抗弁三において協定の解除を主張したが、その解除原因として右抗弁で主張した事情の変更とともに、控訴人の度重なる不信行為を追加し、これらを「己ムコトヲ得サル事由」に当たるとして協定の解除を主張する。控訴人は双方の合意がなければ協定は廃止できないとするものの如くであるが、原協定は期間の定めのない継続的債権契約であり、このような契約において相手方の同意がない限り当事者を永久に拘束するとすることは、正義に反するものというべく、予測し得なかった事情の変更や相手方に不誠実な行動がある等、法律関係をこれ以上継続させることを当事者に期待することができない事情があるときは、「己ムコトヲ得サル事由」あるものとして、契約を将来に向って解除(告知)できることは、判例学説上認められているところである。
五 当審における証拠関係
当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 当事者間に争いのない事実及び存在が推認される事実
この点に関する当裁判所の判断は、原判決の理由説示(原判決37枚目裏6行目から40枚目表11行目まで)と同じ(ただし、同38枚目表1行目の「73条の4」を「63条の4(ただし、当時の条文)」と改め、同裏4行目から8行目までを削り、同9行目の「8」、同39枚目表1行目の「9」、同5行目の「10」、同10行目の「11」、同裏3行目の「12」、同8行目の「13」を、順次「7」ないし「12」に繰り上げる。)であるから、これを引用する。
第二 協定成立までの経過及び協定の趣旨、目的
(協定成立までの経過)
この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり補正するほか、原判決のこれに関する理由説示(原判決40枚目裏2行目から同42枚目裏10行目まで)と同じであるから、これを引用する。
一 原判決40枚目裏3行目の「一ないし四」の次に、「、乙第33号証ないし第37号証」を加える。
二 同41枚目裏4行目の「被告の」から同6行目の「いたため、」を削る。
三 同42枚目裏1行目の「認めることができ、」の次に「右認定に反する原審(第1、2回)及び当審証人小泉順次郎、当審証人山中義貞の各証言、当審における控訴人代表者尋問の結果は措信し難く、他に」を加える。
(協定の趣旨、目的)
一 愛媛県政財界人が控訴人・被控訴人間を斡旋して、原協定を締結させた目的は、控訴人が本来交通運輸業者として多年にわたり、中予地区における乗合自動車事業を独占的に経営し、地方における産業と文化の発展に多くの寄与をしており、奥道後が控訴人の既設営業路線上にあり、控訴人のいう既得権があることに対比して、やがて見込まれる奥道後の観光客の輸送需要は、専ら被控訴人が投資、開発する観光事業によるもので、観光客の輸送については双方に発言力があり、利害が対立する関係にあるので、この双方の利害を調整する場として、双方合弁による新会社をして奥道後の観光客の輸送に当たらせること、それによって奥道後遊園地完成後の同方面への観光客の足の確保のため、松山市内の各交通拠点から奥道後への路線による乗合自動車事業を開始しようとしている被控訴人と、同路線につき有する既得権を侵害されるとしてこれに反対している控訴人との間の対立、紛争を円満に解決し、地盤沈下が言われている松山市ひいては愛媛県の温泉・観光事業の発展と隆盛を計ろうとするにあったというべきである。
二 従って原協定(三)の「丙(控訴人と被控訴人との合弁による新会社、以下同じ)の自動車運送事業の種類は、昭和35年6月14日附一般乗合旅客自動車運送事業経営免許申請書のとおり奥道後遊園地発着の旅客の輸送に限りこれが免許は限定免許として他の旅客は取扱わない。」との約条と同(七)の「乙(控訴人、以下同じ)は、昭和35年7月19日附申請書を取り下げ、丙に対し本契約並びに運輸協定により昭和35年6月14日附一般乗合旅客自動車運送事業経営免許申請路線に同意する。」の約条は、新会社(被控訴人が7割の株式を保有するから実質的には被控訴人)と控訴人との利害を調節する対価的関係にあったものと認められる。すなわち、控訴人は、第1次免許申請書記載の松山市内の各交通拠点からの、または右各交通拠点への奥道後発着の路線及び旅客に限定して被控訴人が乗合自動車経営免許申請及び営業(認許があった場合)をすることに同意(右路線については、控訴人が競合して既免許路線を有しているから、右の限度で控訴人は既得権に基づく権益の侵害を理由に、被控訴人の限定免許申請に反対しないこと)し、右同意によって新会社の限定免許申請が簡易迅速に認許される便益を与える代りに、新会社は右限定免許の限度で免許申請をし、それをこえて将来非限定の乗合自動車事業部門に進出のため、その経営免許申請及び同事業を経営しないことを約したものと認めるのが相当である。従って、原協定(三)の約条は、新会社に対し非限定の乗合自動車事業部門に新規参入をしないという不作為義務を課したものであり、控訴人の側から言えば、新会社が右部門に新規参入しようとするときは、右約条に基づきこれを阻止し、排除できることが、その趣旨であったというべきである。
三 原審(第1、2回)証人小泉順次郎の証言によれば、原協定が成立した翌日に被控訴人の方から被控訴人の第1次免許申請を生かし、速やかに事業免許を得るためには、新会社の設立を取り止め、被控訴人自体が新会社に代って右免許申請をしたい旨の申出があり、控訴人もこれに同意したこと、その趣旨の覚書(修正協定)がその後両者間に作成されたことが認められる(これに反する原審(第1、2回)証人坪内寿夫の証言は、前記証言に照らして措信し難い)。右事実に成立に争いのない甲第2号証の記載を総合すれば、右覚書(修正協定)は、原協定の内容、効力を新会社の代りに被控訴人に引継ぐ趣旨のものであることは、明らかである。従って原協定(三)の約条による新会社の不作為義務は、そのまま被控訴人に承継されたものというべきである。
四 なお、原協定及び修正協定により控訴人が第4次免許申請路線(以下「本件路線」という。)において、競業避止義務を負担したか否かについて、争いがあるが、原協定の「両者は奥道後温泉観光バス株式会社を含め相互に協力し営業道徳を重んじ緊密なる連携と親善関係を保持し」(前文)、「甲(被控訴人)丙は乙の路線の営業に影響のある事項は乙と協議して決める」(原協定(五))、「丙の運行開始に当っては運行系統、運行回数、運行時刻、運賃等運輸に関する一切の事項につき乙と運輸協定を結び」(同(六))等控訴人の本件路線での営業を前提とするが如き文言があること、原協定(七)で控訴人が同意したのは「経営免許路線」とあり、運行系統及び運行回数まで同意したとは認め難いこと、原審(第2回)証人坪内寿夫は、「原協定成立の過程において、当事者及び関係人の間において控訴人の本件路線における競業避止義務は、特に協議の対象とならなかった、新会社が限定の経営免許を得て営業する以上、控訴人がこれと競業することはないと考えていた」旨供述していること、限定免許の場合中間での停留所の設置は原則として認められず、認められる場合も限られたものに過ぎないこと(従って、路線の中間では、たとえ奥道後への観光客でも降、乗車できない)等を併せ考えると、坪内自身は新会社(修正協定により被控訴人)が専ら本件路線での乗合自動車事業を経営し、控訴人が右路線では競業しないと考えていたことは推認されるものの、原協定及び修正協定により控訴人が競業避止義務を負うことの合意が成立したとまでは、認め難い。他に控訴人が法的な競業避止義務を負ったと認めるに足りる証拠はない(なお、反対に控訴人が本件路線において、被控訴人と競争的に奥道後の観光客を輸送できる権利ないし利益を留保する旨の合意ないし話合いがなされたと認めるに足りる証拠もないから、結局控訴人の本件路線での競業の許否については、何らの合意も成立しなかったものというべきである)。
第三 争点に対する判断
(被控訴人の法律上の主張一—原協定及び修正協定は紳士協定である—について)
この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり補正するほか、原判決のこれに関する理由説示(原判決48枚目表末行から、同50枚目裏4行目まで)と同じであるから、これを引用する。
一 原判決49枚目表4、5行目の「前記認定の競業避止義務をおい、」を削る。
二 同49枚目裏5、6行目の「双方が前記認定の競業避止義務を負担し、」を削る。
(被控訴人の法律上の主張二—乗合自動車経営免許の申請権は、公権で放棄できない—について)
この点に関する当裁判所の判断は、原判決のこれに関する理由説示(原判決51枚目表末行から同54枚目表3行目まで、ただし、原判決51枚目裏11行目の「経営免許」の次に「(非限定)」を加える。)と同じであるから、これを引用する。
(被控訴人の抗弁一—協定は営業の自由を剥奪し、公序良俗に反する—について)
この点に関する当裁判所の判断は、これに関する原判決の理由説示(原判決55枚目裏末行から、同57枚目表11行まで)と同じであるから、これを引用する。
(被控訴人の抗弁二—協定は独占禁止法に違反し無効である—について)
一 原協定(三)の約条及び修正協定は、独占禁止法が規制し禁止している私的独占に当たるか否かについて
独占禁止法が禁止している私的独占は、i.事業者がii.単独または結合してiii.他の事業者の業事活動を排除または支配することによってiv.公共の利益に反し、v.一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいうものであることは、同法2条5項の規定するところである。そこで、以下順次原協定(三)の約条が右要件に該当するか否かについて見ることとする。
控訴人が、昭和17年4月1日に地方鉄道業、軌道業及び乗合自動車事業等交通運輸関係事業を営業目的として設立された会社で、右乗合自動車事業については、愛媛県中予地区、なかんずく松山市を中心として、古くより既設路線を経営しているものであること、被控訴人が昭和35年2月26日に奥道後観光開発株式会社の商号をもって、観光事業を営業目的として設立された会社で、同年3月8日に商号を奥道後国際観光株式会社と変更し、次いで同年9月18日に商号を奥道後温泉観光バス株式会社と変更するとともに、営業目的を一般乗合旅客自動車運送事業及びこれに付帯する一切の事業に変更し、交通関係事業の経営を専業とするに至ったものであることは、いずれも当事者間に争いがないから、控訴人・被控訴人とも乗合自動車事業を営む事業者であることは明らかである。もっとも、原協定が成立した昭和35年9月当時、被控訴人は乗合自動車事業の事業者ではなかったが、新たに同種の事業者となるべく免許を申請中であり、私的独占の「他の事業者」には、このような潜在的競争事業者をも含むと解するのが、公正かつ自由な競争の確保を目的とする独占禁止法の趣旨に徴し相当であるから、以下更に進んで原協定(三)の約条が被控訴人の事業活動を排除または支配するものであるか否かについて検討する。前記のとおり原協定(三)の約条及び修正協定に基づき、控訴人は被控訴人の非限定の乗合自動車事業への新規参人を妨げようとするものであるから、控訴人の右行為は、競争事業者の排除に当たるものというべきであり、右行為によって現に非限定の乗合自動車事業に参入しようとしている被控訴人は、右事業活動を妨げられることになる。そして、松山市内の各交通拠点、すなわち、高浜港、松山観光港、堀江港、松山空港、国鉄松山駅、松山市駅と奥道後とを直結する路線(途中に停留所が全く存在しないということではない。)は、右各交通拠点から観光客を奥道後に輸送することを主たる目的とするものと解せられるから、それ自体として一つの取引分野を形成するものというべく、右交通拠点と奥道後とを直結する路線については、控訴人と被控訴人のみが全面的に競合(ただし、被控訴人は限定)して営業しているものである。そうすると、控訴人が原協定(三)の約条及び修正協定に基づき、右路線における限定免許から無限定の乗合自動車事業への被控訴人の進出を妨げる行為は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するもの、すなわち、独占禁止法3条で禁止されている私的独占に当たるものというべきである。もっとも、被控訴人が第1次免許申請において対象とした路線区間において、訴外瀬戸内運輸、宇和島自動車、国鉄など他事業者のバス路線が一部競合していることが、原審証人橋本衛の証言によって真正に成立したと認められる甲第15号証の1、2、当裁判所の高松陸運局長に対する調査嘱託の結果によって認められるけれども、それは右路線の一部にとどまり、前記松山市内の交通拠点と奥道後を直結する路線については、控訴人と被控訴人のみが全面的に競合しているものであるから、前記認定を左右するものではない。そして、独占禁止法に定める「私的独占」は、「公共の利益に反する行為」であることをその要件としているが、右にいう「公共の利益」は、自由競争を基盤とする経営秩序そのものを指すと解するのが相当であるから、競争を実質的に制限する行為は、直ちに「公共の利益に反する」ことになるものというべきである。
以上のとおりであるから、原協定(三)の約条及び右約条がそのまま被控訴人に適用されることを合意した修正協定は、独占禁止法2条5項に定める要件を充足する私的独占に該当するものといわざるを得ない。
二 控訴人の反論について
1 控訴人は、原協定(三)の約条は、競争関係をむしろ導入したものというべく、また被控訴人が第1次免許申請において対象とした路線区間の大半は、訴外瀬戸内運輸、宇和島自動車、国鉄など他事業者のバス路線が競合しており、控訴人が右対象路線を独占していたものでないから、原協定(三)の約条は、私的独占ないし不当な取引制限に当たらない旨主張する。確かに、松山市内において他の事業者のバス路線と控訴人の営む路線とが一部重複あるいは競合する区間があることは、前記のとおりであるが、松山市内の各交通拠点と奥道後とを直結するバス路線区間において競争関係が成立しうる事業者は、控訴人と被控訴人との2社のみであり、右路線につき限定免許の限度で原協定(三)の約条が被控訴人の乗合自動車事業の経営を認め、競争関係を導入したといい得るにしても、右約条は同時に被控訴人が右路線において無限定の乗合自動車事業を営むことを禁止し、右事業分野で控訴人の独占的地位を維持しようとするものであるから、独占禁止法にいう私的独占に当たるものというべく、控訴人の前記主張は採用できない。
2 (イ) 控訴人は、協定成立当時、非限定の路線バス運送事業を営む免許事業者がある場合には、非限定、限定を問わず重複して同路線バス事業を認許しないという運輸行政当局の裁量基準が設定され、業界に公知となっており、このような背景の下に被控訴人に限定免許取得の途を開くことを主眼として協定が成立したもので、被控訴人が非限定一般路線バス事業に進出しないという協定の競争制限的側面は、実質的には、前記裁量基準の反映であり、運輸行政当局が道路運送事業分野において、その裁量判断により設定した道路運送に関する秩序は、たとえ競争制限的要素を含む場合であっても、公の秩序として尊重すべく、自由競争原理に反することを以て違法、無効とすることはできない旨主張する。
しかし、控訴人主張のような裁量基準が設定されていたと認めるに足りる証拠はなく、そもそも運輸行政当局がバス運送事業の免許申請に対して免許を与えるべきか否かは、道路運送法6条の免許基準により決すべきものであることは、条文上明らかであり、控訴人主張のような裁量基準が設定される根拠は認め難い。もっとも、当審証人橋田幸雄、同岩倉多門の証言によれば、既存の路線免許がある路線、すなわち、ある事業者の事業分野に属する路線について、新たな免許申請があった場合は、既存の事業分野を尊重し、既存の免許業者が反対している事例では、新しい免許をしないのが運輸行政当局の取り扱いであったとか、1路線1営業が運輸行政の主義である趣旨の供述があるが、道路運送法1条が「公正な競争の確保」をうたっていること、同法6条の免許基準には、既存免許業者を優先すべき趣旨の文言もないこと、右免許基準によれば、既存免許業者の存否も免許を与えるか否かの当然かつ重要な考慮事情に入ると考えられること等に徴すれば、右供述は運輸行政当局が右免許基準により免許の許否をした結果、事実上既存免許業者がある場合には新規の免許申請は認許されない場合が多いことを述べたにとどまり、一般的に既免許路線を有する事業者の事業分野に属する路線については、新規免許の申請は認許しない運輸行政当局の裁量基準が設定されていたとの趣旨を含むものとは解し難い。他に右のような裁量基準が設定されていたと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、右のような運輸行政当局の裁量基準が設定されていたことを前提とする控訴人の前記主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。
(ロ) 控訴人は、さらに被控訴人の取扱う旅客の範囲を「奥道後遊園地に入園する旅客に限る」との趣旨の運輸協定が両者間で結ばれ、運輸大臣の認可があり、かつ、被控訴人に対し運送する旅客を右範囲に限定する限定免許が付与されているから、原協定(三)の約条に含まれる競争制限的合意(本件路線区間において、被控訴人は非限定の一般路線バス事業を営まないとの合意)は、公共の福祉に適合するものとして是認されたから、独占禁止法に定める私的独占あるいは不当な取引制限成立の要件である反公共性を欠き、同法違反を構成しない旨主張する。
しかし、被控訴人の第2次免許申請は、その申請自体が限定免許であり、運輸大臣の認許も右申請をそのまま認許したに過ぎず、被控訴人が右限定免許を将来非限定に変更申請する場合には認許しないとの判断を示したものでない(さもないと、未だ申請のない非限定の免許申請を認許しないことを、事前に意思表示したことになり、不当である。)ことは、明らかであるから、原協定(三)の約条に含まれる競争制限的合意を是認したものとは、とうてい解し難い。また、被控訴人の第2次免許申請の付属文書である運輸協定が高松陸運局長より認可されたことは前記のとおりであり、右運輸協定中には控訴人主張のような条項が記載されていることは、成立に争いのない甲第4号証の一、二により認められるところであるが、右のような条項が本来運輸協定の対象となる事項か否かについて疑問があるばかりでなく、右認可は前記限定免許の認可の趣旨と同じで、それ以上のものではないと認められるから、前記と同様、原協定(三)の約条による競争制限的合意を公的に是認したものとは認められない。
よって、控訴人の前記主張は採用できない。
(ハ) 当審証人岩倉多門、同橋田幸雄の証言によれば、一般乗合旅客自動車運送事業の免許の可否は、原則として運輸審議会の諮問事項であるが、軽微事案は審議会の諮問にかかわらず、簡易迅速に処理されること、被控訴人の第2次免許申請は、控訴人の同意(運輸協定によるもの)があったことが、最大の理由となって軽微事案の扱いを受け、簡易迅速に限定免許の認許がなされたことが認められる。そして、右同意は協定が成立したことに基づきなされたものであるから、被控訴人は右協定により利益を享受したものというべきであるが、それは被控訴人が開発中の奥道後遊園地への観光客需要が前提となっていること、協定は被控訴人が非限定の旅客運送事業に参入しないことを了承したことによって成立し、この点において控訴人の既免許路線による権益保護がその対価的意味を有すると認められるにしても、独占禁止法の目的とする「公正な競争」の確保は、単に競争当事者の利益を確保するにとどまらず、究極的には一般消費者の利益を計ることを主眼としているものと解せられること等を勘案すると、被控訴人の原協定(三)の約条が、独占禁止法に違反するとの主張が、信義誠実の原則に反し、許されないとはいえない。
3 独占禁止法適用除外の主張について
控訴人は、乗合自動車事業は、独占禁止法21条の「その性質上当然に独占となる事業」、いわゆる自然独占産業で、独占禁止法の適用が除外される事業分野であるから、仮に原協定(三)の約条が形式上同法3条の私的独占または不当な取引制限に当たるとしても、同法により右約条が無効となることはない旨主張する。
しかし、乗合自動車事業が自然独占産業に当たるか否かは、乗合自動車事業が独占禁止法21条に例示の鉄道事業、電気事業、瓦斯事業のような巨大な設備投資を必要としない事業であることから疑問があるばかりでなく、その点を措くとしても、同条は「その事業に固有の」行為に限られるから、原協定(三)の約条のような、他の事業者との間の競争制限的合意はこれに含まれないものというべきである。したがって控訴人の右主張は、採用できない。
また、控訴人は、原協定(三)の約条に競争制限的側面が含まれるとしても、右側面は実質的には運輸行政当局の適正な裁量権限の行使によって生じた競争の制限に等しいから、独占禁止法の適用が除外される旨主張するが、道路運送事業についても独占禁止法が原則として適用されることは、道路運送法1条が「公正な競争の確保」をうたっていること、同法21条が特定の行為について独占禁止法を適用しない旨規定していることに徴し明らかである。そして、原協定(三)の約条に含まれる競争制限的側面が、運輸行政当局の裁量権限の行使によって生じた競争の制限に等しいと認め難いことは、前記のとおりであるから、いずれにしても控訴人の右主張は理由がない。
4 独占禁止法違反の私法上の効力について
控訴人は、仮に原協定(三)の約条が独占禁止法に違反するとしても、同法違反事実の有無の判断及び違法状態の排除は第1次的に公正取引委員会に負託されており、同法違反行為の性格からも単に事業者の行為が同法で禁止されている私的独占、不当な取引制限の要件に該当するというだけでは、私法上の効力に影響はなく、それとは別個に私法上の無効原因、その一般的なものとして公序良俗違反がある場合に限って私法上無効と解するのが相当であるところ、原協定(三)の約条には、そのような無効原因はない旨主張する。
よって考えるに、独占禁止法の規定の性格は、その内容によってかなり異なっており、効力規定的要素が強いものから行政取締法規的要素が強いものまで種々様々であるから、独占禁止法違反の契約、協定であっても一律に有効または無効と考えるのは、相当でなく、規定の趣旨と違反行為の違法性の程度、取引の安全保護等諸般の事情から具体的契約、協定毎にその効力を考えるのが相当である。本件は原協定(三)の約条に基づいて控訴人が被控訴人に対し本件路線への非限定の乗合自動車事業への参入を阻止しようとするもので、右協定当事者である控訴人と被控訴人間のみの問題で、その間に第三者が介在せず、取引の安全を考慮する必要はないから、原協定(三)の約条は、無効と認めるのが相当である。
独占禁止法の解釈に関する以上の見解は、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第30号証(金澤良雄作成の鑑定書)の見解におおむね添うものである。これと異なる成立に争いのない甲第49号証(大塚喜一郎作成の鑑定書)の見解には、当裁判所は左袒できない。
なお、独占禁止法違反の状態を除去し、市場の競争秩序を維持するため、公正取引委員会が設けられ、準司法的手続を経て右状態を排除する権限が同委員会に負託され、かつ、同委員会の審決にかかる訴訟の第1審裁判権は、東京高等裁判所の専属とされているが、そのことの故に他の裁判所が同法違反の契約、協定の無効を前提問題として判断できないとか、その判断が制限されると解すべき法律上の根拠はない。
第四 以上のとおりであるから、原協定(三)の約条に含まれる競争制限的合意は、独占禁止法3条によって禁止されている私的独占に該当し、無効というべく、これに基づき被控訴人に対し非限定の乗合自動車事業の経営禁止及び第4次免許申請の取下げを求める控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第95条、89条を適用して主文のとおり判決する。

昭和61年04月08日

裁判長裁判官 宮本 勝美
裁判官 早井 博昭
裁判官山脇正道は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 宮本 勝美

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